|
■オープニング本文 ●巨大すぎるケモノ 「今年は雨が安定しなかったから作物の収穫が怪しいところだったが……なんとか無事に実ってくれてよかった」 「そうだねぇ。後は他の町に出荷したり来年の種用に取っておいたり……おや、なんだい、あれは」 「ん? …………鼠? いや、だがあの大きさは……」 「まさかケモノかアヤカシかい!?」 「わからん、だが逃げろ! それからギルドへ報告だ!」 農家の夫妻を驚かせた生き物。それは体長が優に三メートルを超そうかという大型の、鼠だった。 「鼠型のケモノの討伐依頼があるのですが。話を聞いていただけますか?」 宮守・瑠李(iz0293)は眼鏡を押し上げて書類に目を通しながら集った開拓者へと語りかけた。 「ただ、さすがケモノというかとても大きいようで。だからこそ脅威でもあるのですが」 「そんなに大きいのか? サイズは?」 「三メートル超だそうで」 「……確かにでかいな」 「えぇ、そのケモノのせいで野菜を中心に被害が出ています」 「新種のアヤカシではないんだな?」 アヤカシは人を喰らう。三メートルの巨体を養うのに人肉を必要とするならば相当数の犠牲があがっているのではないかと憂慮するのはある意味当然といえた。 「そうですね。人がいても野菜の方に気を取られているとかで」 だが食料にされないからといって放置するわけにもいかない。ケモノがバリバリモシャモシャと食べているのは村が存続していくために必要な今年の収穫物なのだから。 「野菜畑と田んぼが半々の、広い農作業場に居座ってモシャモシャと野菜や果物や益虫害虫見境なく食べているようですね。害虫は兎も角益虫と農作物はこれ以上被害がでると村の存続に関わります。 アヤカシではないので昼間から戦えるでしょうし農作物を荒らさないよう配慮すればそのままの場所で戦闘可能かと思いますよ。……むしろ移動させる方が至難かと。食べるのに夢中なようですからね」 ケモノとはいえずいぶん育ったものですね。瑠李はそう言って開拓者たちを送り出したのだった。 |
■参加者一覧
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰
霧雁(ib6739)
30歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●野鼠はもしゃもしゃと野菜を食らい、やがて自身が食べ物へ もっちゃもっちゃ。弾力をあるものを食べているわけでも餅屋を可愛らしく言っているわけでもない。巨大な野鼠型のケモノが農作物を際限なく食べ続けている光景を表現した擬音である。 全長約三メートルの巨大な鼠。通常の家鼠はガリガリの身体に目だけが爛々と光っていて中々に不気味なものなのだがこの野鼠はそんな家鼠と違って丸々と太っているせいか愛嬌がなくもない。……ただ規格外に大きいだけで。まぁ、いくら大きくても、否。大きければ大きいほど村人にとっては傍迷惑以外の何ものでもないだろう。冬への蓄えと来年蒔く種の分、他の村や街と物々交換する分。農作物の不作はそのまま飢饉に直結する。 「農作物狙いの鼠とはこれまたヘルシーな」 叢雲・暁(ia5363)がもっちゃもっちゃとこちらにお構いなしに農作物を食べ続けるケモノを見て呆れ半分感心半分で呟いた。 生まれたときの大きさがどの程度だったのか、そもそもどこからきたのか不明だがもし普通の鼠と同じ大きさから三メートル級に育ったのだとしたら物凄い成長速度である。 「五十センチから一メートル級なら農家の人でもどうにかなるだろうけど三メートルだと完全に熊だからね〜。熊らしく退治してやるか」 鼠だが退治方法は熊に順ずる、ということだろうか。熊に準じられる鼠というのも中々出会えるものでもないだろう。……しょっちゅう出会えたらそれはそれで困りそうであるが。 「こうしてみると丸々と太っておるせいか中々可愛らしい姿をしておるのう。大きすぎるのが問題じゃな。 食した作物の分奴に払ってもらうとしよう。肉は干物か燻製にして売り、骨と皮は標本や剥製にして好事家に……いや、ジルベリアのアカデミーで標本を欲しがるかもしれぬな。 あとで連絡しておこう。貴族の中にも好事家はおる。購入希望者で競りを行わせればよい値段がつくであろうよ。好きそうな者たちに手紙を出しておこう」 「見た目は可愛らしいですが作物を荒らすならば退治しないといけませんね。倒したあとリンスガルトさんの言うとおり毛皮は剥製、骨は骨格標本にすれば好事家や博物館、見世物小屋に売れるでしょう。 内臓、特に肝は干物にすれば医薬品として売れるはずです。剥製や標本を作れる職人に連絡してくれるよう頼んでおきましたので後はできるだけ傷をつけずに倒して解体ですね。 あぁ、剥製や骨格標本に関しては私が詩人としてあちこち回っていたときの人脈もありますのでリンスガルトさんのお知り合いの方との競りに混ざってもらいましょうか。随分広い範囲を食い荒らした模様。高値で買い取って貰える可能性は少しでも高いほうがいいでしょう。 肉は燻製にして売れば臭みも取れるし問題ないでしょうね」 リンスガルト・ギーベリ(ib5184)とKyrie(ib5916)がケモノを倒したあとの算段を立てている横で霧雁(ib6739)は感心したように鼠を見上げた。 「大きな鼠でござるなあ。肉がたくさん採れそうでござる。収入を遊牧に頼るしかない草原地帯では齧歯類の肉は貴重な食料。燻製肉に加工して武天の野趣祭で売るのは如何でござろう。話題性もあり売れると思うでござる。豊富な作物で育てた栄養たっぷりの大鼠、という宣伝文句は如何でござろう」 さすが百戦錬磨の開拓者、というべきか。鼠をここまで効率的に利益に繋げる方法がぽんぽん出せる人たちも少ないのではないか、と案内についた村人たちはぽかんとしていた。 退治してくれれば御の字、もし農作業に詳しい相手がいればこれからでも育成と収穫が間に合う作物の相談と荒れた畑の手入れを手伝ってくれれば御の字、程度に考えていたが場合によってはかなりの高収入になりそうな案が聞こえてくる。 「肉や骨、毛皮を利用するのであればあまり外傷を傷つけないほうが加工がしやすいし高値に繋がるでござるな。とりあえず苦無を投げつけて威嚇してもう作物が食べられてしまったほうへ誘導して影縛りで動きを止めるでござるよ」 巻き込まれると大変だから一度村に戻って職人たちがきているか見てきて欲しい、と頼まれ村人たちはよろしくお願いします、と頭を下げて村へと戻っていった。 残ったのはまだ作物を食べ続けてる巨大な野鼠型のケモノと開拓者四人だ。 「私は火力を最大限にして黄泉より這い出る者を使って敵の肉体に傷つける事無く絶命させることを目指しましょうか。高位開拓者であってもこの一撃に耐えられるものは稀です。二発撃ち込んで生きていられる者はいません。さあ……速やかに黄泉路へ旅立ちなさい……」 「では妾は前衛で威嚇攻撃で準備ができるまで威嚇を行おうぞ。八極天陣で攻撃は全て回避できるであろうし荒鷹陣で敵の勢いを削げるであろう」 霧雁が威嚇攻撃で農作物に被害が出ない場所に誘導、Kyrieが攻撃準備をしている間にリンスガルトが威嚇、暁は味方の援護と敵の牽制、逃走阻止に尽力するということで速やかに作戦が立てられた。 「ほら、いい加減食べるのを止めるでござるよ。冥土の土産として食料は十分に食したであろう?」 野鼠の注意を引こうと苦無を投擲して注意を引くと面倒くさそうに顔を上げるケモノはそこで初めて開拓者に気付いたらしく大きな目を四人に向けた。 「こっちだよ、巨大鼠!」 暁が早駆で鼠を翻弄する。合間にリンスガルトが荒鷹陣で敵の攻撃力を低下させた。 食事の邪魔をされた鼠の機嫌が悪くなって押し潰そうと歩き出したところを霧雁が苦無を投げつけて牽制する。 「下手に動かないで欲しいものじゃのう。農作物が食い荒らされた部分に移動したとはいえこの巨体じゃ、無事な部分に被害が出ないとも限らん」 三人がかりで味方に被害がでないよう、かつ無事な農作物に再び鼠の食指が伸びないよう、加えて巨体が畑をこれ以上荒らさないよう追い込んだ場所からあまり動かないように牽制を続ける。 「直接攻撃しか向こうには手段がないようだけれど……一定の場所に留め置くのは中々に面倒くさいかも。尻尾もあれだけ大きくて長くて太いと農作物荒らすっていう意味では凶器だし」 「お待たせしました。準備できましたよ。では……黄泉路へご案内しましょうか」 Kyrieが怨霊系の高位式神を召喚し巨大野鼠に死に至る呪いを送り込ませる。 ケモノは血反吐を吐いてのた打ち回った。 「……外傷がつかぬのはいいが……こう暴れられると作物への被害が心配じゃの……」 「……確かに。多少の傷がつくのとどちらがマシでしたかね。……おや。大きいせいかまだ息があるようですね。それなりにしぶとい。同じ攻撃をもう一撃当てれば倒れそうですが」 「ふむ。ではもう一撃食らわせて終わりにしてもらおうかの」 「火力が高いでござるなぁ。これだけ巨大ということは生命力も強そうでござるが宣言どおり二撃でしまいとは」 「農作物のあるほうに倒れこまないように倒れる場所の位置調整しないとね。二人とも、力を貸して」 「なんだか退治自体より周りが荒れぬことと傷がつかぬことに注意しなければいけぬ分精神的疲労が大きいのう。一体でよかったというべきか」 「そうでござるなぁ。二体も三体もでていたら農作物は全滅であったであろうし」 暁とリンスガルト、霧雁の三人でどうにかこうにか作物のあるほうに倒れこまないよう、かつ傷がつかないよう突いたり押したり引いたりしている内にKyrieの高火力の一撃が再び巨大鼠を襲った。 再び血反吐を吐いて今度こそ息絶えた鼠を囲んでこれからの算段を立てている間に鼠が倒れこんだ音と揺れに何事かと駆けつけた村人と、退治が済んだので呼んでもらった職人達と一緒に解体作業に入る。 「野菜に関しては門外漢なのでよく分からないの〜。でもまだ育ててないならニラとか収穫早い葉野菜を育ててみるのがいいんじゃない? 食べやすいし、緊急時に一〜二ヶ月で間に合うし」 暁の提案にあぁ、と村人が声をあげる。 「そういえば穀物や根菜、果物、白菜や南瓜は植えていたがニラは植えていないなぁ」 「荒れた部分を整えたら育ててみるか。有難うございます、退治をしてくれた上その後の処置まで対処してくださって」 「農村にとっては農作物の被害は生活に直結しますからね。折角ケモノを倒しても飢餓で村が成り立たなくなってしまっては困りますから」 Kyrieが薄く笑って告げると作業を一旦止めた村人たちが頭を下げて感謝の意を示す。 「肉は非常食として取っておく分と売りに出す分、両方十分に確保できそうだね。内臓も薬になるって言うし高値が期待できるんじゃないかな」 「牙も加工すれば何かしら使えそうでござるな」 「毛皮や骨格については私とリンスガルトさんのほうで競りの参加者を募りますから無駄になる場所はなさそうですね」 村人たちにとっては身なりのいい開拓者たちがここまで鼠を有用利用できることが少なからず意外だったらしい。 「いやぁ、失礼な話だが育ちのよさそうな方ばかりだったから貧しい農村の不作が死に直結する暮らしをどこまで真剣に受け止めてくれるか、と考えていたのだが……ここまで利益が出そうな算段を立ててくれるとこりゃあ却って鼠に感謝しないといけないかもしれんなぁ」 「開拓者として様々な場所に向かっておるからな。アヤカシ退治もするが場合によっては貧困にあえぐ村の救援要請を受けたりもする。ある程度は知っておるつもりじゃ」 リンスガルトの説明になるほど、という声があちこちであがる。 「何かお礼が出来ればいいのですが……」 「ふむ……では解体作業で血と脂まみれになったので風呂を貸してもらえるとありがたいのぅ」 「私は味に少々興味がありますので肉を少し分けて頂けますか?」 「そんなことでよければ、どうぞどうぞ」 「僕もお風呂借りたいなぁ。戦闘より解体作業の方が汚れるって言うのもなんか微妙だけど」 「……湯浴みをするのであれば拙者も湯を貸していただけると……」 解体作業に携わる者たちは多かれ少なかれ血脂で汚れていたので結局全員作業が終わったら風呂を借りることにして巨大野鼠型のケモノ退治は無事収束したのだった。 |