天空〜ライジング=Z=R〜
マスター名:霜月零
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや難
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/04/18 16:13



■オープニング本文

 ジルベリア最北領スウィートホワイト。
 その南の町ポアリュアで、瓦版屋の青丹はゲラ刷りに精を出していた。
 ポアリュア上空に浮かぶ天空の城からの襲撃を受け、壊滅状態に陥ったポアリュアは、けれど開拓者達の協力もあって、復興は思いのほか早く進んでいた。
 以前と同じとまではいかずとも、それなりに暮らしていける程度には。
 瓦版屋の建物も襲撃当時は半壊していたのだが、親方のジョーゼフ率いる瓦版屋マッチョ集団にかかれば、レンガを積み上げて平屋を作るぐらいは朝飯前だった。
 インクの匂いが心地よく、青丹は上機嫌で和紙を追加していたのだが……。 
「……なぁ、あれ。高度が下がってへんか?」
 瓦版屋の窓から、青丹がポアリュアの北の空を睨む。
 その目線には、ポアリュアの街を壊滅に追い込んだ天空の城の姿があった。
「もう殺るしかねぇだろう」
 瓦版屋の親方であるジョーゼフが、咥えていた葉巻を握りつぶす。
 あたかも、それが敵であるかのように。
 壊滅の被害にあってすぐに敵地に乗り込まなかったのは、避難民がいたからだ。
 救助を最優先し、そして今日までは街の人々が暮らせるように、復興を優先した。
 だがその復興も、目処が立った。
「野郎ども、準備はいいか! 俺達のシマを荒らしたアヤカシどもに、裁きの鉄槌を!」
 ドン!
 ジョーゼフが拳をテーブルに叩きつける。
 うぉおおおおおっと湧き上がる歓声。
(ついに、この日が来よったな)
 青丹もパシッと拳を鳴らす。
 やられっぱなしでいられる性格ではなかった。
 天空の城が、青い稲妻を帯電しているのが見える。
 ビリビリと城の周囲に迸るそれは、ポアリュアを壊滅状態に追い込んだ稲妻とはまた違う種類のもののようだ。
「おねーちゃん、ラティーフさんが調べてくれたんだよ。あの城にいる敵のことっ。ライジング=Z=Rっ!」
 青丹の妹の朽黄が本を片手に瓦版屋に飛び込んでくる。
 実にいい、タイミングだった。
 

◆前回までのあらすじ◆
 ジルベリア最北領南の町ポアリュアに突如として現れた瘴気積乱雲。
 巨大なそれの中から、大量のアヤカシが出現しました。
 空を覆うアヤカシを、その場に居合わせた開拓者達で協力して見事撃退!
 それ以降瘴気積乱雲自体はポアリュアの北の空に依然として存在し、数ヶ月間沈黙を守っていました。
 ですがある日、ポアリュアの街に巨大な稲妻を叩き落し、街を壊滅。
 大量のアヤカシを投下しました。
 幸い、駆けつけた開拓者達の活躍により死者はなく、瘴気積乱雲も払われ、天空の城を中心とした廃墟の姿が顕わになっています。


◆天空の城◆
 ライジング=Z=Rが拠点としている浮遊城です。
 移動速度はゆっくりですが、城と、それに付随している遺跡ごと移動しています。
 以前開拓者達が襲撃を退けた時、下記の事が判明しています。
 
『城は廃墟の中央に位置している。
 大きな湖にはスカイホエールが泳いでいる。
 湖の脇から出入りが可能のようだ。
 遺跡の東側には小さな森。
 魔の森ではないようで、アヤカシの姿は無かった。
 西側には一際大きく無骨な建物。
 歯車を幾重にも重ねた様なそれから、アヤカシアーマーが溢れ出していたが、アーマーはほぼすべて撃破している』


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 阿弥香(ia0851) / 天河 ふしぎ(ia1037) / アーニャ・ベルマン(ia5465) / 无(ib1198) / マルカ・アルフォレスタ(ib4596) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905) / 戸隠 菫(ib9794


■リプレイ本文

●突撃!
「いくよ阿弥香、40秒で支度して!」
 天河 ふしぎ(ia1037)が同じ空賊団の阿弥香(ia0851)に叫ぶ。
 空を汚すアヤカシを、空賊団『夢の翼』の団長として、けっして見過ごせる相手ではなかった。
「40秒? 冗談でしょ、あたしはいつだって準備万全、1秒だって無駄な時間はいらないぜ!」
 天空の城に向かって、星海竜騎兵と共に今にも飛び立ちそうなふしぎに、阿弥香は自身の相棒である鋼龍の爺に飛び乗った。
 ふしぎの滑空艇・改弐式である星海竜騎兵と違い、速度は余りない爺は、次々と飛び立つ仲間より少し遅れ気味だった。
 だが阿弥香は爺を急かすことはせず、算段を練る。
「頑鉄、今回も頼んだぞ」
 羅喉丸(ia0347)は皇龍の頑鉄に騎乗し、空へと駆け上がる。
 この城では数度の戦いがあった。
(この拳で、終わりを告げてやる)
 羅喉丸の拳は、必ずや敵を屠るだろう。
「もういい加減に、あれを本気で何とかしましょう」
 アーニャ・ベルマン(ia5465)の青い瞳は、赤と見紛うほど怒りで燃えていた。
 嵐龍のアリョーシャがその背に乗るアーニャの怒りを察したのだろう。
 落ち着いてというように一声鳴くと、アーニャは少しだけ瞳を和らげる。
「大丈夫です。私はこれでも落ち着いているんです。怒りに任せて撃ち抜くだけでは、きっと、あの城を止めれませんからね」
 天空の城が近づいてくる。
 地上からはるか高度に位置するそれも、アリョーシャの高速飛行なら一瞬。
(この城がまた再び街を苦しめないように、きっちり止めて見せますからね〜。じゃないと街の人たちが、ゆっくり眠れないじゃありませんか)
 激情を制御するのは、それを上回る優しさ。
 街の人々の事を思えばこそ怒りが沸き、そして優しさが冷静さを保たせる。
「若けぇの、雑魚は任せとけ!」
 瓦版屋ボスのジョーゼフが、无(ib1198)に親指を上げる。
 こくりと頷き、无は風天に「思う存分空を翔るといい」と伝える。
 无の懐に忍んでいる尾無狐も、いつでも无の支援をするつもりでいた。
 風天は風を切り、天空の城目指してくるくると舞い上がる。
「行きましょう、ヘカトンケイル」
 マルカ・アルフォレスタ(ib4596)は2mを越すグラーシーザを掲げ、ヘカトンケイルに騎乗する。
 今日で全てに決着を。
 マルカの金色の髪が、空を照らす太陽の光を帯びて、より一層輝く。
 ヘカトンケイルと共に空を駆け上がるマルカの光は、天使の輪のよう。
「ルゥミちゃん最強モードで、いっちゃうんだからー!」
 ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)は小さい身体がいっそ風圧に吹き飛ばされそうな勢いで、白き死神とともに天空の城を目指す。
「敵って、城の中だよね? どうにか外におびき出せないかな」
 空の色に溶け込みそうな大きな青い瞳をくるくると動かし、ルゥミは呟く。
「それは簡単なことだね♪」
 歳の近いルゥミの呟きに、リィムナ・ピサレット(ib5201)は笑顔で頷く。
 いつ敵からの迎撃が来てもおかしくない中、リィムナは少しも怖気付く様子がない。
 マッキSIを己の手足のように操りながら、ルゥミに指示を出す。
「あの城、ふっ飛ばしちゃおう♪」
「えぇええええ?!」
「もちろん、完全に吹っ飛ばしたらだめだよ? 下の街に被害が出ちゃうかもしれないからね。でもルゥミのその魔槍砲なら、遠距離からでも十分威嚇できるんじゃないかな♪」
 リィムナの提案にちょっと驚きながらも、ルゥミは頷く。
「わかった、あたい、やってみるよ!」
 ルゥミがぐぐっと口を引き結び、魔槍砲「赤刃」で城壁塔に錬力を撃ち放つ。
 派手な爆音と共に、塔が廃墟に向かって崩れ落ちた。
「完璧だね」
「あたい、頑張ったよ」
 リィムナとルゥミ、顔を見合わせガッツぽーず。 
 城の一部を破壊された敵――ライジング=Z=Rがその巨体を城に絡めながら、最上階に姿を現した。
「鞍馬、あれを倒せば平和が戻るね」
 戸隠 菫(ib9794)は甲龍の鞍馬に語りかける。
 ライジングの周囲に、彼らが呼び寄せたのであろう下級アヤカシの群れが飛来する。
 火の首が炎の息を撒き散らす。
 青い空が、赤く染め上げられてゆく。
 

●ライジング=Z=R
 空を貫く轟音を響かせて、ライジングは炎の息を吐き散らす。
 三つの頭を持つライジングに死角はなく、開拓者達は距離をとりながらタイミングを計る。
「汚れた空の物語はやがて地に落ちる……かかってこいライジング、夢の翼がお前の空に引導を渡してやる!」
 ふしぎの決意と共に、中空に光の団旗が現れる。
 空に掲げられた青い光の団旗は、仲間達に強い勇気と力を沸き起こさせる。
 ふしぎが使う事を知っていた阿弥香は、即座にライジングの横に回りこもうとする。
 だが。
「ちょっ、お前、全部の首でちゃんと団旗みとけっての!」
 三つ首の一つが、阿弥香をきっちり捕らえていた。
 阿弥香を捕らえた土竜の首は、土の息を阿弥香と、そして彼女を乗せる爺に放たれた。
「そんな簡単に直撃するかっての! あたしの爺をなめんなーーーーー!!!」
 ぶんっと、尻尾を振り方向を切り替え、爺は被弾を尻尾のみに留めてライジングの攻撃範囲から離脱した。
 土の息を受けた爺の尾には、びっしりと土砂がこびり付く。
「ふむ。伝承の『土に還る』とはこの事ですか。受け続けると確かに土に還る事になりそうだね」
 土の息で作られた土砂は、通常の土砂とは違い、阿弥香の爺が尻尾を大きく振るっても、決してはがれない。
 全身に土の息を受けた場合は、身体の動きを封じられ、地に落ちる事になるだろう。
 まとわりついてくる白羽根玉を、无は無造作に魔刀で払った。
 菫は片手で印を結び、一瞬目を閉じる。
 体中により一層力が行き渡るのを感じた。
 そしてそのまま、阿弥香の爺に隣接する。
「治癒できるか、試してみるからね」
 薙刀を振り、菫は爺の尾に意識を集中する。
 中央の火竜の首が、嫌らしく笑った。
(頭は三つ。ならば!)
「頑鉄、皇の力がいかほどのものか見せてやれ」
 羅喉丸の声に呼応し、頑鉄の身体が精霊力に包まれる。
 菫を狙う火竜の首を回り込み、その意識を菫から自分に向けさせつつ、ライジングの身体にまとわりつく帯状の雲に狙いを定めた。
(言い伝えと同じく、ライジングを治癒するものであるならば、早急に消さなくては)
 頑鉄が敵の首と首の合い間に漂う雲に、迷う事無く突っ込んだ。
 突き抜ける感触がないのは瘴気の塊だからか、それとも、性質自体が雲なのか。
 踵を返す頑鉄と共に、羅喉丸は瞳を凝らす。
「余所見をするとは、余裕ですね〜」
 アーニャが自分を向いていなかった土竜の黄色い瞳を狙い撃つ。
 その瞬間、風竜の首がアーニャの射った矢を、風の息で横凪ぎに吹き飛ばした。
(三つの首全てが別の所を向いている時でないと、狙えそうもないですね。三つもあるのが厄介です)
 アーニャは瞳を狙うのを一旦控え、威嚇射撃に移行する。
 その間に、菫は爺の治癒を完了した。
 爺の尾にこびりついていた土砂が消える。
「よし、治癒できたんだよ」
「爺、やったな、これでよゆーで戦えるぜっ」
 菫に拳を振り上げて感謝しながら、阿弥香は体制を整える。
 そしてリィムナは、自分とまったく同じ姿の式を作り出す。
 マッキSIに双子のように乗り込む鏡像は、リィムナそのもの。
 姿だけでなく、その能力さえも写す彼女の腕から、ぞわりと見えない何かが放たれた。
 ライジングに向かって落とし込むように放たれたそれは、ずるりとライジングに絡みつく。
 びくんっと、風竜がのた打ち回り、土竜に激しくぶつかった。
「その隙、もらいましたよ〜!」
 アーニャの弓が、今度こそ土竜の瞳を射抜いた。
 鋼鉄の体の中で、瞳だけはその強度を保てないだろう。
 そう考えたアーニャの推理は正しかった。
 深々と突き刺さった瞳の矢穴から、瘴気が漏れ出す。
「やはり治療し始めたか」
 羅喉丸がぐっと拳に力を込める。
 彼の一撃だけではまだ消しきれていない瘴気の雲が、土竜の瞳を、そしてリィムナの鏡像に苦しめられている風竜にまとわりつく。
 痛みが止まったのだろう。
 風竜はのた打ち回るのをやめ、そして一瞬にして自身の首はもちろんのこと、三つの首とその身体を包み込むように放電しだす。
 リィムナが再び作り出した鏡像による攻撃が、稲妻に阻まれているのが分かる。
 なかなかやるねと笑いながら、リィムナは余裕を崩さない。
 しかし鏡像による攻撃だけでは、稲妻の結界は消せそうもなかった。
「あたいの砲撃は、跳ね返されるタイプだとまずいんだよ」
 跳ね返すかどうか試すのは、ルゥミの高い破壊力を誇る魔槍砲では危険すぎた。
 火竜、風竜、土竜が四方八方にブレスを撒き散らす。
 ブレスは稲妻の結界に邪魔されることなく、開拓者達へ向かって放たれた。
 マルカは自身の胸に尋ねてみる。
(あの稲妻は、聖堂騎士剣で斬れますかしら?)
 答えはやってみなければわからない。
 だがライジングの吐く息は明らかに瘴気だ。
 その瘴気は止める事無く通す稲妻の結界に、試してみる価値はあるだろう。
 マルカはグラーシーザを掲げ、そのまま躊躇う事無く突っ込んだ。
「我が槍の前に散りなさい、アヤカシよ!」
 ヘカトンケイルの身体を錬力の鎧が包み込み、輝きながらマルカと共に凄まじい速度で稲妻の結界に突っ込んだ。
 ヘカトンケイルの速度も乗った槍の穂先が稲妻の結界に突き刺さり、ガラスが割れるかのようにヒビが広がってゆく。
 ぱりぱりと割れてゆくそれは、けれどマルカを無事に逃しはしなかった。
 槍の先端からマルカの全身へ、そしてヘカトンケイルへ。
 稲妻が駆け抜け、貫かれた痛みは身体の自由を奪いさる。
 一気に落下する二人。
「仲間を失うとか、ありえないんだからなっ!」
 ふしぎが星海竜騎兵最高速度でマルカを捕らえ、抱きかかえる。
(ヘカトンケイル……っ)
 動けないマルカは、落下する相棒に心の中で悲鳴をあげる。
 霊鎧で身を包んでいたヘカトンケイルは、例え地面に追突しても命を落とすことはないだろう。
 だが、無傷で済むはずがない。
 次の瞬間、ヘカトンケイルにリィムナの鏡像が光を放つ。
「すべて、余裕♪」
 こんな場面でも笑顔のリィムナの言葉通り、ヘカトンケイルを包む白い光は、彼が地面に激突するよりも早く彼を治療し、大空へと舞い戻らせた。
 リィムナの鏡像が再び白い光を放つ。
 その光はマルカを包み、彼女の自由を取り戻した。
「ありがとうございます、リィムナ様」
「どうってことないね♪」
 鏡像が消えるたびに作り出すリィムナの練力は、まるで無限。
「変な稲妻さえ消えれば、あたいの出番! まとめてふっとばすよー!」
 ルゥミの練力が魔槍砲に注がれ、一気に放たれる。
 爆音を響かせて練力の砲弾は狙い違わず風竜の首を直撃し、周囲の下級アヤカシも瘴気と還した。
 マルカをヘカトンケイルに返すと、ふしぎは阿弥香に合図する。
「深淵の底より舞い込みし銀鱗の最終兵器よ、我が敵を貫け! 田中さぁぁぁんっ!」
 田中さんって、誰?!
 そんな皆の心の突込みを他所に、阿弥香はその利き腕に巨大魚を召喚した。
「そのおっきなさかな、何?! サイズがおかしいんだよ?」
 ルゥミが度肝を抜かれる。
 阿弥香はビチビチと暴れるそれの尾を片手で握り締め、思いっきり火竜の首をぶっ叩く!
 見た目こそ異常な巨大魚のそれは、れっきとした最終兵器。
 バキッと小気味良い音を立てて、火竜の首があらぬ方向に曲がった。
「この空のお宝も、夢の翼が貰っていく……穢れたアヤカシよ、無に還れ!」
 ふしぎは体勢を立て直せない火竜の口に銃口をねじ込み、そのまま撃ち放つ。
 鱗に守られることのない口内は、そのまま弾丸の進入を許し、頭を貫いた。
 火竜の首が絶叫と共に瘴気へと還ってゆく。
 瘴気の雲の治癒は間に合わなかった。
 残る風竜と土竜がふしぎを捉える前に、彼は星海竜騎兵の可変翼を閉じ、一瞬にしてライジングの攻撃範囲を離脱した。
「まだ生き残っていましたか」
 无が、アヤカシアーマーの残党に目を向ける。
 風天が即座に向きを切り替え、飛来するアヤカシアーマーを掴みあげた。
「そのままR=Z=Rへ」
 ヒュンッと風を切り、風天はライジングの身体にアヤカシアーマーを投げつけた。
 激しい爆音の後に残ったのは粉々に砕け散ったアヤカシアーマーの成れの果てと、ライジングの巨体を包む鱗の損傷。
 強靭な肉体を誇るであろうライジングは、思わぬ抜き打ちに呻き声をもらす。
(喉より、いまならあの身体だよね)
 菫は幅広の薙刀を構え、ライジングの鱗の剥げた部分を狙いに行く。
「ばっちり援護しますよ〜」
 アーニャが菫の動きが阻害されないよう、下級アヤカシを射抜き、さらに菫を狙う三つ首を威嚇射撃で妨害する。
 瘴気の雲がライジングの身体に纏わりつくが、菫はそれごとライジングに切りつける。
 ライジングの身体と瘴気の雲と。
 双方から瘴気が漏れ出した。
「勝負に偶然などない。必然あるのみだ」
 一頭欠けた今、死角だらけのライジングに、羅喉丸の拳を避ける幸運は訪れない。
 風竜の頭部に決まる彼の拳は三度。
 ただの力技などではない剛柔、快慢を兼ね備えたその拳は、風竜の身体を内部から破壊し、治癒に纏わりつく瘴気の雲をも消し去った。
 无がジョーゼフに指示を飛ばす。
 ジョーゼフと无、二人同時に狙うのは残った土竜の首。
 无は自身と同じ姿の式を作り出し、そしてそれを己の身体に取り込んだ。
 黒い気配を纏いながら、无は土竜の残る瞳に攻撃を繰り出す。
 ――すべての頭を失ったライジングの身体が、瘴気へと還ってゆく。 
 

●天空の守護者
 その事態に最初に動いたのは、リィムナだった。
「マッキSI、突っ込むよーーーーー!!」
 掛け声と共に、リィムナは失速する天空の城に踵を返す。
 主を失った城は、そのまま地上に向かって落下を始めていた。
 ポアリュアの街のさらに南へ。
 そう、よりにもよって、住民があらかじめ避難していた場所に向かって。
 リィムナが巨大な落下片を粉砕する。
「人を糧とする本能所以か」
 无が言わんとするより早く、風天が加速度を上げて天空の城より先に、避難地へ駆ける。
 高速飛行の鍛錬は、風天をより一層速度の神域へと近づけていた。
 无の懐の尾なし狐が武者震いをする。
「ちょっとちょっと、まさか街の人たちを狙ってるっていうの? この期に及んでそんな事させないんですからね〜!」
 落下してゆく天空の城に、もうアヤカシはいない。
 だが、残留思念のように天空の城とその廃墟は、地上に向かって加速してゆく。
「こうゆう使い方も出来るんだよね」
 菫が、ルゥミの真上に飛んできた遺跡片に、とっさに盾を出現させてそのまま鞍馬と共に突っ込んだ。
 鞍馬の速度と盾の強度、そして遺跡片の落下速度がぶつかり合い、遺跡片は粉々に吹き飛んだ。
(落下を食い止める方法はあるのか?)
 羅喉丸は天空の城を追いながら、もう一度その地形を思い返す。
(天空の城を空に留めていたのはライジング=Z=Rの瘴気だけか? これほどの遺跡と城を維持し続ける動力源がそれだけか?!)
 天空の城と遺跡を確認する羅喉丸の目が、巨大な歯車からなる無骨な建物に止まる。
 あれから湧き出るアヤカシアーマーはもういない。
「アヤカシアーマーを排出させる箇所は、アーニャ様達が破壊してくれましたわ。なのになぜ、再び稼動音が響いているのでしょう?」
 マルカも目を止めていた。
 ゴゥン、ゴゥンと、独特の動力音が辺りに響いている。
 だがよく耳を澄ませば、途中途中、音に違和感が生じていた。
(何かが挟まっている?)
 そして同時に、瘴気に留められていたのであろう遺跡が、城の周囲からぼろぼろと剥がれ落ち始めた。
「させないって行ってるでしょーがー!」
 アーニャが切れ気味に叫んで、剥がれた遺跡に矢を放つ。
 遺跡は地上に落ちるより早く、アーニャの矢に粉砕され、粉々になった。
 无の合図にジョーゼフの銃も火を噴いく。
「まだお宝回収してないんだからな! このまま街の人々に絶望を届けるなんてごめんだよ」
 天空の城を追うふしぎに、阿弥香が頷く。
「爺っ、このままあたしらも突っ込むよっ」
 阿弥香の行動に、爺は軽く頭を振りながらも飛行速度を上げる。
 やれやれ、やんちゃなお嬢ですな、という心の声が聞こえてきそうだ。
「ええっとええっと、とにかくあたいは遺跡を落としていくんだよ。あとあと、街のみんなをもっと避難させるんだっ」
 事態はいまいち飲み込めていないものの、ルゥミは周りの仲間達の行動から判断して、白き死神で天空を駆る。
 剥がれ落ちる遺跡の数々に強烈な閃爆光を炸裂させ、地上に降り注ぐのを食い止めながら、避難場所へ急いだ。


 南の避難地では、无とルゥミが全力で避難誘導を行っていた。
「皆さん急いで。キミは、足を怪我しているね。風天に乗ってくれ。大丈夫、決してキミを傷つけることは無いと約束しよう」
 足を負傷している少年を无が促す。
 天空から降り注ぐ破片はすべて開拓者達が撃破しているのだが、この少年は自分で転んでしまったらしい。
 尾無狐が无の懐から飛び出し、風天の上に飛び乗った。
 くるくると風天の上で回る尾無狐に、怯えていた少年の瞳が和らいだ。
(恩に着るよ)
 无が小さく尾無狐に呟くと、尾無狐はふふんと頷いて无の懐に戻る。
「みんな、ちゃんと全員いるねー? あたいたちについてくるんだよ!」
 ルゥミが叫ぶ。


 崩れ続ける遺跡と天空の城に、羅喉丸とマルカが舞い戻る。
 城の下では絶え間なく爆撃音が響いていた。
 仲間達が、地上に遺跡が落下しないように破砕している音だ。
 いつ崩れ落ちるともしれない遺跡には降り立たず、歯車の建物に互いの相棒で近接する。
「……アヤカシアーマーの出現口は完全に破壊されていますわ。音は中からですわね」
「だな。マルカ殿、その槍で金古美色の歯車をどかせるだろうか。俺の拳では隙間に入りそうもない」
 動きを止めている金古美色の歯車と、アヤカシアーマーが出現していた歯車と。
 二つとも既に動きは止まって見えるが、二つは隣接し、その隙間は羅喉丸の拳よりも狭い。
「やってみますわね」
 マルカが槍の先端を歯車と歯車の隙間に突き立てる。
 ヘカトンケイルがマルカが力を込めやすいよう、さらに遺跡との距離を狭めた。
 ギギッ、ギギギィー……。
 金古美色の歯車が、マルカの穂先に押されて、横にずれた。
「やはりか。地中の歯車はまだ動いているね」
 動かない歯車に隠されていた地中があらわになり、空洞の中に大小いくつもの歯車が回っていた。
 そして問題の異音を発している部分には、薄暗い中で遺跡の破片が詰まっているのが見える。
「つまり動力源はいくつかあって、歯車が一部止まっても完全に停止はしなかったのか」
「あの破片をどかすには、もう少し歯車をいくつか動かしませんとこの槍でも届きませんわ」
 マルカが槍の穂先を地中に下ろすが、別の歯車に邪魔されて動かせない。
「頑鉄で上に引いてみる。少し離れていてくれ」
 ふわりと舞い上がり、頑鉄が歯車のひとつを上から掴む。
 地面に突き刺さるそれに、頑鉄は厚い爪を食い込ませ、羅喉丸の指示通り引き上げる。
 頑鉄の前足が筋肉で隆起し、鱗が開く。
 土を引き剥がす勢いで、頑鉄が歯車を引き上げた。
 巨大な歯車を完全にどかすと、多量の光が差し込んで地中の歯車に挟まっている遺跡の欠片を照らし出す。
 だが中をさらに覗き込んだマルカは、槍で突くことをしなかった。
「……槍で突くだけでは、下に落ちてしまいますわね」
 光が入ったおかげで、遺跡の欠片のさらに下にも、大小さまざまな歯車が回っているのがよく見えるのだ。
 上手い具合に歯車を避けて落下してくれれば良いのだが、運任せになる。
 破砕するほどの力を込めれば、歯車すら粉砕しかねない。
 長い槍では進入角度も限られていた。
「腕は届かない、か? ここまできて!」
 羅喉丸が拳を地面に叩きつける。
 地上が迫っていた。


「これはもう、最悪の事態に備えるしかないね♪」
 リィムナは天空の城と、避難地と。
 その二つを結ぶ軌道線上にマッキSIと共に空に留まる。
(やるきだね。きっちり、援護するんだよ)
 菫はこくりと頷いて、リィムナに降り注ぐ遺跡片を自身が作り出す盾と、鞍馬のクロウで叩き消してゆく。
 迫る天空の城が、リィムナと菫の視界いっぱいに広がった。


 ふっ、と。
 絶望的な状況の羅喉丸とマルカの上に、影がかかった。
「僕達に任せて!」
 ふしぎと阿弥香だ。
「あたしが破片はふっとばすから、ふしぎは思う存分やっちゃって!」
「了解っ、空賊にかかればこんな欠片、どうってことないんだからなっ」
 ふしぎは銃身を欠片に向け、角度を測る。
 地中にではなく、空に撃ち上がるその角度を。
 銃声が響くと同時に、欠片が歯車から弾き飛ばされた。
 空を舞うそれを、阿弥香が符で打ち砕く。
 ゴゥンと一際力強い音が響き渡り、ガクンッと落下が停止した。


「もう城ごと吹っ飛ばすしかないかと思ったけど、やったね♪」
 落下する遺跡を、地上に決して届かないように粉砕し続けていたリィムナは、ふふっと笑う。
 彼女の力量ならば、城の完全破壊もあながち冗談にならないのだが。
「これですべて終わったのですね。やっと、学業に専念できますわ」
 ふわりと微笑むマルカ。
 きっと彼女はこれから、貴族の娘として、勉学はもちろんのこと、苦手な料理も克服してゆくに違いない。
「天空の城が残ってよかった。アヤカシさえなければ観光名所として使えますね〜」
 アーニャも嬉しそうだ。
 彼女が言うように、地上から七メートルほどの場所で浮力を取り戻した天空の城は、確実にこの地域の名所になるだろう。
「ふむ。高さ的にも相棒がいればすぐにこれる距離ですし、柵等の取り付けをすれば安全面も確保できますね」
 避難民を誘導し終えた无も乗り気だ。
 尾無狐も一肌脱いでくれるに違いない。
「そうですよね。こんな復興財産、そのまま放っておくなんて勿体ないですよ」
 乗り気の无に、提案者のアーニャはより一層うんうんと嬉しそうに頷く。
 アーニャにとって、この天空の城は恋人との思い出もある。
 浪漫が詰まっているのだ。
「動力源は城の地下にあるようだから、瘴気が完全に消え去っても崩れ落ちる心配もないね」
 羅喉丸は音を頼りに動力源の位置を確認してきたらしい。
「遺跡自体の落下ももう止まったようだけれど、定期的に強度の確認はしておいたほうが良いと思う。それと、動力源の詳しい位置も要調査だね。飛空挺も日々の手入れって大事なんだ」
「この城の動力は、瘴気じゃなく宝珠だな。もう瘴気は完全に消えてる。あたしの符が反応しないしな」
 城の動力確認を提案するふしぎと、符を指に挟んでみせる阿弥香。
「瘴気が残っていないなら、動力確認のついでにみんなで探索しとこうっ!」
 空賊として見逃せないんだぜと、ふしぎが笑うと、皆も笑う。
「いろいろ楽しみだね。でもまずは、地上に戻ろうか?」
 盛り上がり始めたみんなに、菫はウィンク。
「みんなー! あたいたちのこと、ポアリュアのみんなが労ってくれるって。宴会だよっ」
 ルゥミも地上から戻ってきて、ぶんぶんと小さいお手手を振りまくる。
 ポアリュアの街を守り抜いた彼らが、街の人々から天空の守護者と呼ばれだすのは、このすぐ後のこと。
 ――晴れ渡った空には、もう、暗い影はなかった。