百鬼夜行に連れられて
マスター名:秋月雅哉
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/07/14 22:22



■オープニング本文

●傍迷惑系・夏の風物詩
 朧車が大路を走る。付喪系のアヤカシは様々な形状できゃらきゃら笑う。踊り靴は軽やかにステップを踏んで四辻には犬神の首が浮いている。
 夏といえば花火にかき氷に向日葵、海水浴に渓流釣りに蛍狩り。暑さを紛らわす楽しい行事は沢山あるが。
 涼を求めて怪談話を楽しむことはあっても実害のあるアヤカシが百鬼夜行として夜な夜な町を徘徊していたのではもちろん困るわけで。
 運よく逃げ延びた目撃者が真っ先に駆け込んだのは当然、アヤカシ退治も行っている開拓者ギルドだった。
「随分色々でてきてくださったようで。自分たちこそ夏の風物詩、とでも主張したいんでしょうかね」
 宮守・瑠李(iz0293)はかさばる資料を纏めながら理屈の通じる相手ではありませんが何にせよ傍迷惑な話です、と眼鏡を押し上げた。
「下級のアヤカシが主体の百鬼夜行が町中を徘徊しています。夜で人通りが少ないのが救いといえば救いですが……夕涼みに出かけたり恋しい方の許へ通ったりする御仁もいないとは限りませんしね。ギルドの方でも夜歩きは控えるように注意していますが根を絶たなければどうしようもありません」
 開拓者にとってはそれほど労なく倒せる下級アヤカシだが今回は物量作戦の模様。一番強力なアヤカシは小型祟り神で、これと同格程度が数体。しかし全体量は五十を越えるとの事。
「『百鬼』の半分程度で済んでいるのは助かりますがそれでも数の暴力、という言葉もありますしね。討伐の際は下級だからと侮らずにお願いします」
 皆さんならアヤカシと向き合う危険は一般人の私より承知しているでしょうから釈迦に説法かもしれませんがお気をつけて。
「町の方々の安全を妖から守ることは皆さんにしかお願いできないことです。宜しくお願いしますね」
 そう言って瑠李は静かに頭を下げたのだった。


■参加者一覧
緋桜丸(ia0026
25歳・男・砂
天ヶ瀬 焔騎(ia8250
25歳・男・志
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
椿鬼 蜜鈴(ib6311
21歳・女・魔
ユウキ=アルセイフ(ib6332
18歳・男・魔
戸隠 菫(ib9794
19歳・女・武
鎌苅 冬馬(ic0729
20歳・男・志


■リプレイ本文

●アヤカシの哄笑
 夏には夜の楽しみもたくさんある。たとえば花火だったり蛍狩りだったり夕涼みと称した散歩だったり星や月を見るにも寒くないぶんいい季節ではある。
 しかしその町は深夜を回っているということを差し引いても静まり返っていた。まるで町全体が深い眠りに陥った眠り姫の城のような。
 ――否。少なくとも眠り姫の城ではない。よくよく気を凝らせば町の人々が緊張で眠れない夜を過ごしているのが、『外』に怯えているのが感じ取れるだろう。
 そしてきゃらきゃらと嗤い声をあげて大路小路を跳ね回るように行軍する五十体前後のアヤカシの足音も。
 眠りに落ちているのではない。怯えて一般人が可能な範囲で精一杯に生きている気配を消しているのだ。アヤカシに食らわれないために。
「夏に肝試しか……上等だ」
 金の目を不穏に煌かせながら愛銃の具合を確かめるようになで、何処か楽しげに、そして不敵に笑うのは緋桜丸(ia0026)、敵に回したものを竦ませるだけの覇気が彼にはあったが相対間近の夜行たちはそれに気付くだけの知能があるだろうか。
「射的の的になるのがお似合いな数だな。銃声がちとうるせぇかもしれねぇが明日からはびくびくせずに眠れる平和な夜を提供するためにも我慢してもらうとするか」
 夜行退治に繰り出す前に念のため警告を無視して出歩いている一般人がいないかを一通りみて回る。
 アヤカシたちは風に開拓者の匂いを嗅ぎ取っているのか、それともそれが常なのか耳障りな嗤い声を上げて町中を徘徊しているようだ。
 出現を確認されてギルドに報告が上がるまで多少の時間がすぎている。そしてアヤカシは常に飢餓感に苛まされている存在だ。そう遠くないうちに脅かすことに飽いて人家を破壊して住民を喰らう日が来るだろう。
 そんな悲劇を招かないためにも今日中に全てのアヤカシを殲滅する必要があった。
「久しぶりに戻ってきたらこんな事態が起こっているとはな。魑魅魍魎清掃ならある程度任せろ。……腕の振るい甲斐のありそうな数だな」
 天ヶ瀬 焔騎(ia8250)は日が暮れる前に町の大まかな地形を把握するため動いていたため闇夜でもある程度の特徴を掴みとることが出来た。夜に人通りがある場所も調べたが最近はアヤカシに遭遇することを恐れて夜歩きする者は流れ者や事情を知らない夜盗くらいではないか、という答えを得ている。
「弱いものほど群れるというか、こう夏場に大量に増えるとか完全に害虫じゃねぇかよ……」
 溜息混じりに呆れの色が濃厚な声を出したのは笹倉 靖(ib6125)だ。頭が痛む、とでも言いたげに額を押さえている。
 因みにこの仕事を依頼したギルド職員の青年も同じ感想を持っていたらしく「夏場に発生したアヤカシという害虫駆除をお願いできますか?」を開拓者のモチベーションが下がらないよう言い回しを変えるのに必死だったという説があるとかないとか。
 夜行の中には虫系のアヤカシもいるためその辺は正に害をなす虫、他のアヤカシも下級ぞろいで開拓者にとっては害虫駆除以外の何ものでもないのかもしれない。
「数が多いから囲まれるのは確かに警戒しなきゃならんな。あとは知らせを無視したとか或いは旅人やらが事情を知らずに出歩いてる可能性もあるわけか。夜盗は……まぁ死なれても後味がわりぃし運動がてらひっ捕まえて柱かなんかに括り付けとくとして……行き止まりに追い込まれないよう注意は必要そうだな」
 裏道や行き止まりも覗き込んで人がいないかどうかは確認済み。襲われた一般人なら普通は騒ぐだろうから夜行の嗤い声しか聞こえない今は犠牲になりそうな一般人はいないと考えてよさそうだ。……恐怖のあまり気絶して騒げない、などという状態があった場合を除けば、であるが。
「百鬼夜行……夜行なる妖怪もいるらしいが……果扨、所詮は此奴等もアヤカシか……」
 椿鬼 蜜鈴(ib6311)は靖の傍らでほんのわずか眉間に皺を寄せた。父母の形見の扇をぱちりと閉じ、煙管を懐にしまう。
「早くアヤカシを倒して、町の平穏を取り戻さないとね。頑張ろう!」
 ユウキ=アルセイフ(ib6332)が夜道の照明として作り出した熱を持たない火球がふわふわと浮遊する。
 面を耳の上辺りにつけたユウキの姿はパッと見祭り帰りのようだがアヤカシを相手にした武闘会はこれから始まるところである。
 マシャエライトの灯りに気付いたアヤカシたちがぞろぞろと群れを成して集まってきていた。
「あらまぁ、本当にぞろぞろ集まっちゃって。百鬼ならぬ五十鬼夜行かあ。数だけは壮観だね。うん、それから迷惑で鬱陶しくて危険だよね。こっちは数は少ないけど、一騎当千の強者ばかりだよね、よほど下手打たなきゃなんとかなりそうって思えるくらいには。静かな夜を取り戻すために頑張ろうか」
 戸隠 菫(ib9794)が前衛に立ちながら完全に包囲されるのを避けるために立ち位置を確かめた。
 彼女が最優先するのは後衛の盾になること。雨絲煙柳を使用して自身の防御力と抵抗力を底上げする。
「……百鬼夜行、ではなく、五十鬼夜行か。下級アヤカシとはいえ、五十でも相当な数だ。油断せずにいこう」
 肉厚の真紅の刀身に黄金色の刀紋を持つ両刃の直刀を構えて鎌苅 冬馬(ic0729)が呟いた。
「人間ダ。人間ダ」
「喰ろうてやろうぞ」
「目玉を啜りたいのぅ」
「ワシは脳髄がいいのぅ」
「久しぶりの獲物じゃ。逃がすな!」
 わらわらと大量のアヤカシが我先にと群がってくる。
 緋桜丸の愛銃が火を噴き硝煙の向こうでアヤカシは紅の髪の、今まさに自分たちが骨の髄まで啜ろうと目論んだ人間の一人が壮絶に笑ったのを見た。
「誰が逃げるかよ。お前ら全員あの世いきだ。覚悟するんだな」

●深夜の攻防
 銃声が消えた後の町は静寂を取り戻さず、乱戦の呈を相していた。
 基本は騎士剣で近場のアヤカシを一刀両断にしている緋桜丸だが近場にアヤカシがいない場合や剣で出来た近距離からの死角を補うためのカウンター、或いは遠距離からの不意打ちとして銃を使用するなど戦い方にバリエーションがある。
「お前らの相手はこっちだ」
 火を噴いた銃口が狙った下級アヤカシ――付喪だったようで古びた茶器に手足が生えたものだった――を撃ち抜く。
 建物を傷つけるつもりはないが敵を撹乱したり路地に追い詰めて戦いやすくするなどの方法で利用はさせてもらうつもりだった。
 アヤカシ討伐をこの日に行うということはギルドを通じて通達済みなので物音をいぶかしんで外に出てくるような物見高い一般人がいないことを願いたいというのが開拓者の本音である。
 下級とはいえ数が多く、此方は七人しか手勢がない。一般人を守りながらの戦いは精神的に疲労を強いるだろう。
 踊り靴二体が連携して攻撃を仕掛けようとしているのを察知した緋桜丸が刃を振るって一体を撃破、返す刃でもう一体も切り捨てた。
「チョロチョロと……目障りだ!」
 大振りな攻撃はせずに動きをコンパクトに収めると同時に銃などのリーチを生かした攻撃で相手を寄せ付けない様は戦神のようだ。
 紅蓮紅葉と篭手払を併用して攻撃された際のカウンターで敵の立ち位置を把握しながら小型祟り神や同格の、この中では多少手ごわい相手が邪魔な時は気力とスキルを重ね技で放っているのが焔騎だ。
 刀身に精霊力を宿すことで攻撃力を増大させた突きから発し、突き入れた刃をひねり返しつつ払い抜くと返り血が紅の椿のように広がった。
「愉快じゃのう……では遊ぶとしようか」
 空を舞っていたコウモリに似た一群にサンダーヘヴンレイを放つのは蜜鈴だ。
「術師が後方におらねばならぬ道理などない故な。わらわとて遊びたい時もある」
 靖が怪我をしないように死角を狙う敵は彼に触れる前に消し炭と化す。
「よい度胸じゃ。なればそれに免じてわらわが遊んでやろうて」
「戯言を……喰ろうてくれる!」
「あぁ、汚らわしい手で触れるでないよ。ソレはわらわの玩具じゃ」
 後衛で回復を主体に行っていた靖がその言葉を聞いて微妙に不機嫌そうに眉を寄せた。
「おいおいアヤカシが楽しそうに街中闊歩してんじゃねーぞ。見ててムカつくし討伐に狩り出されるこっちの身にもなれってんだ」
 精霊の力を掌に集中させ対象目掛けて白い小さな光弾を放ちながら言い切った言葉は刃物のような鋭さと氷のような冷たさを孕んでいた。
「なんじゃ、靖はご機嫌斜めじゃのう」
「うるせぇ。あんま調子に乗って前出すぎるなよ」
「その位はわきまえておる。案ずるでない」
 靖の白霊弾と蜜鈴のサンダーヘヴンレイが連携攻撃となってアヤカシを襲った。
 それに重ねるようにユウキが手をかざして呪文を唱え、槍のように鋭い氷の刃を放つ。
 朧車に突き刺さったその刃は被弾と同時に炸裂し朧車を切り裂きながら激しい冷気を発生させた。
「はやく片付けないと町の人たちの精神衛生上よくないしね。即効で片付けさせてもらうよ!」
 状態異常を引き起こす攻撃を使用してくる敵は菫が印を組んで瞑目することにより己の身中の精霊力を満たし外部からの干渉を断つことで状態異常にかかりにくくなっていたため率先的に引き受けていた。
 こまめに回復して持久戦になったときに響かないようにする配慮も忘れない。
 冬馬は自身の武器に精霊力を帯びさせ、梅の香りと白く澄んだ気を纏った霊剣「迦具土」に触れた瘴気を浄化させる。瘴気を浄化させられることで器物に取り付いていられなくなった付喪アヤカシはただの古びて壊れた道具となった。
 戦いの当初は圧倒的な数の優位にたち、たかが人間と侮っていたアヤカシたちは赤子の手をひねるように簡単に切り捨てられ、術によって消され、浄化されていくにしたがってどんどん数の優位を失っていく。
 攻守の連携を取り、何度も修羅場を潜り抜けてきた開拓者たちをただの人間と侮ったことが最大の敗因だろう。
 数で押せば勝てない敵はいない、という驕りも壊滅にかかる時間を短縮させた。
 ひたすらに、愚直なまでに真正面からの攻撃しか仕掛けてこず、たまに連携を取ろうとすれば察知されて事前に潰される。
 そんな時間がすぎるうちにアヤカシたちからは挑発する言葉を発する余裕もなくなっていた。
 ただただがむしゃらに突っ込み、その度に一体、また一体と葬られていく。
 後に残ったのは取り付かれていた器物の残骸だけ。多くは瘴気を浄化されてこの世に在った証すら遺せず消えていたが付喪アヤカシを中心とする一部のアヤカシたちは器物を残していた。
「……害はなくなってるわけだが戦いにはちと邪魔だな」
 もしかしてこの器物の処理も任務のうちなのだろうか。そう考えて一瞬げんなりした開拓者もいたかもしれないが微塵も顔には出さなかった。
 扱いが雑で壊れた道具に取り憑いた付喪アヤカシが道具を壊した人間を恨むのはある意味真っ当な理由かもしれない。
 しかし自分たちが人間である以上、アヤカシと戦う力を持つ開拓者である以上、人に害をなす者は切り捨てなければならない。
「これで終わりだ!」
 最後の一体が剣戟によって消失する。深夜に始まった戦いは夜明け間際に終わった。
「夏は日が昇るのが早いのう……靖、怪我はないかえ?」
「お前こそ」
「心配無用じゃ。数は多かったが遊戯に等しかった故な」
 じゃが、と蜜鈴が残念そうに呟くのを靖が聞きとがめる。
「どうかしたのか?」
「月を肴におんしと飲もうと思っていたのに夜が明けてしまったのう」
「……片づけを手伝って仮眠を取れば丁度いいころあいだろうさ」
「……それもそうじゃの。月は姿形を変えて毎晩空に昇るのじゃから今夜の月で月見酒をすればよいだけの話じゃ。わらわとしたことが迂闊だった」
「とりあえず討ち漏らしがないか巡回して依頼達成を確認できたら私はお風呂に入ってさっぱりしたいな。あとは美味しいものでも食べて疲れを癒して、と。お勧めの料理を纏めてもらったから回ってみよっと。運動もしたしね」
 菫が伸びをしながら歩き出す。
 静けさが戻った町の住民たちが窓から顔を覗かせて様子を窺っていた。
 全部終わったことを告げれば建物の中から安堵の気配がする。
 今夜からは怯える事無く夏の夜を楽しむ光景がこの町にも戻ってくることだろう。