|
■オープニング本文 ● 『流星祭』の時期、街はいつもと違った喧騒に包まれる。 祭は西の空が薄紫に染まる頃に始まる。次々と灯が灯る祭提燈風に乗り聞こえてくる祭囃子。祭会場となっている広場は大層な賑わいで、ずらりと並んだ屋台からは威勢のいい呼び込みの声が響き、浴衣姿の男女が楽しげに店をひやかす。 時折空を見上げては流れる星を探す人、星に何を願おうかなんて語り合う子供達、様々なざわめきが溢れていた。 ● 「なんやって? 櫓が壊れたんかいな。大変やったなぁ」 自称世界の瓦版屋の青丹は、ペンを片手に櫓を見上げる。 見事に組みあがった櫓は、道行く人が言うには一度壊れたのだとか。 「祭の前に災難やったなぁ。せやけど、大きな被害はでとらんようやな。不幸中の幸いっつーやつや」 青丹は情報をくれた通行人に礼を言うと、祭会場をみて回る。 「ほんま、流星祭は賑わっとんなぁ。ニンゲン的屋にのど自慢大会? えぇやんえぇやん、あたいも参加したくなってくるなぁ」 うずうずとしてくるのをいまは取材取材と我慢して、青丹が会場の外れに出た時だった。 泣き叫ぶ子供と争う声が聞こえてくる。 「なにやっとんじゃい、われぇ!」 「すみませんすみませんっ、幼い子供のしたことです、どうかお許しを……っ」 「詫びてすめばお上はいらねぇ! ちっきり弁償してもらおうじゃねぇか」 青丹が声のするほうにかけていくと、既に軽く人だかりが。 人の波をかき分けて青丹が前に躍り出ると、いかにも人相の悪いごろつきが子供の腕を掴んで片手に吊り上げている。 げらげら笑っているのは仲間達だろう。 奥にドンと構えているのはボスだろうか。 その目の前で土下座させられているのは子供の母親に違いない。 その姿が目に入った瞬間、青丹の神経がブチ切れた。 「いい大人が子供になにやっとんのや! はなしたりぃや!」 叫び、言うが早いかごろつきとの距離を一瞬で詰めて子供を奪い取り、ついでにごろつきの顔面をぶったたく。 「うおおおおおおおおおおおおおおお?!」 どんがらがっしゃん! 派手に巨体が吹っ飛んで、ゴミ箱に突っ込んだ。 「てめぇ、なにしやがる!」 「何だこのアマ!」 口々に叫び、青丹の前を取り囲むごろつき達。 母親に奪い返した子供を返し、青丹は即座に二人を背に庇う。 「なんやかんやときかれたら、答えたるのがあたいの情けや。あたいは青丹! 瓦版屋や。あたいの目が橙のうちは、胸糞わりぃことみのがさへんで!」 「野郎共、やっちまえ!!!」 親子を野次馬の中に逃し、青丹はごろつきどもに向かって叫んだ。 「かかってこいやああああああ!!!」 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
ヘスティア・V・D(ib0161)
21歳・女・騎
晴雨萌楽(ib1999)
18歳・女・ジ
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
玖雀(ib6816)
29歳・男・シ
天道 白虎(ic1061)
10歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ● 「うお、なんだぁ?」 青丹の啖呵が祭の中を響き渡り、玖雀(ib6816)は思わず開きかけの財布を落しかけた。 (「あっちのほうか?」) 振り返れば、なにやら人だかりが出来ている。 玖雀の位置からでは人混みが邪魔で上手く見えないが、人混みに走っていく人々の噂では、女の子とごろつきの喧嘩らしい。 「おいちゃん、これとこれ、あとこれ、御代はここに置いとく!」 急ぎ気味に御代を払い、玖雀は屋台で買った土産を風呂敷に包んで声の元へ駆け出した。 (「なんだか面倒臭いことになっているな」) 水鏡 絵梨乃(ia0191)が思った第一印象はそれだった。 目の前では青丹が名乗りを上げて今にもごろつき共と殴りあう寸前。 「キミ、ちょっとこれよろしく」 絵梨乃は即座に横にいた少年に屋台で買った美味しい戦利品もろもろを預けて走り出す。 もちろん「あ、食べるなよ? 絶対だぞっ、特に芋羊羹!」と念を押して。 「いいねー、思わず拍手したくなるぐれーの啖呵と気風の良さじゃん」 突然の騒ぎだというのに、羽喰 琥珀(ib3263)は人混みから顔を出すと笑顔で青丹を見ていた。 紅白なハッピといい、帯に指した団扇といい、お祭りを存分に楽しんでいたのだろう。 だがその拳はしっかりと握られている。 青丹がごろつきを殴っていなければ、きっと彼が先に殴っていたのではないだろうか。 そしてヘスティア・ヴォルフ(ib0161)は即座に青丹に加勢して耳打ちする。 「青丹っていうのか? あんた思いっきり殴っちゃ駄目だぜ」 「なんでや!」 「手加減しろとはいわねぇから、回りよくみな。青丹が考え無しに殴ると屋台に被害が出るぜ。野次馬にもな」 ヘスティアにくいっと親指で示された周囲に、青丹ははっとする。 頭に血が上りすぎて周囲が見えていなかったのだ。 だがごろつき共は関係なく襲い来る! 「いいか、こうやりゃいいんだよ!」 向かってきたごろつきを、ヘスティアは思いっきり胸倉掴んでそのまま地面に叩きつける。 ひしゃげた悲鳴をあげて地面をのた打ち回るごろつき。 「な?」 にやっと笑うヘスティアに、青丹は大きく頷いた。 そして、どこからともなくごろつきに飛んでくる石礫。 「いてて、いてっ、なんだなんだ?!」 きょろきょろと周囲を見渡すごろつきに、野次馬の中からほくそ笑む影。 モユラ(ib1999)だ。 彼女は野次馬の中をそっと移動しつつ、石礫を放つ。 (「多勢に無勢を眺めて過ごすのも主義じゃなし、ちょいと加勢さしてもらうよ!」) 心の中で呟いて、モユラは次のごろつきに狙いを定める。 と、その時だ。 「まてぇい!」 愛らしい制止の声が周囲に響き渡った。 「今度はなんだ?!」 「一体どこから?!」 口々に叫び周囲を見渡すごろつき共。 「あそこだ!」 叫び、指差す先には屋根の上で仁王立ちする天道 白虎(ic1061)が! 「優れた力を持ちながら、その力を力無き者に向ける……人、それを悪党と言うッ……!!」 だんっ! 思いっきり跳躍して屋根から飛び降り、その勢いのままごろつきに飛び蹴りかまして着地する白虎。 不意打ち食らったごろつきは別のごろつきにぶち当たっって戦闘不能! 「なんだてめぇはっ!」 「お前達に名乗る名前はなぁーい」 ふんっとふんぞり返って言い切る白虎。 「てめぇも敵だな、やっちまえ!!!」 ブチキレに切れまくるごろつきたち。 大乱闘、勃発! もう誰にも止められなかった。 ● 「お前達なんかボクの敵ではなーーーーいっ!」 ぱんっ! 刀を避けて、白虎の拳がごろつきに決まる。 むんっと構えた細い腕にはちゃんと力こぶ。 それを見ていた絵梨乃もうずうず。 (「派手にやっちゃおっかな♪」) 絵梨乃は突っ込んできたごろつきを片手で捌いて、 「足元がお留守だよ」 ぽんっと空気撃をごろつきの膝目掛けて放つと、かくっとよろけたごろつきの後頭部に思いっきり肘鉄を食らわす。 「ねーちゃんかっけーーーー!!!」 「ひゅーひゅーっ!」 流れるような動きに野次馬から一気に歓声が湧き上がる。 「野次馬共! 下がってな、あぶねぇから!」 もっとよく見ようと押し合いだす野次馬を、ヘスティアが押し留める。 これ以上近付くと、いくらヘスティア達が被害を抑えようとしても巻き込みかねない。 「おい、あそこからなんか飛んで来たぞっ」 顔面にぶち当たった石礫に顔を真っ赤に染めながら、ごろつきが叫ぶ。 その目は真っ直ぐにモユラを捕獲! 「見つかっちゃったか」 小さく呟いて、モユラはごろつき共が野次馬に突っ込んでくる前に自ら乱闘に躍り出る。 野次馬たちを巻き込まないための配慮だ。 「へへっ、これからが本番さね!」 自身の回避能力を増幅し、モユラは斬り付けて来るごろつきをひょいっと避け、続けて走り回りながら石礫の連射! 「いていててててっ、いてーつってんだろっ!!」 「痛くしてるんさね、当然!」 一人といわず、モユラに次々と石礫を当てられるごろつき共。 涙目で石礫から逃げながらモユラに向かってくるが、連携も何もあったものではない彼らは、お互いに邪魔しあって素早いモユラを止めれない。 「いくら祭りでも限度ってもんがあるっての」 野次馬を人質に取ろうとしたごろつきを目ざとく見つけて、琥珀の木刀がごろつきの手首に叩きつけられる。 悲鳴をあげるごろつきと、歓声を上げる野次馬。 「オメー等、ちょいと痛い目見てもらうぜ」 そういう琥珀の剣は木刀だというのに隙がない。 真剣でなくとも、琥珀の技は本物なのだ。 そしてそこへ駆けつける玖雀。 「祭の雰囲気をぶち壊す奴には、さっさと退場頂こうか」 玖雀が木箱を蹴りつければ、ものの見事にごろつきの頭に直撃! 木箱から顔を突き出したごろつきは、叫びながら刀を振り回して玖雀へ襲いかかる。 だが、 「……どこを狙っているんだか」 「なにぃっ?!」 苦笑する玖雀がふっとかき消え、ごろつきの刀は空を掻く。 「てめぇ、どこに消えやがった!!!」 「不敵な顔で避けても、面白くねぇだろ?」 いつの間にかごろつきの背後に回っていた玖雀は、すっと足を横に払った。 避けるなど到底出来ないごろつきは、そのまま派手にすっ転ぶ。 「やめときな」 背後に迫ろうとしていた別のごろつきに、玖雀は普段の温和さからは想像もつかない冷たい目つきをごろつきに向ける。 がくがくと震えたごろつきは、そのままそこにへたり込んだ。 ごろつき共が倒れるたび野次馬から歓声が上がり、そして―― ボスがゆっくりと、重い腰を上げた。 ● 「随分やってくれるじゃないの」 こきこきと首を鳴らし、ボスがゆらりと立ち上がる。 その表情と仕草で即座に何がくるか悟った琥珀が駆けた。 「させねぇし!」 「俺様を止めれるかい、兄ちゃん!」 バンッ!!! 地面に地断撃が放たれる瞬間、琥珀がその木刀と身体で止めきった。 「……っ!」 衝撃波こそ発動しなかったとはいえ、地面に思いっきり振り下ろされるはずだったそれを身体で受け止めた琥珀のダメージは凄まじい。 「おいおい、大丈夫か、にぃちゃんよぉ!」 下卑た笑いを浮かべながら、酒臭い息のまま琥珀を蹴り飛ばすボス。 力の入らない琥珀はそのまま地面に転がったが、すぐに木刀を構えて立ち上がる。 「どうってこと、ねぇぜ!」 切れた口の端を拳で拭い、琥珀は油断しているボスの鳩尾に拳を決める。 一瞬息の出来なくなったボスは、けれど次の瞬間には素早い動きで琥珀の先手を取り、刀を再び振り上げる。 だがその刀が琥珀に振り下ろされることはなかった。 「敵は一人じゃないんだよ!」 白虎だ。 彼がその小さな身体を生かしてボスの懐に飛び込み、思いっきり腕にとび蹴りかましたのだ。 「おっと、お前はもう戦線離脱な?」 ボスの応援に駆けつけようとしたごろつきの顔面を、ヘスティアが煙管でぶったたく。 そして有無を言わさず髪の毛を掴み、顔に膝蹴り一発。 あっさりとごろつきは戦闘不能に陥った。 ふと気がつけば、彼女の周りにはいつの間にか縄で縛り上げられたごろつきの山が。 歓声を上げる野次馬達から、縛り上げられたごろつき共に次々とゴミが当てられる。 「おいおい、あたしにはあてるなよ? 当てやすいように並べ替えてやるぜ」 苦笑するヘスティア。 「ほらほら、あなたたちの相手はあたいだよっ」 騒ぎを聞きつけて戻ってきたごろつき共を、モユラが挑発する。 放たれる石礫は人混みをかき分けて向かってくるごろつきを、確実にしとめていく。 「随分酒臭いなぁ。飲みすぎだよ?」 ゆらりゆらりと絵梨乃が酒ビン煽りながらボスに指を突きつける。 「てめぇっ、どの面下げてそれを言う?!」 酒を飲みながらの絵梨乃に思わず抗議するボス。 だが絵梨乃は気にしない。 むしろ酩酊状態だから何を言われても気分がいい。 「ボクの顔はさげないけど、そっちの顔は下げてもらうよ」 かくんっとふらついたと思った次の瞬間、絵梨乃の拳がボスの顎を抉る。 「ぐっ……!」 吹っ飛ぶかに思われたボスは、その場で何とか耐え切った。 「へえ〜。ボクの拳を耐えれるんだ。腕が鳴るな♪」 「ふざけんな、このクソアマガァッ!!」 酒だけでなく、怒りで顔を真っ赤に染めたボスは、太い両手で絵梨乃を掴みにかかる。 だがふらりふらりと動く絵梨乃はそう簡単につかまらない。 無限に思えるボスの体力がみるみる消耗されていく。 そんなボスの前に、すちゃっと構える琥珀と白虎。 「白い虎と黄色い虎で、一緒に攻撃だー!」 「いっくぜーーーーーっ!」 二人、一気に正面から突っ込んでいく。 「望む所だっ……うおっ?!」 正面から二人を受け止めようとしたボスの両腕は、スカッと二人を掴み損ねた。 琥珀と白虎、正面にぶつかると見せかけて、寸でで左右に分かれたのだ。 そしてどちらにも向けない理由がボスにはあった。 「捕まえたッ!」 モユラだ。 彼女が鞭でボスの足を固定している。 琥珀と白虎、二人同時に左右の側面から拳をボスへ! 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」 ばったーーーーーんっ! 絶叫を上げ、地面に倒れるボス。 「「成敗!」」 二人、野次馬に向かってキメポーズ☆ 一際大きな歓声が沸きあがった。 ● 「これにて舞台は仕舞いで御座います。引き続き流星祭お楽み下さいっ」 ぺこっと琥珀が野次馬に笑顔で頭を下げる。 その隣では、ぐるっぐるに縛り上げられたボスが、白虎に穴叩きの刑に合っている。 「はっはー、祭りの太鼓になって反省しろにゃー!」 竹刀を太鼓のばちのように連打する白虎。 絶え間なく響くボスの絶叫はいわずもがな。 「天道家48刑の一つ、尻太鼓の刑だにゃ!」 楽しげな白虎はとまりそうもない。 そして玖雀は野次馬の中に泣きそうな子供たちがいるのを見て駆け寄った。 「大丈夫か? もう喧嘩は終わったから、安心して祭りを楽しんで来い。な?」 いいながら、玖雀は子供達の頭の上に屋台土産を。 ぽふっと頭に載せられたものを手に取り、子供たちは目を輝かせる。 お菓子だ。 でも受け取れないと困り顔の子供たちに、玖雀は片目を閉じて笑う。 「気にすんな。また買えばいいんだ」 だからお前たちも、もう気にせずに祭を楽しんでくれよ? わしゃわしゃと玖雀が子供達の頭を撫でてやると、子供達に笑顔が戻る。 「おじちゃん、ありがとーーー!」 「?!」 笑顔で走り去っていく子供達には決して悪気はなく。 (「俺はおじさんか?!」) 玖雀は戦闘で乱れた髪を朱色の髪紐で結わきなおし、心の動揺を抑える。 「群れて女子供につっかかるなんてなァ、最低の行いさね。お上にみっちりしぼられて反省しなさいっ!」 モユラが駆けつけた警邏にぐいぐいとごろつき共を突き出す。 「りんご飴代、まだ払ってないんだ」 くふっと笑い、警邏の目を盗んで絵梨乃はちゃっかりごろつき共から手数料を。 「さて、終わった終わった、つうことで、みんなで祭り、楽しまないか?」 ヘスティアが誘えば、琥珀も頷く。 「取材がてら回るのもいいよな。青丹も行くだろ?」 「もちろんやで。たのしまへんとな」 「祭は皆のもの、楽しむ気持ちが一番だしな」 ふわりと玖雀も笑う。 「よーし、はしゃぐぞーーーー!」 ボスを最後の最後までひっぱたいていた白虎も元気にジャンプして、みんなで屋台めぐりに繰り出した。 きっと、朝まで楽しめたに違いない。 |