収穫祭を始めよう
マスター名:秋月雅哉
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/10/11 17:34



■オープニング本文

●秋も深まり実りは豊かに
 夜の宿場町は活気で溢れていた。明々と夜闇を照らすかがり火。人々の笑いさざめく声。
 各地から行商人がそれぞれの名産品を持ち込み、商いをするこの町で、今盛んに取引されるのは農産物。
 秋は収穫の季節だ。実りに感謝をし、祝杯をあげる。
 それは決して大人だけの楽しみではない。子供たちに『収穫祭』は用意されている。

「私の実家を何度か訪れてくださった方もいらっしゃいますね。今回もその実家のある宿場町での催し物へのお誘いです」
 宮守 瑠李(iz0293)は眼鏡越しに目元を和ませた。
「収穫祭が、あるんですよ。とはいっても宿場町なので行商人が集めた収穫物の豊作を祝って、という形なのですが。大人たちは酒を酌み交わし、子供たちはその日に現れる『お菓子の街』を食べながら色々な悪戯をするんです」
 ジルベリアのハロウィンに近いですかね、と瑠李は続けた。
「扮装して、その日だけは夜更しも許されて。菓子職人たちが日頃鍛えた腕を振るって作り上げた幻想の街……これは全部お菓子で出来ているんですけれどね。それを食べて行き会った大人たちに悪戯をする。
 大人たちはお菓子を差し出すか悪戯される、そんなお祭りですね」
 お菓子の街は大通りを中心に結構な規模で宿場町の中に形成されるという。
「もちろん、大人が扮装して食べ歩いてもいいようですよ。一年の終わりが近付き、冬の寒さを耐え凌ぐ前の最後のお遊び、のような一面もありますからね。街総出で旅人さんたちを楽しませる趣向なんです。
 皆さんにはアヤカシ騒動の時にお世話になりましたから、町を代表して私からご招待するように、と言い付かっております」
 揺らめく明かりの中、一夜限りの幻想世界へ、出かけませんか。
 ギルド職員である青年はそう言って穏やかに微笑んだのだった。


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 和奏(ia8807) / リンスガルト・ギーベリ(ib5184) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459


■リプレイ本文

●収穫祭に現れる夢の街
 かがり火。松明。空には月明かりと星明かり。
 夜という時刻にも関わらず盛んに焚かれた日と、天上から注ぐ光のお陰で宿場町はいつもより格段に明るかった。
 収穫祭の行われる今夜、町の大通りにはお菓子の町が出現し、路地裏から今日だけは夜更かしを許された子供たちが神出鬼没に現れてお菓子か悪戯かをせまる。
 そんな宿場町を歩きながら羅喉丸(ia0347)は興味深そうにあちこちへと視線を投げかけていた。
「こんばんは。羅喉丸さん。どうです? 結構盛況でしょう」
 柔らかな口調でそんな羅喉丸に声をかけたのは普段開拓者ギルドで仕事の斡旋をしている青年、宮守 瑠李(iz0293)だった。
 この宿場町は彼の故郷らしく行事や祭りのときに開拓者たちの息抜きになれば、と誘うのが慣例になりつつある。
「収穫祭に『お菓子の街』か。変わった取り合わせだと思うが、子供も楽しめるものがあったほうが確かにいいな。子供たちも親の手伝いで農作業に駆り出されてたいへんだっただろうから、こういうことはいいことだと思う」
 そういいながら手に持っているのは子供たちにねだられたら差し出すつもりのお菓子が籐籠にいっぱい。
「子供たちは悪戯のほうが楽しいかもしれませんけれどね。お菓子も、きっと喜ぶことでしょう」
「悪戯は勘弁して欲しいな」
「お菓子を配るなら『お菓子の街』へ行くとたくさんの子供たちに会えると思いますよ。ジルベリアのお菓子で作られた小さな街なので見ごたえもあるかと」
 折角なので、と二人で連れ立って『お菓子の街』へと向かう。
 チョコレートでコーティングされたクッキーの屋根のある家。
 ビスケットの扉。飴で作られた窓。
 大人の膝の辺りまでの高さの台が大通りに沿って並べられ、その上におとぎ話に出てくるような『お菓子の家』が並んでいる。
 良く見れば馬車などの乗り物や小さな人形型のお菓子、犬や猫などの動物といった住民たちの姿もある。
「これは見事なものだ」
「あ、瑠李だー、ねぇねぇ、お菓子はー?」
「お菓子お菓子ー」
 小さな子供たちがわらわらと集まってくる。
 瑠李は眼鏡を直すとゆったりとした袖に隠した手から小さな袋を人数分渡して差し出した。
「皆さんの悪戯は身内に対しては容赦ありませんからね。ちゃんと用意してきてますよ」
「ちぇー、何にももってなさそうだったから今年こそ、って思ったのに」
「あ、クッキーだ」
「僕のはチョコ」
「私のは飴」
「皆さんで交換して食べてくださいね」
「では俺も進呈しよう」
 羅喉丸が籐籠からお菓子を取り出して子供たちに配るときゃっきゃと歓声が上がった。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「これ、とっても美味しそう!」
「お兄ちゃんもお祭り、楽しんでね!」
 満面の笑顔でお礼を言うと子供たちは次の標的を求めて、また、菓子職人が腕をふるって今晩のためだけに作ったお菓子の街を食べつくすために駆けて行く。
「子供は元気だな」
「滅多にさせてもらえない夜更かしが楽しいんでしょう」
「宮守さん、よかったら酒でもどうだ?」
「私でよければ喜んで。酒場はあちこちにありますからご要望を聞いて案内しますよ」
「そうだな、では……」
 要望を聞いた瑠李がそれなら、と歩き出す横で羅喉丸はもう一度お菓子の街を振り返る。
「宿場町なんで、旅人が伝えた風習が交じり合って、こうなったのかな。まあいいか、細かいことはおいておいて、。皆で騒いで、楽しいことはいいことだもんな」

夕方までを移動と宿場町の探索で過ごし、本格的に祭りが始まる夜まで軽く仮眠を取った礼野 真夢紀(ia1144)はゆっくりと大通りへ向かって歩いていた。
「さて。天儀でもはろうぃんに近いイベントする町があるんですねぇ。ほえ。…………まゆは子供かてごりでよいのかな?」
 一般的に大人は子供にお菓子をあげたり悪戯をされたりして、子供は大人にお菓子をねだったりくれなかった人に悪戯をする印象ですけれど、と真夢紀は一人呟いて首を傾げた。
「成人してませんし、子供でいいか」
 ただしこの街には瑠李と知り合ってから来る頻度が上がったのと、これからも足を運ぶことが予想されるので悪戯はせずに、味の探求と新しい知識の吸収を最優先にしよう、と決めて。
「『お菓子の街』とやらがどんなのかよくわからないので行ってみましょう」
 大通りは一際明るい。飴細工で作られた噴水の水底に色付きの飴が宝石に見立てて沈めてあったりする細部もよく見えた。
 筆記用具を持ってきていた真夢紀はお菓子の街を描き写して一口ずつ味見して何を使っているかをメモしていく。
「甘いものも定番だけど、塩味のあられやおせんべいなんかも使えそうだよなぁ……」
 一口ずつに留めておいたのだが大通りを通り抜ける頃には満腹感を感じるほど様々なお菓子を味わうことが出来た。
「帰ったらからくりと一緒に、一つくらい再現してみるのも楽しそうです。……甘いお菓子は子猫又には不満かな?」
「お嬢ちゃん、甘いものを食べ過ぎて胸焼けしたりしてないかい? 口の中がさっぱりする、ハーブを使ったお茶を振舞ってるよ。寄っていかないか」
 気のよさそうな男性の呼びかけに顔を上げる。
 確かに甘いものをたくさん食べたので少々口の中が甘ったるかった。
「いただきます」
「うんうん、今日は収穫祭だからな。お菓子だけじゃなくハーブや野菜たちにも活躍してもらわねぇと」
「野菜を使った料理もあるんですか?」
「もちろんだ。甘いものが苦手な奴もいるから大通りに面した店は一つくらいは甘くない料理を用意して客引きにしてるんだぜ」
「少し頂いてもいいでしょうか」
「悪戯されちゃあかなわねぇ。胃袋に収まるだけ食べて行きな!」
 気風のいい呼びかけに誘われて真夢紀はお菓子の街を後にして一軒の料理屋へと入っていった。

「猫耳を付けてみましたけどアヌビスとか……仮装に、見えるでしょうか」
 折角仮装も祭りの一環として執り行われている、ということで和奏(ia8807)は猫耳を付けての参加だ。
「配るためのお菓子もご用意しましたし……物々交換的に行きあった人と持っているお菓子を交換しながら楽しめたらいいですね」
 選んだのは個包装になっている見た目の可愛らしいお菓子たち。
 行き交った人にお菓子を求められ、交換を持ちかけて持っているお菓子の種類はだんだん増えていく。
「こんな夜も、いいものですね。自然の恵みに感謝することは大事です」
 少し行儀が悪いかな、と思いつつ「温かいうちに食べた方が美味しい」といわれた焼き菓子を頬張る。
 しっとりした生地はふんわりと柔らかくて中に入ったチョコレートや果物の甘みが口の中に広がった。
「……うん。これは、なかなか幸せなお祭りかもしれません」

 リンスガルト・ギーベリ(ib5184)とリィムナ・ピサレット(ib5201)はお菓子と悪戯、両方楽しむことで意見が一致した。
「ほほう、面白い催しじゃの。童心に帰って楽しむとしようぞ」
 十歳の少女が言うと高慢さも可愛らしく感じるものだ。
 黒いゴシックロリータのドレスに白いニーハイソックス、ハイヒールで美少女吸血鬼の仮装をしたリンスガルトと白いワンピース水着に白い猫耳、猫尻尾をつけ、肉球グローブと肉球サンダルの猫娘の格好をしたリィムナの二人は注目の的。
「これがお菓子の街か。随分大規模なんじゃな。早速お菓子の家を食べ……うっみゃー!
 これは美味いのじゃ! はにゃあん……うっとりする美味しさじゃ……」
 隣でリィムナも夢中になって食べている。
 おなかが膨れたところで次は悪戯。
「悪戯してお尻叩かれないなんて最高♪ いっぱいしちゃうぞ♪」
 ヴォ・ラ・ドールでさっと荷物を拝借してすぐに返したりナハトミラージュで姿を消して相手のまん前にいきなり現れて驚かせたり。
「お菓子くれないとあなたのお家の庭をトイレにしちゃうにゃ♪」
「妾は空腹じゃ。お菓子を捧げる栄誉をやろうぞ」
 胸をそらして要求するリンスガルトに応えられなかった大人たちはリィムナの悪戯を受けることに。
「リンスちゃん、ほっぺにクリームついてるよ」
 ぺろりと本物の猫のようにリンスガルトの頬のクリームを舐め取るリィムナ。
 ビーマイシャで弱い部分を撫でたりと悪戯も忘れない。
「そ、そうか、済まぬな……ってふにゃあああ! 撫でるでない!
 へ、変な声が出てしまうのじゃ……」
 真っ赤になって抗議するリンスガルトの耳元でリィムナがそっと囁く。
「ねえ、リンスちゃんの口……味見したいな……」
 家の影に隠れてそっと口付けを交わす二人。
「ん……甘い、ね」
「汝も……甘いぞ……どんな菓子よりも……」
 真っ赤になったリンスガルトの頬をリィムナは愛しげに撫でるのだった。

「とりっく・おあ・とりーと☆」
 やや露出度の高い黒い衣装に尻尾とつけ角で小悪魔の格好をして街を歩くのはエルレーン(ib7455)だ。
 その視界に一人の男性が写る。
『馬鹿兄弟子』と呼ぶラグナ・グラウシード(ib8459)だった。
「とりっく、おあ、とりーとぅッ!!」
 強面と分類される顔を更にくわっ! とばかりに恐ろしい表情にしているがねだるのはお菓子か悪戯か。
 実は甘いものが好きなラグナ。
 せなかにはうさみたんと呼んでいるうさぎのぬいぐるみ。
 甘いものだけでなく可愛いものも好きなのかもしれない。
「うさみたんもお菓子食べられたらいいのにねえ」
「とう☆」
「え……うわぁ!?」
 などといいながらお菓子の街のお菓子を貪っていたらエルレーンに捕縛されるラグナ。
 しかもお菓子を強奪されて涙目になる。
「かわいいって言ってほっぺにちゅーしてくれたら返したげる」
 とにっこり笑うエルレーンは仮装の効果も相まってまさに小悪魔。
「ちゅ、ちゅー!?」
「そう。ちゅー。あ、このお菓子おいしー♪」
「ちょ、解けよ、エルレーン! その菓子は私のだ!!」
「それが人にものを頼む態度かなぁ?」
「〜〜っ!! 解いてください、お願いします!」
「だからほっぺにちゅーしてかわいいって言ってくれたら解いてあげるしお菓子も返すって」
「いじめっ子! いじめっ子がいる!!」
「かわいい悪戯じゃない。それともなに、私みたいにかわいい子がちゅーねだってるのに断る気?」
「自分でかわいいとか言うなー!」
「だったらあなたが言ってよ。ついでにちゅーも」
「何処まで本気なんだよ!?」
「ほらほら、覚悟決めないとお菓子がどんどんなくなっていくわよー」
「鬼、悪魔!」
「そういうことを言うのはこの口か〜?」
 みょーん、とラグナの頬を引っ張るエルレーン。
「いだだだだだだ!」
「伸びるわねぇ……」
「いてーってば!」
「そっか、ラグナは私にちゅーするの、そんなに嫌なんだ……」
 さっきまでの陽気さを引っ込めて哀しげに目を伏せるエルレーン。
「え、いや、そういうわけじゃ……」
 捕縛されたままわたわたとするラグナを見てエルレーンはニヤリと笑った。
「引っかかりやすいわねぇ。やっぱり弄りがいがあるわ〜」
「〜〜〜〜っ!!!!」
 涙目になって声にならない絶叫を上げるラグナを見て、エルレーンは高らかに笑った。

 こうして夢の一夜は笑いと一部に涙をもたらして明けていく。
 明日からはまたいつもの宿場町に戻ることだろう。
 食べつくされたお菓子の街は、名残のように台と受け皿だけを残して消えた。
 悪戯完了、また来年!