紅の宝石狩り
マスター名:秋月雅哉
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや易
参加人数: 13人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/04/18 10:11



■オープニング本文

●瑞々しく、赤く、紅く、煌いて
「そろそろ今年の苺もシーズンが終ってしまうな」
「苺狩りの村おこし、やってみたけど宣伝不足だったかな…あまり人、来なかったね」
 とある農村の苺農家の親子が村の組合所で村人たちと来年に向けての改善点を話し合っていた。
「そういえば」
「? なんだ、いい案があるのか?」
「都には開拓者さんたちがいるだろう? 息抜きに来てもらって、苺や料理を振舞って来年までに行った場所で宣伝してもらえないかギルドに掛け合ってみたらどうかな」
「来てくれるだろうか……」
「苗を仕入れに行く宿場町の宿屋の息子で、ギルドに勤めてる知り合いがいるんだ。その人経由で駄目元で頼んでみないか。今年は少し時期を過ぎてしまったから最盛期のにぎやかさはないけど、よかったらって」
「……そうだな。来年もこの調子だと少し厳しいし。早速頼みに行ってみてくれ」
「わかった!」

●恐らくは今年最後の
「人の縁というのは意外と繋がっている物ですね。お仕事の依頼ですよ」
 仕事、の言葉に開拓者の顔が引き締まる。
「あぁ、お仕事といってもアヤカシ討伐ではないです。苺狩りで村おこしを考えた村の苺を、摘んで、食べて。知り合いに来年行ってみたらどうだ、と広める簡単なお仕事ですよ。どうやら私の実家を利用された村人さんがいらっしゃるみたいで駄目元でギルドの開拓者に頼んでみてはどうか、と」
 皆さんでしたら依頼であちこちの村や町に行きますからね、宣伝効果を見込んだのかもしれませんね。
 そう言って穏やかに笑う宮守 瑠李(iz0293)の前におかれているのは苺大福と緑茶。
「苺を摘んでそのまま食べたり御菓子に飾り切りしたものを飾ったりジャムとして紅茶に入れたりパンに塗ったり。楽しみ方は色々あるようですね。果実酒もあるそうですよ。口当たりのいい爽やかな、少し甘めの飲みやすいお酒だとか」
 そろそろ春本番ですからね。行楽ついでに人助け、しませんか?
 仕事中じゃないのか、と苺大福と緑茶を示された瑠李はのほほんと笑って、今は休憩をかねた宣伝中ですよと返すのだった。


■参加者一覧
/ 海神 江流(ia0800) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 皇 那由多(ia9742) / ユリア・ソル(ia9996) / ニクス・ソル(ib0444) / ワイズ・ナルター(ib0991) / 志姫(ib1520) / ローゼリア(ib5674) / アムルタート(ib6632) / 音野寄 朔(ib9892) / 神室 時人(ic0256) / 徒紫野 獅琅(ic0392) / ジャミール・ライル(ic0451


■リプレイ本文

●澄み渡った空の下
 開拓者ギルドの職員の青年が休憩をかねた宣伝中ですよ、などと笑って話した、苺で村おこしを考えている農村からの苺狩りへの招待。
 噂が噂を呼んで、知己を誘う者もあり、直接話を聞いた開拓者より現地へ足を運んだ開拓者の数は多かった。
 都合がつかなかったものや苺にそれほど愛着がない開拓者も、記憶の片隅に留めていたなら苺好きの人と出会ったときにこの村のことを話題にあげるのかもしれない。
 綺麗に晴れ渡った春のある日、苺畑は最盛期をすぎたにも拘らずそれなりに人が集まって活気付いていた。
 苺狩りにきた開拓者だけでなく、村おこしのために苺を使った料理を提供する村人も集まっているのだ。
 礼野 真夢紀(ia1144)は朋友のからくり、しらさぎを伴って苺畑を歩いて料理に使う苺を探していた。
『いちごいっぱい、まゆき、なにつくる?♪』
 一通り摘んで籠の中を見つめた真夢紀はそうね、とすこし考え込む。
「ちょっと傷んでたり小粒すぎるのは厨房を借りてジャムを作って持ち帰ろうか」
『ことし、まだつくってないもんね』
「後は苺サンドつくってみようか。それからカスタードのタルトの上に苺を乗っけて苺タルトに」
 果実酒は自分は飲めないから代わりに飲んでみて、と試飲場で真夢紀が朋友に語りかける。
 一口飲んだしらさぎはコトリ、と首を傾げた。
『あまいよ。いろきれい、おねえさまならちょっとのめるかも。ちぃねえさまのこのみからはちょっとはずれる?』
「そっか、じゃあそんなに量は買わないほうがいいかな。あぁ、今日はちょっと暑いね。かき氷作ろうか。季節先取りで」
『うん♪』
 牛乳と砂糖と潰した苺を混ぜて氷霊結で凍らせて、借りたかき氷機で削っていく。
 二人分のかき氷を削り終えて日差しが心地いい時期なので椅子とテーブルを借りて口に運ぶ。
『あまくてつめたい。おいしい♪』
「急いで食べると頭痛くなるけどゆっくり食べると溶けるんだよね……」
『まゆき、あたまいたい? だいじょうぶ?』
 心配になったのか食べる手を止めたしらさぎに真夢紀は大丈夫だよ、と微笑んで匙ですくったかき氷をもう一口口に含んだ。
 ひんやりとした氷がすぐに舌の上で溶ける。後に残る苺の甘酸っぱさが心地いい。
「ジャム作るの、手伝ってね」
『うん♪』
 それから暫くの間、真夢紀としらさぎは食べ物や土産を渡す予定の人たちの話で盛り上がったのだった。

 皇 那由多(ia9742)とローゼリア(ib5674)の二人は苺狩りを楽しんだ後厨房を借りて料理を作っていた。
 ローゼリアは割烹着を身に纏ってお手伝い。作るのは苺大福だ。
「ローザさんはお料理は得意ですか? 僕は下手の横好きっていうやつです♪ 子供の頃から寺の皆の食事なんかで料理をやっていたせいですかね」
 下手の横好き、と自己評価を下した那由多だが手際もいいし見た目も綺麗な苺大福が仕上がっていく。
 出来上がった苺大福を皿に持って二人で食べていくことに。
「あら……美味しい」
 こんな特技もありますのね、と手際に感心していたローゼリアだが見た目を裏切らない美味しさに思わず感嘆の声が漏れる。
「本当ですか? よかったです♪ ところでローザさん、割烹着可愛いですね♪ よくお似合いです」
 くすくす笑ってごく自然に褒め言葉を口にした那由多にちょうど果実酒を口に運んでいたローゼリアは軽くむせてしまう。
「大丈夫ですか?」
「いきなり褒めるから吃驚してしまっただけよ。大丈夫」
「でも少しお顔が赤いような……むせたせいで息苦しくなったからでしょうか」
「気のせいですの」
「そうですか?」
「そうですわ。気になさらないで」
 まだ少し不思議そうにしながらそういえば、と口を開く。
「ローザさんって最近すこし考え込むことが多い気がします。こうやって遊んで少し気分転換になるといいのですけれど」
 自分の悩みに気付き、励ましてくれていると察したローゼリアは少し躊躇った後口を開く。
「……那由多……聞いてほしいことが……」
「はい?」
「その前に貴方も一杯どう? 飲みやすいわよ、この果実酒」
「はぁ……本当に飲みやすいんですね? 信じますよ?」
 酒好きのローゼリアに勧められるままに果実酒を一口飲んだだけで真っ赤になってしまうほど下戸だった那由多はぱたりと倒れこむ。
 倒れこんだのは、ローゼリアの膝の上。
「まったく……話を聞いてもらうつもりでしたのに。お酒を勧めるタイミングを間違えましたわね。高くつきますわよ?」
 頬を軽く突いた後でも、と眠っている相手に語りかける。
「ありがとうですわ、那由多」
 寝顔を見ながら額にそっとキスを落とす。友人以上恋人未満の二人の間柄ではこれくらいのふれあいがちょうどいいのかもしれない。

 ユリア・ヴァル(ia9996)とニクス(ib0444)は夫婦で仲睦まじくデート、のはずだったのだがニクスの不用意な発言でユリアの機嫌が急激に悪化した。
 少し時間をさかのぼる。
 苺畑の手入れをしたり摘み方を知らない開拓者相手に実を潰さずに摘む方法を教えたりしていた、夫婦と思われる若い男女の傍で小さな子供が苺を摘んで食べていた。
 説明を一通り終えた父親が子供を抱き上げ、母親が子供の口の周りをハンカチで拭う。そして三人で楽しげに笑いあう。そんな光景を見たニクスが呟いたのは「幸せそうで羨ましいな」という一言。
 その一言に他意がないとは分かりつつまるで今が幸せではないようで寂しいと感じたユリアは寂しさから一転、怒り心頭で夫を蹴り飛ばして脱走中。
「おい、どうしたんだ?」
 わけがわからず追いかけるニクスに八つ当たりで青い苺を投げつけるユリア。焦りつつニクスはなんとか彼女を捕まえて話を聞こうとする。
「何か気に障ったなら謝るよ。理由を言ってくれ」
「理由が分からないけど謝るってどういうつもり!? ニクスなんて、一人で! 勝手に! 幸せになればいいのよっ!!」
 馬鹿、馬鹿、馬鹿、と子供のように拗ねて癇癪を起こす妻に自分の発言が誤解を招いたのだと漸く理解するニクス。
「……あっ! い、いや、そうじゃない、そうじゃないんだよ」
「言い訳なんて聞きたくないわっ!」
「そうじゃないんだ。あれは、彼らが羨ましいというより……その、子供を連れていたから……」
 ユリアと自分の子供が生まれたら、と思って。親子に未来の自分たちを重ねて「いいな」と呟いたのだと必死で説明する。
「ごめん、失礼だったよな。俺には最高の妻がいるのに。もう泣かないでくれ。折角のデートなんだから」
「泣いてないわよ、ええ! これは氷の欠片なの!」
 そういいながらもニクスが原因を正しく理解したので許すといったユリアを抱きしめて、ニクスは仲直りのキスを贈ったのだった。

 ワイズ・ナルター(ib0991)は噂を聞いて一人でやってきて苺料理を楽しんでいた。
「どうだい、味のほうは」
 料理を提供している店にいた村人が尋ねるとナルターは一度食べる手を止め僅かに微笑む。
「えぇ、とても美味しいですよ。苺を使った料理がこんなにあるとは思いませんでした。果物は生のまま食べるかジャムにするイメージだったので」
「肉料理のソースに使ったりもするらしいよ。ジルベリアの料理だったかねぇ」
「なるほど……実に興味深いですね。肉料理と果物、ですか」
「ソース以外でも一緒に調理したりね。肉が柔らかくなるし味がまろやかになるんだ」
「料理は時として大胆な行動を取ると思わぬ利があるのですね。料理を学ぶと色々なことを知るきっかけになりそうです」
「レシピをあげるから機会があったら試してごらんよ」
 渡されたレシピを大事にしまってナルターは料理と気遣いに対する礼を言って代金を置くと席を立ったのだった。

「何を作ってみようかな?」
 志姫(ib1520)の目的は苺狩りで摘んだ苺を使って色々な料理を作り、知り合いに配ること。
 料理に必要な量の苺を確保するために苺畑に赴いたものの摘みたてを食べて顔をほころばせる人がまわりにいるのをみれば自分も食べてみたくなるのが人間というもので。
「……少しだけ味見を……うん、やっぱり美味しい」
 素材がいいからきっとおいしい料理が出来る、と満足げに口元を綻ばせる。
 摘み終わったら開放されていた厨房へ足を運んで料理開始。
 実が形を留めている物と完全に溶け合ったジャムを別個に、それをつけるスコーンやジャムを使ったパウンドケーキを焼き上げる。
 作り終えた料理は渡す分と自分が食べる分を除いておすそ分け。
「折角ですから、皆様も食べていってくれませんか?」
 どれどれ、と村人が何人か集まってくる。
「おぉ、こりゃ美味いな!」
「シンプルな料理だからこそ腕を誤魔化せないのにたいしたもんだ」
「有難うございます。素材がいいからですね」
「素材がよくても心を込めてある程度の技術を持った人がきちんと作らなきゃこんなに美味しくはならないよ」
「そうですか? 有難うございます」
 ここにも笑顔の花が一輪、花開いた。

「わーいイチゴだー! 狩り放題だー!!」
 アムルタート(ib6632)はこの日のためにすきっ腹できたという気合の入りよう。来る途中に冷たいミルクと砂糖も買ってきて準備は万端。
「今日の私はハンターだからね、狙って狩るよ、狙って!」
 前に苺狩りの職員の人が「不恰好なやつほど蜂が仕事サボってて美味い」と言っていたから、と不恰好な苺を狙って摘み取る。
「おもしろイチゴは全て狩りつくしてくれるわ美味しー♪」
 上機嫌で苺を頬張って適度にお腹が膨れたら拓けた場所に移動して踊る。踊ってお腹がすいたり喉が渇いたらもう一度苺畑に戻って食べる。
 狙うは無限ループ。
「狙えるんじゃない? 狙えるんじゃない!?」
 わくわくと計画を立てる彼女を止められる存在は何処にもいなそうだ。
 時間まで楽しく過ごした後はお土産に苺を買って帰宅予定。

「二人きりを期待してた訳じゃないけど、この四人って妙な組み合わせだよなあ……それぞれどういう関係なんだろう?」
 音野寄 朔(ib9892)に誘われてやってきた徒紫野 獅琅(ic0392)は面子を見てボソッと呟いた。
 神室 時人(ic0256)とジャミール・ライル(ic0451)、朔と自分の四人。
 疑問はとりあえず脇に置いて今日の目的の苺狩りをすることに。
「甘くていい匂いがしますね」
 力加減が分からない様子の獅琅に「強く摘むと潰れるわよ」と朔が忠告するが時既に遅し。
 潰れてしまった苺をとりあえず口に放り込む獅琅の指をハンカチで拭う朔の手を思わず握ってしまい、不思議そうな顔をされてから自分の惚れっぽさを自覚して恥ずかしくなって手を離す。
「なんでもないです……!」
 時人はその騒動を好機に輪を抜け出して厨房へ移動。
「すまない、もしよければ私にも料理を手伝わせて貰えないかな」
 友人たちに自分の作った菓子を振舞いたいのだと目的を告げればどうぞ、と快く場所を提供してくれる村人たち。
「料理は普段全くしないけれど……大丈夫。手順は頭に叩き込んであるよ」
 村人たちの手を借りながら作ったのは苺大福、苺の飴がけ、苺の寒天など。
「そろそろ皆も心行くまで苺狩りを楽しみ終わった頃かな」
 苺畑に三人を呼びにいくと何処へ行っていたのか、と聞かれたのでみた方がはやいよ、と応えて料理を並べた席へ誘う。
 果実酒を注いで四人で乾杯。
「味はどうかな。上手く出来たと思うのだけれど」
 友人たちの反応が気がかりで酔うに酔えない時人の心配をよそに三人は味を気に入った様子。
「和菓子は私も作るけれど洋菓子づくりはあまりしないわね。色々食べてみたいし、ジャミールさん。半分こしましょう?」
「よろこんでー。んー……苺っていうとお金持ちの女の子の部屋によく置いてある印象ー? 甘酸っぱくて好きだけどあぁいう風に育つんだね」
 苺が成っているところを初めて見たというジャミールと朔が美味しいね、とはしゃぐ。
「え、これ室ちん作ったの? びっくり、プロくない? 室ちんって魔法使い?」
「違うよ。手伝って貰ったんだ」
 褒め言葉に照れた時人が視線を彷徨わせるのを他の三人は微笑ましげに眺めていた。
「さっぱりしてて美味しい。ああ、果実酒のおかわりをお願い。後でジャムも買って行こうかしら」
「……酒は程ほどにね」
「あ、しろちゃん、ほっぺ……違う違う、そっちじゃねぇって」
 クリームが頬についていることに気付いたジャミールとクリームの場所が分からない様子の獅琅のやり取りを聞きながら朔のグラスに果実酒を注ぎ、何気なく視線を転じると獅琅の頬についたクリームを舐め取るジャミールの姿が目に飛び込んでくる。
「んー、甘……どしたん?」
 真っ赤になって俯く獅琅と驚いてむせる時人。
「二人はそのような関係なのか?」
「え、いや、その……」
「き、君が納得しているなら良いんだ……」
 と、変な方向に誤解して獅琅の肩を掴む時人に説明しようにも傾いたことも事実なので上手い言葉がでてこない。
 おまけに混乱と気まずさでろくにお礼も感想も言えなくなってしまった獅琅の背を朔がなだめるように軽く叩いたのだった。