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■オープニング本文 ●破壊と搾取のために 「近くの村から救援要請がありました。村人の避難は済んでいるのですが……アヤカシ、羊頭鬼が五体村に居座って破壊活動を続けているようです。 切れ味よりも重さに勢いを付けて攻撃するタイプの大剣や斧など鈍器に近い武器と何処で入手したのかは不明ですが防具も身に付けているのでもしかすると持久戦になるかもしれません。 角にも気をつけてくださいね。 村の方の話によると家屋はほぼ全滅だそうです。 ……無理やりいい方に考えようとするなら避難が済んでいてかつ家屋も破壊されているので気兼ねなく暴れられることくらい、でしょうかね。 退治に向かっていただけますか?」 村人の一時の避難場所の確保や情報整理をした後すぐ駆けつけたのだろう、いつものおっとりした雰囲気が宮守 瑠李(iz0293)の顔から消えていた。 「冬場でなかったのが幸いですが春先は天気が崩れやすいですからね……ある程度家屋の復旧の目処を付けられれば村の方も安心できるんでしょうが……。そちらももし余裕があったらお手伝いして頂けますか? 戦いの後の復旧作業は厳しいようであれば此方からは無理にとは申し上げませんが……」 アヤカシにも困ったものですね。そう言って憂い顔で青年はずり落ちた眼鏡を押し上げた。 「羊頭鬼たちは昼間はどこかに潜んでいて夜になると残党狩りと破壊を再開しているようです。光源がないので明かりの用意をお忘れなく」 広げた地図にはアヤカシの出た村の場所に印が付けられていた。 |
■参加者一覧
九竜・鋼介(ia2192)
25歳・男・サ
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
設楽 万理(ia5443)
22歳・女・弓
レイア・アローネ(ia8454)
23歳・女・サ
十野間 空(ib0346)
30歳・男・陰
明王院 浄炎(ib0347)
45歳・男・泰
将門(ib1770)
25歳・男・サ
華表(ib3045)
10歳・男・巫
遠野 凪沙(ib5179)
20歳・男・サ
日依朶 美織(ib8043)
13歳・男・シ
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓
ピュイサンス(ic0357)
12歳・女・騎
黎威 雅白(ic0829)
20歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●荒らされた村で 田植えなどが控えているこの時期に羊頭鬼に襲撃された村は近所に避難した村人たちが一度戻ってきてはいたが廃村のように荒れていた。 「俺はサムライのルオウ! よろしくなー。ヤギどもに目にもの見せてやろうぜい!」 ルオウ(ia2445)が意気消沈している村人たちに開拓者であることと村の窮地を救いに来たこと、アヤカシを倒したあとは復興を手伝うことを告げると沈んでいた村人たちの顔にわずかに光がさした。 「依頼はこういう分かりやすい方がいいわね。羊頭鬼絶対殲滅夜露死苦!!」 設楽 万理(ia5443)が淑やかな外見にそぐわぬ力強さで殲滅を誓う。 「ルオウ、気を抜くなよ」 レイア・アローネ(ia8454)の言葉にルオウは「分かってる」とうなずきを返した。 「さて、一時帰省を終えてギルドに顔を出してみれば 種蒔きなど耕作の重要事案が目白押しの時期に、避難を強いられている人達の悲痛な声が届いているとは……。 防具に身を固めた相手……それも視界の悪い夜間ともなれば、多彩な術の補助が仲間の助けにもなるかもしれませんしね」 冷静に戦略を張り巡らせるのは十野間 空(ib0346)だ。 「ふむ、作付を成さねばならぬ時期に故郷を後に避難とは……何とも口惜しかろう。 日中は身を潜め、夜間……視界が利かぬ時間帯を狙い、更に武具を纏う敵となれば、一筋縄ではいかぬかもしれぬが早々に撃退し、一日も早く故郷の土を踏めるようにしてやりたいものだ」 空の言葉に明王院 浄炎(ib0347)も重々しく頷いて同意を示した。 「とりあえずかがり火の設置だな。せっかく村の人にも来てもらったし地形の把握もしておきたいところだ」 将門(ib1770)が荒れた村を見て手の施しようのない廃材はかがり火の材料にしてもいいかと村人に尋ねる。 「篝火を担当しよう……篝火だけに『篝の係り』(かがりのかかり)……ってねぇ……ふむ、駄洒落としてはちょっと厳しいか」 『駄洒落はつまらないからこそ駄洒落である』という信念を持っている九竜・鋼介(ia2192)がぼそりと呟いたが笑わせようという意図はないため無反応にも曖昧な笑みにも気にした様子はない。 「村の方々が安心して帰宅できるように、頑張ります」 華表(ib3045)が反応に困っている村人に静かに告げ、頭を下げた。 「むむむぅ! みんなのおうちを破壊するなんて許せません! ボクたちで退治して、雨季に備えないと!」 ピュイサンス(ic0357)が幼い顔に怒りを浮かべながらかがり火の準備を手伝いに向かった。 「地理を教えて頂けますか? 夜間の戦闘になると思いますので足場の不利を少しでも緩和させたいんです」 遠野 凪沙(ib5179)がかがり火の設置の手伝いに向かわなかった村人――女性や子供たち――に声をかける。 希儀の合戦と、過去の依頼報告書で情報収集しつつ、実際に歩いてみて地理を確認していた日依朶 美織 (ib8043)は近くに村人がいないことを確認してそっと呟く。 「短時間の飛行能力に、人並みの知性を持つ中級アヤカシですか……。厄介ですね」 篠崎早矢(ic0072)は別の場所で羊頭鬼が出没しそうな辺りに罠伏りを使用してばれにくくした、スピアトラップやボウトラップ、くくり罠、下を通るときに引っ掛かりが取れて落ちてくる落下罠など狩人の定番を出来るだけ仕掛けることにしていた。 「上手く引っかかってくれれば戦闘が楽になるんだが……」 「よくもまぁこれだけ暴れてくれたよなぁ……さっさと安全確保してやんねぇと」 黎威 雅白(ic0829)が高所を選んで探索を行う。 「もしかしたら昼間に……と思ったがアヤカシは殆どが夜行性だしな。やっぱり見つからないか」 夜の作戦に支障が出る前に集合場所へ戻るため一つ息を吐いて歩き出す。 ●襲撃 村人たちを避難場所へと送ったあと、かがり火で照らされた村に開拓者たちは身を潜めていた。 静かな村内にかがり火の火が爆ぜる音が響くだけの時間はそれほど続かなかった。 おそらく飢えていたのだろう、火を起こした人間の血肉を求めて羊頭鬼たちがやってきた。 「よし、行くぞ」 盾を構えながら敵に途中で仲間に合図を送ったあと焙烙玉を投げ付け、焙烙玉の爆発の隙に一気に接近すると二天と一閃を先頭の一体に叩き込む鋼介。 「村を滅茶苦茶にしたツケ……払ってもらうぞ!」 焙烙玉を使い切った後は盾を構えながら一気に接近し、ある程度接近したところで盾を敵に投げ付け、一瞬視界を奪った隙に空いた手で長曽禰虎徹を持ち再び二天、一閃。それに加えて焔陰を救清綱で繰り出す。 「俺とかたたかうっきゃできねーかんなー。でも戦いなら本領発揮できるぜ。サムライの刀は鞘に入ったまんまだって油断すんじゃねえよ! 遅いだろうけどさ!」 ルオウが鋼介に続き突出する。 「1匹たりとも! ぬけさせねえかんなあ! 覚悟しやがれぃ!!」 咆哮で手近な相手をおびき寄せて後衛に害が及ばないよう配慮する。 羊頭鬼の一体が咆哮に引き付けられて至近距離まで近付いてくると蜻蛉の構えからタイ捨剣で一刀両断にした。 万里はかがり火の明かりなどを頼りに狙いをさだめ、味方の後方から弓で援護射撃を行った。 奇襲に備えて鏡弦を行いながらの戦いだ。 「身体を張ってでも後方にはいかせん!」 飛行して後方の援護射撃組を先に仕留めようと考えた一体を真空刃で撃ち落すレイア。 「ルオウ! とどめを!」 「っしゃぁ!」 レイアの呼びかけにすぐさまルオウが応じ、痛めつけられていた羊頭鬼の頭が落ちる。 アヤカシは暗がりの中で闇が凝ったように一瞬辺りを暗くしながら瘴気へと還っていった。 夜光虫で視界を確保していた空は敵が突進を得意とすることから結界呪符「白」で敵の進路を妨害、足止めするなどの形で前衛の支援を行っていた。 また、前衛たちの負担軽減を図るため蛇神での攻撃支援も行った。 柳生無明剣と新陰流の斬撃を織り交ぜながら要所要所で自身の俊敏さを上昇させる隼襲を使って羊頭鬼の一体を打ち倒したのは将門だ。 勢いの衰えたアヤカシたちの突進に対して大柄な体格を生かした間合いで浄炎が暗勁掌によって内部破損を狙う。 八尺棍「雷同烈虎」の清浄な気を纏った一撃が邪な瘴気を払ってまた一体の羊頭鬼が殲滅された。 打撃を受けて傷ついた仲間を癒すのは華表の神風恩寵だ。 風の精霊の力を借りた爽やかな風が戦場を吹きぬけ傷を癒して生命力を回復させる。 「頑張ってください……あとちょっとです……」 凪沙が華表を庇うように前に立ち、直閃による攻撃を仕掛ける中、昼間仕掛けた罠によって傷を受けた羊頭鬼を火矢と火をつけていない普通の矢である夜矢を織り交ぜた弓術で早矢が射抜く。 美織は松明をもって夜闇を照らしながら駆け回り、自身は暗視で敵を見定めて奔刃術によって高められた俊敏性を活かし移動と攻撃を同時に行っていた。 「ボクの鉄腕が光って唸る、悪を許すなと輝き吼える!」 オーラドライブによって攻撃力、防御力、抵抗力を上昇させたピュイサンスが敵の突撃角を掴み受け止めてからのゼロ距離フルドライブ鉄腕スマッシュ。 三体目の羊頭鬼が耐え切れずに瘴気に還った。 「おーっと、そう簡単には殺らせねぇぜ?」 黎威が薄く笑ってダガー「ダークデュアル」で羊頭鬼の一体に斬りかかった。 攻撃の瞬間、刃が一瞬だけ黒く光る。 「これでとどめだ!」 鋼介が怒号とともに柄に朱房と数珠が取り付けられた大ぶりな太刀「救清綱」を振り下ろすと宣言どおりその一撃が致命傷となって残るアヤカシはあと一体。 「如何に守りを固めても、心の隙間は埋まりませんよ」 空が静かに呟いて放った蛇神によってその最後の一体も形を保てなくなり闇に溶けるように消えていった。 「よーっし! 作戦終了。あとは朝まで待って村人迎えに行って片付けだな!」 「お疲れ様でした」 後衛の支援攻撃と戦闘中の回復の手際のよさによって戦闘後に改めて治療が必要なほど大きな怪我を負った者は幸いにもいなかった。 「おにぎりあるけど食べる? 復興手伝うならまだまだ『腹が減っては戦は出来ぬ』ってやつだよ。あ、飴玉もあるよ」 ピュイサンスが無邪気に言っておにぎりを頬張り始める。 義腕の影響なのか生来の性質なのか見た目以上に大食漢で成人男性の倍の量をペロリと平らげてしまう彼女の用意していたおにぎりは何処にしまっていたのかと突っ込む気も失せるほど大量にあった。 呆気に取られてピュイサンスが食べるのを瞬きしながら見つめるもの、礼を言ってお相伴に預かる者、どうしようか悩む者、食事より眠気が勝って適当な場所で仮眠を取り始める者……反応は様々だったが顔には一仕事終えたあとの充足感があった。 日の出まであと数刻。 日が昇ったら次の仕事である村の復興作業が待っている。 思い思いの方法で戦いの疲れを少しでも抜こうとする開拓者たちを月明かりと星明かり、かがり火の火が照らしていた。 ●新しい息吹を 日の出とともに起きだして近くに避難していた村人たちにアヤカシの討伐が済んだことを伝える。 顔や口をゆすいだあと村人たちを連れて戦いの場所となった村に戻ってきた。 「この柱、もって行くのですよーそーれ!」 力仕事が得意な者は村の男たちと一緒に柱を建て直したりかがり火の後始末をしたりする。 「おーっし! 片付け始めんぞー」 瓦礫を避けて新しい家の土台作りや木材の準備をするのは黎威だ。 彼は『黎威』とだけ名乗り、名前は教えないし呼ばせなかったが人当たりはいい。 早矢は特別力が強いわけではないから、とこまごました仕事を請け負った。 「アヤカシを倒してくださった上に村の復旧まで……ありがとうございます」 開拓者が傍を通ると村人は必ずこういって頭を下げた。 「いいんですよ。これから農作業も本格的に始まるでしょうし、復旧の手は多いほうがはかどるでしょうから」 凪沙が力を合わせて瓦礫の撤去を行いながら静かに微笑む。 「皆さんの生活を守ることも開拓者の大切な仕事ですし」 狭いところや細かい箇所の修繕を受け持っていた華表も同感だったのか聞こえてきたその言葉に小さくうなずく。 「手際がいいんですね……」 「野戦築城で慣れている」 感心したような村人に短く答えたのは将門だ。 修理不可能な家を解体して出来た部材を用いて一戸でもおおく居住可能になるように修繕していく浄炎。 日曜大工から丁寧で細やかな細工物まで手がけるその腕は確かなものであちこちから感嘆の声があがった。 空は家屋の建て直しが計画的に進むように設計図を引いたり地図を引く際に気になっていた、荒らされた田畑、用水、水車に注目し、水糸、水盆、棒等を使って勾配を図り、灌漑用水の補修の手引きや、水車等の手直しについて助言を行って村人たちから感謝の言葉を受けた。 精力的に働いたこともあって日暮れまでにはかなりの家屋がとりあえず人が住める状態まで持ち直した。 その日最後の作業を終えて村人たちから歓声が上がる。 「あとは私たちで農作業の合間に修繕を進めていきます。本当にありがとうございました。今日はゆっくり休んでいってください。……襲撃があったあとなのであまりおもてなしができないのが心苦しいのですが……戦闘と復興作業をこなしてくださった方々にみながすこしでもお礼をしたいと思っています」 「狩りに行った時に山菜も取ってきたんです。お食事と粗末ですが寝床くらいはご用意できますので……どうか今日は泊まっていってください」 村人たちから口々にそういわれて夜道を帰るつもりだった開拓者たちもここで断っては却って失礼だろう、という結論に至り歓待を受けると答える。 春の宵に新しい息吹を祝う宴が始まった。 成人した者たちには多少祝い酒が振舞われ、野趣溢れる料理で饗応を受ける。 「村人たちに活気が戻ったようで何よりだ」 レイアは焚き火を囲む村人を眺めながらすこしだけ表情を緩める。 「そうだな。人間、元気が一番だ!」 昼間「ヤギが来る前よりもっと住み易くなる出来る様にがんばるぜぃ!!」と張り切っていたルオウも賑やかな宴の様子を見て満足げだ。 羊頭鬼が荒らした村の爪あとは浅くない。 けれど活気がある限り新しい息吹は何度でも吹き抜ける。 「人間、諦めちまったらそこで終わりだけどやり直す気力さえ残ってりゃ案外タフに生きられるよな!」 「……そうだな」 アヤカシから人々を守るために強くなりたいと日々修練に励んでいる鋼介にとってもこの笑顔を守れたことは嬉しく、誇れることだった。 「アヤカシを退治しても村の惨状に村人たちが生きる気力をなくしてたら本当の意味での助けにはならないからな。根性ある人たちでよかった」 陽気な笑い声が宴をとり行っている広場から絶えたのは夜も大分更けてからのこと。 村人たちは久しぶりに我が家に帰り、開拓者をささやかにもてなしてそれぞれが眠りについたのはそれからさらにすこし後のこと。 翌朝、名残を惜しみながら絶えない感謝の言葉と歓声に見送られて一行は報告のために帰路についた。 日々アヤカシと戦い続ける開拓者にとって救われた人たちの笑顔は生きるための導となっていくのだろう。 そして救われた側もまた、その勇姿を胸に刻んで導となすのだろう。 朝日が、生まれ変わろうとする村を祝福するように燦々と降り注ぐ。 春から初夏へと変わろうとする季節。 また一つ、絆が生まれた。 これから先再び見える事はなくとも、その絆はずっと続いていく。 村が存在する限り。村人と開拓者が生きている限り。ずっと、ずっと。 時期が来れば雪が溶け、花や草が芽吹き、新緑が木漏れ日を作り、緑が紅葉して葉を落とし、再び雪が舞い落ちてくるように。 人と人との絆は遠い昔から時代を織り成す糸の一本として続いてきたのだから。 |