月の下でワルツを
マスター名:秋月雅哉
シナリオ形態: イベント
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/09/12 22:03



■オープニング本文

●恋人たちの夜
 満月の下、集まった若者たちが乙女をワルツに誘う。
 星明かりの下、微笑みあい手を取り合う二人。
 ワルツから始まる恋も、ある……のだけれど。
「ジルベリア風に月夜の舞踏会を若者たちに楽しんでもらおうと思ったんだが会場の周りににゴロツキが出るらしいんだ。取りやめた方がいいかな……」
「でもみんな楽しみにしているのに!」
 気弱な老人の言葉に自身も楽しみにしているであろう年頃の少女が非難の声を上げる。
「しかし皆を危険に晒すわけには……」
「だったら、駄目元で開拓者ギルドの人たちに護衛を頼んだらどうかな? あ、それにいつも忙しい人達だと思うから、ワルツへの参加者も募集しちゃうとか!」
「アヤカシを相手に戦っている人たちだしな……護衛を頼めなくても、参加してくれているだけでも心強いが……」
 若者の言葉に少女が立ち上がる。
「私、ギルドにいってくる!」

●旋律は月明かりに乗って
「月夜のワルツ会場の護衛と……ダンスのお誘いが来ていますよ。舞踏会場の近くにゴロツキが最近出るらしく、護衛をお願いしたいそうです。それともし良かったら開拓者の皆さんも舞踏会に参加して欲しい、と」
 宮守 瑠李(iz0293)が依頼の要項を纏めた紙と参加者を募る紙を卓上に置く。
「ワルツに参加するのは基本的に二人一組ですね。お一人で踊りたい、という方は……私で宜しければお相手いたしますよ。
 護衛のほうも参加者のほうも特に人数は問わないそうです。月夜の舞踏会、無事に過ごせるよう頑張りましょうね。
 ゴロツキは志体持ちでない一般人ですので皆さんでしたら問題ないでしょう。数は十人と少し多いようですが。
 ……早い話が恋人たちのお祭りですね。えぇ、一人身では紹介するとなんでしょう、とても遠い目をしたくなりますね」
 仕事ですからやりますけど、と付け加えた瑠李の目は笑っていなかった。
「舞台には今の時期に咲く薔薇を植えてあって月の光にライトアップされて綺麗だそうですよ。……ふふ、薔薇は愛を告げる際に良く用いられる花、ですよね。またラブラブ真っ盛りな場所に一人で行くんですね、私は……」
 これ以上瑠李が壊れる前にお暇した方がよさそうだ、と考えた開拓者たちはブツブツ語り始めた瑠李からそっと距離を置いて逃げ出したのだった。


■参加者一覧
/ 柚乃(ia0638) / 鴇ノ宮 風葉(ia0799) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 和奏(ia8807) / イリア・サヴィン(ib0130) / リスティア・サヴィン(ib0242) / リンカ・ティニーブルー(ib0345) / 巌 技藝(ib8056) / アイリーン(ic0813) / 白隼(ic0990


■リプレイ本文

●絢爛たる舞踏会の裏側で
「んー? 恋人、何それ美味しいの? ――なんて、冗談ですよ」
 礼野 真夢紀(ia1144)は今夜行われる舞踏会場の周りを警護のために巡回しながらそんな言葉を口にした。
「意味は分かってますけど、ジルベリアの踊り方って知らないんですよね。破落戸倒した後でしたら見取稽古出来そうですし……確認して、連れて行けるようだったらしらさぎを連れてって覚えさせよーっと」
 覚えておいて損はないでしょうから、と結ぶ。
「俺はティアと組んで参加者を装って油断させようと思うが真夢紀さんはどうする?」
 イリア・サヴィン(ib0130)が問いかけると問いかけられた少女はそうですね、と少し考えた。
「見かけは幼いですし、まずは一人でその辺歩いてみます。相手も侮って向かってくると思いますから。相手が先に手を出したら正当防衛成立しますし」
「じゃああたいはアイリーンと回るよ。女二人ならやっぱり油断するだろうしね」
 リンカ・ティニーブルー(ib0345)は人数が多いとはいえ一般人相手だと聞き、必要以上に怪我をさせてもいけないだろうと訓練用の鏃の無い矢を準備していた。
 また、捕縛用の紐と、捕縛後に応急手当を施せるように胴乱に治療用の医薬品を納めてある。
「よろしくお願いしますっ」
 リンカが共に回ろうと持ちかけたアイリーン(ic0813)が元気に頷く。
「じゃあ手分けして無粋なお客さんをお持て成ししましょうか」
 リスティア・バルテス(ib0242)が艶然と微笑むと開拓者たちは各方向に分かれていった。

「どう? 異常ない?」
「あぁ。ティアとこうして開拓者らしい仕事をするのも久しぶりだな。頼りにしてるよ」
 時折茶化すようなそぶりを見せることもあるがリスティアのことは同じ開拓者としても恋人としても信頼しているイリアだった。
 超越聴覚を使用して周りに気を配りながらイリアと見回っていたリスティアは微かに聞こえてくるワルツの音色にあわせて踊っているであろう男女が本当は少し羨ましい。
「あのね? 仕事終わったら……」
「うん?」
「……何でもないわ」
 ワルツに誘おうとして、結局言い出せなかったけれど。

「月夜の舞踏会……か。一緒に過ごしたい人といられるって、良いね。あたいは……」
 声をかける勇気がなかった想い人に一瞬だけ思いを馳せて、リンカは振り切るように頭を振って思考を切り替える。
「誘えなかったのは自分のせいだし……警護の後は、上手い人のダンスを見学させて貰おうかな。折角の一時に無粋な邪魔が入ったら目も当てられないし、しっかり警護しないとね」
「月夜のワルツって素敵ですね♪ リンカさんは誘いたい方がいらっしゃったんですか……私は恋人はいないから、ワルツの会場はちょっぴり見てみるだけにしておこうかなぁ……。いつか、誰かとあんな風に踊れたらって思いますけど」
 想い人がいるリンカと恋に憧れる年頃のアイリーン。
「アイリーンは可愛いから会場に行ったら申し込まれるんじゃないかな、ダンス」
「他国の音楽や踊りは興味はありますけどまだまだ勉強中なのっで……誘っていただいても上手く踊れないかもしれません」
「楽しめるならいいと思うけどね、あたいは」
 その時、近くで怒鳴り声や粗野な声が夜の静寂を引き裂いた。
「真夢紀さんの回ってる方角ですね。急ぎましょう!」
「あぁ」

「ガキはすっこんでろ!」
「舞踏会を台無しにはさせません」
「この……っ!」
 リンカとアイリーン、イリアとリスティアが別方向から駆けつけてくるのはほぼ同時だった。
「やめなさいよ! 子供相手に大勢で情けないわね!」
 啖呵を切って割ってはいるリスティア。
「折角みんながダンスや音楽を楽しんでるのに邪魔するなんて許せないわ!」
「ちっ……ぞろぞろと……こいつら片付けて金目のもんぶんどってから会場の連中を襲撃するぞ!」
「無粋なことはやめてもらおうか」
 リスティアと連携しつつ盾で彼女を守りながら戦うイリア。
「怪我はないかい?」
「正当防衛主張するために一発殴られましたけど大したことないです」
「女の子に手を上げるなんて許せませんっ……」
 数が多いといっても所詮は統制のろくに取れていないごろつきたちだ。
 事前に打ち合わせをしていなかったとはいえ連携しての戦いにも長けた開拓者たちの相手になると考えるほうが間違っている。
 開拓者たちにとっては戦いそのものではなく手加減をして殺さないように無力化するほうが難しかったのかもしれない。
 捕縛用の紐や縄でごろつきたちを捕縛し、一応応急手当もしてやったあと、開催者側の警備担当者に連絡を入れて引き取ってもらう。
「警護のほうは一応終了ですね。お疲れ様でした」
 真夢紀がぺこりと頭を下げる。
「冷やさなくて平気?」
「大丈夫です。アヤカシの攻撃に比べたら撫でられてるようなものでしたから」
「それならいいんだけど……」
「ちょっと開催者の人たちに相棒連れて見学していっていいか聞いてきます。皆さんもいい夜を」

「終わったわね」
「そうだね。……さて、仕事も終わったことだし折角だから」
 そう言ってリスティアに手を差し出すイリア。
「こんなところで何ですが、一曲いかがです、姫」
「その……私あんまり上手くない、けど……」
 彼に差し出された手に上目遣いにそう答えて躊躇うそぶりを見せるリスティア。
「大丈夫。足を踏まれても怒らないからさ」
 そう言って茶化し、パーティー会場から少し離れた場所で二人だけのワルツが始まった。

「……別世界みたいだね。此処は」
 せめて雰囲気だけでも、と会場を訪れたリンカ。
「一曲いかがですか、お嬢さん?」
「……見学に来ただけなんだ。申し訳ないけれど」
「そうですか。気が変わったら声をかけてください」
「ありがとう」
 声をかけられなかったのは自分の勇気が足りなかったからだ。
 けれど。
「……一緒に、来たかったかな。やっぱり」
 未練がましいね、とひっそり笑ってリンカは会場を後にした。

そんなリンカの背中を見ていたアイリーンにも誘いの声がかかる。
「私、ジルベリアのダンスは勉強中なんですけど……」
「習うより慣れろ、といいますし。よろしければ練習相手に立候補させてください」
「えっと……じゃあ、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
 差し出された手を取ってステップを踏み始める。

「華やかですねぇ」
「うん」
 無事許可を得られたので真夢紀はしらさぎを伴って会場の隅で見学をしていた。
「覚えられそうですか? ダンス」
「うーん……たぶん?」
 ことり、と首を傾げるしらさぎにそうですか、と返して一人と一体はしばらくダンスを見学した。

●華やかな夜に咲く花
 舞を愛する者同士、踊りのレパートリーを広げたり、見聞を広められたら良いね、と誘い合ってダンスパーティーに参加した巌 技藝(ib8056)と白隼
ic0990)の二人。
 趣旨が趣旨なので“女同士”のワルツにも特に拘りはなく、会場で誘われたら積極的に受け付けていくという相談をして会場に赴いていた。
「女性とはいえ、会場内にも開拓者がいるとなれば参加を楽しみにしてきた人たちも少しは安心して楽しむことができるだろうしね。あたいたちも、より舞の見聞を広げられる良い機会になるかもしれないし、楽しませてもらおうじゃないさ」
「ワルツのステップって、いつもと違う風の感じがするわ。これはこれで素敵ね」
「そうだね。異国の風を舞で感じられるなんて粋じゃないか」
 そこへ二人組の男性が近付いてきた。
「よろしければ私たちと一曲いかがですか?」
「喜んで。私の相手はどちらがしてくれるのかしら?」
 進み出た男性に差し出された手を取って白隼はダンスホールへ進んでいく。
「あたいたちも行こうか?」
「よろしくお願いいたします」
 技藝も一曲のパートナーの手を取ってホールへ。
 軽やかにステップを踏みながら一夜を楽しむ。
 満月の下、薔薇の香りに包まれて参加者たちはワルツを楽しんだのだった。
 異国情緒溢れる華やかな舞踏会で盛り上がり、参加者は気の向くまま笑いあい、視線を交し合って去り行く夏とやってくる秋の間の一夜は踊りあかされた。
 後日、開拓者ギルドには主催者側から参加と警護に対して丁重なお礼の手紙が届いたという。