☆ぷにっとぽーん☆
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/03/27 22:52



■オープニング本文

 ジルベリア最北領スウィートホワイト。
 その最北の港村では、毎年、エンジェルハートと呼ばれる生き物がやってくる。
 ころころっと愛らしい容姿に、村人は癒しと、観光収入を得ていたのだが――。
「おかしいべ〜。今日は、やってこねぇだーよ」
「昨日までは、あんなにいたのになぁ」
 エンジェルハートが村を訪れないので、首を傾げる住民たち。
 誰かがお持ち帰りをした可能性も、ちょっとない。
 エンジェルハートは基本的には温厚で、ふわふわ漂っているだけの無害な生き物なのだが、ひとたび群れから引き離されると凄まじく怒るのだ。
 一匹一匹の攻撃力はさほどない。
 ぷーぷーと口からちょっと冷たい吹雪を出したり、じたじた暴れる程度なのだが、一匹でも連れ去られると群れ全体で怒り出すから手が付けられなくなるのだ。
 つまり、一匹二匹を連れ去ることは可能なのだが、そんなことをした場合、この村に大量の怒ったエンジェルハートが襲来するはずなのだ。
 こんな風に、一匹も姿を見ないということは、まずありえなかった。
「一体、どうしたんだろうか〜?」
「港付近まで、行ってみるか」
 数人の村人がエンジェルハートを案じて、村から更に北の港へ向かってみる。
 エンジェルハートの正確な生息地はわかっていないのだが、毎年、北の海からやってくる事だけは間違いなかったから。
「どっこにもいねぇべさ〜」
「見当たらないね。無事なのかなぁ……」
 港に向かう街道を、きょろきょろと周囲を見回しながら探す村人たち。
 と、その時だ。
 
 ポーーーーーーーーーーーーーーーーーーンっ!!!

 空から、巨大なスライムが降ってきた。
 全長5mぐらい。
 竜と変わらぬ巨体で、頭にティアラをくっつけたピンクのスライムが、ででーんと現れたのだ。
 思いっきり街道通せんぼ。
「なんで、空からああああああぁっ?!」
「そんな事よりこいつがきっと、エンジェルハートがこれない原因だベー!」
「でも目がなんか可愛いぞっ?!」
「倒さねーと、エンジェルハートが来てくれんのじゃぁ!」
「無理無理無理、俺たち一般人にこんなんやっつけれるか、逃げろーーーーーッ!」
 口々に叫んで、一目散に逃げ出す村人達。
 そんな村人たち目掛けて、ティアラスライムはプルプルっと震え、その体から手の平サイズのミニミニスライム大放出!
 分身のようなそいつらは、ぷにぷにと震えながら村人に迫ってくる。
「け、結構とろいべっ」
「逃げ切れるだ」
「んだんだっ。雪に戸惑ってるのだベー」
 足首まで積もった雪は、港の村人にとっては馴染んだもの。
 さくさくと走れるのだが、スライムたちには動きがとりづらいらしい。
 ホッとしたのもつかの間、ティアラスライムが思いっきり跳躍した。

 ポーーーーーーーン……どっかーーーんっ☆

「うおあああああああああっ?!」
「ひいいっ」
 ティアラスライムが地面に落っこちてきた瞬間に発動された衝撃波で、雪が舞い上がり、思いっきり吹っ飛ぶ村人たち。
 だが致命傷には至らない。
 必死に逃げて距離を稼いでいたお陰で、衝撃波がぎりぎりの距離だったのだ。
 衝撃波はただの突風となって村人を襲ったにすぎず、吹っ飛ばされた村人達は雪のお陰で怪我もなく。
「こここ、こげなもん間近で受けたら、死んでしまうううううっ!」
「とにかく、逃げるんだ! 逃げて逃げて、ギルドへーーーーー!!!」
 もうその後は、村人達はただひたすらに逃げて逃げて。
 村まで逃げ切ったあとは、村で一番早い馬そりで、開拓者ギルドに助けを求めるのだった。


◆状況説明◆
 場所は港の村近辺の街道。
 村から程近く、街道沿いに進めばティアラスライムが見えてきます。
 あたりは見晴らしの良い雪原。
 街道では、足首まで雪が積もっています。
 道を少し外れると、もっと多くの雪が積もっている場所もあります。
 港の村から近いので、戦闘は昼間になるでしょう。
 防寒具は必須。
 耐寒5度あれば良いでしょう。
 
◆エンジェルハートとは?◆
 港の村名物の、愛らしい生き物。
 村ではこのエンジェルハートを観光に使っており、エンジェルハートのぬいぐるみや絵本も販売しています。
 マシュマロのように柔らかで、生クリームをぷにっと絞ったような姿で、背中には白鳩の様な羽が生えています。
 ですが今現在、ティアラスライム出現の為、どこかに身を潜めてしまったようです。
 


■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
皇 りょう(ia1673
24歳・女・志
ユリア・ソル(ia9996
21歳・女・泰
レビィ・JS(ib2821
22歳・女・泰
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
八甲田・獅緒(ib9764
10歳・女・武
桃李 泉華(ic0104
15歳・女・巫
迅脚(ic0399
14歳・女・泰


■リプレイ本文

●エンジェルハート、ぴーんち?
「何だとッ、エンジェルハートたんを怯えさせるスライムだと?!」
 ジルベリア最北領スウィートホワイト。
 その港の村で、非モテ騎士ラグナ・グラウシード(ib8459)は、思いっきり叫んだ。
 背中に背負ったウサギのぬいぐるみのうさみたんも、何事かと驚いているようだ。
 最愛のうさみたん程ではないにしても、エンジェルハートもラグナにとって大切な生き物。
 そもそも、うさみたんとの出会いも、エンジェルハートがきっかけだったのだ。
 エンジェルハートのぬいぐるみが可愛すぎて、目が合わせれなくて、その隣においてあったうさぎのぬいぐるみを間違って買ったことが二人の出会いなのだから。
 そんなエンジェルハートのピンチに、可愛い物好きのラグナが冷静でいられるはずがなかった。
「可愛さを盾にするアヤカシなんて、この私がやっつけちゃうよ!」
 ぴょーんとジャンプして、いまにも走り出しそうな迅脚(ic0399)は、アチョーッとポーズをとった。
 足の速そうな彼女なら、ティアラスライムの衝撃波もらくらく避けれるかもしれない。
「でも……なぁんや、いまいちティアラスライムっちゅーんの可愛さが解らんのやけど……所詮はスライムやろ?」
 桃李 泉華(ic0104)は人差し指を口元に当てて、うーんと眉を寄せる。
 可愛いスライム。
 泉華が、ぱっと思いつかないのも無理はない。
 基本的に別名粘泥と呼ばれるこのアヤカシは、その名の通り泥を粘っこくして、どろっとしてぐちゃっとしているのだ。
 そんなものを可愛いと呼ぶには、かなりの無理がある。
「スライムが可愛いわけないよ。きっと村人達はびっくりしちゃって混乱したんじゃないかなぁ」
 レビィ・JS(ib2821)の言う事が、案外あっているのかもしれない。
「アヤカシに可愛いの感覚ってあるのかしらね?」
 くすっと笑って、ユリア・ヴァル(ia9996)は翻りのローブの首元をキュッと絞める。
 膝下までもある長いローブは、随分と軽く、それでいて暖かそうだ。
「噂に聞いたエンジェルハートとやらを見に、一日千秋の思いでやって来たわけだが……面倒な事になっているようだな」
 ジルベリアの観光マップを片手に、皇 りょう(ia1673)は軽く肩をすくめる。
 どうやら最北領のことも掲載されていたようだ。
 最北領の名物といえば、エンジェルハート。
 その他にも全土で見られるダイヤモンドダストや雪祭りなどもあるのだが、愛らしさではやはりエンジェルハートが群を抜く。
「スライムを滅相して……エンジェルハートを見れるようなら見てみたいねぇ」
 北條 黯羽(ia0072)も、エンジェルハートには興味があるようだ。
 ティアラスライムさえ排除できれば、きっと直ぐに願いは叶うだろう。
 その為にも、早く現地に行かなければいけないのだが……。
「さ、寒くないといいのですけどぉ……はうっ?!」
 マフラーを思いっきり木の枝に引っ掛けて、不幸少女な八甲田・獅緒(ib9764)が思いっきり雪にすっころんだ。
 

●ティアラスライム、登場☆
 村を出て、一行が北に進んで海に向かうと、問題の敵はすぐに見えてきた。
「う〜……ん。そんなに可愛いかなぁ、あのスライム」
 レビィはみんなよりも先にたって、前方に見えてきたティアラスライムに首を傾げる。
 敵は背中を向けていて、まだこちらに気づいていない。
 ピンク色をしていて、普通のスライムよりは愛らしい色合いである事には間違いないが、レビィの趣味からは遠く離れている。
 彼女的には、もっとふわふわと、丸っこくてあったかそうで、ぎゅーっと抱きしめたくなるようなものこそが可愛いのだ。
 レビィが正直ちょっと不満に思っていると、ティアラスライムがくるっと振り向いた。
「このラグナ、エンジェルハートたんを苦しめる敵など、あっという間に切り捨てて……ふ、ふあぁぁぁっ?!」
 勢いよく切りかかろうとしたラグナの手から、魔剣「ラ・フレーメ」がぼろりと落ちる。
 ぱちくり、くりりん☆
 振り返ったティアラスライムの瞳が、ラグナの胸をきゅんと貫いたのだ。
「邪魔な敵も、これはこれでなかなか愛らし……いやいや、いかんいかん。これは仕事でもあるんだ。この皇家が当主、おりょうを惑わすとは、なんと狡猾なヤツだ」
 りょうもティアラスライムの見た目に頭を振って、キッと銀の瞳を見据える。
 百戦錬磨、スライムの一匹や二匹、いくらでも遭遇しているに違いない彼女だが、これまで見たどんなスライムとも違っていた。
「今回のスライムはえらいでっかいなぁ……潰される訳には行かんよって、ちょっと距離は取りよんやけど……飛んできたら全力で逃げな……」
 泉華は可愛さよりも、その巨体にちょっと引き気味。
 5mもある巨体で、どうやって跳躍するのか。
 飛び方がなんにしろ、潰されたらたまらない。
「す、スライムでも可愛いスライムっているのですねぇ。で、でも、依頼である以上はしっかり倒しますよぉっ」
 そういいつつも、獅緒もなんだか戦い辛そう。
 馬鹿でかいとはいえ、普通のスライムみたいにドロッとしていないし、ゼリーみたいに丸っこくてぷるるんなのだから。
「普通は目なんかないよね」
 レビィはとことん冷静。
「あ〜……確かに可愛いっちゃ可愛い範囲に入るんだろうが、敵相手に可愛いもへったくれも無ぇし」
 黯羽がそういった瞬間だった。
 それなりに距離を保っていたのだが、開拓者をばっちり視認したティアラスライムが、ぷるるっと震えた。
「みんな、下がって!」
 気づいたユリアが叫ぶ。
 そして次の瞬間、ティアラスライムの頭に載せたティアラから、一気にミニミニスライム達が飛び出した!
 雪原にあふれるミニスラ達。
「先に小さいのが出た……! そっちに任せるよ!」
 レビィが叫び、雪原を瞬脚で一気にティアラスライムまで間合いをつめる。
 一瞬の接近に、ティアラスライムは驚いて飛び退こうとするが、間に合わない。
 レビィの拳から放たれる赤い波動に、ティアラスライムは痛そうに激しく震えた。
(でも、なんだかいまいちな殴り具合だよ)
 走って距離をとりながら、レビィは殴った拳を軽くさする。
 ぶにっとした感触は、効いているのに物足りなさを彼女に感じさせた。
「アチョー! ホアタアッ! どんどんかかってらっしゃい!」
 打撃の効きづらいスライムとは相性の悪い迅脚だが、夜叉の脚甲の鋭い爪と、鍛えた脚力から繰り出される攻撃は十分なダメージとなってミニスラを殲滅する。
「はうっ、ミニミニスライムまで……っ! どうしてこんなにも愛らしいんだ?! この私にお前達を斬らせる気なのか?!」
 さくさくと仲間がミニスラを倒していく中、ラグナは涙目になりながら落とした剣を拾って、スライム達に向けて振るう。
 断腸の思いとは、まさにこの事に違いない。
 ラグナの魔剣でスッと一振りすれば、雪のようにあっさりと瘴気に返ってしまうミニスラ達。
「お前達はなぜ敵なんだーーーー! ほんとは家に一匹連れて帰りたいんだぞっ! ……だが! これもエンジェルハートたんのためだ……許せよっ、ぷにぷにスライムたん!」
 事前の相談で、ミニスラを一箇所に集める囮役を引き受けてしまったラグナ。
 一匹どころか全部お持ち帰りしたいのだ、ほんとは。
 血涙を流し、雪原を走り回りながら、ラグナはミニスラが散らばりすぎないよう、その移動先を誘導する。
「み、水色のスライム……? あ、皆さんそちらに色違いがいますぅ。注意してくださぃっ」
 雪の冷たさにもたつくミニスラを、ぺちぺち拳で叩いて消し去りつつ、獅緒は水色のミニスラを見つけて叫ぶ。
「ちまいん邪魔やな。ちょっとのきぃ」
 泉華が獅緒の叫びに、力の歪みを発動する。
 狙われた水色のミニスラは、ぶにゅっと身体を捻らせて瘴気へと還って逝く。
「おうおう、グロテスクな消え方だな、おい。敵はやっぱり敵か」
 黯羽が呆れ気味に肩をすくめ、強力に鍛えた金蛟剪でミニスラを真っ二つにちょん切る。
 力の歪みと違って、こちらはさくさくあっさりと消えて逝く。
 そして敵はミニスラだけではない。
 レビィがひきつけているティアラスライムに、異変が起こった。
 一気に力いっぱい、空気を吸い込むティアラスライム。
「跳躍がくるぞ。しかもでかいのだ!」
 りょうが警戒の声を上げるのと、ティアラスライムが跳躍するのが同時だった。
(落下地点は……右後方か!)
「桃李殿、北條殿、二人ともそこが落下地点だ!」
 軌道を目視していたりょうが、落下地点にいる二人に叫ぶ。
 次の瞬間、黯羽は泉華の手を引いて全力で走り、そして思いっきりジャンプ!
 りょうもユリアも、ラグナも獅緒も、思いっきりジャンプ!
 だが迅脚とレビィは全力で走る。
 迅客はティアラスライムから距離をとるように、レビィは突っ込んでいく。

 どーーーーーーーーーーーーーーーんっ☆

 雪を巻き上げて、広範囲に衝撃波を放つティアラスライム。
 誰一人、踏み潰されるものはいなかった。
 タイミングを合わせてジャンプをした面々も、負傷無し。
 くねくねとした動きで回避し、迅脚はぎりぎりセーフ。
 それどころか、ティアラスライムの背面に思いっきりキック!
 ティアラスライムは効いているのかいないのか、ぷるんぷるんと震えるばかり。
 だが、レビィは吹っ飛んだ。
 跳躍したティアラスライムの下を潜り抜けることには成功したものの、広範囲の衝撃波の範囲外にまでは出れず、かすめたのだ。
「く〜……やっぱり欠片もかわいくないっ」
 雪に倒れさせられた屈辱をかみ締めるように、悔しげに立ち上がるレビィ。
「すぐに治したるさかい、ちょっと我慢しぃな」
 無事だった泉華が印を結び、神風恩寵で作り出した癒しの風をレビィに送り込む。


●ミニミニスライムも、みーんなまとめて消してしまえー!
「全員、きっちり逃げて頂戴!」
 足元の雪を踏み固め、滑らない足場を作ったユリアが、七色の輝く扇をかざす。
 全員、全力で敵から離脱した。
「私の祈りに答えなさい、雪の精霊達よ! ブリザーストーーム!」
 ラグナが囮となって中心に集めたミニスラの集団に、ユリアが扇を振り下ろす。
 高レベルの激しい吹雪が扇から吹き荒び、ミニスラを一瞬にして空の彼方へと吹き飛ばす。
 そのまま落ちて来ずに消えるのは、瘴気と還ったからに違いない。
「心が痛むが……許せ!」
 まばらに残ったミニスラに、りょうが目を瞑り瞬風波を放つ。
 自身が放ったとはいえ、風の刃で刻まれるミニスラを見たくはなかった。
「あとはそこのでっかいの!」
 迅脚がティアラスライムの周囲を円を描くように間合いを取りながら、隙を見てキック!
「そろそろこいつの出番だなぁ」
 黯羽が符をかざす。
 するとどうだろう。
 何も見えはしないというのに、ティアラスライムがびくりと硬直し、そのつぶらだった瞳を限界まで見開いて苦しみだした。
 人であったなら、雪原をのた打ち回ったに違いない。

 ぽーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ☆

 苦し紛れに、ティアラスライムが跳躍した。
 先ほどのそれとは違い、明らかに小さい。
 全員、落下地点から避けるのも、衝撃波の範囲外に避けるのも、造作もなかった。
「だ、打撃には強くても知覚攻撃ならどうですかぁっ!」
 涙目の獅緒が、拳に精霊の力を纏わせて、ティアラスライムのぷるるんボディに叩き込む。
 いままで痛がりながらも弾力たっぷりだったティアラスライムの体が、拳の形にべっこりと凹んで戻らない。
「う、うぅ……こ、こんなかぁいいモノ、私には斬れない……とどめなんてさせるかーーーーーーーーーっ!」
 雪原に突っ伏して、男泣きするラグナ。
「仕方がないわね。私がいくわ」
 ふふっと笑い、ユリアがじたじたしているティアラスライムに神槍「グングニル」を放つ。
 ただの投擲、されど十分に鍛え抜かれた槍は、ティアラスライムの身体に突き刺さり、全てを無へと消し去った。
「おっしゃ、完璧! 泉華もよーくがんばったな!」
 黯羽がご機嫌に泉華を抱きしめる。
「姉さんが傷つかんかったき、うちはそれだけで満足や」
 泉華も嬉しそうに抱きつき返す。 


●エンジェルハート、飛来☆
 皆で村に帰ったときだった。
 ふいに、見慣れない生き物がふわりとりょうの目の前に降ってきた。
 ふわふわ、ふよふよ。
 漂うそれは――。
「これは、エンジェルハートなのか……?!」
 銀色の瞳を見開いて、手に取りそうになり―― とどまる。
 ジルベリアの観光マップに載っていたのだ。
 エンジェルハートは、群れから離されそうになるとそれはそれは怒るのだと。
 抱きしめたい衝動をぐっと抑え、りょうはその姿を両目に焼き付ける。
「さ、さあ、エンジェルハートたん、思う存分私の胸に飛び込むがいいーーーー!」
 可愛さに理性のぶっ飛んだラグナは、自制できずにエンジェルハートに、抱きゅっ☆
 直後、沢山のエンジェルハートに冷たい風を浴びせられて追いかけられることになるのだが……ふわふわのエンジェルハートに飛び掛られてむしろご褒美。
「天使の心? ロマンチックな名前ね♪」
 周囲を漂うエンジェルハートにユリアもそっと指を伸ばす。
 つんつんと、興味深げにユリアに纏わりつくエンジェルハートは、噂どおり柔らかかった。
「これだよ、これ! 可愛いって、こうゆうのを言うんだよ! なんでつれてかえれないかなぁ」
 レビィが力説する。
 ふわふわでまるっこくてもっふりで。
 お持ち帰り不可な悔しさを、彼女は村のお土産物屋で売られるぬいぐるみにぶつけてみる。
 もちろん、買うのはエンジェルハートのぬいぐるみだ。
「つ、つれて帰れないですけどぉ、ぬいぐるみとかで我慢ですぅ」
 獅緒も一緒にお買い上げ。
「姉さん姉さん、これがエンジェルハートやって、ほんまにかわえぇなぁ!」
 泉華がどんどん村に飛来するエンジェルハートに歓喜の声を上げ、黯羽の袖を引っ張る。
「気に入ったのか? ぬいぐるみ買ってやるよ」
「ほんまに?! それやったらおそろいにせぇへん? ちっこいのからおおきいのまでそろってるさかい」
「いいね」
 いっぱいぬいぐるみを抱きしめる泉華に、笑って頷く黯羽。
 そして迅脚は思いっきりジャンプ!
「とーうっ! エンジェルハートより、高く飛んじゃうぞ!」
 手を伸ばしただけじゃ届かなかった頭上の大きなエンジェルハートを、タッチ☆
 村には、再び平和が訪れたのでした。