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■オープニング本文 「最近石鏡の巫女見習いたちが不審な行動を取っているとの情報が入った」 ギルド関係者が開拓者たちに仕事を依頼するために口を開いた。 「どうも夜中に魔の森へ向かって歩いていく姿を見たというのだ」 日中の様子も何処かおかしく、勘の鋭い者が見ると禍々しく感じるという。 「アヤカシに操られているのではないか、といううわさが立っていてな。 早急に静めなければならない。……ただ」 ギルド関係者が一度口を閉ざす。 「おそらく、彼女たちは囮だ。彼女達を救い出すために魔の森にアヤカシ討伐に向かった開拓者を取って食らうつもりなのだろう。 そうでなければ操っておいて何度も魔の森に出入りさせたりその姿を他の人に見せ付けたりすることに説明がつかない」 少女たちがおかしくなる前夜、「狐が来る」と言っていたという。 そしてこれは偶然だが狐火のようなものが操られていると思しき少女の身体に入り込んだのを見た者がいる。 「アヤカシは恐らく空腹の度合いがかなり強まっているだろう。 このままでは巫女見習いの少女たちが食われてしまうかもしれん。 危険だが……向かってもらえるだろうか?」 真夜中の魔の森での戦闘となる。 明かりは必須になるだろう。 しかし明かりをつけている、ということは先に敵に発見される可能性を大きくするという事でもある。 操られていると思わしき少女は四人。 少女たちが見たという狐の姿はそれぞれ違い、白い狐、黒い狐、赤い狐、青い狐だそうだ。 一人につき一体のアヤカシが少女を操っているのだろうか。 狐火の色がそれぞれの狐の色と類似していたことから恐らくアヤカシの数は四体。 操られている巫女見習いの少女たちはアヤカシを庇う行動を取らされるが彼女たちは見習いであるため然程の力はない。 少女たちごとアヤカシを倒すというのは出来れば最後の手段にしておきたいところだ。 ギルド関係者も「やむない場合は兎も角、できれば少女たちはすくって欲しい」と頭を下げる。 魔の森に長くいすぎると他のアヤカシまでやってくる危険性がある。 早急に片をつける必要があるそうだった。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
アムルタート(ib6632)
16歳・女・ジ
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟
落花(ib9561)
14歳・女・巫
戸隠 菫(ib9794)
19歳・女・武
ドロシー(ic0013)
21歳・女・武
帚木 黒初(ic0064)
21歳・男・志
桃李 泉華(ic0104)
15歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●狐火に誘われて 夜半、巫女の見習いとして預けられた邸宅から少女たちがふらりふらりと魔の森へ向かい始める。 その後を追う八人の開拓者達の心境は様々だった。 「折角の神の使いも……アヤカシだとすると面倒な事になる訳で……。 頑張って解決します」 「見習いさんも災難だよね〜。ちゃんと助けてあげないとだね♪」 三笠 三四郎(ia0163)とアムルタート(ib6632)が巫女見習いたちの後を追いながら小さく呟く。 「嫌な手を使うアヤカシもいたもんだね。 彼女達は絶対に助けるよ! ただアヤカシを倒すだけが開拓者の仕事じゃない、よね」 アヤカシに強い憤りを見せるのはケイウス=アルカーム(ib7387)だ。 「危険な状況のやうですね。 一刻も早く、お救いしなければ……」 落花(ib9561)は内心の暗い気持ちを押し殺すように呟く。 怨霊に取り殺されるはずだった人生は彼女の精神に暗い影を落としていた。 それでも彼女は「普通の人間」に戻りたいという意思でアヤカシに立ち向かう決意をした。 油断すれば湧き上がる怒りとも憎しみともつかぬ感情を振り払うように首を振って改めて前を見る。 魔の森が、月明かりに朧に浮かんでいた。 「操られているのだったら、解放してあげないとね。 アヤカシを体の中から叩きだす術があるんだけど、それを身に着けるにはもっと修練を積まなければね。今は、今までに身に着けた術と修練の成果を活かして助け出すんだ」 天輪宗の僧侶から名前を授かり長じて武僧となった戸隠 菫(ib9794)は青い目で魔の森に分け入っていく少女たちを眺める。 「操った相手を食べるんじゃく囮にするとは……なんとも食い意地の張ったアヤカシですこと。まあ、そのおかげ? で、被害者0の可能性もあることですし、よしとしましょうか」 松明を片手に最後尾を歩きながら呆れたように言葉を紡ぐのはドロシー(ic0013)は友人の帚木 黒初(ic0064)の袖を引っ張っているが本人曰く怖いからではなく歩き難いからだとか。 「いやはや……彼女たちを操るなら、我々を狙わなくても、一般人でも釣ればいいじゃないですかねえ……。 頭がいいのか悪いのか。 なんにせよ、そういうお馬鹿は長生きできない、とですね。 ご理解頂けましたかいつも食い意地の張ったドロシーさん。 お馬鹿は長生きできませんよ? とはいえ『開拓者』を狙っての事なら、油断もできませんか」 ドロシーに袖を引かれつつ歩く黒初は見かけによらず大食漢のドロシーを引き合いに出した。 「女の子がこんな夜中に魔の森に引き寄せられるなんてなぁ。 操られてるいうし、そら放ったらかしにでけんやろ。 絶対助けたるからなっ。 って、言うたはえぇけど暗ぁてかなんてなぁ。 夜目は効く方やけど限度があるわなぁ」 『男は使うモノ、女の子は護るモノ』と明言してはばからない桃李 泉華(ic0104)らしい台詞だ。 少女たちが足を止めるのと同時に追跡していた八人もその場から歩を進めるのをやめた。 暗がりから白、黒、赤、青の狐が姿を見せる。 巫女見習いの少女たちの確保をするメンバーの一人、三四郎が大地を響かせるような大きな雄叫びを上げて彼女たちの注意を引く。 咆哮に少女たちが振り返るのと同時にアムルタートがナハトミラージュを発動、少女たちをすり抜けて白い狐の口に銃撃を叩き込むことで距離を強制的に開かせる。 「ふふ、やらせないんだよ♪ きみの相手は私だからね!」 鞭を振るいながらトランス状態となったアムルタートは舞うように狐火をかわしていく。 正確かつ素早い攻撃に白い狐の毛皮が赤く染まり始める。 苛立ったように狐が放つ火は彼女に掠めもしない。 狐火に備えて皆を援護するのはケイウスの霊鎧の歌だ。 自身を含め八人の身体が淡く光り、抵抗力が上昇する。 操られた巫女見習いたちが狐を庇うために木の枝を持ってふらふらと開拓者たちに迫る。 ドロシーは戦闘が始まるのと同時に松明を思い切り地面に突き刺し固定させていた。 矛は腰にさしたまま、両手の自由を確保する。 「あら可愛らしいお嬢さんですこと……お姉さんちょっと頑張っちゃいますわよ」 妨害しようとする相手の足を払って転倒させる。 転倒した少女を一回起こし、後方へ押しやり、狐との距離を確保した。 ケイウスはまどろみを誘うゆったりとした曲を奏でて巫女見習いの少女たちを眠らせた。 「大丈夫、絶対助けるよ。だから、今は少しだけ眠ってて」 かくり、と崩れ落ちた少女を後ろに庇いケイウスは戦況の把握につとめる。 その間も子守唄は紡がれ続けた。 眠りに落ちた少女に落花が近づき解術の法で狐の呪縛から解き放つことを試みる。 解術の法が効いたのか、唇が僅かに開かれ人魂に似た狐火がふわりと宙に舞う。 狐火は暫くふわふわと宙を漂っていたがやがて天に昇るようにしながら消えていった。 「有効のやうでございますね。皆さん、しばしお待ちを」 他の少女たちにも解術の法をかけ、狐の呪縛から解き放っていく。 「ケイウスさん、子守唄はもう大丈夫そうでございます」 少女たちへの対応が終わったら後は再度操られないよう狐を見張ることと怪我人の手当てが落花の仕事だった。 ドロシーは少女たちに大きな怪我がないことを確認して念のため縄で縛り、正気を取り戻した時危険がないようにしておく。 操られている時の記憶が何処まで残るかは疑問だが夜の、しかも場所は魔の森だ。 今は戦闘中でもある。 下手に動かれると自分たちだけでなく少女たちのほうも危険であることは明白だった。 折角解術の法を使って正常な状態に戻したのにまた狐に操られてしまう可能性もある。 青い狐と戦っているのは菫。 木の陰に隠れての不意打ちは初撃ということもあり綺麗に決まった。 三四郎の咆哮に少女たちだけでなく狐たちも若干気を取られたことも大きかったかもしれない。 武器を掲げて瞑目し、同時に活性化した火炎を纏った精霊力が幻影となって出現すると青い狐を襲った。 その後は武器に精霊力を纏わせて攻撃する霊戟破と通常攻撃を織り交ぜて確実にダメージを与えていく。 狐火が肌を焦がしたが菫は止まらない。 落花の神風恩寵が優しく菫を包み込み傷を癒した。 黒初は赤い狐と一戦交えていた。 心眼で赤い狐の動きを察知して納刀のまま潜み、他の開拓者たちがそれぞれ狐と戦い始めたのにタイミングを合わせて居合で斬りかかる。 操られていた少女たちはケイウスが眠らせ、落花の解術の法で憑依を解かれ、ドロシーが安全なように措置をとった。 三四郎が見張ってもいる。 「さて……食い意地のはったお馬鹿さんはあの世で満腹になれますかね」 赤い狐が反抗するように鋭い爪で引っかくがさほどのダメージには至らない。 「おねむの時間ですよ」 鮮やかな一閃が煌くと赤い狐の首が落ちた。 巫女見習いの少女たちが救出されたころ、泉華は黒い狐と対峙していた。 正面から力の歪みを放ち、狐の周辺の空間を歪ませることで揺らぎと共に狐の身体が捻られる。 ボキリ、と嫌な音が小さく響いた。 空間の歪みに耐え切れず狐の足の骨が折れた音だった。 「脚へし折ったった動けんやろて、遠慮なぁ首落とさせてもらおてなぁ♪」 女の子の敵には容赦せんで、とにこりと笑って告げて黒い狐の首を落とす泉華。 「女の子人質とはえぇ度胸やないの。絶対殺ったる……って、首落とす前に言うとくべきやったかな?」 白い狐と青い狐もそれぞれアムルタートと菫によって倒されていた。 「皆無事? 女の子は怪我しとらん? 巫女さん等も大丈夫やろか?」 矢継ぎ早に質問を投げかけるとそれぞれ無事だという意思表示が返ってきた。 「後は家に送って仕事達成ですかね」 「うぅん……」 タイミングよく少女の一人が眠りから目覚める。 「此処、は……」 「私たち……どうしてこんなところに……」 「きゃっ……!?」 小さな悲鳴を上げる者、縛られていることに気付いて怯える者、まだ意識がはっきりしていないのかぼんやりと辺りを見回す者――……。 反応はそれぞれだったが共通しているのは狐に操られて夜毎魔の森を訪れていた記憶がないことだった。 「寒いでしょう? これを羽織って。送るから。あ、暗いから足元に気をつけてね」 人さらいやアヤカシと思われては連れて帰るのに苦労する、と考えた三四郎が状況を手短に説明する中、菫が事前に用意していた外套を手渡すと少女たちは礼を言って外套を羽織った。 冬が近いこの季節、短時間とはいえ夜着一枚で眠っていたのだ。 相当身体は冷えていることだろう。 実際少女たちはカタカタと震えている。 歯と歯がぶつかる小さな音が夜の魔の森に響いた。 「松明にあたっても暖が得られるか分からんし……温石かなにか用意したほう良かったかなぁ。巫女さんら震えてて可哀想や」 「巫女の見習いだというのに何をしているのかしらまったく。……でもまぁ、無事で良かったですわ」 ドロシーの一言に少女たちは俯いて謝罪したあともう一度お礼を言った。 「それじゃあ、帰ろうか。きっと皆心配しているよ」 ケイウスが優しく言葉をかけると頷きが返ってくる。 「……無事、全ての方を救う事ができまして、ほんによろしゅうございました。ええ、ほんに」 まだ言葉通りに喜ぶことが出来ない落花は、けれど後味が悪くなかったのでいいか、と自分を納得させた。 「お師匠さんに一応みて貰って下さいね。後遺症などがないとも限りませんから」 力に自信のある開拓者達が少女を背負って魔の森を後にする。 月は少しその位置を変えて時間の経過を示していた。 少女たちが出てきた邸宅に送り届けて家の者にも事情を説明すると丁重に礼を言われる。 「風邪を引かないように。お大事にね」 アムルタートの天真爛漫な笑顔に、それまで怯えと寒さで顔を強張らせていた少女たちはようやく、ぎこちなくだが笑顔を返したのだった。 「さて、帰りましょうか」 「そうですね……精神的なダメージは……お師匠さんにも言いましたが洗脳分も含めてかなりの物なのでそれだけは注意したい方がよさそうですね。 ……まあ、サムライの本分は戦う事だけではなく、『サブラウモノ』であり、人の傍にいて人を守ってこそ成し遂げられるという思いを此処で新たにできれば……と思います」 「三四郎は真面目だねぇ。人生、ノリとその場の勢いと直感で生きてる私も見習うべきかな?」 アムルタートの言葉に小さく笑いがこぼれる。 「真面目すぎるのもどうかと思うけれど……奔放すぎると周りが苦労しそうだね」 「私にはよく分かりません……」 「人それぞれって事でいいんじゃないかな?」 「それより早く帰りませんこと? いい加減夜も遅いですしなにより寒いですわ」 「そうですね。あまり此処に長居してはあらぬ疑念を招きそうです。少女たちの誘拐犯、とか」 黒初の言葉に全員が一瞬硬直し、別れの挨拶もそこそこに自分の住まいに向かって歩き出した。 ギルドへの報告は日が昇ってからになるだろう。 巫女見習いの少女を操って開拓者をおびき寄せようとした空腹の狐は黒初の言ったとおり空腹を満たせないまま命を落とした。 けれど策におぼれてくれたからこそ四人の命を救うことができたのも事実だ。 今回は食い意地の張った狐に感謝するべきだろう、と開拓者達は己を納得させたのだった。 |