帰る場所
マスター名:秋月雅哉
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/11/23 20:06



■オープニング本文

●白く、冷たく、淡い雪が降る前に
 ――帰りたい。
 あの場所に。
 家族の待つ暖かな家に。
 帰りたい。
 帰ると約束した。
 必ず帰ると約束した。
 妻が待っている。
 妻が身篭った子供が待っている。
 帰りたい、帰らなければならない。
 約束、したのだから――。

「あうっ」
 一人の男性に数人のごろつきが寄ってたかって殴る蹴るの暴行をしている。
「金目のもの置いてさっさと失せろ!」
 恫喝されても男性は胸に抱いた包みを離そうとはしない。
「てめぇ……歯向かう気か!」
 髪を掴まれ歯が折れそうなほど強く殴られる男性はそれでも視線を落とそうとはしなかった。
「……んだ」
「あぁ?」
「……帰るんだ……家、へ……」
「だったら荷物を置いてさっさと行けばいいだろうが!」
 荷物を置いて国境まで戻るというのは賢い選択ではない。
 まだ雪がちらつくには早いとはいえ秋雨は体を冷やす。
 なにより遠い旅路だ、食料だっている。
 家族への土産だって選んである。
 この荷物をこんな奴らに渡すわけにはいかない。
 殴られ、蹴られ、まさに満身創痍だ。
 妻がみたら心配するだろうか。
 けれどこれは譲れない。
 無事に帰るためにも、何より。
 ――苦しい生活の中いざという時のために貯金していた銭を、旅費として使ってくれと渡してくれた村人達のためにも。
 会いたい。
 妻に、仲の良かった村人達に。
 雪が降る前に帰ると約束したままもう霜月になる。
 仕事は何とか終わり、少しばかりだが利益を出すことも出来た。
 一度大きな仕事をしてみたい。
 そういって飛び出そうとした自分を誰もが温かく見送ってくれた。
 そんな村に、だからこそ帰りたい。

「……大変だ……」
 その暴行を影で見ていた小さな子供が開拓者ギルドへ駆け込んだ。
「すみません、誰か、誰か!」
「どうしましたか?」
「すぐそこの路地で男の人がごろつきに乱暴されてるんだ!
 旅支度をしてて……『帰りたい』って言ってた!
 お礼は本当に少ししか出来ないけど……あの男の人を助けて!」
「すぐに人を手配しましょう。必要なら旅の終わりまで護衛をつけましょうね。
 ごろつきはしつこいですから」
「ありがとう!」
「いいえ。よく知らせてくれました。後は私達に任せて」
 にこり、と対応したギルドの人間にすがり付いて子供は大声をあげて泣き始めた。
「怖かったでしょう。大丈夫ですよ。ごろつき相手なら、開拓者が負けたりはしませんから、ね」
「あのおにいちゃん、ちゃんと帰れるよね……?
 だってあんなに帰りたい、帰りたいって言ってたんだ……帰れなきゃかわいそうだよ」
 その言葉に虚をつかれたように何人かが立ち止まる。
 子供が泣いていたのは怖かったからだけではない。
 自分が何も出来ないまま男が死ぬのが怖かったというのは勿論あるだろう。
 それ以上に――帰りたい、という男の願いに、それを無に帰そうとするごろつきたちの暴挙に悔し涙を流したのだ。
「……大丈夫ですよ」
 優しい目をした男性はもう一度そういって少年の頭を撫でた。


■参加者一覧
月酌 幻鬼(ia4931
30歳・男・サ
バロン(ia6062
45歳・男・弓
ソウェル ノイラート(ib5397
24歳・女・砲
呂宇子(ib9059
18歳・女・陰
闇野 ジュン(ib9248
25歳・男・魔
フルール・S・フィーユ(ib9586
25歳・女・吟
銀鏡(ic0007
28歳・男・巫
楊・白虎(ic0133
23歳・男・泰


■リプレイ本文

●約束
 私は、帰らなければならない。
 上手くいってもいかなくても、必ず帰ってこい。
 小さな村だ、俺たちは家族だ。皆がお前を待ってるからな。
 男たちが力強く背を叩いてくれた。
 胸を張って帰らなくてはいけない。
 みんなのお陰で夢が叶ったとお礼を言わなくてはいけない。
 ささやかながら土産だって用意したのだ。
 それなのに。
 帰ると決めた日、旅装で荷物を抱えて石鏡を後にしようとしたところを五人の男たちに取り囲まれた。
 荷物を置いて去れば命だけは取らないで置いてやる、と脅された。
 妻は命を第一に考えてくれ、といった。
 けれど。
 妻への、子供への、迷惑をかけた村人たちへの礼の品。
 旅の道中の食料。
 商いの途中で改良を加え、売り物とは別に用意した『あれ』と商いで得た僅かな収入。
 こんな男たちに奪われていい品ではない。
 奪われたら、胸を張って帰れない。
「黙ってねぇで何とか言ったらどうなんだ!」
「……荷物は……渡せない……」
 壊れていないだろうか。
 身体を張って荷物を守ろうとする自分は滑稽なのだろうか。
 それでも、それでも。
 たくさんの約束を、した。
 だから。
「帰るんだ……故郷へ」
「命は取らないから荷物を置いてさっさといけっつってんだろうが!」
 恫喝される。身がすくむ。
 身を縮めたとき、割ってはいる声が聞こえた。

「五人がかりで虐めてるのー? ひっどい事するんだねー。ちょっとー暴力は止めてくだ……ありゃあ? ごろつきは誰一人として俺の話聞いてない系? 別にジュンくんはショックなんて受けてないんだからな! とりあえずテメェら纏めて俺たちにシバかれちまえ」
「別にタダで引き下がれなどと語るつもりでもないの。占い師でしたら大枚積んで欲する魔力宿る水晶。生憎私は占師でもありませんから商売道具の一つ……貴方達もそうは見えませんから意味は無いけれど、みすぼらしい小商人数十から巻き上げるよりは良い値が付くかしら」
 闇野 ジュン(ib9248)が軽い調子でごろつきたちに話しかける。
 後を引き継いで男性との交換条件に水晶を見せるのはフルール・S・フィーユ(ib9586)だがこの水晶、そんな大層なものではない。
 この二人、義侠心あふれる通りすがりではない。
 開拓者ギルドに「ごろつきに絡まれてる男の人を助けて!」と勇気ある少年が駆けつけ、それに応じた八人の開拓者の一人なのだ。
「その水晶はもらう。だがこの男を見逃していい理由にはならねぇな。
 ついでに楽しみを邪魔されたんだ、姉ちゃんには酌でもしてもらおうか?」
 なんとも図々しい話だがごろつきたちは真面目らしい。
 話が決裂すると同時に開拓者達の奇襲が始まる。
 合図はソウェル ノイラート(ib5397)の閃光練弾だ。
 練力を込めた弾丸が炸裂して閃光が発せられる。
 仲間の一人である呂宇子(ib9059)はごろつきたちの行動がよく見える位置に立ち、呪縛符で小さな式を彼らの周囲に出現させると式は手足に組み付いて動きを束縛した。
 ついでとばかりに霧状のどす黒い式を呼び寄せ周辺にまとわりつかせることで視界を奪う。
「……それにしても、これだけ一気に行動妨害系の術を見る機会も、なかなかなさそうよねえ」
 彼女の独り言も突然の襲撃に慌てふためくごろつきたちには聞こえていなかっただろう。
 仲間の何人かには聞こえたらしく、彼らは「そういわれてみれば、確かに」などと呟きながら目くらましや足止めを中心にした技をごろつきにむけて放っている。
 アヤカシ討伐と違い小悪党を懲らしめるならそこまで大技を繰り出す必要もないし、第一繰り出したら遠巻きに眺めている一般人を巻き込むことになる。
「な、なんだこりゃ!?」
「このアマ、何しやがった!」
 喚き散らすごろつきたちに手刀を入れて気絶させているのは月酌 幻鬼(ia4931)だ。
「おら、身ぐるみ全部置け、逃げたら一人ずつ首落とす」
 ごろつきのように語気を強めただけの言葉ではない。
 むしろ淡々としているだけに幻鬼の言葉は凄みがあった。
 どちらかと言うと面倒くさそうな様子だが言葉に偽りがないことを気配が感じさせる。
 暴行を受けていた男性が腫れあがった視界で現状を確認しようと辺りを見回す。
 遠巻きにこちらを見る石鏡の人たち。
 何人かが自分とごろつきの間に割って入っている、ということをようやく認識する。
「……これは、一体……」
 助けられているのか。でもどうして?
 話の流れについていけない男性をごろつきの一人が人質に取った。
「こ、これでも攻撃できるか!? 出来ねぇだろ! ざまぁみろ!!」
「この技は、使用者が敵と認識した物以外は全てすり抜ける。
 当然、人質を傷付けずに敵のみを狙撃する事も可能というわけだ」
 勝ち誇ったようなごろつきの言葉は直後に最後の気力と共に粉砕され、言葉で止めを刺した月涙の構えを取ったバロン(ia6062)はごろつきたちを睥睨する。
「ひっ……!」
 その迫力に思わず男性を盾にしたごろつきは男を突き飛ばした。
「巧い話などそう転がっている物でもなく?」
 フルールが重力の爆音を奏でてごろつきたちの動きを更に抑え込む。
「あ、貴方たちは……?」
 呆気に取られたように問いかけるのは中心人物ながらある意味蚊帳の外に置かれた状態の男性。
「なぁに、心配する必要はないぞ? 儂はともかく、皆は強いからのぉ」
 銀鏡(ic0007)が軽く男性の怪我を見ながら安心させるように笑いかける。
「なんとも、男前になっておるぞ?」
 からからと笑いながら気さくに言われてまだ半信半疑ながらも力が抜ける。
 新手のごろつきだったら、と少し考えたがよく考えれば自分のようなそれ程裕福でもなさそうな旅人をこんなに派手に取り合うわけがない。
「記憶の無い俺と違って、帰れる場所がちゃんと判ってて帰りたいと願うのなら……ちゃんと帰してやんないとな」
 帰りたいと願う。その気持ちは同じだ。
 けれど楊・白虎(ic0133)にはその『帰る場所』が何処なのかが思い出せない。
「俺たちが絶対に、ちゃんと家に帰してやるから心配すんな」
 その言葉に男性の腫れあがった目が見開かれ、一筋涙が零れた。
「泣くんじゃない。ちゃんと帰してやるって言ってるだろ」
 白虎が慌てたように繰り返す言葉に頷く。
「どうやら決着はついたようじゃのぅ。どれ、捕縛した後ギルドに引き渡すとするか」
 銀鏡の言葉どおりごろつきたちは先刻までの威勢のよさが消えうせがたがたと震えている。
「……これに懲りたら二度とつまんねぇマネすんじゃねぇぞ」
 薄笑いを消したジュンの冷え切った声が致命傷だったようだが気付いた者はいないようだった。
 それを確認してジュンは安堵の息を吐くとへらり、と被害者の男性に笑いかける。
「来るの遅くなっちゃってごめんねー。おにーさん、大丈夫?」
「は、はい……なんとか」
「きちんと裁きを受けて反省してもらわないと。前に奪った物とか、返せるものは返してあげたいじゃない? 元の持ち主に。
 楽して稼ごうなんて都合もいいったらないね。
 弱い者いじめしてしみったれた自尊心満足させて、お金や物を手にしてエラそうに。
 ちっとも強くなんてないのにさ。しっかりきっちり反省して貰うよ?」
 ソウェルと幻鬼、バロンが手分けしてごろつきたちを荒縄で縛っていく。
「私はこいつらギルドに引き渡すから護衛にはつけないけど……これ、お土産に足しておいて?」
 銀鏡に手当てされている男性にソウェルが差し出したのはもふら張子。
「ですが、助けて頂いたお礼もしていないのに……」
「いいって、そんなの。あぁいう連中見て腹立つから助けたのもあるし。
 それより家族が待ってるんでしょう?
 早く怪我治して無事な姿見せてあげなよ。
 私は見られないから直接は受け取れないけど、再会の笑顔がお礼ってことで」
 ね?と笑いかけられ、護衛という単語に遅まきながら気付いて開拓者たちに視線を移すと頷きが返ってくる。
「今回の件は、お主の不注意が招いた事だ。
 今回はたまたま助かったが、そうでない可能性も十分にあった。
 自己防衛の為の努力を怠ってはならんぞ。待っていてくれる者が居るなら尚更だ」
 バロンに諭され男性は素直に頷く。
「では道中少し自衛手段の手ほどきをしよう」
「あの、本当にいいのですか……?」
「合縁奇縁。これも旅の醍醐味じゃろうて。酒の肴には、なるじゃろう?」
 煙管から紫煙を吐き出しながら手当てを終えた銀鏡がからからと笑う。
「俺たちは開拓者ギルドの者だ。あんたが嬲られるのを見てた子供が自分の代わりに助けてくれって頼み込んできたのさ」
「開拓者ギルドの……」
 道理で強いわけだ、と男性は納得したように小さく頷く。
「必要なら護衛を頼む、と仕事を処理した奴に言われてな。武術の心得もないようだし、放っておいてまた同じ目に遭われるのも後味がわりぃ。
 あんたの故郷まで送ってやるよ」
 幻鬼の言葉を受けて立ち上がった男性は深々と頭を下げた。
「お礼を申し上げていませんでした。危ないところを助けて頂き、有難うございます。
 護衛の申し出、心強いです。是非お願いいたします」
 足元にごろつきたちを転がしたソウェルが見送る中、八人は男性の家族が待つ村へ旅立った。

●自鳴琴が紡ぐ絆の音色
「どんな村なの?家族は何人?」
「小さな農村です。家族は妻と……多分子供が生まれています。私も本来は農民なのですが工芸品を作るのが好きで石鏡には商いに……」
「へぇ。どんな物を売っていたの?」
「寄木細工の盆や小箱……それと商い用に完成させたのは一つですが自鳴琴を」
「自鳴琴?」
 首を傾げる一同は現在旅の行程の半ばほどまで距離を稼ぎ昼食と休憩を取っていた。
「妻に、苦労をかけた詫びとして贈ろうと思っていたんです。壊れていなくてよかった」
 包みから男性が大事そうに取り出したのは寄木細工の小物入れに見えた。
 裏についたぜんまいを巻いた後蓋を開くと澄んだ音色が街道に響く。
「へぇ。器用なもんだな」
 幻鬼が感心したように呟くとそれぞれから同じような反応が返ってくる。
 村人たちが快く送り出してくれたことを聞いた呂宇子が幾分しんみりした口調で呟く。
「なるほどねえ。村全体で送り出されて、家族が待ってるんだ
頑張ってるじゃないの、お父さん。
 ……なんというか、うちは諸事情で父親と縁のない家庭なんだけど……父親と母親、それと子供。ありきたりな家族の形。帰る場所。
 全く、これっぽっちも憧れない……って言ったら、嘘になるわね」
「帰る場所があって、迎えてくれる人がいて。それって凄く幸せなことだ。
 俺はその帰りたい場所を忘れてしまったけど……あんたは忘れるなよ。
 家族、大事にしろ」
 人助けが生き甲斐のようになっている記憶喪失の青年、白虎も自鳴琴の音色に耳を傾けながら男性に語りかける。
「はい。家族も、村の皆も……私の宝物です」
 フルールが興味を示したのは故郷のことではなく故郷を想う男性の気持ちだった。
 どんな音色を奏でるのか、と積極的に会話には参加せずに、しかし話はしっかりと聞いている。
「私も偶には帰らなくては、かしら?」
 ふと感慨深くなってそっと呟く。
「さて、そろそろ出発しようか。約束の季節に追い越される前に村に帰りたいだろう?」
 自鳴琴が余韻を残して演奏を終えるとバロンが一同を促す。

 旅路は順調に進み、旅慣れていない男性をギルドの面々が励ましたり手助けしたりしながら一行は着実に村に近づいていった。
「あ……あそこが村の入り口です」
「貴方!」
 柔らかな女性の声が男性の声に重なる。
「奥さん?」
 照れたように男性が頷く。
「おぉ、帰ったか。お帰り。心配してたぞ」
「こちらの方々は?」
「縁あって護衛してきた」
 幻鬼が詳しい話をしなかったのはごろつきに絡まれたことを話せば彼の妻や村人に余計な心配をかけるからだろう。
「夫がお世話になりました。なんとお礼を言ったらいいか……」
「お礼は不要よ?
 詩人が欲するは歌の種。楽しい御話聞けましたもの」
 フルールが艶やかに笑う。
「自分と家族を守るためにも道中考え、学んだことを生かすのだぞ」
 バロンが白い髭を整えながら言った言葉に男性は頷く。
「元気でね。家族、大事にしないと駄目だよ」
「幸運を祈る」
 呂宇子と白虎が次いで別れを告げ。
「護衛は此処までかな。んじゃあ、手品で登場! これおにーさんあげる。
 あったかーい毛布と、毛皮の手袋。
 この時期寒くなるから、何個でもあった方がいいっしょ! 手土産に増えてもだいじょーぶですよね!
 ひっさびさに逞しい姿を見せてくれたお礼!またねー」
 ジュンが照れたのか押し付けるように毛布と手袋を渡して驚いた男性が礼を言う間もなく逃げるように駆け出し。
「落ち着きがないのぅ。……自鳴琴、いい音色じゃった。
 村の皆と力を合わせて、家族仲良く暮らすのじゃぞ」
 いつもの笑みにどこか呆れた様子を滲ませた銀鏡が最後に別れを告げて。
 休んで行っては、という村人たちの申し出をやんわりと断ると開拓者たちは次の仕事へ向かうため来た道を引き返し始める。
「有難うございました! 皆さんのこと、忘れません!!」
 子供を抱いた妻の肩に手を置いた男性が大きな声で去っていく七人に別れを告げると七人は振り返らず、ひらり、と手を振ってそれに応じた。
「あぁ言う人たちを正義の味方、というのかな……」
「え?」
「なんでもないよ。……遅くなってすまない。ただいま」
「お帰りなさい。無事をお祈りしておりました」
「お前にも、皆にも。大した物じゃないけれど贈り物があるんだ」
「わしゃあ土産話が聞きたいのう。この村から出たことがないからの」
「石鏡ってどんな場所なの?」
「順を追って話すよ。――有難うございます」
 霜月に入ってから毎日彼を出迎えるために村の入り口で待っていたという村人達に囲まれた男性は一度振り返り、もう見えない背中に向けて呟いたのだった。

 一方石鏡ではソウェルがごろつきたちを引き渡した後町人から拍手喝采を受けていた。
「私だけの手柄じゃないんだけどな……」
 今どの辺りを歩いているのだろう。
 ギルドにごろつきを引き渡し、他の七人は護衛の任についた、と話すと労いの言葉が返ってくる。
「有り難う、お姉ちゃん」
 男性の危機を見てギルドに助けを求めた少年が深々と頭を下げてソウェルにお礼を言った。
「いいのよ。気にしないで」
 今は別行動を取っている仲間も多分、男性や男性を待っている人たちにお礼を言われているのだろう。
 それがくすぐったく、嬉しい。
「こっちこそ、有り難うね」
「?」
「あなたが知らせてくれなかったら、いろんな人が不幸になってた」
 男性も、家族も、村人も。
 そしてもしかするとその不幸を助けられなかった自分たちも。
「だから、有り難う」
首をかしげる少年にソウェルは笑顔でもう一度繰り返した。