冬はFIRE!
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/02/05 03:07



■オープニング本文

「こっちこっちー、いいぞ、その調子!」
「うぉっと、あっちいっ!」
 ジルベリア最北領・スウィートホワイト。
 そこの凍った湖の上で若者達は火の玉を思いっきり蹴りつける。
 火の玉は弧を描いてゴールへと吹っ飛んでいく。
「ファイヤボッ!」
 見事ゴールに決まった火の玉を見て、若者の一人が歓声を上げる。
 この『ファイアボッ!』とはゲームの名前でもある。
 どんな遊びかというと、布を丸めて作った子供の頭程度の大きさのボールに火をつけ、木で組み上げた鳥居を思わせるゴールに向かって思いっきり蹴る。
 ゴールにはもちろんそれを阻止するゴールキーパーがいて、そう簡単にはゴールできない。
 だがボールが燃えている為、キーパーもそうやすやすとはキャッチできないし、自然と叩き落とすのが主流の防御方法になるのだが、それもまた熱いので思うように弾けない。
 ゴールキーパー自らがゴールに叩きいれてしまうこともしばしばだ。
 もちろん、全員火傷も日常茶飯事。
 だが寒さの厳しいスウィートホワイト領では、この火の玉蹴りは見た目の格好良さと暖かさからポピュラーな遊びとして盛んだった。
「おいおい、随分燃え盛ってるな」
 次のプレイヤーがボールに火をつけようと松明をかざすと、既にボールが燃えている。
 分厚い氷に覆われた湖とはいえ、あらかじめ火をつけるのは危険だから余りやらないのだが……。
 まぁ寒いからとなぁと苦笑しながらボールに足を乗せた若者は、目を疑った。
「え?」
 火の玉に目がある。
「……」
 キノセイだろうか。
 何処までも真っ黒で、そして大きな瞳。
 それがじーッと、恨みがましく若者を見上げているのだ。
「だ、誰だよ、目なんか書いたやつ」
 ハハハと乾いた笑いを浮かべて、若者はそっと、黒い瞳と現実から目を逸らす。
 その瞬間、現実たる火の玉 ――いや、鬼火は思いっきり暴れだした!
 しかも一匹ではない。
 いつの間にか数匹の鬼火に囲まれていたのだ!
「岸に逃げろっ!」
 最年長の若者が仲間に向って叫ぶが、時既に遅し。
 鬼火の熱にやられて湖の分厚い氷が割れたのだ!
「駄目だ、全員、こっちだっ!」
 鬼火のいない反対側、湖の中に浮かぶ小さな小島に全員走る。
「誰か、誰か助けてくれっ……っ!」
 若者達の悲痛な叫びが湖に響いた。
 


■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
珠々(ia5322
10歳・女・シ
利穏(ia9760
14歳・男・陰
レヴェリー・ルナクロス(ia9985
20歳・女・騎
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎


■リプレイ本文

●救助、急げ!
「叫びを聞いて駆けつけてみれば……何という事なの!!」
 遊郭のアルバイト帰りにちょっと散歩。
 レヴェリー・ルナクロス(ia9985)はそんな気楽な気持ちが一気に吹き飛んでいく。
 目の前の凍った湖の小島では、今まさに少年達がアヤカシの餌食になろうとしていた。
「この氷は湖? こんな危ない所に……鬼火も! 急がなくちゃ」
 レヴェリーと同じく少年たちの悲鳴を聞いて駆けつけたフェンリエッタ(ib0018)は、偶々持っていた多数の毛布を岸に置き、そっと氷の上に足を乗せる。
 何処から亀裂が入るかわからない氷は、その上滑る。
「仲間が蹴られてるとでも思ったのかな? いやそんなこと言ってらんない」
 そして滝月 玲(ia1409)は現場に集まったみんなに叫ぶ。
「みんな、ちょっと聞いてもらえるかな? 急いで彼らを助けたいけど、その前に灰を集めて。割れそうな部分にまいて、危険の目印にする。みんなで闇雲に向ったら氷が全部割れて彼らを助けるのが困難になると思うから」
 急がば回れ。
 滝月のいう事ももっともかもしれない。
 フェンリエッタも頷く。
「そうね。一箇所に負荷をかけ続けないようにしないといけないわ。小島からこの岸までの最短ルートは全員出来るだけ立ち入らず、少年達の救助ルートにしましょう」
 全ての氷が割れて退路が立たれても厄介だ。
 駆けつけたのは皆開拓者とはいえ、皆がみな水の上を自由に動けるわけではない。
「確かに所々氷が割れそうだ……でもいざとなったら」
 唯一、水の上でも自由に動ける天河 ふしぎ(ia1037)は鬼火に向って走り出す。
 もちろん、滝月から灰を受け取ることも最短ルートは避けることも忘れない。
 そしてもしも足元の氷が割れても、彼なら対応できる。
「よし、みんなの援護をするのだぜ! ……参・式・強・弾!!」
 叢雲 怜(ib5488)は岸から鬼火に向ってマスケットを構える。
 怜の背丈よりも長いそれは、射程も長い。
 今まさに少年に襲いかかろうとしていた鬼火が、マスケットの威力で爆ぜた。
「……火のついたボールで、球技? ふ、ふん……よくもそんな、わけのわからない遊びをするものだ!」
 そんな事を叫びつつ、ラグナ・グラウシード(ib8459)は鬼火に目を向ける。
「はっ、どうした能無しが! 私はここだ、かかってこいッ!」
 仲間達と違い、彼は湖に入ろうとはせずにその場で叫び、鬼火の注意を引くことを試みる。
 重量の重い彼が湖に足を踏み入れたら、鬼火で溶け始めている氷が即座に氷が割れかねないからだ。
「落ち着きなさい! 必ず、必ず助けてあげるわ!!」
 鬼火への恐怖と、開拓者達を見た瞬間心の箍が外れたのだろう。
 助けてとさらに激しく叫びだした少年達にレヴェリーが一喝。
 せっかくラグナが注意を引き付けているのに、鬼火達が少年達に戻ってしまいかねない。
 恐怖を必死にレヴェリーへの信頼で抑えた少年達。
 沈黙する彼らから浮遊していた鬼火達は、ゆらりとラグナ達開拓者に向き直る ――。


●鬼火VS開拓者!
 八匹の鬼火は邪魔な開拓者を排除すべく、小島から岸に向って飛んで来る!
「では、早急に救助とまいりましょう」
 鬼火の火球を奔刃術で鮮やかに捌き、珠々(ia5322)は早駆で小島へと駆ける。
「みんな、もう大丈夫だから」
 天河が、次いで珠々が小島の若者達に駆け寄る。
 ラグナに向っていたはずの鬼火がユーターンして天河の後ろから攻撃を仕掛けようとしたが、珠々の忍刀で弾き飛ばされた。
「おねぇちゃん、ありがとうっ!」
 一番年下であると思われる少年が、男の天河に思いっきり抱きつき、天河の笑顔が凍りついた。
「ぼっ、僕は男だー! ……あっ、いや、その、たぶんっ!」
 思いっきりそっぽを向こうとした天河だが、うりゅっと潤んだ瞳で見上げられて控えめに訂正。
「怪我はありませんか!」
 利穏(ia9760)は自身の俊敏さを上げ、灰の撒かれた氷の上と鬼火を避けながら少年達に合流!
 即座に少年たちの身体を調べ、傷に治癒符を貼り付ける。
 元々火の玉を蹴るという危険な遊びなのだから軽い火傷も負っているし、鬼火の火の玉でいたぶられたのだから被害は大きい。
 特に最年長の青年は歳若い仲間を庇ってその背に酷い火傷を負っていた。
「その程度の攻撃で、私に傷がつくとでも? ふんっ!」
 岸に向って突っ込んできた鬼火を、ラグナはグレートソードでおもいっきり振りぬく。
 火の粉を撒き散らしながら鬼火は真っ二つにさけ紫色の煙と化した。
「援護は任せてください」
 ラグナに一気に向かっていった鬼火に珠々のクナイが次々と突き刺さる。
 後方からの不意打ちに鬼火は大きく跳びはねて苦しがる!
「岸に行ったら、焚き火も用意してあるから、もう少しなんだぞっ」
 利穏の治療が済んで動けるようになった少年を、天河は肩を貸して岸へと歩く。
「お前達の相手は、私達よ!!」
 小島に再び戻ろうとする鬼火を、レヴェリーが引き付ける。
 足元の不安定な氷の上で、何処まで技を決めれるか。
 なめし皮で作られた丈夫なグランドヘビーブーツは、けれど氷の上ではどうしても力が入らない。
(それなら……)
 滑って力の入らないブーツを、レヴェリーは脱ぎ捨てる。
 氷の冷たさがブラックニーソに包まれた足に突き刺さり、痛みを訴える。
 けれどそれでも、滑らない分転倒の危険なく鬼火達と戦えるのだ。
「さてと、俺もファイアボッ! 決めるかな」
 にやりと不適に笑い、滝月はレヴェリーと怜、そしてフェンリエッタに目線で合図。
 咆哮をあげる滝月に残った鬼火が一気に集まった!
 鬼火達が一気に火の玉を飛ばし、足元の氷が溶け始める。
 珠々に守られながら少年達を岸に連れている天河は、溶け出す足元に怯える少年達を励ます。
 滝月達とは大分離れた場所を岸に向かっているのだが、一箇所が溶けるとその反動で別の氷にも亀裂が入るのだ。
 時間が無い事を感じ取った滝月、レヴェリー、怜、そしてフェンリエッタ。
 四人同時に、滝月の咆哮で一直線に並んだ鬼火達に必殺技を発動!
「……ここにいる。どこにもない。折れた剣と心は置いてきぼり。運命が閉ざした未来。約束。今の私に出来る事……この心に答えて、雷鳴剣!」
「この空と氷の狭間には……夢見る以上の事があるのだぜ!」
「救ってみせる。必ず……此の身が幾ら傷付く事になろうとも! ブレードファン、トルネード!」
 フェンリエッタの雷鳴剣が鬼火に突き刺さり、怜の魔弾が鬼火を撃ち抜き、レヴェリーの鉄扇が踊るように舞う様に鬼火を切り刻む!
「消し飛べ!」
 滝月のシュートが見事に決まり、
「逃がしはしませんよ!」
 残っていた鬼火に利穏が白狐で追撃、
「これで終わりだ!」
 ラグナが最後の一匹に氷に叩きつけるようにグレートソードを深々と突き立てる。


●ファイアボッ!
「ジルベリアって、凄く個性的なスポーツがあるんですね。何と言うか、スタイリッシュ・蹴鞠と言うか……でも、ちょっと危なそう」
 鬼火を殲滅し、岸で少年達の手当てを進める利穏は、そう分析。
 小島では応急手当を済ましてあるものの、フェンリエッタの毛布に包まって焚き火に当たる少年達はあちらこちらにまだまだ火傷が。
「温まってきましたか?」
 一番冷えの酷かった少年の足を、珠々は一心不乱に乾布摩擦。
 あと少し手当てが遅かったら凍傷を起こしていたかもしれない少年の足は、珠々の暖かい想いと手の平で熱を取り戻してゆく。
「次も助けてあげられるとは限らない。だから、ね? 次はこんな所で遊んでは駄目よ?」
 フェンリエッタの用意した甘酒で一息ついている少年に、レヴェリーはちょっとだけお小言。
 偶然開拓者たるレヴェリー達が駆けつけることが出来たから良かったものの、アヤカシ相手でなくともこのジルベリアの真冬に池に落ちでもしたら命の保障は出来かねるのだ。
「楽しい遊びでも限度が大切です。危ない火遊びは程々にしておいた方が良さそうです」
 最後の一人の負傷を完治して、利穏はんーっとのびをする。
「…………」
 そしてラグナはじーっと布のボールを両手に抱えて見つめていたり。
「火をつけましょうか?」
 フェンリエッタが気づき、丁度持っていた松明を掲げる。
「僕も、ファイアボッ! 教えて欲しいな」
「鬼火とはまた違った蹴り味が楽しめそうかな」
 天河と滝月も立ち上がり、ラグナの側へ。
「おっ、それなら俺も参加するのだぜ!」
 怜も長い黒髪をキュッと結わきなおして参戦。
「火傷しても僕が全て治療しますよ」
 ふふっと笑って利穏はみんなを後押し。
「プレイの際にやけどが必須な、馬鹿らしい遊びだ……す、少しは面白そうかもしれんな。皆がやりたいというからやってみるんだぞ!」
 頬っぺたをちょっと赤くして、ラグナは足元にボールを置き、フェンリエッタがそれに火を灯す。

「「「ファイアボッツ!」」」

 ジルベリアの空にみんなの楽しげな掛け声が吸い込まれた。