図書館とエルフ〜花畑〜
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
EX :危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/09/22 00:28



■オープニング本文

「お花って、素敵ですよね〜」
 天儀図書館賞金首資料室。
 その窓辺で、ラティーフはそんな事を呟く。
 夏ももう終わりの今日この頃。
 そろそろ秋の香りと共に、お茶を飲みたいお年頃。
「ハーブティーとか。摘みたてを入れたら、美味しいのですよ?」
 お気に入りのティーカップに、窓辺から摘んだハーブをいれる、とか。
 自分が育てたハーブで図書館に来てくれた皆様におもてなし、とか。
 今はまだなにもない窓辺を見つめながら、ラティーフは夢がなんだか広がっていくのを感じる。
「窓辺に花壇を作る事から、始めないといけないのでしょうか〜? それとも、ハーブを摘みにいく?」
 ハーブも色々と種類があるが、今から育てられるタイプはどんなものがあるのか。
 そして出来れば花もきれいだと嬉しかったり。
 あれもこれもと考えていると、なんだかやること一杯、かも?
「一人では難しいですけれど、こうゆう時は、開拓者さんなのですよ〜」
 いそいそと、賞金首資料室の部屋にCLOSEの看板をかけて、ラティーフは開拓者ギルドにてってててーと走っていくのだった。
 


■参加者一覧
からす(ia6525
13歳・女・弓
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
ケロリーナ(ib2037
15歳・女・巫
ミリート・ティナーファ(ib3308
15歳・女・砲
リト・フェイユ(ic1121
17歳・女・魔


■リプレイ本文


「あはっ。ラティーフちゃん、お久し振り♪」
 ぎゅう☆
 図書館に入った瞬間だった。
 目の前にいた入ったラティーフを、ミリート・ティナーファ(ib3308)は思いっきり抱きしめる。
「お久しぶりです〜?」
 そしてラティーフは、ほけほけとミリートを抱きしめ返したりしている。
 ほんとは初対面かもしれないのだが、抱きしめられるのは嫌じゃないらしい。
 そんな二人に驚いているのはリト・フェイユ(ic1121)だ。
 重そうな本を抱きしめ、唖然としている。
「代わりに持つよ」
 琥龍 蒼羅(ib0214)がそんなリトに気づいて、本を代わりに預かる。
 重そうなそれは、色々な植物の図鑑だった。
「けろりーなも抱きしめるですの〜♪」
 かえるのぬいぐるみと一緒に、ケロリーナ(ib2037)はミリートごとラティーフに飛びついた。
「仲良きことは美しきかなと、詩人も言うだろう」
 そんな初っ端からのお団子状態に全く動じないのはからす(ia6525)だ。
 歳若いのに冷静だ。
 そして冷静といえば竜哉(ia8037)もだ。
「やぁ、ラティ。元気してたか? この間は楽しかったね」
 一緒に祭を楽しんだのはつい先日のこと。
 次々と上がる花火は、まさに夜空を彩る花畑。
「流星祭にいきましたの〜? けろりーなもご一緒したかったんですの」
「有名だもんね♪」
 抱きしめあったまま、ケロリーナとミリートも頷く。
 きっとこのままずっと離れない。
「花火と花は似ているね。花火のようなハーブを希望しているのか」
「お花が綺麗だとうれしいのですよ〜」
 蒼羅の言葉に、ラティーフが補足する。 
「都市伝説があるらしいが、詳しい資料をそろえる必要がある」
 ラティーフが提示した三つのハーブの内、からすの興味を引いたのは都市伝説ハーブだった。
「丁度ここは図書館ですから、資料を集めるにはもってこいですね。私も精一杯お手伝いさせていただきます」
 本に慣れ親しんだリトが、手伝いを申し出る。
 彼女なら、この膨大な図書館の本の中から、的確な資料を探し出せるに違いない。
 それぞれが興味を持ったハーブを探しに、開拓者達は調べ始める。  
 


「花壇ですけど、移動できるようにしておいたほうが良いと思います」
 リトが、花壇も欲しいというラティーフに提案する。
「栽培用の箱に植えるといいですよ」
「図書館はその性質上、日当たりが良いとは言い難いですから」
「日当たりが良いと、本が傷んでしまうのですよ〜」
「ええ、そうですね。だから花壇を移動させる事ができれば、最低限の日の光をあげれます」
 リトが丁寧に説明すると、花壇作り実行班の竜哉も頷く。
「日当たりのいい場所と、半日蔭になる場所に作ろうかと。基本的にハーブは日当たりの良い場所を好むものだしね」
「そうですよね。でも、日当たりが悪くてもちゃんと育つハーブも調べてみましたから、お花屋さんと相談してきますよ」
「頼もしいね。本は好きなのかい?」
「ええ。子供の頃から、いつも読んでいましたから」
 竜哉に微笑んで頷くリトは、見た目こそ華奢で繊細だが、彼女に蓄えられた膨大な知識は大きな力だ。
「花屋に行くなら、レモンタイムと、ローズマリーの購入もお願いできるかな」
「はい、喜んで」
「ありがとう、助かるよ。その間に、俺は花壇を完成させておく」
「私も竜哉さんの花壇を楽しみにしていますね」
 ラティーフから図書館近辺の花屋の場所を確認し、リトは買出しに出かけていく。
「じゃあラティ、早速だけど、花壇の位置を決めようか。図書館の見取り図はある?」
「はい、こちらです〜」
「ラティが管理しているのはこちらとこちらか」
 竜哉は図書館の見取り図と、実際の部屋と窓の位置を確認する。
「日当たりがいい場所は、移動式じゃなくても問題ないね。例えば休憩室とか」
 二人で位置確認しながら、竜哉は見取り図に太陽マークを書き込む。
「賞金首資料室付近は日陰の時間が多くなると思う。つまり、この辺に植えるハーブは日陰に強いものを選ぶ事と、リトさんのいうように移動式の花壇にして定期的に日向に移動させて、少しでも日光を浴びれるようにしてあげて」
 日陰になる窓には、『影』の文字を入れる。
「竜哉さん、ハーブにも詳しいのですね〜」
「昔、いろいろあって覚えたんだよ。植物の事はさ」
「開拓者さんだと、そうゆうことも覚えるのですね〜」
 尊敬の目を向けるラティーフに、竜哉は苦笑する。
 多分、彼が詳しいのは開拓者だからではないだろう。
「喫茶店に出入りしているハーブ業者に、ハーブの育て方を聞いておこうか」
「竜哉さんは分かるのに、どうしてですか〜?」
「俺じゃなくラティにね。これからハーブの世話をしていくのはラティなんだから、きちんと覚えておいて損はないと思うよ? 大体の事は俺でも教えられるけどね」
「水をあげるだけでは駄目なのですね〜」
 のんびり答えるラティーフにほんのちょっぴり冷や汗をかきつつ。
 竜哉はテキパキと木材を組み立てて花壇を作成していく。 
 


「火の無いところに煙は立たず……」
 蒼羅は都市伝説ハーブについて調べ始めた。
 リトが様々なハーブについての本の予測をつけて纏めて置いてくれていたから、森で生えやすいハーブの目処はつきそうだった。
「都市伝説ハーブについて詳しい書物は、どこですの〜?」
 その少し離れた本棚では、ケロリーナが都市伝説コーナーの本とにらめっこをしている。
 一応都市伝説や怪奇現象の類が集められた棚はあるのだが、いかんせん、そのものずばりの『都市伝説ハーブ』の本となるとタイトルだけでは分からない。
「結構大変ですの〜」
 ケロリーナの指先が輝き、本が光る。
「見つかりそうか」
 からすがケロリーナの為に脚立を持ってくる。
「本棚から一冊ずつ取り出すのでは手間だろう」
「ありがとうございますですの〜」
「ついでに住民登録も後で調べてくれ」
 脚立をしっかりと押さえてあげながら、からすが言う。
「良いですけど、その中からなにを調べますの〜?」  
「近所の森の所有権だな。天儀の、それもこの図書館の側の森ならば誰かの私有地の可能性が高い。ハーブ採集の許可を貰っておきたい」
「言われてみればそうですの〜。けろちゃん、一緒に見てくださいですの♪」
 ケロリーナが、フィフロスに引っかかった本を手に取り、蒼羅の隣に移動する。
 蒼羅も蒼羅で、地道に一冊一冊調べていたのだが、気になる記述を見つけたようだ。
「都市伝説と呼ばれるハーブは、この本を読む限りでは天儀では少ない種類のようだな。だが決して手にはいらないものではない」
 蒼羅の指差す記述に、からすも身を乗り出す。
「そうすると、竜が出るという噂のせいで、伝説となってしまったのか」
「結構可愛らしい花を咲かせますの〜♪」
 ケロリーナもフィフロスでイラストを見つけて、蒼羅の本と照らし合わせる。
「決まりだな」
 目的のものが分かれば、採集もしやすい。
 からすはケロリーナに住民登録を調べてもらい、許可を貰いにいく。



「わぁ、本当に美味しい♪」
「そうですよね〜」
 ミリートとラティーフは、噂の喫茶店に来ていた。
 もちろん、ハーブを教えてもらうため、なのだが……。
「ラティーフちゃんは、どのハーブが好き?」
「可愛ければなんでも〜。ミリートさんは好きなハーブありますか〜?」
「あは、ラティーフちゃんらしいね。ミリートはね、カモミールが好き」
「可愛いですか〜?」
「もちろん。ハーブティーにも出来るし、ポプリなんかにももってこい。穏やかになれる香りだよ」
「良いですね〜」
「でしょ? ここのハーブティーにも使われてると思う」
「わ、そうなのですか?」
「ハーブブレンドティーって書いてあったけど、この香りは間違いないと思うな」
「このお店に飾られているハーブは、みんな手作りなのでしょうか〜」
「可能性は高いよね。ほら、あの窓辺の白い花。あれがカモミール」
「可愛いです〜」
「そうでしょそうでしょ? ほら、ちゃんとマスターに聞いてみちゃおう☆」
 ラティーフの手を引いて、ミリートはぱたぱたとマスターに駆け寄る。
「マスター、このハーブティーとっても美味しかったんだよ。良かったら、ハーブの育て方とハーブティーの淹れ方を教えてもらえないかな?」
 にこにこと笑顔で言われたマスターは、美味しいの一言に頬を緩ます。
 だが、レシピは流石に内緒。
「うー、残念!」
「仕方がないのですよ〜」
 しょげる二人に、けれどマスターは誰にでも美味しく入れられる入れ方があるよと、提案。
 二人が一気に顔を上げて目を輝かしたのは言うまでもなかった。 



「大変です、ドラゴンがいますの〜」
 森を訪れた三人は、草叢に身を潜める。
 噂の竜の影が、ゆらりゆらりと揺らいでいる。
「所有者は竜など飼っていないと言っていたが」
「野生の竜だろうか。だとすれば、危険すぎる。ほうっておくことは到底出来ないが」 
 ケロリーナを背に庇い、蒼羅は武器に手をかける。
 いつでも迎撃できるように。
 ―― 一体、どのくらい時間が経ったのだろう。
「ドラゴン、襲ってきませんの〜?」
 ケロリーナが首を傾げる。
 三人の前で、ドラゴンはその場から全く動かないのだ。 
 正確には三人に見えているのはドラゴンの影なのだが。
 ふいに、からすが立ち上がった。
 そしてそのまま、てくてくと無防備にドラゴンの影に向かっていく。
「おい、なにを考えて……」
 蒼羅が止めるが、からすが笑う。
「ドラゴンなどいない」
「いない?」
「どうゆうことですの〜?」
 蒼羅とケロリーナ、顔を見合わせて立ち上がる。
「つまり、これが竜に見えたのだな」
 森の中で、からすは苦笑する。
 彼女の目の前にあるもの。
 それは、木の枝だ。
 丁度、木々の隙間から差し込む日差しが木の枝に当たり影を作り、その影がさながら竜が火を吹いているかのように揺らいで見えるのだ。
 都市伝説の事もあり、遠めにはまさに竜がそこに潜んでいるかに見えた。
「ドラゴンさんと戦わなくて済んで、よかったですの〜」
「心置きなくハーブを採集させてもらおうか」
 とんだ肩透かしだったが、無駄な殺生をするよりはと、蒼羅は武器の変わりにスコップを手に取る。
「リューリャおにぃさまが鉢を持っていくといいよーっていってくれたら、鉢をちゃんと持ってきましたの〜」
「用意がいいな。では、採集するとしよう」
 竜がいないとわかればもう自由とばかりに、三人はハーブを採集し始めた。



「ワイルドストロベリーと、スイートバイオレット、それと、チャイブはありますか?」
 天儀の花屋を訪れたリトは、店員にそう尋ねる。
 忙しそうに働いている店員は、リトに笑顔で対応した。
「チャイブは、ボール状に咲く花が変わっていて、可愛らしいって教えてもらったんです」。
 リトにチャイブを提案したのは、ミリーナだ。
 もともとリトも買う予定だったが、「花が可愛らしいの♪」とミリーナが逆押ししたのだ。
 店員はワイルドストロベリーとスイートバイオレットの子苗を用意してくれた。
 竜哉に頼まれたレモンタイムと、ローズマリーも忘れずに購入。
「それと、こちらの他にもあまり日の光を必要としなくて、育てやすいハーブはありますか?」
 リトの質問に、店員はしばし思案すると、はっとして、店の奥の棚から小さな鉢植えを持ってくる。
「こちらは、ハニーサックルですね」
 受け取ったリトは、すぐにその花の名前を言い当てる。
 リトが選んだワイルドストロベリーやスィートバイオレットに比べると、かわいらしさは劣るかもしれない。
 でも店員が言うには、育てやすさと、ポプリにしたり紅茶にしたりとハーブとしての効能が期待できるのだとか。  
 リトがお礼を言って受け取ると、店員は「お嬢さん可愛いから、肥料もサービスしとくよ」と固形肥料を小袋にいれてプレゼントしてくれた。
(「いま植えれば、開花時期に間に合いそうですね」)
 図書館に戻る道すがら、リトは受け取ったスイートバイオレットの子苗に鼻を近づける。
 香りの強いスイートバイオレットは、花が咲いていない今この時にもよい香りがしそうな気がする。
(「ワイルドストロベリーは、植え替えが少し大変かもしれません」)
 移動式の花壇をお願いしたから、鉢植えと大差ない。
 つまり、植え替えが必要になってくるのだ。
(「また、その時期が来たら、手伝いに来てあげたほうがいいかもしれませんね」)
 ラティーフが喜ぶであろういくつものハーブを手に、リトはそんな事を思った。



「ラティ、持てそうかい?」
 移動式の花壇を作りあげた竜哉が確認する。
「ふふっ、こう見えても力持ちなのですよ〜」
 お寝坊さんでも志体持ち。
 軽々とは言わないまでも、日向に移動したり、天候の悪い時に室内に取り込んだりするのに問題はないようだ。
「水は土が乾いてい白くなってる時に、一度にたっぷり。ハーブに水をかけるのではなく、あくまで土のみに与える事」
 リトが購入してきてくれたハーブと、からすと蒼羅、ケロリーナが採集してきてくれたハーブを植え替えながら、竜哉は説明を続ける。
「ハーブを取ったら、その後で肥料を上げる事。お礼は大事だからね」
 そんな竜哉の言葉を、ラティーフは一生懸命羊皮紙にメモを取る。
 これから世話をするのは彼女なのだから、忘れるわけにはいかないのだ。
「森で採集したハーブは、あまり直射日光は好まないようだから、それも注意してやって欲しい」
 蒼羅が森に行く前に調べた事を伝える。
 木漏れ日はあるものの、森の中は日当たりが良いとは言いがたく、そんな中で育ってきたハーブが陽に弱いのは至極当然かもしれない。
「リトちゃんがかってきてくれたチャイブは、お花が可愛いよ」
「チャイブは、ネギのような薬味にも利用できるんですよ」
 花が可愛いと聞いて喜ぶラティーフに、リトはハーブとしての利用方法もきちんと説明する。
「食べるより、けろちゃんに飾ってあげたいです。とっても可愛らしいんですの〜」
 図鑑で開花したイラストを見たケロリーナは、かえるのぬいぐるみに飾りたいという。
 一本一本がしっかりとしたハーブだから、一輪挿しでも絵になるし、かえるのぬいぐるみに持たせてあげるのもいいかもしれない。
「種ということは、咲くのはいつ頃なのだろう」
「5月から7月にかけて咲きます」
 からすの問いに、リトが答える。
「じゃあ、その頃にまた、お花達を見にくるね。素敵なハーブティーが飲みたいな」
 いまから想像して、ミリートは嬉しそう。
 ピンクがかった茶色い尻尾が、ぱたぱたと揺れた。
「素敵な花壇になりますように」
 そういうリトに、ラティーフは頷く。
「精一杯大切に育てますよ。花が咲く頃に、またぜひ遊びに来てくださいませ〜」
 今はまだ苗だけれど、数ヵ月後にはきっと図書館はお花で一杯になっている事だろう。
 皆はそう、確信するのだった。