【流星】敵は、海賊
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/08/12 18:42



■オープニング本文

「おや、あれはなんだべ〜?」
 ジルベリア最北領スウィートホワイト。
 港の村付近で小船に乗って、魚を釣っていた村人は海を凝視する。
 青い空青い海。
 その青の中にいくつかの茶色が混じっている。
 茶色はぐんぐん近付いてきて……。
「か、海賊だーーーーーーーーーー?!」
 村人は正体に気づいて、叫ぶ。
 髑髏マークの旗をなびかせて、海賊団が海に現れたのだ。
 小船が大きな海賊船の起こす波にぐらぐらと揺れ、村人は必死に小船にしがみつく。
「な、な、な、なんでこんな辺鄙な場所に〜?!」
 首都でなく南の街でなく、小さな港の村に現れるとは。
 もっとも南の街に海はないから、海賊が現れようもないが。
「海賊が海にいるのは当然だろうが。野郎共、大砲ぶっ放せーーーーー!」
 村人の声が聞こえたのか、コールマン髭をピンと弾き、海賊の親玉が叫ぶ。
 多量の爆音が辺りに響きわたり、叫ぶ村人。
 けれど村人の小さな船に、大砲は飛んでこなかった。
「たーーーまやーーーーー!」
 
 どーーーんっ!

 小船とは正反対の海の上で、商船が爆発した。
「野郎共、一気に突撃だーーーーーーっ!」
 海賊が見ていたのは小船ではなかった。
 狙いはこの海域を行き交う交易船団だ。
 新鮮な食材はもちろんの事、場合によっては鉱石を運んでいることもある。
「いい男いるかしらぁ♪」
 金髪美女が楽しげに鞭を振るう。
「金目のもんはたんまり手にはいるかのう、ひゃっひゃっひゃ!」
 太陽に眩く禿を輝かせ、小柄な老人はファイヤーボールを商船に放つ。
「……無抵抗なら、悪いようにはせぬ。だが、向かってくるなら……斬る!」
 商船に乗り込んだ黒髪の美丈夫が商船の船員に刀を向ける。
「パパ、お仕事頑張って〜」
 こんな場面にはそぐわない幼子が、海賊の肩に担がれて楽しげに手を振っている。
「た、大変だべ、早く皆に伝えねば〜っ」
 村人は海賊の眼中にないうちに全力で舟を漕ぎ、村に戻るとそのまま開拓者ギルドへの連絡をお願いするのだった。  


■参加者一覧
サーシャ(ia9980
16歳・女・騎
エルレーン(ib7455
18歳・女・志
ミーリエ・ピサレット(ib8851
10歳・女・シ
ハティーア(ic0590
14歳・男・ジ
庵治 秀影(ic0738
27歳・男・サ
水芭(ic1046
14歳・女・志


■リプレイ本文


「酒が美味いねぇ」
 庵治 秀影(ic0738)は港の酒場で酒を引っ掛ける。
 明らかに機嫌の良い秀影に、酒場のマスターが「大将、何かいい事でもあったのかい?」と水を向けた。
「まぁ聞いてくんなよ。俺の船は大した商船じゃあないんだがね? 上客が気に入ってくれてねぇ。今度でかい仕事を頼まれたのさ」
 くくっと笑い、秀影は再び酒を煽る。
「おう、みんな聞いてくれ! 今日は俺の奢りだ。酒は派手に飲むに限るぜ、なぁ!」
 グラスを高々と掲げる秀影に店内に居合わせた客からドッと歓声が沸き起こる。
「おいおい、いくら上客がついたからって、そんなに豪快に振舞って大丈夫かい?」
 マスターが心配気に声をかけるが、秀影は更に声を張り上げて笑う。
「くっくっく、あの小せぇ船にお宝があるたぁ、お天道様でも海賊でもきづかねぇだろうよ」
 内緒だぜと、酔って口が滑ったかのように振舞う秀影。
 それが演技だと気づくものは一人としておらず、次の日の朝にはこんな噂で港は持ちきりだった。
 ―― なんでも、近日この港から高価な荷を積んだ商船が出航するらしい。
 ―― 三日後って話だぜ? 
 そして、そんな噂を海賊達が耳にするのは時間の問題だった。


「海賊もよく頑張れるよね。こんなに暑いのにさ」
 水芭(ic1046)は額に滲む汗をタオルで拭う。
 そうだと頷くのは、つい先日海賊団に襲われた商船の船員だ。
 船が襲われ破損し、近場のこの港に修理に立ち寄っていたのだ。
「じゃあ、5艘のうち中心にある船がボスの船なんだね。幹部たちはその船に集結しているのか」
 船員は、漆黒の一際大きな船だからすぐにわかるだろうという。
「情報ありがとう。必ず敵はとるからさ」
 だから、私達が調べていることは内緒にしといてねと口止めする事も忘れない。


 港の村の倉庫でひっそりと行われているのは、小船の偽装だった。
 一艘の帆船が倉庫に収められ、ハティーア(ic0590)は白い塗料で船の側面を大きな刷毛で塗っていく。
「商船団ぽくしとかないとね。流石にただの船じゃ貧相だから」
「シップが借りれただけでも良いですよ〜。ヨットかなって思ってました〜」
 流石にバークは無理でしたけどと、サーシャ(ia9980)はちょっとした装飾品を船の先端に取り付ける。
「三艘も借りれたしね」
 時間的にすべての船の偽装工作は難しいが、メインのこの船さえ目立つように偽装できれば問題ないだろう。
 そして小袋に細工をしているのはミーリエ・ピサレット(ib8851)だ。
 倉庫の隅のテーブルの上に大量に並べられた小袋は和紙で作られ、ちょっとした衝撃ですぐに破れてしまいそうだ。
「海賊をやっつけるのだー♪」
 けれどそんなあやうい小袋に、ミーリエは嬉々として何かを詰め込んでいく。



 決行の日。
 村の船員達が動かす偽装商船に、開拓者達は乗り込む。
 タプンと揺らぐ船。
「う、ぐぐ……ひきちぎってやる、ひきちぎってやるのっ!」
 自分の水着を引きちぎりそうな勢いで、エルレーン(ib7455)は船の先端でギリギリと歯軋りを鳴り響かせる。
 船は揺らいでも、彼女の胸は決して揺らがない。
「いったいエルレーンさんはどうしたのでしょうか〜」
 甲板の端でエルレーンの黒いオーラに首を傾げるサーシャ。
 たぷんたぷんと彼女の胸はよく揺れている。
「どうやら海賊団の美女が許せないらしいよ?」
 水芭がそっとサーシャに耳打ちする。
 彼女がもたらした情報から海賊団に巨乳美女がいる事を知り、エルレーンはブチきれているのだ。
「海賊は全部やっつけちゃうから、いいんじゃないかなー♪」
 望遠鏡片手に、ミーリエはご機嫌。
 大人びた黒のビキニ『ノワール』を着れたからかもしれない。
 いわゆるTバックのセクシー路線の水着だが、ミーリエが着ると彼女自身の愛らしさが手伝って、なんとも可愛らしい。
「胸、なぁ……」
「僕達にはわからない感覚だね」
 葉巻を咥える秀影と、胸に特に強い興味はないハティーアはなんともいえない表情で、エルレーンの燃える背中を見つめている。
 艶やかな赤色のビキニ『マゼンタ』を身につけていても、エルレーンの胸と背中はあまりかわらないとか。
「絶対! ぶっ飛ばすうううっ!!!」
 エルレーンの叫びが静かな海に届いたのか。
「海賊船、みーーーつけたっ♪」
 5艘の海賊船がミーリエの望遠鏡で視認出来たのは、その直後の事だった。



「そこの商船団、宝は全部置いてきなぁ!!」
 海賊団のボスが叫ぶ。
 そして周囲の4艘の船から砲弾が放たれた。
 威嚇射撃だ。
 何発もの砲弾が偽装商船の周囲の海を荒らし、激しい水柱が立ち上がる。
「うわー、びしょぬれだーっ」
 望遠鏡で海賊船を確認していたミーリエは叫び、腰に括りつけておいた木箱を確認する。
 きっちりと密閉されたそれは、大量の水飛沫にも浸水した様子はない。
 ほっとするミーリエだったが、次の瞬間、

 ドン!

 大量の樽と共に海の中へ!
 逃げ惑う船員に突き飛ばされてしまったのだ。
 ミーリエの手から吹き飛ぶ望遠鏡。
 船員は望遠鏡を健気にキャッチして、不安気に海を見る。
 海に浮かぶ大量の樽に紛れて見つけ辛いが、ミーリエはきっちり樽の影から船員へ無事の合図。
 ホッとする船員は、ミーリエに事前に言われた通りに望遠鏡をもって船室へ避難!
「派手にきやがったなぁ。こっちもいくかい?」
「もちろんです」
「準備ばっちりですよ〜」
「あいつだけは許さないいいいいいっ!」
 葉巻を捨て、くくっと嗤う秀影に、サーシャ、エルレーン、そして水芭が続く。
 無力な商船と思い込み接舷してきた海賊船に、逆に一気に乗り込んだ。
「逃げられないようにね」
 ハティーアが接舷した海賊船に錨を投げ込んだ。
 運悪く傍にいた下っ端海賊達がその勢いに吹っ飛んだ。


「パーレイ、だっけ? 船長に会いたいんだけど、ちょっと呼んで来てくれない?」
 乗り込んで即座に交渉を口にする水芭に、けれど下っ端海賊が一斉に襲い来る!
「しょうがないな。あんまり、相手したくないんだけど」
 ちょっと鍛えた程度の人間では、志体持ちの水芭に適う筈が無い。
 甲板の上には次々と海賊達が倒れていく。
 スキルを使う必要性も無かった。
 青みがかった刀身を抜かずに、すべて峰打ちだ。
「……其処までにしてもらおうか」
 渋みのあるその声に、下っ端海賊達がざっと道を開ける。
「露黒さんだね。噂は聞いているよ。志士として、剣士として、お手合わせ願おうか」
「……受けてたとう」
 二人、刀を構える。
 迂闊に動くことはせず、じっと相手の力量を見定める。
 照りつける太陽の中、どれほどの時が経っただろう。
 動いたのは水芭だった。
「海賊って何でも奪うんでしょ。積荷に女子供、それ以外の命とか」
「無駄な殺生をする気はない」
 キンッ……!
 一瞬だけ剣を交え、水芭は横に飛ぶ。
 斬りあう技量は水芭には無かった。
 それを自身でわかっているからこその、逃げ。
 正面から受け続けて勝てる相手ではなく、そして水芭は勝とうとしていない。
「仲間以外は関係ないんだよね。なら、仲間以外に斬られても仕方ないよね」
「避けてばかりでは俺は斬れんぞ」
「でも私の事も斬り捨てれない」
 くるり、くるり。
 露黒は力量では水芭に勝っているものの、その刀は水芭を捕らえる事が出来なかった。


「どいてください〜」
「うわああああっ!」
 ぶんっぶんぶんっ!
 サーシャが下っ端海賊の両足をしっかり持って、ぶんぶん振り回す。
 あまりの勢いにぱっくりと道が開けた。
「くくっ、派手だねぇ。嫌いじゃないぜ」
 秀影が苦笑しながら背後に迫った下っ端を裏拳で叩き落とし、後に続く。


「ふんっ、私がつぶしてやるんだよぉ!」
「あらぁ、随分威勢がいいわねぇん」
 お色気むんむんなベリーミィに、エルレーンは初っ端から全力で大技を放つ。
「ほらほらほらぁ! 胸ごと三枚に下ろしてやるんだからー!!!」
 凄まじい三連撃にベリーミィは蝶のように軽やかに舞い避ける。
「胸、ねぇん? そういえばぁ、一応貴方にもあるみたいだけどぉ?」
「一応とかいうなー!!!」
「あはぁん♪」
 エルレーンがなぜ激怒しているのかを即座に悟ったベリーミィは、エルレーンをおちょくりだす。
「いちのたち! にのたち! ……さんのたちッ!」
「あらあら、ゆっくりねぇん♪」
「うわっ、増えやがったわね! 胸だらけでも見つけれるんだからー!!!」
 ナハトミラージュで分裂するベリーミィ、つまり二倍に増えた胸にエルレーンの怒りも二倍に!
 カッと瞳を見開き、色々開眼しまくった状態でベリーミィを見、次の瞬間思いっきり本体をひっぱたいた。
「いったぁあいっ、何すんのよこの貧乳!」
「黙れでかチチッ! 貧乳でも美乳なんだからっ」
「微乳の間違いでしょぉ」
「えぇい、これでもまだいうかっ」
 ギュウウウウッ!
 エルレーンはどこから取り出したのか、縄でぐるんぐるんにベリーミィを縛り上げた。


「おぅ、この船に俺が居たと知らねぇようだな」
 秀影とサーシャは、海賊団ボスのジャック・G・ロジャーの前に立つ。
「なんだてめぇらは!」
「俺ぁ開拓者の庵治ってぇもんだ」
「サーシャですね〜」
「名前なんざ聞いてねぇ! 者ども、やっちまえ!!!」
「「「いえっさー!!」」」
 二人に一気に下っ端海賊が襲い来る!
 だがお話にならない。
 サーシャが持ったままだった海賊を振り回せば、一瞬で殲滅。
 当然だ。
 志体持ちと一般人では10倍の力の差があるのだから。
 ちなみにぶん回されている海賊はとうの昔に伸びて、口から沫を吹いている。
「ちっ、やるじゃねぇか。だが俺様をそいつ等と同じとは思うなよ?」
 二本のフックカトラスを腰から抜いて、ロジャーが秀影を迎撃する。
「思わねぇさ」
 大振りの太刀で、秀影はロジャーのフックカトラスを止めた。
 ガギッと金属と金属が重い音を立てて押し合う。
「俺の刀の錆になりたくなきゃ、今までぶんどったお宝を差し出しなぁ!」
「こちらが海賊みたいですね〜」 
 嬉々として太刀で斬りあう秀影に、気絶した海賊を甲板にぶん投げて参戦するサーシャ。
「おうおう、二対一とは随分卑怯じゃねーか」
 キンッ!
 片手でサーシャを止め、もう片方で秀影の刀を止める。
 ボスだけあって、その実力は確からしい。
「くくっ、勝てば官軍というだろうが」
 押されそうになりながらも、秀影の余裕は消えない。
「余裕ですね〜」
 サーシャが一気に踏み込み勝負に出るも、やはりロジャーの剣がそれを許さない。
 サーシャと秀影の二人を相手取っているというのに、ロジャーには隙がない。
「生意気なやつ等じゃねーか、格の違いを見せ付けてやらぁ!」
 ロジャーが二人の剣を弾き返し、二人同時に回し斬り、ロジャーのカトラスはサーシャの腕をかすめ、秀影の二の腕を切り裂いた。
「おおっとぉ! あぶねぇな」
 太刀を落とさなかったのは秀影の意地。
 額に冷たい汗が流れる。
「刀の錆がどうとか抜かしてたなぁ? とっとと俺の餌食になりなぁ!」
「くっくっく、見た目どおり力任せか。大層な筋肉が泣いてるぜ?」
 軽口を言い合いながらも、秀影の疲労は濃くなっていく。
 そしてそれはサーシャも同じ事。
 このまま、押し負けてしまうのでは――。
 そんな感情がサーシャの頭を過ぎった時、それは起きた。
 ふいに、ロジャーが目を見開いて立ちすくんだのだ。
「もらったぁああ!」
 その隙を見逃す秀影ではなかった。
 腕を切り落とす勢いで、ロジャーの肩に秀影の太刀が深々と突き刺さる。
 

「ひゃっひゃっひゃ、燃えていくがいい!」
 ファイヤボールを放ち、喜ぶ禿げルビィ・ジョイ。
 だがそんなルビィに忍び寄る影。
「燃えちゃうのはルビィちゃんなんだからねっ♪」

 ちゅどーーーん!

 ミーリエだ。
 海に落ちた振りをしてこっそり忍び寄った彼女が、木箱から取り出した焙烙玉を思いっきりルビィの頭上へブチかます。
 焙烙玉に取り付けられていた小袋が一斉に飛散した。
「ひゃあああ、なんじゃこりゃ、目が、目がぁ?!」
「ふふん♪ ミーリエ特製唐辛子爆弾! ガラスも入った特別品だー♪」
 きっちり顔を覆ったミーリエが勝利のキメ顔ピース☆
「馬鹿にしおってからに、クソガキがーー!」
 怒り狂ったルビィが、ミーリエがいると思わしきほうへ思いっきりファイヤーボールを撃ち放つ!
「馬鹿はそっちだ! 船燃えちゃうーー!」
 咄嗟にミーリエが火遁を撃ち放つ。
 火と火が空中でぶつかり合って爆ぜ、火の粉がぱらぱらと甲板に降り注ぐ。
 火の粉を避け、ミーリエは思いっきりルビィにタックル。
 そのまま腕から精霊武器を奪い去った。
「ルビィちゃんは、もう何にも出来ないんだからねっ♪」
 燃えそうだった甲板の火の粉を布で払いながら、ミーリエは三角飛びでその場を離れた。


「みんなに意地悪する子、リリがめーするのよ!」
「残念、少し遅いようだよ」
 仲間に向かって攻撃しようとしていたリリエールに、帆の上からロープで落下してきたハティーアが短剣で斬りつける。
 リリエールを肩に担いでいた海賊は慌てて逃げようとするが、ハティーアが返す刀でその命を絶つ。
「なんで、どうして?! 痛いよぅっ、いたいよーーうっ」
 甲板に投げ出され、切りつけられた腕を抱きしめてわけもわからず泣くリリエール。
 けれどハティーアに同情の色は浮かばない。
「泣きたいのはあなた達に家族を殺された人たちだよ」
 ハティーアの鞭が情け容赦なくリリエールの頬を切り裂いた。
 高い治癒能力を有しながら、恐怖で何も出来なくなるリリエール。
 再びハティーアの鞭が高々と振り上げられ――。
「だめですよ〜」
 ハティーアの手を、サーシャが押さえた。
「邪魔をする気?」
「命をとる必要はないのですよ〜」
 怯えるリリエールを抱きしめ、サーシャは甲板の奥を指差す。
 ハティーアが振り返ると、そこには、ロジャーを縛り上げる秀影の姿が。
「くくくっ、海賊でも人の親だったってことかい」
 嗤う秀影に、ロジャーは悔しげに睨み上げる。
 偶然の立ち位置で、ロジャーの目の前で娘のリリエールが鞭を振るわれたのだ。
 泣き叫ぶ娘の姿にロジャーは大きな隙を作った。
「壊しておく必要もなかったかな」
 リリエールをやる前に、逃げられぬよう高速艇を先に破壊していたハティーアは、サーシャに抱きしめられているリリエールを不思議に思う。
 子供がなぜ抱きしめられ、治療を受けているのか。
 彼にはわからないのだ。
 自身の記憶を辿っても、殴られる事はあっても撫でられる事など無かったのだから。
「リリが、治すのよ〜」
 だがサーシャに優しくされたリリエールは、開拓者達の傷を癒していく。
「子供が大事なら、商船のみんなにも家族がいる事わかるよね? ちゃんと罪を償って、更生するんだよ?」
 ミーリエに頭を撫でられ、ロジャーは今度こそがっくりと頭を垂れた。