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■オープニング本文 「働いて欲しいのよねぇ」 自慢の簪コレクションを袱紗で磨きながら、開拓者ギルド受付嬢・深緋ははふーっとため息をつく。 「あなたがですね。まずその簪をしまって報告書の整理でもしてはいかがでしょうか」 ため息をつかれた相手 ―― 通りすがりのイケメン開拓者は即座に嫌味。 どう見ても遊んでいる風にしか見えない深緋を見てると、そう突っ込みたくなるというものだ。 「新しいギルドのアルバイトなんだけどぉ、暖炉の前から動かないのよ〜ぅ」 けれど都合の悪い言葉は彼女の耳には届かないらしい。 磨き終えた蒔絵簪を髪に挿し、何事もなかったかのように話を続ける。 「このギルド、それほど寒いとも思えませんが」 恋人から贈られたマフラーをほどき、イケメン開拓者は周囲を見回す。 確かに外は寒いのだが、ギルドの中ではコートを脱いでもなお暖かい。 「そう思うでしょう? ところがどっこい! 彼女ったらミニミニ丈のぴっちりワンピースでギルドに来るのよぅ。そんな格好してたら寒くて当たり前だと思わなぁい? 掃除をしてもらう為に雇ったらしいのに外に絶対でないのよう」 「生足がうらやましいんですね」 さくっと突っ込みを入れる開拓者のことは、さくっとスルー。 そろそろ良いお歳な深緋。 生足なんて出せないよね、うん。 「寒いならそんな格好しなきゃいいのにさ? 掃除ももちろんしないし。仕方ないから暖かい室内で受け付けさせようとしたんだけど、動かないと余計冷えるとかいって働かないのよぅ。彼女の代わりに掃除してくれないかしらぁ?」 「彼女を更正させるんじゃないんですか」 話の流れからして、普通問題のアルバイトをどうにかすることが先決では。 「いいのよぅ。いざとなったらクビにすれば済むことだし? 美脚が魅力とかいってるけど、そんなの知ったことじゃないしぃ? 当面の問題はあたしのアカギレよ!」 ばっと開拓者の前に両手を開いて甲を突きつける深緋。 その白い肌には無数の細かなアカギレが確かにある。 「あの子の代わりにあたしまで掃除させられるのよう。お陰で爪も剥げてしまったわ。だから、ね?」 代わりに掃除してちょうだい? にっこり笑顔で言い切る深緋に、開拓者は呆れて物が言えなくなるのだった。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
周藤・雫(ia0685)
17歳・女・志
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
モハメド・アルハムディ(ib1210)
18歳・男・吟
華表(ib3045)
10歳・男・巫
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
セシリア=L=モルゲン(ib5665)
24歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ●根回しと下準備? いえいえ、本能です♪ 「チキチキ!! ギルドをお掃除しちゃおう大会〜!!!」 どんどんぱふぱふっ♪ いつでもどこでも元気爆発、男の中の漢・村雨 紫狼(ia9073)はギルドの中央で仁王立ち。 周囲の開拓者達が何事かと唖然としてみているが、そんなことはアウト・オブ・眼中。 彼の瞳は今回の依頼に集まったロリから熟女まで揃い踏みの女性陣! 「いつも、お世話になっている所ですから、気合を入れてやります」 妙に萌えて、いや、燃えている(?)村雨にほんのりドギマギしつつ、華表(ib3045)は重曹を準備する。 ザラザラと白い粉末は汚れを落としやすくなるとかなんとか。 けれど華表自体がロリ好き村雨に口説き落とされないかが心配である。 そしてその隣では鈴木 透子(ia5664)が無言で襷を取り出して、口を使ってきゅっと袖を縛って襷がけ。 「埃は上から落としてゆきましょう。でないと二度手間になってしまいますから」 「だよなぁ。あたしも上のほうからやろうと思ってたんだ」 ギルドの天井を見上げ、周藤・雫(ia0685)ははたきを握り締め、リィムナ・ピサレット(ib5201)は脚立を準備する。 「ボクは、床の雑巾がけが中心かな」 ボクという口調から、一見ボーイッシュに感じる水鏡 絵梨乃(ia0191)だが、いつの間にかバケツと雑巾を準備している。 何気なく上のほうを掃除するといっていた雫とリィムナの側にいるのは、何か目的があるのかはたまた偶然か。 「マルハヴァ、こんにちは皆さん。どうやらアーニー、私は数少ない男手のようですね。重い物を持つときは、すぐに呼んでください」 そしてモハメド・アルハムディ(ib1210)はターバンを巻き直して、油脂を用意する。 もちろん、それは植物性。 動物 ―― 特に豚は氏族の習慣上の問題で触れることが出来ないからだ。 「ンッフフ、‥‥そーねぇ、掃除なら昔からやってたから大丈夫よォ」 そして村雨とは別の意味で周囲の主に男性開拓者の目を釘付けにしているセシリア=L=モルゲン(ib5665)は、ムチの代わりに箒を持って自信満々。 問題の働かないアルバイトの更に上を行くその露出度はマジでハンパない。 その格好で本当に掃除をするのだろうかと疑問に思いつつ、みんなでお掃除開始☆ ●お掃除♪ お掃除♪ きゅっきゅと磨いてね? 「ンッフッフ、どこのお掃除だって得意よォ」 さっさっさ♪ この真冬の寒空の中、殆ど下着姿に近い露出を誇るというのにセシリアは楽しげに外掃除。 ギルドの前の道を掃くその動きに手抜きはない。 「寒くはないのですか」 バケツの水を捨てに来た雫が目を丸くする。 普段目付きの鋭い雫の目が丸くなるのは結構レアかもしれない。 「フッフッ、根性よォ♪」 むしろ周囲の視線が最高と、セシリアは更にノリノリで箒を操る。 それなりの歳のはずなのだが一切崩れのない見事なスタイルを維持するセシリアにとって、寒さよりも人々の憧れの視線が何よりも勝る。 そしてギルドの中では、透子が無言で床を拭き続けている。 そう、それはあたかもギルドを一周する勢い。 重いバケツの水を汲んでは床を拭き、雑巾を絞って。 汚れたら、また水を取り替えて。 その繰り返しをし続けているのだ。 「ハイヤー、やりましょう」 何度も水を汲み続ける透子のバケツをモハメドが代わりに持つ。 既に何十回もバケツを汲み続けて透子もそろそろ疲れているはずなのだ。 自分で持つと遠慮する透子に微笑んで、モハメドは汚れたバケツの水を替えてくる。 「大分綺麗になったかな」 透子とは少し離れた場所で床を磨いていた水鏡は、床の磨かれ具合にかなり満足。 そう、ピカピカと輝きだした床は、脚立を使って掃除をしているリィムナの姿を映していたりなんだり。 やましい心なんかないぞと心の中で呟きつつ、ひょいっと覗こうとした水鏡だが‥‥。 「うおっと?!」 「ちょーーーまぁああああっ?!」 どんがらがっしゃん! 派手な音を立てて脚立が倒れ、リィムナが水鏡の上に落下! だがしかし。 「って、なんで村雨がボクの上に乗っかってるんだ?!」 普段年上にはさん付けが基本の水鏡、かなり焦ってる。 それもそのはず、どうゆうタイミングか知らないが、落下したリィムナと水鏡の間に村雨が挟まってるのだ。 というか、落下したリィムナをスライディング土下座の勢いで村雨が抱きとめて、勢い余って水鏡を押し倒していたり。 「あっぶなかったあ! サンキュー♪」 村雨の腕の中からぴょんと床に下りたリィムナ、無傷。 「うん、今回もロリーからスレンダー、熟れたむっちんまでナイス美脚DA!」 リィムナちゃんロリサイコーと叫んで、思いっきり腕は擦り剥いているはずなのに村雨はまったくもって幸せいっぱい。 「そろそろ退かないと酔拳つかうぞ」 水鏡は苦笑しながら身体を起こす。 (そろそろ生姜湯を用意しておきましょうか) 楽しげなみんなをみつつ、華表は重曹を片付けて生姜湯を用意しだす。 ●裏の依頼を遂行だ?! そう、表向きはギルドのお掃除な今回の依頼。 実は裏の依頼があるのだ。 それは、働かないアルバイトを更正させる事! 件のアルバイトが入り浸っている暖炉のお部屋に雫はそっと立ち寄る。 その部屋は暖かいを通り越して熱いぐらい。 どよんと淀んだ空気は、恐らく寒いからと空気の入れ替えすらしていないのではないだろうか。 アルバイトは、話の通り暖炉の前に陣取り、お菓子をつまみながら少なめの書類をチェックしていた。 「寒いから外に出たくないのも分かりますけど‥‥他の人も寒い中掃除してるんですし、あなたもやらなければいけませんよ?」 正攻法で、雫はアルバイトにはっきりと宣言する。 だがしかし。 「掃除なんてあんた達がすればいいでしょ? その為に雇われたの、アタシ知ってるんだもん♪」 キャハハと小馬鹿にした笑い付きで、アルバイトは雫を見ようともしない。 なんとも失礼極まりない。 こんなアルバイト、ぶっちゃけぶっ飛ばしちゃってもいいものだが、温和な雫は優しく諭す。 「運動不足になって、ご自慢の足もぶよぶよになっちゃいますよ?」 ご自慢の足、という言葉にバイトはぴくっと反応。 「ふふっ、おもわず齧り付きたくなるような太ももだ」 頃合を見計らって部屋に来た水鏡も彼女の足を褒める。 満更でもなく結構本気。 美脚自慢なだけあって、容姿はそこそこな彼女は足だけは完璧。 「お姉さん、お芋が焼けましたよ。みんなで食べませんか」 集めたゴミをギルドの中庭に集め、そこで焚き火と洒落込んだ透子は、ついでにお芋も焼いたらしい。 「焼き芋がいっぱいあるなら、それから芋羊羹もつくれるぞ」 芋の言葉に水鏡の目がきらきらと輝く。 芋羊羹中毒の異名さえある彼女にかかれば、焼き芋もすぐさま芋羊羹に変ることだろう。 甘いものに目がないんだよねぇと、アルバイトも嬉々として席を立つ。 そう、暖炉の前から動こうとはしなかった彼女が、甘いものにつられて動いたのだ! しめしめと目配せする開拓者達。 (‥‥成功) ぼーっとしているようで抜かりのない透子は、心の中でそっと呟く。 焚き火には、既にモハメドやリィムナ、セシリアも集まっていた。 次々とお芋を食べに開拓者達が集まってくる。 そして寒さにやっぱり部屋に戻りたくなったアルバイトは、目に飛び込んできたセシリアの姿に唖然とする。 「ンフフッ、どうしたのかしら」 判っているくせに、セシリアは恍けてアルバイトにウィンク。 自分以上に露出過多、そして遥かにナイスバディなセシリアをみて、アルバイトはわなわなと震えだす。 「美脚揃いの女の子を見てどー思う?」 いつの間に来たのか、村雨神出鬼没。 悔しげなアルバイトにさらに対抗心を吹っかける。 言われて周囲を見回せば、セシリアだけでなく集まった周囲の開拓者達はみんな美脚。 唇をかみ締めて顔を真っ赤にするアルバイトに、透子はふと、いま思い出したかのように懐から手紙を取り出す。 「ファンだっていうかたから渡してくれって頼まれました」 もちろん、それは嘘だ。 予め、透子が用意していたもの。 内容は言わずもがな。 「店先に姿を見せてくれないので、風邪でもこじらせているんじゃないかって、心配されてましたよ」 それも嘘。 でもアルバイト、そんな事には気づかずに満更でもないどや顔に。 「暖炉の前で壁の花になってるキミが超惜しい!! 俺の為に、いや、全世界の開拓者の為に受付に立ってくれ!!!」 これはもう、心の底から本音と本能な村雨の叫び。 「アーダ、習慣にこういったものがあります。アルマルア、女性は肌を露出するべからず。隠されているからこそ、慎ましやかな美しさが引き立つのではないでしょうか」 モハメドは足を多少は隠すようにと説得。 寒すぎて動いてくれないのだから、対抗心プラス露出の減少で暖かくなれば今までよりは掃除もしてくれるはず。 「おねーさんの足、ほんっとに綺麗だよね。あたしも大人になったらそうゆう足になりたいんだけどさ。でもおねーさんの足に誘われて寄ってくるのは紳士ばかりじゃないよ? セシリアみたいに凄まじく強いなら安全だけどね」 きちんと掃除も仕事もこなしているからこそあのスタイルを維持し、集まってくる馬の骨も裁けるのだとリィムナも語る。 引き合いに出されたセシリアはチラリと鞭をチラつかせた。 「折角綺麗な足なのですから、乾燥しやすい格好はもったいないです‥‥」 露出多目の女性を前に少しだけ遠慮がちに顔を赤らめ、他の場所も綺麗なのですからと華表は付け足す。 「寒いならガーターベルトやニーソックスもあるし、超ミニと組み合わせれば!! 魅惑の絶対領域がががっ!!」 魅惑の絶対領域の言葉に、アルバイト、ついに折れた。 美脚を隠しつつ見せる。 そして寒さもしのげる。 そんな必殺技に心惹かれないはずがない! そんなにアタシと一緒に働きたいのならと、アルバイト、渡された雑巾をついに手に取った!!! ●最後はみんなでお掃除しよう♪ 「ヴャーナイヤ、丁寧に扱ってください。木造には油脂が良いのですが、過剰は禁物です」 モハメドは今までまともに掃除したことなどないアルバイトに丁寧に掃除を教える。 そのアルバイトは、村雨がどうやってか用意したニーソ着用で防寒対策。 足元には透子お手製のミニ火鉢。 持ち運びも出来るそれは、いつでも側において置ける優れもの。 「深緋さーん、このガラス球はすてちゃっていいのかな? あと、こっちの紙くずも!」 ひびの入ったガラス球やくちゃくちゃの紙切れは、ぱっと見はゴミ。 けれど大事に思う人にとっては大事なものだったりするので、リィムナは勝手に捨てずにギルドの受付に拾ったアイテムをちっきり確認してもらう。 「みなさん、生姜湯が出来上がりました‥‥。これで温まってください」 身体の疲れも取れますと、華表はみんなに声をかける。 「自分で綺麗にするのは、なかなか気持ちがいいものだろ?」 生姜湯を頂きながら水鏡がアルバイトに問えば、 「ちゃんとお仕事をした後のお茶はやっぱりおいしいですね。そう思いませんか?」 雫もアルバイトに尋ねる。 アルバイトはちょっと悔しげに、でもこくりと頷いた。 こうして、無事にギルドのお掃除を終え、アルバイトも見事更正できたのでした。 ‥‥こっそりと、みんなが立ち去ったあと。 とある天儀風の部屋の畳の上で、透子が幸せげにころころと転がったのは、畳と透子だけの秘密である。 |