灯篭流しと夏の花火
マスター名:秋月雅哉
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや易
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/08/18 22:48



■オープニング本文

●川辺にて
「灯篭流しと花火大会をずっとやっちゃいるがいまいち盛り上がりにかけるよなぁ、最近は」
「アヤカシが出るんじゃないかって萎縮しちゃってるのかねぇ」
「なら……万が一の時のために警護を頼んで、何事もなさそうなら遊んで行ってもらうってのはどうだ?」
「警護って……何処にさ?」
「アヤカシ退治となりゃ決まってるだろ? 開拓者ギルドにだよ」
 折角心を籠めて作った灯篭や打ち上げ花火も、見る人がいないのでは張り合いがないし打ち上げなければ下手をすれば付喪アヤカシになってしまいそうだ。
 だが人が集まらないからといって伝統行事を潰してしまうのも勿体無い。
 護衛がいるならば、護衛の人もいざという時以外は遊んでいられる。
 或いは往年の賑やかさを取り戻せるのではないだろうか、という古老の発言がきっかけとなってギルドに使いの者がやってきた。

●ギルドにて
「灯篭流しに打ち上げ花火だそうですよ。アヤカシの出没が怖いという理由からか最近寂れてしまった村の行事だそうで」
 宮守・瑠李(iz0293)が開拓者たちに水羊羹を配りながらいつもの如くサボっていた。
「灯篭は、昼間までにいけば自分で流す分を手作りできるそうです。といっても枠は組んであるので無地の紙を張ったり遊び心のある方なら文字や絵を描いた紙を張ったりするお手軽なものらしいですが」
 打ち上げ花火は灯篭を流す川原の傍で上げられ、色々な種類の夜の花が咲き乱れるという。
「此処数年客入りが落ち込んでいて今年はなんとしても盛り上げたい、という思いから花火師さんたちが気合を入れているそうなのできっと見事な花火が見られますよ。ご一緒に如何ですか?」


■参加者一覧
/ 鳳・陽媛(ia0920) / 秋霜夜(ia0979) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 紫ノ眼 恋(ic0281) / ジャミール・ライル(ic0451) / 不散紅葉(ic1215


■リプレイ本文

●流れ行く灯篭に願いと祈りをこめて
 盂蘭盆をすぎて盛夏と呼ぶ時期もそろそろすぎるころだろうか、という時期。
 警護兼息抜きに、とある村で行われるという夏祭りに足を運ぶことをギルドで提案された開拓者の何人かがその村へと足を運んでいた。
 事前に飯屋や港に出かける時に灯篭流しや花火の話題を出して一般人の客寄せを手伝った秋霜夜(ia0979)から話を聞いた相手が他の相手にも話し、話題は広がっていき向かえる村人がこんなに集客効果が、と驚くほど祭り会場に足を運ぶ者は多かったようだ。
「お客さん、たくさんきてよかったですね」
 呆然としている村人にどうしたのか、と聞くと最盛期でもこんなに賑わったことはない気がして驚いた、という返事を聞いて秋霜夜は少しでも力になれたことを喜びながら集客に一役買ったことは口にせず微笑んだ。
「それは浴衣……にしては変わったデザインだね。都会のほうではそういうのが流行っているのかな?」
 浴衣とジルベリア風の短いスカートを合わせたようなデザインの浴衣で艶のある黒地に艶やかな紅の薔薇が意匠された浴衣ドレス「闇薔薇」を見て呆然としていた老人が首を傾げる。
「あ、えぇと浴衣ドレスです。浴衣にジルベリアの服を取り込んだもの、といいますか。……浴衣ドレス着てますけど浮かれてるわけでなくちゃんと警護もしますからっ」
「なぁに。そんなに気張らんでもいいさ。祭りは楽しんでもらうのが一番だ。警護は……どっちかというとこの人手だと喧嘩や引ったくりの可能性の方が高くなりそうだがそれくらいなら若衆でどうにかなるから楽しんでいっておくれ」
 しわまみれの顔をくちゃくちゃに笑み崩れて好々爺の相好になる老人にそれより強く警護をきちんとする、と言い張るのも楽しげな様子に水を差すか、と「有難うございます」と答えた秋霜夜は灯篭を作ってみようかと村の中に足を踏み入れた。
「あ、おじさーん。灯篭手作りできるって聞いたんですけどー」
「おう、いらっしゃい。枠組みと貼る紙はそこにたくさんあるから納得のいくものができるまで挑戦してみるといい。そんなに難しくはないと思うから。絵の具はいるかい?」
 和歌や絵を描く人もいるからかそう問いかけた灯篭作り会場のおじさんに緩く首を振る。
「あたしは絵は下手なんで、これを添えようかと」
 七夕のときにたくさんもらったという願いの短冊に書かれた願いごとは『依頼で出会ったたくさんの人たちが今も幸せでありますように』というもの。
「おぉ、嬢ちゃんは優しい心根だなぁ。人の幸せを願う優しい子の元には幸せが来るもんだよ。きっとあんたの幸せを願う人もあんたが幸せを願う人と同じ位いるだろうからさ」
「へへ、そうだといいんですけど」
「添えるだけだと落ちるかもしれないから囲い紙に貼り付けたらどうだい」
「あ、そうですね。じゃあ糊お借りします」
「おぅ。出会った人たちに幸せが来るよう俺も願っておくよ」
「有難うございます。……儀に流れる川は海を経て一部は外縁から空に落ちると聞きます。よき願いは儀に残り、空に落ちる灯篭は悪しきモノを連れて行くのだと思うことにしましょう。夜の花火も楽しみだなー」
 不散紅葉(ic1215)が灯篭の覆い紙に描き込んだのは紅葉の絵。
 夏が過ぎ暫くすればこの紙に描かれたような赤や黄色、朱色の紅葉が見られるはずだ。
 願わくばその季節が実り多く、幸溢れるものでありますように。

 礼野 真夢紀(ia1144)は事前に出店はあるのかと村人に確認を取っていた。返事は幾つかはでるがこの人手だと少し寂しいかもしれないとのこと。ただし屋台は手入れされたものがいくつか余っているらしい。
「じゃあカキ氷の屋台出してもいいですか?」
「そりゃ構わない……むしろ歓迎だけれど折角の祭りなのに屋台をやったらあまり出歩けないだろう。いいのかい?」
「はい。頃合を見てちょこちょこ見させてもらいますから」
「じゃあ男衆に屋台を組ませようか」
「いいんですか?」
「木材が結構重いし本来はお客さんが店出してくれるって言うのに手伝わないってのも落ち着かないって性分の連中ばかりだからね。遠慮されると却って困るだろうから助けると思って手伝わせてやってくれないかい」
「はい、じゃあお願いします」
 屋台の準備を進める村の男たちの近くで持ってきたものの確認をしている真夢紀の名前を呼ぶ声に振り返ると宮守 瑠李(iz0293)の姿。
「今日は、出店されるんですか?」
「こんにちは、宮守さん」
『こんにちはー』
 同行していたからくりにも挨拶をした瑠李にカキ氷の屋台を出すのだと説明すると祭りが始まったらお邪魔しますね、と返事があった。
 氷蜜各種にトッピングの餡子や白玉、果物を切ったものをキンと【氷霊結】の氷で冷やしたものを組みあがった屋台に並べる。
「苺に甘夏、メロンに宇治金時に霙に甘酒にしろくま、大人向けだったら葡萄酒や天儀酒かけもできますよー」
「いろいろあるんですねぇ。お祭りの楽しみが一つ増えました」
 ではまたあとで、と挨拶をして別れる二人。

●夜空を彩る花火、夜の川を流れ行く灯篭
 灯篭を作るもの、屋台を組むもの、昼の村を回って警護の段取りを考えるもの、同じく村を回るが目当ては祭りの空気を楽しむため、というもの。
 様々な昼の過ごし方をしているうちに太陽はゆっくり西へと沈んでいき祭りの本番となる夜となった。
 紫ノ眼 恋(ic0281)はジャミール・ライル(ic0451)と共に警護役として祭り会場を回っていた。
「あたし達は一応仕事でここにいるのではないのか」
「まぁまぁ。警護の仕事って言ってもアヤカシが出るとは限らないし。わりと楽な気がするんだよねー。まあ俺は元から危ない仕事とか受けないけどさー」
 真面目に警護をするつもりだった恋に対しふわっと警護を終わらせて皆が何をしているのかと散策する予定のジャミール。一緒に来てはいたものの認識は実は随分違っていたらしい。
「トウロウナガシ? ってなにかしらねぇけど面白そうならやろっか?」
「夜の川辺はある意味危ないからな。警護の一環としていくとしよう」
 途中で露店で買い物して、開拓者仲間の真夢紀の店からカキ氷も買って川辺に向かう二人。
 灯篭流しに来ていた女性の中から特に可愛いとジャミールが判断した相手に気さくに話しかけて灯篭流しの由来や作法を聞いてみるのを恋は半ば呆れたように眺めていた。
「へぇ、これがトウロウ? 君のめっちゃ綺麗じゃない? 自分で描いたの? この絵」
 直截的な褒め言葉に照れたように頷く女性との会話をひとしきり楽しんだあと二人で完成品の灯篭を求めて川へと流す。
 流れ出した灯篭を見ているうちに打ち上げ花火が始まったようで大きな破裂音が響く。
 山育ちで花火をみたことがなかった恋はその音にびっくりして耳と尻尾がピンと立った。
「敵襲か!!」
 刀に手をかけるがジャミールが否定し、上を見るように促せば夜空に咲く大輪の華。
 初めてみる花火の美しさに目を奪われる恋だが花火は一発では終わらなかった。次々に咲いては散っていく一瞬の彩り。
「じゃ、ジャミール殿! あれはなんだ……花か!?」
 空に咲く光の花。大きく、儚く、あんなに美しいものを他に見た記憶がない、とジャミールの服の袖を掴んで目を輝かせて無邪気に喜ぶ恋。
「花火を肴に紫ノ眼ちゃんと飲もうと思ってお酒、持ってきちゃったー。わいわい飲むのも好きだけど、時々位二人っきりでこうやって静かに飲むのもいいじゃん? 俺は結構好きだけど、紫ノ眼ちゃんは嫌いかな?」
「む、しかし警護が……」
「いいじゃない、少しくらい。たまには弛緩することも重要だよ。紫ノ眼ちゃんは真面目すぎ」
「そうだろうか……」
「そうだって。花火を作るのって結構時間かかるもんだしさ。今この一瞬を楽しまないと花火職人さんに失礼だよ」
 言いくるめられた気がする、と思いながらジャミールに注がれた酒を干し、代わりに彼の盃に酒を満たす恋だった。

浴衣で連れと一緒に歩く紅葉の表情は珍しくすこし柔らかい。手を繋ぎながら祭りを見て回る。散策中は喧騒の中を、どちらかといえば楽しそうな周囲を見ることで楽しむ様子だった。
 その中からお祭りならではの出店から食べ物を買い求め食べ歩く。真夢紀のカキ氷の屋台からもいろいろトッピングして貰ったカキ氷を購入して冷たい食感と冷えた果物を楽しんだ。
 合間に細工物の屋台を見つけて連れに似合いそうな髪飾りをプレゼントする。
「ん……綺麗。似合うから、プレゼントさせて?」
 昼間作っておいた紅葉の絵を描き込んだ灯篭を川へと流す。
「灯篭流しは初めてだけど……とっても不思議、だね」
 灯篭を流しながら花火を見上げれば夜空に咲く花が。初めてみる光景に嬉しさと同時にこみ上げる驚き。
「誘ってくれて、ありがとう」
 人々の願いを乗せて静かに流れていく灯篭を眺めながらぎゅっと手を握れば同じ動作の気配。

「わー、花火職人さんが気合入れたっては聞いてたけど本当に綺麗だぁ……」
 秋霜夜は人混みから少し離れた場所で花火を見上げていた。
 風があるため打ち上げられた際の煙はすぐに流れて次に打ち上げられる花火の美しさの邪魔をすることはない。
 次から次へと花火を打ち上げる音は近くで聞くとお腹に響く気がする。
 種類も様々な花火が夜空を艶やかに彩るのを村人も開拓者も、開拓者から話を聞いた一般人も、更に人伝で聞いた人たちも陶然として眺めていた。
 そうして夏の一夜はすぎていったのだった。