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■オープニング本文 ジルベリア最北領スウィートホワイト首都・ホワイティア。 閑散としている露店広場を眺め、露店組合組長は長い髭をしごき思案に暮れていた。 この露店通りの開けた広場に正体不明のピエロ型アヤカシが出たのはつい先日の事。 そのアヤカシ騒動で、出店露店が激減してしまったのが原因だった。 露店が少なくなれば、自然と客足も途絶える。 今はまだそれほど深刻な事態とはなっていない。 だがこのままにしておくわけにはいかないのだ。 露店が減り客足が減り、客が減る事により売れなくなりまた露店が減る。 そんな悪循環の未来が容易に予想できるのだ。 半年、いや、一年ほど前だろうか。 同じような露店通りが近隣の町にも出来て、客は一気にそちらに流れた。 その時も客が減り、露店が減り、ホワイティアの露店は売り上げに大きな打撃を受けたのだ。 幸い、売り物の路線が違う為か途絶えていた客足もある程度は戻り、五つ星奇術団による奇術公演という目玉もある為か、ここ数ヶ月は本当に繁盛していた。 今回は以前とは違い、まだ客はある。 無いのは露店だ。 だが露店を一気に増やすとなると……。 「それなら、開拓者を頼ってみてはどうじゃろうか」 露店通りで頭を抱える組長に、五つ星奇術団の団長が声をかける。 いつの間にか奇術公演を終えた団長が組長の隣にいたのだ。 しかも、組長の悩みは声に出ていたらしい。 「開拓者に……? アヤカシが出ても大丈夫なようにかのぅ?」 悩みを口に出していた事に気付いて顔を赤らめつつ、組長は首を傾げる。 アヤカシ対策は出来て出来ないようなもの。 一時的になら資金を何とか調達して警備に当たってもらえるが、いかんせん、長期的な警備は現実的ではない。 それになにより、開拓者が警備に当たってくれるという事が露店の直接の増加に繋がるとは思えないのだ。 そんな組長の言葉に、団長は首を振る。 「いえいえ、警備ではなく露店を出店してもらうのですじゃ。開拓者たる彼らなら、アヤカシなど恐れるに足りませぬし、それに何より、今までに見たこともないような品々もお持ちかもしれません」 「なんとまぁ、言われてみればその通りじゃのぅ。忙しい彼らの事じゃし、売る暇も使うまもなく手持ち無沙汰になっている品々があるかもしれんのぅ。どれ、早速ギルドに頼んでみるのじゃ」 ぽんと手をうち、白髪の組長はいそいそと開拓者ギルドへと向かうのだった。 |
■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
ニノン(ia9578)
16歳・女・巫
月野 奈緒(ia9898)
18歳・女・弓
賀 雨鈴(ia9967)
18歳・女・弓
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
ティアラ(ib3826)
22歳・女・砲
ナキ=シャラーラ(ib7034)
10歳・女・吟
イーラ(ib7620)
28歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ●まずは準備を頑張ろう☆ ジルベリア最北領スウィートホワイト首都・ホワイティア。 その露店通りに集まった開拓者は全員で8人。 小鳥の囀りだす早朝から、8人は今まさに人が集まりつつある露店通りでそれぞれの露店準備を始めていた。 「うん、『夢の翼』の旗はこれで完璧かな!」 露店通りの中央の一角に露店を構え、天河 ふしぎ(ia1037)は満足げに頷く。 そんな天河の露店を大量のもふんどしを抱きかかえたエルディン・バウアー(ib0066)が通り過ぎる。 「これほどの量を私はいつの間に集めたのでしょうか」 自分の売り場によっこいせと褌を置き、エルディンは首を傾げる。 「にゃお?! 本当にすごい量ですね」 同じく中央に露店を出す事になった月野 奈緒(ia9898)が大きな瞳を更に大きく見開いて近づいてくる。 月野が驚くのも無理はない。 エルディンが持ち込んだ褌はその数なんと60枚。 うず高く積み上げられたあまりのその量に既にちょっとした人だかりが出来始めている。 「手伝いますよ。急がないと人通りを阻害してしまいますっ」 エルディンの助祭であり、同じ中央に露店準備をしていたティアラ(ib3826)がすぐに駆け寄り、ほんわかマイペースなエルディンを手伝い始める。 てきぱきと素早い助祭のお陰で、大量のもふんどしは崩れる事無くそびえ立ち、お洒落なバックも美麗な指輪も、そしてあやしげーな仮面までもがスペースに違和感なく収まった。 「流石ですね。頼りにしていますよ」 エルディンはほんわかと幸せげに微笑んで露店に腰を下ろした。 そしてニノン・サジュマン(ia9578)は一人、広間の片隅に佇んでいた。 荷物を持っていないところをみると、既に露店の準備が整っているのだろう。 (この場所じゃな……) この場所で、アヤカシによる事件があったのはつい最近の事。 折れた街路樹の痕に事件に思いを馳せ、ニノンは深く黙祷を捧げる。 その向かい側で、イーラ(ib7620)が最後の仕上げをしていた。 「ジャンビーヤはこの位置だな」 武器であると同時に装飾品にもなるアル=カマル独特の短剣を露店前に飾り、イーラは堂々と露店に腰を下ろす。 彼の露店には、天儀ではもちろん、ジルベリアでもあまり見かけないアル=カマルの品々がずらり。 特に葉っぱや小動物の骨などの化石をそのまま加工したブローチは砂漠の儀を強く髣髴させる。 イーラは脇にカラフルなキャンディボックスを数個置いて、一息ついた。 露店通りの入り口付近では、ジルベリア最北領だというのに水着姿のナキ=シャラーラ(ib7034)がその服装で既に話題になっていたし、正統派泰国美女の賀 雨鈴(ia9967)の露店前では、彼女の二胡の調律を聞きつけた客達がこれからどんな演奏が始まるのかと集まりだしている。 今日の露店は、色々と期待出来そうだった。 ●あれこれやれそれ☆ 「おっしゃ! 褌売りまくるぜ!」 何時でもどこでも水着姿のナキは、既に道行く男性の瞳釘付け。 そんなナキが腕まくりの仕草をして、これまた29枚という褌を高々と抱えて叫ぶ。 「寄ってらっしゃいみてらっしゃい、この褌は恐れ多くもあの恐怖のアヤカシと戦った一張羅! よっ、そこのおっさん、詳しい話を聞きたくないか?」 ナキがウィンク飛ばせばおっさんと呼ばれた中年男性、ほんのりほっぺたを赤らめながらナキに歩み寄る。 「あれは、そう、魔の森一歩手前の森での出来事。恐ろしく強い相手だった……。仲間は皆倒れ、あたしは武器を失った。正直、もうだめかと思ったね」 しんみりと遠い目をして語りだすナキに、おじさんはうんうんと耳を傾ける。 「でもさ、神はあたしを見捨てなかった! 偶然褌を29枚持ってた事を思い出し、敵の不意を突き木々の間を縫って物陰に隠れ、褌全て繋いで即席の鞭として戦い見事倒したんだ! もうわかるだろう? ここにあるこの褌がそのときの29枚の褌だ。アヤカシ避けになること請け合いだぜ、どうよおっさん!」 ぐいぐいとナキに迫られて、おじさんは一つ聞きたいと言い出した。 「ん? なんだ? 何か気になるのか?」 顔を近づけるナキに、おじさんは一言「……着用済みかね?」とポツリ。 「おう、もちろん!」 「買った!」 おじさんは嬉しそうに29枚の褌をすべて買っていった。 「なんっか、違和感あったけど。まあいっか♪」 どうみてもアヤカシ除けと言うよりごにょごにょと言葉を濁したくなる何かがあったのだが、きっとキノセイだろう。 懐があったかーくなったナキはご機嫌に露店をたたみだす。 「さぁさぁ、見てってよ、この国だけじゃなくて、天儀、泰国の珍しい武器や鎧が揃ってるよ!」 そよ風にそよぐ夢の翼の前で、天河が大きくみなに手を振って呼び込みをする。 その白く細い指先から、ふわっと鳩が飛び出して、道行く客が歓声を上げる。 くるくるとお客様の頭上を回転するその白鳩は天河が作り出した人魂だ。 人々の目を引く白鳩がふわりと天河の肩に止まると、お客様に小首を傾げてふわりと消える。 「この霊験あらたかな呪符を、こうやって帽子の中に入れると……ほらっ兎が」 天河が漆黒の符を風のキャスケットの中に入れると、ぴょこんと長い耳を揺らした白兎が帽子から顔をのぞかせて、集まったお客様の足元でくるくると飛び跳ねてみせる。 「更に、この鎧からも!」 そして天河が蓮冥鎧の中に再び漆黒の符を入れると、中からあの白鳩が再び現れて歓声が沸きあがった。 「その鎧、買った!」 一際大きな歓声を上げていた恰幅の良い男性が声を上げる。 「毎度ありっ!」 近場の露店で購入しておいた果物をぽーんと空に投げ、天河はお勧め品の刀でそれをさくっと切り分け、片手でキャッチ。 再び大きな歓声が沸き起こったのはいうまでもない。 「演奏方法とか……ご希望があればその楽器を演奏して実演をするわよ」 楽器が直射日光に晒されぬよう、予め天幕を借りていた雨鈴は、彼女の演奏に集まった通行人のうち、妙齢の女性に微笑みかける。 品の良さそうなその女性は彼女の提案にしばし思案し、「琵琶を」と口にした。 雨鈴は頷いて、その女性が好みそうな涼やかで優しげな音色を奏で出す。 今でこそ弓術師の雨鈴だが元々は吟遊詩人。 女性の指先を見て、彼女もまた楽器を奏でる人なのだと判った。 「良い音色ね。貴方の歌声も素敵だわ」 琵琶「檜皮雅」を一つ手に取り、その深みのある茶色の背を撫ぜて、女性は満足気に購入していく。 「あら……? 可愛いお嬢さんね」 人垣の隙間から雨鈴をきらきらとした瞳で見つめる少女に気付き、腰掛から立ち上がる。 雨鈴と目が合った少女はおどおどと父親らしき男性の背に隠れた。 「この子は人見知りが強くてね。それに最近、怖い夢をよく見るようなんだ。心が休まるような何かいい歌はないかね?」 男性に問われ、雨鈴はそれならと安眠のオルゴールを手に取る。 「このオルゴールは、ジルベリアの職人が一つ一つ趣向を凝らした一品なの。ほら、聞いてみて。優しい音色でしょう?」 雨鈴がオルゴールを開くと、辺り一面にオルゴール独特の音色と、そしてシトラスの香りが漂った。 「曲もそうだけれど、こうやって好きな花弁を中に入れてみて。音色と香りが彼女を守ってくれると思うわ」 雨鈴が今ここで楽器を用いて様々な曲を奏でることは可能だが、少女の家に楽師がいるかというと、難しい。 貿易商の娘でもある為か、雨鈴は少しみただけで相手の人となりやその生活をある程度把握出来ていた。 少女が気に入ったのを見て、父親はオルゴールを購入していった。 「さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。何れもここにある品は古今東西の一品ばかり。見るだけならタダ、けれど買うならハッピーハッピーですよ?」 ペペンペンペン♪ ティアラはハリセンを小気味よく叩きながら道行く人に声をかける。 その姿はまるで生粋の商売人。 誰が彼女を助祭と思うだろうか? それもこれも教会復興の為、エルディンの為。 「どれもこれも曰くも魅力もある品々ですが、極めつけはここにある武具! こちらの賞状をご覧あれ。なんと天儀にて行われた高名な大会の賞状です!」 ばばんっと一際大きくハリセンを叩き、店に飾った『第一回「天下毛布・もふえもん杯」賞状』と、その隣でにやりと微笑む招き猫と、金運の白蛇像。 なんだか組み合わせが怪しいのか神々しいのかわけのわからない説得感を醸し出していた。 そしてほんのり引き気味のお客様達にティアラは更に畳み掛ける! 「ここに賞状があるのは並んだ武具がそのお墨付きを得た証です! たくさんもっては参りましたが数に限りはございます。御自慢の腕に合うもの、或いは御家庭でのインテリア、魔よけ代わりにいかがです?」 すぐに売り切れちゃいますよというティアラの言葉になにがなんだか購買心を掴まれたお客様たちは我先にとどっと品物を手に取りティアラに詰め寄った。 「やはりこの、霊験あらかたな金運の白蛇像様のお陰でしょうか? あやかりたい方は是非とも買って行ってくださいねー!」 お客様にもみくちゃにされながら、ティアラは像を掲げて叫んでいた。 「ジルベリアの服に簪を合わせるとエキゾチックで可愛いのじゃ。どうじゃ、見てみるがよい」 ニノンは自らも天儀の着物を纏い、それに惹かれてきた年頃の娘に試着を勧める。 黄色いドレスを着こなす少女の艶やかな髪に、ニノンは撫子の簪を飾りつける。 薄い金属を撫子の花のように細く加工したそれは、成る程、ドレスにも良く映えた。 少女の母親も興味深々に見つめているので、ニノンはすかさずトータルコーディネイトを勧めてみる。 「ジルベリアのドレスも魅力溢れる物じゃが、天儀の着物はドレスを着るより目立つこと間違いなしじゃ」 本来は長襦袢や肌襦袢を着てから着物を着付けるのだが、ここは露店。 着替える場所はなく、ニノンは婦人の肩に打掛のように着物を羽織らせ、その髪には着物とお揃いの彼岸花の簪をあしらう。 手鏡に映る自分の姿に感嘆のため息を漏らす婦人に、ニノンは満足げに頷いた。 「坊主、飴ちゃんいるかい?」 イーラは子連れの親子に向かって声をかける。 あまり裕福そうではない男の子は飴の言葉に母親の手を振り切ってイーラにかけてくる。 母親が慌てて止めようとするが、イーラはそれを制して男の子に沢山の飴を手渡した。 両手いっぱいに飴をもらった男の子は幸せそうに目を輝かせる。 「御代は……」 おろおろと焦る母親に、イーラはそんなもんはいらないよと笑う。 ほっとする母親と、側で見ていた通行人数人を手招きして、 「手ぶらで話もなんだ、ちと、茶か酒でも飲んでかねぇか?」 アル=カマルの茶器に人数分の緑茶を注ぐ。 嬉しそうに飴をなめる男の子の頭を撫でながら、イーラは一枚の地図を広げる。 「こいつはな、あの砂漠の天儀・アル=カマルの甘味マップさ。知ってるかい? あの儀にはサボテンクッキーがあるんだぜ。普通のクッキーは甘いもんだが、サボテンクッキーは塩味が効いていてね。それでいてどこか素朴な甘さがある。そのサボテンクッキーを取り扱っているのがこことこの店さ」 イーラは地図を覗き込んでくる客達に指を指して教える。 「現物? 悪いね、アル=カマル産の食い物は、まだ大量には手に入らねぇんだ。その代わり、天儀の良質の茶葉ならほら、大量に仕入れてきた。お前さんたちが飲んでいるその緑茶がそうさ。いい香りだろう? どうだい、アル=カマルに行った時の為に甘味マップと日々の疲れを癒す為に天儀の緑茶、セットで買っていかないかい?」 をいをい、随分高値じゃないかねという客達に、イーラはにやりと笑う。 「割高? ああ、話の駄賃ってことでひとつ頼むわ」 屈託なく笑うイーラに話を聞いていただけの通行人までついつい緑茶に手を伸ばす。 「坊主、本当に嬉しそうだな。どれ、こいつも持ってきな」 ずっと飴をなめていた男の子にイーラはキャンディボックスを丸まる一つ、手渡した。 ●お買い物も楽しんじゃおう☆ 「大切な場所を優しく包みます。高級もふ毛使用でこの価格。ほら、貴方も触ってみませんか?」 聖職者スマイル、ニッコリ0文。 真っ白な歯を輝かせながら微笑むエルディンに、通行人達は顔を見合わせる。 なにせ最初からある大量のもふんどし。 目立ちまくって人だかりが出来ているものの、あまりの量に圧倒されて皆、手をこまねいてみているだけだった。 「にゃお♪ ほんっとうに柔らかいな♪」 自分の露店そっちのけで、月野はぎゅうっともふんどしを抱きしめる。 その幸せそうな顔を見て、一人、また一人と手を伸ばしてみる。 「こりゃすげぇ、あの有名なもふら様の毛を本当に使ってるみてぇだ!」 通行人の一人が感嘆の声を上げればもう、こちらのもの。 あれよあれよという間にそれこそ飛ぶように売れてゆく。 「大切な場所を決めたなら、見える場所にもこだわりませんか。そう、例えば指先。繊細かつ透明感ある貴方のその細い指先を、精霊の加護で彩りませんか?」 もふんどしを買い捲る通行人を微笑んでみていた貴婦人の手をとり、その指にそっと赤い指輪をはめる。 貴婦人はあらあらと苦笑しながらも嬉しそうにお買い上げ。 「おお、これは素敵な鞄じゃ。本皮であつらえた鞄をぜひとも一品欲しいと思うておったところなのじゃ」 いつの間にかニノンがエルディンの露店に並んでいた鞄を手に取り、革独特の光沢と手触りに小躍り。 「さすがお目が高い。異国情緒あふれる高級品、一目置かれること間違いなしですよ。……おや?」 ニノンにエルディンが代金を受け取ると同時に、ティアラが露店を再び訪れた。 「様子を見に来ました。売れ行きは上々のようですね」 「ええ、お陰さまで。ティアラのお陰ですよ。見やすく取り易く並べて頂きありがとうございます」 「整理整頓は完璧です」 えっへんと猫耳揺らして胸を張るティアラ。 「二人ともずっと売り子さんしつづけて疲れてません? 私が暫く売り子さん代わりますよ」 月野の提案に、二人、顔を見合す。 「ま、まぁ。せっかくのご提案をお断りするのも申し訳ないですし。エルディンだけだと迷子になりかねませんし? 一緒についていって差し上げます」 「迷子……ええ。そうですね。行ってきましょうか」 ティアラの言葉に苦笑しつつ、エルディンも頷いて、二人はほんの少しの間二人で露店巡りへ。 この日の開拓者達の売り上げは、定価から7割引まで本当にまちまち。 大儲けできた者もいれば、予想以上に値切られて収入はほんのりの者も。 けれど露店通りとしての人気は大成功で、この日の露店は数日間語り継がれるほど大きな賑わいを見せたのだった。 |