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■オープニング本文 ●秋は過ぎ去り世界は白く染まり始める 「あ」 「あ!」 「あ……」 霜が降りるようになった初冬のある日、子供たちが外の景色を見て歓声を上げた。 何事かと様子を見に来たそれぞれの家の大人たちに子供たちは満面の笑みで応える。 「雪が降ってきたよ!」 宮守 瑠李(iz0293)は微苦笑を浮かべて開拓者ギルドに集まった開拓者に火鉢を勧めた。 「めっきり寒くなってきましたね。布団から抜け出すのが難儀な季節です」 どうやらこの青年も世間一般の例に漏れず冬の布団に多大な魅力を感じるらしい。 一晩かけて自分の体温を溜め込んだ暖かな布団。それに反して朝の冷え込みのきつい室内。 魅力を感じない方が変ですよね、などと力説している。 どうやら切羽詰った依頼ではないようだ。 「初雪が降って積もっているらしいんですよ。大きな規模のお祭りとかはないのですが童心に帰って遊んでみませんか? かまくらは作れるかどうか微妙なところですが雪うさぎ程度だったら作れると思いますよ」 瑠李の故郷の宿場町は歩いていける距離。冬の行商は危険が伴うためあまり活気がないらしい。 「まぁ、行商人の変わりに雪が酷くなる前に里帰りを、と立ち寄る人もいるので完全に活気がないわけでもないのですけどね。子供たちが元気な季節ですよ」 雪うさぎや小さな蝋燭を一本立てられる程度の小さなかまくら、小さな雪だるま。 「これからやってくる寒さとの前哨戦、という事でお誘いさせて頂きますね。広場に雪よけのついた舞台客席を作って歌や踊り、お酒に料理を楽しんだりもできるようですよ」 縮こまって一冬過ごすのも勿体無いですし、楽しみませんと。 そう言っていつもの柔和な笑みを浮かべたのだった。 |
■参加者一覧 / 柚乃(ia0638) / 和奏(ia8807) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / 何 静花(ib9584) / 宮坂義乃(ib9942) / 宮坂 陽次郎(ic0197) / 宮坂 咲渡(ic1373) |
■リプレイ本文 ●六花舞う、白い季節に 凍てつき、時にその冷たい腕で人の命のともし火を連れ去ってしまう美しくも冷酷な季節がやってきた。 けれど、冬が深まりその厳しさを実感するにはまだ暫しの猶予がある。そして、白い六花――雪が積もるか積もらないかのこの時期は、子供のように雪遊びにふける楽しさもまた持ち合わせているのだった。 開拓者ギルドで布団の魔力に抗えないとこぼしていた青年から火鉢で暖をとりつつ聞いた初雪詣の話に乗ったのは八人。 他の季節に比べると冬は旅人が少ないせいだろうか、宿場町に人を呼び込む声はあまりない。 その代わりというように子供たちの無邪気な歓声が響いていた。 初雪を記念しての祭りを開くことが決まってから数日、雪は地面に積もる厚みを少し増したらしい。 かき集めればかまくらも何とか作れるほどの、今の時期にしてはそれなりの積雪量となっていた。 「雪遊び、楽しいですよね。童心に返ったみたいになって……。どんな季節にも厳しさと楽しさを見つけられるのはいいこと、ですよね」 『雪遊び……天澪もする』 『…………』 柚乃(ia0638)が呟くとからくりの天澪と提灯南瓜のクトゥルー、通称くぅちゃんがそれぞれ楽しそうに反応を示した。 「かまくらと……あと、たくさんの雪うさぎを周りに作ろうか。雪だるまもあったほうが楽しいかな?」 かまくらはあまり大きなものは作れないかもしれないけれど、自分と相棒たちが一緒に入れるくらいの大きさは目指したいもの。 山は高いほど登りたい、誰かがいった言葉は今回も応用可能だろうか。 チャレンジャー精神を燃やす柚乃と天澪、くぅちゃんは防寒対策をしっかりとると雪に挑みはじめた。 ……主にどれだけ綺麗な雪を集められるかの戦いだった。土が混ざった雪ではかまくらも雪うさぎも雪だるまもあまり見栄えがよくないのだ。 折角なら綺麗なものを作りたい。その一心で雪降る中の共同作業。 出来上がったかまくらは積雪量の関係でそれほど大きくはなかったけれど目標どおり全員で入ることが出来た。 くぅちゃんが闇への誘いで照らしたかまくらの中はなんだか幻想的だ。 持ってきたお菓子と、火種を使って沸かしたお湯で淹れた温かいお茶を飲んでまったり。 「寒い中でも動くとそれなりに暖かいですけど……止まるとやっぱり寒さがぶり返すね。温かいお茶が身にしみる……」 かじかんだ手を温めるように茶器を包み込んでちびちびとお茶を飲むのもまた一興。 「かまくらの中って雪の中なのに思ったより暖かいなぁ……どうしてだろ? 風が遮られるからかな?」 からくりと提灯南瓜が同意を示すように同じタイミングでコトリ、と首を傾げた。 和奏(ia8807)は雪見のために引かれた緋毛氈に座って雪景色を眺めていた。 「……幼いころ、空から落ちてくる風花を窓や縁先から眺めるだけだったころは、雪はただ消えてしまうモノだとおもっていました。 溶けて水になると知ったのはもっと大きくなってから……『辛い』とか『災い』という言葉と結びつくこともあると知ったのは開拓者になってからかもしれません……。 カマクラとか雪だるま、雪像を作ったのも開拓者になってからです……自分の中ではまだ楽しいものに近い気がします」 一緒に雪を眺めていた町の住民に語るともなしに呟けば。 「厳しい冬は家族と囲む炉辺が暖かい季節でね。子供たちは雪遊びをして、皆で身を寄せ合って春を待つ。雪解け水は農作業に欠かせないと聞くし、厳しさを乗り越えた分だけ花の美しさや新緑の眩しさ、春の恵みが愛おしくなるものなんだよ」 住民もまた語るともなしに言葉を返す。 視線を交わさず、言葉も交わしているのか独り言なのか曖昧で。 けれど共に見上げる雪から互いを案じる温もりは、たしかにその場を包んでいるのだった。 「さむいのはあんま好きじゃないけど……たまには、いいかなっ?」 そういいながら雪だるま作りに挑戦するエルレーン(ib7455)と。 「よし、うさみたん! また、でっかいうさみたん像を作ってやるからな!」 と、雪だるまというより背中に背負ったうさぎのぬいぐるみを模したうさぎだるま作りをしようと場所を探していたラグナ・グラウシード(ib8459)が鉢合わせ! 宿敵である妹弟子を見つけたラグナは思わず叫ぶ。 「ふん……貧乳娘、こんなところで会うとはな!」 売られた喧嘩は買う主義のエルレーンがこの暴言を聞き逃すはずがない。 「う、うるっさいのお……だまれ、だまれよっ!」 「黙れといわれて黙る奴がいるか!」 口喧嘩から雪合戦へ、雪玉の中に石が入り始めた後は取っ組み合いの大騒ぎへとステップアップしていく。 当初の雪だるま作りという目的は何処へやら。 気付けばラグナをボコボコにしてお仕置きコースに進もうと馬乗りになったエルレーンと雪の中倒れこんで背中はもちろん、雪合戦で浴びた雪玉のおかげで体中が冷たいラグナが下でもがくという風流とは遠い光景が展開されていた。 「ぶえっくし! うぇ〜、寒い!!」 「ちょ! 汚いだろ、馬鹿ラグナ!! 顔にツバ飛んできたし!」 「全身雪まみれになって冷えてるんだからくしゃみが出るのはふかこうりょ……ふぇっくし!」 「だから汚いってのーっ!!!」 襟首を掴んでがっくんがっくん揺さぶる。 ラグナにとって不幸中の幸いだったのは雪が積もっているお陰で頭を打つ威力が心なしか軽減されていることだろうか。 ちなみにうさみたんは取っ組み合いになる前に隙を見て避難させてたので今は作りかけのうさぎだるまの上からつぶらな瞳でラグナを見守っている。 「くっ……仮に風邪を引く羽目になってもうさみたんを死守出来たなら私は満足だぜ……っ!」 「上等! その死亡フラグ成立させてやるから覚悟しな!」 「やられっぱなしだと思うなよ!」 なんだなんだ、と騒ぎを聞きつけやってきた野次馬の視線も加わった中で二人の取っ組み合いはまだ続く模様。 おい、節分にはまだはえーぞー! 何処からか聞こえてきた(気がする)囃し声に一喝がとどろく。 「ちゃうわー!!」 声の主は何 静花(ib9584)、赤褐色の肌に頭の角が節分の鬼を連想させたのだろうか。 「なんだ、嬢ちゃん霜焼けかね。そんな薄着をしてるから……」 好々爺が心配そうに声をかけるが静花は否定する。 「霜焼けじゃない、生まれつきだ! 寒くなんかないわい!!」 雪景色の中で静花は非常に目立っていた。 一人立ち止まり、釣られて二人目が立ち止まり、それにまた釣られて……と人並みが出来ていく。 気付けば町人と静花の即席漫才集団が出来上がっていた。 何かを言われれば律儀に、けれど烈火のごとく突っこみを返す義理堅い性格の静花に町人が面白がっていろいろボケを投げかけた結果である。 笑いが人を呼び、人がボケを呼び、ボケが突っこみを呼び、突っ込みが笑いを生む無限ループ。 「節分の時にまたきてよ、ねーちゃん!」 「修羅の恐ろしさ見せてやろーじゃないか!!」 どっと観衆が湧いて一先ず締めとなった。 「…………私は人見知りのはずなのになんだ、今の勢いのある漫才の流れは……この町の住民、ノリがよすぎるぞ!」 いやいや、人のことは言えませんよ。 宮坂 玄人(ib9942)と冥越之 咲楽(ic1373)は生き別れの兄妹。 姉弟と勘違いされそうでも実際は兄妹。 生き別れの兄との再会を喜ぶつもりが当の兄から女装趣味に目覚めた、と爆弾発言が投下されて。 「家族の墓参りの時になんていったらいいんだ!? ……いや、まだ間に合う。今からその性根を叩きなおしてやる〜!」 「ちょ、ちょっと! 感動の再会なのに雪を投げるこ……ゴフッ!」 玄人の師匠であり咲楽と会って妹の存在を彼に知らせ、この祭りで二人が会うきっかけになった宮坂 陽次郎(ic0197)はいきなりの事態に困惑気味。 「弟子の玄人の家族を見つけたので再会させて、折角ですから雪見を楽しむはずだったんですが……どうしてこうなったのでしょう?」 首を傾げざるを得ない、という色が強い呟きに答えをくれる人はいない。 因みに陽次郎は『生き別れになった家族がいる』としか聞いていなかったので咲楽のことを姉だと勘違いしていた。 止めたいところだが修羅二人の雪合戦に横槍を入れたらタダでは澄まないだろうし、流石に無関係の人を巻き込むことはないだろう、と判断。 玄人の怒りが収まったところで仲裁を試みる。 「玄人、そろそろ落ち着きましたか? 折角会えたんです、仲良くしてはどうです?」 師匠の言葉に玄人が動きを止める。 「…………」 「…………」 「落ち着きましたか?」 「すまん。落ち着いた。……本当に無事でよかった……」 漸く、感動の再会らしい台詞が玄人の唇からこぼれ落ちる。 (出来れば出会い頭から今の一言が出る直前までの騒動を記憶から切り取りたいなぁ……) ちょっと遠い目になりつつそんなことを思ってしまう咲楽である。 女装に目覚めたくらいであんなに怒るとは思わなかったがたった一人の妹の気が済むまで雪合戦に付き合ったかいは、とりあえずさっきの一言を聞けたからあったというものだろう。 「兄貴の名前で開拓者になったって事は本気なんだね。私は応援するから一人で抱え込んじゃ駄目よ、義乃」 「……分かってる」 「仲直りも済んだことですしこの間の依頼のお礼にもらった叉焼包を皆で食べましょうか」 いろいろ積もる話もあるでしょう? その一言で兄妹の和解はなったようだった。 雪は降り積もる。 思い出を抱いて。 雪解けの季節を待ちながら。静かに、静かに降り積もっていく。 優しさと厳しさを見せながら。 全てを冷たく、そして温かく包み込んでいく――……。 |