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■オープニング本文 ●からくりのよる 研究者である彼は、夜食を済ませて部屋に入ってきた。 部屋の隅には机が置かれ、そこに座る少女――いや、からくりの元へと歩み寄る。それは、アル=カマルの神砂船の中より見付かった「最初の一体」。開拓者のひとりを主人と認識し、今は調査の為ギルド預かりの身だった。 「何を読んでいるのかね、常葉くん」 しかし、からくりは黙したままぴくりとも動かない。 彼は訝しそうな様子で少女の肩を揺らすも、少女は目の焦点があわぬままぼんやりと宙を眺めている。 「……しっかりしたまえ! どうしたね!?」 焦り交じりに声を荒げる研究員。 「ク……カラ……さま……」 「え?」 「クリノカラカミさまが呼んでいます」 告げた途端、ふいに力が抜けるように倒れた。 倒れた少女を前に彼は表情を青ざめさせ、上司を呼びに駆け出す。 だが彼は、報告に赴いた先で今以上に顔を青ざめさせることとなる。遅れて飛び込んできたのは、全てのからくりが同時に機能を停止したとの急報だった。 ●クリノカラカミ調査 「そ、そこを退いて下さいですよ〜?」 神楽の都大図書館入り口。 その扉の前にどーんと立ちはだかる6人の朝廷図書館職員に、アッ=ラティーフはおろおろと抗議を口にする。 ラティーフはこの図書館の正真正銘司書なのだが、なぜか朝廷より派遣されたこの6人に図書館入り口前で今朝から通せんぼされているのだ。 「この図書館にあるかもしれない『クリノカラカミ』の言葉の秘密をすぐに調べたいのです……神砂船深く関わる事かもしれないのです。お願いですから通してください〜」 アル=カマルからそもそも神砂船についてこの大図書館に派遣された彼女は、ずり落ちそうな眼鏡を抑えながら涙目で訴える。 けれどラティーフよりもさらに露出の高い衣装をまとった図書館職員はにやりと笑う。 「通さない、とはいっていないわ。クリノカラカミは最重要機密事項! その機密をどこの馬の骨ともわからないやからに調べさせるわけにはいかないの。どうしても調べたければあたし達朝廷ご用達図書館職員を倒して見せなさい!!」 最重要機密事項と言いながら人通りの多い大図書館で臆面もなく叫ぶ朝廷図書館職員。 いいのか、それで。 「……その勝負、受けてたつのです〜っ!」 図書館に入る為に、ラティーフは拳を握り締める。 「貴方達に勝って、必ずや最重要機密事項クリノカラカミを調べて見せます!」 だから、最重要機密事項を叫んでいいのか。 そんな周囲の目を気にもせず、ラティーフは全力で開拓者ギルドへ走ってゆく。 ……だって一人じゃ勝てないもん! ◆勝負の種類◆ 各勝負で判定に使用する能力が違います。 正統派の勝負でご自分がもっとも自身のある能力で勝負するもよし、相手の性格や事情を見切って行動で勝負するもよし! 審判はギルド職員が行います。 1)速読勝負! 判定能力【知力】 審判の選んだ本を一冊ずつ、開拓者と朝廷図書館職員で読みます。 早く読み終わったほうが勝利。 ……間違っても、読んだふりをして「終わった!」なんて叫んではいけませんよ? 最後に本のあらすじとオチをちゃんと確認しますからね? 2)速記勝負! 判定能力【器用】 審判が選んだ本を一冊、書き写してもらいます。 朝廷図書館職員と開拓者、早く写し終えたほうが勝利! ……最初と最後だけ書き写して、「完成!」とか。 やっても中身を確認するのですぐにばれますよ〜? 3)蔵書探し勝負! 判定能力【俊敏】 朝廷図書館職員とラティーフがそれぞれ本を指定します。 開拓者の皆さんはその本のタイトルから中身を想像して敵より早く本を見つけ出し、図書館入り口まで戻って来て下さい。 ……幾ら急いでいても、図書館の中を走るとラティーフに怒られます。 「図書館では、お静かに〜」 4)体力勝負! 恐怖の100段坂3本勝負! 判定能力【体力、防御】 朝廷図書職員と開拓者、それぞれ10冊の本を担いで図書館傍の100段坂を3往復して頂きます。 先に3往復し終えた方が勝利。 ……大丈夫、兎跳びじゃないので膝は痛めません(?) 5)運を見せつけろ! 強運勝負! 判定能力【この勝負だけは、能力関係なしに運の勝負となります!】 朝廷図書館職員とコインゲームをして頂きます。 朝廷図書館職員がコインを投げて、開拓者の皆様が裏か表かを答えます。 合っていれば、勝利。 ※この勝負に挑戦する開拓者さんは、プレイングに『表』か『裏』を必ず明記してください。 MSがリアルでサイコロを振り、奇数が出れば『表』偶数なら『裏』として判定を行います。 6)記憶力の勝負! 花札神経衰弱! 判定能力【直感】 朝廷図書館職員が用意した花札で神経衰弱勝負をして頂きます。 ……この勝負に挑む朝廷図書館職員はとても真面目な子ですから、イカサマはしません。 ただ、負けると泣き出すかもしれませんが(?) ◆朝廷図書委員◆ 今回大図書館に派遣されたのは6人。 全員志体持ち。 レベルは開拓者に照らし合わせた場合のものです。 〇初善蘇間志摩子(ういぜんそましまこ。あだ名は『志摩』) 参加勝負は『蔵書探し』 朝廷図書館職員リーダー。 ラティーフに負けず劣らずのナイスバディの美女。 20歳 高飛車。 レベル20 俊敏:200 〇佐々羅木冬(ささらぎふゆ。あだ名は『冬』) 参加勝負は『速記』 名前を間違われることを何よりも嫌う内気な少年。 「ぼ、僕の名前はふゆ、です。ひいらぎ、じゃないんです……!」 15歳 レベル20 器用:150 〇流木斬剛積雲(りゅうぼくざんごうせきうん。あだ名は『剛積』) 参加勝負は『体力』 みたまんま。マッチョ。筋肉だるま。 「この世に女など無用! 鍛え上げられた筋肉こそが勝利いいいいぃ!」 ……でもほんとは女性に弱いとか? 28歳 レベル:40 体力:200 防御:220 〇瑠璃針姫清香(るりはりひめきよか。あだ名は『るり』) 参加勝負は『記憶力』 見た目幼女のぷにぷに美少女。 実年齢不明。 ツインテールで身長100cm。 「るりは〜、まけないのですよ〜?」 見た目年齢:8歳 レベル:20 直感:100 〇権俵家歳三(ごんだわらいえとしみつ。あだ名『歳三』) 参加勝負は『速読』 御歳82歳の生き字引。 義理人情に厚く、涙脆い。 病弱な孫を溺愛している。 「孫はわしと同じ銀髪でのぅ、くせっ毛でやんちゃで、青い瞳がほんに愛くるしいんじゃ。……あんなに良い子がなぜ病に苦しまねばならぬのかのぅ……」 本から目を離し、涙を拭ってみたり。 レベル:58 知力:280 〇向日ヶ峰狭霧(むこうがみねさぎり。あだ名『狭霧』) 参加勝負『運』 無表情無感情クール。 口元をマフラーで覆い、その表情を読み取ることは困難。 年齢不詳性別不詳。 男性にしては小柄で、女性にしては少し声がハスキー。 レベル:30 |
■参加者一覧
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
月代 憐慈(ia9157)
22歳・男・陰
ケロリーナ(ib2037)
15歳・女・巫
アーニー・フェイト(ib5822)
15歳・女・シ
コニー・ブルクミュラー(ib6030)
19歳・男・魔
柊 梓(ib7071)
15歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●準備はいいか?! 「全儀1000万人の『からくり異変』関係者の皆様、こんにちは。本日開催のクリノカラカミの文献調査権を賭けた図書館6番勝負。両陣営の放つやる気と気迫が図書館内に満ち満ちております。実況は私、月代憐慈。解説はアッ・ラティーフさんでお送りいたします」 月代 憐慈(ia9157)が集まった開拓者と朝廷図書館職員、審判役のギルド職員、そして野次馬の皆さんの前で扇子を掲げて高らかに宣言する。 「レンジ、何解説に回ってんのさ。レンジもこの勝負に参加するんだぜ?」 違和感なく解説している憐慈に、いつもの企み笑顔でアーニー・フェイト(ib5822)がすかさず突っ込む。 「……ん? だって俺の勝負は運任せだし、正直がんばったところでなるようにしかならないしなぁ。どうせ見物するなら面白い方がいいと思わないか?」 「いえてるね。あたしも同意だ」 にししと笑って、アーニーは風のキャスケットをぐっと被り直す。 「ラティーフおねえさまを困らせてるとうせんぼさんを、メッですの〜」 カエルのぬいぐるみをいつも抱きしめているケロリーナ(ib2037)は、怒っているような笑っているような、それでいて愛らしさ全開の表情で図書館職員に宣戦布告。 「こうなった経緯はよくわかりませんが……情報を得る条件と言うなら、やるしかありませんね」 事情はきっと、誰にもよくわからない。 けれど理由よりも何よりも妨害されているという事実が今ここにあるのだから、コニー・ブルクミュラー(ib6030)としては頑張る以外の選択肢がないようだ。 「で、朝廷のオモシロ軍団に対抗するのは……って、全部俺達じゃんか。かんっぺき他力本願やんけアーたんんんっ!!!」 ラティーフと顔見知りの村雨 紫狼(ia9073)は思いっきりその事実に突っ込みを入れるが、突っ込まれたラティーフは「気のせいです〜」とすっとぼける。 「ふに、勝負です、から、負けないように、精一杯、頑張る、です……でも……自信、ない、です……ふに……」 もともとたれているロップイヤーがよりいっそう下がるように、大人しく気弱に見える柊 梓(ib7071)は図書館の隅っこで脅えている。 朝廷図書館職員は揃いも揃って曲者ばかり。 そんな異様な面々と対峙するには梓にとっては過酷過ぎるようだ。 ただ一人、図書館職員権俵家歳三だけは梓と目が合うと愛おしそうに微笑んで、梓は真っ赤になりながらぺこりと頭を下げた。 「まぁ、一応図書館だしな。解説はあんまり大きい声は出さないから安心してくれ。俺は書物に対しては誠実だからな。ラティーフさん、開始の合図をよろしくお願いいたします」 憐慈に促され、ラティーフはこくりと頷く。 「皆様、お集まり頂きありがとうございます。これより、第一回朝廷図書館職員対開拓者、クリノカラカミ杯を開催いたします!!!」 (……第一回って、二回目もあるのかな) そんなコニーの心の突っ込みとともに、朝廷図書館職員VS開拓者の熱き戦いの火蓋が切って落とされた! ●激突! 朝廷図書館職員VS開拓者! 初戦。ケロリーナVS瑠璃針姫清香! 「けろりーなですの〜。今日はよろしくお願いしますなの〜」 ふわっと優雅にお辞儀して、ケロリーナは持参の紅茶を瑠璃にも振舞う。 「ルリ、甘いもん好きならこれでも食う?」 アーニーがすかさず花紅庵の彩姫を瑠璃に差し出す。 「うっ……美味しい紅茶にお茶菓子なんて、るりはだまされないのですよ〜?」 そんな風に抵抗しつつも、瑠璃はケロリーナの紅茶もアーニーのお菓子もお気に召したようだ。 「騙したりしないんですの。るりちゃんと花札神経衰弱で戦うですの〜☆」 なんだかよく似た二人に見えるのは気のせいか。 美少女二人、審判が並べた花札をじーっと真剣な眼差しで見つめだす。 一枚、二枚。 三枚、四枚。 最初のうちは、めくってはまた元に戻しての繰り返し。 だが勝負は中盤から。 「雨にカエルの絵柄はここですの〜♪」 ケロリーナが紅茶を飲みながら次々とカードを揃えてゆく。 瑠璃も負けじとカードを揃えようとするが、美味しいお菓子に心揺れまくりでどうやら集中できないようだ。 「これでラストですの〜☆」 けろちゃんに手を伸ばさせるように最後のカードを合わせる。 「る、るりは……るりは、まけないはずなのに……」 うりゅっと涙ぐみはじめた瑠璃に、そばで見ていたアーニーが再びお茶菓子をぽんと差し出す。 「ほら、これでも食って機嫌直しなよ。泣いてちゃ旨い菓子もまずくなるぜ?」 アーニーに背中を擦られながら瑠璃はお茶菓子を頬張る。 初戦、ケロリーナの勝利! コニーVS佐々羅木冬! 「コニーといいます。よろしくお願いします。お互いに力を尽くせればいいですね」 敵にもきちんと敬意を払い、コニーは握手を求める。 「ぼ、僕の名前はささらぎふゆ、です……」 名前つきの腕章を見せ、冬はコニーの差し出された手を両手でぐぐっと握り締める。 二人の前には審判が用意した二冊の本と無地の羊皮紙の束がそれぞれ置かれている。 時間を考慮してか、本は通常よりも薄手のものが選ばれていた。 審判の合図とともに、二人は筆を手に取り一気にぺージをめくりだす。 「ええと……柊さんは、僕より年下みたいですけど、こんな大きな図書館でお仕事できるなんてすごいですよね。……あ、あれ? どうしたんですか……?」 コニーの発言に冬は思いっきり筆を乱し、コニーはその様子にあわてて筆を止める。 腕章の名前を読んだだけなのだが……。 「ぼ、僕の名前はふゆ、です。ひいらぎ、じゃないんです……!」 ばんっと机を叩きそうな勢いで、全力否定する冬。 その目にはほんのり悔し涙が。 「え……ひいらぎじゃなくて、冬だったんですか……?! ごっごめんなさい! そういえばさっき、冬さんって言ってらっしゃいましたよね。僕、なぜか勘違いを……!! よ、よい名前ですよね、ひいらぎ……冬さんって!」 コニーは慌てて訂正するものの、より一層冬に止めを刺しているとかいないとか。 何度も謝ってなんとか冬も機嫌を直して勝負を再開したのだが……。 「は、速いっ! でも負けませんよ! ひいらぎ……じゃなくて! 冬さん!」 間違えられる度に激しく動揺する冬の筆先はブレにブレ、もう何が書いてあるのか良くわからない。 かたや悪気無く何度も冬の名前を間違え続けるコニーは多少読みづらい字もあるものの、きちんと読めるレベルを保持! 「僕と勝負してくれてありがとうございます。これからも図書館員としてのお勤め、頑張ってください」 冬を見事打ち負かしたコニーは深々とお辞儀をした。 梓VS権俵家歳三! 「柊梓、です……よろしくお願い、します……」 緊張はしているものの、梓はきちんと挨拶が出来たことに安堵する。 目の前にいるのは先ほど目が合った歳三。 「勝負、は、一生懸命するです、から、手加減、しないです、よ……!」 頭を何気なく撫でてくる歳三に、梓は真っ赤に照れながら勝負! さらさらと眺めるように読んでゆく歳三に比べ、梓はゆっくりと、むしろたどたどしさを漂わせながら必死に文字を追う。 「ふに、負けちゃ、ダメ、です……。ダメです、から、頑張る、です……ふに……」 負けの色濃さに梓は知らず知らず涙がこみ上げてくる。 「読めない字があったら、遠慮なくきいて良いからのぅ。どれ、一緒に読み進めるとしようかのぅ?」 どっこいせと腰を上げ、歳三は梓を抱きかかえ、自分の膝の上に座らせて椅子に座りなおす。 「はうっ……?」 「孫によう似ておってなぁ……。初めて見た時から他人には思えんのじゃ。ほれ、難しい字はこのわしが読んでやるでな、最後まで諦めずに読むのじゃぞ?」 「おじいさん、優しいです、ので、怖くないです、から、安心、です……」 えへへと笑って、歳三の膝の上で本を読み進める梓。 歳三の孫にそっくりな容姿を持つ梓は、もしかしたら勝負の前から勝利者だったのかもしれない。 アーニーVS初善蘇間志摩子! ふふんと鼻を鳴らし、アーニーの前に立ち塞がる志摩。 「あたしは生まれてこの方図書館に入ったコトもねぇんだぜ? それが一冊ずつしか探さねぇってのは幾らなんでも自信なさ過ぎだろ。まっ、そーでもしねぇとあたしにも勝てねぇっつーならいーんだけどねー?」 「な、何を言っているのこの小娘は! いいでしょう、貴方が満足するまで何冊でも判らせてあげるわ!」 (乗ってきたね、にししっ♪) アーニーの挑発にあっさりと乗る志摩、お前はそれでも朝廷図書館職員リーダーなのか?! だが現実に怒り心頭な彼女は審判をせかして先を促せる。 「天儀の歴史と古代文明〜? あたしが知るわけないっての。……なぁ、ゴーセキの兄貴。危ねぇトコでもゴーセキのすげぇ腕に抱かれりゃ、女もコロっとまいっちまいそーだよね。ついでに蔵書も参らせてくれねぇか?」 審判の提示してきた本は案の定本とは無縁のアーニーには判らない代物で、女に弱いと噂の剛積にさらっと聞いてみる。 「む、むぅ……」 アーニーに頼られた剛積はそ知らぬふりをしつつ、目線がひょいひょいっととある方向を指していたり。 「OK、自分で探すよ、悪かったね♪」 立場上はっきり教えられない剛積ににウィンクして礼をいい、アーニーはぱっと走り出す。 「図書館ではお静かに……あれっ?」 注意をしようとしたラティーフはわが目を疑った。 走り出したと思ったアーニーが消えたのだ。 「見えねぇもんは怒りよーもねぇもんねっ」 凄まじい足音と、どこからともなく聞こえるアーニーの声、だが姿が見えないのだからどうにもならない。 「うし、こいつで決まりだねっ!」 ばんっと審判の待つテーブルに目的の本を叩きつけ、姿を現すアーニー。 わなわなと怒りに震える志摩はまだ本棚にすらたどり着けていない状態だった。 村雨VS流木斬剛積雲! 「うぉおおおおっ、ぱっふぱふぅうううう!」 この勝負だけは図書館側の100段階段へ移動する面々。 意味不明な叫び声をあげて、村雨は羽織っていたジャケットを脱ぎ捨てる! 「ふっ、そんな叫びで俺様の動揺を誘おうとは片腹痛いわ!」 軽々と10冊の本を肩に担ぎ、剛積はやる気満々。 「アーたん……俺、この勝負に勝ったら……キミにぱふぱふしてもらうんだ!」 だが対する村雨は剛積なんか眼中になかった。 その目線は剛積の遥か後ろ、100段階段の頂点で待つ勝利の女神ラティーフ! 審判の合図と共に、気の遠くなる100段階段を重たい書物を抱えながら上りだす村雨と剛積。 「男の中の漢、村雨紫狼! 対する剛積も100戦練磨の鍛え上げられた肉体美戦士! この勝負、どちらが勝つかまったく予想がつきませんっ」 実況し続ける憐慈の解説もヒートアップ! 「ふっ……この勝負、絶対に負けるわけにはいかないのだ! アーたんごめんっ!」 言うが早いか村雨、本を片手に一瞬もちかえてラティーフのスカートを思いっきりめくったー! 「!!!!!!」 まともにラティーフのそれを見た剛積、鼻血を出して盛大に後ろへ、そう、今まさに上ってきた100段階段を一気に下までぶっ飛んだ。 志体もちだからって無事でいいのか?! 村雨も鼻を押さえているが、彼には剛積よりも防御力が大幅に勝っていた為に出血多量は免れた。 「イエスッロリータ、ノータッチ! あくまで肌には触れない村雨、この隙にゴーーーーーーーっルっ!!」 村雨、ビシッと勝利のポーズ、キメッ☆ 憐慈VS向日ヶ峰狭霧 「さて……いよいよ俺の番か」 ぱちりと扇子を閉じ、これまでとはうって変わった真剣な表情をする憐慈。 対する狭霧は無表情無感情。 憐慈と対峙してもまるで人形のようだ。 すっと一枚のコインを憐慈に差し出してみせる。 「俺は表を選ぶ。裏なんてみみっちいもん選んで負けるのも何か面白くないしな」 キンッ………ッ! 皆の見守る中、コインが弾かれ、中に舞う。 一瞬とも永遠とも思える沈黙と時間が過ぎる。 狭霧の手の中に捉えられたそれは果たして――。 「表だ!」 憐慈が驚愕に目を見開く。 何の変哲もない金貨は間違いなく表を向いて狭霧の手のひらに収まっていた。 ●図書館調査。得られる情報は……? 「まぁ、手堅く神砂船周りから固めてみるか。その中から出てきたもんだしな」 憐慈は神砂船に関連がありそうな書物を棚から取り出し、ページをめくる。 (繰之空神……クリノカラカミ? これが天儀での表記なのか。それと、こっちは何だ。首輪を付けられて操られていた、か? となると、人形をまとめてるのがクリノカラカミってことになる……のか?) 「あなたは絵本を調べるのね〜? けろりーなも一緒にみるの〜♪」 かえるのぬいぐるみを抱きしめたまま、ケロリーナは梓の横にちょこんと座る。 そして梓はケロリーナと一緒に絵本をめくる。 「神さま……不思議な形、です……。少し、怖い……」 おそらく手鞠のような絵のそれこそがクリノカラカミと思われるのだが、梓にとっては少し親しみ辛いようだ。 「ケロちゃんとは大違いですの〜」 愛しのカエルとの違いにケロリーナも不服気だ。 「分かんねぇ文字ばっかだけど、お宝探しみてぇで面白ぇかもね。ついでにあんたたちも手伝えよ」 そしてにししと笑いながら、勝利者の権利とばかりにアーニーはなんと朝廷図書館職員までもをかりだした。 筋肉マッチョの鼻血がまだ止まらないのは、うん、見てみぬ振りしてあげよう。 「だ、大胆ですね……」 アーニーがテキパキと清々しいまでに堂々と図書館職員をつかうのをみて、コニーは眼鏡を抑えながら感嘆の溜息を漏らす。 「さぁ、アーたん! お約束のぱふぱふを〜〜〜〜〜〜〜〜!」 みんなが難しく大量の書物に埋もれながらクリノカラカミについて調べる中、ブレない男・村雨はラティーフにじりじりと歩み寄る。 「良いですよ〜、さぁ、お顔を〜」 信じられないぐらいの笑顔を浮かべて顔を差し出せと言うラティーフに、村雨はごくりと息を飲み……次の瞬間、絶叫を上げた。 「はーい、ぱしぱしぱし〜♪」 あろう事か、ラティーフは村雨の胸倉をつかんで突き出された顔を思いっきり往復ビンタしだしたのだ! 「いて、いててっ、アーたんそれ、ぱふぱふじゃない、ぱしぱし……げふうっ!」 美少女になら何をされてもいいのか、村雨は案外幸せそうに叩かれている。 「そんなオチだよなぁ。天然娘は侮れないってね、にししっ♪」 「お後がよろしいようで」 アーニーの笑いと共に憐慈はぱちりと扇子を閉じた。 |