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■オープニング本文 開拓者ギルドに彼が訪れたのは、既に日も暮れた夜間。 深緋が窓の施錠の為に受付から立ち上がったときだった。 強風もかくやという勢いで、なりふり構わぬ様子の彼 ―― イケメン開拓者は、深緋に掴み掛かる。 「助けてくれ、彼女が、リーリアがっ‥‥!」 「‥‥落ち着きなさい。知っている情報をすべて話しなさい。そんなに混乱していては、助けれるものも助けれなくなるわ」 ただならぬ様子の彼の姿にいつものふざけた口調はなりを潜め、深緋は勤めて冷静に彼に椅子を勧める。 座ってなどいられる状態ではなかったが、それでも彼は黙って椅子に腰掛ける。 指が震えるのは、決して寒さの為ではないのだろう。 「人手は何人必要かしら」 落ち着けるよう、彼にお茶を注ぎ、深緋はゆっくりと尋ねる。 「これで、雇えるだけ」 「‥‥全財産、といったところね」 彼が開拓者として貯め続けたそのお金は、おそらく彼女との結婚資金も含まれている。 そして少しだけ落ち着いた彼が話し始めた内容は、簡単にまとめると以下のようなものだった。 数日前。 彼と同じく開拓者である彼女は、廃村に出没したアヤカシ退治に向かった。 むろん、一人ではなく仲間達とだ。 よく見かける低級アヤカシを退治し続けている時、それは起こった。 現れたアヤカシを退治しようとスキルを使おうとしたのだが、言葉が出ない。 開拓者達は焦り、連携を崩し、それでも精一杯戦ったのだがスキルの使えない状態ではそれほど強いアヤカシ相手でなくとも厳しい。 満身創痍になり、リーリアが殿を勤めて退却したのだが‥‥。 「気がつくと、彼女だけがいなかった、と」 深緋の言葉に、彼は深くうなだれる。 何故、自分も共に行かなかったのか。 そもそも、女性の彼女に殿を勤めさせた彼女と一緒の依頼を受けた開拓者達も許せない気持ちになりそうだった。 彼女の性格からして、自ら殿を買って出たのだということは十分理解できるのだが。 「恐らく呪声と、あとは錯乱辺りを使われていた可能性が高そうね」 スキルが使えなくなるとしたら、アヤカシが使う呪声はまさにそうだし、その後の開拓者達の混乱を聞けば、スキルが使えなくなっただけにしてはおかしいというものだ。 「彼女を、助けてください‥‥」 「当然よ。その為にギルドはあるわ。あなた達、聞いていたわね?」 くるりと深緋は振り返り、まだギルドに残っていた開拓者達を見回す。 「敵の数も種類も不明よ。けれど事は一刻を争うわ。早馬を貸し出すし、あたしの権限で貸し出せるものなら全て責任を負うわ。だからこの依頼、受けてちょうだい?」 驚く開拓者達に、深緋は有無を言わさずいつの間にか作成していた依頼書を突きつけるのだった。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
酒々井 統真(ia0893)
19歳・男・泰
紫焔 遊羽(ia1017)
21歳・女・巫
鬼灯 仄(ia1257)
35歳・男・サ
水月(ia2566)
10歳・女・吟
神咲 輪(ia8063)
21歳・女・シ
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
燕 一華(ib0718)
16歳・男・志 |
■リプレイ本文 瓦礫の山と化した廃墟で、ソレは思う ―― こんなちっぽけな餌より、もっと大量の餌を。 この小さな餌ときたら旨そうではあるものの、ほんの一口で食べ終えてしまうのではないかと思えた。 けれどソレは知っていたのだ。 この小さな餌 ―― リーリアを求めて、別の餌が戻ってくると。 以前食した餌達も、必ず戻ってきたのだ ―― ソレの姿を見て逃げ出すものも多々あったけれど。 無論逃がすことなどせず、全て食して。 餌どもは、何時だって群れて行動する。 だから、この小さな餌にもいるはずなのだ。 『仲間』と呼ぶ別の餌が。 ぎっしりと毛に覆われた多足で、ソレは捕らえたリーリアの頬を撫ぜる。 餌はソレの作りし巣の中で苦しげに呻いた。 ●刻一刻と。 「馬番で構わねえんで付いてきな」 緊急依頼と聞いて名乗りを上げた鬼灯 仄(ia1257)は煙管を吹かし、イケメン開拓者 ―― ローラントを促す。 リーリアを一人でも助けに行きたかった彼だが、自分の実力は自分が一番良く判っている。 だからこそギルドに即座に駆け込んだのだが、自分を共に連れて行ってくれるのならとギルドから貸し出された早馬に跨る。 「なるべく日のあるうちに着きたいわ」 神咲 輪(ia8063)も早馬を走らせながらチラリとイケメン開拓者を見る。 (助けに行かない彼氏はどうかと思ったけれど、ね?) 逃げずに共に来たローラントを少しばかり見直す。 「ローラントさんの華を取り戻すために頑張りますよっ!」 三度笠が吹き飛ばされそうな勢いで、燕 一華(ib0718)も叫ぶ。 その手の平には『救』の文字。 錯乱してしまった時、大切なことを思い出すためのおまじないだ。 むろん、アヤカシのスキルの前にどの程度の効果があるのかはわからない。 けれどスキルよりも想いが通じることもある。 (恋人の元、ちゃんと‥‥生きて帰してあげな‥‥っ!) まだ生きていると信じて、紫焔 遊羽(ia1017)は扇子と手綱を握り締める。 「っしゃあ!! こんだけ頭数そろってんDAっ、よくわかんねーけど助けれっだろ!」 皆が緊張を全身に迸らせている中、村雨 紫狼(ia9073)だけは何時もと全く変わらない。 けれど彼なりに真剣な事だけは早馬を駆るその激しさでわかる。 (アヤカシの退治も出来れば良いのですけれど‥‥今は救出優先) 強力なアヤカシを放置すれば、その分、被害は大きくなる。 けれど今はリーリアを助けることを優先しようと水月(ia2566)はもともとあまり開かない小さな口元を更にぎゅっと引き締める。 「ボクらが必ず助けて見せるんだよ。恋人達は離れちゃダメだ」 常にとは言わずとも、大切な相棒・酒々井 統真(ia0893)と共にこの依頼を受けた水鏡 絵梨乃(ia0191)は懐の古酒を確かめる。 「どんだけきつい状況でも、やる以上は出来る。‥‥未帰還なんざ作ってたまるか」 酒々井は金色の瞳を決意に光らす。 ●捜索と、囮と。 ローラントに廃墟と化した村の入り口で早馬と共に待機させ、開拓者達は村へと足を踏み入れる。 事前に囮班と救助班に別れ、遊羽、鬼灯、村雨、水月は囮班、水鏡、酒々井、輪、一華は救助班。 囮班と離れる前に、輪は聴覚を極限まで研ぎ澄ませて敵の居所を探り警告する。 「この方角から羽ばたきが聞こえるわ‥‥。皆、気をつけて。村雨君は、特にね?」 「判ってるって! 俺は世界一のイケメンだから大丈夫なんDAっ。綺麗なおねーさんは大好きですっ」 輪が特に心配したくなるのもわかる勢いで村雨は落ち着きがない。 じっとしていることが出来ないのか、スクワットしながらヤル気満々。 囮班は救助班に出来るだけアヤカシが行かないよう、救助班とは離れた場所に移動して輪の情報を元に陽動を開始する。 「備えていきな」 鬼灯は加護結界を遊羽と水月にかけて置く。 少しでもアヤカシのスキルに対抗するためだ。 「俺にはないのかよー」 笑いながら苦情を言う村雨には、男なんだから気合で乗り切っとけと鬼灯はある意味激励。 そしてまだ日の高い空を不敵に見上げ、そのまま天を突き破る勢いで村雨は叫ぶ。 「この戦いに生き残ったら水月たん‥‥俺は‥‥! 俺は君のおぱんちゅがほしいいいいいいっ、脱ぎたてじゃなくてもいーからーー是非にっーーーー!!!!!」 「「「?!」」」 彼以外の全員の耳が壊れそうになった。 ある意味無敵の精神攻撃。 そんなみんなをほっぽって、彼は全力で走り出す ―― アヤカシを惹きつける為に! 「うぉいっ、錯乱使われたのかぁっ?!」 「無茶苦茶な‥‥っ」 「‥‥っ」 鬼灯と遊羽はまだいい、煙管を落としそうになったり思わずがくっと膝が落ちかけただけだから。 だが大人しい水月はあぅあぅっと顔を真っ赤にして声も出ない。 「み な ぎ って き たあああああああぁ!!! いつでも嫁にこーーーーーーーいいっ!!!」 背水心で妙に覚悟を決めて、村雨は叫ぶ走る叫ぶ! その声につられてアヤカシ達がぞろりと湧き出てくる。 空からの敵はハーピー。 妙な羽ばたきをし、その直後、村雨の声が出なくなる。 (「放送規制?! そんなことしても俺の水月たんへの愛はかわらないぜーーー!!!」) 叫べなくなった村雨は心の中でもやっぱり声の叫びと変わらないことを叫ぶ。 いや、心の中で叫んでも咆哮にはならないから! 「おぅおぅ、派手にきなすったな!」 二刀流を振りかざし、鬼灯の剣が村雨に飛びかかるハーピーの足を切り落とす。 「さぁ、‥‥思う存分暴れて下さいまし‥‥っ!」 遊羽が神楽舞を踊り、鬼灯の剣技が更に冴える! そして水月の小さく、けれど不思議な歌声はローレライの髪飾りの力を得て仲間達に淡い光と加護をもたらす。 「おっと、水月たんや紫焔たんに群がる敵も引き受けっぜ!」 呪声の切れた村雨もロングコートをなびかせて二刀流をアヤカシ共にお見舞いする。 途中、鬼灯は弓に武器を持ち替え空に逃げるハーピーをも撃墜し、村雨に群れるハーピー達が次々と瘴気と化してゆく。 粗方アヤカシ共を消し去ったとき、呼子笛の音色が響いた。 ●発見‥‥激闘! 「ありましたっ、リーリアさんのリボンですっ」 一華は割れた石畳に挟まるリーリアの物と思しきリボンを拾い上げる。 やや細めの長いリボンには、粘り気のある細い糸らしきものが絡まっていた。 「金色の髪だわ」 リボンが落ちていた周辺で輪も見つける。 「この辺りで攫われたんだろうか」 水鏡は古酒を一口煽り、いつでも戦えるようにする。 幸い、今の所アヤカシ達とは遭遇せずに済んでいる。 囮班が引き付けてくれているのだろうが、油断は出来ない。 「深緋から聞いた目撃情報考えれば、女郎蜘蛛がいる‥‥なら、リーリアは巣にでも引きこまれてる、か」 無傷であればとうにギルドへ戻ってきているはずなのだ。 それが出来ないのは深い傷を負っているか、アヤカシに囚われているか、最悪の場合は‥‥。 酒々井は浮かんだ考えを頭を振って否定する。 「側に気配がありますっ、人かアヤカシかは、判断できませんっ」 即座に心眼で周囲を探っていた一華は、同時に何かの声を聞く。 「なにか、声がっ」 「助けてって、リーリアさんなの?!」 超越聴覚ではっきりと言葉を聞き取った輪は、一華と共に即座に声の聞こえた廃屋へと向かう。 『‥‥タスケテ‥‥』 廃屋の崩れた窓から上半身だけを捩じらせ、妙齢の銀髪の美女が開拓者達に助けを求める。 その白い頬には涙が流れ、今にもくずおれてしまいそうだ。 「いま助けるっ!」 「まって下さいっ!」 すぐさま駆け寄ろうとした酒々井を、一華が止める。 なぜと振り向く酒々井に一華は女性の頭を指差す。 「リーリアさんは、金髪ですっ!」 その言葉に、全員はっとする。 目の前の女の髪は ―― 銀。 開拓者の間に緊張が走る! 「タスケテ‥‥助けてええええええええええええ♪」 叫び、女 ―― 女郎蜘蛛は一気に廃屋から踊りだし、その瞳が怪しく光る! 「うあっ‥‥?! ‥‥ボクは、そんな事には負けませんっ」 女郎蜘蛛に見つめられた一華は、一瞬くらりと眩暈にも似た感覚に襲われかけたものの、手の平の『救』の字を女郎蜘蛛に突きつけて言い切る。 「これでもくらいなさいっ!」 輪の輝く手裏剣が女郎蜘蛛の視界を遮り、水鏡がその隙に一気に廃屋の中に飛び込む。 廃屋の中では蜘蛛の巣に蝶のように囚われた少女 ―― リーリア。 意識の無い彼女を水鏡は一気に抱かかえてそのまま反対側の廃屋の窓からリーリア共々脱出! それをみた一華は呼子笛を吹き鳴らす。 眩しさに暴れる女郎蜘蛛が自らの巣を壊し、2mほど近いその巨体の半分を占める蜘蛛の下半身を激しく地面に叩きつける。 ●全力で、逃げ切って! 「連携は‥‥ごめん!」 衰弱したリーリアを抱かかえたまま攻撃に転じることが無理な水鏡は酒々井に詫びる。 「輪‥‥っ?!」 いつの間にそこにいたのか。 輪は女郎蜘蛛の背後に回りこみ、その首の付け根に深々と刀を突き立てる。 そしてそのまま振り切って女郎蜘蛛の首を切り裂いた ―― けれど。 「っ?!」 女郎蜘蛛は切られた首をそのまま180度回転させて輪を見つめてニタリと笑う ―― その太く毛深い凶器と化す足を輪に突き刺して。 人であれば即死のそれは、けれど相手はアヤカシ、首を落とされただけで死ぬとは限らないのだ。 首を切り裂いたことによる油断。 そこを突かれた輪は咄嗟に急所だけは逃れたものの脇腹を貫かれ、地面に叩きつけられる! そして追撃の足が再び振り下ろされる ―― 死を覚悟した輪は、けれどまだ、生きていた。 「村雨君!!!」 呼子笛に駆けつけた村雨が、輪をその身を盾にして守ったのだ。 「俺ほんと‥‥イケメンだとおもわねぇ‥‥?」 口調はそのままに、けれど蜘蛛の足に貫かれたその身体から流れ出る命は、倒れた地面を赤黒く染めてゆく。 村雨と共に駆けつけた囮班も青ざめた。 「てめぇ、仲間になにしやがるっ!!!」 「許さないんだよ!」 酒々井の天呼鳳凰拳が女郎蜘蛛の吐く糸を消し、リーリアを遊羽に託した水鏡の乱酔拳が女郎蜘蛛の頭に炸裂し、女郎蜘蛛は軽く眩暈を起こした。 「今のうちにっ」 揺らいだ女郎蜘蛛の足を菊一文字で切り裂いた輪は、村雨の身体に突き刺さった蜘蛛の足を引き抜く。 「無茶はせんとって下さいまし‥‥っ!」 遊羽の神風恩寵が発動し、周囲の仲間達の傷を癒していき、何とか意識は保てるもののそれでも完治には至らない。 「毒にやられてるな、こいつを飲ませる」 村雨を担いでその口に解毒剤を飲ませ、鬼灯は全力で村の外へと走る。 本来なら殿を務めるつもりだったが、動けない彼を担げるのは鬼灯だけだ。 水鏡は再びリーリアを抱かかえ、酒々井が輪を背負って走り出す。 「ツバメは空を舞い駆けるもの、ですからねっ。空にひと華を咲かせましょうっ!」 時間を稼ぐ為に、一華が武器を持ち替えて撤退しつつ女郎蜘蛛に弓を射掛ける。 ●再会。みんな、ありがとう! 「リーリア‥‥!」 女郎蜘蛛から逃げ切って。 ギルドに無事戻った全員は、直ぐさま病院へ連れて行かれた。 ローラントはベットに横たわるリーリアの身体を抱きしめる。 リーリアもだが、村雨と輪の怪我が酷すぎる。 とはいえ、決して治らない怪我などではなく、数日も治療を受ければきちんと完治することだろう。 「感動の再会、だなぁ」 被害は出たものの、無事に依頼を遂行できて鬼灯はふうっと煙管を吹かす。 「帰りを待つ人‥‥か、ちょいと羨ましいて‥‥な‥‥」 遊羽は恋人達を見つめてそっと口元を扇子で覆う。 「次来る時は全部ぶっ倒す時、だな」 酒々井は悔しげに顔を歪めた。 「次は全力でぶっ飛ばすんだよ」 人質さえいなければもっときっちり戦えるのだ。 水鏡はすぐにでも女郎蜘蛛を殴り倒しにいきそうな勢いだ。 みな、気持ちは同じだろう。 あの危険なアヤカシをほうっておくことなど出来はしないのだから。 傷が癒えたら、必ず‥‥。 |