月と山賊
マスター名:秋月雅哉
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/10/03 00:32



■オープニング本文

●木の間より洩り来る月のかげ見れば 心尽くしの秋は来にけり
 人里から少し離れた山間。洞窟の入り口に立った男は月を見上げた。
「そろそろ肌寒くなってきたな……」
 細り始めた月明かりが照らす道を踏みしめる多数の足音。
「あ、お帰んなさいまし、頭」
「おう」
 筋骨隆々とした四十代前後の男が低い声で見張りに応じる。
「首尾は上々。名月は過ぎたが月見の宴としゃれ込もうぜ」
「さっそく用意いたしやす!」
「おら、女ども! 頭に酌をしねぇか!!」
 この洞窟は山賊たちの縄張りらしく、近隣の村から攫われてきた女性たちが足枷を嵌めたままよろよろと歩み出る。
「楽しい宴になりそうだぜ」
「これだから山賊は止められねぇな」
「頭についていきゃ安泰だ」
「酒だ! 酒を持って来い!」
 野卑な声に怯えるように身をすくめる女性たち。
 山賊たちの宴は空が白むまで続いたのだった。

●名月が過ぎたころに
「山賊退治の依頼です。依頼主は山賊が拠点にしている山間部の近隣住民ですね。女性たちが五人ほど攫われているので救助もあわせてお願い致します」
 宮守 瑠李(iz0293)は僅かに眉間に皺を寄せることで嫌悪感を示した。普段穏やかな表情の多い彼がこういった表情をするのは珍しい。
「農村の収穫物や商家に押し入っての金品強奪、殺しこそしていないもののかなりあくどいようですね。頭と呼ばれる四十代の男性は志体持ちで、配下十五人ほどは一般人です。
 武器は刀や弓、槍などです。農村ではこれからの時期ますます狙われるでしょうし商家にしても売り上げを強奪されては立ち行きません。対処をお願いいたしますね」
 攫われた女性たちのご家族も心配されているでしょうから、と付け加え、青年は拠点のおおよその位置が書かれた紙を差し出した。
「頭を含め全員を捕縛すること、女性たちを保護することを目的としてください。捕縛以上の行為……殺人ですとか……は、止めはしませんが後々厄介になりかねませんので。ギルドを通してきつくお灸をすえることにしましょう」
 やはり、かなり怒っているようだった。
「名月が過ぎたので少しあかりが心許ないかもしれませんからある程度近付くまでは照明を用意した方がいいかもしれませんね。近付けば洞窟周辺は松明が灯されているので光源に心配はないかと。……懲らしめてやってくださいね」


■参加者一覧
ラシュディア(ib0112
23歳・男・騎
アルフィール・レイオス(ib0136
23歳・女・騎
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
日依朶 美織(ib8043
13歳・男・シ
カルフ(ib9316
23歳・女・魔
中書令(ib9408
20歳・男・吟


■リプレイ本文

●夜闇にまぎれて
 山賊退治と山賊にさらわれた近隣に住む女性の保護を依頼されて集まった開拓者の六人はそれぞれが程度の差はあれど不快感を露にしていた。事前に聞いた山賊の身勝手さが主な原因だろう。
「真っ当に生きている人から糧を取り上げて好き放題、なんていい身分だな。
 アヤカシではなく同じ人間がそういう事をしているのには、深刻な怒りを感じるよ。
 ギルドの依頼で捕縛までとなっているから自制の効く限りは仕方なくそうするけど、怒りの余り手が滑って『事故』を起こしたくなるね、本当に」
 ラシュディア(ib0112)が口元だけでひんやりと笑いながら吐き捨てた言葉は結構物騒なものだった。
「ん、随分と分かりやすい山賊だな。それだけに放置するなどできはしないが」
 アルフィール・レイオス(ib0136)が微かに柳眉を寄せた状態で頷いた。
「殺しをやってないのが唯一の救い、かな。
 一網打尽にして、早く攫われた人達を助け出さなきゃね!」
 リィムナ・ピサレット(ib5201)もアルフィールに続き、ぐっと拳を握り締める。
 小さく丸い木の実を目の中に入れて転がしたあと取り出し、両目をかなり充血させることで盲目と見せかける処置をとった日依朶 美織(ib8043)が杖を握り締めて小さく呟いた。
「攫われた女性たち……はやく助け出さないといけませんね」
 充血した目と攫われて奉仕を強要されているであろう女性たちのことを思ってか沈みがちな声が相まって泣いた直後のようだ。
「自堕落……というかろくでなし、でしょうか。何処にでもいるんですね、この手の典型的な悪人って。手早く拘束して女性たちを家に帰してあげなくては」
 カルフ(ib9316)が妖精が作ったと噂される、素朴な雰囲気の真っ赤なとんがり帽子の位置を直しながら吐息を吐いた。
 エルフ特有のとがった耳が帽子の下から覗いている。
 隠し持っているのは事前に市場で大量に購入した唐辛子を細かく砕いてヴォトカに入れ、時間をかけて浸したものだ。
「私は中に潜入してから夜の子守唄を使って賊を纏めて眠らせて女性たちは安らぎの子守唄を奏でて落ち着かせつつ脱出を支援しようと思うのですが」
 中書令(ib9408)が静かに口を開くとラシュディアがそれに応じる。
「見張りは俺が締め落とそう。どうも腹に据えかねていてね」
「……分かりました。討ちもらしはないよう、全員気を配りましょう。確か志体持ちの首領が一人で配下は一般人が十五人でしたね」
 山賊はどれだけ痛めつけても自業自得でしょうが女性たちを怯えさせないよう気を配ることも必要ですね、と中書令は穏やかに笑って一番最初に物騒なことを口にしたラシュディア以上に物騒な気配をにじませた。
「殺してしまっていいような人種だろうが、ギルドが殺人避ける方針ならば依頼を受ける側の俺はそれに異論はない。少々難易度は上がるが、何とかなるだろう。
 任務を完遂できるのであれば過程はギルド側も問わないだろうしな。俺自身は今言ったとおり殺してしまってもいいと思っているから痛めつけることに特に異存はない」
 アルフィールも静かに同意する。他の者も特に異存はないようだった。
 彼女自身は鎧の音が響いて隠密行動などは出来ないだろうと告げて他の仲間が行動を開始してから正面から突入する旨を告げた。
 リィムナは松明を用意して近付くまで明かりとして使い、先行する仲間が洞窟に入ったら近くに潜伏、超越聴覚とナハトミラージュを併用して女性たちの身柄確保を第一目標とすることに。
 美織は目が見えない少女が山道を迷った振りをしてわざと捕らえられ、女性たちの許へ山賊たちに案内させる心積もりだ。
 カルフはリィムナと途中まで同行、討ちもらしがないか確認しつつ後衛を務める。
「私はラシュディアさんが見張りを無力化させたあと荒縄で捕縛、皆さんの邪魔にならないよう配慮しながら夜の子守唄を使わせていただきますね」
 それぞれが行動方針を打ち出して、夜闇に散っていった。

●欠け行く月が見守る夜に
「ふぁ……ん?」
 見張りの男があくびをかみ殺して目を眇める。耳を澄ませば石に何か硬質なものがあたる音が時折響いた。
「誰だ」
「あの……どなたかいらっしゃるのですか? ここはどちらのお屋敷でしょうか。
 どうやら道に迷ってしまった様で……」
 見張りを無力化する前に中に入ってしまうことにした美織が心細げに見張りに問う。盲目を装っているので視線はわざと見張りから少しずれた場所へ向けた。
「女……いや、子供、か? こんな夜中に何処へ行こうっていうんだ」
「今は夜なのですか? 迷って道を見つけようとしている間にそんなに時間が経っていたのですね……」
「ちょっとこっちへ来い」
 手荒に腕を引いて松明の灯りが届くところまで美識を引き寄せると見張り役は吟味するようにその容貌を眺めた。
「あの……?」
「まだガキだが上玉じゃねぇか。おい! 誰かきてくれ!」
「どうした、何か異常でもあったのか」
「飛んで火にいる夏の虫がいたらしいぜ。ちっとばかし年が足りねぇが上玉だ。道に迷ったらしい」
「身なりも上等じゃねぇか。給仕として使えなくても家を調べて金を要求する人質にはなりそうだな」
 見張りと中から現れた山賊がかわす不穏なやり取りに少女になりきった美織は不安げに視線を彷徨わせる。
「中に連れてくぜ」
「あぁ」
 引きずられるようにして美織が山賊と一緒に姿を洞窟の中へと消したあと突入組はしばらくじっとしていた。
「じゃあ、あとで」
 ラシュディアが無声音で告げると残った面子が頷きを返した。
 都合のいいことに美識と中の……おそらく、多少は外より暖かい空気や用意されているであろう酒や食料に気を取られているのか見張りはこちらに背を向けている。
 その隙を捉えてラシュディアがギャロットで絞めた。うめき声すら上げられないほど、強く。
 程なくして見張りは気絶したがラシュディアはそれでも許さず窒息死寸前まで絞めたあと漸くギャロットを離す。
 仲間が近付いてくるのを確認して彼は一足先に洞窟内へと侵入したのだった。
「随分お怒りのようでしたねぇ。まぁ、気持ちは分かりますが。私たちもはやく合流しましょうか」
 荒縄で手早く見張りを拘束したあと意外と広い造りになっている洞窟内へそれぞれがそれぞれの方法で進入する。
 超越聴覚を使ってリィムナたちに女性の居所を知らせた美織は不安そうにしながらも自分を励まそうとする女性たちに静かに微笑んで告げた。
「今、潜入した仲間に居場所を知らせました。私たちは開拓者です。ギルドの依頼を受けて山賊退治と貴方たちの救出に来ました」
「開拓、者……? 本当なの?」
「えぇ。もうしばらく、ご辛抱を」
 山賊たちに気取られないように静かに泣き出す女性たちをいざという時のために背に庇って美織は時を数えた。

一方、侵入者がいることは倒された手下たちから見ても確実なのに一向に捕捉することはもちろん、詳細な情報を手に入れることもできずに山賊たちは焦っていた。
 かがり火を増やし、巡回をするがどう足掻いても一般人が開拓者に敵うわけがない。
 一人、また一人と隙を突いて攻撃され、声をあげることも出来ずに気絶させられる。
 荒縄で縛ったのはこれで十五人。情報どおりなら後は首領が残るのみだった。
「こういうときの定番は最深部ですかね?」
「でしょうね。奥へ進む前に皆さんと合流しましょうか」
「ん、好感をもてない一般人相手に手加減するのはなかなか面倒くさいな。一応殺してはいないからあとは首領を何とかして女性たちを救出するだけか」
 カルフと中書令、アルフィールが手下を拘束し終えた頃にラシュディアがリィムナ、美織に導かれた女性たちを連れて戻ってきた。
 みれば手荒なまねをされたのか怪我をしている女性もいる。
 カルフが恵方巻を、中書令が岩清水や甘酒を提供して、安らぎの子守唄を奏でられる中で仲間たちや女性たちの傷を癒して首領との戦いに備える。
「では、少し此処で待っていてくださいね。足かせはもうありませんが皆さんだけで夜道を歩かれてまた山賊に捕まっても大変ですから」
「わ、分かりました……」
「あの、お気をつけて」
「助けてくださってありがとうございます……」
「怖かったです……」
「首領は、いつも此処を真っ直ぐ行った先にある広間のような場所にいます。今もたぶん……」
「そうですか。ありがとうございます」
 どうやら洞窟は自然のものに手を加えて増築のような処置を取っているらしい。
 女性たちにくれぐれも動かないように指示を出して開拓者たちは最深部へ向かった。
「お前らが侵入者か。目的はなんだ? 金か? 腕はいいようだな。雇ってやろうか」
「下衆が。俺達は開拓者だ」
 ラシュディアが不快感も露に切り捨てると武器を構えた。
「開拓者、か。ちと派手にやりすぎたかな。……だが大人しくは、引けねぇな」
 首領もまた武器を構える。
「罪は償って頂きます……」
「はっ! 強者が弱者から搾取するのは世の理だろ?」
「ん……想像以上の俗物だな」
「苛立たしさを通り越してある種の哀れみさえ感じますね。容赦はしませんが」
「這いつくばって女性たちに許しを乞う姿が見たいですね」
 中書令が笑顔で告げた言葉に逆上した首領が太刀を振りかぶる。
「そもそもいくら志体もちでも開拓者六人相手に一人で立ち回ろうって言うのが無謀だよね」
 リィムナが冷静に分析した後夜の子守唄を奏でた。
 柄に赤みのかかった大きな宝珠の嵌っている短剣「アソット」を武器にカルフが舞うように斬りつける。
「手加減はしねぇ。死なないことを祈っときな!」
「山賊に祈る神なんざいねぇさ、若造が」
 刃物のぶつかり合う音や打撃音、奏でられる子守唄の旋律が洞窟内に反響する。
 リィムナが言ったとおり志体もちとはいえ一体八では勝負は目に見えていた。
 首領と呼ばれていた四十代の男は程なく傷だらけの身体を拘束される。
「あ、そうだ。一度手下たちも此処に集めていいですか?」
「何をする気だ?」
「お仕置きです」
 首を傾げながらも女性たちや山賊をギルドに連れて行くのは日が昇ってからのほうが道が見えて容易だろうということで依存を唱える仲間もなく、カルフの提案が通る。
 意識を取り戻した山賊たちに布で自決防止用の猿轡を噛ませ、予め用意していた唐辛子を浸したヴォトカを賊の周辺に散布する。
 アイアンウォールで洞窟内に山賊のみを閉じ込める壁を作り出してその効果が切れるまで唐辛子成分を賊たちのいる空気中に広げて悶絶させるのが『お仕置き』の内容だった。
「傷に染みるでしょうから折角ですし塗って差し上げましょう。えぇ、アルコールは消毒にもなりますし、ね」
 その内容を聞いた中書令によって賊たちの悶絶度が増したことはいうまでもない。
 アイアンウォールの効果が切れる頃には日も昇り、休息を取ったこととギルドでの聞き取りが終われば自分達の家に帰れることが女性たちを元気付け、お仕置きによって半死半生になった山賊たちの抵抗もなく、一向は無事にギルドへ辿り着いて結果を報告する運びとなったのだった。