(以下略)
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 10人
サポート: 1人
リプレイ完成日時: 2012/10/24 04:02



■オープニング本文

「それじゃぁ、任せたわよぅ?」
 秋。
 ぶっちゃけ、もう冬に突入してるのではと思うほどに寒い日の朝。
 開拓者ギルド受付で、マッチョ開拓者は「は?」と返すのが精一杯だった。
「は? じゃないわよ。まさか……聞いてなかったのぉ?」
 むーっと唇を尖らすのは、ギルド受付嬢・深緋。
 一気に機嫌の悪くなった彼女に、よせばいいのにマッチョ開拓者は思わず首を振る。
「い、いあ? ちゃんと聞いてたぞ」
 かけらも聞こえてなかったし、ちょっと朝でボーっとしてたし。
 けれど咄嗟に首を振ってしまったのが運のつき。
「そうよね、うふふ。いってくるわねぇ♪」
 にっこり笑顔の深緋はマッチョ開拓者を残してギルドを去った。
 あの様子からして新作簪を買いにいくに違いない。
 だが肝心の深緋の頼みごとがわからない。
「やっちまったな……」
 受付に散らばる依頼書を眺めつつ、マッチョ開拓者は頭を抱えるのだった。
 

 
◆関連地域◆
 主にジルベリア最北領スウィートホワイトとなります。


『開拓者ギルド』
 各種依頼が溢れる開拓者ギルドです。

『遊郭街』
 遊郭街です。
 遊郭・露甘楼があり、芸妓さん多数。
 お茶所もあります。
 お茶所では三色団子が人気だとか。

『喫茶店』
 開拓者ギルドのすぐ傍にある喫茶店です。
 小さなお店ですが、人のよいマスターが温かく迎えてくれるでしょう。

『星降る丘』
 露甘楼の傍の丘。
 夜には沢山の流星が見れるとか。
 時期的にオーロラは見れません。

『港の村』
 北の海に近い港の村。
 精霊エンジェルハートがよく現れます。
 また、『エンジェルハートのぬいぐるみ』と『エンジェルハートの絵本』が購入できます。

『寺院』
 ホワイティアの隣町にあるとある寺院。
 薄紫色の釣鐘と、沢山の猫又と猫たちがいます。
 NPC鳩羽がお世話になっていて、オリジナルの簪も扱っています。

『露天通り』
 沢山の露天と人々で賑わっています。
 さまざまな品物が売られていますが、レアアイテムはありません。

『神無武』
 武神島にある簪店。
 神無武平簪の購入が可能です。

 この他にも、藍鼠関連地域であればOKです。


■参加者一覧
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
リスティア・サヴィン(ib0242
22歳・女・吟
御桜 依月(ib1224
16歳・男・巫
浅葱 恋華(ib3116
20歳・女・泰
マルカ・アルフォレスタ(ib4596
15歳・女・騎
高崎・朱音(ib5430
10歳・女・砲
明星(ib5588
14歳・男・志
アーニー・フェイト(ib5822
15歳・女・シ
ジェーン・ドゥ(ib7955
25歳・女・砂
鴉乃宮 千理(ib9782
21歳・女・武


■リプレイ本文

●開拓者ギルド
「内容が思い出せないなら、手当たり次第思いつく事をやっておく事だ。汝に任せて出かけたという事はそう無茶な事は頼んでないはずだぞ?」
 ギルド受付。
 頭を抱えるマッチョ開拓者に、見かねた鴉乃宮 千理(ib9782)は声をかける。
「我に出来る事ならいくらでも手伝ってやろうぞ。ほれ、思いつく事を全部言ってみるがよい」
 塔婆を口元に当てて、うっすらと微笑む千里の赤い瞳は、何もかも見透かしているかのよう。
 マッチョ開拓者は天啓を得たとばかりに手をぽんと打つ。
 その横で、悠々と昼寝をしていた猫又・榴遊をマルカ・アルフォレスタ(ib4596)が抱きしめる。
「わたくしとデートいたしましょう♪ 相変わらずあったかくてふわふわですわね」
 ふふっと微笑んで、榴遊で温まるマルカ。
 その腕の中で、榴遊は幸せそうに二本の尻尾を振った。


●露天通り
(……気配も殺気も特にありませんか)
 ジェーン・ドゥ(ib7955)は鞘に収めた愛刀に触れ、周囲に気を巡らす。
 アヤカシの襲撃が相次ぐ中、それでも露天通りは活気を失ってはいなかった。
 ただ、所々に張られてある張り紙を見ると、近日場所を移動するようだ。
 ふと、見知った人影にジェーンは声をかける。
 黒髪の美丈夫は竜哉(ia8037)だった。
 ジェーンと共に何度も死線を潜り抜けた仲間だ。
「竜哉様もですか」
 何をとは聞かない。
 判っている事だから。
「ないに越した事はないんだが……一応ね」
 竜哉は欠片を確認しに来たと告げる。
 あの氷晶球は、破片でも危険な物体だった。
 二人で一通り露店通りを調べて回ると、子供達がはしゃぎながら広場へと駆けてゆく。
 奇術団の公演があるらしい。
(……私も今少し、この日常に身を置くのも悪くはありませんか。戦場が呼ぶその時まで)
 鋭く周囲に走らせていたジェーンの黒い瞳に、優しい色が滲んだ。
「どうやら日常に戻ったみたいだな」
 破片がない事をきっちり確認した竜哉も、子供達の笑い声に尖った気を納める。
 ふっと二人微笑んで、子供達に続くように、広場へと歩いてゆく。


「おっちゃーん、元気してっかー!」
 広場で、アーニー・フェイト(ib5822)はにししっと笑って声をかける。
 丁度休憩していた五つ星奇術団団長は、聞き覚えのある声に振り向いた。
「おぉ、ずいぶんと久しい。元気そうで何よりですぞ」
 相変わらずため口のアーニーに、団長は気分を害した様子もない。
 嬉しそうに頬を緩める。
「アヤカシが出たんだって? ホント気を付けろよー? おっちゃんたちならダイジョーブだと思うけどさ」
 団長も幸せそうだが、公演を行っている元スリの少年達も、フレッタと共に舞台に上がるコニーも、それはそれは楽しげだ。
 だがアーニーの言葉に、団長はほんの少し寂しげに微笑んだ。
 そしてその一瞬の表情を見逃すアーニーではなかった。
「どしたよおっちゃん。なんか困った事があるならあたしが力を貸すからさ。なんでもいってよ」
 俯きかけた団長の顔を、アーニーはひょいっと下から覗き込む。
 彼女の赤い瞳とばっちり眼が合って、団長は困った様に話し出した。
 ここ最近、アヤカシの襲撃が多すぎたこの場所は、町長により閉鎖するのだと。
 一時的な処置らしいが、被害者がこれ以上増える前に、対応したいとの事。
 場所を移動するだけで被害が防げるというものでもないのだが、何もしないよりはという判断らしい。
「そっかー。決まっちまったもんはしょうがないよね。次の公演場所教えてよ。また会いに来るからさ」
 しししっと笑って、アーニーは団長の肩を叩く。
 寂しげだった団長も、ついつられて笑顔になった。


「ほぅ、これはなかなか我にあいそうな着物じゃな。せっかくじゃし、寄ってみてもよいかの?」
 高崎・朱音(ib5430)は色取り取りの着物を手に取り、共に露店通りを訪れた面々を振り返る。
「もちろん♪ やっぱり着物は見ていて楽しいよね♪ 月白ちゃんと朽黄ちゃんもいいかな?」
 朱音の手に取った着物に瞳を輝かせながら、御桜 依月(ib1224)が月白と朽黄に別の着物を差し出してみる。
「綺麗ね……」
 月白は表情こそ無表情だが、朱音と依月に誘われたのがよほど嬉しいのだろう。
 露甘楼からあまり出かけることのない彼女だが、ぴったりと二人に寄り添っている。
「みんなおしゃれなんだよ。うちもみたい♪」
 いつでも元気な朽黄は、スキップ気味に店の奥に入っていく。
「なかなかに広い店じゃのぅ。露店とは思えぬほどじゃ」
 朱音が中の広さに感嘆の声を漏らす。
 ジルベリアの衣装はもちろんの事、各儀の衣装を取り揃えたその店は、試着室までついている。
 と、その試着室に見知った顔が出てきた。
「ね、良いでしょう鳩羽? この衣装は私よりも鳩羽にきっと似合うから、一回だけ試着してみて♪」
 赤い尻尾を楽しげに揺らし、浅葱 恋華(ib3116)は鳩羽の手を引く。
「む、鳩羽ではないか」
 朱音が鳩羽に気づいた。
「おねぇちゃん!?」
 朽黄も気づいて驚きの声を上げる。
「恋華ちゃんと鳩羽ちゃん! 二人とも、こうして会うのは久しぶりだね♪」
 依月も知り合いだったらしい。
 世間は広いようで狭く、其々が其々知り合いという、実に驚きの遭遇だった。
 唯一、全員と顔見知りだった依月が順番に紹介していく。
「へぇ〜鳩羽の妹さん? 貴女のお姉さんの親友の恋華よ、宜しくね〜♪」
 恋華は、朽黄と月白が遊郭勤めと聞いても嫌悪感なく其々握手する。
 様々な人々に会いやすい開拓者だから免疫があるというよりは、貴賎を問わない元来の性格からだろう。
「ん〜何々、鳩羽。お腹がすいたの?」
 独特の口調の鳩羽の言葉を、恋華は難なく解読する。
 身内以外で解読できるのは恋華とマルカとあと数名位だろうか。
 鳩羽の言葉を間違わずに理解する恋華に、朽黄は興味深々。
「言われてみれば、何やら良い匂いがするのぉ。小腹もすいたし、そろそろ食事を考える時間かの?」
「ずっと歩き詰めだと疲れるしね♪ カフェがさっきあったよね? きっとそこからこの匂いはしてると思う。そこでみんなで休憩しよう〜♪」
 依月が広場にあったカフェを思い出す。
 6人は其々の出会いや今日の収穫について話しながら、カフェに去ってゆく。
 

「深緋ではないか」
 千里が奇術団の公演を見ていると、深緋が通りかかった。 
「マッチョが困っておったぞ。聞いてなかった、とね」
 目当ての簪を買ってご機嫌な彼女に、千里は情け容赦なくマッチョの嘘を暴露した。
 だが深緋の答えは千里の予想の遥か上。
「そりゃそうよぅ。だって何もいっていないもの♪」
 ふふっと笑う深緋に、流石に千里も目をむく。
 マッチョが聞いていないのを判った上での行動だとは思っていたが、よもやまさか何も言わずにからかっていたとは。
「暇ならお土産買うのを手伝ってくれないかしらぁ」
 マッチョに買っていくという深緋。
「今できる事で、我にできることだから手伝ってやろうぞ」
 妙な疲れを感じつつ。
 これもまた善行だと自身に言い聞かせて、千里は深緋のお土産選びについていく。   
 
 
●エンジェルハート
「エンジェルハート、可愛かったね」
 ぎゅうっ。
 港の町で購入したエンジェルハートのぬいぐるみを抱きしめ、狼 宵星は隣の狼 明星(ib5588)にはしゃぐ。
「あんなに柔らかいなんてね。時期的に少し早かったけど、会えて良かったね」
 双子の妹の喜びようが、明星にとっても嬉しいのだろう。
 恐る恐る触れたエンジェルハートの身体はふわふわで、思わずつれて帰りたい衝動に駆られたのも事実だ。
 大きな手提げには、家族へのお土産に買ってきたぬいぐるみと絵本も入っている。
 もっとも、絵本は一冊一冊手作りな上に、ぬいぐるみよりは売れ行きが少ない事から二冊しか購入できなかった。
 ホワイティアの石畳を歩きながら、二人は遊郭街に足を踏み入れる。
 華やかな女性達に溢れたこの場所は、けれど遊郭街というよりは娯楽街かもしれない。
 お茶所もあれば装飾品も多くの店が集まっており、兄妹で歩いても楽しめた。
「あっ、朽黄さーん!」
 ぶんぶんぶんっ。
 見知った芸妓を見かけ、明星は笑顔で手を振る。
 呼ばれた朽黄も嬉しそうに駆け寄ってきた。
「お久しぶりなんだよ。二人でお買い物なのかな」
 子犬のように懐っこい朽黄に、明星は「僕の事、覚えていてくれたんですね」とほんのり頬を赤らめる。
「初めまして、シャオと申します。ミンシンがお世話になっております」
 初対面の朽黄に宵星は丁寧にお辞儀をする。
 その瞬間、明星のお腹がくぅうっと可愛く鳴いた。
「あは……お腹空いちゃった……。良ければ僕達と一緒にお団子食べませんか?」
 ほんのり赤かった顔をさらに真っ赤にしつつ、明星は朽黄を誘ってみる。
(ミンシン、浮かれてる?)
 そんな兄の様子を観察しつつ、宵星はスケッチブックに二人の様子を描いてみる。
 楽しそうに笑う二人のイラストは、見ている周りまで楽しい気分になってきた。


●寺院
「やっほー☆ 遊びに来たわー。朽黄ちゃんいるかな」
 ひょいっとリスティア・バルテス(ib0242)は露甘楼に顔を出す。
 丁度そこでは、朽黄が自慢の二胡の調律をしていた。
「お、グットタイミングだったかも! 朽黄ちゃん、久しぶりに一緒に演奏しない? 広々とした森とかどーよ♪」
「すっごく久しぶりなんだよ。広々とした場所なら、おねぇちゃんのいる寺院かな? あそこなら猫又もいっぱいいて楽しいんだよ」
 遊郭街だから、側に静かな場所を探すのはちょっと難しいし、と朽黄。
「朽黄ちゃん、お姉さんいたんだ?」
「うんうん。3人もいるよ〜。一番上のお姉ぇには、きみもあった事あるんじゃないかな」
「だれだれ?」
 話しながら、二人は露甘楼を出て、人力車に乗る。
 寺院はホワイティアの近接の町にある。
 歩いて行くには少しばかり離れているのだ。
 心地よい揺れに身を任せながら、二人のおしゃべりは続く。
「深緋姉さんはね、ギルド受付してるんだよ。あと、いまこの車を引いてくれているのは青丹おねぇちゃん」
「うぉっと!」
 リスティアは笑顔で爆弾発言をかます朽黄に軽く叫びつつ、思いっきり人力車から身を乗り出す。
「どーーーりゃぁーーーーーーーーーーー!!!」と言いながら車を引く褐色の少女は、言われてみれば朽黄に少し似ているような気もする。
 瞳の色と、元気いっぱいな所とか。
 朽黄の大胆な所は深緋似だろうか。
「うはぁ。朽黄ちゃんお姉さん多いね。寺院にいるのが鳩羽さんだっけ?」
「うん♪ 優しくて美人なんだけど、ちょっと変わってるから、会ったらびっくりするかも」
「私には義妹がいるのよ、2人。とっても綺麗なの。意気投合して、私のが年上だから私がお姉ちゃんよーって、妹にしちゃったわ」
「そんなことしちゃったの?! でも、きみらしいんだよ。今度機会があったら会わせて欲しいな」
「朽黄ちゃんも義妹になる?」
「喜んで♪」
 そんな他愛もない話に花を咲かせていると、目的の寺院が見えてきた。


「猫又さんたちのお出迎えですわね。嬉しいですわ」
 マルカが榴遊と共に寺院に着くと、お寺のお坊様たちよりも早く、大量の猫又達がずらっと並んで出迎えた。
 もう既に、マルカが何を持っているかわかっているようだ。
「お昼に皆さんでどうぞ。糠秋刀魚ですわ」
 以前のみたらし団子に続き、猫まっしぐらな糠秋刀魚。
 マルカの手土産に猫又達はメロメロだった。
「榴遊さんも久しぶりにお仲間とくつろがれますか」
 腕の中で身動ぎをした榴遊に気づき、マルカはそっと仲間達の元へ下ろす。
 榴遊はマルカにぶにゃーと鳴いて、堂々と秋刀魚を咥えて去ってゆく。
「†マルカ†」
 猫又達の鳴声に気づき、鳩羽が自室から出てきて声をかける。
「鳩羽様、お元気そうで何よりです」
 マルカも鳩羽に気づき、微笑む。
 二人は寺を出て、近くの湖へと散策に。
「†鴨†」
「えぇ、そうなんです。あの子達は元気でしょうか」
 寺院に大量発生してしまった鴨達を、マルカ達の協力で近くの湖に移したのはもう随分と前の事。
 ぺったらこーぺったらこー。
 湖に着くと、以前と変わらぬ調子で歩く鴨達の姿が。
 人懐っこく、ふっくらとした姿にマルカはほっとしながら、湖の側に腰を下ろす。
 その横に座る鳩羽に、
「ランチをご用意してきましたの」
 と、籐籠からワッフルを差し出す。
 そして水筒からは紅茶の良い香りが漂い、マルカの愛用のティーセットに注ぐ。
「†!†」
「え」
 紅茶の独特の香りを楽しみながら口をつけた鳩羽が、凍りついた。
 心なしかティーカップを持つ指先が震えている。
 慌ててマルカも口をつけるが、吹き出さなかったのは育ちの良さゆえ。
「は、鳩羽様、お口直しにこちらをっ」
 少々慌て気味にワッフルを勧めてみる。
「†気†」
「ご無理はなさらないで。初めて紅茶を淹れた時、それを飲んだ兄は三日間寝込みましたから……」
 気にしないで、もしくは気合で。
 そう答えたであろう鳩羽に、マルカはなんともいえない表情。
 大分上達したと思えた料理は、色々と上達具合が偏っているようだ。
 現に紅茶よりも難しいワッフルは、甘い香りといい綺麗な狐色の焼き具合といい、完璧。
「†幸†」
「よかったですわ」
 幸せそうにワッフルを頂く鳩羽に、マルカはほっと胸を撫で下ろした。


●天儀図書館
「ありがとう、こうやって資料を纏めるところがあるから、俺は過去を知った上で動ける」
 竜哉はラティーフにお礼を言って、腰掛ける。
 天儀図書館近くのお茶所で購入した軽食は、ラティーフの分もある。
「お望みの資料があると良いのですが〜」
 資料が大量で、まだまだ完璧に纏めてるとは言い難い。
「何も知らないで力を振るうことは、とても怖いんだ」
 竜哉ほどの開拓者でも、恐怖を感じるのだろうか。
 ラティーフに渡された資料をめくる手が止まる。
「正しさとか間違いとかじゃない。自分の意思が介在しない事がだ」
 彼の言葉を、ラティーフは完全には理解し得なかったかもしれない。
 それでも、そこに宿る真摯な思いに、ラティーフは彼の手を握る。
「大丈夫です。あなたならきっと、やり遂げれますよ」
 ほんわかエルフと、真面目な騎士と。
 二人の穏やかな時間が過ぎて行く。
 

●星降る丘
「見事な夜空ですね」
 ジェーンは持参の毛布に身を包み、露店で購入したカンテラの窓を閉める。
 邪魔な明かりの消えた夜空は、より一層瞬いた。
(こうして星を眺める事は殆どありませんでしたか)
 長い事見上げずにいた夜空は深い藍色に包まれ、流れる星々はジェーンの胸に沁みる。
 戦いに明け暮れた日々は、きっとこれからも変わらない。
 でも。
(またこうして、夜空は見上げてみましょう)
 澄んだ夜空は、疲れた心を包み込むよう。
 ジェーンは夜空以上に澄んだ黒い瞳に、今日この日の空を焼き付けた。