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■オープニング本文 「なぁなぁ、割のいい仕事、あらへん?」 外はまだ薄暗く、小鳥がやっと囀りだすようなそんな早朝。 ジルベリア最北領スウィートホワイトのとある茶屋。 いい加減な発音のエセ関西弁の少女がギルド受付嬢・深緋を呼び出して依頼をせびっていた。 24時間営業のその店には、時間が時間なだけに少女とその連れ以外に客は見当たらず、マスターがカウンターで一人、茶器を磨いていた。 カウンターよりも奥のテーブルに腰掛ける少女のその背には、何が詰まっているのかと首を傾げたくなる巨大な鞄。 鞄の口からは大量の羊皮紙が飛び出しており、より一層不思議な光景だった。 「久しぶりに来てその台詞ぅ? もっと他にいうことは無いのかしらねこの子は。アタシの誕生日にプレゼントをくれなかったのは青丹だけよ? 知り合いの開拓者だってくれたって言うのに薄情な妹よねぇ」 少女の質問には答えずに、深緋はわざとらしい溜息をついた。 エセ関西弁の少女――青丹は、この化粧の濃い深緋とは似ても似つかない健康的な少女なのだが、正真正銘姉妹である。 もっとも母親は違うのだが。 放浪癖博打癖のある父親は何故か作った借金の数々の請求先を青丹にしており、青丹は常に借金取りに追いかけられている。 だからこんな人気のない時間帯を選んで深緋を呼び出したのだろう。 そんな事情を知っているくせにプレゼントを要求する深緋はやっぱり鬼畜だった。 「やー、そういわれると思ったんよ、うん。だから、姉貴の為にぎょーさんお土産こうてきてん。遅れまくったけど、誕生日おめでとーな?」 どさっと巨大な鞄を床に置き、青丹はいそいそと中から荷物を取り出した。 取り出す際にぎっちり詰まっていた羊皮紙がぱらぱらと周囲に落ちたがさして気に留める様子もなく、青丹は何個もの木箱をテーブルに並べた。 「なぁに、これ?」 青丹に促されて深緋が木箱の蓋を開けると、そこには一足のハイヒール。 赤く艶やかで金の縁取りがされたそれは、深緋の心を奪うのに十分な美しさだった。 「どや? 綺麗やろ? なんや、靴屋のにーちゃんがえらい景気のいいにーちゃんでさ。『ここに並んでいる靴、どれでもお好きなものをお好きなだけどうぞっ!』って言うからさぁ、思いっきり遠慮なくガッツり頂いてきたっつーわけ。ここにある木箱、ぜーんっぶ姉貴にやで♪」 赤い靴に魅了されている深緋の前で、どや顔の青丹は次々と木箱を開いてゆく。 その木箱の中にはどれもこれも見目麗しい靴が。 「……姉貴、どしたん? 履いてみぃへんか?」 どうしたのだろうか。 何やらぼんやりとしだして美しい靴を見つめる深緋の目の前に青丹は手をふりふり。 「あ、あぁ、そうね……」 何だろう。 なぜか、『この靴を手放したくない。ずっと見つめていたい』そんな不思議な感情に捕らわれたのだ。 夜勤明けで疲れてるのかしらねぇと呟きながら、深緋は立ち上がって青丹の差し出す靴をそっと履いてみる。 「!」 次の瞬間、深緋の足を鋭い痛みが襲った。 突然の事に深緋はとっさに靴を脱ごうともがくが外れない。 深緋の細い足から血が迸り、深緋はそのまま床に倒れこむ。 「姉貴っ!!」 何が起こったかわからなかった青丹だが、咄嗟に倒れた姉を抱き起こし、深緋の足に食い込んでいる美しい靴を引き剥がす。 無理やり剥がされた痛みに深緋の顔が苦痛に歪む。 「くそっ、なんなんこれっ! ……冗談やろっ!?」 靴から牙が生えている。 それだけではない。 青丹が持ち込んだ大量の靴がすべて木箱から出て空中に浮かんでいるのだ! 「アヤカシやったんか?! くそっ、くそっ!」 手にした靴――ダンシングヒールを思いっきり壁に叩きつける。 だが痛みを感じないのだろう。 ダンシングヒールはありえないほどの宙を一瞬で跳躍し、その鋭いヒールで青丹に襲い来る! 青丹は即座に迎撃態勢を取るが、深緋を守りながらの戦いなのだ。 避け切れるものではない。 ダンシングヒールの激しい連激をそれでも何とか耐えながら、青丹は動けない深緋を引きずってカウンターの裏に回り込む。 マスターが驚いて目を見開いているが「伏せて!」と叫ぶのが精一杯。 ダンシングヒールは合計八足。 一足ごとに行動しているわけではないから、敵の数は実質16。 バラバラに手当たり次第攻撃しているようで、何故か最初の敵――赤く、金の縁取りがしてあるその靴は深緋だけを狙って襲ってくる。 他のヒールも何がそんなに憎いのかと言いたくなる勢いでスタッフルームのドアに体当たりをかましたり無駄に跳躍したり。 思いっきりぶつかられた部屋のドアは蝶番が緩んだ。 暴れたい放題だ。 もういっそ何もかも火遁で燃やし尽くしてやりたい衝動に駆られたが、青丹はぐっと我慢する。 何もない荒野ならともかくここは喫茶店。 木造のテーブルや椅子、カウンター。 燃えてくださいと言わんばかりだ。 「こいつでどうやっ!」 深緋をしつこく狙う赤いダンシングヒールに青丹はクナイを投げつける。 だが敵はあっさりとそれをかわした。 「うそやろ? あたいはこれでも腕には自信があるんやで?!」 駆け出しよりは遥かに経験をつんだ青丹の攻撃を素早くかわす回避力に度肝を抜かれ、青丹はダンシングヒールの連撃を避けきれなかった。 深緋だけは傷つけさせはしないものの、青丹の腕からも鮮血が迸る。 「君達、これは一体……ナンテウツクシイクツナンダ……」 騒ぎをを呆然と見ていたマスターが、ダンシングヒールに目を奪われ棒立ちになる。 そのままダンシングヒールが軽く体当たりをするとマスターは倒れて気を失った。 (やばい、やばいよ、魅了まであるやんっ……っ!) 焦る青丹の前で、けれどダンシングヒールはマスターにはそれ以上興味を示さない。 カウンター前に転がる椅子を鋭いヒールで粉砕し、敵は青丹と深緋に狙いを定める。 「男尊女卑かよ! もう何でもいいから誰か助けたってやーっ!!」 目を瞑って叫ぶ青丹の声が天に届いたのか。 数人の開拓者が茶屋を訪れたのはその直後の事だった。 ◆情報◆ 青丹により、OPの状況は開拓者の皆さんに伝えられます。 なのでOPの状況は開拓者皆さんの共通知識となります。 なお、青丹は怪我をしている為戦闘には加われません。 ◆状況◆ 早朝の茶屋。 開拓者ギルドから程近く、よく開拓者が訪れます。 いまはまだ人が少ない時間帯ですが、時が経つにつれて徐々に開拓者が増えだすでしょう。 たまたま人の少ない時間帯に運悪く居合わせたのが皆さんです。 |
■参加者一覧
川那辺 由愛(ia0068)
24歳・女・陰
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
野乃原・那美(ia5377)
15歳・女・シ
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●朝のカフェは大惨事? 怪我人を逃がせー! 「由愛さんこっちなのだ♪ こっちにいい賭け場が……あや? 何か聞こえたね?」 そろそろ日が昇り始める早朝。 三度の飯よりも大好きな賭け事に川那辺 由愛(ia0068)を誘ってまだまだ人の少ない町に繰り出した野乃原・那美(ia5377)は、どこからか聞こえて来た物音に小首を傾げる。 なにやら尋常でない物音はすぐ側のカフェから聞こえてくるような。 「んんぅ、随分と騒がしいわねぇ……って、何よ此の状況は?!」 とりあえず覗いてみようと由愛がカフェのドアを開けた瞬間、店中を暴れまわるダンシングヒールに絶句する。 「朝早くから悲鳴が聞こえるなんて、一体何が起こっているのでしょう……って、何ですかこのたくさんの靴は!」 お洒落な番傘で飛んできたダンシングヒールを払い、菊池 志郎(ia5584)も叫ぶ。 さして大きくもない店の中を八足の靴型アヤカシが乱舞しているのだ。 これが驚かずにいられようか。 「状況に驚いている暇も無い、か」 悲鳴に駆けつけたのは志郎だけではない。 竜哉(ia8037)もその一人だった。 暴れる靴よりもカウンターの奥に隠れている怪我人に即座に気づき、ヒールの存在を無視して駆け寄る。 自身が敵の攻撃を避けるよりも怪我人の保護が最優先。 そんな竜哉の背にヒールが二連撃を食らわすが、竜哉は痛みを堪えて怪我人を庇う。 「怪我の具合は? あなたは立てそうか?」 優しく問いかけながら竜哉が抱きかかえた女性を見て由愛が叫ぶ。 「ちょっと深緋じゃない、怪我してるし!」 「あんたら姉貴の知り合いか? 丁度よかったわ、姉貴を助けたってや!」 巻き込んでしまった開拓者達に青丹は叫ぶ。 その間にもヒールの攻撃は止まらない! 「なんつーか、踏まれるのだけは無性にイヤだ。イヤだよな?!」 運悪く店を訪れてしまった緋那岐(ib5664)は隣の皇 りょう(ia1673)に同意を求める。 皇は軽く頷いて、太刀を抜く。 「事情はともかく今はこの場を何とかするのが最優先か。参るぞ、我等に武神の加護やあらん!!」 怪我人の救助もこの事態の収束もまずは目の前のヒールを撃退する事と判断し、皇の剣が煌く。 ●踊り狂え暴れまくれ! 「ちぃっ。此処じゃ危ないわ、あそこまで行くわよ……那美、援護して!」 ほんの2mしかないカウンターに身を潜めるのも限度があるのだ。 由愛は目敏く休憩室を見つけ、青丹に肩を貸す。 竜哉は軽々と気絶したマスターを背に担ぎ、器用にも片手で深緋を抱かかえる。 「まーっかせて♪ しっかり頑張るからちゃんと奢ってね〜♪」 二人を―― 特に深緋を狙う赤いヒールを那美は忍刀で叩き落とす。 那美が落とせない分のヒールは志郎の苦無が弾く。 回避の高いヒールは即座に避けるがそれは志郎の思惑通り。 ヒールの攻撃が逸れさえすればいいのだ。 いまは倒す事よりも怪我人達を無事に安全な部屋に運ぶための時間稼ぎなのだから。 「ここはこう、スリッパなんかでぱしっとすぱーんと。華麗に叩き落としたいところだけど……ないよな?!」 早朝のカフェをヒールが乱舞する光景に度肝を抜かれているのだろう、緋那岐の動揺は止まらない。 「そいつら女を狙いよるんや! 一匹しつこいのが姉貴だけ狙っとるけど、女嫌いなんや!」 由愛に守られながら青丹が叫ぶ。 「ならば皆、私にかかってくるがよい! この皇家現当主皇りょう、逃げも隠れもせぬ!」 正真正銘女である皇が敵の注意をひきつけようと叫ぶ。 だが……。 「うおっと、こっちにきまくってるよ?!」 何故かヒールは皇を無視して那美と由愛と深緋を抱く竜哉に突進! 志郎が再び苦無で応戦し、 「スリッパの変わりに札でぱしーんっ!」 緋那岐が咄嗟に結界呪符を使ってヒールの猛攻を防ぐ。 那美達の前に突如現れた黒い壁に行く手を阻まれたヒールは次々と壁に衝突して跳ね飛ばされた。 そしてガン無視される形になった皇は拳を震わし心の中で血涙を流す。 ヒールを擁護するなら皇に女らしさが欠けていたわけでも女と認識されなかったわけでもない。 武神の愛娘と評される皇の気迫に本能で避けただけなのだ。 だがそんな事は当の皇にわかるはずもない。 「貴様ら、明日はないと思え……っ!」 先ほどとは打って変わった鬼神そのものの皇の太刀に壁に跳ね飛ばされたヒールが切り裂かれた。 痛みを感じぬヒールとはいえ、真っ二つに裂かれたそれは二、三度痙攣して床をのた打ち回り、紫の瘴気へと還ってゆく。 「ここならしばらくは持つはずよ」 ヒールの攻撃をかいくぐって何とか休憩室に潜り込んだ由愛は、ドアを背にし、室内を見回す。 (室内には紛れ込んでいないわね) この部屋に怪我人を保護するのにヒールが紛れ込んでいては元も子もない。 一般人のマスターと深緋はヒールの一撃で命を落としてもおかしくないのだから。 だが四畳半程度の狭い室内にはヒールの気配は無かった。 「あなたは歩けますか? 痛むなら閃癒をかけますね」 「あたいより姉貴を……っ」 「貴女も怪我してるじゃない。良いからおとなしく治療されなさい!」 志郎の癒しを断ろうとした青丹を一括して、由愛はドアの前に更に結界呪符で白い壁を出現させ、二重のドアとして強度を上げる。 外からの激しいヒールの二連撃にドアが大きく軋み、緩んでいた蝶番が外れる音がした。 同時に那美の叫び声が休憩室にも届く。 「那美! 暫く頑張りなさいよ、後で奢ったげるから!」 叫んで那美を激励する由愛は、ほっと胸を撫で下ろす。 あと一瞬壁を作るのが遅れていたら、部屋の中にヒールが雪崩込んで来ていただろう。 「この壁の持続時間は十分だけれど、ヒールの威力がどの程度かにもよるわね……」 由愛はくっと爪を噛む。 結界呪符で作られた壁にはいまもヒールが体当たりを仕掛けてきている。 外に残った皇と那美、そして緋那岐が気を引いているが狭い中での戦闘、そして出来る限り店を壊さぬようにとの思いから動きが制限されてヒールを止めきれない。 何事もなければ十分間消える事のない壁も、ある一定量の攻撃を与えられれば消え去ってしまうのだ。 つまりヒールの攻撃がある以上いつ消え去るかわからず、由愛は壁が消えた瞬間に次の壁を出せるよう神経を張り詰める。 「壁が消えた瞬間に打って出る。あなたたちもこれるね?」 竜哉が治療を終えた志郎と青丹に確認を取る。 「壁が消えるまでには治療を終えられるはずです」 いつの間にか気を失っている深緋の足を志郎は治癒する。 怪我人は本来ならこの部屋に逃げる前に治療してあげたかったのだが、狭い店内でヒールの攻撃を避けながらの治療は困難だった。 「そろそろ消えるからあたしの意思で消すわ。準備はいい? 3…2…1…お行きなさい!」 由愛の掛け声にあわせ、竜哉、志郎、そして完全復活の青丹が部屋から飛び出した! 「回避がよくても動きが止まってしまえばタダの靴♪ 攻撃さえ当たれば怖くないのだぞ♪」 「動きは俺がとめる。その間にそれいけ! ハエ……もとい、靴叩きだ、れっつらごー!」 緋那岐が開き直って呪縛符をヒールに投げつけ、動きを阻害されたヒールは那美の忍刀が切り裂く。 那美は無理をせずに確実に攻撃できるヒールにダメージを与え続けていた。 だが敵は高い回避能力を持った多数。 「うおっとー?!」 動けないヒールに忍刀を切りつけた瞬間、斜め上に一気に跳躍した別のヒールが那美目掛けて急降下! 避けきれなかった爪先にダンシングヒールの鋭い攻撃が突き刺さる! ―― と、那美の足に突き刺さったヒールを志郎の苦無が突き飛ばす。 「待たせたね。さぁ、ここからは反撃の時間だ!」 言うが早いか竜哉はジャンビーヤで手近のヒールの脇を抉り取る。 怪我人の安全が確保された今、躊躇う必要はどこにも無かった。 「これ以上好きに暴れさせはしませんよ!」 志郎が腕を払うと何もない空間に炎が生まれ、由愛が守る休憩所の壁に攻撃を仕掛けていたヒールを焼き払う。 浄化の炎は店を焼く事無くヒールのみを消し去った。 「俺も使いたいけど屋内戦闘となると、派手な術使った日にゃ……マスター泣くな、うん」 志郎と違ってアヤカシだけを燃やす炎は持ち合わせていなかった緋那岐は斬撃符で飛び掛ってきたヒールを迎撃! 深緋を特に狙っていた赤いヒールは、壁で消された仲間を見て部屋への侵入は諦めたのか、那美と皇に狙いを定めて跳躍と連撃を繰り返す! 「どうせこのまま戦を長引かせても、店内は荒らされるわけであるし」 出来るだけ店を荒らさぬよう気を配っていた皇だが、もう既に店内は悲惨。 ヒールに砕かれた椅子の欠片が飛散し、テーブルにはひび割れが無残にも走り、壁に飾られていた絵画はボロボロ。 特に女性が描かれたものはヒールに突き破られた穴だらけで面影すらない。 皇は意を決して阿修羅を振りかざし―― 振り下ろした瞬間嵐もかくやという無数の風の刀が一直線に敵を切り裂いた。 ズタズタに切り裂かれた赤い靴はみるみる瘴気へと還っていき、直線状にあったテーブルと観葉植物が真っ二つへと割れていく。 「おいおい、俺が自重した側からかいっ!」 皇の潔い店内破壊っぷりに緋那岐は突っ込まずには入られない。 いつの間にかヒールと開拓者の数は逆転していた。 「そんな誘いには惑わされないよ」 怪しく、そして美しく思えかけたヒールに冷たく言い切り、竜哉はジャンビーヤを振り下ろした。 ●一件落着? タダより高いものはないのです! 「『只より怖いものは無い』とはよく言ったものだが……戒めにしてはやり過ぎだな、これは」 ダンシングヒールを全て撃破し、破壊しつくした店内の掃除を率先して引き受けた皇は青丹の説明に呆れながらも同情する。 「……その靴屋は、ここから近いのでしょうか。お店の人も、アヤカシに操られているかもしれません」 志郎は靴屋が気になるようだ。 だが肝心の青丹の記憶が曖昧で、どの辺りにあった店なのか思い出せないようだ。 「なんでアタイはアヤカシなんかもらってきちゃったんやろか〜?」としきりに首をかしげている。 もしかしたら青丹が最初にダンシングヒールの魅了の術にかかっていたのかもしれない。 「アヤカシが部屋に侵入してこなくてよかったわ。あまり女性には見せたくない攻撃手段だったからね……」 由愛も掃除をしながらほっとしたように笑う。 誰もが疲れきっていて、みなでお茶でもしたいところなのだがいかんせん、店内はとても飲食の出来る状態じゃなかった。 意識の戻ったマスターが事態を把握して掃除は店のスタッフ達で行うからといったのだが、みな最後の気力でお掃除お掃除。 由愛などはマスターに掃除だけではどうにもならない修繕費を渡そうとしていた。 だがマスターにどう言ってもきっぱりと断られたのと、やはり意識の戻った深緋が「アヤカシの被害なんだから修繕費はギルドが補填するわよぅ?」とフォローを入れてくれたから、しぶしぶ由愛は懐に修繕費を戻す。 「まあ、これに懲りたら妙なものには手を出さない事だね」 苦笑交じりの竜哉の言葉に青丹はこくこくと頷いて次は大丈夫だと太鼓判。 それから一時間以上かけて綺麗にした店内では、マスターお手製のハーブティが振舞われ、みんなで疲れを癒したのだった。 |