【新人歓迎】空を制覇せよ!
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/07/09 01:22



■オープニング本文

「模擬戦、ですか?」
 ジルベリア最北領スウィートホワイト。
 その南の町ポアリュア臨時開拓者ギルドで、ギルド受付は首を傾げる。
 カウンターの前にいるのはポアリュア町長の美人秘書だ。
「今この時期にこそ、修練が必要であると考えました」
 美人秘書は、ピッと眼鏡を押さえる。
 ギルド受付も眼鏡を押さえる。
 眼鏡VS眼鏡。
 見つめ合う二人の間には何もない。
「……模擬戦よりも、あの空をどうにかするほうが先決であると愚考しますが?」
 秘書から目を逸らし、ギルド受付は遠い北の空に視線を移す。
 そこには、先日突如として出現した巨大積乱雲が今もまだ浮かんでいた。
 見た目こそ、白く巨大な積乱雲だが、その正体は瘴気の固まり。瘴気積乱雲であることが対応に当たった開拓者達から報告されている。
 瘴気積乱雲の切れ目から見えた中身は、廃墟と城が存在していたとの報告もある。
 その中から大量の下級アヤカシと巨大なスカイホエールが出現した事を考えれば、今はただそこに存在しているだけのあれを、どう対応していくべきか。
 いつまた襲撃があるのか。
 街にとってもギルドにとっても、頭の痛い問題である。
「それはわかっています。ですから、模擬戦を希望しているのです。いいですか? いきなり実戦に投入されて、しかも空戦。それで先日華々しい成果を挙げられたのは、奇跡に近いです」
 秘書が少し苛立ちを滲ませる。
「確かに……」
 頷きながら、ギルド受付は先日の資料を取り出す。
 その中には、まだ開拓者になりたての者達までが、未知なる空の敵にこの町の為に即座に対応し、そして無事に戻って来てくれた事実が記されている。
「近い将来、いえ、近日中に再びあの雲から飛空系アヤカシの襲撃があってもおかしくはないのです。それに備える為にも、開拓者の皆様には空戦を疑似体験して頂き、生存率を高めて頂きたいと考えます」
 相棒との連携は必須になるし、地上とはまた違った戦い方が必要になる空戦。
 それを実戦でなく模擬戦で体験できるのは、開拓者にとっても有利になるだろう。
「わかりました。でも北の空は使わないでください。南側の空でお願いします」
「それは当然です。わざわざあの雲に刺激を与えて貴重な開拓者達を危険にさらす気は毛頭ありませんから。貴方方には、この模擬戦に参加する開拓者の募集をお願いします」
「あたいも参加するさかい、ギルドのにーちゃん、手配よろしくな?」
「うおっと! あなた何処にいらしたんですかっ」
 ひょこんとカウンターの下から顔を出した青丹(アオニ)に、受付ががたっと椅子から立ち上がる。
「さっきからいたで? にーちゃん、秘書のねーちゃんに見惚れてたんちゃう?」
「馬鹿言わないで下さい! こんなきつい女性は好みではありませんっ」
「あら、随分な物言いですね? 私も貴方のようなひょろっとした頭でっかちは好みではありませんね」
 バチバチバチバチッ!
 受付と秘書の間に激しい火花が飛んだ。
「まぁまぁ、二人ともそうカッカしてるとシワ増えるで? あたいは開拓者の敵側に回るけど、姉貴と妹にも声かけたんや。妹の朽黄はあたいと一緒に参戦するで。
 姉貴の鳩羽はちょっと変わってるけど、高位巫女やさかい。戦闘には参加しないで、最後に全員の治療に当たるから、怪我人の心配もせんでえぇで?」
「……誰のせいで揉めたと思ってるんですか……」
 どっと疲れを感じる受付に、秘書が止めを刺した。
「貴方にも参加してもらいますよ?」
「は?」
 秘書が眼鏡をピッと押さえて言う目線に、思いっきり目を合わせたギルド受付は素で聞き返す。
「この街の財政状況は貴方もよくご存知でしょう。人手もお金も足りないのです」
「あなたが出ればいいじゃないですか」
「もちろんです。……貴方とは敵として合間見えたいところですが、今回は開拓者の敵として、共に戦いましょう」
 にっこりと社交辞令的笑顔を顔に張り付かせ、秘書が受付に手を差し出す。
「……後悔しても、しりませんよ?」
 ギルド受付はしぶしぶ手を握り返し、依頼書を作成するのだった。


◆模擬戦対戦相手◆
 青丹を含む6人です。
 
『青丹』
 シノビ。
 使用武器は『サクラ形手裏剣』
 相棒は駿竜。
 使用スキル:風魔閃光手裏剣、颯、散打
 喧嘩っ早く、口より先に手が出るタイプ。
 元気な似非関西弁娘で、やる気満々。
「あたいが相手でも、思いっきりかかってきてかまわんで。そっちがこないんやったら、あたいから行くで!」

『秘書クレイア』
 騎士。
 使用武器は名剣「サンクト・スラッグ」
 片手に盾装備。
 相棒は炎竜。
 使用スキル:グレイヴソード、カミエテッドチャージ、アヘッド・ブレイク
 クールに見えて、意外と好戦的。
 大切な人達を守る為なら、手段を問わず、ある意味冷徹です。

『ギルド受付レグランス』
 魔術師。
 武器は戦杖。
 相棒は甲竜。
 使用スキル:レ・リカル、ホーリーサークル、アクセラレート
 性格は基本的には冷静。
 物事を直感より頭で考えてしまうタイプ。
「どうして、僕がこんな事を……」
 あまり乗り気ではなく、直接戦闘よりも仲間の支援や回復に回りそうです。
 
『朽黄(くちき)』
 青丹の妹。
 武器は二胡。
 相棒は甲竜。
 使用スキル:重力の爆音、弔鐘響く鎮魂歌、超越聴覚
 吟遊詩人で、遊郭の露甘楼で普段は芸妓をしています。
「うち、頑張るけど……怪我させちゃったらごめんだよ?!」
 明るく素直で、人懐っこい少女です。
 あまり強くはありません。

『瓦版屋ジョーゼフ』
 砲術士。
 使用武器は火縄銃「轟龍」
 相棒は炎竜。
 使用スキル:生か死か、カザークショット、閃光練弾
 御歳64歳のマッチョ爺。
 青丹がアルバイトをしている瓦版屋のボス。
「若けぇの。命のスペアは持ってるか?」
 葉巻を常に咥え、その銃撃は的確かつ激しく、驚異的。

『男寺院坊主善覚(ぜんかく)』
 巫女。
 武器は大念珠。
 相棒は駿竜。
 使用スキル:閃癒、氷咲契、神楽舞「縛」
 ポアリュアの街にある男寺院のお坊様。
 男性ばかりに囲まれて生活している為、女性は少し苦手だとか。
「私が治療に当たります……どうか、無理をなさらずに……」
 大人しく、優しい青年です。  


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
无(ib1198
18歳・男・陰
鶫 梓(ic0379
20歳・女・弓
徒紫野 獅琅(ic0392
14歳・男・志


■リプレイ本文


「備えは、常に必要だろうしな」
 熟練の開拓者として幾度となく空戦を経験している羅喉丸(ia0347)は、今回の模擬戦も全力で戦うつもりらしい。
 背を撫でられた鋼龍の頑鉄も、それは同じ。
 厳つい鱗は甲龍時代よりも更に強化され、頑鉄の名に恥じない装甲を備えている。
「雛との戦闘は久しぶりね、今日はよろしくね。大好きよ」
 ぎゅうっと駿龍の雛を抱きしめる鶫 梓(ic0379)に、雛はまたかという表情をしながらも梓にされるがままになっている。
 戦闘に赴くのは久しぶりかもしれないが、休日はいつも一緒なのだ。
 離れているときの方が少ないのだから、絆の高さも頷ける。
「痛い、ゴツンってじゃれるな」
 徒紫野 獅琅(ic0392)が、駿龍の夜鈴に懐かれて困るふりをしつつ、目じりが下がっている。
 小鳥のような声で甘えてくる夜鈴。
「わかってるって、よーし、頑張ろうなー夜鈴ー」
 姉の梓と同じくぎゅうっと夜鈴を抱きしめると、より一層嬉しげに夜鈴が鳴く。
 姉弟そろって相棒にベタ惚れらしい。
「きみ、作戦があるようだね」
 无(ib1198)は竜哉(ia8037)に声をかける。
「速度を合わせたいね」
 竜哉は今回の対戦相手のメンバーをチェックしていた。
 同時に仲間の構成も。
 竜哉の見たところ、羅喉丸が一番安定した強さを持っていた。
(「5人まで、底上げが出来るからね」)
 竜哉のもつ戦陣「砂狼」は、竜哉を含めて仲間の俊敏さと攻撃力をそれぞれあげることが出来る。
 バラバラに攻撃するよりも同時に攻撃する時に、タイミングを合わせやすくなるだろう。
「彼女達についてはどうだい?」
「青丹とジョーゼフが厄介だね。同じ職場で働いているのだし、連携が一番とりやすいと思う」
「なるほどね。鳩羽さんの妹さんにしては、行動派な印象だね」
 先ほど无の治療に当たり、空戦後の治療も担当している鳩羽は、无の目から見て大人しい女性だった。
 昔除夜の鐘を鳴らすのを手伝った時の印象と変わらない。
 だがこちらに向かってくる対戦集団の先陣を切る青丹は、鳩羽とは見た目も性格も全く正反対のようだ。
「僕も青丹さんだけはわかるんだけどな」
 天河 ふしぎ(ia1037)も青丹とは面識がある。
 少し前にこのポアリュアの空に浮かぶ瘴気積乱雲からあふれたアヤカシ達。
 それを止めた仲間の内の一人だから。
 青丹が元気一杯にみんなに駆けてくる。
「ようきてくれたな! 今日はみんな、よろしく頼むで!」
 差し出された手を、獅琅がぎゅっと握る。
「空戦はほとんど初めてだし、せっかく仕立ててもらった場ですから、いろいろ試して勉強して帰りたいですね。よろしくお願いします!」
「今日はよろしく、空賊団長としては負けられないんだからなっ!」
 にこっと笑って、ふしぎは秘書クレイアの手を握る。
「よろしく頼む」
 短い言葉は羅喉丸からレグランスへ。
「鶫梓よ、よろしくね」
「うちもよろしくだよ♪」
 梓と朽黄が手を繋ぐ。
「お手柔らかに」
 无が差し出す手は、善覚に。
「さて、それじゃ訓練がてら慣らしと行くか」
 竜哉はジョーゼフの手を握る。
 ―― そして、戦いの火蓋は切って落とされた。


 羅喉丸を先頭に、開拓者チームは魚燐の陣形を取る。
 陣の中央は竜哉だ。
 ふしぎと无が右側に、梓と獅琅が左側だ。
 対する秘書チームは、鶴翼陣だ。
 善覚を後衛に、クレイアと青丹がそれぞれ前衛、クレイアの後ろにレグランスと朽黄、青丹側にジョーゼフだ。
(「やはり、回復役二人は後衛だね」)
 先陣を切る羅喉丸の狙いはレグランスだ。
 もっとも強い回復を担う善覚は、駿龍に乗っている。
 羅喉丸の頑鉄では、捕り逃す可能性が高かった。
 だが回復役が最初に狙われるのは、秘書チームも解っている。
 だからこそ、善覚が最後方なのだ。
(「レグランスさんを狙うには、クレイアさんを抑えないと無理だね」)
 クレイアは現在剣と盾を装備しているが、背中には槍が見えている。
「全軍、進撃。デザートウルフ!」
 竜哉が戦陣「砂狼」を羅喉丸を除く全員に発動させる。
「身体が軽い気がしますっ」
 獅琅が嬉しそうに弓を握りなおす。
 アーバレスト「ストロングパイル」は今まで扱った事のない武器だった。
 それでも姉の梓が譲ってくれた武器だから、それだけでもう、宝物。
「せっかくの訓練だし、普段は使わない銃を使ってみようかしら」
 梓は朱藩銃を構える。
 弓とはまた違った重みと手触りを伝えてくるそれは、けれど梓にとっては扱い辛い物ではなかった。
 弓と銃。
 共に遠距離攻撃を得意とする得物だからかもしれない。
「風天、今回は遊びはなしですよ」
 曲芸飛行をしたがる空龍の風天をなだめ、无は懐に手を当ててはっとする。
 いつもそこに潜ませている管狐のナイは、今日は家に待たせている。
 懐の隙間に少し寂しさを感じながら、无は意識を前方に向ける。
 そして、隊列を乱さないレベルで上空へと位置を取る。
 味方と、敵と。
 高い位置から全体を見渡す為に。
 レグランスの身体が光り、秘書チーム全員が光りに包まれたのがわかった。
(「ホーリーサークルですね。アクセラレートは誰にかけたのか」)
 ホーリーサークルと違い、アクセラレートは見た目の違いはない。
 かけられた対象者の動きで判断するしかない。
 ふしぎが、滑空艇改の星海竜騎兵で先陣を切る。
「空に響け、サイレンの魔女の歌声……悲恋姫!」
 あらかじめ仲間には話しておいた。
 だから仲間達は悲恋姫の範囲外に位置し、敵に突っ込んでいったふしぎを追う事はせず、鶴翼陣の正面で発動する。
 出来ればど真ん中まで進めれば後衛にも届いたその呪いの悲鳴は、クレイアとレグランス、青丹に激しい苦痛をもたらした。
(「慣れてない人の力になれたら」)
 そんな思いを抱くふしぎだから、手加減はなかった。 
「やってくれましたね。お返ししますよ」
 頭痛を伴っているのだろう。
 眉間にしわを寄せて、クレイアの剣先にオーラが溜まる。
「受けてたつよっ」
 そして同時に、ふしぎの霊剣「御雷」にもオーラが溜まる。

 キンッッツ―― ……

 二人の剣が空で交わり、激しい剣戟が繰り広げられる。
 クレイアを押さえるふしぎは叫ぶ。
「みんなっ、今だっ!」
 空賊団『夢の翼』の旗が、風にはためく。
「頑鉄、進めっ!」
 ふしぎの作ったチャンスを逃す羅喉丸ではない。
 一気にレグランスに突っ込んでいく。
 その行動は一見無謀だった。
 レグランスも攻撃手段は持っているし、砲術士のジョーゼフからは十分射程範囲だ。
 朽黄も後ろに控えている。
 だが羅喉丸は自身の気の流れをコントロールし攻撃に備え、頑鉄は鋼激突で突撃、攻撃にのみ専念する。
(「頑鉄、信じている」)
 羅喉丸の狙いに気づいたジョーゼフが狙いを定めるが、その銃口は竜哉によって逸らされる。
 朽黄の重力の爆音が羅喉丸をかすめ、青丹が方向転換してくるが間に合わない。
「強引すぎますよっ!」
 レグランスが叫び、光りの矢を放つ。
 光りの矢は頑鉄を撃ち抜き、同時に頑鉄がレグランスごと甲龍に体当たりして吹き飛ばす。
 遠距離攻撃は十分想定していたもの、よもやまさか龍ごと体当たりを空でされるとは想定外。
 レグランスは辛うじて振り落とされるのは免れているものの、甲龍自体が受けたダメージも激しい。
 即座に体勢を立て直すのは不可能だった。
 だが追撃をやすやす許す秘書チームではない。
「それ以上はやらせへんでっ! 例え羅喉丸のにーちゃんでもや!」
 青丹の叫びと共に、羅喉丸に桜型手裏剣が降り注ぐ!

 ピシッ!

 羅喉丸に当たるはずのそれは、不意に飛来した弓矢に弾かれた。 
「あ、上手く当たった、かも?」
 羅喉丸に降り注ぐ手裏剣を、獅琅の矢が弾いたのだ。
 姉の見よう見まねだった。
 けれどいつも側にいて、共に過ごした時間は大きく、姉の弓を扱う獅琅に戸惑いは少ない。
「ちょっと。私の獅琅君には指一本触れさせないわよ?」
 ジョーゼフの射程距離に入った獅琅を守るべく、梓が銃を発砲する。
 避けられることはわかっている。
 愛する弟から気を逸らさせる為の牽制だ。
 予測どおりジョーゼフは余裕すらみせて龍を操り弾丸の軌道から逸れ、
「腕はいいが、詰めは甘ぇようだな」
 梓の銃を握るその腕を撃ち抜いた。
「姉さんっ!」
「だめっ、ちゃんと前をみて……っ」
 梓に向かってこようとする獅琅を、梓は叫んで止める。
 目の前には朽黄がいた。
「ごめんなんだよ?」
 詫びながらも、彼女の指は二胡を爪弾く。
「獅琅君には手を出さないで!」
 叫ぶ声は、朽黄にも届き、二胡から放たれた重力の爆音は獅琅をギリギリ逸れて空に消えた。
「朽黄、なにやっとんねん!」
「あなた達の相手は俺が勤めるよ」
 朽黄を叱り飛ばす青丹の前に、竜哉が立ち塞がる。
 レグランスは羅喉丸が必ず止める。
 なら、竜哉の相手は青丹と、そしてジョーゼフ。
 無論、一人で二人の相手を務めるわけではない。

 ヒュンッ―― ……

「なんやなんや?!」
「青丹っ、視界を広く持てぇっ! 来るぞっ!」
 上空から戦況を把握していた无が、死角から接近してきたのだ。
「動きを止めさせていただきますよ」
 无の手にする札から、無数の小さな虫が放たれる。
 蟲にまかれた青丹と駿龍の金成は、全身の麻痺に身動き取れなくなる。
「若けぇの、やってくれるじゃねぇか」
 ジョーゼフの銃口が无に向けられる。
 だがその銃口が火を吹く前に、竜哉の魔槍砲「神門」がその全長260cmものリーチを生かして、ジョーゼフの葉巻を弾いた。
 ジョーゼフが何かを言うより早く、竜哉は叫ぶ。
「全軍、総攻撃。ドラゴンストライク!」
 羅喉丸を起点とし、全員の俊敏さが一気に跳ね上がる。
「狙うのは、人だけじゃないよね」
 心を落ち着けた獅琅が、集中力を高めた一撃を朽黄の甲龍に放つ。
 甲龍を操り避けようとするが、速度のない甲龍で放たれた矢を避けるには運に左右されるだろう。
「やられっぱなしじゃないわよ? ……あなたを撃つのはちょっと気が引けるけど。今、ここで一人落とすわ」
 梓が逃げれなくなった朽黄に宣言する。
 命中力の高い朱藩銃、そして鷲の目。
 二つの効果を得た弾丸が、朽黄に避けられるはずもなかった。
 獅琅の弓矢が刺さったままもがく甲龍に、つかまり続ける事もできずに朽黄は空に投げ出される。
「ちょっと、獅琅?!」
「助けるよ」
 獅琅が夜鈴を駆る。
 夜鈴はその翼を大きく羽ばたかせ、落下する朽黄に一気に突っ込んでいく。
「狙えなかったんだよね」
 気を失っている朽黄を、獅琅はその両手で抱きかかえる。
「甘いんだから」
「姉さんもね」
 朽黄が落ちないように夜鈴に括りつけ、獅琅は戦線に戻る。


「本当に、なんで僕がこんな事を……」
 羅喉丸の攻撃を辛うじて避け、レグランスは再度、光りの矢を放つ。
 主によけているのは甲龍で、それもほぼ本能。
 後衛から善覚が治癒を施し続けているが、もう勝負は見えていた。
「修練は裏切らない、故にこの技を放つのさ。例え、地に脚がなく、得物が弓であろうとな」
 拳でなく脚力でなく。
 羅喉丸は弓を射た。
 細く華麗な弓から放たれた矢は、狙い通り。
「……っ!」
「次は、外さない」
 急所を外し、肩に刺さる矢をレグランスは苦痛と共に引き抜く。
 自身で治療することは出来た。
 だがその時間を羅喉丸が許すことはないだろう。
「……降参です」
 乗り気でなくとも、やはり負けるのは悔しいらしい。
 屈辱です、と呟く彼に、羅喉丸はふっと笑って、後方の善覚をみる。
 もうそれだけで、善覚もレグランスに習った。


「青丹、ボウッとするなぁっ!」
 ジョーゼフが叫ぶが、間に合わなかった。
「高らかに歌えカ・ディンギル!」

 フィーンッ―― ……

 高貴な楽器が幾重にも奏でる、ハーモニーのような澄んだ音色が空を響かせる。
 けれどそれは、決して心和むものではなく。
「やぁってくれたな、チックショーーーーー!!」
「それだけ元気があれば、問題ないね」
 竜哉の魔槍砲に射抜かれた金成から、青丹が振り落とされた。
 なのに余裕で罵詈雑言を叫んでいるのは、竜哉に片手で抱えられているからだ。
「怪我は気にするなって言われても、気になるのが人情ってモンでしょ」
 余裕で笑う竜哉に、青丹はぐぎぎっと悔しげに歯軋り。
 でも竜哉に助けられた時点で失格なので、大人しく竜哉のWKMTにつかまった。
 そしてジョーゼフも意外な事に攻撃手段を封じられていた。
「若けぇの、やってくれるじゃねぇか」
 腕から血を流し、不敵に笑うジョーゼフが見ているのは、无。
 高速飛行と風を読み、一気に間合いをつめた无が手裏剣「八握剣」で斬りつけたのだ。
 十分な距離を保っていたならジョーゼフの技は冴え渡る所だが、間合いを詰められてしまえばあっけなかった。
「だが至近距離でも、撃てないわけじゃぁねぇぜ?」
「避けて見せます」
 至近距離で无に銃を構えるジョーゼフ。
 二人の間に、緊張が漲る。
 その緊張を破ったのは、ジョーゼフだった。
「若けぇの、いい度胸だ」
 言いながら、銃を下ろす。
「いいのですか」
「もう勝負はついているだろう」
 親指をクイッと方向を示す。
 そちらでは、いままさにふしぎが剣を交えている。  


「良い開拓者ね」
「努力していますからっ」
 甲高い金属音を響かせて、二人の剣は何度も何度も交じり合う。
 クレイアは槍も持っていたものの、ふしぎが持ち替える隙を与えない。
「悪いけど、リタイアして貰うよ」
 キンッ……ッ!
 クレイアの手から、剣が弾き飛ばされる。
「女の子なのに、強いのね」
「待って下さい、僕は男! 男ですよ!」
「あら」
 龍から振り落とす必要はなかった。
 ふしぎの少女然とした顔立ちに驚きながらも、クレイアはきちんと負けを認めたのだった。


「とりあえずお疲れ様。お茶持ってきたから飲んでよね」
 地上に戻った皆は、梓の持ち寄ったお茶で一息。
 ゆっくり寛ぐと、心も身体も癒される気がする。
「†謀†」
「鳩羽さん、痛いです。治療はありがたいのですが、もう少しお手柔らかに」
 羅喉丸の傷を、鳩羽がくるくると包帯を巻きながら治療する。
 もちろん、閃癒で全員の治療済みなのだが、念の為のようだ。
「完全に気を失ってしまっていますね」
 无が意識のない朽黄を心配気に見つめる。
 地上に戻ってからも、朽黄はまだ意識が戻っていなかった。
「怖い思いをさせすぎちゃったかな……うあっ?」
 獅琅が責任を感じ始めると、青丹がバンバンとその背を叩いた。
「きにせんでえぇで! 空戦訓練なんやさかい、落っこちて当然なんや。妹もコレで免疫ついたやろ」
「そ、そうですか……」
「きっと後数分もすれば目ぇ覚ますと思うで」
「獅琅は優しいからね」
 梓が笑う。
 そして向かい側では、ふしぎがクレイアに服を脱がされそうになっていた。
「わわっ、服をめくっちゃだめですよ?」
「あら。本当に男性ですね」
「そ、そうですよっ。でもだからって服は駄目ですっ」
「確かめただけです。変な意味はありませんよ?」
「あったら困りますっ、僕には大切な人がいるんですっ」
 真っ赤になるふしぎと、わかっていてわざとからかっているのではないかと思えるクレイア。
「また、機会があれば」
「そうさなぁ。若けぇの、いい戦闘だった」
 竜哉が差し出す手を、ジョーゼフはにやりと握り返す。
 燻し銀なジョーゼフは「いやぁ、楽しかったねぇ」と葉巻をふかす。
 数分後には朽黄も目を覚まし、善覚もレグランスも加わった。
「もう一戦、いってみるか?」
 という青丹の提案には、みんな首を振って。
 ゆっくり、お茶と共に身体の疲れを癒すのだった。