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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 「殺してしまえといったじゃない!」 ジルベリアのとある遊郭。 女主人は声を荒げてシノビの頬を叩く。 叩かれたシノビの男は抵抗することなく、ヒステリックな女主人の暴力に眉一つ動かさず耐えている。 「服を裂いたから、なんだというの? お前が生ぬるいことをするからあいつ等はまたすぐにのさばりだしたじゃないの!」 赤い格子窓を叩き、女主人は髪を振り乱す。 もう何年と女主人に使え続けているこのシノビは、今まで彼女の命令に背いたことなどなかったのだが‥‥。 「‥‥もし見つかれば。貴方がただでは済みません‥‥」 殴るのを止めた女主人に、シノビは言う。 「そんなことは判っているわ。バレなければいいじゃないの。そうでしょう? マリエール、お前は良い子よねぇ」 女主人のドレスの裾にまとわりついていた小さな猫が、人妖へと姿を変える。 それは、露甘楼の衣装の注文に工房へと訪れたレヴェリーと依月、そして朽黄を見つめていた猫。 「お前のお陰で、あいつ等がすぐに店を開けれた理由もわかったわ。開拓者共の忌まわしいこと!」 独り言のように怒りを撒き散らしながら女主人はイライラと爪を噛み、部屋をうろつく。 そして、ふと、シノビに目を留める。 「ねぇ。殺すのがお前の矜持に反するというのなら、これはどうだい? あの女の顔をズタズタに引裂いてやるのよ。服を裂くのも顔を裂くのも変わりはしないでしょう? どちらも女を彩るものに違いないのだもの。 ‥‥でも、ただ傷つけるのなんてもったいないわねぇ? 苦しめて苦しめて追い詰めて、じわじわと身も心もボロボロになるが良いわ!」 耳障りな高笑いを響かせ、女主人はシノビに命ずる。 馴染みの上客を奪った露甘楼の女―― 紗々芽を傷つけろと。 「最近、妙な物音が聞こえるの‥‥」 露甘楼の一室で、紗々芽は朽黄に不安を口にする。 つい先日、露甘楼の危機に駆けつけてくれた朽黄の友人と良く似たデザインのローライズを仕立ててもらい、それはそれはご機嫌だった紗々芽。 けれど今やその顔は蒼白で、大きな緑の瞳の下には痛々しい隈が浮かんでいる。 「引っかくような物音、だっけ?」 相談に乗る朽黄の表情も暗い。 最初は気のせいかもといっていたのだ。 深夜に猫の鳴き声がしたり、戸を引っかく音がしたり。 子猫でも紛れ込んだのかと、露甘楼の遊女達の誰しも気に留めていなかった。 それよりも彼女達のもっぱらの興味は新調した衣装。 先日裂かれてしまった衣装の代わりにと開拓者達がデザインした衣装はそれはそれは魅力的。 月白が否定した魔法少女を思わせる衣装は主に半玉の少女達が愛用中だし、人気の五人の遊女達は一つのデザインにとらわれる事無く全て着れば良いと、最初に選んだデザイン以外にも随時、工房に発注を出していたりする。 そんな浮き足立った露甘楼で、たかが子猫の鳴き声など、誰一人気に留めなくとも仕方がない事だった。 「毎日なの‥‥。それに、これ‥‥」 縮緬の手提げから取り出されたそれに、朽黄は悲鳴を上げかける。 「これっ‥‥どこで‥‥」 とてもじゃないが受け取れるものではなかった。 紗々芽は緑の瞳に涙を浮かべる。 その手に握られているのは藁人形。 呪詛と思われる文字と、その頭に深々と刺さる五寸釘。 「枕の下に、あったの‥‥っ!」 わっと朽黄にしがみ付き、紗々芽は怖いと泣きじゃくる。 彼女を抱きしめて、大丈夫なんだよと朽黄はその背を撫でる。 (‥‥絶対、大丈夫。みんなを、呼んでくるんだよ!) |
■参加者一覧
神咲 輪(ia8063)
21歳・女・シ
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
レヴェリー・ルナクロス(ia9985)
20歳・女・騎
ラシュディア(ib0112)
23歳・男・騎
御桜 依月(ib1224)
16歳・男・巫
ノクターン(ib2770)
16歳・男・吟
高崎・朱音(ib5430)
10歳・女・砲
セフィール・アズブラウ(ib6196)
16歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ●準備 「ってまあ、相変わらずシリアスってんなー」 遊郭街の一角にほんのりと建つ露甘楼。 あまやかな香りと魅惑的な遊女達が集うこの遊郭で、村雨 紫狼(ia9073)は苦笑交じりに肩をすくめる。 何度かこの遊郭を訪れたことのある彼だか、ここ最近の露甘楼は暗く沈んでいて、あまり楽しい雰囲気ではないのが不満なのだろう。 本来遊郭とはお客様を楽しませるもの。 こんな風に暗く沈んでいては、溜息をつきたくなってしまうのも致し方ないことだろう。 「大丈夫よ。私達が必ず貴女を護ってみせるわ」 真っ青な顔で頷くのが精一杯の紗々芽に、レヴェリー・ルナクロス(ia9985)はその手を握って力強く頷く。 露甘楼が沈んでしまっているのもわけがある。 遊女の一人・紗々芽が何者かに嫌がらせを受けているのだ。 普段どおりの営業を続けてはいるものの、事情を知る開拓者達の前では遊女達も偽りの笑顔を外して不安に顔を曇らす。 「どこのどいつかわからぬが、因果応報ともいうしの。しっかりお灸は据えてやらぬとのぉ?」 そう言いながら、高崎・朱音(ib5430)はかなり怒っているようだ。 「本気で怖いぜ。衣装切り裂きだけならまだしも、特定の誰かをここまで追い込むんだからな。これはもう狂気以外の何者でもないぜ?」 女装が趣味の男の娘・ノクターン(ib2770)は、紗々芽のされた仕打ちに美麗な顔をしかめる。 紗々芽の枕の下にあったという藁人形を、怖いながらも紗々芽に持たせたままにはしておけず、かといってむやみに捨てることも出来ずにいた朽黄。 ノクターンは彼女からそれを受け取り、思いっきり床に叩きつける。 呪詛の言葉と深々と突き刺さった五寸釘、そして藁人形そのものがバラバラと崩れた。 「昔お世話になった、という所かしら」 遊女達に手伝ってもらい、元々華やかな容姿もあって露甘楼の遊女のような姿になった神咲 輪(ia8063)は微笑む。 この事件の調査をするに当たり、開拓者だとばれぬ用に変装しているのだ。 何故露甘楼に来たかと問われれば、以前半玉として露甘楼で修行していたという設定。 全ての遊女の過去を知るのはカナリアぐらいのものだから、朽黄と紗々芽、今回集まってくれた開拓者達と口裏を合わせておけば、まずばれないだろう。 何を聞かれても戸惑ったり疑われたりしないよう、シノビである彼女は見た目だけでなく過去の設定までも完璧だった。 御桜 依月(ib1224)も開拓者とばれぬように、遊女達に挨拶しつつ遊女スタイルに変装。 本来男の子だけれど、愛らしい容姿と言動からまず男性には見えない。 「いたいけな女の子、しかも頑張っている人が理不尽に酷い目に遭うなんて間違っている」 だからこそ、事件を一刻も早く解決しようと、ラシュディア(ib0112)は何時にも増して深刻な表情。 何時もなら遊郭なのだから、依頼であっても綺麗なお姉様方との楽しい時間が過ごせるものだが、今回は別。 レヴェリーに呼ばれて来た愛の生殖者、いや、聖職者エルディン・バウアーもその表情は険しい。 「判っている所から手繰る事といたしましょう」 セフィール・アズブラウ(ib6196)が以前この遊郭が嫌がらせを受けた時の情報を分析しだす。 ●推理と調査 「このような物を残して警告してくれるとは、ずいぶん心優しいのではないかと思います」 ノクターンが粉砕した藁人形の残骸を手に、セフィールは言う。 村雨もその言葉に頷く。 露甘楼の衣装を切り裂き、紗々芽の枕元に藁人形を置く。 それだけのことを誰にも気づかれずに出来るのなら、最初に紗々芽を襲えたはずなのだ。 紗々芽だけを襲うなら衣装を裂いたり警告したりすることに比べてずっと手間も時間もかからないのだから。 「推測になりますが。道具を使えるのと使えないので最低2人以上。多くても3人と思います。うち1人は人でない可能性があります」 セフィールの推理は続く。 先日、切り裂かれた露甘楼の衣装修復を手伝いながら、セフィールはその切り口を良く観察していたのだ。 「切り口が二種類あるから犯人は複数、ナイス推理だぜ〜セフィールたん!」 がしっとどさくさに紛れて抱きつきそうな勢いで、村雨はセフィールを絶賛。 犯人を探す手がかりは一つでも多いほうが良く、犯人が単独なのか複数なのかを知ることが出来れば、対応策も練りやすい。 そしてセフィールの情報を元に、更なる情報を得る為に、開拓者達はそれぞれ情報収集に乗り出す。 「ふむ。なかなかに難儀じゃのぉ?」 遊女を装うまでもなく、常に華やかで遊女風の服装をしている朱音は、武器を隠して遊郭街を歩いていた。 その傍らには依月。 「紗々芽ちゃんの言っていたお客さん、そう簡単には見つからないかな?」 月白の為にデザインした衣装を少しアレンジした雰囲気の遊女姿で、依月は辺りを見回す。 依月のデザインがあまりにも気に入った月白は数着同じ服を作らせて、ほぼ毎日着用。 それをみていた別の遊女達も依月のデザインと似たようなのを作ったりもしていて、丁度よく依月が着れるサイズの服が合ったのだ。 紗々芽が言うには、それなりに歳を重ね、身分もありそうな男性。 中肉中背で、髪の色は銀。 金のモノクルとスーツの胸ポケットには懐中時計。 こんなありきたりの情報で探そうというのだから、無理にも程がある。 唯一特徴的といえなくもないのは金のモノクルとスーツぐらいだろうか? そもそも以前この遊郭街を訪れていたからといって、また訪れるとも限らないのだ。 二人が探し疲れ、諦めがその表情に浮かびだした時だった。 中肉中背、金のモノクルと懐中時計のスーツの男性が二人に話しかけてきた。 男性曰く、依月の天儀とジルベリアを合わせた様な独特の露甘楼の衣装に見覚えがあって声をかけたとの事。 以前露甘楼の遊女に買い物を付き合ってもらい、今日はそのお礼に店を訪れたのだが体調が優れないという事で会えずに帰る所だったと。 朱音と依月、同時に顔を見合わせる。 「花になるのもお仕事だもの」 常に身に着けている枝垂桜の簪を髪に付け直し、輪は辺りを伺う。 そこはレヴェリーの提案に頑なに拒絶反応を示した遊郭・セルバスタハブの側の茶店前。 遊郭街とはいえ、遊郭だけが在るわけではない。 輪はそこで、いかにも遊女が逢引の人待ち風を装いながら、仲間を待つ。 輪以外の開拓者達は相手の遊郭に顔を知られている可能性があり、唯一絶対に顔の知られていない輪が問題の遊郭を探る事になったのだ。 数日前朱音と依月が出会った紗々芽の客は、以前はこのセルバスタハブの常連だったとか。 ならば紗々芽を恨み、嫌がらせをしているのはこの遊郭ではないのか。 常連だった男の相手は女主人。 待ち合わせ場所に現れたエルディンに、輪はさも愛しい人を迎えるかのような表情と仕草で迎える。 「色気と芸があってこそ遊郭の良さ。貴女は実に素晴らしい」 疑惑の遊郭女主人・ブラゥ=オウジェンをエルディンはここぞとばかりに褒めちぎる。 もちろん、誰もが気軽に女主人に会えるわけではない。 有力商人でも貴族でもなく、一見様の彼に女主人自らが接客をするなど本来ありえない。 だがエルディンは事前に女主人の情報を輪から聞き、その行動を把握。 女主人が玄関先に花を飾る為に出てくるタイミングを見計らい、偶然を装って彼女に会い、褒めちぎって彼女自ら接待したくなるよう仕向けたのだ。 「芸もあり格式もあり、こんなにも素晴らしい遊郭の女主人たる貴女のライバルになりえる人はいないでしょう」 どんどん褒めちぎるエルディンに、けれど女主人はピクリと眉を動かす。 女主人のそんなわずかな表情の変化を見過ごさず、ここぞとばかりにエルディンは露甘楼に対する彼女の心境を聞き出した。 ●罠 夜間。 紗々芽の部屋で、彼女と入れ替わったレヴェリーがベッドに深く潜って怯えるふりをする。 その部屋の隣にはレヴェリーに扮した本物の紗々芽を守りながら、朽黄とノクターン、依月に朱音、セフィールと村雨が待機。 レヴェリーは何時も身につけている衣装全てを紗々芽に渡していた。 絶対に人前で外すことのなかった仮面すらも。 見た目も元々似ていた二人だが、セフィールが香炉前に頼んで紗々芽と同じ香をレヴェリーに焚いてもらい、匂いでも見分けがつかない。 大切な友人と、その仲間を守る為に、自らの信念も曲げてレヴェリーはベットの中で紗々芽を演じ続ける。 隣の部屋では、ノクターンが紗々芽をレヴェリーとして扱いながら勇気付けていた。 「ま、てめぇも大人しく聴いておけよ。緊張してちゃやれる事も出来ないぜ?」 レヴェリーの衣服を身に纏い、その大切な仮面も付けさせてもらっている紗々芽は、真っ青になりながらも自分の身代わりになってくれたレヴェリーの身の安全を一心に祈る。 ノクターンは小鳥の囀りを使用するが、夜間の遊郭。 集まってくるはずの小動物はそろそろ眠っている頃で、あまり効果は期待できない。 だが、どこからか猫の声がする。 物陰に潜んで敵の出方を伺っていたラシュディアが超越感覚と早駆を使い、すぐさま声のしたほうへ駆けてゆく。 「逃さないよ‥‥!」 猫を見つけた瞬間、ラシュディアは信じられない行動を取った。 小さなその猫に、即座に手裏剣を放ったのだ。 咄嗟に猫は避けたが、驚いたせいかその姿が猫から人妖―― マリエールへと姿を変える! マリエールは驚くラシュディアの隙を突いて、露甘楼の窓から逃げてゆく。 その後を、輪が追うのも気づかずに。 そう、これは元々計画のうち。 わざと敵が逃げる隙を作り、犯人を突き止める為に逃がしたのだ。 (あとは、もう一人の実行犯が動くのを待つか) 手口から恐らくラシュディアと同じシノビ。 ラシュディアが潜んでいる事などとうに気づかれている可能性が高く、だからこそ、ラシュディアは猫に向かったのだ。 彼が紗々芽達から離れたのを見、シノビが油断するように。 敵が油断すれば、その分レヴェリーの策が上手くいく。 ラシュディアは皆を信じ、マリエールを追いかける。 息を殺し、皆がその時を待つ。 どの位時間が経ったのだろう? どこからか現れた黒尽くめの男が、紗々芽のベットに近づいた。 全員の身体に緊張が走る。 「‥‥起きているね? 今すぐ、遊女を辞めなさい‥‥」 小さく、けれどはっきりと聞こえる声で、シノビであると思われる黒尽くめの男は紗々芽に扮するレヴェリーに語りかける。 今すぐに逃げなさいと。 その言葉に一瞬戸惑ったレヴェリーだが、即座にベットから飛び起きてシノビが避けるまもなくブラインドアタック! 「‥‥掛かったわね!!」 よもやまさか、か弱い遊女から攻撃を受けるなどと思ってもいなかったのだろう。 だが敵は手練。 すぐに体勢を立て直し、反撃! だがその反撃はあくまで牽制。 レヴェリーを本気で傷つけるそれではない。 隣の部屋から駆け込んできた開拓者達と紗々芽を見、シノビは即座に向かってくるが村雨が紗々芽を抱きしめて横に飛ぶ。 その隙にシノビはドアから飛び出し姿を眩ました。 ●犯人 「し、知らないわ、わたくしはなにもっ‥‥!」 遊郭・セルバスタハブ。 乗り込んできた開拓者全員と紗々芽を前に、女主人はうろたえる。 輪とラシュディアの手には捕らえたマリエール。 この遊郭に入る瞬間に二人が捕らえたのだ。 「ならこの人妖は処分してかまわないね?」 ラシュディアが人妖の首にクナイを突きつける。 紗々芽でなく自分を恨めば彼女を守れると、もともとラシュディアは女主人の恨みを引き受けるつもりだったから、その行動に演技はない。 クナイがつっ‥‥と動き、マリエールの白い首筋にうっすらと血が滲む。 その瞬間、女主人が叫び、折れた。 わたくしは悪くない、紗々芽が悪いのだと半狂乱に叫び散らす女主人に、朱音と依月が進み出る。 「おぬしに伝えたいことがあるのじゃ。セルゲイ・バトゥーリンという御仁を知っておるな?」 朱音の問いに、女主人ははっとする。 その名は、女主人の馴染みの上客。 「彼ね、紗々芽ちゃんにお買い物を選んでもらってたの。大切な人に贈る為に、同じ遊女に選んでもらったほうが素敵な品物を選べるかもしれないって」 朱音に続き、依月も伝える。 遊郭で奇跡的にもセルゲイに出会った二人は、彼から全ての事情を聞き出せたのだ。 女主人の遊郭に訪れなかった理由、紗々芽と買い物に出かけた理由。 それは、女主人の身請け。 貴族であるセルゲイが愛人としてではなく女主人を正式な妻にと迎える為にはそれなりの準備が必要で、その為に遊郭を訪れることが困難になっていたのだ。 露甘楼の遊女に買い物の同行を頼んだのは、天儀とジルベリアを合わせた衣装は魅力的で、大抵の物をプレゼントしつくしてしまったセルゲイには思いもつかない魅力的な品を選んでもらえるかもしれないと思ったからだと。 「本来なら彼に直接伝えさせたかったんじゃがのぉ、まだまだ忙しゅうらしくてな」 「信じるって、大事なんだよ?」 朱音と依月の言葉に、女主人は涙ながらに床に平伏した。 紗々芽に、深く詫びて。 ●終わりよければ全てよし 「俺は、露甘楼のみんなが憎しみで顔を歪ませる姿は見たくねえよ。もふら洗いとかさ、楽しかったじゃん? またああゆう楽しい露甘楼に戻ってほしいと俺は思うよ」 事が終わり、皆でセフィールの用意したお菓子をつまみながら、村雨は言う。 露甘楼女主人も同意見で、相手が反省し、紗々芽も無事だったのだからと全て不問に。 これからは仲良く手を取り合って遊郭を盛り上げていけたら良いと言う。 紗々芽がとことこと、村雨に駆け寄る。 うん? と首をかしげる村雨に、もふらの簪を手渡す。 次に来てくれた時は、きっと笑顔で迎えるから。 だから、また遊びに来てねと。 まだぎこちない笑顔で、村雨の望む女の子の楽しげな笑顔には程遠かったけれど、確かに紗々芽は微笑んだ。 きっと、次に皆が来てくれる時には露甘楼総出でもっと楽しくお出迎えしてくれることだろう。 「朽黄。ほら、以前『働きたい?』と私に訊いたじゃない? あ、あの話ね、やってみたいかなぁと思って‥‥」 レヴェリーは顔を真っ赤にしながら朽黄に言う。 言われた朽黄は笑顔で即答、レヴェリーならスタイル抜群だしきっといい娼妓になれると。 「ちょっ、違う、娼妓じゃなくて芸妓でっ‥‥っ!」 更に真っ赤になるレヴェリーに、村雨が「今度来るときはヴェリたんご指名するぜ☆」と止めを刺して。 楽しい笑い声が露甘楼に響き渡った。 |