指先の灯火に
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/29 03:49



■オープニング本文

 ジルベリア最北領スウィートホワイト。
 深い雪に覆われ、寒さが一層深まる冬の今日。
 ―― 季節外れの蛍が舞った。
 ふわり、ふわり。
 夕闇と共に数は増し、そして夜の街を明るく彩る。
「綺麗ねぇ……」
 そんな季節外れの蛍に、街人は目を細める。
 本来、ありえないその光景を、けれど街人は誰一人違和感を感じる事無くその光景に見入っていた。
 どこからともなく溢れる蛍。
 淡い光りと共に町を優しく、そして残酷に、全てを覆い尽くして逝く。
「不思議ね……あら」
 窓辺から蛍の群れに手を差し伸べていた女性は、指先に灯った光に榛色の瞳を見開いた。
 蛍が、指先から身体の中に入っていったのだ。
 するすると何の痛みを残す事無く。
 そして蛍の淡い灯火は、指先から手首へ、手首から肩へ。
 彼女が慌てて振り払おうにも灯る光は身体の中からで、到底払えるものではなく、光は肩から額へと登りつめた。
「ユ−ディア、逃げてっ……っ」
 彼女は目の端に映った最愛の娘に叫んだ。
 近付いては駄目だと、本能的に悟った。
 これは、危険なのだと。
(「あ……なにか……視える……?」)
 額を灯した女は、町のどこかで蠢く巨大な光りを視た。
 巨大な光は何かの建物の中で、光りであるにもかかわらず嬉しげに感じた。
 それは、榛色の瞳が見たものではなく、直接脳裏に浮かぶもの。
 その建物は雪に覆われた煉瓦造りの外壁が覗き、赤い屋根と一際高い塔のような……。
 それがどこであるか、彼女が理解したその瞬間、彼女の意識はふつりと途切れた。


 数日後。
 開拓者ギルドには以下の依頼書が張り出された。

『ジルベリア最北領スウィートホワイト西方の町で怪異発生。
 町中に蛍系アヤカシが溢れ、住民は全てアヤカシの支配下にある模様。
 至急、現地に向かい住民を救出、及びアヤカシの殲滅を求む』 
 


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
アグネス・ユーリ(ib0058
23歳・女・吟
イデア・シュウ(ib9551
20歳・女・騎
久郎丸(ic0368
23歳・男・武
ヴィユノーク(ic1422
20歳・男・泰
三郷 幸久(ic1442
21歳・男・弓


■リプレイ本文

●少女
(唯一の生き残りになんかさせない)
 羅喉丸(ia0347)は目の前の少女を見て、強くそう思う。
 開拓者ギルドで保護されている少女の名はユーディア。 
「大丈夫、お母さんも街の人達も、絶対僕達が助け出してくるから!」
 天河 ふしぎ(ia1037)は虚ろな瞳をした少女に、優しく微笑みかけながらその頭を撫でる。
(よほど、怖い思いをしたんだろうな。お母さんが目の前で光に包まれたはずだし)
 怯えきっている様子の少女に、ふしぎは胸が痛んだ。
 そしてそんな二人の様子をみながら、最悪の事態を想定してたのは竜哉(ia8037)だ。
「君の町に、避難場所は決まっていたかい?」
 そうユーディアに話しかけながらも、竜哉にはこの状況は絶望的に思えてならなかった。
 情報の少なすぎる現状、可能性を広げる為には情報量を増やすしかない。
 けれどそんな竜哉に、ユーディアは怯えた瞳を揺らがすばかり。
「お嬢ちゃん。母さん達を迎えに行ってくるから、このかえるさんといい子にな」
 ユーディアに聞きたいことは三郷 幸久(ic1442)にもあったが、彼は手にしたかえるのぬいぐるみを渡すとすぐに少女から離れ、イデア・シュウ(ib9551)に後は任せたと目配せ。
 大勢の大人に囲まれては、少女もより一層不安だろうという気遣いからだ。
 かえるのぬいぐるみをぎゅうっと抱きしめるユーディアは、その柔らかさに安堵感を覚えたようだ。
 幽かに光の戻った瞳を竜哉に向け、「広場の、お屋敷」と呟いた。
「広場か……。そうだね、火災なんかでも、広い場所に出るのは基本だね。そこに屋敷があると。地下なんかはあるかい? そうか、特にないんだね」
 ふるふると首を振る少女にイデアは頷くと、ギルド職員に町の地図を用意させた。
「この中央の建物は何かな。ここは避難場所とは違うの?」
 アグネス・ユーリ(ib0058)が地図の中央を指差す。
 町外れの広場にある建物よりは一回り小さそうだが、その分高さのある建物だ。少女は時計台だと答える。
「時計台? そう、町で一番高い建物なのね。ここにいけば、町全体が見渡せるね」
 ふむふむと頷くアグネスと、ヴィユノーク(ic1422)が変わる。
「あんたが見聞きしたことを教えてくれ。辛いだろうが、皆を、あんたの母親を助ける糸口を掴むためだ……出来るな?」
 ヴィユノークの紫色の瞳を、少女の榛色の瞳が見上げる。
 強い意志が灯った。
「ママは、蛍に捕まったの。あの蛍は、ママの、指先に止まって、そのまま、身体の中に入っていったの。そしたら、たくさんの蛍がママにいっぱい寄ってきて……」
「町中の人にそれが起こった?」
「たぶん、そうだと思う。……わたしは、指を隠して町の外に走ったの。誰か、呼ばなくちゃって……」
 気がついたら暖かい部屋の中で、ベッドに横たわっていたという。
 雪の中に倒れていたのを、通りすがりの商人に救出されたのだと、ギルド職員が補足した。
「……約束する。皆を助けてくる」
 ヴィユノークはユーディアの小さな頭をぽふぽふと撫でた。
 指先からの侵入。
 それは、大きな情報だった。
 そして久郎丸(ic0368)は、コートを目深に被りなおした。
 ユーディアに自身の青い肌を、アヤカシにも見紛う奇異な容姿を、決して見せぬように。
 不安に、させないように。
(「……手を貸そう、何度でも、な」)
 その心には皆と同じく、必ず町を救うという思いを宿しながら。


●光りの町
「綺麗だが……厄介だな」
 幸久は前方に映る光の町に赤い瞳を細める。
「……寒いのは嫌いだ。早急に元凶を潰すぞ」
 防寒をきっちり整えていても、寒さは感じるのだ、当然。
 ヴィユノークは足元の雪を注意深く踏みしめる。
 無駄に音を立てて支配下にあるであろう住民を刺激しない為だ。
(「天然自然、在るべき様に、戻るべし……。光りであれば、空に還りし」)
 久朗丸は美しさよりも、強い違和感を覚えながら念珠「翡翠連」を握る。
「人数分の地図は用意して貰ったけど……東側に広場か。ここからだと一番遠くなりますね。蛍のこの量を考えると、最短距離を行くにしても厄介。綺麗なのはいいけど……」
 イデアの膝までゆうにある雪の深さも問題だった。大通りを進むだけならともかく、少しでも路地裏に入れば雪は人の侵入を拒んでしまう。
「ちょっとみんな、保衣天かけるよ。これで少しは動きやすくなるはずなんだ」
 ふしぎが希望者の手を取って、思いを込める。
「ああ、暖かくなってきたわ。あんた凄いわね。もう防寒具がいらないな!」
 アグネスが着込んでいた防寒具を脱いで、腰に巻く。
 薄着の姿に久朗丸がそっと目を逸らした。
「約300人の人口を全て馬車に乗せることは出来ないが」
 そう言う羅喉丸の後ろには3台の馬車が控えている。
 アヤカシを殲滅できるに越したことはないが、もしもの時の為に羅喉丸自身も大量の医療品を持ち込んでいた。
「避難場所には俺が行く」
 外套を払い、竜哉が先陣を切った。
「任せた。俺達も急ごう」
 羅喉丸に、皆頷いて、それぞれ地図を手に町を捜索しだした。


(「俺は、可能性を信じるぞ」)
 雪に囚われる事無く蛍をかわし、竜哉は真っ直ぐに、避難所を目指した。
 広場にあるという建物はすぐに見つける事が出来た。
 竜哉は身を潜め、周囲を窺う。
(「光りに囚われし人々は2……3……、4人か」)
 4人の内3人は女性と思われる体つきだった。
 竜哉はタイミングを見計らい、男性と思われる光りの塊の、その額目掛けて自身のオーラを撃ち放った。
 光りの塊は大きく仰け反り、倒れ伏す。
 一瞬、命を奪ってしまったかに見えたが、それは違っていた。
 きっちりと手加減をかけて放たれたオーラは、男性の額付近の蛍を、そしてその中に巣くう蛍をも消し去ったのだ。
 蛍を集める指令塔となっていた内部の蛍を消滅させた事により、男性の体からははらはらと雪が解けるように光が散らばり去ってゆく。
「しっかりしろ、意識はあるか」
 即座に男性に駆け寄った竜哉に、男性は避難所を指差す。
「わかった、必ず助ける」
 竜哉は男性を近くの建物の中に保護し、即座に避難所に駆け込んだ。
  

「ほんとに、蛍だらけだね」
 ふしぎは手元に戻した人魂の小鳥を撫でて、溜息をつく。
 こうしてふしぎ達が町に侵入していても特に迎撃してくるでなく、こちらが何もしなければ漂っているだけに過ぎないのだが。
「あんた、ちょっと手を貸してくれ」
 ヴィユノーグがふしぎを手招きする。
「ここの奥、見れるか?」
「奇妙な雪の形だね」
 ヴィユノーグが指差す場所には、雪が蓋をするように被っているのだが、地下への階段らしきものが見える。。
 隙間から屈んで覗き込み、ふしぎは小鳥をその中に飛ばす。
「あっ!」
 ふしぎは叫んだ。
 女性だ。
 雪に隠れていたのは地下への階段で、地下室には女性が倒れていた。 
 即座にヴィユノークが雪を蹴り上げ、その入り口を露わにする。
 蛍が周囲に集まり始めた。
「俺がここを持たす。あんたは彼女を早く安全な場所へ!」
 ヴィユノークが手の平に気を集中し、撃ち放つ。
 激しく点滅し始めた蛍が一瞬で消し飛んだ。
 けれど蛍は無限とも思える量。
 すぐにヴィユノークの周囲に光が溢れた。
 蛍がヴィユノークの指先に集う。
 だがそこまでだった。
 蛍は決して、彼の体内に侵入することは出来なかった。
「対策は講じてあるさ」
 ふっと笑う彼の指先はきっちりと布で巻かれ、隠されていた。
「どうかしっかりして! もう大丈夫なんだぞ!」
 ふしぎが即座に女性に保衣天をかけ、抱きかかえる。
 指先をきっちりと隠すことも忘れない。
 階段を登るふしぎの目に映ったのは、日の光と積雪の反射光で、輝く蛍よりもさらに眩く輝くヴィユノーク。
 サラサラの金髪が、彼が拳を振るう度に煌めき、そしてその拳は紛い物の光りを消し去ってゆく。
「道は開いた」
「ありがとう!」
 ぶっきらぼうに呟くヴィユノークに、ふしぎは満面の笑みで答えた。
 

(「……妙ね……大量のアヤカシが、一定の秩序を保って動いてる、ように見える」)
 アグネスは蛍の動きに違和感を覚えていた。
 無意味に漂うかのように見える蛍だが、集団で少しずつ移動しているのだ。
 アグネスは、意識を耳に集中し、周囲の気配を窺う。
 けれど拾えるのは囚われの人々の吐息ばかり。
「羯諦、羯諦、波羅羯諦……波羅僧羯諦……菩提、薩婆訶……」
 久朗丸が囚われの人々の内の一人に、念珠をかざす。
 念珠に込めた気を一気に光りの塊に叩きつけた瞬間、光が拡散した。
「意識は、あるか……」
 アヤカシから解き放たれ、倒れる女性を、久朗丸は抱き止める。  
 薄っすらと榛色の瞳を開けた女性は、久朗丸に「赤いレンガの……時計台を……」と訴え、再び気を失った。
「時計台! そうか、このアヤカシ達は時計台を中心に円を描くように移動しているのよ!」
「だが、そこは、今まで以上に、忌まわしき光り多き故……」
「大丈夫、あたしにまかせて! あんたは出来るだけ敵をあたしに向かって追い込んでくれればいいわ」
「何を、する気だ……」
「あたしは、踊り子よ!」
 アグネスが軽快に歌い、踊りだす。
 透けるほどに薄い衣装でも保衣天に守られた身体は雪に囚われる事無く、両手首のブレスレットはシャラシャラと小気味よい音を辺り一帯に響かせる。
「成るほど、見事だな……」
 周囲の囚われ人から、光が次々と剥離し、そして解放されてゆく。
 それは、アグネスの奏でる曲が届いたであろう広範囲に及んだ。
 光りから解放された人々の中には何事もなかったかのように平然としているものが多数いた。
 久朗丸は顔をナイトクロウで隠したまま事情を説明し、彼等に指先を隠させながら意識のない者や自力歩行が困難な者の救助を頼み、避難を促した。
「このまま、街の人達をどんどん解放していくわ」
「御意……喝ッ!」
 避難民の邪魔になる蛍を一喝して追い払い、久朗丸はアグネスについてゆく。
 

「火には怯まないようですね」
 イデアが人々にかざしていた松明を戻す。
 光の塊として漂う人々は、それを攻撃とは捕らえず、けれどたじろぐ事もなく。
「なら、これはどうかな」
 人に群がる蛍を、虫網で捕らえてみる。 
 決して叩きつける事無く、赤子の手に触れるように優しくゆっくりと。
 そんな柔らかい動きでも、人に集る蛍は剥ぎ取れた。
 強い吸着は無かった様だ。
 ふわふわと虫網の中に捕らえられる蛍を、イデアは情け容赦なく踏み潰す。
 囚われの人々が一斉にイデアに振り返ったのは、まさにこの瞬間。
 周囲の蛍達が強い点滅を繰り返し始めた。
 そして、囚われ人々の指先が真っ直ぐにイデアを指差す。その先端に強い光りを集めながら。
(「まずいっ……っ」)
 本能的にペンタグラムシールドを掲げ、瞬時に指先の軌道から回避する。
 次の瞬間、指先から放たれた光は今まさにイデアがいた場所を爆破した。
 囚われの人々はなおもイデアを狙い撃つ。
(「人々には反撃は出来ませんね……一体何がどうなってこんな事態に……」)
 絶体絶命。
 けれどイデアは屈しない。
 屈するなど、諦めるなど、そんな弱さを認めはしない。
 アヘッド・ブレイクで光弾を避け続け、点滅を繰り返す蛍には騎士剣「グラム」の長大な刀身を見舞う。
 人を傷つけることは決して出来ないが、漂う蛍なら躊躇う理由は何も無い。
 目障りな光りを放つ蛍に惑わされる事なく、イデアは殲滅してゆく。


「爆音?!」
 周囲に響き渡った音に、幸久は振り返る。
「近いな。向かおう」
 羅喉丸が雪煙を上げながら走り、幸久も後に続く。
 二人が爆音地点に到着したのはほんの数分後。
「イデアさんっ?!」
 囚われの人々に光弾を放たれるイリアに、幸久は咄嗟に矢を番える。
 そのままイリアを再度狙う囚われ人目掛けて放った。
「なにを考えて……っ」
 止め掛けたイリアは、けれど矢を見て安堵する。
 鏃がついているはずの先端部分には、クルクルと布が丸く巻かれていた。
 幸久が事前に用意しておいたものだ。
 次々と放たれる矢が狙ったのは、人々の腕。
 急所でなく額でなく、もし万が一当たり所が悪くても骨折で済む程度の部位だ。
「次々と集まってくるな」
 羅喉丸が崩震脚を在らぬ方向に放つ。
 それは、人々に決して当てない位置。
 そして、爆風が蛍を吹き飛ばせる絶妙な位置だ。
 羅喉丸の崩震脚で周囲の人々の光が吹き飛び、その姿が露わになる。
「額のあれは撃ち落とせないよね」
 幸久が矢を番えたまま、躊躇する。
 額の光は体内から発しているのが見て取れた。
「皆、頼む、正気に戻ってくれ!」
 羅喉丸の叫びは、虚ろな瞳の人々には届かない。
 そんな三人に、明るい声が降り注ぐ。
「みんな、お待たせ!」
 アグネスと久朗丸だ。
「あたしがみんなを救って見せるわ。今日も明日も、素敵な日々が続いていくの。それを邪魔する季節外れの蛍には……消えて貰うわ」
 彼女の歌声が周囲の人々を包み込んだ。


●光の満ちる町
「こいつが元凶か」
 時計台に潜んでいた元凶に、竜哉は侮蔑の念を隠そうともしない。
 巨大な光は怒りにうち震え、光りの帯を触手として開拓者達に伸ばす。
 光りでありながら光りの速さを持ち得ないそれに、囚われる開拓者は一人としていない。
「いかに強力な力を持とうが、発揮する前に叩けば勝機はある」
 羅喉丸が触手が届くより早く、そして目にも留まらぬ速さで拳を光りに叩き込む。
 熱量をもつ光りの塊は、痛みを感じるのだろう。
 羅喉丸の拳に身体をくねらせ、球体から楕円に捩れた。
 その身体からぶわりと溢れる蛍達。 
「滅せよ、そして、在るべき姿へ還るがいい……喝ッ!」
 久朗丸が羅喉丸に飛ぶ蛍に一喝を放つ。
「思う存分戦って!」
 アグネスは町中の人々に歌を曲を届けて疲れきっているはずなのに、力強く皆に思いを届けた。
「元凶は潰さないとね」
 幸久が羅喉丸が撃った位置にさらに矢を放つ。
 その矢は囚われの人々に撃ったものとは違い、鋭い鏃は光りを抉った。
 何本もの光りの触手が一斉に開拓者に向かって放たれた。
「そんな事、させないんだぞ!」
 ふしぎが二刀流を振りかざし、触手を薙ぎ払う。
「相手が悪かったな」
 竜哉も動じない。
 目の前の敵は、人質のいない今、既に敵ではない。
 竜哉の騎士剣は、蠢く光の身体に深々と突き刺さる。
「そろそろ、住民達を返してもらうぞ」
 皆の猛攻に光が怯んだ隙に、ヴィユノークはその身体に密着していた。
 その掌に溜めた気を光りの身体に叩き込む。
 びしりと光りに亀裂が入った。
 亀裂からもれるのは、紫の瘴気。
「自分の力は、ここに届く」
 イデアの剣が流れるように切れ目をさらに深く薙いでゆく。
 光が完全に砕け散り、町に残る蛍も全て消滅し、町が救われた瞬間だった。
 町中の人々が正気に返り、あたり一面に歓声が沸き起こった。