おばあちゃんの探し物ω
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/05/07 01:02



■オープニング本文

 それは、春うららかな昼下がり。
 ジルベリア最北領・スウィートホワイトギルド受付嬢・深緋がいつものごとく簪を磨いていた時だった。
「「「「落としたんじゃ〜」」」
 そんな声が誰も立っていないカウンターの下から響き、深緋は首をかしげる。
 しかも声は複数。
 同じ声のようなのだが……。
 深緋が立ち上がりカウンターに身を乗り出して覗き込むと、そこには7人のおばーちゃんが!
 手のひらサイズとまではいかずとも、お子様サイズ。
 それはそれはちっこいおばーちゃんが7人、同じ顔でちょこーんとちんざましましている。
「……幻覚かしらぁ?」
 春だし?
 そんなことを思わず深緋が呟いても、まぁ無理はない状況だった。
 おばーちゃん、ちっこいだけでなくみんな同じ顔なのだ。
「「「ちゃんとここにいるのじゃ〜」」」 
 7人とも一音一句違わぬ言葉を同時に口にするのはなぜなのだろう。
「7つ子は珍しいわねぇ? 売れるかしらぁ」
「「「売り飛ばすなー! わしらはこまっとるんじゃぁ〜!」」」
 暴言を吐く深緋におばーちゃんズ、怒り心頭。
 じたじたと首を振るのだが、深緋はちっともお構いなしに笑っている。
「「「おばーちゃんを探して欲しいのじゃ〜」」」
「目の前に7匹いるけどぉ?」
「「「わしらじゃないわいっ、それに匹じゃないやいっ」」」
 おばーちゃんズ、もう泣きそう。
「泣かないのよ〜? 泣いてもおばーちゃん増殖しないでしょぉ? どんなおばーちゃんを探しているのかしらぁ」
「「「……誰が泣かしとんじゃい」」」
 増殖だのなんだの完全人間扱いからかけ離れているものの、深緋がやっと依頼を聞いてくれそうな感じになって、おばーちゃんズ、涙をぬぐって説明しだす。
「「「末のいもーとがどこかに行ってしまったんじゃぁ〜」」」
「「「この町ではぐれてもーたんやぁ〜」」」
「「「いちばんちーこくて愛らしいぃんじゃ〜」」」
 しわしわの顔で7人が声をそろえて訴える。
 でもおばーちゃんの愛らしいって、ねぇ?
「あなた達7つ子じゃなくて8つ子なのねぇ。より一層価値アップぅ?」
「「「ちゃうわー! 長女が梅で、次女が松と竹で双子、四女が留で5女が帯6女が飾で三つ子で7女が桐じゃ!」」」
「覚えきれないけどぉ、一応末っ子の名前はぁ?」 
「「「末!!!」」」
 7人、声をそろえて叫ぶ。
 そんなこんなで8人目のおばーちゃん探し、開催です?


■参加者一覧
ゼロ(ia0381
20歳・男・志
喪越(ia1670
33歳・男・陰
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
不破 颯(ib0495
25歳・男・弓
熾弦(ib7860
17歳・女・巫


■リプレイ本文

●おばあちゃんを探しにいこうω
「皆が可愛がっていた末の妹がいなくなっちまったんてんなら、姉ちゃん達の心配は余りあるな。OK任せろ。この喪越様がズバッとまるっと解決してやろうじゃねぇか」
 ジルベリア最北領・スウィートホワイト。
 そのギルド受付で、喪越(ia1670)は妙にテンションが高い。
 常日頃そうなのだろうか?
 口調もそうだが見た目もとても一般的な陰陽師には見えない。
 おばーちゃんズも、なんだか疑い深いじと目。
「きっとギルドで見つけますから、泣かないでくださいね」
 えぐえぐと泣いているおばーちゃんズのどれかわからない一人を抱きかかえ、菊池 志郎(ia5584)は頭を撫でる。
 泣いているのは妹が見つからないからではなく、はっきりきっぱり鬼畜深緋にいぢめられたせいなのだが。
(はて、人間……なのでしょうか?)
 エルディン・バウアー(ib0066)は小さすぎるおばーちゃんを見て、そうゆう種族なのかと首を傾げる。
 耳も尖っていないし、尻尾も生えていないし、角もないし、瘴気も出ていないからたぶん人間。
 おそらくもともと小柄な上に歳をとり、背がまあるくなってミニミニサイズになったのだろう。
「いや〜同じ顔がこれだけ並ぶと壮観だねぇ」
 自分の背丈の半分以下というちんまいおばーちゃんズを、不破 颯(ib0495)はまじまじと見つめる。
 首を痛そうにして見上げてくるおばーちゃん達も、エルディンや喪越、志郎に抱っこされているおばーちゃんも、本当に同じ顔なのだ。
「年齢的に『迷子』というべきなのか迷うところね」
 苦笑する熾弦(ib7860)が迷うのも、まぁ、無理はない。
 平均年齢70歳超えのおばーちゃんズは間違っても迷『子』ではないから。
「とりあえず俺の分のおばーちゃんも借りとこうか」
 ゼロ(ia0381)も見分けのつかないおばーちゃんを一人、ひょいっと抱っこする。
 これでおばーちゃんは開拓者全員に一人ずつついていく事に。
「おや、一人余りますね。私がもう一人お連れしましょうか」
 エルディンがおばーちゃんを一人背負い、もう一人のおばーちゃんは深緋が用意した乳母車に乗せてみる。
 普通乳母車には幼子を乗せるものだが、ミニミニおばーちゃんなら問題なくぴったりサイズ。
 6人の開拓者に抱っこされたり背負われたりしているおばーちゃんずは泣き止んで、どことなくほっとした表情をしている。
「みんなおばーちゃん好きねぇ。いってらしゃぁい♪」
 おばーちゃんズの涙の元凶がにっこり笑顔でみんなを送り出す。


●あっちもこっちもおばーちゃんω
「まあ配る用にねぇ。ばあちゃん、ちーとばかしじっとしててくれな?」
 すぐにギルドを出なかった不破は、借りたおばーちゃんをそこらへんのテーブルの上に座らせて筆をとる。
 じっとおばーちゃんを見つめる不破。
 おばーちゃん、ぽっと頬を染める。
「こういうもんは特徴を捉えるのが大事ってね」
 ちょいちょいと深緋に用意させた数十枚の羊皮紙に、不破はおばーちゃんの似顔絵をさくさくと描いてゆく。
 その際、口だけは『ω』の猫口に変える事も忘れない。
「さぁ、準備完了。俺達も行くとしますかねぇ」
 おばーちゃんをテーブルから下ろし手を繋ぎ、もう片方の手に羊皮紙の束を抱えて不破はギルドを後にする。


「さて、どこから探したものかしらね」
 熾弦はおばーちゃんの手を引いて呟く。
 露店通りは他の仲間が行くと言っていたしと、熾弦は足を遊郭へ伸ばす。
 遊郭といっても女人禁制などではなく、華やかで艶やか、そして茶屋などもある為か男女問わず多くの人で賑わっていた。
「茶屋は何軒かあるようね。一軒一軒回っていくしかないのかしら。……あら?」
 手近の茶屋の暖簾を潜ろうとして、熾弦は引き扉に張られた張り紙に気付く。
「末おばーちゃん探しています……?」
 どうやらこの茶屋には先に不破が訪れて、手作りの張り紙を貼らせてもらったらしい。
 その証拠に茶屋の亭主が熾弦とおばーちゃんをみて、「そのおばーちゃんを探している人が」と話しかけてきた。
 もちろん、おばーちゃん違いなのだが。
「今日はおばあちゃん間違い多そうね。……っと、おばあちゃん、側を離れては駄目よ?」
 美味しそうな店の白玉ぜんざいにふらふらと熾弦の側を離れかけたおばーちゃんの手を、熾弦はすかさず引き寄せる。
 昼間とはいえ場所柄的に宜しくない輩がいてもおかしくないのだ。
 大抵の相手なら怖くはない熾弦だが、なにも油断しておばーちゃんを危険に晒す必要はない。
「食べたいならそう言って下さいな。一緒に食べましょう」
 ちっこいおばーちゃんをちょこんと椅子に座らせて、二人、お店でちょっと休憩。


「とりあえず末殿が好みそうな場所、心当たりありませんか?」
 そうおばーちゃんに尋ねるエルディンは、実はもう喪越と一緒に遊郭に来ていたり。
「きれーなねーちゃんとくんずほぐれつするんだーい!!」
 おばーちゃん探しそっちのけで心の声駄々漏れの喪越、道行く遊女達に目移りしまくり。
「どんな誘惑があろうと遊びませんからね」
 エルディンが自戒を込めて呟くが、喪越は引かない。
「いやいや、却下するにはまだ早ぇ! よく考えてもみろ。既にこのグランマーズは一度捜索を行っている。にもかかわらず見つからなかったってぇ事は、捜してるグランマは行動の自由を奪われている可能性が高ぇ。
 そこで俺はピンと来た。きっと人攫いに遭い、エッチなお店であ〜んな事やそ〜んな事を強要され……」
 エルディンを説得しつつ、その状況をまざまざと脳裏に思い浮かべる喪越。
 ―― 一人姉妹からはぐれ、町を彷徨う末おばーちゃん。
 良からぬ輩にかどわかされ、縛り上げられ、良いではないか良いではないかと囁かれながら脱がされてゆく服から見えるしわしわの肌に萎んだ胸らしきもの――
「……うげぇっ!」
「どうしました?!」
 急に道端に突っ伏して吐き上げる喪越を、エルディンは慌てて介抱する。
 無論、彼の妄想にエルディンは気付いていない。
 気付いていたらエルディンも計り知れない精神ダメージを食らった事だろう。
 合計3人のおばーちゃんズも首を傾げるばかり。
「なんちゅー精神攻撃だ……」
 ふらふらと自身の想像力に深いダメージを食らいつつ、喪越はエルディンに支えられながら色町を彷徨う。

 
「この方によく似た人で、お一人で歩いてるおばーちゃんを見かけませんでしたか?」
 ホワイティアの露店通りで、志郎は露店の店主に尋ねる。
 奇術団の公演もある為か、遊郭とはまた違った客層でこちらも大いに賑わっていた。
「なかなか一人の目撃情報は少ないな」
 志郎と共に露店を訪ねるゼロがはふーっとため息をつく。
 一店一店尋ねて回っているのだが、おばーちゃん目撃情報はある意味多すぎて困る。
「ちょっと、知り合いの櫛屋も今日は来ているらしいから、寄ってみよう」
 ゼロがふと思いついて、志郎を促す。
 露店通りは同じ店が毎日並ぶ事もあれば、フリースペースに申し込みをすれば一日単位で露店が出せるらしい。
 人ごみを掻き分け、おばあーちゃん二人と決して逸れない様にしながら大通りを抜けると、開けた広場に突き当たる。
 そこでは、五つ星奇術団による奇術公演が行われていた。
「奇術公演か、見てみたいな……って、そんな場合ではないですね」
 人だかりの出来ている広場の中央、楽しげな子供達の笑い声や盛大な拍手に志郎は心惹かれるが、ぐっと我慢しておばーちゃんを背負いなおす。
「確かここら辺に……あったあった!」
 ゼロが知り合いの櫛屋の店主を見つけ、石畳を駆け寄る。
 簡素な木のテーブルに並べられながらも色取り取り、デザインも豊富な櫛は女性ならずとも目を奪われる美しさだった。
「露店出してるって聞いたからさ、寄ってみた。いま探し人しててね、このおばーちゃん達とよく似た、でも口が猫の口になってるおばーちゃんを見てないか?」
 ゼロが志郎が背負うおばーちゃんと、自分が手を引いていたおばーちゃんを店主に指差す。
「見たのは見たが、奇術団の午前の部をちらりと覗いた時にみかけたんだよなぁ。あんまりにも小さいおばーちゃんで、家で飼ってる猫のミケとそっくりな口だったから、間違いないんだが……昼近い今はどこにいったかわからないねぇ」
 すまんなぁと言いながら、店の店主は頭を掻く。
「いやいや、助かるよ。また今度、そん時はなんか買っていくな」
 今日はこれで勘弁と、ゼロは露店で買っておいた饅頭を店主に差し入れ。


●情報交換ω
 一旦ギルドに戻った開拓者六人とおばーちゃん7人。
 ゼロが買って来た饅頭と、ギルドの無料の出涸らし風味でお茶をしつつ、情報交換。
「七人連れのおばあちゃんを探していた、一人きりのおばあちゃんがいなかったか遊郭で聞いてみたんだけど、これといって情報は得られなかったわ」
 後でギルドによる事は周知したから、もしかしたらギルドに報告が入るかもしれないけれどと、熾弦がちょっと残念そうにおばーちゃんを膝に乗せて報告。
「こっちもなー。遊郭には多めに張り紙させてもらったんだがな。これといって決定打はなかったなぁ」
 喉かわいたろ、飲みなぁといいながら不破はおばーちゃんにお茶を勧める。
 出涸らしとはいえ、ちゃんとお茶だったり。
 そしてエルディンと喪越も楽しい楽しい遊郭にいたはずなのに、なぜか二人ともげっそり。
「おぉ、神よ、時間の経過とは何と無慈悲なのでしょう……」
 青い瞳にはほんのり涙まで浮かんでいるエルディン。
 彼の身に一体なにがあったのか。
「遊郭にグランマーズはやばいぜ……」
 遠い目をする喪越。
 そんな二人に熾弦が止めを刺した。
「そういえば、二人とも『老楼郭』に入っていったのを見たけれど……」
「「その名は二度と口にしないで!!」」
 エルディンと喪越、おばーちゃんズのように異口同音で叫んだ。
 老楼郭なる遊郭で一体何があったのか。
 おばーちゃん連れで入れて『老』という名が付くのだから、きっとその手の店だったのだろう。
「そうなると、やはり唯一の情報はゼロさんのお知り合いが見かけた露店通りでしょうか」
「おばあちゃん達、末さんが欲しがってた物に心当たりはないか?」
 ゼロが隣に座るおばーちゃんに尋ねる。
 するとおばーちゃんズ、ちょっと記憶を手繰り寄せるように天井を見つめたあと、7人揃って手を叩く。
「「「簪を欲しがってたんじゃ〜」」」
「何故それを最初に教えて下さらなかったんですか」
 エルディンが困ったように尋ねると、おばーちゃんズ、「「「忘れてたんじゃ〜」」」と笑う。
「簪ね、櫛屋が簪も扱ってたら捕まえててもらえたのに」
 ゼロが残念そうに肩をすくめる。
 知り合いの櫛屋に簪も置いてあったら、確かに末おばーちゃんが立ち止まっててもおかしくはなかった。
「そうとなれば決まりね。急いで露店通りを探しなおしましょう」
 暗くなる前にと熾弦が言い、みな、大急ぎで露店通りに走り出す。 
  

●8人揃ってはい、ポーズω
「や〜すいませんねぇ。こんな見た目で、全体的に赤い感じの猫口ばあちゃん見ませんでした?」
「一番小さくて愛らしいはずなのよ」
「ここら辺で一番大きな簪店や露店はないか?」
「これだけ同じ顔があると、目撃情報はあんまりアテにならねぇ。だがプロファイリングが言っている、末グランマーはこの辺にいると!」
「小さいですからね、どこかすっぽりはまっているかも」
「人混みで超越聴覚があまり使えないようですね。末さんの声が聞こえません。……こんなににぎやかな場所なのにどこからか寝息がしているのですが」
 開拓者とおばーちゃんズ、もう全員はぐれない様にまとまって移動していた。
「寝息? そういやグランマーズ眠そうだな」
 志郎の言葉に、喪越がおばーちゃんズをみる。
 手を引かれているおばーちゃんはかろうじて起きているのだが、背負われたり乳母車に乗せてもらっているおばーちゃんは、もうエネルギー切れ寸前。
「末グランマーも露店で居眠りしちゃうようなお茶目な性格だったりしない?」
 にやりと笑う喪越。
 その言葉にはっとしたように志郎が離れた所から聞こえてくる寝息を辿る。
 全員、その後を付いていくとそこには……。
「「「末ーーーーーーーーーーーー!!!」」」
 一見ガラクタや珍しい簪が並んだ露店で一緒になって並んで眠っている末おばーちゃんの姿が!
 7人のおばーちゃん、寝ぼけ眼で猛ダッシュ!
「一瞬だけオブジェとして並んでいるかもとは思いましたが、まさか本当に並んでいるとは」
 なんという奇跡と、エルディンは神に祈りを捧げる。
 眠っていたから、みんなが探していても気付けずにいたようだ。
 そして並んでいる場所がまた絶妙だった。
 数段になっていて、一番高い場所に末は登ってそのまま眠ってしまったようだ。
 その高さは地面からほんの1m。
 だがおばーちゃんズの身長は80cm。
 目線の高さ的に末の前を通っても気付けなかったのだ。
 志郎とゼロなら気付けたかもしれないが、これもまた時の運というものだろう。
「「「やっと会えたんじゃ〜!」」」
 熾弦が眠っている末おばーちゃんを抱っこして下ろすと、7人のおばーちゃんズがぎゅうっと抱きしめる。
 露店の店主は店主で、そんなところに本物のミニミニおばーちゃんがいつの間にか眠っているなんてまさか思わず、唖然としている。
「一件落着、だな」
 帰りは人力車で帰るかなどと話しつつ。
 疲れきってる8人のおばーちゃんを開拓者みんなで抱っこするのだった。