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■オープニング本文 ●星は旅人の道標 「私の故郷で星見のお祭りがあるんですよ。宿場町ですから旅人が大勢集まっては次の目的地へ去っていくんですが……星は方角を確かめる重要な要素になるとかで。昔から今の、暖かくなってきた時期に星を眺めながら旅の安全を祈ったりする祭事だったんですが最近は宴会色も強くなってきていましてね」 まぁそれはそれで賑わうのでいいんですが、と宮守 瑠李(iz0293)が苦笑交じりに続ける。 「その星見の祭りを執り行ってきたのが私の実家なんですね。それで久々に帰って来い、と連絡があったので折角ですから皆さんもお誘いしようかと思いまして。 宿星の塔という塔の頂で一晩星を見ながら飲食したり語り明かしたりする、取りとめのないお祭りなんですが宜しかったらご一緒しませんか?」 長く家を空けていたので一人だと若干帰り難いものがありまして、と僅かに苦笑を深める瑠李。 「昼間は市が出て賑わいますよ。休憩どころは私の実家でよければご利用下さい」 たまにはアヤカシとは関係なく一夜を開拓者の方々で過ごすのもいいでしょう?と言って瑠李は言葉を締めた。 星が見えやすいように祭りが執り行われるのは新月の晩。 未成年の飲酒喫煙は禁止だが振舞われる料理には酒以外の飲み物も当然含まれるので楽しい一夜になることだろう。 |
■参加者一覧 / 星鈴(ia0087) / 芦屋 璃凛(ia0303) / 羅喉丸(ia0347) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 九法 慧介(ia2194) / 雪刃(ib5814) / リーシェル・ボーマン(ic0407) / ヴァレス(ic0410) / リシル・サラーブ(ic0543) |
■リプレイ本文 ●満天の星空の下、何を願い何を誓うのか 自分の生まれた宿場町の近くに星見をして一晩を明かす祭りがあり、ちょうどその時期だから良かったら一緒に、と宮守 瑠李(iz0293)が開拓者たちを誘ったのは花冷えが終わろうかという時期の、新月の日のことだった。 集まったのは九人。 「お集まり頂きありがとうございます。昼間は市も出ていますが一晩お祭りは続くので寝ておくのもいいかもしれませんね。休憩所として私の実家を押さえておきましたのでよろしければご利用ください」 星を見るための塔は町から少し離れているらしいが昼間に行っても特にすることはないので一同は宿場町に立ち寄る運びとなった。 「星を見るお祭り? 珍しいね。この時期のお祭りって言ったら花見が多いもんねぇ……」 礼野 真夢紀(ia1144)がことりと首を傾げる。 「星見の祭りって、売ってるものに特色ってあるのかしら?」 昼間の市も既に活気のあるやり取りの声や呼び込みが聞こえてきて興味をそそられる。 「そうですねぇ……星座版や星にまつわる神話の本、夜明かしのお供の食べ物や飲み物。星をデフォルメした柄の衣類なんかも置いてあるようですよ」 もちろん、普通の旅雑貨も。と瑠李は穏やかに笑って告げた。 「食べ物があると体が暖まるし、徹夜は案外お腹が空くからね。せっかくだから食べ物を中心に買っていこうかな。宿場町ということは見たことのない料理に出会えるかもしれないし」 そう言ったのは最愛の女性と参加を決めた九法 慧介(ia2194)だ。 「冷めても大丈夫そうなのが良いかな。折角だし美味しく食べたいし。日持ちしそうならお土産にしてもいいかも」 慧介の最愛の女性である雪刃(ib5814)はふかふかの尻尾を一度振った。 「昼間は一人で市を練り歩こうっと♪ リーシェル、後でね♪」 ヴァレス(ic0410)が上機嫌に同伴者のリーシェル・ボーマン(ic0407)に挨拶すると活気のある声が響く市に向かって歩き出す。 「ヴァレスは市中を探索する様だし、宮守殿の実家の台所を借りれるなら、星見の間に食べる物を作ろう」 瑠李に渡されていた地図を見ながら宿に向かい、台所を借りられるかと聞くと快諾の返事があったのでリーシェルはハムや野菜、チーズや魚のフリットなどを乗せた多様なブルスケッタを調理することにした。 「喜んでくれればいいが……」 「星読みの……。 ……故郷を、思い出しますね。 私、こちらの文化には詳しくなくて……。 遠く離れた存在だった儀で、同じ祈りに出会えて……何だか不思議で、嬉しく思います」 アル=カマル出身のリシル・サラーブ(ic0543)は祭りの内容に故郷を思い出してそっと青空を見上げる。 太陽の光に遮られて今は星の姿は見えない。けれど。 「……繋がって、いるのですね……」 口元に仄かな笑みが浮かんだ。 市を覗いてみよう、とリシルは思う。まだ目新しいものばかりだから何か記念になりそうなものがあれば買うのもいい。 「星が出るまでのんびりしよか?」 「……せやね」 視力が低下しきる前に、星空をその目に焼き付けたい。 そう願った芦屋 璃凛(ia0303)と願われた星鈴(ia0087)は瑠李に宿の場所を聞いて夜まで休むことにした。 大分落ちてしまった視力は星を捉える事ができるだろうか。 暖かい日差しの中でそんな考えに捕らわれ瑠凛はぶるりと身を震わせる。 星鈴はそんな相棒の背をゆっくりと撫でた。 「……大丈夫や。覚悟は、できとる」 「ん、ゆっくり休んだ後は、お祭りやからな。いい思い出になるで、きっと」 市ではヴァレスが鼻歌を歌いながら広げられた品物を見て歩いていた。 「そだ、世話になってるし、リーシェルに何か買っててあげよ♪ どれがいいかな……ぁ。 指輪、か。似合うかな?」 小さなルベライトを翼型のシルバーで囲んだ装飾のリングを購入して包んでくれるというので包んでもらう。 包装紙は天儀の星空を描いたものだった。 「あ、これ美味しそうじゃない?」 「本当だ。温かいうちに食べた方がよさそうなものは昼食にまわそうか」 「買い物が終わったら少し寝ておく?」 雪刃の問いかけに慧介は少し考えて頷く。 「途中で寝ちゃったらもったいないし、そうしようか。あ、でもすこし町を散策したいかな」 「分かった」 「へぇ……結構色んなもの売ってるのねぇ。宿場町だから物が集まりやすいのかしら」 おまけするよ、と言われれば素通りするのももったいなく感じてしまう。 真夢紀は結局ほとんどの店をじっくり見学し、時間相応の収穫を得たようだ。 ●満天の星空の下で 「青銅剣士の時にも聞いた祭りがどんなものなのか気になったので参加させてお誘いに乗らせてもらった。……町総出の行事なのだな」 「えぇ。古くから伝わる行事だそうです。昔はもう少し畏まっていたようですけれど」 羅喉丸(ia0347)に故郷の危機を救って貰った礼を言った瑠李はその後すこし彼と話をすることにした。 「星か、拳士は宿星に導かれて歩むとも聞くが、俺の宿星はどこにあるんだろうな。 いや、分からぬからこそいいのか。道を探し、足掻く。その先にこそ答えはあるんだろうな。 やけに饒舌だな。酒に酔っているようだな。 だが、たまにはこんな夜もいいか。こんなにも星空がきれいなのだから」 「ふふ、もしかするとお酒にではなく星に酔っているのかもしれませんね? あぁ……宿星といえばこの塔も『宿星の塔』というのだそうですよ」 「星に酔う、か……確かに満天の星空は人を惹き付けるなにかがあるな」 「私も影ながらアヤカシに脅かされない世界にするために尽力させて頂きますので……何かあった際はまたお仕事をお願いしますね。 ……おっと、失礼。アヤカシには関係なく一晩を過ごすといったのは私ですのに、つい仕事の話に」 「宮守さんは仕事熱心なんだな」 「さて、どうでしょう?」 二人の青年は微笑しあって互いの杯に酒を満たした。 途中で寝てしまうかもしれないということを考えてテュルク・カフヴェスィと湯沸し用に七輪、念の為毛布と自作の甘味として花見団子を持ち込んだ真夢紀は遮るもののない、何処までも広がる星空を飽くことなく眺めていた。 手に持った器からじんわりと伝わるテュルク・カフヴェスィの温度が心地よい。 「帰ったら星についての物語、読んでみようかな。星座一つ一つに物語があって、それが繋がっていくって面白そうだし」 振る舞いの料理も楽しみつつ此方からも団子などを出したりして夜は過ぎていく。 「……あの辺りはもふら様かなぁ。うーん、昔の人は想像力豊かだね」 雪刃と星を眺めながら慧介は一晩語り明かす算段だった。 話題は星座にちなんで、あの星の並びは何に見えるか、流れ星が流れたら願い事を何にするか、など。 「慧介なら、何を願う?」 星座について教わりながら雪刃がそう尋ねると慧介は静かに笑って即答した。 「願い事? 二人とも健康で居られますように、かな」 それで、ずっと一緒にいられますように。 雪刃の耳元で彼女にだけ聞こえるように囁く。 願いごとは三回唱えるには長いから三回分込めて祈ることにして。 「雪刃は?」 「私は、やっぱりもっと一緒に……うぅん、もっと慧介の事を知れるように、かな。今でも好きだけど、それ以上に……」 「そっか」 「ねぇ、慧介。毛布持ってきてくれるって言ってたけど、私の尻尾も毛布と変わらないくらい温かいと思うよ?」 巻き付けるように寄り添って二人で笑いあう。 昼間作ったものを広げてヴァレスと一緒に星の下の晩餐。 しかしリーシェルにははっきりさせておきたいことがあった。 「ぇ、リーシェルも作ってくれたの? うわぁ、ありがとっ♪ じゃあ飲み物とってくるよ♪」 「待ってくれ、ヴァレス、キミは……私の事を如何……思って居るのだろう?」 「ん? リーシェルをどう思ってるか? そりゃ勿論大好きだよ♪ 騎士団の中では一番仲いいんじゃないかな♪ と、これも頂こうかな♪」 「いやそういう意味じゃなくて、もぅ……」 「ん、おいしー♪ リーシェル料理上手だね!」 「……ほら、まだあるよ」 不貞腐れかけるリーシェルだったがヴァレスの笑顔にすこし機嫌を直して。 「あ、これ市で見つけたんだー♪ リーシェルにはお世話になってるし、似合いそうだったから♪ 受け取ってくれる?」 差し出された小さな箱にリーシェルは首をかしげる。 「これ、なに?」 「指輪だよー♪」 「指輪!?」 「ん? 何か問題あった?」 「ない……けど……。……サイズ、あうかな……」 「あ、そっか……サイズあってなかったら大変だよねぇ……」 しょぼん、としたヴァレスに包みを開けていいかと聞いて包みと箱に守られた指輪を取り出す。 「大丈夫、ぴったり」 「ほんと? よかった〜♪」 嬉しそうに笑うヴァレスを見てお返しは八十八星座物語にしよう、とリーシェルは思う。 彼がこの日のことをいつでも思い出してくれるように……。 ヴァレスが食べるのに夢中になってしまったため、今日は二人の関係はまだ現状維持のようだった。 「相棒んお願いや……きかへんわけあらへんやろ」 「おおきに……」 静かに時間が過ぎ、その間に璃凛の視力はとうとう眼鏡を手放せない段階まで落ちてしまう。 「一晩でこないに症状進むなんてな……」 塞ぎこむ璃凛の頭を星鈴が静かに撫でる。 「うち……、ダメかも……頭は痛いし、傷が凄くうずくし、目が燃えるように熱い」 この傷がアヤカシの怨念で、視力をいつか奪われることを知っていた、と宿に着く前に璃凛は話していた。 「……上、みてみぃ」 「……綺麗、やね」 広がるのは星の海。 「あーぁ、もう少しこの目だけで見ていたかったのにな」 残念そうではあるが先ほどまでの痛いほどの苦痛の色は薄らいでいた。 視力の低下を受け入れあらたな旅路を模索し始める決意が芽生えたためだろうか。 「ねぇ、うちの似合ってる……よね?」 「「……かわええと思うで。……なんやったら、今度そん眼鏡に似合うん服でも探しん出かけよか」 「ん……」 安心したようにもたれかかる瑠凛の頭を、星鈴はもう一度撫でるのだった。 「何があっても……うちは傍にいるから。安心しぃ」 リシルは参加者から旅の話を聞いていた。 宿場町の祭りということもあって旅人も大勢参加している。 「そうですね……大したものではありませんが、私からは舞を。 ――この地を訪れる人々に、星々の導きがあらんことを」 そう言って静かに舞を踊る。 舞が終わると場の雰囲気を壊さないように声量を下げた、けれど惜しみない賛辞が捧げられる。 「……良いところですね。 この塔も、町も。 私も……ここで感じたことを忘れずに、これから頑張っていこうと思います」 星々は静かに人々を見守り、夜明けの訪れと共に一つ二つと姿を隠していった。 夜闇が訪れる頃、また人々を導くために姿を見せるのだろう。 東の空から、太陽が昇る。 新しい朝が始まったのだった。 |