★五つ星詐欺集団★
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/02/13 03:39



■オープニング本文

「絶対、騙されたのよ〜ぅ」
 開拓者ギルド受付嬢・深緋は深い溜息をつく。
 いつもと違ってがっくりと肩を落として心なしか化粧もくってりしているようないないような。
「どうしたっていうんですか」
 目の前でわざとらしく溜息をつかれたイケメン開拓者は仕方がないので声をかけてみる。
 どうせ無視して通り過ぎようとしても強引に話を進められるのは経験済み。
 なら無駄な抵抗はせずに話を聞いてしまったほうがこちらの被害も少ないというものだ。
「これ、見てよぅ。あんまりだと思わなぁい?」
 うるうるうる。
 泣き顔までわざとらしく作って深緋は懐から袱紗を取り出して開拓者に玉簪を差し出す。
「‥‥ずいぶんとアンティークですね」
 アンティーク、といえば聞こえはいいが、袱紗から出てきた玉簪はどう見てもボロボロ。
 玉の部分の装飾は所々剥げているし、鉄部分は錆びだらけでとても使えそうにない。
「そうなのよ〜ぅ。市場で掘り出し物だからって声かけられてね? その時は、ほんとに綺麗な簪に見えたの。でも家に着いたらこうなってたいたのよぅ‥‥」
 きっと店の主人が入れ間違えたのだと思い、深緋は直ぐに市場に戻ったのだが、問題の露天商は既に姿を眩ましていたらしい。
 よくよく考えればこんな使い古した簪を入れ間違えるはずもないし、故意に違いないのだ。
 女一人で逃げた露天商を探し出せるはずもなく、あわや泣き寝入りだったのだが‥‥。
「でね? ここからが本題!」
 バン!
 深緋は勢いよく立ち上がって受付の机を叩く。
「今までのは本題じゃなかったんですか」
 あきれた口調のイケメン開拓者の発言は軽やかにスルー。
「今日ギルドにこんな依頼が入ったのよ〜ぅ」
 深緋に突きつけられた依頼書には大きな文字で『極悪詐欺集団出没! 求む開拓者』と書かれていた。
「なんでもね? この詐欺集団、粗悪品をどうやってか知らないけど美麗レアアイテムに見せかけて高額で売りつけてるらしいのよぅ。今まではそれほど騒ぎにならなかったみたいだけど、今回は有力商人を騙しちゃったらしぃのよね。で、その商人様が依頼を出してくれたってわけ♪」
 ざまぁみなさいと深緋はご機嫌。
「今回は依頼人がお金持ちだしぃ、報酬美味しいし。善良な市民を騙す悪徳詐欺集団、さくっとやっつけてくれるわよね?」
 善良な市民のためというより、あなたの個人的恨みじゃないんですか。
 そう突っ込みたいのをぐっと我慢して、開拓者はこの依頼を受けることにしたのだった。 


■参加者一覧
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
アルセニー・タナカ(ib0106
26歳・男・陰
ライオーネ・ハイアット(ib0245
21歳・女・魔
袁 艶翠(ib5646
20歳・女・砲
ライ・ネック(ib5781
27歳・女・シ
アーニー・フェイト(ib5822
15歳・女・シ


■リプレイ本文

●まずは情報収集を。
「さぁて、詐欺集団はどこにいるのかしら。まずは情報収集というところね」
 煙管を吹かしつつ、袁 艶翠(ib5646)は周囲を見渡す。
 そこは詐欺集団が出没したという市場。
 ジルベリアならではなのか、装飾品はもちろんの事、衣類に食料品、天儀物からなにやら良く判らない物まで、ありとあらゆる露店が並び、それはそれは賑わっていた。
「コキヒから聞いといたんだけどさ。痩せぎすのおっさんで、一見悪人には見えないニンソーだったらしいよ。どっちかっつーと貧しそうな感じだったとか。 あと、なんかハトを出す小柄な男が居たとか何とか」
 説明するアーニー自身も余り裕福ではないのだろう。
 古着を継ぎ接ぎしながら大事に着古して、アーニー・フェイト(ib5822)は周囲に目を光らす。
 今の所、それらしい人物は見当たらない。
「依頼人にも話を聞いてきましたわ。深緋さんと同じく、娘さんにネックレスを買ったところ、紛い物を仕込まれたようですわね。人物像は、アーニーさんの聞いた痩せぎすの人の他には、随分と体格のいいコートの男性が居たそうですわ」
 魅力的な香水の香りを漂わせながら、ライオーネ・ハイアット(ib0245)はここに来る前に依頼人から仕入れた情報を報告する。
 そして深緋が騙されたように、妙齢の女性から若い女性まで、ターゲットは女性が多いのではないかと予想。
 依頼人の有力商人も娘の為のプレゼントにアクセサリーを購入したのだし、その可能性はかなり大きい。
「帝国騎士の目を欺けるならやってみなさいですよ〜」
 アーシャ・エルダー(ib0054)はいつも身につけているグニェーフソードを外して、貴族らしい上品な笑みを浮かべる。
 外したソードは執事のアルセニー・タナカ(ib0106)がきちんと受け取り片付ける。
 そう、今回この二人に主な囮をしてもらうのだ。
 詐欺集団のターゲットが主に女性なら、貴族たるアーシャは一見良いカモ。
 武器も外したし、開拓者には見えない。
「騙してガラクタを売りつけて、金を稼ぐとは決して許せるものではありません」
 アルセニーも側についていれば、事実貴族の娘たるアーシャに詐欺集団も疑いを抱くことはないだろう。
 そしてシノビのライ・ネック(ib5781)はみんなとは少し離れた場所に潜み、張り込みを続ける。

●怪しい露店とアジト
 開拓者達は計画通り、全員つかず離れず、けれど別の客を装って市場を見て回る。
「よーよーにーちゃん、このリンゴもっと安くならねーの? 天儀だったらこの半額だろー」
 アーニー、思いっきり地のままで露天のお兄さんに値切り交渉。
 そのくせ、その目はきっちり周囲を見ている。
 安く買えたリンゴを齧りながら、それらしき集団をチェックする。
(あいつ、どこ見てんだかな)
 そのチェックに引っかかったのは、フードを目深に被ってはいるもののこれといって特徴のない、中肉中背の男性二人。
 これだけ賑わっている市場で店を見て回ることをせず、隅のほうからそれとなく市場を出入りする客を見ている。
 側に飛んできた小鳥 ―― アルセニーの人魂にそれを伝える。
 小鳥は数回、判ったと頷くかのようにアーニーの頭上を回り、飛び立ってゆく。
 また少し離れた場所では、市女笠を被り、外套に身を包んだシノビには見えないライが客を装いながら、周囲の音や発言に耳を澄ませる。
「いま露店にいるのは三人は確実のようです」
 買い物を楽しむ様子の彼女はそれとは悟られないように、拾った言葉を側に来た小鳥にそっと伝える。
「素敵な髪飾りですね〜、私に似合うのを見繕ってください」
 仲間達が得た情報をもとに、問題の露天商にアーシャは近づく。
 そう、市場の中程にありながら、わき道の直ぐ側というこの場所に問題の露店はあった。
 いつも同じ場所とは限らないのだろうが、いつでも逃走経路は確保されているのだろう。
 情報にたがわず痩せぎすの商人は、詐欺で稼いでいるにしては随分と貧相。
 着ている衣類も余り上等なものには見えない。
 側に居る仲間と思わしきコートの男性のほうがよほど派手で裕福そうだ。
 市場を見張る仲間から既に情報を得ていたのか、痩せぎすの商人はアーシャに柔らかく微笑んで迷うことなく髪飾りを一つ、選ぶ。
 それは、アーシャの淡く青い髪に似合いそうな銀色のバレッタ。
 細かな装飾は、貴族が好みそうな上品なデザイン。
 あらかじめアーシャの為に用意したかのようだった。
 それを受け取るとき、さりげなくアーシャは立ち位置を変える。
 後ろに控えるアルセニーに商人がよく見えるように、そして商人の側に控える体格の良いコートの男と少々小柄の男からアルセニーが隠れるように。
「本当に素敵なデザインね。では、さっそく髪につけましょう。アルセニーさん、頭につけてくださいな」
「お嬢様、よくお似合いです」
 商人が何かを言うよりも早く、打ち合わせ通りにアーシャとアルセニーは芝居を打つ。
 そう、身に着けてしまえばそうそう簡単にすり変える事など出来はしないのだ。
 慌てる商人に、やはりすり変えていたのだという確信を持つ二人。
 このまま代金を支払って本物を持って立ち去っても良いのだが、それだと商人がいかにして品物を粗悪品にすり変えているのかが判らない。
 だから、アルセニーは商人が慌てている隙に作ったテントウ虫の人魂を商人の目線に近づけ、それをしっかりと確認したアーシャは商人に改めて品物を包んでくれと髪飾りを返す。
 ほっとした顔の商人は、アーシャから受け取った髪飾りをレースのハンカチで包もうとする。
 その時、横の小柄な男が「お嬢さん、見てくださいよ」と手の中からなんとハトを取り出した。
「えっ。それは一体?」
 本当は知っていたのだが、アーシャはそれでも驚く。
 人魂でなく本物の白いハトがいきなり現れたのだ。
 いくら前情報で知っていてもやはり本当に驚ける。
(なるほど‥‥)
 テントウ虫から商人の手元を確認したアルセニーはハトに惑わされることなくその手法を確認。
 魔法などではなく、単純に包む時に客の目を逸らし、袖の中の紛い物とすり変える。
 アーニーも知っていそうなごく古典的な方法だった。
 既にすり返られたことを知っていながら、アーシャは品物を受け取り、アルセニーと共にその場を立ち去る。
「なかなか面白い町並みですね。あちらの露店にも行ってみましょうか」
 アルセニーとアーシャは貴族とその執事が買い物を楽しんでいるかのように演技を続ける。
 そしてさりげなくテントウ虫の人魂から小鳥のものに切り替え、アーニーのもとへ。
 小鳥に導かれたアーニーは、露店をこっそりと見張り続けると、商人達は直ぐに場所を移動。
 恐らく、アーシャ達が紛い物に気づいて戻ってきた時の為だろう。
「あら、素敵ですね。もっと沢山ありませんの?」
 若い子が好みそうなアクセサリーが並ぶ露店通りに移動した問題の商人達に、すかさずライオーネが声をかける。
 そして再び、ハトを出現させライオーネに紛い物を売りつける商人達。
「残念、少しばかり好みと違いますわ。また次の機会に」
 紛い物とすり返られると判っていて買うことはせず、ライオーネはその場を立ち去る。
 商人から少し離れると、やはりつかず離れず様子を伺っていた艶翠と情報交換。
「うーん‥‥集めた情報から察するに、アジトは近辺じゃないかしらね」
 定期的にこの市場に詐欺を働きに来ているのだから、それなりに目撃者は居るものだ。
「ただ、少し気になることがあってね」
「どんな事ですの?」
「その商人さ、昔からこの辺に露店出してたらしいんだけど、昔は子供と一緒に来てたらしいんだよね」
「お子様‥‥? 先ほどは見かけませんでしたわ」
「うん。最後に見かけたのが、数ヶ月前らしくてね。随分痩せ細ってたって。病気かね‥‥。それと、よく場所換えをするようになって、その頃からかな。あのコートの男性を一緒に見かけるようになったって話さ」
 具合の悪そうな咳をしていたのを最後に見たあと、子供の姿を見かけなくなったというその情報に、ライオーネも柳眉を潜める。
「一筋縄じゃいかないかね」
 艶翠はふーっと煙管を吹かして空を仰ぐ。

●アジト発見、悪人共は許すまじ! 正義の拳が唸りをあげるっ!
「ここかよ。‥‥随分ちっぽけだな」
 商人をつけ、アジトと思わしき家に辿り着いたアーニーはその小ささにちょっと毒気を抜かれる。
 アジトというより、どう見ても小屋。
 一緒に後をつけていたライも、少々拍子抜けだ。
 その時、中から悲鳴が響いた!
「どうかっ、どうか子供はっ」
 先ほどの商人の声だ。
 ライとアーニーは小窓から中の様子を覗き込む。
 そこには、ベットに横たわり、重い咳をした痩せ細った子供とその子供を抱きしめる商人の姿、そして部屋の隅で怯えるようにコート姿の男性を見つめる小男が。
「今日の稼ぎです‥‥」
 怯えながらスーツの男に金貨を手渡す商人。
 その金を満足気に受け取り、コートの男は小屋を出て行く。
 見つからないように身を潜め、アーニーとライは小屋をのぞくと、小男が必死に商人を慰めていた。
「子供の薬代ですか‥‥」
 聞こえた話の内容に、ライは深く溜息をつく。
「薬の為に借金で返済の為に詐欺、くはー、やんなっちゃうね! とにかくライはあの男を追いかけて。あたしはアルセニーたちを連れてくるよ」
 ライは頷いてスーツの男を追い、アーニーはアルセニーの小鳥を見つけて情報を早口で伝えだす。

「おばさんから逃れようとおもっても、無駄よ。観念しなさい」
 ぱんっと空砲を撃って、艶翠はコートの男共を威嚇する。
 ついでに殴りかかってきた男の顔面にブーツで蹴り!
「か弱い市民の盾となる帝国騎士アーシャ参上! いざ、勝負ーー!」
 アーシャもアルセニーに預けていたグニェーフソードを受け取り、戦闘準備万全!
 ライの見つけた本当の黒幕のアジト、いかにも稼いでますといいたくなるようなデカイ屋敷に開拓者全員で乗り込む。
「逃げることは許しません」
 逃げ惑うコートの男達の前にすっと立ち塞がり、ライはその胸元に暗い色をしたクナイを光らせる。
 そしてさらにライオーネのスキルで半数は眠りだし、
「さあ、騙して奪った金品をすべて返しなさい! さもなければ手加減しませんよっ!」
「ちなみにお嬢様は、巨大なヒグマを素手で捻り伏せたツワモノです」
 嬉々として暴れるアーシャと、それを止めない執事アルセニー。
「金の代わりに肉片ばら撒くかい?」
 突然の開拓者達に裏口から即座に逃げようとしたボスの頭に、予測して裏に回っていたアーニーが銃を突き付ける。
 がくりとボスはその場に膝を着いた。

●ここに成立! 五つ星奇術団★
「本当に、申し訳ありませんでした‥‥」
 詐欺を働いていた商人は、大粒の涙を零して開拓者達に頭を下げる。
 その頬には深い皺が刻まれ、今までの苦労がしのばれる。
「いかなる理由があろうとも、犯罪は犯罪ですが‥‥致し方ないことだったのでしょう」
 主犯である黒幕たちはしかるべきところに突き出し、けれど実行犯であった詐欺商人の事は見逃すアルセニー。
 依頼人も商人達が改心すれば不問にするといっていたことだし、問題ないだろうと。
 もちろん、黒幕達からすり返られた本物の商品は取り返し、被害にあった人達に既に返してある。
 アルセニーが治療を施した病気の子供も、すぐに良くなるだろう。
「そんだけ手先器用ならマジックでコーギョーとかやりゃそれなりに稼げんじゃないの?」
 アーニーの言葉に、商人ははっとする。
「そういえば、ハトの手品も見事でしたわね」
 ライオーネも頷くと、商人の側にいた小男もこんな状況とはいえ照れて俯く。
 すり替えるのは商人の役目で、目を逸らすのが小男の手品。
 その他に市場を見張る役目の二人と品物を仕入れていたのが一人、合計五人が仲間だったようだ。
 仲間も商人と似たり寄ったりの境遇で、黒幕達から借金をしてしまい泣く泣く詐欺を働いていたとか。
「おおげさに五つ星奇術団って名前でさ。五人だしどうよ?」
 にかっと笑うアーニーに、頷く商人達。
 こうして、詐欺集団は改心して奇術団を結成!
 開拓者達は無事に今回の依頼を終えたのだった。