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■オープニング本文 ●寒くなってきた、さぁ鍋をしよう 「鍋をしませんか」 いつも以上に唐突な切り出しで宮守 瑠李(iz0293)が口を開いた。 「寒くなってきましたしそろそろ忘新年会の季節ですしね。ジルベリアではモミの木を飾ったり贈り物をしたりするのでしたか。 折角なので全部纏めてやりましょう。あ、新年会は日を改めてやるかもしれませんが。とりあえず……クリスマスと忘年会ですね。 場所は広いので私の実家にしましょうか。近いですし。酔っ払っても泊まって頂ければ凍死の心配はありませんしね。モミの木と料理は実家に頼んでおきます。……が、鍋は皆さんと一緒に作りたいと思いますよ。 混沌とした物をいれてもかまわない闇鍋版と普通に美味しい鍋ができるであろう通常版を用意しておきますね」 この男、事件の解決を依頼するときはあまり喋らないくせに祭り関連となるとやけによく喋る。 おそらく今回の誘いも年末年始に帰省して家族から寄ってたかって縁談を進められるのを回避するための算段なのだろう。 「闇鍋には食べ物であれば何を入れてくださってもかまいません。……まぁ、混沌こそが闇鍋の醍醐味、といいますしね。普通の鍋には材料を相談の上入れてくださいね。後はジルベリア風の料理を食べながら贈り物の交換会でしょうか。 ……ジルベリア料理と鍋ってあいますかね? ……あうでしょう、きっと、おそらく。ジルベリアにも鍋料理はありそうですし。『風』ですし」 こうして微妙に不安の残る舵取り役のもと、年末の鍋大会が企画されたのだった。 友人と交流を深めるのもよし、恋人と贈り物をしあうのもよし、一人で訪れて新たな出会いを探すのもよし。 カオスになりそうな宴に、貴方をご招待。 |
■参加者一覧 / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) |
■リプレイ本文 ●冬のひととき、鍋を囲んで、パーティーを始めよう 人数が多いほうがいいだろう、とからくりのしらさぎを同伴させてやってきたのは礼野 真夢紀(ia1144)、鍋の具材を調べて考えごと中。 「味噌味より味がおとなしい豆乳鍋か水炊きがジルベリア料理には合うと思うのです。チーズリゾットにポテトサラダ、スープは鍋があるから外して、あとミートローフと……クリスマスだから鳥料理も欲しいですよね。唐揚しましょうか、塩味、醤油味以外にカレー調味料使ったカレー味なんてのもできますよ」 袂からカレー用の調合済み香辛料紙包を取り出して料理開始。 舌の肥えた真夢紀は今回の会場である宿屋が実家のギルド職員の青年が行楽に誘った折、都合があって参加する時は常に周囲を空腹にさせる美味しそうな料理を持参していることが多かったので期待している者も多いのではないだろうか。 『しらさぎ、オテツダイできるの』 「じゃあ下拵えを手伝って貰おうかな」 『ワカッタ』 「闇鍋ありだそうですけど……個人的な意見を言うなら阻止したいです……この前酷い目にあったので…………。たしかあちらのお二人も参加してて……食材で唐辛子入れてなかったっけ……。時々チェックしてあまりに危険な食材は引き上げましょう、ギルド職員は一般人なんですから、うん」 大惨事だったらしいできごとを思い出したのか少々顔色が悪くなった真夢紀をしらさぎが心配そうにみているのに気付くと、大丈夫だよ、と返して真夢紀は調理を再開したのだった。 「寒い時期にはやっぱり鍋ですよね」 相棒たちを引き連れてやってきたのは柚乃(ia0638)だ。 『あたしが鍋奉行よー♪』 『もふふ、全部おいらのもふー』 『八曜丸、少し自重しなさい! 鍋はみんなのものなんだから』 『だっていっぱい食べたいもふー』 みんなの姐さん、伊邪那と食いしん坊でムードメーカーの八曜丸が舌戦を繰り広げる。 『みんな一緒、柚乃が一緒。嬉しい……』 「柚乃もうれしいよ、天澪。今日は楽しもうね」 柚乃が可愛らしくマスコット的な存在である天澪に笑いかける横でやんちゃなおちび犬、白房が不思議そうに首を傾げた。 「白房も、行儀よくしててね?」 「わん」 分かっている、というように柚乃の手をペロリと舐める白房。 そんな一同から少し離れた場所でふわふわと浮いているのはクトゥルーことくぅちゃん。 『……』 表情は変わらないので分かりにくいが悪戯好きな種族、何か企んでいるのかもしれない。 「龍舎にいる子たちは……見送りになっちゃいましたが。あとでいっぱいお土産話をしてあげたいですね」 ジルベリアでは贈り物をする習慣もあるそうですし、相棒たちに何か選んであげましょうか、とすこし考え込む柚乃。 因みに囲む予定の、現在作成中の鍋は闇鍋ではなくごく普通の鍋。 「普通が一番っ……」 『まだかかりそうもふ?』 「そうだね、もうちょっとかかるかな」 出来上がったら悪戯に隠したり、具材を取り合いをしたりと賑やかになることだろう。 「楽しい鍋にしようねっ♪」 たすきがけにして準備万端のリィムナ・ピサレット(ib5201)は真っ当な鍋は真夢紀ちゃんが作るだろうから、と口を開いて途中で周囲の反応に気付き眉を寄せた。 「……あたしはジルベリアの鍋を作ります、って続けるのになんでそんな顔するかなぁ……」 それはおそらく『普通の鍋と闇鍋を用意する予定』と主催が事前に言ったせいだろう。 「あとで主催に文句言ってもいいのかな、今のみんなの反応はちょっと失礼だし。あたしだって料理できるんだからね」 ……普通の鍋が二つあってもいいよね? と尋ねると『失礼な』反応をした面々がコクコク頷く。 危険な料理が二つ、では少々怖いが美味しい料理ならいくらあってもいいのだろう。 万一残ったら保存容器を用意してもらって持ち帰るか泊まっていって空腹時にもう一度出して貰えばいい。 まずオリーブ油でセロリ、たまねぎなどの香味野菜を炒め、そこにカサゴ、マトウダイ、オコゼ、アンコウ、タラ、アサリ、エビとトマトペーストとジャガイモを入れて煮込んでいく。 「トマトは塩利かせたペーストなら天儀でも入手しやすいみたい。……で、サフラン、フェンネル、ローズマリーで風味をつけて……完成♪ ジルベリアの鍋料理、ブイヤベースだよ♪ 不細工な魚が多いけど、美味しいんだ!」 手際のよさにぼうっと見とれていた面々からおぉっと感嘆の声があがる。 「変な魚が入ってたからもっと変なものが出来るかと思っていたがいい匂いだな」 「ジルベリアの料理か……」 「美味そうだな……」 「どこまでも失礼というか一言多いというか。まぁいいや、心が広いから許してあげる。闇鍋でダメージを受けた人たちもどうぞ♪」 もちろん、リィムナ本人もごちそうや鍋を遠慮なく、満腹でダウンするまで楽しく食べる心積もりではあったがまずは手際を褒めてくれたメンバーにも勧めたのだった(一部失礼な感想はあったが) 忘年会ー、と喜んでやってきたエルレーン(ib7455)は兄弟子のラグナ・グラウシード(ib8459)を視界に入れた瞬間顔をしかめた。 喧嘩するほど仲がいい、とはよく言われる言葉だがこの二人は会う度に喧嘩をしているような気がする、とすこし前に初雪を祝う祭りでの騒動を見ていた宿場町の町人たちはこっそり共通の思いを抱いた。 「ううっ……せっかくのぱーちーがだいなしだよぉ」 「それはこちらの台詞だ、貧乳娘!! ぐっ、新たな出会いを求めてきたというのに、何の因果で! 貴様のまな板を眺めることになるんだっ!」 ちなみに此処でいう新たな出会いとは主に女性とのことだろう。 衝撃のあまり思わず口走った禁句のせいでエルレーンにボコボコにされるのはこの二人のテンプレートなのかもしれない、と観客に徹した町人たちは心に刻んだ。 「ううっ……酷い目にあったお、うさみたん……」 と、背中に背負ったうさぎのぬいぐるみのうさみたんを抱きしめてメソメソするラグナを放置したエルレーンはさっきまでの鬼のような形相はどこへやら、殊勝にも料理の手伝いを申し出たが半ば以上完成しているし彼女はあまり料理が得手ではない、ということで誰も手を出していなかった闇鍋を担当することになった。 「私だったら……うーん、鶏肉とかいれよっかなあ」 選んだ具材自体はおかしなものはなかったはずなのだが五分五分の確率で大失敗する腕の持ち主が一人で調理したら……あとは深く語らないでおこう。 「お守りになるってゆうから……」 もじもじした様子で町人たちとのクリスマスプレゼント交換会に参加する。 町娘との出会いのきっかけになれば、と復活したラグナも参加していた。 「いきわたったようだし、開けてみようか」 宿の主の号令で包装紙を破いたり丁寧にはがしたりする音が響く。 「銀の腕輪……」 「あぁ! なんであんたがそれを引くのよ!!」 「そういう貴様こそ何故私が持ってきた銀の指輪を引いているのだ!! 綺麗な女性との出会いに捧げるつもりだったのふげはぁ!」 奇しくも天敵のプレゼントを互いに引き当ててしまって大騒動再びのエルレーンとラグナ。 ラグナの台詞に奇声が混じったのはエルレーンが顔面に綺麗に右ストレートを決めたためである。 「みんな仲良く、とはなかなかいかないものですね……」 「そうだね、あー、やっぱり真夢紀ちゃんの料理おいしー♪」 「リィムナさんが作ったブイヤベースも美味しいですよ。とりあえず料理は無事ですし、お二人には正気に戻るまで殴り合ってて貰いましょうか」 「仲がいいのか悪いのか分からん二人じゃのう。開拓者ってのは命を預けあい、死線を共に乗り越えた強い絆で結ばれた者たち、と聞いていたんじゃが……あれはじゃれあいなのか?」 「すきんしっぷ、とやらじゃねぇかのぅ」 お相伴に預かっている老人たちの些か美化されまくった開拓者像に柚乃、真夢紀、リィムナの三人は顔を見合わせて苦笑し、相棒たちは不思議そうにその様子を眺めたのだった。 「お料理が冷めないうちに正気づいてくれるといいんですけど」 「というかあんなに暴れて宿のもの壊れないのかな?」 「壊れたら此処を会場に指定した、いつまで経っても身を固める気のない我が家の末っ子に弁償させるから気にしなくていいよ、お嬢ちゃん」 と、女将にいわれて『我が家の末っ子』は若干遠い目をしたのだった。 年の瀬の宿場町で無礼講の宴はいろんな意味で賑やかに過ぎていったのだった――……。 |