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■オープニング本文 「うおっとーーーーー?!」 ジルベリア最北領スウィートホワイト。 その南の町ポアリュアで、青丹は素っ頓狂な声を上げた。 ふいの突風で、手にした瓦版が思いっきりぶっ飛んだのだ。 ふわりふわり。 屋根の上に木の上に、路地の裏に猫の足元に。 配達途中の荷車や、誰かのバックの中にまで。 「うあうあうあっ、まちいや、こらっ?!」 待てと言われて紙が待ってくれるはずもなく、何十枚という瓦版がポアリュアの街のいたるところに飛んでいった。 とっさにジャンプして何枚かはひっ捕まえて事なきを得たものの、ぜんぜん足りない。 「やばい、やばいで? これ、今日中に配り終えな、バイト代はいらんねん! はいらなかったら、借金取りが……うあー、さがさなあかんでぇっ!」 借金取りとか。 なにやら不穏な事を呟きながら、青丹は頭をかきむしる。 「全部これ一人でみつけんの無理やろ? 配るのも残ってんのやで。もう、誰か助けたってやーーーーっ!」 やけくそ気味に、石畳の上で叫ぶ青丹。 果たして、青丹は全ての瓦版を探し出し、配達できるのでしょうか? |
■参加者一覧 / 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / 菊池 志郎(ia5584) / 和奏(ia8807) / 門・銀姫(ib0465) / ユウキ=アルセイフ(ib6332) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / 呂宇子(ib9059) / 佐長 火弦(ib9439) / フィリア・M・ガレット(ib9607) / ソル・カフチェーク(ib9610) / 八甲田・獅緒(ib9764) / 緋乃宮 白月(ib9855) / ヴィオレット・ハーネス(ic0349) / 鬼咫嶺 臣親(ic0453) |
■リプレイ本文 ●飛び散る瓦版 風に飛ばされ、ポアリュアのあちらこちらに飛ばされていった瓦版。 錯乱気味に叫ぶ青丹に、街に飾られた雪のオブジェを眺めていた羅喉丸(ia0347)が気づく。 柱の上に飾られた雪ウサギから目を放し、青丹に声をかける。 「何かあったのか?」 必至に瓦版を握り締めて散らばるそれを集めていた青丹は、がばっと音がしそうな勢いで羅喉丸に飛びついた。 「あんな? あたいの大事な大事な瓦版が風に飛ばされてもうたんや! これがきっちり配れへんと、あたいはクビや! バイト代もはいらへんのやーーー!」 「そうか……それなら、人手があったほうがいいな。1人じゃ限界があるだろうし。……よし、俺も手伝うから頑張れ」 「手伝ってくれんのか?! めっちゃ助かるわ。でもな、あたい、あんまり依頼料払えへんのや……」 羅喉丸はどう見ても熟練の開拓者。 青丹だってそれなりに経験を詰んだ開拓者だから、羅喉丸の価値は嫌でもわかる。 気さくな雰囲気の中に、重厚な経験が滲んでいるのだ。 そんなすごい人材を雇えるお金は、そうそうない。 「馬鹿をいえ。これは依頼じゃなくて純粋に人助けだろう。人助けをするのに理由などいらないしな」 青丹の頭をぽふっと撫でて、羅喉丸はポアリュアの街に駆けてゆく。 そして次に青丹が出会ったのは、ラグナ・グラウシード(ib8459)だった。 「ぬ……瓦版屋が何やら難儀しておるな」 彼は最愛のうさぎのぬいぐるみ『うさみたん』を今日も背負い、お揃いの雪ウサギの帽子までつけていた。 飛んでいく瓦版をあっさりと一枚キャッチし、青丹に手渡す。 うさみたんを背負っているせいか、一見普通よりも変わって見える彼だが、その動体視力や運動神経はやはり開拓者。 並ではないのだ。 さくさくと飛んでくる瓦版を数枚手にし、青丹に手渡す。 「しかし、一体何枚あるのだ? 随分大量に見かけているが」 「えーと、大体100枚程度や。あたいが拾った分もあるさかい、残りは……あー、絶望的や!」 ラグナに聞かれて、その枚数を思い出したのか、青丹はむきーっと地団駄をふみ始める。 もう完全にパニクっているようだ。 「なあ、瓦版屋よ……ここはひとつ探すのをあきらめて、『書く』のはどうだ?」 「書くって、どないして?!」 「基本的には今ある瓦版をベースに写す感じで、あとはオリジナルの文章や絵を入れて、工夫を凝らしてみるんだ。この分だと足りなくなるんじゃないか?」 「確かに、全部拾えるとはかぎらへんけど……」 「まあ、いいさ。おまえは拾えるだけ拾っといてくれ。わたしはうさみたんと瓦版を作っておくよ」 青丹の返事も聞かず、手近な喫茶店へ去って行くラグナ。 きっと、喫茶店で作業をするのだろう。 更に青丹が必至に拾っていると、随分愛らしい少女が駆け寄ってきた。 「大変ですね。お手伝いします!」 ふわふわ、ふりふりの天儀衣装に身を包んだ佐長 火弦(ib9439)だ。 火弦は青丹に駆け寄りながらも瓦版を拾い、青丹に手渡す。 「さっきの風のせいですか? 本当に強い風でしたよね」 先ほどまでではないものの、まだまだ吹いている風に、火弦は自慢の黒髪を押さえる。 赤みがかった、少し珍しい色合いの黒髪の合間から、後頭部から下に向かって生える漆黒の角が垣間見えた。 「あっ、おっちゃん、それ売りもんなんや!」 飛んでいった瓦版を拾って、そのまま立ち去りそうなおじさんに、青丹が悲鳴を上げる。 「すいません! その瓦版、売物なんです。返して貰っていいですか?」 即座に火弦が走ってゆき、おじさんに手を差し出す。 おじさんはちょっと名残惜しそうにしながらも、可愛い火弦に頼まれれば嫌とも言えずに、素直に瓦版を返してくれた。 「これは、いろいろな方に拾われてしまうかもですね。急ぎましょう!」 火弦は拾われていく瓦版を、事情を話しながら回収しだす。 「っわー……。派手に飛んだね……」 半ば呆れ気味に呟いたのはソル・カフチェーク(ib9610)だった。 暇つぶしに散歩に来たというのに、この惨状。 風に舞い散る瓦版は、巨大な紙吹雪のよう。 (見て見ぬふりもできないよね、これは) 「一枚買っとくよ。ついでに探すのも手伝うから」 お散歩返上。 ソルは一番汚れていて、どうやっても修復不可能そうな瓦版をさり気なく一枚抜き取って、青丹に代金を支払う。 「ま、まってや、もっと綺麗なんを……」 「いいからいいから。小鳥たちも手伝ってくれるといいよね」 両手を瓦版で一杯にしている青丹に笑って、ソルは懐から符を取り出すと、人魂を作り出す。 小鳥を模したそれは、強い風邪に飛ばされる事なく、ポアリュアの街を飛翔する。 (見つけるついでに、拾えたらいいんだけどね) 瓦版は紙だし。 案外、一枚ぐらいなら何とか拾ってこれるかもしれない。 「あのさ、配るときに鞄に入れて歩くとかどう?」 「鞄?」 「そう。運ぶのも楽だと思うし、今日みたいな風対策にも」 ソルに言われて、青丹は瓦版を見つめる。 そういえば、いつもの癖で片手に軽く引っ掛けて、もう片手で配っていたとか。 「せやな。今度中古の鞄でもこうとくわ。いまは、とりあえず紐で括ってみよか」 「俺のマフラー使う?」 「いやいや、大丈夫や。たしかこの辺に朽黄からもろた紐が……あったあった」 青丹は袖から飾り紐を出して、よっと掛け声と共に瓦版を縛る。 これで、また風が来てももう一度飛び散ったりはしないだろう。 (せっかく集めた瓦版が、また飛んじゃったら大変だものね) 青丹がきっちり持ったのを確認して、ソルは人魂と共に瓦版を探し出す。 「何だろう? ……あれは、青丹さん?」 ひらひらと舞う瓦版が菊池 志郎(ia5584)の傘に引っかかり、志郎は首を傾げる。 遠くのほうで、やけくそ気味に叫んでいるのは、顔見知りの青丹に間違いない。 「青丹さん、どうしましたか」 「志郎! あんたいいところにーーーーーー!!!!」 げしっ! 爆弾のように全力で志郎に掴みかかる青丹。 あまりの勢いに志郎はよろけかけた。 「落ち着いてくださいね。なにがあろうとも、できる限りお手伝いしますから」 まずは事情を話してくださいと、志郎は崩された着物の襟元を直す。 半ばパニック状態の青丹の話に、けれど志郎はあっさりと理解した。 「それなら、青丹さんはこの辺りに出来るだけ居てください。見つけ次第、瓦版を持ってきます。青丹さんの居場所がわからないと、みなさん集めた瓦版の扱いに困ってしまうでしょうから」 志郎の言うことはもっともだった。 こくこくと頷く青丹に、志郎は番傘を閉じて一気に壁に飛ぶ。 そのまま屋根の上に降り立ち、その上に舞っていた瓦版を一気に回収、そしてそのまま早駆で移動を繰り返し、凄まじい速さで回収していく。 その速さは、瓦版が濡れる間もないほど。 (この程度なら、手ぬぐいで拭えば十分ですね) それでも軽く濡れてしまった瓦版は、手にした手ぬぐいで軽く拭えば十分綺麗だった。 「はふ、今日はいい天気ですぅ……ふひゃ?! むー、な、なんですかこれは?!」 びくびく、おどおど。 おっかなびっくり街を歩いていた八甲田・獅緒(ib9764)は、突如として視界を塞いだ物体に悲鳴を上げた。 「うわわ、うあっ?! 一体なにが起こったのですかぁ……っ」 風で顔に張り付いた瓦版に、獅緒は涙目で暴れまわる。 敵? アヤカシ?! 獅緒が錯乱しまくって、瓦版は余計顔から離れない。 「落ち着いてください、今とりますから……」 通りかかった緋乃宮 白月(ib9855)が慌てて獅緒に駆け寄るが、獅緒が暴れるので上手く取れない。 「大丈夫か?」 そしてそこにやはり偶然居合わせたヴィオレット・ハーネス(ic0349)が暴れる獅緒を抱きしめて、その顔面に張り付いた瓦版をそっと引き剥がす。 「シ、シスターっ……!」 ヴィオレットの姿を見て、ホッとして涙目になる獅緒。 「いや、アタシはシスターってわけじゃ……よしよし」 普段なら目の前の存在は全てぶっ飛ばす勢いのヴィオレットだが、流石に泣いている子供は殴らない。 「ありがとうございます。助かりました」 自分の手には負えなかった獅緒を助けてもらい、ついつい、ヴィオレットにお礼を言ってしまう白月。 「瓦版ね。瓦というからぶっ壊せるもんかと思ってたけど違うみたいだな」 獅緒の顔に張り付いていたそれをピラッと眺め、ヴィオレットはふぅんと頷く。 道を振り返れば、全力で瓦版を集めている青丹が見えたり。 「どうせ暇だし、手伝ってやるか」 「微力ならがら、お手伝いさせて頂きます」 「天狗駆が役に立つ番なのですぅ。急いで探してきますねぇ」 ふふんと瓦版を握り締める勢いで探し出すヴィオレットと、つられるように探し出す白月、そしてとにかく探すのだと理解した獅緒。 手伝いの輪が、どんどん広がってゆく。 「今日は……あれ?」 足元に飛んできて、思わず踏みつけてしまった瓦版に、和奏(ia8807)は首を傾げる。 「ゴミのポイ捨て? どなたでしょう、こんな道端に捨ててしまうのは。ゴミはゴミ箱にすてなければ……」 真面目な和奏は、拾い上げたそれを捨てるゴミ箱を探す。 すると、道端にぱらりぱらりと瓦版がさらに落ちてくる。 「2枚、3枚……もしかしてゴミじゃないのかも……」 とりあえず目に付いた瓦版を拾い上げ、和奏は周囲を見渡す。 (あの子かな?) 全力で落ちた瓦版を拾う青丹に目を留める。 「そこの瓦版屋さん」 「はいはいはいっ?! あたいが瓦版屋やで! 拾ってくれたんかーーーーっ」 飛び掛りそうな勢いで、和奏に飛びつく青丹。 「ええ。はい、どうぞ」 「ありがとうなぁ。ほんま感謝やでっ」 「ついでですから、一枚買い取りますね……」 最初に踏んでしまった一枚を、さり気なく購入する和奏。 「毎度、おおきにーーーー!」 青丹の元気な声が道にこだまする。 その大きな声に、ユウキ=アルセイフ(ib6332)が振り返る。 手には、やっぱり落ちてきた瓦版が。 早口にまくし立てる青丹に、軽くない怪我をしているというのに、ユウキは手伝いを申し出る。 「……何とか、頑張ってみるね」 無理はどうしても出来ないけれど。 「配達箇所の住所を教えてもらえるかな。出来れば簡易地図も書いてもらえる?」 木の上や屋根の上などに飛んだ可能性の高い瓦版。 それは、通常ならユウキも回収できたのだが、いまは本調子ではない。 だから、配達を買って出たのだ。 「あたいの地図つかってや。あたいはもう頭にはいってるさかい、これで!」 濡れても大丈夫なようにか、何度も使えるようにか。 紙でなく羊皮紙に描かれたそれは、ポアリュアの街の地図。 丁寧に、配達箇所に印もついている。 「これなら迷わないね……わかったよ」 青丹が回収してあった瓦版を受け取って、ユウキは配達し始める。 ●風に飛んだ瓦版はいずこ 「こったら寒いとこでよくやってるなー」 ふぅーっと真っ白い息を吐き、鬼咫嶺 臣親(ic0453)は両手で身体を抱きしめる。 開放的な胸元がぎゅっと寄って、周囲の人々が目のやり場に困っているのだが、臣親に自覚なし。 (酒でも一杯引っ掛けるかねぇ?) 寒すぎる気温に辟易しながら周囲を見渡すと、ありえない量の瓦版が。 「随分辺鄙な風だべ。この街じゃ瓦版も飛んでくるのけー?」 首をかしげながら拾うと、青丹が走ってきた。 「そ、それ! アタイのなんや。返したってや!」 息を切らせて、額に汗まで流す青丹と、よくよく周囲を見渡せば必死に瓦版を拾う人々。 「あたしゃ構わんよー。いい運動になりそうだなー」 もののついで。 酒を飲んで温まるのもいいが、軽い運動もまた、良いだろう。 臣親は持ち帰りかける街人に声をかけて、交渉しだす。 「そこのあんた! そう、あんた。その瓦版をこっちによこしなー」 額の立派な角と、2mを越す長身。 そんな臣親に声をかけられて、逆らえるものなどいなかった。 だが中には、逃げ出そうとするものが。 「逃がさんよー?」 路地裏に逃げ込む青年に、臣親は壁に手をあて囲い込む。 強引に力任せに奪うのも簡単だったが、流石にわかりきっている勝負をするほど、臣親は弱いもの虐めをする性格ではなかった。 「なあ? いい記事が読みたいんだろう。今それをきっちり返せば、今後もっといい記事を目に出来るぞー」 例えばどんなと問い返す青年に、臣親はにやりと笑う。 「そうだな、こんな記事はどうだい? 『ポアリュアの街で瓦版が舞う珍事! 住人の助けで見事全回収!』ってなー?」 笑う臣親に、青年もつい笑って、瓦版を差し出した。 「あら……不思議な雪ね」 フィリア・M・ガレット(ib9607)は、踊るのを止め、突如頭上に降り注いだ瓦版に青い瞳を驚かす。 周囲にいた子供達も、とても驚いているようだ。 そして遥か遠くで、けれどはっきりと聞こえた青丹の悲鳴。 (……なるほどね) ふふっと笑って、事情を察したフィリアは手を叩き、子供たちを手招きする。 「ねぇみんな! 今から私と一緒に遊ばない? この紙と同じものを集めて、いまあそこを走っているお姉さんにわたしてあげて」 急な提案に、子供達は顔を見合わせる。 そんな事より、フィリアの踊りをもっと見たいという子まで。 「この町には開拓者さんが多いからね、彼らより多く届けられれば、皆は憧れの的よ?」 あこがれ。 その一言に、ぐずっていた子供たちも目を輝かせて走り出す。 大人と違い、子供なら狭い場所にも手が届くだろう。 「助かります」 配達を始めていた白月がフィリアに気づき、ぺこりと頭を下げる。 「配達もあるのね」 「はい。でも、集めてもらえれば大丈夫です」 子供たちの側を離れるわけには行かないであろうフィリアを、安心させるように白月は優しく頷く。 「そう。大変だと思うけれど、頑張ってね?」 「はい!」 白月は真っ白な尻尾を揺らして走る。 「ん? ……あらま。これって瓦版?」 明らかに真新しい瓦版に、呂宇子(ib9059)は首を傾げる。 なぜそんなものが道端に散らばっているのか。 しかも結構な量だ。 「濡れてはいないようね。……こっちは、ちょっとまずいかな」 常識的に考えて捨てられたとは思えず、呂宇子はとりあえず目に付く瓦版を拾い出す。 まだ落ちて間もないのか、殆どの瓦版は大して濡れてもなく無事なのだが、中には運悪く、雪が染み出しているものも。 「字が滲んで見えなくなる前に、何とかしなくっちゃね」 呂宇子は塗れているそれを、応急処置で袱紗で包み叩いて、荒く水気を取る。 もちろんそれだけでは乾きはしないから、とりあえず借りている宿屋へ向かいだす。 宿屋になら暖炉があるから、乾かしやすいと思ったのだ。 けれどそれをみたヴィオレットが、呂宇子の前に回りこむ。 「そこのあんた、ちょっと待った」 「私?」 「あんたしかいないだろ。それは売りもんなんだ。返してくれ」 呂宇子に手を突き出すヴィオレットに、呂宇子は「ああ!」と笑う。 「誤解よ。これかなり濡れちゃってるでしょう? このままだと文字が滲んで使い物にならなくなるから、宿屋に持って帰って乾かしてあげようと思ったのよ」 とりあえず無事なほうは返すわねと、呂宇子はヴィオレットに瓦版を手渡す。 「悪い、勘違いした。今さっきもさ、持って帰ろうとしたやつがいたんだよね」 「瓦版もなんだかんだ言ってお金がかかるものね」 「あぁ。あたしがいざとなれば身体で支払……というのは冗談」 「そうなの?」 「真に受けないで欲しいな」 ふふっと笑う二人。 そんな二人の横では、素敵な歌が奏でられていた。 「遥々来たのはジルベリアの北の果て〜♪ 世の中を巡る冒険譚の一つを得て 又世界の皆に語り明かす為に〜♪ 語り部として僕がやってきたんだね〜♪」 元気に歌うその歌声は、門・銀姫(ib0465)のものだ。 道端の手ごろな縁石に腰掛け、彼女は歌い続ける。 「回収の手を増やしてみるんだよ〜♪ 他の手伝いと合わせて 数が揃ったら御喝采〜♪ あとは酒場語りだね〜♪」 道の傍らで全てを見ていた彼女は、歌の中に思いを込めて、貴方の声の届く距離を織り交ぜる。 声はどこまでも遠く真っ直ぐに、町の人々に事情を届けた。 右に、左に。 前に、後ろに。 あらゆる方向に彼女は歌を届け続ける。 「ここのお料理は、本当に美味しいね」 シェアハウスの木の上の喫茶店から、柚乃(ia0638)が降りてくる。 この場所で過ごしたのはほんの一週間の事だったが、柚乃は度々遊びに来ていたようだ。 側には藤色をしたもふらの八曜丸が。 八曜丸は器用にも喫茶店に設置されていた木の梯子を、するすると降りている。 そして、運がいいのか悪いのか、八曜丸が地面に降り立った瞬間だった。 『も、もふー?! 前が見えないもふ!』 八曜丸の上に、ひらりと降って来る瓦版。 「瓦版が、どうして?」 八曜丸から瓦版を拾い、首をかしげる柚乃。 そのまま捨ててしまうのも気になって、とりあえず鞄の中へ。 「今日は風が強いね。八曜丸はさむくないかな」 『平気もふー。雪も風もへっちゃらもふー』 ご機嫌な八曜丸と、午後の散歩を楽しむ柚乃。 「でも今日は、開拓者が多いね? 急いで走ってるみたい。なにか催し物でもあったのかな?」 『どうだろうもふー? ……も、もっふっ?!』 再び、八曜丸に降り注ぐ瓦版。 今度は柚乃の上にも降ってきた。 「もふらも歩けば紙にあたる……?」 どこかで聞いたようなことわざを呟き、柚乃は八曜丸と自分に降ってきた瓦版を拾い上げる。 どう見ても同じもので、なんでそれが降ってくるのかわからない。 悩んでいると、獅緒がかけてきた。 柚乃を見かけてというより、飛んでいる瓦版を見つけてのようだが。 「あ、あんな所にも発見……わきゃぅっ?! ……そ、それがないとぉ、配達も間に合わなくなってしまうんですぅっ……」 柚乃の目の前で盛大にすっころんで、涙目で事情を話す獅緒。 天狗駆で悪路や傾斜の悪影響を防げても、元来の体質には効果がないようだ。 『だ、大丈夫もふか?』 「怪我はなさそうかな?」 八曜丸と、柚乃に支えられてよろよろと獅緒は立ち上がる。 精神的にはかなりダメージを食らっているかもしれないが、見た目はどこも怪我はしていないようだ。 「頑張ってくださいね」 手にしていた瓦版と、先ほど拾ったそれを合わせて獅緒に渡し、柚乃は八曜丸と去ってゆく。 ●瓦版は集めきれたかな? 「ひぃ、ふぅ、みぃ……あかん、ちょっと足りへんわ」 もうすぐ日が落ちる。 そんな状況で、青丹はみんなが集めてくれた瓦版と、配達し終えた数を数えて天を仰ぐ。 だがそんな青丹に、救いの声が! 「待たせたな!」 「あんた、その手にしてんのは」 「そうだ。瓦版だ! 私のお手製だ、うけとれ!」 ふふんと自信満々に、手書きの瓦版を差し出すラグナ。 「これは……見事だ」 青丹と一緒に瓦版をみた羅喉丸は、見事な模写に目を見張る。 「え、でもこれって」 別の瓦版を手にした火弦は困惑。 火弦が手にした瓦版には、随分独創的な絵柄で挿絵的絵巻が描かれていたのだ。 「なかなかの力作だろう」 火弦の驚きを尊敬と勘違いしたのか、ラグナは更に誇らしげ。 ジルベリア最北領の更に北、港に程近い村に現れる愛らしい精霊エンジェルハートを題材にした絵巻は、お世辞にも上手とは言いがたく。 誇らしげな彼を決して傷つけまいと、皆、そっと目をそらす。 「これがあれば、数は合いますね」 配達を終えた志郎も帰ってくる。 「路上販売も手伝っていこうかな? みなさん、本日限定の瓦版です。一枚如何ですかー」 ユウキがお面を少しずらそうとしてはずしている事を思い出し、思い切って呼び込みを始める。 すると、騒ぎで興味を持っていた街人が一人二人と集まって、ラグナの手書きの絵巻付の分まであっさり完売。 「やったね、アオニ」 人魂で細かな隙間からも瓦版を見つけてくれたソルは、売れていく瓦版に拍手。 「……あ、食材の買出し……」 最後の一枚を売りさばき、はっとするユウキ。 もう店はあらかた閉まっている。 「明日買いに行けばいいじゃない。んー……ポアリュアの街で、ジルべリアの甘味や可愛い小物を扱っているお店、あるかしら。神楽の都にいる妹に、お土産を買っていきたいのよねえ」 「それは無理ですよ。夕食の食材ですから、今日の分が……」 妹のお土産を思い浮かべる呂宇子に、がっくりと肩を落すユウキ。 「お土産なら、簪がうっとるで。姉貴がここにも卸してたさかい、あとで一本分けたるよ」 青丹が呂宇子にお土産を勧めれば、 「もしよかったら、シェアハウスにいらっしゃいますか?」 『美味しい料理の喫茶店があるもふよ』 通りすがりの柚乃と八曜丸が、ユウキを夕食を誘う。 「本当ですか? そうですね、たまには外食も」 ぱっと顔を輝かせるユウキ。 「よかったな。諦めず、努力しつづけるのなら、夢はきっと叶うさ」 一生懸命夢に向かう青丹に、かつての自分を見るような気持ちで励ます羅喉丸。 「新作ができたら、必ず読みますね」 志郎も言う。 「そやな。あたい、諦めへんよ」 力強く頷く青丹。 (一件落着ね) 迷子の子が出ないよう、常に子供達と共に移動していたフィリアは、みんなと少し離れた場所で状況把握。 「ふふっ、楽しかったわ、ありがとう」 手伝ってくれた子供たちの頭を一人づつ撫でて、フィリアは踊りだす。 子供たちが歓声を上げる。 そんなフィリアに合わせて、やはり全てをみていた銀姫が踊りに合わせて歌いだす。 「まだまだ寒い冬の盛り でも何れやってくる春の息吹は遠からずで〜♪ そういう未来への希望を謡うのだけれど〜♪ 春風に舞う瓦版 数が揃ったら御喝采〜♪ あとは酒場語りだね〜♪ 終わりよければ全てよし〜♪ ハッピーエンドはいつまでも〜♪」 軽快で楽しげな踊りと、歌に包まれて。 青丹は未来の瓦版屋設立に向けて、もう一度、気合を入れなおすのだった。 |