早蕨とヒュドラ
マスター名:秋月雅哉
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 15人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/03/25 11:16



■オープニング本文

●ヒュドラの群れ
「そろそろ山菜取りに山に分け入る方も出始めそうな陽気ですが……ひとつ問題が発生しました。
 沼地にヒュドラの群れが出るそうです。数は……五体ですね。
 よくあれだけの大型アヤカシが五体も生息できる沼地があったと感心している場合でもないのですが思わず言ってしまいたくなりますよ。
 沼地の傍には山菜が多く見られるようですので何も知らない方が被害にあう可能性があります。
 出来るだけ早々に退治をお願いしますね。
 地図は此方になります。
 山菜は山の恵みですし、初物を食べると長生きできる……なんて言い伝えもありますしね。
 それでなくても貴重な食料源ですから。
 山間の村の方の生活を二重にも三重にも守る大切な戦いです。
 どうぞ心して挑んでくださいね。
 ――あぁ、そうそう。雪溶けで道がぬかるんでいるでしょうから転ばないようにご注意を。
 沼地が舞台ですし、汚れてもいい格好でいった方がよさそうですね。
 天気の心配は、ここ数日間の陽気を見る限りしなくても大丈夫でしょうが山の天気は変わりやすいといいますしお気をつけて」
 最近開拓者ギルドで説明を受け持ったり花見の情報を流したりしている青年はいつもよりやや早口で事情を説明した。
 普段はどちらかと言うと穏やかな青年がかもし出す違和感に話を聞いていた一人が尋ねる。
 ――知り合いでも付近に住んでいるのか、と。
「あぁ、いえ。そんなことはありませんよ。ただ村の方が心配なのと……ワラビ、好きなんですよね。
 人々に害をなす上に美味しい山菜を踏みにじる可能性があるヒュドラを放っておけないじゃないですか」
 そう言って青年はにこり、と底の知れない笑みを浮かべた。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
紅咬 幽矢(ia9197
21歳・男・弓
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
ローゼリア(ib5674
15歳・女・砲
正木 雪茂(ib9495
19歳・女・サ
戸隠 菫(ib9794
19歳・女・武
帚木 黒初(ic0064
21歳・男・志
津田とも(ic0154
15歳・女・砲
国無(ic0472
35歳・男・砲
八壁 伏路(ic0499
18歳・男・吟
霞星(ic0505
16歳・女・泰
神楽 蒼夜(ic0514
20歳・男・武
碕(ic0572
15歳・女・サ


■リプレイ本文

●早春、命芽吹く季節に
 ギルドで依頼されたヒュドラ五体の退治に集まったのは総勢十五人に及ぶ開拓者たちだった。
「出来るだけ山菜に被害が及ばないよう注意して欲しい」とは隠れた山菜好きであるギルド関係者の談。
 春の味を楽しみにしていた人たちが山菜を摘みに来て荒らされた沼地及び湿地帯を見てはがっかりするだろうから、と開拓者たちはその頼みを出来るだけ聞き入れるつもりでいた。
 とはいっても相手はアヤカシ、しかもヒュドラといえば大型に分類される。
「このようなところにヒュドラが……、何か理由があるのでしょうか……?
もうすぐ本格的な山菜の時期ですし、山に人が入らないうちにきちんと退治しましょう……」
 柊沢 霞澄(ia0067)はヒュドラが目撃されたという湿地帯の入り口でわずかに首を傾げる。
 広大な湿地帯が続き、奥のほうに湿地帯よりは小さな沼地があるようだ。
「沼地に逃げられると困ると思います」
「多少の足場の悪さは目を瞑るとしても、出来る限り此方の戦い易い場所まで誘い出すべきだろうな。
 わざわざ敵の有利な領域で戦う理由は無い」
「同感だ」
鈴木 透子(ia5664)の発言に琥龍 蒼羅(ib0214)や紅咬 幽矢(ia9197)だけでなく全員が頷きや同意の声を上げる。
「湿地帯が思いのほか広いですね。ヒュドラ五体となるとやはり場所をとるからでしょうか」
 杉野 九寿重(ib3226)が足場の悪さを少しでも和らげるため皆で手分けして持ってきた藁などを敷きながら眉根を寄せた。
 戦う以上足場が悪いのは歓迎することでないのは言うまでもない。
 開拓者たちが湿地帯に着いた時、ヒュドラの姿はまだなかったためローゼリア(ib5674)は周辺を回ってヒュドラが逃げそうなルート、ヒュドラに近付くためのルートを検証している。
「周囲の村で地図に載っている、あるいは途中で見かけた場所の村人にはアヤカシが出る故山菜取りは暫し待つように伝えておいたぞ」
 民間人対策に霊騎に乗って移動していた正木 雪茂(ib9495)が戻ってきた。
「出来るだけ山菜が少ない場所選んだほうがいいよね。暫く待つようにって言っておいて肝心の山菜全滅になったら恨まれそうだし」
 戸隠 菫(ib9794)が陽光を思わせる金の髪を弄りながら視線を走らせ、山菜が少なそうな場所を探す。
「山菜は良い物ですね……私も昔は行き倒れる寸前までその辺のそれを道草食いつつ、中ったり中らなかったり……」
 手当たり次第に食べていたのか、と疑問が湧く台詞を放ったのは帚木 黒初(ic0064)だ。
 レインコーティングで地形やヒュドラの技に備えた津田とも(ic0154)があ、と声を上げる。
 どうやらヒュドラが現れたようだ。
 数は五体、頭の数は三つのものと四つのものがそれぞれ二体。
 一番奥にいるのは五つ頭だ。
「厄介な敵よね」
 迫ってくるヒュドラに国無(ic0472)が短く呟く。
「足元には気をつけるのだぞ」
 八壁 伏路(ic0499)が全員に注意を促す。
「打ち合わせ通りに私は足止めを引き受けます」
 霞星(ic0505)がすっと前に出る。
「さあ、大人しく討伐されろよ? あまり暴れられても困る」
 神楽 蒼夜(ic0514)が鬼面の下からヒュドラに語りかける。
 返答は凍てつく息吹だった。
「……頑張れば、倒せる」
 自分に言い聞かせるように呟き、ヒュドラに接近していく碕(ic0572)を援護するように蒼夜が短銃「ピースメーカー」を撃ちぬく。
 国無の朱藩銃「天衝」も遠距離からとは思えない正確さでヒュドラの身体に被弾させる。
「厄介なブレス攻撃を減らす意味で首を狙うか」
 ともも最初の一体が沼地から離れ、射程に入ったのを確認して引き金を引いた。
「火力はないんですよねぇ……一体ずつ来てくれたのがせめてもの救いですか」
 囮役を務めていた一人、黒初が陰陽刀「九字切」を構える。
「首何本も捌くとか面倒ですよねえ」
 飄々とした口調と薄っすら浮かぶ口元の笑みとは裏腹に視線は冷たい。
 同じく囮役の菫は天狗駆を使ってヒュドラに姿を認識させ、投石して挑発して徐々に沼地から引き離すというもの。
 ヒュドラと沼の間を塞ぐ位置に移動して退路を断ち、後は仲間と共同で足止めだ。
 ヒュドラの後方、つまり菫の傍には早足で移動してきた雪茂の姿もある。
 雪茂が大地を割く程の衝撃波でヒュドラの身体を切り裂いた。
「では派手に参りましょうか」
 誘い出す面子とタイミングを合わせてローゼリアがマスケット銃による狙撃を行った。
 素早く銃をしまうとブレードファンと脚絆「瞬風」に代え、前線に立つ。
 傍らには親友である九寿重の姿があった。
「新技、参りますのよ!」
 破軍で一時的に攻撃力を上げた状態でローゼリアが絶破昇竜脚を放つ。
 ローゼリアが攻撃した一体の注意を引くことに決めた九寿重はその一体が突出するように図ると同時に各個分断を促す。
 その際は虚心を使用して自身の回避力を上昇させることも忘れない。
 孤立したヒュドラに向かって太刀を浴びせ、集中攻撃で弱ったところを一気に首元から薙ぎ払った。
 自己再生をする間もなく三つ頭の内一体が瘴気に還る。
 余波を受けた他のヒュドラたちが怒り狂うように激しい息吹で開拓者たちを凍てつかせた。
「再生能力を持つ以上逃がすわけにはいかんな。確実にしとめる」
 蒼羅が身の丈を上回る長大な斬竜刀「天墜」を横に薙ぎ、天翔ける竜を叩き落すという意気を込めて付けられたその野太刀の名に恥じない威力でヒュドラの首を一つ、落とした。
 事前に油を塗った鏃に火をつけ幽矢が目や口を狙って火矢を射掛ける。
 目を二つ潰されたヒュドラが残りの目で自らの敵を睥睨する。
「逃がしません……」
 回復の手が空いたのを好機と霞澄が精霊砲を放つと首一つが飛び、瘴気が立ち上った。
 目を潰され、首を一つ飛ばされた三つ頭のヒュドラが自身を再生させる時間を稼ごうと人のいない場所へ進むが透子の仕掛けていた地縛霊が発動する。
 伏路の黒塗りの苦無がそのヒュドラをしとめた。
「あと三体ね。気張っていきましょ」
 国無が長射程とそれに伴う視界の広さを以って味方の攻撃の機会を作り、危機は救い、敵の攻撃機会は潰す。
「見えているわよ」
 冷気を吐き出すため大きく開かれた口に向かって炎のように真赤な気を纏った弾丸が飛んでいく。
 空気撃を使い、ヒュドラの転倒を狙いつつも、倒れる先に山菜がないかを気にするのは霞星。
「山菜……確かにそれは、生活に直結する重要案件です。是が非でも死守せねば」
 敵は巨大だが幸いにも味方の数が多いためそれぞれがそれぞれに向いた方面での配慮をすることができる。
 それは必要以上に場を荒らさず、味方の被害も最小に食い止めることに繋がるはずだった。
「図体がデカいというのはある意味ありがたいな。当てやすい」
 前衛に同行して被弾させることに重きを置いた胴体への攻撃を行っている蒼夜が狙いを定めながら呟いた。
「山の恵みも確かに大切だが、命はもっと大切だからな?
 出来る限り、被害は押さえたいが」
 続いた言葉は霞星に対するものだろうか。
 味方と連携を取りながら碕の繰り出した両断剣でまた一つ首が落ちた。
 四つ頭が三つ頭になり、再生する間を与えない畳み掛けるような連続攻撃で全ての首が落ち、胴体も瘴気となって消えていく。
「大分視界が広く取れるようになってきたな。最初に見たときも思ったけど数が減ると改めてよく分かる。結構でっかいんだな」
 火縄銃のリロードを行いながら残り二体の内四つの頭を持つほうのヒュドラに向かって標準を合わせるとも。
 黒初が斜陽を発動させ攻撃と近くを低下させたお陰か、ヒュドラの放った冷気は微妙に狙いがそれた。
 退路を断っていた菫が後ろから護法鬼童を連続で使って敵の集中を乱していく。
 それを鬱陶しいと感じたのか、それとも手薄な後方を突破して逃走を図るつもりだったのか。
 集中攻撃を受けていたヒュドラが向きを反転し菫と雪茂に向かって這ってきた。
「逃げて回復しようったって、そうはさせないから、覚悟!」
「手薄だからといって甘く見られては困るな」
 菫の護法鬼童と雪茂の地断撃が這い始めた直後に発動し、向きを変えている間に火矢や銃弾が雨あられのように降り注いだため逃亡は失敗、ヒュドラは呆気ないほど簡単に瘴気へ変貌した。
「最後の一体です。気を抜かずにいきましょう、ローゼ」
「えぇ。五つ頭が一体だけということはこのヒュドラが頭目かしら。討ち漏らしませんわ、御覚悟なさいまし!」
 普段の仲のよさをうかがわせる九寿重とローゼリアの息のあった連携技を援護するように再び火矢と銃弾が最後の一体に浴びせられる。
 ヒュドラのほうでも反撃を試みるが多勢に無勢。
 逃げようとすれば先ほどのヒュドラと同じように向きを変えたところを餌食にされるだけだろう。
 程なくして再生が追いつかなくなったのか首が一本ずつ地に近づいていき、倒れる間際にヒュドラは瘴気となった。
「終わったわね。……覚悟はしていたけれど汚れてしまったわ」
 国無が溜息混じりに呟くと全員がほっと息を吐く。
「村へお土産に山菜を摘んでいかない? 一夜の宿を頼んで灰汁抜きして配ったあと、ギルドで報告待ってるあの青年にも持っていってあげましょうよ。蕨、好きらしいし」
 その一言で戦いで張り詰めていた精神の糸が緩み、安堵が生まれる。
「蕨はアク抜きが大変ですが美味しいです……。
 簡単に作るならおひたしや煮付け、油を用意できれば天麩羅も……」
「山歩きには慣れているので山菜採りは得意です」
「山菜取りでもするのかな? やれやれ平和だね。
 いいよ、ボクも手伝おう。お土産にでも持っていこうかな♪」
 口々に賛同の声があがる中、蒼羅は辺りを見回した。
「あれだけ巨大なアヤカシを複数相手にした割には荒れた場所が少ないな。これなら山菜取りに大きな影響は出ないだろう」
「そうですね。山菜採りにやってきた方を残念がらせずに済むのは幸いです。味方に目立った被害がないことも」
「折角ですから春の味を目いっぱい楽しみたいですわね、九寿重」
九寿重とローゼリアも周りを見回して安堵した様子。
「山菜採りもいいが……風呂に入りたいな。その後は霊騎を速やかに洗ってやりたいし」
 雪茂は自分と霊騎の汚れが気になるようだ。
「ヒュドラも退治したし、これで山菜採りもできるし何より安心して暮らせるよね」
「やれやれ、皆さん元気ですねぇ……」
「確かに此処、広いけどあの大きさのヒュドラが五体暮らすには手狭な感じがするな?」
「そうかもしれんのぅ。それはさておきツクシ、タラの芽、フキノトウ、ノビルに山ウド、天ぷら万歳」
「山菜に被害が出なくて良かったです。あるのとないのとでは生活の潤いに差が出ますから」
「摘みすぎて村人が摘む分がなくならぬようにな。山歩きと山菜摘みを楽しみにしている者もいるだろう」
「そうだね……山歩きにも、いい季節になってきたし」
 蒼夜の忠告に従ってそれぞれが少量ずつ山菜を摘んで下山する。
 帰路は和やかなものとなった。
 地図に載っていた一番近い村でも山からはそれなりに離れていたがアヤカシ討伐のために鍛えている開拓者にとってはそう辛い距離ではない。
 それでも村が視界に入ったとき全員の顔が綻んだのは汚れを落とす目処が立ったことと、戦闘の疲れが多少あったからだろうか。
 アヤカシ退治が済むまでは山に立ち入らないように、と事前に知らされていた村人たちは泥だらけの開拓者十五人を懇ろに労った。
 もう山に入っていいのか、と尋ねた一人に頷きを返すと歓声が上がる。
 できれば一泊したいという希望を国無が述べると何軒か生活に比較的余裕があり、客を泊められるという家が歓迎する、と請け負う。
 アヤカシを退治してくれた礼になるならできる限りのことはする、と村の全員が張り切るのを見て汚れだけ落とさせてもらってあと帰るつもりだった面子も好意に甘えて一泊することにした。
 開拓者からの礼は、摘んできた山菜。
 調理に時間がかかるものは後日各家庭で食べてもらうことにして手間がかからないものを料理が得意な者たちで何品か作って皆に振舞う。
 春の夕餉は初物を食べることのできる喜びとアヤカシに怯えなくていいという安堵から明るく、笑い声が弾ける賑やかなものとなった。
 近隣の村への警戒解除の知らせは通り道は開拓者たちが、通りから外れた村へはこの村の村人が手分けして明日にでも伝える手筈が整った。
「私が霊騎で回っても良かったのだが……ここは好意に甘えるべきだろうか」
「霊騎も疲れているだろうから甘えておいたらどうだ」
「そうそう。村同士の交流もあるでしょうし、ね」
 湯浴みと夕餉を済ませ、開拓者たちがいくつかの家に散っていく。
 雪茂は少し悩んだようだが結局は言葉に甘える事にして霊騎にお休み、と声をかけると自分が泊まることになっている家の中に入っていった。
 翌日の早朝、改めて一宿の礼を述べ、逆にアヤカシ退治の礼を述べられてお互いに笑いあった後開拓者たちは村を後にした。
「お疲れ様でした。首尾は……上々のようですね。怪我はありませんか?」
 ギルドに報告に向かうと青年が穏やかに出迎える。
 味方の負傷、周りへの目立った被害がなく無事に五体全てを討伐した旨を告げると「それは何よりです」と返事が返ってくる。
「折角だからお土産持ってきてあげたわよ」
「お土産ですか?」
「蕨。好きなんでしょ?」
 国無がウィンクと共に渡した容器を見て青年が顔を綻ばせる。
「どうも有り難うございます。夕餉に頂きますね」
「どう致しまして」
「これからもよろしくお願いしますね。私も微力ながらお手伝いさせて頂きます」
 書物と国無から渡された容器を手近な卓に載せ、深々と礼をする。
 その頭は開拓者たちの最後の一人が雑踏に消えるまであげられることはなかった。
 ヒュドラがいなくなった沼地と湿地帯の近くでは今が旬の山菜やこれから芽吹く山菜を摘む人で賑わうことだろう。
 その様子を思い浮かべて開拓者十五人とギルドで働く一人の青年の口元に自然と笑みが浮かんだ。
 暖かな春の風が吹きぬける。空は青味を少し増して白い雲を棚引かせる。
 命の花開く季節に相応しい、上々の天気になりそうだった。
 日ごとに暖かくなる陽気に人々の顔も自然と明るいものになる。
 それは恐らく場所が変わっても、時代が変わっても、四季と人が共にある限り変わらない風物詩なのだろう。
 ヒュドラのいなくなった沼地では水鳥が休めていた羽根を再び広げ、蒼穹の空へと飛び立つ。
 自然の営みと人々の営みはこうして静かに寄り添い、続いていくのだろう。
 アヤカシが跋扈する世界であっても開拓者たちが、開拓者を目指す人々が、それを支える一般人が諦めない限りそれは変わらない約束なのかもしれない。