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■オープニング本文 「青銅剣士が三体ほど目撃されているそうです。宿場町に紛れ込んでいるようですね。 擬態が得意なアヤカシで骨董を扱う店などに潜伏して夜間になると徘徊するケースが多いようです。 幸いまだ犠牲者は出ていませんが町にアヤカシが出ることはもちろん好ましくありません。 早急な対処をお願いしたいのですが……」 宮守 瑠李(iz0293)は巻物を持っていない方の手で軽く眼鏡の位置を直しながら集まった開拓者に話しかけた。 「実はこの宿場町、私の出身地でして。もうじきお祭りがあるので人の集まりは普段より多いと考えて頂いた方がいいと思います。 どちらかと言うと田舎に近い場所ですが旅人の方も結構立ち寄られるので元々地方にしては人の多い場所なのですが。 あぁ、宮守、という宿を探して頂いて私の名前を出せば歓迎してもらえると思いますよ。実家なので。 お泊りになるのでしたらご一考を。 ……話が逸れましたね。依頼の内容はお察しの通り青銅剣士三体の討伐です。 宿場町の夜は賑やかですから人払いが可能ならば人払いをした方が面倒はないでしょうね。 一般人に被害を出さず三体全てを討伐する事が依頼の達成条件となります」 お酒が入ると話が通じ難くなりますから昼間のうちに対応を取った方がいいですよ、と瑠李は結んだ後よろしくお願いしますと頭を下げた。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
瞳 蒼華(ib2236)
13歳・女・吟
多由羅(ic0271)
20歳・女・サ
江守 梅(ic0353)
92歳・女・シ
山中うずら(ic0385)
15歳・女・志
国無(ic0472)
35歳・男・砲
リック・オルコット(ic0594)
15歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●祭りの近い宿場町で 「では、お願いしますね。お気をつけて」 宮守 瑠李(iz0293)は最終的に依頼を引き受けた八人に向かって丁寧に頭を下げた。 今回の依頼の場所は彼の生まれ故郷だという。よく見れば顔には憂いの色が浮かんでいる。 「貴方、ルイといったのね。改めてよろしく。 以前のお土産、楽しんでいただけたかしら? へぇ、お祭りね、楽しそうじゃない。ちょっと、いってくるわ」 「ワラビですね。美味しくいただきましたよ。その節は有難うございました、国無さん」 「何か、ご家族に言伝はないかしら?」 国無(ic0472)の申し出に瑠李は何度か目を瞬かせ、首を傾げる。 「そうですね……では『信頼の置ける人たちだからアヤカシに関しては開拓者の方々に任せてください。決して無茶をしないよう、自分に出来ることを出来る範囲でしてください。宮森の名に恥じないおもてなしをお願いします』といった感じでしょうか」 「……家族相手にも敬語なのね」 「癖になってしまったんですよ」 「じゃあ、行って来るわ」 「ご無事をお祈りしております」 開拓者たちは青年の出身地である宿場町に向かって歩き出した。 「また、厄介な……報酬弾んでほしい」 リック・オルコット(ic0594)がぼそりと呟く。 「心眼系で探知してもダメなほど擬態がうまいらしいのが厄介ですね」 山中うずら(ic0385)は銀の髪の間から覗く耳をぴくぴくと動かしながら思案する。 「街にアヤカシが潜んでいては、安心して眠ることも出来まいて……。はよぅ解決してあげたいものどすなぁ。 鈴を昼間の内につけておいたらいかがなもんじゃろ。 夜に鈴の音と甲冑の音は目立つと思うんじゃが……」 江守 梅(ic0353)が簪を付け直しながら提案する。 御年九十二歳とは思えない健脚振りである。 「宮森さんのご実家が宿屋だそうですので……祭りの前祝い、として皆さんに集まっていただくのは……どう、です?」 おずおずといった口調で小さく瞳 蒼華(ib2236)が呟くように案を出す。 聞き取りにくいその案を国無が代弁した。 「ただ集まってもらうんじゃなく宴会っていうのがあたしはいいと思うんだけど、どうかしら?」 「宴会という名目でなら皆も集まってくれるのではないかと思う。賛成だ。一ヶ所に集まっててもらったほうが心配事が減るしな」 リックや他のメンバーも同意したので宿場町に着いたらまず二手に分かれ『宮守』という宿屋を探す班と青銅の剣士像に鈴をつけて回る班に分かれることにする。 「祭りが近いってことは新しく入ってきた青銅物とかないかな? あったとすればそれが怪しい気がするんだけど……」 ルオウ(ia2445)の発言で急遽三班目が作られることになった。 とはいってもルオウ自身が「一人で良いよ」と言ったためルオウ一人だが。 「祭りの主な物流、外から来た物がどういうルートで出回るのかを祭りの主催者とか担当者に聞きにいくぜい。 青銅のでかい鎧の置物とか、そういうのを見なかったか、見たならそれはどこに運ばれたのかなんかを聞いて回るな」 大体の方針が決まった頃、目的の宿場町が見えてきた。 「瑠李さんの好意に甘えさせてもらうとしよう。宿屋なら情報も集まりやすいかもしれない」 羅喉丸(ia0347)の言葉に全員が頷き散開する。 発案者の蒼華と蒼華の小さな声を皆に伝える役割を買って出た国無、提案に同意したリックが宮守の家を探し事情を説明して避難場所として使えるよう説得する班。 うずら、鈴をつけたらどうだろう、と言った梅、多由羅(ic0271)、羅喉丸は情報を集めつつ見つけた青銅鎧に鈴をつけることに。 ルオウは祭りのために運んだ青銅の鎧がないかを聞いて回り、あった場合は鈴をつけることになった。 「じゃあ、夜に入り口に集合しましょう。宮守さんのご実家が分からない人たちが出たら戦力がばらけますから」 多由羅の発言に頷いて班ごとに行動を開始する。 「青銅剣士ですか。 アヤカシと剣技比べというのもなかなかに面白そうですね。 と、不謹慎でしたか。 勿論、一般人の安全が最優先です」 多由羅が自分の言葉に肩をすくめて同行者に詫びる。 「アヤカシは種族によって知性に大きく差があるようだからな。剣を使うものがいても不思議ではない。興味を引かれるのも分かる気がする」 「まずは一般人の避難を万全にして夜に動き出したら存分に剣技比べをしたらいいんじゃよ」 羅喉丸と梅が気にするな、と暗に示す。 「効率性を考えるなら手分けをしたほうが良いかな?」 「その前に鈴を買ってしまいましょう」 雑貨屋で鈴を取り扱っていたので買い占める勢いで鈴を買っておく。 「そんなに買って使い道があるのかい?」 「備えあれば憂いなし、じゃよ。ご主人」 「近くに骨董品店や青銅像を扱う店があれば教えてもらいたいのだが」 「あぁ、もしかしてアヤカシ対策かい? 助かるよ。いつ命を取られるか分からない生活というのは気味が悪くてね」 「えぇ、この町の出身だという方から依頼の話を聞いて集まっています。仲間は別行動中ですが夜には合流して必ず倒しますので安心してください」 「頼もしいね。この町出身っていうと……宮守さんのところかな」 「知ってるんですか?」 「この町で一番大きい宿屋だよ。祭祀のような役割もやってる。近々祭りがあるからね、その音頭取り、といった方が今は正しいかもしれんが」 鈴を買ったあとそれぞれ手分けして雑貨屋で聞いた店を中心に青銅像を探して回る。 「国無さん」 「ん? どうしたの?」 「……お祭り、中止にならないように……頑張りましょう、ですの」 「もちろんよ。蒼華もお祭りが楽しみなの?」 「どんなお祭りなのか、しりたい……です。でも、アヤカシは、危険。 ……先に、なんとか、しなきゃ」 「偉い偉い」 黒い着物に、背に死神をあしらったジャケットを羽織った国無が鋭い眼光を和らげて蒼華の頭を撫でる。 「すみません、宮守、という方がやってらっしゃる宿屋を探してるんですが……」 「お祭りを見にきたのかい?」 「いえ、残念ながら仕事で」 「そうかい。片付いて予定に余裕があるならお祭りも見ていくと良いよ。宮守さんの宿屋ならこの通りをまっすぐ行って左手に見えるでかい宿だ」 「有難うございます」 「どう致しまして。名指しで宿探しってことは知り合いでもいるのかい?」 「えぇ、まぁ」 「もしかして瑠李坊の知り合いかね。あの家でこの宿場町を出たのは瑠李坊くらいだからな」 「瑠李坊……」 国無が少し笑いをかみ殺すのに苦労したような表情と声で反芻する。 穏やかで仕事熱心で山菜好きのギルド職員の顔が頭をよぎる。 「彼は地元では『瑠李坊』なのね……」 「たまには帰ってくるように伝えておくれよ。中々帰ってきやしないんだから」 「わかり、ました」 「あぁ、宿屋に行ったら多分びっくりするけどまぁ内容は見てのお楽しみ、だな」 「はぁ……」 不思議そうな顔を見合わせるリックたちを置いて中年の男性はひらひらと手を振って立ち去った。 「……とりあえず、行ってみましょうか」 一番最初に我に返った国無が先頭に立ち目的地へと歩き出す。 「確かに大きいわね……予想以上だわ」 「これなら町の人全員……止まれる、です?」 「宿場町だから宿に泊まってる人が問題ですかねぇ……」 「取りあえず交渉してみましょう」 ガラガラと戸を開けると帳面に書き物をしていた青年が顔を上げる。 「え……?」 「あれ……?」 「……ルイ……?」 其処にいたのは開拓者ギルドで仕事をしているはずの宮守瑠李その人だった。 「弟のお知り合いですか?」 「……お兄さん?」 「はい。宿屋宮守へようこそ。開拓者の方ですか?」 「びっくりするってこのことだったのね。……確かにびっくりしたわ。双子なの?」 「違いますよ。宮守の男兄弟は顔がそっくりなので有名なんです」 顔だけでなく声も物腰も良く似ている。 「お客人かね」 「あぁ、父さん。瑠李のお知り合いだそうですよ」 「瑠李のか。アヤカシ退治に来てくれたのかね」 手短に事情を説明すると兄弟の父親が豪快に頷く。 「息子の頼みと町人の安全がかかってるってんじゃ協力しねぇわけにはいかねぇな。おい、兄弟で手分けして今のこと伝えて来い」 「はい」 父親(この人は瑠李やその兄とは似ていなかった)が大声で何人かの名前を呼ぶ。 男兄弟は顔がそっくりで有名、と直前に聞いていたがそれでも揃った四人の男性があまりにそっくりなので蒼華たちは目を瞬かせることしか出来ない。 「四つ子ってわけでもないんですけれどね……よく驚かれます」 その他に姉や妹と思しき人たちもいて呆気に取られている開拓者たちに代わって父親が事情を説明すると三々五々と散っていった。 「あ、有難うございます……」 「構わないさ。瑠李の奴が珍しく頼ってきたんだ。親としては応えなきゃなるめぇ」 「他の開拓者の方を見かけたら夜までこちらでお休みになるよう勧めておきますから、皆様もどうぞ上がってください」 いつのまにか現れていた母親らしき人に先導されて部屋に通される。 「いいんですか?」 「大丈夫ですよ。息子からなにか言伝はありますか?」 国無が瑠李に言われた言葉を復唱すると母親は穏やかに目を細めた。 「ほら、やっぱり大丈夫。『宮守の名に恥じないおもてなしを』の対象には皆さんも含まれていますよ。私たちに出来ることといえばお客さんに気持ちよく過ごして貰うことですからね。精一杯おもてなしさせて頂きましょう」 ごゆっくり、といって部屋を出て行った瑠李の母にリックが一言。 「母は強し、ですね」 誰も否定しなかった。 「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」 「ん?なんだい?」 「祭りが近いうちにあるんだよな? その祭りって青銅の像を使ったりするか?」 「しないとおもうがなぁ……あぁ、ギルドの人かい? アヤカシが出るのを退治に来てくれたとか?」 「あぁ。最近出始めたなら新しく入ったのが怪しいんじゃないかと思ったんだけど……そうか、祭りでは使わないのか……」 「骨董品屋をいくつか知ってるよ。今地図を書こう。ちょっと待ってくれ」 「悪いな、助かる」 「何、アヤカシが出歩いてたら気持ち悪いし危険だし祭りの人出にも影響が出かねない。退治してくれるなら協力するのが一般人の義務さ」 「ありがとう」 地図を描いてもらったルオウはその店に向かって駆け足で移動を始めた。 ●夜の宿場町に響く鈴の音 宮守の家にそれぞれの用事を済ませた開拓者たちが揃って数刻。 庭や大部屋で宴会のどんちゃん騒ぎが聞こえ出した夜に、八人はこの宿以外に人がいなくなった宿場町へと繰り出した。 耳を澄ますとちりんちりんと鈴の音。 「気を引き締めていこう」 辻の向こうから三つの影が近付いてくる。 国無とリックが銃弾を撃ち込んで先制攻撃を仕掛ける。 「うん、いいね。こういう風の方が解りやすくて良い」 「忘れてたわ、金属だったわね、貴方」 国無が武器を副兵装「皇帝」に持ち替え螺旋弾を見舞う。 「矢だって銃に負けませんよ!」 うずらがそういいながら矢を射掛ける。 青銅剣士たちが近付いてくれば太刀を抜いた。 「老いぼれと、甘く見るでないぞぇ」 梅が忍刀「黒龍」で斬りつける。 金属同士が触れ合う音が静寂に響いた。 「挨拶代わりです、よ」 そういいながら唐竹割を食らわせる多由羅。 「鎧ごときに遅れを取るつもりはありません! ルオウ! あなたはそっちをお願いします!」 かつて何度か共に戦った仲のルオウにそう呼びかける。 剣技でアヤカシを押さえ込みながら周囲へ被害が及ばないよう注意する。 蒼華が奴隷戦士の葛藤で防御を下げたお陰か思ったより敵は脆かった。 「俺が相手だあっ! きやがれええ!!」 咆哮を使って引き付け、戦闘の余波で物などに被害が出ないように広い場所へと誘い込んだルオウが敵の攻撃を正面から受け止めたあと、防御ごと粉砕するように蜻蛉で最上段に斧を構えつつ唐竹割で攻撃する。 「でりゃあああっ!!」 「人が鍛え、磨き上げてきた技を甘く見ないことだ」 玄亀鉄山靠を最初から全力で叩き込み、短期決戦を狙う羅喉丸。 ルオウと砲術士の二人が一体を、梅と蒼華、多由羅、うずらがもう一体を、そして羅喉丸が最後の一体を粉砕する。 三体の鎧は瘴気に戻り、やがて残滓の瘴気も消えた。 「青銅でできていようが、眼前に立ち塞がるなら砕くのみだ。……もう聞こえないだろうがな」 「さて、宿屋に集まってる人たちに報告に行きましょうか」 戦いは終わり、人が一時的に一箇所に集中している宿場町はやけに静かだった。 「おぅ、お疲れさん。怪我はないかい?」 「無事ですよ。片もつきました」 「そりゃ有難い。今日は泊まって行くといいよ。騒がしいのが嫌いじゃないなら宴会に混ざっていくといい」 「お祭りが近いんですって? それまで此方に滞在してお祭りを楽しんでから帰りたいところだけれど……お高いんでしょう?」 「とんでもない。あんたらは命の恩人だ。祭りまでの間くらいなら格安で部屋と料理を提供するよ。ただより高いものはないっていうからただにはせんがね」 「あら、太っ腹」 「まぁ今日はゆっくり休むなり朝まで騒ぐなり好きに過ごしてくれ。戦った後、しかも夜に客人を追い返したりしたら息子との約束を守れないんでね」 「……お言葉に甘えるとするか」 ルオウは宴会会場に案内して貰って大声で伝える。 「もう心配いらねえぜっ! 祭り、盛り上げてくれよなっ!!」 歓声が、沸きあがった。 「若い者は元気なのが一番じゃて。役に立てたようで何よりじゃわい」 梅がその歓声を聞いて顔を綻ばせ、他の者たちは宴会に混ざったり宛がわれた部屋で休んだりと思い思いの夜を過ごしたのだった。 |