|
■オープニング本文 ●機械の心 遺跡発見の報に、ギルドは大いに湧きかえった。 その中で、ひとりぽつんと三成は目を閉じている。元々、皆で騒いだりするのを好む性格ではない。 「まだ、出発地点です。ここからが大変ですね」 その落ち着いた一言にギルド職員が笑った。 「えぇ、内部は広大です。遺跡の探索隊を組織せねばなりません」 「もちろん。さっそく手筈をお願いします」 頷く三成。 「それに、遺跡内部の探索だけではありません。探索のバックアップ体制然り、クリノカラカミとは何か、朝廷の真意など……どれも一筋縄にはいきませんから」 遺跡内部の探索が始まる前に、遺跡の外で起こる事件への対応も必要だ。からくり異変対策調査部は、にわかに慌しさを増していった。 ●天儀大図書館 「こ……これは……っ」 天儀大図書館司書・アッ=ラティーフは自分が解読した一文に息を呑む。 もう一度、ゆっくりとその文字をたどる。 「クリノカラカミと遺跡、そしてこれは、クリノカラカミの怒りで間違いない、ような……」 朝廷図書館職員を開拓者の皆が打ち負かし、大まかなクリノカラカミについての情報を得られたのはつい先日の事。 クリノカラカミ――天儀名・繰之空神。 その情報をより一層詳しく調べようと、ラティーフは開拓者達が調べてくれた本を元にさらに範囲を広げて読み進めていただが……。 彼女が開いたページには、絵本に描かれていた繰之空神の姿を展開したかのような――手鞠のように丸い姿はそのままに、周囲に歯車を思わせる幾重ものリング、そして無機質な質感と見るものを恐怖へと陥れるその描写。 繰之空神の怒りに触れたと思わしき人々がその足元に見るも無残に横たわっているのだ。 絵本で繰之空神の姿を確認出来ていなければ、それが同じ神を描写しているなどとは思えなかった。 「精霊が、何かを関わっている……?」 なにぶん古い本に書かれており、いまとは文体が違うのだ。 完全に解読出来たとしても情報が古すぎて、いまもその情報が正しいとは限らない。 だが何とか読み解いてみたこのページに書かれていた事は、『繰之空神による怒り』。 繰之空神の御前で精霊に関するもの――おそらく精霊魔法であると思われるのだが―― を使用し、その怒りに触れて裁かれたとなっているのだ。 具体的な魔法名も裁きがどんなものであったかも、まったくわからない。 だが、人形に関連している繰之空神。 そしてその人形に深く関わっていると思われる遺跡。 遺跡を調査するに当たり、曖昧であろうともその情報を事前に入手しておかねば、開拓者達にこの本に描かれているような繰之空神の怒りが発動してしまうのではないか……。 ラティーフは震える手で読み進めるが、一人では読み解ける内容も時間も限られている。 「わたしだけでは、調べきれないのです……」 ラティーフは本を閉じ、立ち上がる。 開拓者ばかりを頼ってはいけない事は、重々承知している。 だが、遺跡調査に向かう開拓者達に未知の危険が迫っているかもしれないのだ。 繰之空神の怒りについてもだが、もう一冊の本に書かれていた内容も遺跡と深く関わりがあるようなのだ。 繰之空神の周囲に描かれていた歯車。 それとよく似た歯車と時計が描かれており、その横の文には『古代文明の遺跡』として明記されているのだ。 無関係とは思い難い。 ラティーフは不安に駆られながら急ぎ開拓者ギルドに向かうのだった。 |
■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
オラース・カノーヴァ(ib0141)
29歳・男・魔
フレイア(ib0257)
28歳・女・魔
无(ib1198)
18歳・男・陰
ジレディア(ib3828)
15歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●クリノカラカミ調査だぞ♪ 「クリノカラカミクリノカラカミ……カラクリノカミ♪」 ご機嫌に鼻歌を歌いながら、天河 ふしぎ(ia1037)は最初からハイテンション。 よほどからくりが好きらしい。 男の娘と評してしまいたくなる程に愛らしい少女のような容姿で歌われると、しんと静まり返りすぎている図書館も明るく華やぐ。 「手段は選ばん。だが古書は選ばしてもらおうか」 一見すると不機嫌のように見えるオラース・カノーヴァ(ib0141)は、下がり気味の帽子のつばを指で弾いて押し上げる。 くわえた煙管から煙が立ち上った。 「ラティーフさんはお久しぶりですね。そういえば久々津神社で件の歯車は直に見てますわ」 フレイア(ib0257)は図書館司書のラティーフとも顔見知りなのだが、今回のクリノカラカミの歯車を直接見ているらしい。 それなら、書籍調査時にただの歯車なのかそれともクリノカラカミ関連なのか。 違いがすぐに判断できるかもしれない。 「わからないことだらけですが、遺跡には開拓者が何人も入るのですから、少しでも危険を減らせるようにしないといけませんね」 温和な菊池 志郎(ia5584)はこれから起こるであろう遺跡の危険に心を巡らせる。 「ジレディアといいます。はじめまして。では早速調査に入りましょう」 ジレディア(ib3828)の挨拶はずいぶんと簡素だ。 もともと年齢よりもずっと大人びてクールだが、クリノカラカミへ強い興味が彼女をそうさせたのだろう。 足早に関連書籍の山に向かう彼女はもう心ここにあらずといった様子だ。 「さて点を線で繋いで紐解きますかね」 懐に入れた自身と同じ名の管狐・ナイに无(ib1198)は呟いて、蒼い着物の上からそっと撫ぜた。 ●それぞれの調査方法 「ラティーフ君、まず最初に絵本に描かれていたクリノカラカミの姿と、君が解読したページのクリノカラカミの姿をよく見せてもらえるかな」 天河に言われるままに、ラティーフは二つの本を天河に手渡す。 「名前からするとカラクリ伝播についても何か関係していそうだよね」 二つのイラストをまじまじと見比べながら、天河は周囲にからくりが描かれている事にも目を留める。 「ふむ、この本も読んでみたまえ」 オラースがおもむろに一冊の本を手に取り、天河に渡す。 クリノカラカミ関連をとりあえず集めた本棚から選ばれたそれは、見た目は他の本となんら違いは無い様なのだが……。 「その本は一体……?」 天河は素直に受け取りつつも首を傾げる。 だが渡した当の本人は、 「知らん」 と一言。 「えぇっと?」 困惑気味の天河にオラースは「直感が告げたのだ」と言い残し、煙管を吹かしながら図書館の奥に消えていく。 「あっ、これは歴史書ですね。丁度僕が調べたいと思っていた分だ!」 渡された本をよく見て、天河は驚きの声を上げる。 クリノカラカミという名前からしてカラクリ伝播に深く関わっていると感じていた天河は、三冊の本を手にとって席につく。 (陰陽術にもあればいいのですがね……) 无は自身の持つスキルに軽くため息をつく。 陰陽師たる彼の持つスキルは決してため息をつくようなものではなく、誇れるものなのだが……。 その隣を見ると彼のため息の理由も察しがつく。 ジレディアが真剣な表情で大量の書籍に一冊ずつ手をかざし、フィフロスを用いて重要文書の隠れたページを探し当てていた。 だが、判るのはどのページに必要としている文書があるかだけ。 その内容が古代文字を用いて書かれているならば、やはりそこからの解読作業はスキルだけではままならない。 また、書籍の数もある程度は絞られているとはいえ、まだまだ多い。 ジレディアと同じくフィフロスを用いてフレイアも次々と検索をかけているのだが、解読は即座にとはいかないようだ。 「古代文字の辞書なら此方に三種類ほどありますね」 志郎がクリノカラカミ関連書籍とは別の所から辞書を携えてくる。 クリノカラカミだけでなく、古代文字に関するものを探してくれていたようだ。 「それがあれば解読しやすいね。古代文字で『鎖』はこの形か」 无は志郎から一冊借りて、解読の手がかりとなるであろう『鎖』、『遺跡』、『扉』、そして『指し示す針』の文字を確かめる。 フレイアとジレディアがページを次々と見つけてゆき、オラースはもう、なんというか野生のカンが凄まじい。 彼が何気なく本棚から手に取り持ってきた本がフレイヤの検索で5ページにも及ぶ範囲で反応を示したり、古代文字だけでなく今よりは少し古い、けれど辞書を使わずとも何とか読める状態の情報だったり。 「解読も任せるがいい」 楽しげに煙管を揺らし、オラースは眼鏡の奥のいたずらっ子な瞳をウィンク。 ●ちょっと休憩 「紅茶やお菓子を持ってきたので、こちらで一休みしましょう」 解読作業も半ばにさしかかった頃、志郎がそう提案する。 その手には紅茶の缶と、ジルベリアの菓子。 袋から取り出されたワッフルから甘い香りが漂った。 「奇遇ですね。私も同じ事を考えていましたの」 そういうフレイアの手にも紅茶の缶が。 「どうやら考える事はみな一緒だな」 苦笑する无の手にも紅茶はもちろんのこと、緑茶にお菓子、そしてちゃっかりヴォトカまで。 「お酒は禁止ですよ〜?」と止めるラティーフに、无は「持っていただけだよ」と笑う。 懐の中の尾無し狐がくすりと笑う気配がした。 「そんな時間があるのなら、一文字でも多く解読させて下さい」 ジレディアは次々と現れる重要文書に紅茶どころではないようだ。 「ずっと根をつめていても集中力が切れてしまいますから、適度な休憩は必要な事ですよ? 情報交換を兼ねれば、時間を無駄にしていないと言えると思いますしね」 志郎が椅子を引いてジレディアを促すと、彼女も「それなら……」とテーブルに着く。 「鎖に繋がれた扉を開けると新しい儀が……って安易過ぎるでしょうか」 淹れたてのお茶にそっと口をつけ、志郎はそんな事をいう。 扉の先に新しい儀が広がっていたら、それはそれで素敵かもしれない。 「扉って、新しい世界に繋がっているイメージだよね♪ 僕はね、歯車が一番興味深かったんだ。歯車時計の絵、確かに奇妙な姿だけど、見ているとなんかワクワクしてくるんだ。……この歯車で一体何を動かすんだろう。飾りじゃないなら歯車が付いている事にも、絶対意味があると思うから」 ワッフルにぱくつきながら、天河はにこっと笑う。 「歯車時計の絵図は何種類かあるようですが、その内の時間を指し示しているであろう文書が先ほど見つかりましたわ。解読にはさほど時間はかからないでしょう」 フレイアは皆の紅茶を入れて回る。 「クリノカラカミは人形を好んでいたようですね。異教の神という事以外はその風貌しか伝わっていないようですが」 ジレディアはクリノカラカミ自身にも深い興味があるらしい。 「そういえば、眼鏡かけてる人が多いね? 僕はゴーグルだけど♪」 フレイアに二杯目を注いで貰った紅茶を飲みながら、天河がふとそんな事に気づく。 言われて皆が周囲を見渡すと、オラースと无、ジレディア、そしてラティーフも合わせれば4人も眼鏡をかけている。 「ふむ。興味深いな」 オラースが呟いた次の瞬間、 「「「あっ?!」」」 彼の煙管から灰が落ち、紅茶の茶葉に燃え移った! 「案ずるな、いつでも戦闘態勢だ。……吹雪よ、かの余分な火の粉を消し去り給え!」 オラースから吹雪が発され、一瞬にして紅茶の火の粉は消え去った。 「……くしゅんっ」 ついでに誰かが風邪を引いたようだ。 ●判った事は…… 「大分情報が確定してきたようですね……くしゅんっ」 ラティーフが皆で解読し終えた本の山を見、感慨深げに呟く。 「『失敗は二度は許されない』……これは怒りの発動を意味するものかもしれないね。遺跡の内部で、怒りと遺跡と歯車を繋げ、術により作動する装置の作用が怒り。正しい時間を正しい位置に針と変換。扉と鎖に文字より伝達装置と読み取れるな」 解読し終えた本を片手に、无は今まで出ている情報を元にそう判断する。 「歯車時計の絵図と、解読結果。これらから導き出される答えは『6時』ですわ」 フレイアが優雅に扇子を煽る。 「鎖に刻まれた文字が重要であるようです。遺跡の内部に鎖があり、『繰』の文字が描かれたものが空から降りてきている、と解読出来ました」 空というのが天井である可能性も高いと志郎は言う。 「膨大な書物の中に埋まった、ひとかけらの真実、僕はその宝物を見つけたよ。『歯車は右に回せ』だ♪」 歯車の謎が解け、ご機嫌な天河。 「感性とは、時として重要かつ危険極まりないものをもたらすものだ。『止まった時計は琥珀を好む』この言葉には深い意味がある」 火を付け直した煙管をふかし、オラースは深く頷く。 「これは、確かな形を言い表しているのかどうか、不明でしたが……『時計の先に隠されしものは、左の後は右へ』左と右を選ぶのではなく、左の後が右というのが興味深いです」 最後にジレディアが調査結果を報告する。 失敗は二度許されず、時計は6時に、天からの鎖を正しく選び、時を止めた時計には琥珀を、歯車は右に、そして左の後は右へ。 これが遺跡のどこかの謎を、そして調査する開拓者達の危険を減らす事になるのだろうか? それは、実際に遺跡を調べるまでは判らない。 なにぶん古代の事、全てが未知なのだから。 だがラティーフ一人では到底解けなかった謎だった。 「皆様、今回は本当にありがとうございました。この調査報告が、皆様の危険を必ずや減らす事が出来ると確信します〜」 この場で得られた情報は遺跡に向かう開拓者達へと広く公開すべく、彼女はみんなと一緒に開拓者ギルドへと結果報告へ行くのだった。 |