【七祭】【流星】和みの時間
マスター名:秋月雅哉
シナリオ形態: イベント
EX :危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/07/20 22:40



■オープニング本文

●七祭
 五行、石鏡に広く伝わる七祭。
 7月の上旬になると、精霊に秋の豊作を祈り、同時に人々の穢れを祓う為に開催される祭りである。
 この季節に現れる蛍は、淡い輝きを放つことから精霊の遣いであるとされ、来訪する精霊の遣いを迎えて祀り、帰って行くのを見送るという風習がある。
 闇夜の中、星のように輝く蛍は幸せを運んでくれるとか――。
 また、石鏡では精霊の化身であるもふらさまに願いごとを書いた短冊を飾って祈ると、願いが成就するという言い伝えもあり……。
 更に今年は、生成姫が齎した災厄を吹き飛ばそうと、各地の街や村が華やかに飾り付けを施し、銘々工夫された飾りつけは、どれも見事なのだそうだ。
 いつも以上の盛り上がりを見せている七祭。
 蛍に祈りを。もふらさまと夜空を渡る流星に願いを――。
 開拓者の皆さんも、仕事の合間に訪れてみませんか?

●もふらさまと和みの時間を
「七祭のシーズンですね。もふらさまに短冊を飾って願い事を祈願するんだとか。
 石鏡では広く伝わっているようですが私は参加した事がないんですよ。
 ――そこで皆さんをお誘いしようかと。今回は和みはしても精神的ダメージは受けなそうですし」
 近々行われる地元の祭りでは色々苦労しそうな宮守 瑠李(iz0293)は今日も変なテンションだった。
「癒し……それこそが今の私達に最も必要なものだと思いませんか? 思いますよね? という訳で行きましょう」
 彼がこんな風に我を通すのは珍しいかもしれない。
「蛍も見られるそうなのでこの間ご一緒できなかった方は初夏を惜しむ意味でもご一緒しませんか?
 星に願うかもふらさまに願うかはお好みで、という事で」
 平静を装ったらしい瑠李は静かに微笑んで引き気味の開拓者たちに無言のプレッシャーをかけたのだった。


■参加者一覧
/ 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 和奏(ia8807) / ラシュディア(ib0112) / ジレディア(ib3828) / 棕櫚(ib7915) / ヒビキ(ib9576) / 音野寄 朔(ib9892) / ネロ(ib9957) / ルース・エリコット(ic0005


■リプレイ本文

●願いと祈りを
 七祭が始まって数日。町の広場にはでん、と座り込む巨大なもふらさまの姿が。
 大きさに個体差のあるもふらさまだが広場に鎮座しているこのもふらさまは規格外と言っていいほど大きい。
 しかしもふらさま特有ののんびりとした性格ではあるようで触れられても子供が背に乗っても悠然と構えている。
 七祭は七月の上旬に精霊に秋の豊作を祈り、同時に人々の穢れを祓うために五行と石鏡に広く伝わる祭りである。
 石鏡では精霊の化身であるもふらさまに願いごとを書いた短冊を飾って祈ると願いが成就するという言い伝えもあるためか、この巨大なもふらさまにも短冊がいくつも飾られているのだった。
 柚乃(ia0638)はそんな町の中をのんびりと一人で散策していた。
「石鏡歩けばもふらに当たる……ですね」
 鎮座する巨大もふらさまと視線をあわせ、まずはもふもふする。
 おそらく今日のために町の人たちが手入れをしたのであろう毛並みは触っているだけで幸せになれる感触だ。
【――が無病息災でありますように】
 一つ一つ違う名前を、親しい人の数だけ書き連ねて首の辺りに飾りつけ。
「たくさんの願いごと……欲張りでしょうか。でもたまにはいいですよね?」
 いいんじゃない? と言いたげにふゎ、とあくびをしたもふらさまの口にぽいっと一口サイズの星型クッキーを放り込む。
 あくびの際に細められていたもふらさまの目が条件反射で咀嚼したクッキーの味に更に細まった。どうやらお気に召したようだ。
 頭を撫でてみると夢見心地の様子のもふらさま。
「のんびりしてますねぇ……」
 日向ぼっこには少々暑い気がするのですが、と柚乃はわずかに苦笑したあとで歩き出す。
 夕方を過ぎれば七祭の名物、星空や蛍狩りを楽しめるはずだった。
 浴衣を着用し、髪は結い上げて祭りの準備は万端。
「日が暮れるまでもうすこし歩いてみましょうか……」

 ネロ(ib9957)とルース・エリコット(ic0005)は並んで町を歩いていた。
 砂漠の国には七夕という風習がなかったため、ルースはとても不思議そうな表情で祭りを眺めていた。
「あ、あの……タナバタ、って……どうい、うお祭り……なのです、か?」
 尋ねられたネロは少しの間考えるように首を傾げていたがゆっくりと仮面の下で口を開いた。
「七祭は精霊に秋の豊作を祈ったり、人々の穢れを祓ったりするお祭り。
 この時期に現れる蛍は精霊の遣いって言われてて、来訪する精霊の遣いを迎えて祀って、帰っていくのを見送る風習もあったと思う。
 幸せを運んでくれるっていう考え方もあるらしいよ。
 あとは……七夕だと笹に願い事を書いた短冊を吊るすんだけど、七祭だともふらさまに飾り付けるみたい」
「ふわぁ……! とて、も素敵……な、精霊祭で……すね♪」
 ネロから説明を受けてルースは目をキラキラさせて無意識に拳を握っていた。
「短冊、飾ろうか」
「そ、そうで……すね。……あ、あの……私の、願い……ごと……」
 恥ずかしそうに、けれど喜んで頷いたルースの短冊には【自分の知ってる人達の幸せ】、隣のネロの短冊には【ルースが幸せになりますように】と書かれた。
「私、の幸せ……ですか?」
「ルースが皆の幸せを願うなら、その分ボクが君の幸せをお願いしてあげる」
 もふらさまの尻尾の辺りに短冊を並べて飾る。
「願い……叶うと、いいね」
「あの……蛍、みたいの……ですが、良いです……か?」
 と、おずおず頼んでくるルースにネロは頷きを返す。
「暗くなったら水辺に行こう」

●ほのかな光のなかで交わす言の葉
 ラシュディア(ib0112)は蛍狩りに適した穴場を探すため恋人のジレディア(ib3828)にすこし待っていてもらうとスキルの一つ、夜春も駆使して町人から情報を引き出していた。
「なかなか二人での遠出はなかったからな。喜んだ顔が見たいから、頑張りますか」
 話術とスキルの相乗効果で穴場を聞き出したあとはすぐに恋人のもとへ。
「よさそうな場所が見つかったよ。すこし足場が悪いみたいだけど……」
 そう言って手を差し出すとジレディアは頬を染めて手を取った。
 手を繋いでしばらく川沿いに歩く。
「そろそろ足場悪くなってきたな。……ちょっとごめん」
 そういって恋人を抱き上げるラシュディア。
「せっかくのデートだからね、仲良く行こう」
「……、はい……」
 緊張するのか若干居心地の悪そうなジレディアを抱きかかえたままラシュディアは器用に足場の悪い道から適切な道を選んで進んでいく。
 着いたのは、小さな森の中にある泉。
 淡い光を放つ蛍が幻想的に舞う場所だった。
「綺麗……」
「気に入った?」
 平坦な場所にそっとジレディアを降ろし顔を覗き込む。
「誘ってもらえて、嬉しくてずっとドキドキしてます。ラシュディアが一生懸命探してくれた場所が、気に入らないはず、ないです。
 ラシュディア……ずっと大好きでした。これからも、ずっと……大好きです」
「俺もジレディーのことが大好きだよ。頑張り屋さんなところも、冷静に見えて実はすごく情熱的なところも、全部愛してる。
 だから、この先、どんな障害があっても……俺は諦めないし、絶対に君を奪いに行くからな。覚悟しておいてくれよ」
 ジレディアの告白に率直な思いを込めて言葉を紡ぐ。
「約束、ですよ。ちゃんと奪いにきてくださいね」
「もちろん。そのときになって嫌だって言っても遅いからな」
 小さな体を抱き寄せ、耳元で囁く。
 立会人は天上に瞬く星々と森の木々。そして蛍。
 それぞれが祝福するように煌き、ざわめき、舞い踊っていた。

 棕櫚(ib7915)は明るい橙色の浴衣を身にまとい、髪には涙滴型の翡翠がついた銀製のかんざしを挿して同じく浴衣に身を包んだヒビキ(ib9576)と町を歩いていた。
 提灯やかがり火が暗くなった町を照らしている。
「短冊に願いを……か」
「んー、願いごとか? そうだな……じゃあ、これだ!」
 そう言って威勢のよさを感じさせる筆跡で棕櫚が短冊に書いたのは【たのしいこといっぱい!】だった。
「にしし、ひびきはなんて書いたんだー?」
「【こんな平穏な日々が、長く続きますように】かな? そのためにも、頑張って強くならないと」
「ひびきはまじめだなぁ」
「そんなことない。……蛍、見に行かないか?」
 短冊を飾り終えて二人は川べりを目指しながらのんびりと散策していた。
 蛍が光る理由は何故なのか、諸説ある、そんな話をしながら歩くうちに蛍が舞う川べりへとたどり着いていた。
「おー、いっぱい飛んでて綺麗だなっ」
 蛍の群れの中に入ってはしゃぐ棕櫚にヒビキは精一杯の勇気を振り絞って声をかける。
「なぁ、シェロ」
「ん? なんだー?」
「まだお酒も飲めないし、一人前には程遠いおいらだけど。
 おいら、シェロのことが好きなんだ」
 それだけ、伝えたかった、と。
「前に将来の話をしたとき、シェロの話を聞いてから、ずっと。伝えていかないと後悔するって思ったんだ。
 ……今言わなかったら、機会がなくなる気がして」
 まだドキドキと高鳴る心臓の辺りの生地をぎゅっと掴んで言い切ったヒビキは棕櫚の反応を待つ。
「俺もひびきのこと、好きだぞ?」
 多分、彼女の言う「好き」と自分の言った「好き」は違うけれど。
「……そろそろ、帰ろっか」
 敵と戦うより緊張することもあるんだな、とヒビキは胸の中で呟く。
「なんだ、お腹すいたのかー? なら向こうに屋台があったぞっ」
 いつかちゃんと伝わったらいい。
 それまでは、まだ今のままで――……。

「石鏡……ちゃんと帰るのも久しぶりね。お祭りも久しぶり。楽しみましょう」
 音野寄 朔(ib9892)は満天の星空を見上げてそっと呟きを漏らした。
 夜色のビロードに金剛石を始めとする宝石類を散りばめたような見事な星空だ。
「綺麗な星空ね。流れる星々に願いを託せば本当に叶いそうだわ」
 輝く満天の星空の元、揺蕩う蛍の輝きに巫女として戯れ舞い踊る朔。
 蛍狩りに訪れていた人々から感嘆の声があがった。
(生成姫のこともあったし……)
 気の向くまま踊りながら過去に思いを馳せる。
 人々の想いを、願いを、祈りを込めて。精霊に語りかけるように優雅に。
 過ぎ行く夏に、やがてくる秋が恵み豊かであるように。
 穢れを祓い、人々に加護があるように。
 前を向き進み行く全ての生命に幸福が来たりますように、と。
 朔が舞い終えると拍手が沸きあがった。
 そっと一礼を返して艶やかに微笑む。
(お疲れの方もいるようだし、ちょっとした余興にはなったかしら)
 川べりにもいたもふらさまが視界に入ったので笑みは艶やかなものから温かなものへと変化する。
「せっかくだからお願いしようかしら」
 短冊には【安穏無事】の四文字。
「私も開拓者として頑張らないとね……」
「お見事でしたね」
 和奏(ia8807)はもふらさまに短冊を飾り付け終わったころあいを見計らって朔に声をかけた。
「ありがとう。お祭りの余興になったなら幸いだわ」
「みなさん、楽しそうです」
 短冊を眺めつつ、楽しそうに浮かれ騒ぐ人たちの様子に目を細める。
 人が楽しそうにしているのを見るのが和奏にとっての愉しみであり、短冊に書かれた他の人の斬新な願いごとを見るのが楽しみでもあり……。
 彼自身は短冊には芸事の上達などを祈願する程度だったので時折見かける思いがけない願いごとを目にするのは新鮮で面白いものだった。
「なんとなく空を見上げてしまいそうですが、ホタルを愉しむこともできるのですね」
「意外と人馴れしているというか……結構騒いでいるのに逃げないのね、此処の蛍。精霊の遣いといわれるのも分かる気がするわ」
「星もホタルも、昼間には見えない……気付かないものが普段以上に綺麗に見えるのが夏の夜の楽しみなのかな」
「そうかもしれないわね」
「いきなり声をかけてしまって済みませんでした。自分はこれで……」
「踊り、褒めてくれてありがとう」
「いえ。素敵な時間を、こちらこそありがとうございます」

「蛍、綺麗……」
 柚乃は夜の帳が降りたころに水辺に赴いて蛍を眺めていた。
 人ごみは得意ではないので静かな場所を選んで、一人で夕涼みがてら蛍狩りを楽しむ。

 礼野 真夢紀(ia1144)は秋の豊作を「星に」祈っていた。
「美味しいもの好きで主産業農業の土地の祭祀娘としては豊作のほうが嬉しいですし、開拓者としては兵糧攻めは怖いですし。
 でももふらさまに祈るのは……何か、違う気がするんですよね。原理は分かってますけど、もふらさまって大食らいでのんびりしてるから見ていて幸せは感じますけど尊い労働って点では一番離れてる気がしますので……」
 寝こけているもふらさまをしばらく見たあとで町をぶらぶらと歩く。
 もふらさまは様々な短冊や飾りつけが施されていて見ていて和むのだが自分は星に祈ろう、と。
 屋台を見かけた真夢紀は食べ歩きをしつつのんびりと和みのひと時を過ごす。
「……朋友の皆連れてこれたら、もっと楽しかったんだろうけど」
 そっと呟いた声は喧騒にまぎれて消えた。
 七祭の最中の一晩。それぞれが思い出を刻みながら時は流れていく。
 ――人々の願いは短冊に託され、或いは胸に秘された。その願いが一つでも多く叶いますように――……。