おいでませ借金取り!
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/01/29 03:18



■オープニング本文

 うららかな冬の午後だった。
 寒さの厳しいジルベリアにしては、春を思わせるほどにのどかだったその日、マッチョ開拓者は不幸にも、ギルドに来てしまった。
 開拓者なのだから、依頼で街を離れていない限りはほぼ毎日ギルドに訪れるのが日課だが、今日この日だけはマッチョ開拓者は訪れるべきではなかったのだ。
 そうすれば、この先起こる不慮のトラブルに巻き込まれることもなかったのに。
(あれは……深緋?)
 ギルドの入り口の植木に、なにやら見慣れた化粧の濃い女が身を潜めている。
「おい?」
「しいいいいいいっ!!!!」
 口に人差し指を押し当てて、深緋は必死の形相でマッチョ開拓者を押し倒した。
『うぉおいっ、こんな真昼間からおまえっ?!』
『何勘違いしてるのさっ、そのでかい図体をさっさと隠しなさいいいいっ!』
 二人とも小声で叫ぶという必殺技を炸裂させながら、だがどうやってもでかくてマッチョ開拓者は植木の陰には隠れきれない。

「「「「あそこにいるぞ!」」」」

「!!!!」
 見つけたという声にびくっと反射的に顔を上げてしまった深緋は、おもいっきり見つかってしまった。
「違うの、全部こいつの為なのよーーーーぅっーーーーー!!」
「ええええええ?!」
 深緋は咄嗟にマッチョ開拓者の首根っこをつかんで叫ぶ!
 マッチョ開拓者も叫ぶがもう何が起こったのかさっぱりわからない。


 数分後。
 ガタイのいい黒尽くめの男達から解放された深緋とマッチョ開拓者は、一気に歳を取ったようだった。
 ギルド受付にしぶしぶと座る深緋と、その前にじと目で陣取るマッチョ開拓者。
「つまり、借金こさえたんだな……?」
 ブチブチとブチ切れそうな神経を総動員して、マッチョ開拓者は深緋に確認を取る。
「……」
「無視すんな。一人で処理させるぞ」
 不貞腐れたようにそっぽを向いていた深緋は、しぶしぶ頷く。
 黒尽くめの男達の話によれば、深緋はなんと別れた彼氏の為に借金をしていたのだ。
「イケメンだったのよぅ……」
 昨年末に別れたらしい深緋の元彼は、どうやら最初から深緋に貢がせることだけが目的だったのだ。
 とどめに貢がせまくった挙句に借金までこさえていくという使い捨てっぷり。
 そして深緋はなんとか頑張ろうにもどんどん借金の返済が滞り、利子が膨らみ、借金取りから追われる羽目に。
「これじゃぁ、青丹みたいだわぁ……」
 厚化粧が溶け出すからとぐっと泣くのを我慢している深緋だが、目がどこか虚ろ。
「誰だよそれ」
「妹よぅ。いっつも借金取りに追われてるの」
「どんな妹だそれ」
 いや、この姉にしてその妹ありなのか?
 というか一体何人深緋には姉妹兄弟いるんだか。
 だが今はそんなことはどうでもいい。
「俺まで借金だからなぁ」
 黒尽くめの男達に連行されそうになった深緋と一緒にいたのが運のつき。
 顔なじみの深緋を見捨てることも出来ず、あわやおっさんと結婚させられそうになった深緋の嘘を認めることで、マッチョ開拓者まで連帯保証人にされてしまったのだ。
 ちなみにおっさんは御歳72歳。
 深緋の歳を丁度逆。
 なんでも元々ギルド受付嬢として働いている深緋に目をつけていたようだ。
 黒尽くめ達の元締めだけあって、お金持ち。
「お金持ちでもイケメンじゃないといやああああああっ!」
 ついに厚化粧無視で袱紗に顔を埋めて泣き出す深緋。
 いや、その前に貴方マッチョ開拓者に謝ろうよ。
「わーったわーった、泣くな泣くな。期日までにどうにか金を返せればいいんだろう? なんか高額依頼ないのかよ」
 それなりに経験を積んでいるマッチョ開拓者、ギルド受付の横に山積みになっているまだ未処理の依頼に目を通す。
「うわっと、流石にそれはだめよぅっ、あっ!」
 咄嗟に未処理の依頼を奪おうとするが、マッチョ開拓者のほうが数段動きが早かった。
「これなんか良いんじゃね? アヤカシ1000本ノック」
 ぺらっとみせた依頼書にはありえないほどの高額が。
「よく読みなさい、それ、魔の森一歩手前状態よ……」
 袱紗から顔を上げた深緋、真剣な表情になる。
 依頼書によれば、ここ数ヶ月の間にアヤカシが頻繁に出現するようになったらしい。
 森の側の街道を良く使う商人からの依頼なのだが、どうもただの下級アヤカシがいるだけにしては量が多すぎるのだ。
 現在ギルドで下調べを先に済ませていたのだが、少なくとも中級アヤカシ3体、さらに下級アヤカシ数十匹は覚悟しなければならない。
「上級じゃなけりゃどうにかなるだろ。……上級はいない、よな?」
「そうね。でも金額に見合うだけのアヤカシがいるのは確実なの。やめて頂戴」
 きっぱりと深緋は言い切る。
 流石に何時ものふざけた口調はなりを潜めている。
「やめてといわれてもなぁ」
 ぽりぽりとマッチョ開拓者は頭をかく。
 危険すぎる高額依頼に手を出すか。
 それとも深緋を連れて『偽・愛の逃避行』か。
 逆切れで黒尽くめの貸し金屋を襲撃か。
 どれを選んでもお先真っ暗なのはキノセイか。
 マッチョ開拓者は天を仰いだ。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
川那辺 由愛(ia0068
24歳・女・陰
葛城 深墨(ia0422
21歳・男・陰
野乃原・那美(ia5377
15歳・女・シ
ラシュディア(ib0112
23歳・男・騎
五十君 晴臣(ib1730
21歳・男・陰
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟


■リプレイ本文

●まずは借金の桁を把握しよう?
「深緋さんお久しぶりです……。不運だったとは思いますが、別の方を巻き込むのはあまり良い事では無いかと……」
 ジルベリア開拓者ギルドの一室で、柊沢 霞澄(ia0067)は深緋を嗜める。
 流石にギルド受付で『借金』の二文字を連発するわけにもいかず、こっそりひっそり、狭い個室を7人の開拓者と深緋で貸しきってたりなんだり。
「男に騙されたぁ? ギルドの受付嬢ともあろう者が何をやっているんだか」
 呆れ果てながらも助けてあげるわよと笑う川那辺 由愛(ia0068)は、庇護対象な野乃原・那美(ia5377)にひっぱられる形でここに来た。
 那美曰く、『なんとなく親近感』。
 彼女は深緋と違って男にほいほいついて行きそうもなく、また、由愛が側についているのだから借金などとは程遠そうなのだが……。
「まったく、また妙な厄介事に巻き込まれて……」
 人の良いラシュディア(ib0112)さえも今回の事は呆れているようだ。「やれやれ、恋は盲目っていうけど借金はないだろ、借金は……」と追い討ちをかけている。
 まぁ、そう言いたくなるのも無理はない。
 イケメン好きにも限度があるというものだ。
「……えーっと、うん。利子は置いといて、一番はじめに借りた分のお金ってもう返したのかな?」
 口々に呆れられてさすがにくってりし始めた借金深緋に、蒼井 御子(ib4444)は意外と冷静に質問。
「わからないって、深緋、それは冗談かな?」
 蒼井の質問に首を振る深緋に、五十君 晴臣(ib1730)が真顔で目を見開く。
 いくらなんでもそんな馬鹿な。
 晴臣は金額によっては鍛え上げた胡蝶刀を借金のカタに差し出すつもりでいたのだが、予想外過ぎた。
 深緋は元々自分で借金をしたわけではなく、元彼が残していった借金をほぼ無理やり黒尽くめの男達に背負わされ、毎週膨らんだ利子の請求を何とか支払うのに必死だったらしい。
 黙って話を聞いていたマッチョ開拓者も深緋を人質に取られているような状況だったから、何も文句は言えなかったようだ。
「ふっふっふー。ですとろーい」
 蒼井も予想外すぎて天を仰ぐ。
「というか、マッチョさんは人が良すぎ……。なんかもう……二人、意外とお似合いだし逃避行も悪くないんじゃ……?」
 葛城 深墨(ia0422)の呟きに、開拓者ギルドの一室にみんなの乾いた笑いが響いた。


●街の噂は……
(意外と普通かな)
 晴臣は貸し金屋が良く見える茶店に席を取り、そんな感想を漏らす。
 店の入り口にはいかにもな風体の用心棒が数人いるが、出入りしている若い衆は黒尽くめということ以外取り立てて問題視するほどのものがない。
 中肉中背烏合の衆。
 開拓者崩れもいるようだが、さしたる敵とはなりえないだろう。
 ただ、泣き叫ぶ親と連れ去られる若い娘が店に連れ込まれるのを見て胸が痛む。
 今この場で間に立ち入って助けることは簡単だが、それは恐らく一時しのぎにしかならないから。
 白昼堂々揉め事を起こして顔を覚えられるのも問題だ。
(全ての人の借金を肩代わり出来る程、蓄えなどないからね)
 根本から解決しなくては。
 晴臣は現状を冷静に判断し、さらに中を良く探るべく、貸し金屋にそっと羽虫の式を忍び込ませる。


「……店は午後からだが」
 遊郭・セルバスタハブを訪れたラシュディアに、顔見知りのシノビの男はぼそりと呟く。
「あ、今日は客じゃないからな!」
「……つまり何時もは客として訪れているのだな。露甘楼の常連だと思ってはいたが」
「ちがっ、そうじゃなくて!」
 言葉尻を捉えて笑うシノビに、ラシュディアは一瞬にして真っ赤になる。
 確かにセルバスタハブには何度か訪れているし、同じ遊郭の露甘楼も訪れてはいるが、大体いつも仕事でだ。
 必死に弁明するラシュディアにシノビは「冗談だ」と笑いを収める。
「今日はちょっとした噂がないか知りたくてさ」
 まだ耳が赤いものの、ラシュディアは気を取り直して尋ねる。
「……ふむ。関係があるかどうかは確信が持てないが……」
 そういいながらもたらされた情報は、ラシュディアが求めていた情報正にそのもの。
「恩に着るよ。今度また何か奢らせてくれ」
 シノビの彼に抱きつかんばかりの喜びで、ラシュディアは次の場所へと駆けてゆく。


「長身で少したれ目、それでいて口元は甘やかだけじゃ……」
 深緋から聞いた元彼の人相を元に深墨は元彼を探してみているのだが、いかんせん、情報が少なすぎる。
 元彼だというのに深緋は肖像画一つ持っていなかったのだ。
『だって、動かない絵より動く実物がいいじゃなぁい?』
 そういいながら、目元が優しげだったとか肌の艶が女性並みだとか声がイケメンだとか。
 長々と元彼について熱く語られたのだが確定的な情報は何一つなし。
「ジルベリアに何人当てはまる男性がいるんだか……」
(万が一見つけたら、とっ捕まえてやろう……)
 そう思うものの、探し出すのは正直無理過ぎる。
「……もしこれで、元彼と貸金屋がつながってたりしたら面し……いやいや、笑えねぇよな」
 ふと思いついたことがあり、深墨は貸し金屋へと歩き出す。


「それにしても返せないからすぐに結婚……というのは短絡過ぎる気がします……。最初から仕組まれていたような気がするのは私だけでしょうか……?」
「悪徳金貸の中には、イケメンを使って、女の子をひっかけて貢がせた揚句に、自分トコから借金をさせるとかもいるらしいよー」
 柊沢と蒼井は貸し金屋の被害を調べ、その調べが進めば進むほど、最初から罠だったのではという疑惑が大きくなる。
 そんな二人は、夕暮れ時の酒場に来ていたり。
「噂をすれば、ほら。あれなんてあやしー?」
 蒼井がマスカレードマスクを身につけ、柊沢は蒼井から受け取ったもふらの面をつける。
 二人がそっと問題の人物に近寄ると……。
「借金がどうしたごらぁ……俺はそンなに借りてねーっつーのーっ!」
 大分出来上がっているオジサンが、マスターや周りの客に絡んでいる。
 周りの客もオジサンに同情的な様子を見ると、どうやら彼は普段から絡む人物ではないようだ。
 蒼井がそっとマスターに情報を聞きだすと、なんでもこの酔っ払い、娘の為にほんの少しだけ借金をしたのだが、返せる予定だった金額がいつの間にか膨れに膨れ、いまや娘をカタに差し出す寸前だとか。
 まだまだぐだを巻いているオジサンの肩に、蒼井はそっと手を置く。
「悔しいかい?」
 当たり前だと憤るオジサンに、蒼井は顔を隠したまま言い切る。
「ならば、紙袋ででも顔を隠し、夜中に店の前に来るといい。借金仲間と一緒にね。きっといい事がある。日時は……」
 

●潜入! 借用書を奪還せよ!
「さて、っと。洗い浚い見せてもらいましょうか」
「まあボクは借用書なんて書いたことはないけどね〜♪」
 深夜。
 貸し金屋の裏手に由愛と那美は忍び込む。
 昼間の内に自分達でも調査しておいたのだが、晴臣の式から得た情報に寄ればこの位置が門番達から死角なのだ。
「由愛さん調査お疲れ様なのだ♪ それじゃボクはお先に潜入してるね♪ 後でまた会おう、なのだ♪」
 ぴっと由愛にウィンク飛ばして余裕綽々、那美は貸し金屋の裏手から屋根へと軽々と飛び移る。
「那美。くれぐれも気を付けていきなさいね」
 自身も梵字顔布と狐面という二重の覆面で素顔を隠し、由愛も暗闇に身を潜める。
 那美は屋根裏から開いている二階の窓を使って内部に侵入!
(なんかこっちが臭うんだよね〜♪)
 シノビの本能か、それとも適当か。
 超越感覚で研ぎ澄まされた耳は、些細な悪事も見逃さない。
「さて、出来ればあくどい事しててくれるといいんだけどな♪ その方が斬れるし♪」
 本気なのか冗談なのか。
 那美は耳が捉えた気になる音へと抜き足で忍び寄る。


 そして別の位置からはラシュディアと晴臣も潜入。
 ラシュディアは天井裏から中の様子を伺う。
(借用書の場所は聞けたけれど……ともかく、奥の部屋から探していこう)
 昼間、借金取りに取り立てられている被害者達から聞いた話は少し曖昧で、詳しい間取りは当然不明。
 無理矢理書かされた借用書の場所は「奥の間に…」と指示する黒尽くめの呟きを聞いたことがある程度だったのだ。
 黒尽くめ達が被害者をわざわざ借用書の保管場所まで連れて行く必要もないから、仕方がないことだろう。
(借用書もだけど、女の子達も心配だ……)
 セルバスタハブと、晴臣からの情報にラシュディアは不安と怒りが込み上げてくる。
『ここ数ヶ月、とある貸し金屋が若い娘を遊郭に売り歩いているようだ』
 セルバスタハブのシノビがいうには、借金のカタに取り上げた娘達を遊郭に売りさばく貸し金屋があるのだとか。
 セルバスタハブにも売りにきたが、無論お断り。
 由緒正しく格式を重んじるセルバスタハブでは到底受け入れられるものではなかったとか。
(……あれは?)
 天井裏の隙間から中を窺うラシュディアは、明らかに超え太り周囲から別格の扱いを受けている老人に目を留める。
 老人は厭な笑い声を響かせ、黒尽くめの男達から何かの書類を受け取ると、自室らしき奥の部屋へと。
(間違いないね)
 廊下の角で見張りを呪術符で戦闘不能に陥らせた晴臣と目で合図。 
 ラシュディアは老人を守る黒尽くめの男達を晴臣があっさりと処分―― あくまで、気を失わせただけで殺してなどはいない―― したのを確認し、天井裏から老人の部屋へと潜む。
 老人の背後から羽交い絞めにしてその首元にクナイをつきつける。
 叫ぶことも出来ずに呻く老人に、ラシュディアは低く囁く。
「借用書を差し出せば命までは盗らないよ」
 突き付けられたクナイと、普段からは想像もつかない冷徹なラシュディアの声音に本気を感じ取った貸し金屋の主人は、それでも無駄な抵抗を示し口を噤む。
「証文の在処はこちらかな」
 晴臣が昼間の下調べで当たりをつけ、書棚の裏に隠された金庫を見つけ出す。
「!!!」
 暴れる老人の目の前で、晴臣は無言のまま斬撃符で高そうな調度品を切り刻む。
 次は貴方の番だと言わんばかり。
 陰陽覆「呪」の奥に光る晴臣の瞳と目が合い、主人はがくりと膝を落とした。
 ラシュディアは主人を晴臣に抑えてもらい、忍眼を使って金庫を解除しだす。


「ひとーつ人世の弱みを啜り、ふたーつ不埒な借金三昧、みっーつ醜い浮世の金を、退治てくれよ覆面仮面……というわけで、借金を踏み倒しに来ました」
 深墨は甘やかな目元の青年―― 深緋の元彼の前に立つ。
 元彼は目の前で覆面を被って現れた深墨に明らかに動揺したようだが、即座に微笑みかけてくる。
「キミ、良い身体してるね。貸し金屋に入らないかい?」
「ねぇよ!!!」
 元彼の頭に持っていた本の角ですかさず突っ込みを入れ、深墨は気絶した元彼を縛り上げる。
 

「なんて事なの……!」
 由愛は目の前に広がる光景に絶句する。
「あくどい事やってたねー、あはははは♪」
 最初に見つけた那美が思いっきり笑顔で黒尽くめの男たちを指差す。
 その部屋には、借金のカタにとられたと思わしき若い少女達が捕らわれ、縛り上げられていた。
「許さないわ……怨念よ。我が意を受けて化生せよ……!!」
 由愛は怒りに震えながら黒尽くめの男の顔面に大龍符をつき付ける。
 大龍符はおぞましくも恐ろしい龍に変わり、黒尽くめの男を恐怖のどん底に叩き落す。
「んふふ、悪いことしてたなら斬ってもいいよね? いいよねっ?」
 突然の侵入者に錯乱した黒尽くめの攻撃を畳返しで防ぎ、那美は思いっきり忍刀で斬りつける。
 志体持ちを即座に見抜いている辺り、忍びのカンと言った所か。
 騒ぎを聞きつけて、黒尽くめの男達が次々と駆けつけてくる。
「たーのしくなってきたぁ♪」
 那美と由愛、互いに背中合わせに敵を迎え撃つ。


●正義覆面紙袋、ここに見参!
「さて! 皆の者! もう金は返したくないかー?!」
 貸し金屋の店の前にずらりと並んだ被害者一同を見渡し、蒼井は叫ぶ。
 被害者一同は全員紙袋を被ってその集団は明らかに異様な雰囲気を醸し出しながら「うおぉおおおおっ!」と叫ぶ。
 蒼井もきっちり紙袋を被ったまま超越感覚を使い、皆が予定通り借用書を手に入れて店の中で暴れだしたのを確認!
「今こそ時は満ちた! 皆のもの、討ち入りじゃー!」
 芝居がかった口調で蒼井が煽ると全員、再び叫んで貸し金屋を包囲!
 蒼井の後ろには柊沢が控えて、「皆さん、思う存分思いのたけを晴らしてください……怪我は全てお治ししますから」とさりげなく煽りをプラス。
 貸し金屋からはラシュディア、晴臣、由愛、那美、深墨に叩きのめされた黒尽くめの男達がわらわらと逃げ出してくる。
 だが逃げ出した先にも今まで散々地獄を見せられた被害者達が包囲しているから、逃げ果せる筈もない。
 止めに出口には柊沢がちゃっかり撒いて置いた撒菱がびっしり。
「アレだ! 取り押さえろ!」
 蒼井に煽られまくって、被害者達は撒菱にやられて戦意喪失状態の黒尽くめの男達を次々と捕まえてゆく。
 そうこうしている内に、予め連絡を入れておいた町役人、登場!
「こちらがその証書です!」
「被害者達の書名もあります」
 ラシュディアと晴臣の入手した借用書に、淡い藍色に輝く柊沢が手を触れると文字が瞬く間に書き換わる。
 どう見ても皆、一桁違う。
「勧善懲悪正義覆面紙袋、ここに見参! 悪事は必ず暴かれるのだ!」
 いつの間にか全員紙袋を被り、高笑いと共にびしっと悪の親玉72歳に指をつき付ける。
 みなの前で悪事を暴かれた貸し金屋の主人はぐったりと頭を垂れた。

 後日。
「苦労させてくれたんだから、あたし達に酒位は奢ってくれるわよねぇ?」
 ふふっと笑う由愛の提案で、深緋がみんなに酒を振舞ってたり。
 借金に比べたら、お酒の一杯や二杯や樽、どうということもない。
 傷つけられた少女達は柊沢が即座に治療し、無事に親元へ。
 深墨につかまった元彼は、連絡を受けて駆けつけた深緋に思いっきりぽっくりで踏んづけられてその魅惑の顔面が破壊されていた。
(これに懲りて男を見る目、養ってくれるかな)
 豪快にお酒を飲む深緋に晴臣はほんのり遠い目をしつつ。
 無事、今回の事件は解決したのだった。