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■オープニング本文 ●暗雲 神楽の都、開拓者ギルドにて。 板張りの広間には机が置かれ、数え数十名の人々が椅子に腰掛けている。上座に座るのは開拓者ギルドの長、大伴定家だ。 「知っての通り、ここ最近、アヤカシの活動が活発化しておる」 おもむろに切り出される議題。集まった面々は表情も変えず、続く言葉に耳を傾けた。 アヤカシの活動が活発化し始めたのは、安須大祭が終わって後。天儀各地、とりわけ各国首都周辺でのアヤカシ目撃例が急増していた。アヤカシたちの意図は不明――いやそもそも組織だった攻撃なのかさえ解らない。 何とも居心地の悪い話だった。 「さて、間近に迫った危機には対処せねばならぬが、物の怪どもの意図も探らねばならぬ。各国はゆめゆめ注意されたい」 ●簪を買いに 「えっ? アヤカシ大量発生?!」 天儀の開拓者ギルド受付で、朽黄は大きな目を見開く。 姉の誕生日プレゼントにと、簪を買いにジルベリアから天儀まで来たのだが‥‥。 「ここ最近のことじゃ。急にアヤカシ共が首都近隣に沸いてのう。この通り、人手が足りんのじゃよ」 周囲は大量に貼り出されたアヤカシ討伐依頼でごった返していた。 長く伸ばした白い髭をしごきながら、ギルドの受付は語る。 「お嬢さんの行きたい店は武神島にあるのじゃろう? あそこもアヤカシが見つかっておるからのう。当分、近寄らんほうがいいじゃろう。お嬢さんの手に負えるアヤカシではないからのう」 簪なら、別の店を紹介するという受付のおじいさんに、朽黄はぶんぶんと首を振る。 「確かに、簪は別のお店でも買えるかもしれないけれど、困ってるのわかっててほうっておけないんだよ。アヤカシが出たって事はいつお店が襲われたっておかしくないし。うちも討伐に向かうよ?」 「待つんじゃ、お嬢ちゃんわしの話を聞いてなかったのかい?」 「ちゃんと聞いてたんだよ。うちだけじゃ無理なんでしょ? 大丈夫、ちゃんと他の開拓者と一緒に向かうんだよ。だから、ね?」 その依頼、受けさせて? ちょっぴり強引なのは、姉譲りなのだろうか。 大きな瞳を輝かせて頼む朽黄に受付のおじいさんは困り果てつつ、受理してしまうのだった。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
氷(ia1083)
29歳・男・陰
一心(ia8409)
20歳・男・弓
レヴェリー・ルナクロス(ia9985)
20歳・女・騎
ラシュディア(ib0112)
23歳・男・騎
高峰 玖郎(ib3173)
19歳・男・弓
マルカ・アルフォレスタ(ib4596)
15歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ●道中は気を引き締めて。でも緊張しすぎずに。 「それにしても、徒歩で二日かぁ‥‥都から離れてる分被害は少ないと喜ぶべきか、歩くのが面倒と取るべきか」 問題の荒野へと向かいつつ、氷(ia1083)はふわぁっと欠伸を漏らす。 都から離れるにつれ、周囲からは緑が減り、岩肌が目立ち始めている。 「姉の為に、か‥‥。家族の為に何かを出来るなんて羨ましいわ。アヤカシ達も捨て置けないし、協力させてもらうわね」 余りアヤカシとの戦いに経験のない朽黄にレヴェリー・ルナクロス(ia9985)はにっこりと微笑む。 お姉さん気質なのだろうか。 「ギルドが賑やかだと思っていたが‥‥これはあまり喜ばしいものではないな」 大量のアヤカシ発生依頼に高峰 玖郎(ib3173)は荒野の果てに目を細める。 高峰とマルカ・アルフォレスタ(ib4596)ギルドへの馬の貸し出しを願い出たのだが、貸し出し許可は下りなかった。 都から少々離れた荒野での依頼、そして近くに町がない事と、ここ最近頻発しているアヤカシの大量発生で殆どのギルド物資が貸し出し状態になってしまっている為だった。 「微力ながら、わたくしもお役に立てればと思っておりますわ」 マルカ黒羽の扇子をふわりと開く。 「うっちゃん、大分歩いたね〜」 ぎゅう。 水鏡 絵梨乃(ia0191)がほんのり疲れたふりをして、少し先を歩く朝比奈 空(ia0086)に抱きついた。 「えっちゃん、先はまだ長いようですよ。ですがいつアヤカシが現れるとも限りません。最近のアヤカシの活性化はもしかしたら、凶兆の先触れなのかもしれませんし‥‥」 背中から抱きつかれた朝比奈は親友をたしなめる様に、けれどアメジストを思わせる紫色の瞳には優しさが滲んでいる。 そしてこそっと朽黄に近づいた彼女の顔見知りのラシュディア(ib0112)は小声で耳打ち。 「ええと、朽黄、前に俺たちが遊郭で会った事は内緒にしておいてくれよ〜」 同居人に内緒で仕事とはいえ遊郭に行った事は秘密にしておきたいことらしい。 知っている人が居てくれて良かったと、朽黄も笑う。 まだまだ現場が先のせいか、パーティーにはどことなく緊張感と同時にほのぼのとした空気が流れていた。 けれどそんな中、一心(ia8409)だけは心ここに有らずといった風で、鈍色の空を見上げる。 (‥‥里は無事だろうか‥‥) 今回の依頼だけでなく、アヤカシは現在都付近全てで大量に発生しているのだ。 恐らく、里は都付近なのだろう。 否応なく不安に駆られるのは致し方ない事。 それでも一心はいま目の前のこの依頼に集中すべく、頭を振って前を見据える。 ●敵発見! ‥‥不意打ちはさせない。‥‥けれど‥‥。 和気藹々 ―― そんな雰囲気も消え、そろそろ緊張感が全てを支配する頃。 開拓者の耳にはっきりと届くほどの奇声が荒野に響き渡る。 「‥‥zzZ‥‥うおっと、危うく寝かけたわ。なんかイヤンな感じだねぇ」 悠長に欠伸をしつつ、けれど素早く氷は術符を構える。 「そんな事を言っている場合ではないようです、きますわ!」 情報にあった飛行ユニット・目突烏が開拓者達めがけて突っ込んでくる! 「朽黄、あなたは慌てなくても良いわ。皆が居るのだから」 レヴェリーがすかさず朽黄に声をかけ、自身はアヤカシ達の注意を引付けるべくチャージランスを構えて前に出る。 「はじめから全力で行かせて貰いますよ‥‥」 朽黄を庇うように位置取り、一心は次々と襲い来る飛行ユニットに矢を降らす。 「やはり目に来るな」 彼岸花の描かれた見事な華妖弓を構え、高峰は目突烏に的を絞る。 目突烏はその攻撃力こそ弱く、防御力も冴えない弱小アヤカシだが、人の目を狙って襲い来る習性は厄介この上ない。 例えその攻撃力に大した威力はなくとも、目を啄ばまれて無傷の開拓者など居ないのだから。 「朽黄さん、武勇の曲を。決して、前に出ようとはなさらないで」 朝比奈は精霊砲を放ち、朽黄にも迷わないよう指示を飛ばす。 そして朝比奈の前には水鏡がでる! 「うっちゃんに手は出させないよ!」 古酒をあおり、飛行ユニットに続いて朝比奈に突っ込んできた鬼カブトにその蹴りが炸裂、硬さを誇る鬼カブトが瞬時に潰れて瘴気と化す。 「それもさせないな」 前衛を勤める朝比奈、レヴェリー、マルカを飛び越えて後衛を狙おうとした鬼面鳥をラシュディアが忍刀で切り裂く。 斬られた苦痛に顔を歪めて叫ぶ鬼面鳥の姿は、正に鬼そのもの。 耳障り過ぎる叫び声をあげて、鬼面鳥は我武者羅に暴れてラシュディアの肩をその鋭い爪で抉ってゆく。 「俺もやるときはやるんよ?」 一見かったるそうに見える氷は、飄々とした口調で魂喰を発動する。 射程内に留まってしまっていたアヤカシは喰らわれ、訳もわからぬまま瘴気と化す。 「越えたければ私を屍にしてから往きなさい!」 死肉に群れる烏の如く、仲間に群がるアヤカシ共にレヴェリーは叫び、ランスを大きく振り回してその遠心力で敵を吹き飛ばす。 「本当に、厄介ですわ」 銃を放ち、マルカは扇子をパチリと鳴らす。 銃弾は狙い違わず目突烏の目を打ち抜いた。 「これ以上集まられる前に、片付けていかなくては」 騒ぎを聞きつけ、アヤカシは続々と集まってきている。 飛び回り素早い彼らだが、岩人形が現れる前に一刻も早く倒さねば。 朝比奈は神楽舞を舞い、前衛を勤める仲間達の攻撃力を高める。 「力が沸くんだ!」 鬼カブトに突進をされた水鏡はあっさりとかわしてそのカブトに踵を叩き落す。 地面にそのままめり込んだ鬼カブトはその姿を無くす。 「それはさせないと何度もいっているんだが」 爪で裂かれた肩は布で縛り、ラシュディアは後衛を狙う敵の背後に早駆で回りこみ、その首元を切り裂く。 「ひいふうみい‥‥数は合ってるかな?」 あらかた飛行ユニットを屠り、氷はわざと数えるふりをする。 そう、数など合おうはずもない。 岩人形が残っているのだから。 ●勝利は今そこに 案の定というタイミングで、岩人形が二体、荒野の岩陰から出現する。 否、岩と思えたそれこそが本体だったのだろう。 2mを越すその巨体は、けれどどこにそんな素早さがあるのか二体同時に、一気に開拓者達に仕掛けてくる! 「なんとか凌いでくれい」 氷の召還した白い壁が岩人形の片割れを隔離する。 「女の子はエレガントに、ですわ」 銃から長槍に持ち替えたマルカが突っ込んできた一体にガードブレイクを叩き込む。 だが岩人形はその強度を崩しても再生速度も凄まじい。 痛みを感じることもない破損した身体はすぐさまもとの岩に戻り、振り上げた腕はそのまま振り下ろされマルカの華奢な身体を吹き飛ばす。 「やってくれるわね!」 吹っ飛ばされたマルカを背に庇い、レヴェリーはバッシュブレイクを岩人形に叩き込む。 自分と同等の能力を誇るマルカが吹っ飛ばされたのだ。 岩人形にダメージを与えることよりも、その強固な防御力を下げる! 「朽黄さん、奴隷戦士の葛藤を! そして皆さん、どうか持ち直して」 白銀の髪が舞うように朝比奈は淡く輝き、癒しの光が仲間達を包み込む。 「我が矢、不浄を貫く雷の如く‥‥」 一心の瞳が輝き、その放たれた矢は岩人形の脚を破壊する。 高い回復力を誇りながらもその重い身体を支える足がなければ即座には動けない。 「全力の攻撃ですわ!」 朝比奈の治癒で持ち直したマルカが追撃とばかりに倒れる岩人形に渾身の一撃を叩き込む! 「色々やってくれたけど、ここまでだよ」 結界呪符を超えて開拓者に向かって来た残りの岩人形に水鏡の蹴りがめり込む。 「この一撃をその身で受け止めてみるがいい。‥‥受け止めれるものならば」 目に精霊力を集め、高峰の矢が岩人形に追撃を与える。 開拓者達の連携した攻撃に最後の強敵岩人形も、その姿を瘴気へと変えてゆく ●簪買いに〜武神島簪店『神無武』 「ね、ねぇ、朽黄? えぇっと、その、ゆ、遊郭の事で ――」 無事に戦闘が終わって。 武神島簪店『神無武』店内で、レヴェリーは顔を真っ赤にしながら朽黄に尋ねる。 働きたいのかなと尋ね返す朽黄に、「いや、違うのよ?! ちょ、ちょっと興味があっただけで?!」 真っ赤だった顔を仮面を付けたままでもはっきり判るほどにさらに赤く染めて、レヴェリーはわたたわと誤魔化す。 「珍しい簪か、俺も妹に買っていこうかな」 朽黄と一緒に簪店を訪れたラシュディアも簪を選び出す。 けれど神無武自慢の平簪、簪職人柳煤竹の銘入り『神無武平簪』は製作に時間が恐ろしくかかるらしく、最短で二週間、通常一ヶ月はかかるとの事。 「随分と丁寧な細工ですね‥‥」 細工物に興味のある一心も、銀色の軸に金色の丸い飾りと緋色の花、白い小花の描かれた神無武平簪を手に取る。 在庫が一個しかないのならと、ラシュディアと一心の二人に譲ってもらった平簪を握り締め、朽黄はお礼と共に約束する ―― 簪が出来上がり次第、お姉ちゃんかうちが手渡すと。 朽黄の姉・深緋はギルド受付をしているし、常に依頼に受けている開拓者達とも会いやすいだろう。 こうして、みんなのお陰で無事にアヤカシを退治し終えて簪を手に入れた朽黄はみんなにお礼を言って、ジルベリアへと帰っていった。 きっと、姉も喜ぶことだろう。 |