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■オープニング本文 「雪だるまが溶けてるらしぃのよね〜」 自慢の簪を弄りながら開拓者ギルド受付嬢・深緋は説明する。 もちろん、相手は通りすがりの開拓者にだ。 「あのー。話が見えないんですが‥‥?」 開拓者ギルドを訪れた早々、唐突に声をかけられて雪だるまが溶けるといわれても、ねぇ? 「だってそれ以外手がかりがないんですもの。説明しようがないと思わなぁい?」 依頼書を開拓者に見せて、深緋は笑う。 そこには、とある町で雪祭りの為に大量の雪のオブジェを作っているのだが、作る側から溶かされるわ壊されるわで、作業がままならないらしい。 このままでは雪祭りが開催できないということで、少ない貯蓄から開拓者ギルドへ依頼をする運びとなったそうな。 「目撃証言があるんですね」 依頼書に書かれている証言によると、夜中に子供ぐらいの人影数匹と、その周囲をちらちらと光る何かが漂っていたとの事。 目撃したのなら壊される前に追い払えばよかったのにと思うものの、アヤカシだったら命が無いし。 咄嗟に逃げてしまったという目撃者を責めれないだろう。 「なぁんで壊してるのか知らないけどぉ、そのうち人間まで壊されたらたまらないし? とりあえず、さくっと犯人突き止めて、ついでに雪ダルマも作り直してきてあげてよ。ね?」 にっこり笑顔で強引に依頼書を突きつけられた開拓者は、しぶしぶと依頼を受けることになるのだった‥‥。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
ジルベール・ダリエ(ia9952)
27歳・男・志
シャンテ・ラインハルト(ib0069)
16歳・女・吟
イクス・マギワークス(ib3887)
17歳・女・魔
ウルシュテッド(ib5445)
27歳・男・シ
白仙(ib5691)
16歳・女・巫
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
アリア・シュタイン(ib5959)
20歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ●雪祭りの町 三角屋根の町並みに、雪がうっすらと降り積もる。 石畳を歩く開拓者達の足元は、降り積もった雪がサクサクと音を立てて溶けてゆく。 「原因はなんだろう。‥‥まぁ、人間だったらシバく。アヤカシだったらシバき倒す。‥‥簡単なことだな」 雪ダルマが溶かされ壊される問題の町で、アリア・シュタイン(ib5959)はさくっと物騒な事を呟く。 いやいや、開拓者が人間シバいたら命に関わっちゃいますって。 「祭りや祭りや。くう、儲けの臭いがぷんぷんするで、こりゃたまらんわ‥‥」 雪ダルマやオブジェが多少壊されているとはいえ、雪祭り開催直前の町はそれはそれは活気付いていて、天津疾也(ia0019)の商人魂が刺激される。 「せっかく人々が心をこめて作ったものを壊していくなんて、よくないこと、です」 壊された雪ダルマを撫で、シャンテ・ラインハルト(ib0069)は作った人たちのことを想い、早く止めないとと呟く。 「観光収入を得るのは町にとっては死活問題に繋がるだろう。悪戯なら問題は少なくて済むが‥‥そう簡単にいかない可能性は否定できないな」 寒さが苦手なのか、クールな雰囲気からは予測のつかない意外さで、目一杯着込んできたイクス・マギワークス(ib3887)は、忙しそうに準備して回る町の人々の生活を思う。 決して裕福そうには見えない彼らは、それでも精一杯オブジェの修復やら雪祭りの為に奔走していた。 「せっかく作ったのを‥‥壊して行くなんて‥‥許せないなぁ‥‥。でも‥‥何で壊すんだろ‥‥」 おどおどと、でも誰もが不思議に思う壊す理由を、白仙(ib5691)も思いつけずに首をかしげる。 「ま、人の仕業で雪祭りの妨害目的なら制作に苦労する城に最初に手を出してもおかしくはなさそうかな。小さな人影はゴブリンの類かね?」 子供の悪戯にしては度が過ぎるし、唯一の目撃情報である夜の子供らしき人影はアヤカシではないかとウルシュテッド(ib5445)は予測する。 そしてジルベール(ia9952)は壊された雪ダルマ達を細部までよく観察する。 この寒空の下、雪だるまが溶けているのだ。 自然に溶ける筈はなく、それは人為的かアヤカシの仕業か。 数体の雪ダルマとクマのオブジェ、その全てをしっかりと確認する。 (壊され方が、二種類ある‥‥?) 一つは、明らかに子供の悪戯と思える程度の単純な壊れ方。 そう、うっかり転んで雪ダルマにぶつかってしまったような、可愛らしい壊れ方なのだ。 だがもう一種類は違う。 何か丸い炎でもその上に乗ったかのような、奇妙な溶け方をしている。 松明で溶かしたのか、それとも‥‥。 「たくさんの人が楽しみにしてる雪祭りの邪魔をするなんて、許せないよね! 絶対犯人捕まえるんだからっ!」 壊されたクマのオブジェを見て、ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)は小さな身体一杯に犯人への怒りを顕わにする。 そう、子供達の悪戯にせよアヤカシにせよ、捕まえて止めないと雪祭りは開催できなくなりかねないのだ。 開拓者達はそれを阻止すべく、準備に取り掛かった。 ●オブジェを守ろう、ダミーを作って。 「これ以上、街の方がつくった雪だるまやオブジェを壊させるわけにはいきません、ので‥‥」 シャンテが町の代表に確認を取って、開拓者全員で雪ダルマを作成しだす。 そう、今ある雪ダルマは壊されたものを含めて20体。 これを修復しつつ、もっと作って増やしてしまえば壊されても雪祭りまでに20体以上残る確率は大幅アップ。 とても良い提案だった。 「ほら、誰が一番大きいの作れるか競争や」 町の子供達にも呼びかけて、ジルベールはどんどん雪ダルマを大量生産! 開拓者だけで作るより、子供達にも楽しんでもらいながら作れば作業も減って楽しさ倍増。 「いやあ、懐かしいな‥‥子供の時になにかに憑かれたように作っては壊し、作っては壊しを繰り返してたな‥‥主に壊すのが楽しかったのだがな。ハッハッハッ‥‥」 無表情気味に、けれどきっと大笑いしているのだろう、アリアは子供の頃を思い出しながら壊れた雪ダルマを修復しだす。 壊すのが楽しかったというアリアの言葉に、雪ダルマを作るのを手伝っていた数人の子供達がぴくっと振り向いたが、アリアと目が合うと慌てて目を逸らす。 (むむっ? あの子達?) 雪ダルマを作りながら自分達を観察している者がいないか、ずっと周囲を伺っていたルゥミはいまの子供達が妙に気になって、でもまだ追いかけることはせずに雪ダルマをせっせと作る。 壊された雪ダルマが増えたりしていないか確認していた白仙は、猫耳をぴくぴくっと振るわせた。 「先日帰省した時に雪かきして雪だるまは作ったよ。こういうのはいくつになっても楽しいものだよな」 ソリを町の人から借りてきて、周囲の雪をそのソリで山ほどかき集めてきたウルシュテッドは、雪ダルマに松明を嵌め込む穴を加工する。 日頃砲術士として銃の整備をしている為か、松明を刺しても落ちないように上手い具合に穴を斜めに掘っていく。 「雪だるまを最後に作ったのは10年くらい前だろうか‥‥当時は然程気にならなかったが‥‥寒い」 ふわふわもこもこに着込んでいるにも関わらず、イクスは本当に寒さが苦手なのだろう。 雪ダルマを作る手が寒さでちょっと震えている。 「いまんとこ、怪しい奴等はおらんようやで」 少し早めに出店されていた露店の焼き串をかじりつつ町を警備して回っていた天津は、現状の町の様子を報告する。 怪しい奴等、の言葉に先ほどの子供達が再びぴくっと振り返る。 (ふむ‥‥) 天津の眼鏡がキラッと光った。 ●見張りはしっかりと 夜。 月明かりが雪に反射して、雪ダルマがほんのりと光り輝く。 そして今日は町の人々に協力してもらい、広場の周りの民家では明かりを灯し続けてもらっている。 少し窓を開けてもらい、その光は広場をいつもよりも明るく照らす中、開拓者達はそれぞれこっそりと潜む。 城のオブジェの横に置いたころっとした雪ダルマの中には、なんとルゥミ。 陶器のカップを足元において、その上に蝋燭も立てて視界もばっちり。 ちっこい子供だから出来るこの必殺技は、中から全方位を見られるよう雪ダルマに小さな穴が一杯開いていて抜かりない。 城のオブジェの裏には、アリア。 広場の入り口から丁度死角になるように隠れている。 「出歩いている住民はいないようだな」 雪ダルマに松明を刺して回っていたウルシュテッドは周囲を見渡す。 アヤカシの危険もあるからと、事前に町の人々に夜間の外出を控えてもらうようお願いしておいたのだが、きちんと守ってもらえたようだ。 松明にはまだ火を灯さない。 広場が余りに明るいと、犯人が警戒するかもしれないからだ。 そして広場の入り口付近で町の入口方面と広場の中心が見渡せる丁度良い場所には巨大なかまくらが設置され、イクス、シャンテ、ジルベール、天津、白仙の5人が潜んでいた。 「‥‥しかし、色々設置した後にこういうものを作るのは、インドア派には体力的にキツいものがあるな。明日は筋肉痛だろうか」 かまくら作りを提案し、実行したのはいいものの、イクスは寝袋に包まりながら身体に程よい疲れを感じていた。 「鳴子‥‥!」 全神経を猫耳に集中させていた白仙が不意に顔を上げる。 昼間の内にイクスが仕掛けておいた鳴子の音がしたのだ。 「アヤカシではないようだね。俺の鏡弦で感知でけへん」 ジルベールは予め決めておいた呼子笛を一回吹く。 二回ならアヤカシ、一回ならそれ以外。 その笛の音を聞いた広場に潜む開拓者は隠れ場所から姿を現し、シャンテは夜の子供達を奏でる。 そして鳴子の鳴ったという白仙の指差す広場の入り口へと全員集合! そこには、罠にかかって慌てて鳴子の音を止めようとしている数人と、子守唄で眠ってしまった子供達が。 ●敵は、一つとは限らない?! みんな、頑張って! 「やっぱり! 昼間の子達だね?!」 雪ダルマの中から飛び出して、ルゥミが雪まみれで子供達に詰め寄る。 「うわっ、うあわわ?!」 鳴子もびっくりだけど、雪ダルマから飛び出してくるのをまともに見てしまった子供達はもう、二重にびっくり。 鳴子を更にがんがん鳴らして逃げようとしても絡まって混乱するばかり。 「お前ら、これでどれだけの人がくっとるとおもうてんや、おまえらのせいで食えんようになったら最悪首つるやつもおるんやで」 鳴子に絡まってる子供に内心苦笑しつつ、天津は鳴子を解いてやりながらお説教。 「どうして‥‥雪ダルマを壊しちゃったの‥‥? 町の人達‥‥一生懸命‥‥作ったものなんだよ‥‥?」 開拓者に取り囲まれて、もう既に何もせずとも泣き出している子供達に、白仙は優しく尋ねる。 「えうっ、ひくっ、わざとじゃなかったの!」 「ぶつかって壊れちゃって、怒られるの怖くって」 「他のも壊せば目立たないかなって」 「でもこんなに一杯壊してないの、ほんとなんだようっ」 泣きながら、口々に必死に言い訳をする子供達。 子守唄で眠っていた子供も起きだして一緒に泣きじゃくる。 その顔にうそ偽りは感じられず、みんな、必死。 「つまり、子供らの他にも壊した奴がいるということか‥‥?」 アリアの言葉に反応するかのように、鳴子が再び鳴り響く。 「アヤカシやで!」 弦を爪弾いたジルベールがその数と方角を叫ぶ。 ウルシュテッドが即座に側の雪ダルマの松明を灯す。 その明かりに照らし出されたのは、数匹のゴブリンとウィルオーウィスプ! シャンテは即座に子供達を背に庇い、騎士の魂を奏でる。 「犯人、許さないんだよっ!」 満面の笑顔でルゥミは銃をぶっ放す。 「これ以上の悪さは‥‥許せません‥‥っ」 白仙の掌から小さな白い光弾が放たれ、向かって来たゴブリンを迎撃する。 「アヤカシの癖に一人前に城攻めとはな。悪いけどあの城は落とさせへんで」 ジルベールの瞳が輝き、その手から放たれた矢は狙い違わずゲラゲラと嗤うゴブリンに命中する。 だが、敵はゴブリンだけではない。 仲間がやられて怒ったのか、それともただ単に本能か。 ウィルオーウィスプの怒りの火の粉が子供達に向かって降り注ぐ! 「させぬ!」 イクスはばさりとコートを脱ぎ払って火の粉を払い、ウィルオーウィスプに冷気を送り込む! 身体の一部を凍らせられたウィルオーウィスプは奇妙な動きをしながら暴れまわり、周囲に更に火の粉を振りまいて雪ダルマを溶かし出す。 火の粉を頭から浴びた雪ダルマは丸く凹んで溶けてゆく。 「観念しろ。貴様に逃げ場はないぞ」 「無駄に暴れんなや! オブジェが壊れるで!」 暴れるアヤカシにアリアの銃身が火を噴き、とどめに天津の雷の刃が突き刺さる。 アヤカシ達は瘴気となって消え去った。 ●反省会と雪祭り。 明けて、翌日。 アヤカシの仕業だったと知った町の人々はほっとすると同時に、また現れて壊されたらと不安がったが、「壊されたのなら‥‥また作ればいいのでは‥‥」とシャンテにいわれて、なんとか雪祭りを開催。 遊んでいて壊してしまったという子供達の事は内緒。 「壊したものは‥‥ちゃんと直せば‥‥いいんだよ‥‥?」 半分はアヤカシのせいだけれど、もう半分は子供達のせい。 だから、白仙は子供達にちゃんと反省してもらう為にも、雪祭りを開催する大人たちの苦労を丁寧に語りながら子供達に雪ダルマを作らせる。 まだ昨日のことがショックだったのか子供達はおっかなびっくりだったけれど、それでも一生懸命雪ダルマを直しだした。 「やっと片付いたことだし。せっかくだからゆっくり見物でもするか‥‥」 父と合わずに家を飛び出してから、もう5年は経つのだろうか。 ジルベリア出身のアリアには、この町の雰囲気は昔を思い出させる。 「やっぱり、お祭りは楽しまなくちゃだよね♪」 ルゥミは天津に買って貰った串焼きをぱくっと頬張ってご機嫌。 「さぁ、こっからが本番やで! なあなあ、そこの露天商はん、人手足りんやろ? 俺を雇うと儲け倍増やで」 口八丁手八丁。 祭りといえば稼ぎ時とばかりに天津は飛び入りでアルバイトに入って商売に精を出す。 ウルシュテッドは先頭で破損した雪ダルマの修復に専念し、そして城のオブジェの横にはジルベールが作ったもふら様の雪像がにっこりと微笑んでいた。 |