【人形】死屍撃破!
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/04/20 06:04



■オープニング本文

●機械の心
 遺跡発見の報に、ギルドは大いに湧きかえった。
 その中で、ひとりぽつんと三成は目を閉じている。元々、皆で騒いだりするのを好む性格ではない。
「まだ、出発地点です。ここからが大変ですね」
 その落ち着いた一言にギルド職員が笑った。
「えぇ、内部は広大です。遺跡の探索隊を組織せねばなりません」
「もちろん。さっそく手筈をお願いします」
 頷く三成。
「それに、遺跡内部の探索だけではありません。探索のバックアップ体制然り、クリノカラカミとは何か、朝廷の真意など……どれも一筋縄にはいきませんから」
 遺跡内部の探索が始まる前に、遺跡の外で起こる事件への対応も必要だ。からくり異変対策調査部は、にわかに慌しさを増していった。


●アヤカシ、襲来!
 遺跡を精密に調査する為に設けられた野営地の設置付近。
 朝廷の動きに感づいた上級アヤカシによる妨害行為――大量のアヤカシ投与が始まっていた。
「敵、凡そ数百、凄まじい数のアヤカシがこちらに攻めてきています!」
 常に空中からドラゴンで周囲を監視していた偵察部隊が遥か上空から開拓者の下へ降りてきて叫ぶ。
「北西から屍王率いる死霊集団です!」
 駿竜から大地に降り立ち、偵察部隊の青年は今しがた見た光景を信じられないというように首を振る。
「一刻も早く、進撃を止めてください……っ」
 青年は出来る限り詳しく、敵の詳細を説明しだす。
 状況を把握した開拓者達は二部隊に分かれて即座にこれに対応するのだった。



★★★★★ 最大注意! ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 先発隊の奥には中級アヤカシがいます。
 ですが皆様の任務は別働隊が中級アヤカシに専念できるよう、先発隊である『屍人』『食屍鬼』『屍鬼』の撃破となります。
 中級アヤカシは別働隊が撃破に向かっています。
 もし、任務を無視して中級アヤカシに向かった場合、戦力減により先発隊討伐作戦に重大な悪影響が出る可能性があります。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


■参加者一覧
ウィンストン・エリニー(ib0024
45歳・男・騎
クリスティア・クロイツ(ib5414
18歳・女・砲
高崎・朱音(ib5430
10歳・女・砲
破軍(ib8103
19歳・男・サ
月雲 左京(ib8108
18歳・女・サ
片耳(ib9223
20歳・女・ジ


■リプレイ本文

●死屍の軍団
 野営地から北西の森を抜け、開けた大地に開拓者達は立ち並ぶ。
「何と哀れで汚らわしき死霊の群れ……此れは早急に滅しませんと」
 クリスティア・クロイツ(ib5414)の眼前には、大地を覆い尽くさんばかりの死軍の群れが迫り来ていた。
「見渡す限りの敵というのも中々壮大……でもありませんか。さっさとご退場して貰う事にしましょう」
 乾いた大地に風が吹く度、死臭が辺りに広がり、片耳(ib9223)の敏感な鼻を強く刺激した。
「アヤカシにとり痛い腹を探られているのであれば、成し遂げさせる為にも撃退せねばなろうな」
 頭を垂れてウィンストン・エリニー(ib0024)がそう呟くのは、死者への礼儀か。
 蠢く死軍はもはや思考能力というものを感じさせない出で立ちだった。
「ふん……どいつもこいつも汚ネェツラぶら下げた団体が来たもんだな……」
 口ではそう言うものの、破軍(ib8103)の瞳にはどこか悲しげな色が浮かんでいる。
 今彼らの目の前に迫りくるアヤカシ達は、元は死者。
 無理やり現世に蘇らせられた悲しき死屍軍。
「獣以下のその様なんと惨たらしく、そしてなんと浅ましい……全て無へと還しましょう。貴方の居場所は此処に在ず。常闇に、お帰り下さいませ」
 月雲 左京(ib8108)は口元を隠す手鞠を着物の袖に隠し、破軍に寄り添う。
「さて、我ら小隊として力を見せるにはもってこいな状況じゃの」
 この死軍を前にしても、その余裕は決して消えることのない高崎・朱音(ib5430)は、自らの背丈の二倍はゆうにある魔槍砲「アブス」を背負っている。
 常日頃小型のマスケットを愛用していた彼女だが、小隊『千響衆』のクリスティアと連携する為のようだ。
「……神よ。如何か此の彷徨える者共に、お慈悲を与え下さいませ」
 クリスティアの願いは果たして神に届くのか。

 ―― 百数に及ぶ死軍の群れは、もう、すぐそこまで来ていた。 
 

●開幕砲撃!
「我らの砲撃に薙ぎ払われたい者から前に出てくるがよいわ! ……と、アヤカシに言っても無駄かの」
 楽しげに笑う朱音の艶やかな黒い猫耳に、乾いた風の音と死軍の呻きが届く。
 そしてクリスティアはその緑の双眸を閉じ、死十字を掲げて祈りを捧げる。
 二人は決してお互いの声の届かない場所にいながら、呼吸を一つに合わせた。
 幾重もの戦場を共に戦ってきた小隊仲間としての絆が二人を繋ぐ。
 乾いた大地を交差するように、二人は死軍に魔砲を向けた。
「……では、参りますわ。全ては神の名の下に……」
 祈りを捧げ終えたクリスティアの呟きが全ての合図。
 その緑の瞳がゆっくりと開かれ、死軍への銃撃の鎮魂歌が放たれた!
 朱音とクリスティア、二人の魔砲から大地を揺るがす眩い光が三度に渡り迸り、光が交差する中全てのアヤカシが大地へと還って逝く。
「称号の意味、今こそ示させて頂きますわ―― 此れは、神罰ですの!」
 本来土へと還るはずだった穢れなき魂を汚し、無理やり現世へと留めて苦しめし瘴気。
 それをあるべき姿へと還したクリスティアのマスケッターコートが翻る。
「壮観じゃな」
 朱音とクリスティアの砲撃は余す事無く死軍を捕らえ、一瞬にして大半を消し去った。
 砲撃を耐え抜いたのは運よく射線を逃れたものと耐久力の高い食屍鬼、そして屍鬼。
「この剣で必ずや死軍の進撃を食い止め、意図を挫くものであろうな」
 先手必勝。
 砲撃の成功を確認し、ウィンストンはヴォストークに祈りを捧げる。
 そして砲撃までの間に十分に己の集中力を極限まで高めた片耳が戦場に躍り出る!


●混戦
 破軍と右京は砲撃が交差した地点へと走りこむ。
「月雲が夜叉、左京。お相手……致します」
 死軍の残党を前に、左京の狼を思わせる咆哮が大地に染み渡る。
 思考能力の低い死軍は呼ばれるままに左京にずるりと進路を変えた。
「さぁて……祭りを始めるか……」
 左京に次いで、破軍も咆哮をあげる。
 背中合わせの二人に屍軍がより一層ぐっと引き寄せられる。
 破軍は鍛え抜いた魔剣を構えた。
 己が瞳を写したかのような赤い刀身は、早く生贄を遣せといわんばかり。
 蠢くだけの屍人が怒りをもって破軍に襲い来る!
「呻くな……」
 ぼそりと呟き、直後、破軍は屍人に向かって大きく足を踏み込み、手にした魔剣を全力で突き放つ!
 屍人の大きく腐り落ちた顎が仰け反り、痛みを感じぬ胸には魔剣に抉られた大穴が開き、腐臭を放つその身はぐじゅりとその場に崩れ落ちて瘴気へと溶けて逝く。
 だがそれで終わる死軍ならば手間はかからない。
 数の多さ。
 多勢に無勢はいまだ変わる事無く破軍の背に向かって食屍鬼が飛び掛る!
「後ろが、空いてるとお思いでしょうか?」
 だがそんな食屍鬼を黒と緋色の異なる瞳で冷たくみつめ、左京は迷う事無く錬力を纏わせた火焔で切り込む。
 左京の繰り出した太刀はまごう事無く食屍鬼を捕らえ、横薙ぎに切り払った。
 しかし食屍鬼は地面に叩きつけられようとも何も感じぬのか、即座に左京に飛び掛り、その細い首をへし折るかの如く掴み掛かる!
「チビ助が手間を掛けさせるな……」
 破軍が左京の危機に気づかぬ訳がなく、振り向きざまに魔剣で食屍鬼を切り裂いた。
 生前の人を思わせる苦悩と苦痛で顔を歪ませ、断末魔の叫びを残してそれは左京の前から消え去った。
「相も変わらず名も覚えれぬ鳥頭で御座いましょうか」
 チビ助、と呼ばれた事にツンと澄ます左京は、けれどそれは心底破軍を信頼しているからこそ。
 破軍と左京、互いがお互いの力量を認め信じ合う。
 二人の連携の前に、死角は無かった。
 

●死屍撃破!
「新人の僕でも何とかできそうなのは貴方達位ですから……他の皆さんの迷惑にならない様に、さっさと消えてくださいね?」
 クリスティアと朱音の砲撃、そして死軍の中心で息つく間も無く戦い続ける破軍と左京。
 彼女彼らに乱された屍人に片耳は踊り舞う。
 白いヴェールをなびかせて軽やかなステップを踏む片耳を、愚鈍な屍人が捕らえる事など出来はしない。
 拳に巻いた神布は伊達ではなく、屍人を殴る度に大地に軽快な音が鳴り響く。
「この渾身の一撃はそなたにおくるべき物であろうな」
 フックカトラスを構えた屍鬼へ、ウィンストンはヴォストークを構える。
 知能の低い烏合の衆に見え、その実、きちんと指揮官が存在する事をウィンストンは見抜いていた。
 フックカトラスを持つ屍鬼は二体。
 その内の一体、腐りながらも人の姿を保っていたソレこそこの死軍のリーダー。
 ウィンストンは迷う事無く屍鬼に渾身の一撃を持ってヴォストークを腹目掛けて突き立て、そのまま横に振り払う。
 だがその腐食した外見からは想像もつかぬ程に無駄に知恵を持った屍鬼は、ヴォストークに串刺しにされた己の腹を見てニヤリと笑う。
 振り払ったはずのヴォストークは、屍鬼の左腕にがちりと捕まれその腹に留まっているのだ。
「ウゴケマイ……?」
 ざらざらと耳障りな雑音交じりの言葉を吐き、屍鬼はヴォストークをさらに己の腹に食い込ませるべく左手で押し込む。
 人ならざる者のその力は強く、ウィンストンが即座にヴォストークを引き抜こうにもままならない。
 ケタケタと腐肉を撒き散らしながら笑う屍鬼は、紫色の瘴気を纏ったフックカトラスをウィンストンに振り下ろす!
「……そうはいかなくてよ!」
 直後、銃弾がフックカトラスの軌道を弾いた。
 大砲撃の後。
 武器を持ち替えて、後方から常に仲間達の脅威を見極めていたクリスティアの鳥銃「遠雷」が火を吹いたのだ。
 より遠くを狙い定めるそれは、クリスティアの能力と相まって高い命中力を誇った。
「恩に着る」
 短く呟き、ウィンストンは屍鬼の腹に突き刺さったヴォストークを今度こそ思い切り横に振り抜く。
 グズグスと嫌な手ごたえを残す屍肉が辺りに飛び散った。
「鬼さん此方、手の鳴るほうへ」
 ひらりひらりと戦場を舞う片耳は、パルマ・セコの小気味よい音を鳴らし続けながらウィンストンに並ぶ。
 屍鬼は、片耳の手には余る強敵。
 だがそれは一対一で戦う場合の事。
 次なる屍鬼をウィンストンが狙い定めるなら、片耳は先手を打って屍鬼の身体に拳を入れる。
 然したるダメージを与えれないそれは、しかし敵の命中力を大きく下げた。
 どれほど攻撃力が高かろうと、当たらなければ脅威などない。
「そのような牽制がせいぜいであるのだな」
 ガードを用いて屍鬼のフックカトラスの猛攻をしのぎ、ウィンストンは反撃にでる。
 右、左、斜め。
 全ての方向に彼の我流が冴え渡り、スマッシュの連撃は小賢しい屍鬼を滅するのに十分だった。
 大砲撃で散り散りとなった死軍の軍団は、もうあと僅か。
 此処からは掃討戦。
「これ以上の砲撃は無理そうじゃてな。ここからは射撃援護に回らせて貰うのじゃ」
 クリスティアと同じく後方に下がっていた朱音が左京と破軍を狙う屍人の頭蓋をその銃弾で粉砕する。
 朱音の短筒はクリスティアの鳥銃に比べて射程も短く、両手で取り扱わねばならない代物だった。
 だが朱音の腕前がそれをカバーする。
 朱音に向かおうとする屍人はすかさず片耳が排除した。
 死軍の中心で戦い続ける左京と破軍の為の退路を作るべく、朱音は邪魔な周囲の屍人を短筒で切り開く。
「チッ……暫く任せるぞ」
「ご無理はされませぬ様」
 深い傷を与えられるようなミスをする二人ではない。
 だが全力で戦い続けるには限度があるのだ。
 破軍は朱音の作る退路に沿って下がり、左京はその背を守り続ける。

 戦い続けて、どれ程の時が経ったのだろう?
 時間の感覚も麻痺しだす頃、大地に静けさが戻る。
 百数に及ぶ死軍は、開拓者達によって一匹残らず瘴気へと還されたのだ。
 開拓者の耳に届く音は、もはや大地を吹き荒ぶ風の音のみ。
「我らが父よ……。如何か彼の方々にご武運を。そして哀れな者達に憐れみを……」
 死十字を再度掲げ、クリスティアは祈る。

 ―― 遠く、北西の大地では今もまだ仲間達が戦い続ける。