図書館とエルフ〜資料室の〜
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
EX :危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/06/28 04:28



■オープニング本文

 その事件は、ラティーフがいつものように天儀大図書館でうたた寝していた時のことだった。

 カタン……。

 賞金首資料室。
 その片隅から、物音が聞こえる。
「またなのです〜……?」
 眠い目をこすりつつ、資料室へ足を運ぶラティーフ。
 ここ数日、資料室から奇妙な物音がするのだ。
 ラティーフが資料室を開けると、ぴたりと止まってしまうのだが。

 カタカタ……カタンッ!

「今日は、多いような気がするのですよ……?」

 昼夜問わず、急に鳴り出す物音。
 ラティーフは、資料室の鍵を取り出して、ドアを開けてみる。
 いつもなら、この時点で物音はぴたりと鳴り止むのだ。
 だが今日は違っていた。

 ヒュンッ――

「きゃぁっ?!」

 飛んでくる本。
 おっとりしたラティーフが咄嗟に避けれたのは、ほんの偶然。
 だが偶然はそう何度も起こるものではない。
「い、いったい……あうっ!」
 ガツンッ!
 次々と飛来する本に顔面を強打されて、倒れるラティーフ。
「み、皆さん、図書館から、外に逃げてください〜……っ」
 本に襲われながら、叫ぶラティーフ。
 とにかく、一般の人々に被害が及ばないようにしようと、何とか立ち上がって資料室の扉を押し閉める。
 本が生き物のように飛来して、壁と扉の隙間に挟まって妨害してくるが、なんとかこれを押し戻して鍵を閉める。
 ドンドンッと、激しく体当たりをする音が中から響く。
(「ほ、本たちに一体何が……?」)
 考えられるのはアヤカシ。
 九十九神系の憑依アヤカシが憑いたなら、本が意思をもったかのように動く事もありえる。
 だが、切り捨てるなんて出来ない。
 この資料室の本は、過去から現在の賞金首に関する詳細はもちろんの事、今後賞金首として手配される可能性のあるアヤカシ情報などもあるのだ。
 世界に一つの貴重な資料。
 そしてなにより、全ての本はラティーフが愛してやまない大切なものなのだ。
 なおも激しく扉を叩く本たち。
 このままではラティーフが切り捨てずとも、自身の体当たりで本がボロボロになってゆくだろう。
「み、皆様の中に、開拓者様はいらっしゃいませんか〜?!」
 ラティーフは意を決して、開拓者に助けを求めるのだった。
 
 


■参加者一覧
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
バロネーシュ・ロンコワ(ib6645
41歳・女・魔
戸隠 菫(ib9794
19歳・女・武


■リプレイ本文

●響く悲鳴は座布団と
 その悲鳴が響いたのは、リィムナ・ピサレット(ib5201)が大量の座布団を売り捌いていた時だった。
「今のは何なんだろっ?」
 担いだ座布団を持ったまま、リィムナは小首を傾げる。
 今日は、座布団店の店主の依頼で、座布団の買い手を捜していたのだ。
 なんでも、間違って大量に仕入れてしまったらしい。
 図書館なら椅子にずっと座っている事も多いし、読書好きも多く来るだろう。
 当然、座布団の需要があると踏んで、彼女は司書の許可を得て図書館の前で「柔らか座布団に座れば作業効率アップ! 利用者も増えますよ♪」なんて楽しく売り子をしていたのだが……。
 まだ売れていなかった座布団を大八車から風呂敷に包んで担ぎ、リィムナは悲鳴の聞こえた図書館の中に駆け込んでいく。
「知識と本を愛する教会神父参上です」
 資料室の前では、扉をしっかりと押さえているラティーフ、そしてそれを手伝う為にラティーフを扉に押し付けるような形で一緒に押さえ込むエルディン・バウアー(ib0066)。
 ドンドンッと激しい音が資料室の中から響き、ある意味エルディン×ラティーフで壁ドン状態。
 聖職者の象徴であるカソックが妙に艶かしく見えるほど。
「こんな所でナンパですか。悲鳴はそのせいですかね?」
 ラティーフの悲鳴に駆けつけた長谷部 円秀(ib4529)がそんな事を言う。
「待って下さい、誤解です! 聖職者たる前に一人の成人男性として、こんな若い娘さんにそんな破廉恥な事しませんってば!」
「よく育ってますから問題なさそうです。天儀の成人は14歳からですし?」
 育っている、といいながら円秀が見ているのはどうみてもラティーフの胸。
「何処を見ていってるんですか。育っているかどうかとかそうゆう問題ではありませんっ」
 エルディン・バウアー28歳独身。
 一回り以上も歳の離れた少女とのうわさはどうにかここで消し止めたい所。
「……何事なんだ。痴話喧嘩ならもう少し静かにしてくれないか」
 トラブルかと思い、資料室に駆けつけた琥龍 蒼羅(ib0214)が眉をひそめる。
 悲鳴と物音から駆けつけたというのにナンパ現場にしか見えないこの状態は、肩透かし。
「違います、違うんです、私は無実ですっ」
 もう涙目のエルディン。
 扉を押さえる力が一瞬緩んだ。
 その瞬間、バンッ! と一際激しい物音と共に、ラティーフだけでは押さえきれない負荷が扉にかかった。
「きゃーーーーっ!」
「うおっと?!」
 びちびちびちびちっ!
 扉の隙間に挟まった本が、激しくページをバサつかせて暴れ狂った。
「これ何処の鮮魚かな?! 本とは思えないよ」
 やはり駆けつけた戸隠 菫(ib9794)が暴れる本に青い瞳を丸くする。
 その隣にはこんな事態だというのに少しも動じていないバロネーシュ・ロンコワ(ib6645)が。
 暴れる本の姿は吊り上げられた魚の尾のよう。
「一応本の形態を保っているようですが、明らかに何かが憑いているようですね」
 細い指先をスッと延ばし、暴れる本をポンッと中に押し込める。
 エルディンとラティーフがその瞬間に力を込めて扉をきっちり閉めなおす。
「一体どうしたのかなっ」
 最後に、図書館の前から大量の座布団を抱えたリィムナ、資料室へ到着!
 ドスンッと座布団を床に置き、小首をかしげた。
  

●襲い来る本と本
「全員、準備はいいか」
 ラティーフから場所を変わった蒼羅が、ドアノブを掴み確認する。
「準備完璧です。タイミングを合わせますよ」
 一緒にドアを押しているエルディンが頷き、皆も頷く。
「本は絶対に傷つけないで下さい〜」
 涙目のラティーフにも、当然ですとバロネーシュが力強く頷く。
 本の虫と呼ばれてもおかしくないぐらい、読書好きなのだ。
 傷つけようはずがない。
 そして計画もばっちり。
「まったまった、みんな、あたしの曲を聴いて♪」
 リィムナが楽しげな曲をかき鳴らす。
 彼女の足元には愛らしい黒と白の猫の幻影が。
 ハイテンションなその曲は聴いているだけでも楽しくなってくる。
「いいか? ……一……二の……三っ、行くぞっ!」
 掛け声にあわせ、蒼羅がドアを開く。
 その瞬間、全員資料室に飛び込んだ。
 即座に閉められた扉に次々とぶつかる本達。
「うあっ、いたたたたっ?!」
「おいおい、お誘いは美人からだけにしてくれませんかね」
「折角、色々資料を眺められる機会なのでしたがね」
「イタッ。神は告げました。右頬を打たれたら左頬を差し出せと。あいたたたっ!!」
 即座に避けれたもの、思いっきり身体にぶつかられた者。
 資料室を所狭しと飛び交う本達は情け容赦ない。
「とりあえず、布団でも椅子のクッションでも何でも! 柔らかいものを床に敷き詰めれば多少はダメージを減らせるかな」
「グットタイミング♪ この座布団の山を使う時がきたね。みんな、あたしの座布団を使って!」
 ひょいっと飛来する本を避けた菫に、リィムナがさっと風呂敷包みを差し出す。
「こんなに大量の座布団を一体何処で手に入れたんだ……っと、危ないぞ」
 蒼羅が座布団を覗き込んでいた菫の手を引いて背に庇う。
 心眼を用いて周囲を警戒していた蒼羅には、死角から菫に向かって飛来する本をはっきりと認識できた。
 本はぶつかる相手を失って、思いっきり壁に当たって崩れた。
 その衝撃でほんのり背表紙が歪んでいる。
「本は静かに読むものですし、それを邪魔されるのは不快ですね」
 円秀は、体当たりをしてくる本をその拳でそのまま受け止めることはしない。
 スッと延ばした拳はするっと本の起動に沿ってその勢いを殺ぐ形で止める。 
 本来なら、一瞬で本を叩き落せるのだ。
 飄々と軽い雰囲気をまとう円秀は、その実、高い実力を誇る開拓者。
 こんな本達を落とすのは造作もない。
 そして同時に、それをすれば本がバラバラに粉砕される事も容易に想像できるのだ。
(「美人の頼みというのは断れないでしょう?」)
 本を傷つけないで下さいと頼むラティーフを、円秀的には泣かせるわけにいかないのだ。
「これなら本を傷つけないで済みそうでしょうか。主よ、祝福の光りと共に人々の脅威を打ち払いたまえ!」
 エルディンの手にした槍から光りの矢が出現し、そしてそのまま飛来する本を一体突き抜けた。
 仰け反って其のまま床に落下する本。
 菫が慌てて座布団でキャッチ!
「傷も大丈夫だよ」
 エルディンの放った光りの矢は、本を傷つけることなくそれを動かしているアヤカシのみを消し去ったようだ。
「よし。全力で座布団床に敷き詰めます」
 菫がリィムナの座布団をとにかく床に敷き詰めだす。
「壁には貼り付けられないけどね。落下の衝撃は防ぐよ♪」
 一緒にリィムナは床に座布団を敷きつめてゆく。


●斬れないけれど、倒せるのよ?
 刀を鞘から抜かず、蒼羅は構える。
(「ホ−リ−アローで出来るのなら」)
 とある事を思いついたのだ。
 手にした刀から清廉とした梅の香りが漂い始める。
 そして、鞘に触れられた本は。
「良いですね。殲滅速度が上がりそうです」
 力を失って落下する本。
 自身の盾にもふらさまのぬいぐるみを括りつけたバロネーシュが、力強く頷く。
 蒼羅の作り出す梅の香りに触れた本は、パサリパサリと音を立てて床に散らばってゆく。
(「羊皮紙の束、あれ危険かも?」)
 床に出来るだけ座布団を敷き詰め終わった菫は、ふわりと漂う羊皮紙の束に目を留める。
 向こうもこちらに気づいたのか、きゅっと方向転換して一気に菫へ!
「アヤカシの好き勝手にさせないよ」
 菫が神威の木刀を構えると、彼女が呼び出し具現化した精霊が羊皮紙の束を攻撃する。
 肉体でなく精神を傷つけるそれは、羊皮紙から瘴気だけを消し去った。
 ぱらりと落ちる羊皮紙は、座布団の上で安全に。
「ラティーフさん、伏せてくださ……ぶっ、げふぁっ?!」
 ぱっこーんっ!
 おろおろしているラティーフを庇ったエルディンに別の場所から本が直撃、止めにラティーフに当たらなかった本が顔面に直撃した。
「エルディンさん、鼻血が出ていますっ」
 鼻血の言葉に円秀がくるっと振り向いた。
「やっぱりそっち系」
「まってなんでそうゆう……げふっ!」
 再び沸きあがった誤解を解こうと弁明する間もなく、本の襲撃に合いまくるエルディン。
 でもこんな出会いはきっと望んでいないだろう。
「貴方達には図書館にいる資格はありません」
 なんてずぅずうしいのと呟きながら、バロネーシュは飛来した本を盾で防ぐ。
 そのままの盾で防いでいたら大破しそうな勢いの本は、もふらさまのぬいぐるみのおかげでもふっとバウンドして無傷で床の座布団へ。
「頃合かな」
 羊皮紙や古すぎて痛みが進んでいる本を避け、リィムナはフルートに口をつける。
 その目線は分厚くも頑丈な一冊の本。
 奏でられた音色は本の中の瘴気に直撃!
 そして本棚の後ろや、影などからも音色が届いた全ての本がパタパタと床に落ちてゆく。
 座布団の上に落ちているから、傷は一切気にしなくて良いだろう。
 

●最後は綺麗に修理しよう
「バラバラに散ってしまいましたね」
 バロネーシュが資料室に散らばった本の山を見て呟く。
 中には、背表紙が外れて幾つかに分冊してしまった物さえも。
 出来うる限り傷をつけないように全員で気をつけていたものの、壁に何度も体当たりをしていた本などは、既に背表紙が古すぎて衝撃に耐えられなかった。
 バロネーシュは盾に括りつけておいたもふらさまのぬいぐるみを外す。
 何度も何度も本の体当たりを食らったというのに、もふらさまのぬいぐるみは無事だった。
 ほんのちょっぴり、疲れた顔をして見えるのはご愛嬌。
「量は多くありませんが、変わった文字ですね」
 円秀が分割されたしまった本に軽くため息。
「地道に修理しなきゃね。でも数冊の本が混ざってしまってぱっと見はどれがどれだか。文字も特殊だし」 
「それなら、フィフロスを試してみましょう」
 数冊の本が混ざり合ってしまったページの山を綺麗に重ねて、バロネーシュは手をかざす。
 ただ漠然とイメージするのではなく、数ページを読んで内容を理解し、それにあった他のページを探す。
 バロネーシュの脳裏に次々と合致するものが浮かび、混ざり合ったページはみるみるそれぞれの本に分けられていく。
「素晴らしいですね」
「フィフロスの応用ですよ。イメージする内容を、手にしたページと関連するものとしたのです」
 関連した情報が得られるのだから、分割した部分を手にとってそれに関連するページの有無を探せば、自ずと同じ本かが脳裏にひらめくのだ。
「この本、売り出したら絶対よく売れるよ♪ 飛ぶように、ね♪」
 貴重な本を本棚に戻しながら、リィムナがそんな事を言う。
 もちろん、冗談だ。
「ん? 何処からか甘い香りが」
 円秀が言うのとほぼ同時に、菫がお盆を持って図書室に戻ってきた。
「みんな、お茶の準備をしてきたよっ。これを食べて栄養と鋭気を補給してね」
 お盆の上には人数分の緑茶と、甘い香りの漂うパンケーキ。
「おお、なんと言う心遣い! 痛み入ります」
「おいしそ〜♪」
「そうだな……そろそろ疲れを感じていた所だ」
「根を詰め過ぎては、ミスを誘発してしまいますものね」
「美女の手作りをこの私が食べないはずがないね」
 本も粗方片付いてきた所だし、丁度いい頃合だろう。
 みんなでお茶とパンケーキを受け取って、しばしティータイム。
「座布団はあまり傷ついていないようだけれど、それ、売り物だったのよね?」
 バロネーシュがリィムナが再び風呂敷で包みだした座布団に気づく。
「まぁね。でもこの程度ならじゅーぶん大丈夫でしょ。売れる売れる♪」
 ぽふぽふと座布団を叩いて笑うリィムナ。 
「もしよかったら、図書館で全て買い取らせていただきたいですよ〜?」
「えっ、ラティーフさん本当?」
「ええ、もちろんです。本が壊れないぐらい柔らかくて、いい座布団なのです〜」
 座布団をぎゅうっと抱きしめるラティーフ。
 つられてみんなも一枚ずつぎゅーっ。
 もっふりとして柔らかい座布団の抱きしめ心地はかなり良い。
「売れてよかったな。次にこの図書館に来た時には、その座布団を使わせてもらおうか」
「賞金首資料室の本は外部に貸し出しできませんから、ずっと座っていても疲れないように資料室で使わせて頂きます〜」
「傷つきやすい女性の身体を優しく労わってくれるに違いありません」
「もふらのぬいぐるみのかわりに、今度は座布団をつかわせてもらいましょうか」
「いろいろと一件落着、かなっ」
 わいわい、がやがや。
 でも図書館だから実はほんのり声を潜めつつ。
 みんなで、座布団を使ってくつろいで。
 図書館に平和な空間が戻ったのでした。