シェアハウス〜坂の下で
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/02/14 01:28



■オープニング本文

 ジルベリア最北領スウィートホワイト。
 首都ホワイティアが機能不全に陥った為、南の町ポアリュアに臨時ギルドが設置されていた。
「シェアハウス、ですか」
 臨時ギルド職員が、書類から目を上げる。
 カウンターの前には、初老の男性。
 なんでも、そろそろ歳だから、シェアハウスの管理人お手伝いさんを雇いたいのだとか。
 屋根の修理や壁の修復、シェアハウスの住民達の悩み事揉め事相談などなど、日々、仕事は尽きない。
「ふむ。日当たり良好、空き部屋数個、一泊からでも利用可、ですか」
 ぱらぱらと書類をチェックするギルド職員。
「開拓者を雇うと、かなり賃金が高くつくと思いますが……問題はなさそうですね」
 眼鏡を押さえ、依頼人の身なりを確認する。
 依頼人は、ごてごてとしたわかりやすい装飾品は一切身につけていない。
 けれど着物の生地が良いのだ。
 一見地味な印象だが、一つ一つの小物が良くみると凝っていて、職人の手によるものなのがわかる。
 この依頼人のシェアハウスの賃貸料金は相場よりも安めに設定されているのだが、部屋数が多いのでそれなりに収入があるのかもしれない。
 ギルド職員は頷いて、依頼書を受理するのだった。
 
 
◆シェアハウスについて◆
 ポアリュアの街の坂の多い地域にあります。
 合計7件の貸し物件が立ち並んでいます。
 坂の入り口には大きな木があり、木の上には廃材を利用して作られた喫茶店があります。
 ご夫婦で運営していらっしゃいます。
 13歳の娘さんも一緒にお手伝いをしているとか。
 お酒はありませんが、コーヒーや紅茶、ハーブティ、緑茶など、様々な飲み物、軽食や季節のデザートが楽しめます。

 シェアハウスは、全て同じ作りとなっています。
 天儀風でなく、ジルベリア風です。
 坂の上から順番に、1号、2号〜7号と番号が振ってあります。
 一軒4部屋。
 一部屋は6畳。
 二階建て。
 一階に一部屋、二階に三部屋。
 一階には共同キッチンとお風呂。
 12畳程度のリビング。
 リビングには暖炉もあります。
 屋根裏部屋あり。
 屋根裏部屋は小窓があり、空が見えます。
 備え付けの家具が最初からある程度はありますので、家具を新規に購入する必要はありません。
 坂の上と坂の下に、井戸があります。
 飲み水やお風呂のお水は、この井戸から汲んで来て頂く事になります。
 桶はもちろん、各家に最初から設置されています。
 薪は裏山から伐採して頂くか、町へ出て購入してください。
 購入する場合は薪代がかかります。
 伐採に必要な斧は、各家の玄関に置かれています。
 食料は街で購入するか、喫茶店で済ませて頂きます。
 キッチンがあるので、食材さえ購入すれば、自炊も出来ます。
 坂道は石畳です。
 坂の下の突き当たりは川があります。
 今の時期は凍っているので、水を汲むのは難しいです。
 小さな穴を開けて、そこで釣りをして楽しめます。
 釣れるかどうかは運次第。

◆シェアハウスの住人達◆
 各家は、4部屋ありますから、定員未満なら同居が可能です。
 また、空き家もあります。
 シェアハウスの住人として過ごす場合は、どの家を希望するのか、プレイングに明記してください。
 参加者様同士でご希望が被ってしまい、尚且つ同居を望んでいない場合は、別の日時に過ごした事として扱います。

『1号棟』
 管理人ご夫婦が住んでいます。
 70歳の老夫婦です。
 最近、足腰が弱ってきて、薪や井戸の水を運ぶのが辛いとか。
 喫茶店の木の梯子を上るのも一苦労のようです。
 また、趣味で一号棟裏の庭で、家庭菜園をしています。
 結構広いです。
 希望があれば、季節の葉物や根野菜を市場より安く、ほぼ無料で分けてくださいます。

『2号棟』
 空き部屋です。

『3号棟』
 三人で住んでいます。

 浅見川 みず(あさみかわ みず)
 原谷章(はらたに しょう)
 ヨウ・イズミダイ

 三人とも、30代。
 みずさんのみ女性です。
 素朴な感じの人の良いお姉様。
 ただ少し引っ込み思案で大人しいです。
 原谷さんは、無口で無愛想。
 挨拶をしても挨拶が返ってきません。
 ヨウさんは明るく元気で、ちょっと変わっています。
 人がよく、志体持ち。
 何か困ったことがあれば、力を貸してくれるでしょう。
 
『4号室』
 一人暮らし。
 
 大河原泰造(おおがわら たいぞう)
 
 20代男性。
 何故か不器用なのに木工大好き。
 薪にならないような屑木を好んで拾って来ています。
 暇さえあれば、毎日家の前でトンてんかん♪
 でも両手は傷だらけ。
 釘を打つコツや、組み立て方など、上手な方法を知りたがっています。

『5号室』
 空き室です。

『6号室』
 空き室です。

『7号室』
 二人暮らし。
 セクシーな美女姉妹です。

 壇 摘実(だん つみ)
 壇 瑠香(だん るか)

 16歳と20歳。
 瑠香が姉です。
 最近、部屋に誰かが入った形跡があったり、変な手紙をもらったり。
 所謂ストーカー被害に悩まされているようです。

◆周辺状況◆
 薪を購入する為の商店街へは、徒歩で30分ほどでつく距離です。
 坂の下の川の向こうから、たまにゴブリンなどの低級アヤカシの襲撃があるようです。
 アヤカシの数はせいぜい4匹程度だとか。
 いまの所、酷い被害はありません。
 
◆お手伝い&入居期間◆
 一週間となります。
 一週間の内の一部を、リプレイとして描写させて頂きます。


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
八条 高菜(ib7059
35歳・女・シ
桃原 朔樂(ic0008
28歳・女・武
厳島あずさ(ic0244
19歳・女・巫
多由羅(ic0271
20歳・女・サ


■リプレイ本文


「んふふ〜るーむしぇあっておもしろそうね〜仲良くなれるかしら〜」
 7号棟の美女二人が霞みそうなぐらいの魅惑を振りまいて、桃原 朔樂(ic0008)が2号棟に入室する。
 2号棟では既に、八条 高菜(ib7059)が手料理を作っていた。
「食材が丁度あまっていたから、昼食を用意しておいたわ。荷物を片付けたら一緒に食べましょう」
 高菜が味噌汁を味見しつつ、先に作っておいた公魚のフライを朔樂に勧める。
 だがしかし。
 よくみると、激しく危険な格好をしている高菜。
 どんな格好かといえば、透け透けのレースの下着姿なのだ。
 ガーターベルトとニーソックスももちろんレース。
 背が高く、スタイルが良いから似合いすぎる位に似合っているのだが、同居人が男性だったら一体どうするんだ?!
「あら〜いい香り〜」
 けれど朔樂はにこにこと一切動じず、管理人から伝えられていた自分の部屋に、荷物を運ぼうとする。
 その手を、高菜が止めた。
「どうしました〜?」
「桃原様の部屋は、そっちじゃなくて、こっちよ」
 うふっと笑って、高菜は朔樂の荷物を一つ持って、自分の部屋に案内する。
「るーむしぇあって〜同じ部屋を使うのですね〜」
 多大な勘違いをして、高菜の部屋に連れ込まれる朔樂。
 何故だろう。
 よく似た二人の間に桃色の空気が流れ出す。
 朔樂の色合いが、ピンク系だからというだけではない。
 二人がこの後どうなるかは、きっと皆の想像通りだろう。


「そうですか、おふたりにストーカーが……まずは細かい調査が必要ですね。その手紙とやらを術視で確認してみましょう」
 7号棟では、美人姉妹と同居する事にした厳島あずさ(ic0244)が、姉妹に色々と質問していた。
 姉の瑠香が恐る恐る引き出しから贈り付けられている手紙を取り出す。
(捨てるのも怖かったようですね……)
 美しい顔を不安に曇らせる姉妹に、俄然やる気を出すあずさ。
 微妙に遠くを見つめているかのような不思議な瞳を、手紙にじっと凝らす。
 手にした神楽鈴がシャラリと鳴った。
「術らしきものはかけられていないようですね……でも丁寧すぎる字体なのが気になります。いつごろから具体的な被害が?」
 あずさの質問に、姉妹は顔を見合って記憶を辿る。
「そうですか、二ヶ月も前からですか……目撃情報がないなら、犯人は深夜、しかも外部からの侵入者の可能性が高いと思います。シェアハウスの住人なら、同居人に気づかれないはずがありません」
 強く言い切るあずさに、ちょっとほっとした表情をする美人姉妹。
 同じシェアハウス一帯に住む仲間は、やはり疑いたくなかったのだろう。
「大丈夫です! わたくしがきっちり解決して見せます」
 美人姉妹に頷いて、あずさは他の開拓者にも協力を仰ぐべく、行動に移した。


「たまにはこういうのも……」
 多由羅(ic0271)は坂の下の川で釣りを楽しんでいた。
 凍った川に小さな丸い穴を開けて、釣り針のついた糸をたらす。
 30cm程の短い釣竿は、管理人夫妻が快く貸してくれた。
 餌は特に付けずとも、公魚が次々と食いついてくる。
「元気が良いですね」
 分厚い氷に穴を開けるだけで釣れるとは聞いていたものの、釣り針に食いつく白い魚の姿に多由羅は苦笑する。
 釣れなかったら、夕食の食材を急ぎ町に買いに行こうと思っていたが、その必要性はまったくないようだ。
 手桶に程よく公魚を泳がせると、多由羅は坂を登るついでに井戸水も汲んでいく。
 手桶は予め二つ持ってきておいた。
 片手に井戸水を、片手に公魚の泳ぐ手桶を運びながら、多由羅は坂道を登る。
 手桶を満たす汲み立ての井戸水は澄んでいて、ジルベリアの青空を映し込む。
 透明感のある青い色合いは、まるで同居人の柚乃(ia0638)の髪のよう。
 そんな多由羅の同居人は、管理人夫妻にご挨拶に向かっていた。
「あ、お土産にオリーブオイルチョコをどうぞ」
 ふわっと微笑んで、柚乃が管理人にチョコを手渡すと、彼女の狐の襟巻きがもぞもぞっと動いた。
 正確には、襟巻きのように柚乃の首元に巻きついている相棒の管狐・伊邪那なのだが。
 襟巻きが動いたようにしか見えず、驚いて目を見開く管理人。
「……時々もぞもぞってするけど……気にしないでください」
 にこやかな笑顔でお辞儀をされては、管理人もそれ以上突っ込めず、こくこくと頷くばかり。
 柚乃が立ち去ると、入れ替わりで琥龍 蒼羅(ib0214)が管理人の元を訪れた。
 肩に大量の薪を担いでいる。
「薪はこの程度で足りるだろうか」
 どうやら裏山から薪を伐採し、適度に割って持って来てくれた様だ。
「いえ、お礼はお構いなく。これは、頂いた野菜のお礼ですから」
 口調こそ淡々としているものの、蒼羅は言われずとも薪を部屋の中まで運び込む。
 老夫婦には、玄関先から薪を居間に運ぶのも、一苦労なのが判っているのだ。
「後で町にも行く予定だが、何か必要なものはあるだろうか」
 蒼羅の申し出に、老夫婦は有りがたく頷いた。



「やはり、きましたね」
 噂のゴブリンの集団に、今日も川で釣りをしていた多由羅は、すっと立ち上がる。
 凍った川の向こう側から、ゴブリンが数体、うろついて来るのが視認出来た。
 毎日川で釣りをしていたのは食材確保もあったが、このゴブリン達をここで始末する為。
 川の水よりもなお澄んだ水龍刀をすらりと引き抜き、ダンッと氷の上に足を下ろし、そのまま水龍刀を横に薙ぎ払う。
 氷を砕きながら走る衝撃波は、そのままゴブリンを二体切り裂いた。
 残る二体が今頃多由羅に気づき、奇声を上げるが、時既に遅し。
 多由羅が再び払った刀から発せられる衝撃波は、残る二体も一瞬にして瘴気へと消し去る。
「ふぅ……。すっきりしましたね。これで住民の皆様の不安が少しでも減ると良いのですが」
 呟きながら、多由羅は刀を鞘に納めた。


「さあ〜どうしてお手伝いをしないのか〜説明してもらいましょうか〜」
「ヨウ様達はもうちょっと老夫婦のお二人を手伝ってあげてもいいんじゃないかな……」
 3号棟から運悪く(?)、ヨウ・イズミダイが出てきてしまったのが運の付き。
 朔樂と高菜に捕まって、ヨウは目を白黒させている。
 朔樂はいい。
 ちゃんと、着物を着ているから。
 ……着ていても肌蹴ているし、豊満な胸は隠しようにも隠せないのだが。
 問題は、高菜!
 一応服らしきモノはまとっているのだが、いかんせん、大事な所ぐらいしか隠れてねぇ!
 2号棟の窓辺からヨウを見かけて、部屋着のまま二人して飛び出してきたせいだ。
「い、いや、俺はさ? 手伝わないわけじゃなくてだね?」
「言い訳は〜男らしくないのよ〜」
「ハッキリきっぱり手伝うと宣言してもらいましょうか」
 ずずいっ!
 ヨウを挟んで、朔樂と高菜が距離を詰める。
「あ、あの、そのだね?」
 しどろもどろのヨウの目は、左右に迫る二人の胸に。
 ヨウは決して背が低いわけではないのだが、朔樂と高菜には及ばない。
 見ようとしなくとも、丁度顔の目の前に魅惑的な谷間があれば、男として鼻の下が伸びるのも致し方ないというか。
 そしてそんな最悪のタイミングで、3号棟から浅川が出てきたのはもう、運命の悪戯。
「よ、ヨウさんっ、何をしていらっしゃるんですか……っ」
 顔を真っ赤にして、朔樂と高菜を交互に見る浅川。
 そして自分の胸に視線を落す。
「………」
 何もいわずとも、その場の誰もが理解した。
「浅川様、肉体労働を頑張ると胸筋がつくんですよ」
「そうそう〜一杯お手伝いすると〜フェロモンが活発に〜」
 うふふ〜と企み笑顔の朔樂と高菜。
 その際、ぎゅうっとついでについうっかり、ヨウの頭を胸で挟んで二人で抱き合うのも忘れない。
「胸、最高……ぐはっ!」
 危険な断末魔をあげて、巨大な胸の魅力に鼻血を吹いて倒れるヨウ。
「ヨウさんっ!」
 全力で抱きかかえる浅川は、キッと朔樂と高菜を涙目で見上げる。
「私! あなた達みたいになってみせますっ!!! 管理人さんのお手伝いとか! 余裕なんですからねっ!!!」
 ちょっぴり逆切れヒステリック気味に、朔樂と高菜に宣言して、火事場の馬鹿力よろしく、ヨウを引きずって3号棟に運んでいく。
「ちょっと予定と違う気がするけど〜解決かしら〜?」
「まったく問題ないわね」
「でも〜ちょっとだけ〜さむい気もするわ〜」
「大丈夫。私が暖めてあげるから」
 ぎゅうっと、道端で一層激しく抱き合い、お互いの体温で暖めあう二人。
 通りすがりの男性が、鼻血を吹いてぶっ飛んだ。


 シュッ……カチリッ。
 シュッ……カチリッ。
 一定のテンポで風を切る音が聞こえる。
 蒼羅だ。
 一通り、管理人や同じシェアハウスの仲間達の手伝いを終えた蒼羅は、休む事無く修練に勤しんでいた。
 居合いの修練らしい。
 腹から呼吸をし、一回、二回、三回目の息を吐く瞬間、彼は刀を抜いて、空を切る。
 シュッと風を切る音が鳴り、静かに、彼は刀を鞘に収める。
 黒髪が一房、汗ばむ額に張り付いた。
 蒼羅は軽く払うと、再び、一心に修練に励んだ。

 
「お手伝い出来て、嬉しい」
 柚乃は、喫茶店のキッチンで得意の料理を披露する。
 薬膳知識に長けた柚乃は、マスターの作った季節のサラダに、香りの良さや消化を助ける薬草を付け加える。
 薬草は、蒼羅が街に行った時についでに買ってきてくれたものだった。
 蒼羅は管理人夫妻の分だけでなく、街に行く時は柚乃達にも声をかけ、いつも購入してきてくれていた。
「本当に助かるよ、お嬢さん」
 足に包帯を巻いたマスターが、柚乃に声をかける。
 多由羅と毎日この喫茶店に通っていた柚乃は、マスターともすっかり仲良くなっていた。
「早く良くなるとよいですね」
 柚乃はマスターの足を痛々しげに見つめる。
 昨日の事だ。
 この喫茶店は大木の上に立てられているのだが、木梯子が凍り付いていたのだ。
 喫茶店を訪れた柚乃達の目の前で落ちたのは、ある意味幸運だったのだろう。
 一緒にいた多由羅が咄嗟に抱きとめて大怪我は免れたのだが、いかんせん、滑った時に足を挫いていたのだ。
 柚乃が応急手当を施し、何とか歩けるものの、まだ本調子には及ばない。
「同居人が柚乃様でよかったよ」
 柚乃の作った温野菜のポトフを口に運び、多由羅が言う。
 喫茶店の料理はもちろん美味しいのだが、柚乃の手料理はまた違った味わいのある旨味なのだ。
「どんどん作りますから、遠慮なくですよ」
 マスターと共に、柚乃は張り切って腕まくり。



 深夜。
 あずさと蒼羅は、7号棟の警備に当たっていた。
「不審な物音がするのは、必ずこの時間だな」
「犯人は、かなり神経質な人間です」
 手紙と、美人姉妹から聞いた情報で、犯人像に当たりを付けるあずさ。
 そうして。
 二人が物陰でずっと身を潜めていると、黒尽くめの男が現れた。
「まて」
 飛び出しそうになるあずさを、蒼羅が小声で止める。
 そう、まだ黒尽くめというだけで、不審な動きは一切していない。
 冤罪を避ける為にも慎重に。
 ぐっと我慢して、目を凝らすあずさ。
 その瞬間、男が7号棟の壁をよじ登り、二階の窓辺を覗き込んだ!
「わたくしが神楽舞でサポートいたしますわ! 歪んだ恋は、恋ではありません!」
 あずさが叫び、不審者に向かって手加減なく『縛』を放つ。
 シャラシャラとなる神楽鈴の音色が、まるで縄のように男にまとわり付き、その動きを縛り付ける。
 悲鳴を上げて、バランスを崩して落下してくる男を、蒼羅は剣の柄で受け止めた。
 無論、手加減はして急所は避けて。
 男の悲鳴に驚いて、美人姉妹が飛び出してくる。
「もう大丈夫です。犯人は、ここに成敗いたしました!」
 気を失っている犯人の襟を掴んで、あずさは美人姉妹に突き出した。 


(星、綺麗……)
 部屋と同じく、ぬいぐるみで一杯にした屋根裏部屋で、柚乃は夜空を見上げる。
 首元の伊邪那を撫でると、もう眠っているようだった。
 柚乃の手元には、編みかけの帽子。
 高価なもふら様の毛で作られた毛糸は、ふわふわで暖か。
 飾り紐を結び、柚乃はもう一度夜空を見上げる。
(完成したけれど……贈る宛は……もうない……かな……)
 贈りたかった相手は、誰だろう?
 柚乃の、寂しげに伏せられた紫の瞳の奥に、きっとその相手が映っているのだろう。
「今日もここにいらっしゃいましたね」
 いつの間にか、多由羅が側に来ていた。
「星が、綺麗だったから」
「そうですね」
 柚乃の隣に座り、夜空を一緒に眺める多由羅。
 渡す相手はいなくとも、決して一人ではない柚乃。
 澄んだ空気に煌く星々は、切ない気持ちを癒してくれるよう。
 長いようで、一瞬にして過ぎ去った一週間だった。
 二人、寄り添うように。
 ずっとずっと、夜空を見つめ続ける。
 またいつか、ここにこられたら。
 そんな思いを込めながら。