【人妖】〜守り抜いて〜
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/02/22 02:36



■オープニング本文

 渦中の里・未綿(ミワタ)。
 かの里の南方に位置する森に、アヤカシが出たという。
 アヤカシが出る森とはいっても、遭都。
 恐らく数も規模もたかがしれているが、万が一ということもある。
 状況的に朝廷としては大きな軍が動かせない今、開拓者の皆に森に潜入し、異常がないか調べてほしい。

「よりによって、今この時にか‥‥」
 ギルドに貼り出された依頼を見つめ、騒動を知った開拓者達は深い溜息をつく。
 未綿の里での騒動は、そろそろ大きな騒ぎとなりつつある。
 この混乱した状況に、更にアヤカシの被害とはどれほど未綿は災難に見舞われるのだろう。
「万が一、か‥‥?」
 依頼内容は森の調査。
 けれどこれほどキナ臭い状況で『万が一』何事も起こらないほうが奇跡というもの。
 アヤカシの規模も数も未知数ゆえの調査だけれど、遭遇に備えて十分、注意と準備をしておくべきだろう。
 場合によっては、アヤカシの情報を無事に持ち帰るだけでも困難かもしれないのだから。
 貼り出された調査依頼に、開拓者は十分に警戒しつつ、準備を始めるのだった‥‥。


■参加者一覧
音有・兵真(ia0221
21歳・男・泰
周藤・雫(ia0685
17歳・女・志
氷海 威(ia1004
23歳・男・陰
橘 天花(ia1196
15歳・女・巫
一心(ia8409
20歳・男・弓
珠樹(ia8689
18歳・女・シ
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟
フィル・ウィリスト(ib5473
16歳・男・砲


■リプレイ本文

●備えは、万全に。
「これだけ探索能力を持つ人が集まったんです。しっかり調べ上げましょう」
 未綿の里南の森付近。
 周藤・雫(ia0685)は鬱蒼と広がる森を鋭く睨む。
 此処に来るまでに里の近辺を通過したが、混乱は困難を呼び、もはや未綿は里として機能していないのではないだろうか。
「臣たる身で主上に刃を向けるなど、かの里の行いは許されません! ‥‥、アヤカシとなれば話は別。謀叛の最中であろうと、人の営みは何よりも護るべきものです!」
 雫と同じように森を厳しく見詰めながら、橘 天花(ia1196)は赤い鉢巻をキリッと結び直す。
「ギルドからの情報だと、森の西北、ここから正反対の場所だけどアヤカシらしき目撃情報があったらしいわ」
 予めギルドから得られた情報は少ないけれどと、珠樹(ia8689)。
「これは遊んでられないねー‥‥個人的にはとても気に入らない、かな」
 楽しい事が一番とはいえ、ここまで荒れている里の現状を見れば、蒼井 御子(ib4444)も気を引き締めずにはいられない。
「わかんないっスけど、一生懸命がんばるっス!」
 今回が開拓者として初めての仕事であるフィル・ウィリスト(ib5473)はゴーグルを首元に下げて口を引き締め、
「万が一? で、済まないのは明らかだな」
 音有・兵真(ia0221)は森から発する異様な気配に苦笑する。
「とにかく‥‥確実に情報を持ち帰りましょう。これ以上は未綿の里に不幸をもたらすわけにはいきませんから」
 アヤカシの現状に不安を抱きながら、一心(ia8409)は里の為にも情報を最優先にと願う。
「この混乱状態にアヤカシまでとは‥‥大した物で無ければ良いが‥‥」
 ギルドから受け取った森と周辺の地図の写しを氷海 威(ia1004)は広げる。
 里の南に広がるこの森には街道があり、その街道を通った旅人らがアヤカシらしき影を目撃したらしい。
 むろん、どんなアヤカシが何種類いたかなどは恐怖にかられた旅人が覚えているはずもない。
 開拓者達は二手に分かれて森の探索を始め出す。

●息を押し殺して。
「ここら辺は、まだ木々も傷つけられていないっスね」
 アヤカシを見かけたという北西にはまだ遠いが、フィルは声を潜める。
 その手には白い粉が握られており、彼は自分達が通った目印に周囲の木々にそれと判る白い印を付けて回っていた。
「二手に分かれて正解ね。この森、見通しが悪すぎるわ」
 その分、こちらがアヤカシから発見される確率は低くなるのだが、同時に珠樹達がアヤカシを発見するのも遅れるかもしれない。
 森の広さもさることながら、常緑樹と落葉樹が混じりあい、そしてさらに歩き辛い事に背丈の低い広葉樹も生い茂っている。
「慣れてないと結構きついぞ」
 行く手を阻む邪魔な枝をマキリで打ち払い、音有は仲間達より少し先を歩く。
 街道沿いを選んではいるのだが、街道そのものではないのだから手入れなどされていようはずもない。
「森の上空には小鳥が一切飛んでいませんでした。この森は、もはやただの森ではありえません‥‥!」
 森に入る前に小鳥の有無を確認したのは、恐らく橘だけだろう。
 そして本来の森としてあるべき姿から程遠くなってしまった事実を知れたのも。
 森を流れる風は酷く濁り、木々のざわめきすらアヤカシのそれに思えてくる。
 開拓者達は、極力音を立てぬよう、歩みを進める。

 ‥‥ビィイィン‥‥
 一心が弓を爪弾く。
 雫はその鏡弦が森に浸み込んで行くのを聞きながら、周囲はもちろんの事、頭上の木々にも意識を研ぎ澄ませる。
「おおよその広さは把握できましたが‥‥アヤカシは視認出来ませんでした」
 森の上空に小鳥の人魂を飛ばしていた氷海は紫色の瞳を翳らせる。
 この森の木々はまるでアヤカシを覆い隠すかのように青々と生い茂っているのだ。
 今は真冬。
 落葉樹だけであったなら、容易にその姿を視認出来たというのに、常緑樹の存在がこれ程目障りになる日がこようとは。
 目的の場所はもう少し先 ―― けれど、アヤカシがいつまでも同じ場所にいるとは限らない。
「方角は間違いなくこの方向ですね。反応があります。地図よりも大分近いようですね‥‥」
 まだそれほど近くない為か、詳細は一心でも把握できない。
 けれど確実にアヤカシは存在している事がその能力で察知出来る。
 どうやら最初に見かけられた場所よりも随分とこちらに ―― 里に近づいているようだ。
「出来るだけ戦闘は避けたいんだケド、難しい、かな」
 細かな細工の施された金の懐中時計を弄りながら、蒼井は前方に目を細める。
 
●遭遇。‥‥ありえない現実。
「うそ、です。こんなこと、ありえません‥‥!」
 精一杯声を押し殺し、けれど橘は恐怖を隠せない。
 行動を共にしていたフィル、珠樹、音有にも動揺が走る。
 アヤカシがいることは半ば判ってはいたのだ。
 だが、木々の向こう、遠く街道に広がるそれは ――。
「アヤカシがどの程度か、多く見たほうがいいかな」
 現実離れしたアヤカシの軍団から目を逸らさず、音有は目を凝らす。
 そこに並ぶのは、ざっと視認出来るだけでも30は軽く超えるであろうアヤカシの群れ。
「拙いわね。50匹どころじゃ済まなさそうだわ」
 全ての感覚を研ぎ澄ませ、アヤカシの数の把握に努めた珠樹の額に冷や汗が流れる。
「じゃあいくつだって言うんっスか!」
 森を埋め尽くす勢いのアヤカシに圧倒されつつ、フィルは涙目で珠樹に詰め寄る。
 むろん、そんな事をしてもアヤカシの数が減るはずもないのだが。
 鬱蒼と茂る木々に身を隠し、開拓者達は更に詳しい情報を得ようとアヤカシに忍び寄る。

(詳細を少しでも‥‥)
 時を同じくして、橘達とは別班の一心達もアヤカシの大群に辿り着いていた。
 い組とろ組で丁度アヤカシを挟み込むような形での遭遇だった。
 もしも街道を真っ直ぐに突き進んでいたなら、アヤカシの群れに正面から突っ込むことになっていただろう。
 一心はその身をアヤカシ達の進行方向へ出来るだけ近づけ、その詳細の把握に努める。
(瘴気が肥大化し、知能を持っている‥‥?)
 この軍団のボスと思しきアヤカシは、その姿が紫色の瘴気の塊にみえる。
 瘴気は4mもの巨大さを誇り、随分と不定形だ。
 アヤカシ達は確実に里を目指して進軍している。
 ごくりと息を飲み込み、それ以上の深追いはせずに一心は即座に仲間の元へと戻る。
「一刻も早く知らせねばならん‥‥!」
 一心と合流し、小鳥から雪虫に変えていた人魂を受け入れ、氷海は血相を変える。
 危険なのは瘴気の塊たるアヤカシだけではない。
 雪虫として見たものは巨大な白蛇がうねり、廃墟などでも良く見かける狂骨、そして更にその上位であると思われる巨大な骨の集合体 ―― がしゃ髑髏。
 この大群の情報を一刻も早くギルドに持ち帰り、応援を求めなければならない。
 さらに、里付近まで進撃を進めるのであれば、少しでも時間を稼がなければ。
「―― 離脱する時は、合流する事は難しい、かな」
 犠牲になるつもりなんてないケド、アヤカシは許せない、かな。
 呟いて、蒼井は夜の子守唄を奏で出す。
 アヤカシの進軍を少しでも止められるように、里への被害が減るように。
 音に気づいたアヤカシが、進行方向を変える ――。
 
●撤退! 全力で守り抜いて!
 ろ組だけにアヤカシを引き付けさせたままにはしないと、い組も動く。
「この事態では、やむを得ません!」
 橘が焙烙玉をアヤカシに投げつける。
 むろん、ボスにではない。
 手近で、知能の低そうなソレにだ。
 目的はあくまで情報収集、そして里への進撃を食い止める事。
 ならば軍を混乱させてしまえばいいのだ。
「っと静かにな」
 焙烙玉に喘ぎ、開拓者達の潜む森の中へと飛び込んできた下級アヤカシの喉を即座に潰し、音有はその命を潰す。
 反対側の森に潜んでいるい組もアヤカシをどんどん引き付けている。
 そう、里と反対側、南東側へとだ。
 雫の素早い動きには低級アヤカシ共はついてゆけず、混乱するばかり。
「この世ならざるもの共よ、滅せよ!」
 氷海の斬撃符が雫の動きに翻弄されたアヤカシどもを切り刻む。
 そして一心は撒菱にてアヤカシの足止めを狙う。
 南東へアヤカシを引っ張るろ組に対し、い組は南西へとアヤカシをひっぱる。
「狩りは得意っス‥‥だから逃げる方法もしってます!」
 十分にアヤカシを里から引き離し、フィルは仲間に叫ぶ。
 そのフィルに襲い掛かろうとしたアヤカシは即座に珠樹の忍者刀に切り裂かれる。
 逃げる為に迷っては、元も子もないのだ。
 森に詳しいフィルに導かれ、い組の開拓者は森の外へと脱出する。
 追いかけて来た下級アヤカシは殿の音有の崩震脚にて吹き飛んだ。
 い組、ろ組。
 それぞれが引き付けたアヤカシの情報と森の状態 ―― 直ぐにでも救援を求めねばならない。
 アヤカシ達を混乱させることに成功したものの、里に残された時間はあと僅かだろう。
 開拓者達は全力でこの情報を持ち帰るのだった。