【人形】死屍殲滅!
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/04/23 05:43



■オープニング本文

●機械の心
 遺跡発見の報に、ギルドは大いに湧きかえった。
 その中で、ひとりぽつんと三成は目を閉じている。元々、皆で騒いだりするのを好む性格ではない。
「まだ、出発地点です。ここからが大変ですね」
 その落ち着いた一言にギルド職員が笑った。
「えぇ、内部は広大です。遺跡の探索隊を組織せねばなりません」
「もちろん。さっそく手筈をお願いします」
 頷く三成。
「それに、遺跡内部の探索だけではありません。探索のバックアップ体制然り、クリノカラカミとは何か、朝廷の真意など……どれも一筋縄にはいきませんから」
 遺跡内部の探索が始まる前に、遺跡の外で起こる事件への対応も必要だ。からくり異変対策調査部は、にわかに慌しさを増していった。


●アヤカシ、襲来!
 遺跡を精密に調査する為に設けられた野営地の設置付近。
 朝廷の動きに感づいた上級アヤカシによる妨害行為――大量のアヤカシ投与が始まっていた。
「敵、凡そ数百、凄まじい数のアヤカシがこちらに攻めてきています!」
 常に空中からドラゴンで周囲を監視していた偵察部隊が遥か上空から開拓者の下へ降りてきて叫ぶ。
「北西から屍王率いる死霊集団です!」
 駿竜から大地に降り立ち、偵察部隊の青年は今しがた見た光景を信じられないというように首を振る。
「一刻も早く、進撃を止めてください……っ」
 青年は出来る限り詳しく、敵の詳細を説明しだす。
 事態を把握した開拓者達は即座に二部隊を編成し、これに対応するのだった。


◆戦闘地域◆
 遺跡のある森を出て北西。
 見通しの良く開けた場所です。
 大地には雑草が多少生えていますが、身を隠せるような岩や木々は見当たりません。
 身を隠す為には野営地に少し近づき、森の中で敵と対峙する必要があります。
 北西の森は高さ5m程の常緑樹が鬱蒼と聳え立っています。
 幹の太さはまちまちで、人の腕ほどの細さのものから大人が数人がかりで抱える大樹まであります。
 木と木の生えてる間隔もまちまちで、人一人通るのがやっとの所もあれば、二人以上余裕で通れる場所もあります。
 所々雑草に埋もれた街道の名残があります。
 街道は南西から北西に向かって森を二分するように走っています。
 但し、森を抜けたところにあるような大きく開けた場所はありません。
 また、この場所の木々は少し乾燥しています。
 燃えやすい可能性が高いです。
 北西の森の側に泉や川はなく、大量の水は野営設置地域まで戻らないと手に入りません。



■参加者一覧
相川・勝一(ia0675
12歳・男・サ
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
レヴェリー・ルナクロス(ia9985
20歳・女・騎
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
五十君 晴臣(ib1730
21歳・男・陰


■リプレイ本文

●灼熱の大地
 乾いた大地に、死臭が強く立ち込める。
 開拓者六人の視界が紫の瘴気にけぶった。
 屍王の不死の霧が辺り一体に充満しているのだろう。
 霧の中心に屍王、そして五体の死竜。
「へへっ……今回のはなんか手強そうな相手だぜ!」
 楽しげなルオウ(ia2445)は上級開拓者たる余裕か。
 これ程の相手を前にしても、少したりとも臆する事がない。
「死力を尽くしましょう。其の為に、私は此処に居るのだから」
 仮面の羽飾りを抑え、レヴェリー・ルナクロス(ia9985)は強く自分に言い聞かせる。
 レヴェリー達の遥か背後には、大量の死軍を相手にする仲間達が戦っている。
 彼女達が目の前の屍王軍に負けた時、それは、死軍と戦う仲間達の死をも意味する。
「最近戦いに出てなくて、久しぶりに暴れようかと……いやぁ、これはなかなか壮観ですね」
 軽快な口調はいつものままに、聖職者の微笑を浮かべたエルディン・バウアー(ib0066)の青い瞳は笑っていない。
 古神書を携え、聖杖を先に輝く白い宝珠を掲げる。
(声はどこまで届くのかな)
 五十君 晴臣(ib1730)は注意深く周囲を見渡す。
 位置取りはもちろんの事、たった一度のミスが全滅に繋がりかねない。
「ま、好き好んで血を流すのが開拓者ってね」
 死竜が吼え、竜哉(ia8037)が構える。
「なかなか大変そうな相手ばっかりですけど頑張りましょうっ。相川勝一……参る!」
 もう一人の仮面のサムライ、相川・勝一(ia0675)の穂先が強く煌いた。


●不死竜
「まずは君だよ、動きを封じさせてもらう」
 晴臣の呪縛符が空を舞い、飛翔する青い死竜を絡め取る。
 激しく畝ってもがくが、青い死竜は呪縛符を振りほどけない。
 不死の霧の中、抵抗も回避も何もかもが強化されている状態でも、もともとの抵抗力がそれほど高くないのだろう。
「この聖なる力からは逃れられません。……光の矢よ。アヤカシを射落とせ!」
 晴臣の捕らえた死竜にエルディンの光の矢が放たれる。
 光の矢は空に逃げるはずの死竜を追尾し、空から貫き、そのまま強く地面に叩きつける。
 だがその一撃で倒れるような相手ではない。
 離れた距離を保っていたエルディンと晴臣目掛け、一気に飛翔、そして腐るその口から瘴気を吐き出した!
 晴臣の放つ斬撃符がその首元を切りつけるが瘴気の放出は止まらない。
 濃すぎる瘴気はエルディンと晴臣の身体を蝕んだ。
「ちょこまか逃げてんじゃねえええ!」
 ルオウが吼えて、その声は咆哮となって死竜に届く。
 上空から一気にエルディンと晴臣に攻撃を仕掛けていた死竜は、うねりながらその向きを変えてルオウに襲いくるっ!
「いっくぜー!」
 だがルオウはその牙に怯みもせずに踏み込みその顎に蹴りを入れ、殲刀を振り下ろす。
 水の如く澄み渡った刀身が、死竜の体液で濁った。
 びちびちと羽をもがれて大地を這う死竜は、それでもまだ素早い動きを保持している。
 自らの羽を消し去ったルオウに敵意も顕わに飛び掛った。
「そんな攻撃あたらねぇし!」
 直線的な攻撃をルオウはひらりとかわす。
 だが次の瞬間、晴臣が叫んだ。
「ルオウ、避けて!」
 咄嗟の反射神経でルオウは横飛びに死竜の正面から回避し、直後、背後からルオウがいた場所に紫色の光の矢が通り過ぎた。
 屍王の指から放たれたそれは、死竜を横切り、虚空へと消えてゆく。
 常に周囲を見ていた晴臣だからこそ、屍王の掲げられた指先がルオウに狙いを定めるのが判ったのだ。
 一匹ずつ処理出来るならばそれほど脅威でない死竜には、屍王という後ろ盾があるのだ。
 クツクツと屍王の嗤い声が響く。
「あっぶねぇ、サンキュっ!」
「やはり一筋縄ではいきませんね」
 ルオウが晴臣に礼を言いながら死竜に再び剣を振り下ろし、エルディンが光の矢を放つ。


「なっ?!」
 死竜に切り込みにいった相川は叫ぶ。
 身動きが急に取れなくなったのだ。
 その足には地中から突如現れた骸骨の顎が深く食い込み、相川の動きを止めていた。
 戦いが始まるより早く、屍王による足罠が地中に仕掛けられていたのだ。
 痛みはないが相川がグングニルを激しく骸骨の顎に突き立てても外れない。
 一度発動してしまったそれは、効果が切れるまで消える事が無い。
「罠か……」
 竜哉が心の奥底で懸念していた事が現実となった。
 屍王、そして死竜と一定の距離を保ちながら、竜哉とそしてレヴェリーが相川の側に守りに回る。
 今の相川はどれほど力が在ろうとも、動けない的なのだ。
「私達の役目を果たさないといけないわ……!!」
 レヴェリーは自らの対峙する死竜に向き合う。
 彼女を狙うのは黒竜。
 防御特化型だ。
 竜哉と相川が狙ったのがそれなのだから、相川を守る形で立ち塞がるレヴェリーにも当然、黒竜が牙を向く。
 そして青竜にルオウとエルディン、そして晴臣が立ち向かっているのだから、もう一匹の黒竜、そして二体の赤竜、さらに屍王は自由だった。
 赤竜が二体、同時に低く唸りだす。
 だがそれをあえて無視して、竜哉は向かって来た黒竜に全力で切り込んだ。
 まだ距離のあった黒竜に竜哉の一撃は一瞬にして間合いを詰めてその強化された腹に深いダメージを突き突ける!
 ぼふっと濁った音と共に黒竜の腐った腹に大穴が開き、その背後に臓器が飛び散った。
 間合いを詰めた先に足罠も術罠も無かったのは幸運だろう。
 だが大きな隙の出来た竜哉に即座に黒竜の反撃!
 巨大な尻尾が鉄板の如く横に薙ぎ払われ、大技を決めた後の彼に避ける術はなく、屈辱にも地面に吹き飛ばされた。
 屍王の指先から瘴気弾が放たれる。
 それは、動けない相川を的確に狙い定めた一撃。
「彼を狙わせはしないわ!」
 だが相川を庇うべくその背に守っていたレヴェリーは盾でそれを防ぎきる。
 彼女のオーラで強化されたその盾の前に、屍王の瘴気弾は霧散した。
 赤竜が二体、再び低く唸る。
 

「止めないわけにはいかないよ」
 晴臣の斬撃符が赤竜の首元を斬り付ける。
 青竜と対峙していた晴臣のその耳に、赤竜の唸り声は確かに届いていた。
 だからその恐るべき火炎放射を止めるべく、晴臣は青竜から一旦離れて赤竜に向かったのだ。
 晴臣は斬撃符で執拗に赤竜の首を狙い、その首を跳ねた。
 死竜なのだから首を跳ねても動き続けるのだが、ブレスを吐く口が無く、敵を食い千切る牙も失えばその攻撃力は無しに等しい。
 だが一体の唸り声は止められたものの、もう一体までは不可能だった。
 残る一体が低く唸った。
 三度目の唸りだ。
 即座に晴臣は周囲に生えていた草を斬撃符で刈り飛ばす。
 そしてエルディンも赤竜に立ち向かう!
「凍てつく神の息吹よ、邪悪なる炎を吹き消せ!」
 青竜をルオウに任せ、エルディンは赤竜から放たれた火炎放射を己のブリザーストームで相殺を狙う。
 白く輝く杖から迸る猛吹雪は、赤竜の火炎とぶつかり合い、押し切った!
 火炎を消した猛吹雪が二体の赤竜に降り注ぎ、首を落とされていた赤竜は瘴気へと還る。
 だが一瞬たりとも安心など出来はしない。
 屍王の周囲に紫の霧が立ち込め、次の瞬間、赤竜が再び姿を現した。
 首を落とされたままの姿で!
「だー鬱陶しいっ! きっちり死んどけよーーー!!」
 生き返った赤竜にルオウは髪を掻き毟る勢いで怒り、空に逃げる事の出来ない瀕死の青竜に止めを刺した。
 無論、その青竜も屍王の手により蘇るのだから性質が悪い。
「飛んで逃げさせはしないぞ! グングニルはただの槍ではないことを見せてやる。落ちるがいい……!」
 拘束の解けた相川が己の槍を黒竜へと投げ放つ。
 飛べない死竜は大地に這い蹲りながら瘴気ブレスを吐き続ける。
「へっへー、だ。こっち来いよ!」
 ルオウがやけくそ気味に咆哮を使い、屍王から死竜達を引き離そうと試みる。
「倒れてしまっては元も子もありません、お供いたしましょう」
 駆けるルオウにエルディンが追従する。


●屍王
 全員、限界だった。
 気力も、体力も。
 死竜は何度倒しても蘇り、屍王は悠然とそこに佇んでいるのだ。
 ルオウが強引に引き離せた死竜は二体。
 その二体はエルディンと協力して倒したものの、蘇生はされなかった。
 遥か遠くに離れていた距離が関係していたのだろうか?
 分からない。
 だがそれでも未来を紡ぐ為に、開拓者達は大地に倒れ伏しそうになる身体に力を込める。
「ピンチなときほど不敵に笑えって言いませんか?」
 何度目かの梵露丸を飲み干しながら、エルディンは疲労の色濃い顔でそれでも不敵に屍王に笑う。
「浄化しても蘇生するとはね……」
 背後から襲いこようとした青竜の攻撃を、竜哉は大槍で受け流す。
 羽をもがれたまま蘇生された青竜の牙を、受け流した大槍でくるりと反転させ、その牙を薙ぎ払う。
 飛べもせず牙すら砕かれた青竜は、吐き続けていた瘴気ブレスもなく、もはや敵ではなかった。
 復活され続ける死竜だが、だが確実に、開拓者達のダメージは死竜に、そして屍王に及んでいた。
「手強いわね ――だけど、まだまだ……!!」
 死竜に受け続けた怪我は全てエルディンが回復し、レヴェリーはブレードファンを屍王に放つ。
 避けもせずに悠然とその身体で受け止めた屍王の肩が殺げた。
 クツクツと嗤う屍王の異変は、その直後の事。
「回復出来ない様だね? 度重なる不死の霧、そして死者蘇生。屍王にも限界があったわけだ」
 晴臣から屍王へ、呪縛符が放たれる。
 何撃を浴びせても回復し続けた屍王は、その様々な強大すぎる能力ゆえに消費練力も高かったのだ。
 得意の消耗戦を開拓者達に強いた心算が、いつの間にか自身が消費させられている事に気付けなかった。
 だが晴臣の呪符は屍王を絡め取れない。
 練力が底を尽きたとしても、元々のステータスが高すぎるのだ。
「やはり強いな……だが皆で力を合わせればこの程度……! ここで貴様を倒し損ねるわけにはいかないのだ!」
 大人しく、決して怒ることのない相川は、けれどその神槍を迷う事無く屍王に突き立てる。
 赤竜が低く唸る。
「滅びなさい。貴方は此処に居てはいけない存在よ!!」
 火炎放射を撃つより早く、レヴェリーのブレードファンが死竜の首を跳ねる。
 もう蘇ることの出来ない死竜はそのまま今度こそ地に還る。
 そして屍王が悪足掻きとも取れる瘴気弾を二撃、放った。
 残り少ない練力から放たれるそれは、ルオウの足を貫いた。
「神よ、邪悪なるモノ達に立ち向かう我らに加護を! レ・リカル!」
 エルディンの祈りがルオウを包み、一瞬にしてその傷は消え去った。


●死屍殲滅!
「此の侭押し切りましょう!!」
 レヴェリーが魔槍に持ち替える。
 相川、竜哉、と共に屍王を取り囲み、その穂先は一分たりとも狂う事無く屍王を狙いつける。
 晴臣の式が僅かに残る屍王の瘴気を食い尽くした。
「花は散り、肉は腐る。塵から生まれたものは塵として大地に還るのが理なのさ」
 竜哉の呟きと共に、屍王に向けられていた全ての槍は纏うぼろぼろのローブごと深く屍王を貫いた。
「こいつで決めるっ! 『四光閃』っ!!」
 ルオウが叫び、オリジナルの技名をつけたそれは殲刀での渾身の一撃!
 屍王は何かを掴む様に手を天に伸ばし、そして瘴気へと還って逝く。
「回復は出来ませんけど、包帯まくくらいはしておかないと」
「……ふぅ〜……如何にか、終わったかしら?」
 怪我人いませんか〜と相川が声をかけ、レヴェリーはその場で槍にもたれ掛かるように膝を着く。
 そして竜哉は、弔えなかった竜達に祈りを捧げる。
 瘴気となって消えていった死竜達は土に埋めてあげる事は出来ずとも、その魂の安寧を祈る事は出来るから。
 乾いた大地に風が吹く。
 その風には、もう死臭は残っていなかった。