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■オープニング本文 ●凍てつく腕 そのアヤカシは夜半、雪の中での活動を好む。 しかし冬の雪道を夜半に動く獲物――人間――は少ない。 活動時間の違いが、辛うじて犠牲を出さずにアヤカシの発見に繋がった。 『アイスゴーレムの活動している痕跡が見付かった』ギルドに一報が入ったのは雪がちらつくある日のことである。 「場所は山間ですね。少々足場が悪いので注意してください。近くに間の悪い事に沼があるんですよ。アイスゴーレムは核を破壊されなければ水や雪で回復してしまいますから上手く足止めが必要そうですね。 幸い洞窟を拠点にしているようなので其処から打ち漏らさないように各個撃破がいいでしょうか。 戦闘方法についてはお任せしますね。晴れた日に山を挟んだ隣村に向かった方が足跡を見つけてアイスゴーレムではないか、と知らせてくださいました。 微妙に大きさの違う足跡が五つ確認されています。力任せの攻撃は侮れませんから、くれぐれも用心してくださいね」 宮守 瑠李(iz0293)が地図を広げて一点を指差す。 「この辺りに洞窟、徒歩で数分の位置に沼があります。沼の近くには渓流もありますので其方にも注意してください。 それから……洞窟の外は雪が積もっていますからあまりおびき出すと回復される恐れがありますね。 アヤカシが活発なのは雪の降っている夜ですが飢えているようですから上手くすれば昼間の戦闘にも持ち込めるかもしれません。 熱というか火を使う手もありますが延焼にはくれぐれも気をつけてくださいね。村二つの間にありますし。 雪が積もっているといっても火の勢いによっては山火事が起きてしまいますから」 ご無事の帰還をお待ちしております、そう言って瑠李は地図を開拓者に託したのだった。 |
■参加者一覧
北条氏祗(ia0573)
27歳・男・志
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
わがし(ib8020)
18歳・男・吟
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ●冷たい、死の接吻を許さず 雪のちらつく冬の初め。この季節特有のアヤカシたちがそろそろ活動を始める時期だ。 ギルドにもたらされたアヤカシ発見の一報も、冬に行動が多く見られるアイスゴーレムが対象だった。 幸い洞窟内で固まっているらしく積もった雪や近くにあるという沼、渓流においての自己回復は防げるのではないかというのが討伐依頼に名乗りをあげた五人の共通認識。わざわざ敵を討ち漏らす危険を冒すことはない。 「物騒だな、村の被害もあり得るゆえ成敗する」 北条氏祗(ia0573)が足場の悪い雪の山道を苦にもせず進みながらわずかに眉根を寄せた。 発見場所の洞窟を挟んで二つの村が存在するという。 その二つの村には氏祗の提案もありアイスゴーレムの討伐を行うためできるだけ家から出ないようにと通達してあった。 冬の山道、しかもアヤカシが活発に行動する夜間の移動を村人が避けていたお陰で今回は被害が出る前にアヤカシの存在に気付くことが出来たというのは村人にとってもギルドにとっても幸運だったと言えるだろう。 「冬らしいアヤカシじゃの。皆打ち砕いてくれようぞ!」 リンスガルト・ギーベリ(ib5184)が松明を片手に鼻の頭に小さなしわを刻む。アヤカシに対する嫌悪かそれとも怒りか。幼さを残すが秀麗な顔立ちは険しかった。 「氷人形狩りだね! みんなやっつけるよ!」 リンスガルトと並んで歩きながらルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)が意気込む。 非売品のシャッターつきカンテラに鎖をつけて首から提げていた。 今は昼間だが洞窟の中は視界が悪い可能性がある。 同じく明かりである松明を持っているリンスガルトは前衛で戦うため動き回ることが予測された。 その場合敵を照らし出すことには向いているが開拓者たちの手元を照らすことが出来ないかもしれないから、というのがルゥミの判断だ。 「非売品で貴重だから大事に扱わないと……」 かんじきをつけた小さな足が雪を踏みしめる。 「回復する……とはまた厄介な敵ですね。支援をいたしましょう」 わがし(ib8020)が感情の起伏の乏しい顔でそっと呟き、吐息を漏らした。吐き出された息は一瞬白く染まってその存在を示して消える。 「またこの季節がやってきた! 冬のおともだちを今年も出したぞ!」 わがしと対照的なテンションの高さで叫ぶのはラグナ・グラウシード(ib8459)だ。 背中にはいつも背負っている彼にとって大事なぬいぐるみであるうさみたん、身に着けているのはしろくまんと。 「どうだ? かぁいいだろう! 冬はいつもこれなのだ。うさみたんと握手させてやってもよいぞ、ふふん!」 自慢げに仲間たちにしろくまんととうさみたんを見せびらかすラグナを仲間たちがそれぞれのリアクションであしらっているうちに問題のアイスゴーレムたちが拠点としているらしい洞窟が見つかった。 足跡を追って慎重に洞窟内部へ入っていく。 入り口付近は風に乗って流れてきた雪が積もっていたが奥に進むにつれ雪はなくなった。 薄暗い中、松明が照らす土に残された足跡と、よく踏み固められている場所が敵の移動ルートと考えた五人はそれを目印に進む。 とどろくような呻き声が聞こえ、身構えると同時にアヤカシが角から姿を現した。 「アヤカシが昼間動くとは情報どおりよほど空腹と見える。瘴気を散らしてその永遠に続く空腹から開放してくれようぞ!」 飢えたアイスゴーレムが人の気配を感じれば一時でも飢えから逃れるために襲ってくるのは必定。 心構えは出来ていたので迎え撃つ開拓者側にも焦りはない。 リンスガルトが玄亀鉄山靠を敵の足に打ち込んで破壊し、機動力を削ぐ。 動けなくなったゴーレムの核と思われる部分を視線で探って滅多斬りにして核を潰した。 「回復などさせぬ!」 リンスガルトと同様前衛を担当していたラグナは相対したアイスゴーレムと戦いの火蓋を切って落とす前に大事な友達のうさみたんに祈りを捧げていた。 「うさみたん……みていてくれ、私の勇姿をっ!」 アイスゴーレムが腕を振り上げるのとラグナがオウガバトルを使用して能力を上昇させたのが同時。 「馬鹿力で潰されたくはないな……!」 相手の精神を逆なでする行動を取り、防御力を下げるラグナ。代わりに攻撃力は増加しているが受け流すかかわせばいい。最悪支援してくれる仲間の手を借りることも可能だ。耐久力に優れたアイスゴーレムを手っ取り早く倒すには防御力を下げるのが確実と判断したラグナの戦法である。 「さぁッ! 頭脳のかけらもなさそうな木偶の坊どもめ! この私にひざまずけッ!!」 ラグナもリンスガルト同様まずは足を狙って機動力を削ぐ行動に出た。 核と思われる色が違う部分を両手剣で貫き通す。 断末魔の悲鳴を上げてアイスゴーレムが一体、瘴気に還った。 「防御にたけている訳ではないですが、その分、色々とすぐれている、ということもあったりするのですよ」 勇気を分け与える曲を奏でながらわがしが軽やかな動きで敵を翻弄する。その隙に一体を仕留めたリンスガルトが背後から核を打ち砕いた。 ルゥミが漆黒の、ジルベリア風デザインのファイアロック式マスケット「魔弾」を構える。銃把には闇夜を連想させる黒い宝珠が取り付けられた、美しくも恐ろしい武器だ。脅威の命中率を誇る反面、呪いがかけられていると言う噂が囁かれる敵にとっても使用者にとっても名に相応しい武器といえるだろう。 ルゥミもまた足を狙って動けなくなったところを集中砲火を浴びせて身体を砕き、核も同時に破壊する。 一際大きな身体を持つリーダー格と相対した氏祗は両手に携えた肉厚の刀身に黄金色の刀紋を持つ両刃の直刀を振りかざす。炎の力を帯びた、精霊の加護を受けた刃はアイスゴーレムには殊更に苦痛を与えることだろう。 わがしが使用した騎士の魂によって仲間の防御力が高められているため今のところ開拓者側に大きな被害はない。 「……終わりだ。常世へ還れ」 氏祗が低く呟き両手に携えた剣で一気に核を貫くと最後の一体だったリーダー格のアイスゴーレムもまた瘴気となって霧散した。 「討伐完了じゃの。皆、怪我はないか?」 「攻撃が大振りでしたからね。かわしやすかった分助かりました。当たっていたら少々難儀したかもしれませんが」 囮役と支援に徹していたわがしがリンスガルトの問いかけに淡々と答える。 「ジルベリア育ちとはいえ流石に体が冷える。村に討伐が終わったことを報告に行くついでに湯を使わせてもらいたいのぅ」 「じゃあ薪を拾っていってお願いしてみようよ」 「うむ。入れるようだったらルゥミ、汝も一緒に入るか?」 「うん! 体冷えちゃったもんね!」 「では二手に分かれよう。足跡は五種だったが討ち漏らしがないとも限らん。十分に警戒と索敵を行いつつ村に行くとしようか」 「男女で分かれるか?」 覗きを警戒されるのはありがたくない、と呟いたのは誰だったか。 少女二人の可憐な見た目とは裏腹に高い戦闘力を目の当たりにした分、冤罪でも報復が恐ろしいことになりそうだった。 「では村に警戒を解いてもいいという旨を伝えた後、ギルドで落ち合おう。討伐完了を報告しなければな」 「りょーかい」 「うさみたん、私の勇姿、見ていてくれたか? そうかそうか、見ていてくれたか! 格好いい? 嫌だな、照れてしまうぞ」 「ラグナさん、置いていかれてしまいますよ」 「リンスちゃんとお風呂〜」 鼻歌交じりの女性陣、うさみたんと戯れて上機嫌のラグナ。表情にはあまり出ていないが手早く、かつ味方の被害を最小限に抑えることが出来た結果に満足している様子のわがしと氏祗。 目印をつけていたため意外と広かった洞窟内でも迷う事無く抜け出すことが可能だった。 洞窟を出てからは男女に別れて村へと向かう。 「では後で。繰り返すが注意は怠らないようにな」 「わかってるよ。そっちもねー」 女性陣が向かった村で討伐完了の旨を伝えると集会場に集まっていた村人達から安堵のため息が一斉にもれた。 「ところでお嬢さんがた、手に持ってるのは薪のようじゃがどうかしたのかの?」 「うむ。身体が冷えてしまったので風邪を引く前に湯を使わせてもらえないかと思ってな。薪くらいは用意させてもらおうと集めてきたのだが……」 村人達にとっては近隣に住み着いたアヤカシを退治してくれた恩人の二人である。 是非我が家に、いや、自分の家に、と引っ張りだこで歓迎された。 結局は村長の家の風呂を借りることで話がまとまりあっという間に用意が整えられる。 ルゥミが卓越した器用さを活かして身体をこちょこちょ洗うとリンスガルトから笑い声が漏れた。 制止する声にもくすぐったさからくる笑い声が滲んでいてルゥミの悪戯に拍車がかかる。 「あまり悪戯が過ぎると仕置きをするぞ、ルゥミ!」 「あははは!」 一方男性陣が向かった村でも安堵の声が集会場に満ちていた。 「これで今回見つかったアイスゴーレムの被害はないまま討伐は終わった。しかし冬特有のアヤカシがまたでないとも限らない。発見した場合は出来るだけ速やかにギルドに報告して欲しい」 誠実な応対に村長が感謝の言葉を述べる。 「お礼は不要ですよ。皆さんがご無事で何よりです」 休んでいっては、ささやかだが祝いの宴を、と述べる村人たちの誘いを丁寧に断って報告があるから、とギルドへ向かう三人。 実りの見込めない冬の山村に余計な負担をかけたくなかった。 「笑顔を守ることが出来て、よかったですね」 わがしの言葉に同意する二つの声が冬の空に昇り、溶けていった。 |