†猫と寺院と猫又と†
マスター名：霜月零
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| ■オープニング本文 「それ、尻尾割れてないか……？」 ジルベリア開拓者ギルド受付で、新年でも暑苦しいマッチョ開拓者は冷や汗をたらす。 マッチョの指差す先には招き猫よろしくちょこんと受付に座った二股の猫。 「鳩羽の寺院で大量発生らしいわよぅ？」 対する深緋は二股の猫―― 猫又を撫で撫で。 「答えになってねーし。なんで最北領で猫又が大量発生するんだよ、おかしいだろ！」 周囲が振り向くほどの大きな音を出して受付をたたくマッチョ開拓者。 最北領だろうとなんだろうと、発生するものはするのだ。 まったくおかしくもなんともなく、猫又が片手を上げてキレてるマッチョ開拓者をなでなで。 片手を挙げると色合いのせいかより一層招き猫状態である。 「……猫に慰められる俺ってなんなんだ」 「まぁまぁ、新年なんだし、お目出度くていいじゃなぁい？ ついでに鳩羽の寺院に行って猫又どうにかしてくれないかしら」 「はい？」 いよいよ話が見えない。 猫又が大量発生だとか、どうにかしろとか。 ありえませんが？ 「なぁんか、最初は鼠だったらしいのよぅ。鼠が増えたなーと思ったら、次は猫が山ほど来てね？ 止めに猫又が発生したらしいわよぅ？」 猫が猫又に変化することなどありえない。 だから色々な偶然が重なったのだろうが……。 「正確には、鳩羽のすむ寺院の側の森ね。魔の森じゃないわよぅ？ その裏には鉱山もあるんだけど、鼠はたぶんそこから溢れてきたようよ？ で、鼠を食べる為に猫が集まって、ついでに猫又。もともと、スウィートホワイト領には猫又が多くいたようだけど、うちに連れてきたこの猫又は懐っこくてね。特に問題ないんだけど、あとの子がやんちゃでねぇ。森の中だけでなく寺院や街に下りて来て暴れてるようなの」 だから追い払ってと、カウンターに座っていた猫又を抱っこして深緋はにっこり。 「まった！ たしかあの残念美人さん、動物虐待すると泣きながら精霊砲撃つんじゃなかったか？」 以前鴨が大量発生したとかで、深緋がギルドに鴨を連れてきたことがあるのだ。 その時に確か鳩羽は動物虐待を許さず、精霊砲を撃ち放つと聴いた覚えがあるのだ。 「まぁねぇ。ばれなければいいんじゃないのぅ？ 懐かせれるなら懐かせればいいけど、猫又が好きなことなんてあたし知らないし？」 ごーろごーろと深緋の腕の中で、気持ち良さそうに猫又は喉を鳴らす。 人語を解す猫又を鳩羽にばれずにどうにかする？ 「無理だろ、それ……」 マッチョ開拓者の反論もむなしく、かくして猫又の正確な数もわからないというのにギルドにはまた新たな依頼書が貼り出されるのだった。 |
■参加者一覧
水月（ia2566）10歳・女・吟 
和奏（ia8807）17歳・男・志 
レヴェリー・ルナクロス（ia9985）20歳・女・騎 
羽喰 琥珀（ib3263）12歳・男・志 
マルカ・アルフォレスタ（ib4596）15歳・女・騎 
高崎・朱音（ib5430）10歳・女・砲 |
| ■リプレイ本文 ●猫がいっぱい、猫又もいっぱい！ 「なんともまあ、想像したよりもすごい状況のようじゃ。猫好きにはたまらない光景かもしれぬが……とりあえずは猫又をみつけぬとじゃろうか」 珍しく高崎・朱音（ib5430）は額に冷や汗を浮かべる。 大抵の事には動じなさそうな彼女だが、足元にまとわり付き捲る猫達にやや引き気味。 街はこれでもかというほどに猫と、恐らく混じっている猫又で溢れていて、足の踏み場もない。 下手にさくさくと足を踏み入れれば、不用意に猫を蹴ってしまいそうだった。 「うわーっ、大量っていったって限度があるんじゃないかっ？！」 なーなー鳴く猫達を数匹抱っこして、羽喰 琥珀（ib3263）もおろおろ。 猫と猫又大量発生のある意味前代未聞の事件な訳だが、目の前に広がる現実に集まった六人の開拓者は遠い目をしそうになる。 「榴遊さん、こちらへ。危険ですわ」 ギルド受付嬢の深緋の元にいた猫又・榴遊を庇い、マルカ・アルフォレスタ（ib4596）も道の端に避ける。 その間にも猫は情け容赦なく木の上から手を伸ばしマルカにちょっかい。 もしもマルカの髪が以前のように長かったら、引っ張られて大変過ぎたかもしれない。 「可愛いですね〜。……ってことでは、これは済みませんよね」 そう呟く和奏（ia8807）の目の前で、懐っこくないやんちゃな猫が民家の窓ガラスを割っていた。 もちろんわざと割っているのではないのだろうが、下手すると猫も人も大怪我だ。 民家から悲鳴があがると飛び込んだ猫が再び割れた窓から外へ飛び出してくる。 （街中の被害状況ももうかがっておいた方がよさげですね） スノーホワイト領では玩具に使われるほどにガラスはそれなりに普及しているのだが、窓に使う程となると値が張るのだ。 ぼんやりとしているようで周りをきちんと見ている和奏は、メモ帳片手についでに肩に乗っかった猫をそのまま連れて、街の中の被害状況の確認をしだす。 和奏の最愛の光華姫が怒るよりもこっそり和奏の胸元に隠れて被害を防いでいる辺り、猫達の数の凄さを物語っているといえるかもしれない。 「突然、猫又と猫達が暴れ始めるなんて……。此の侭では人々が安心して生活なんてできないわね。……っ！」 見知らぬ人を見たせいか、それとも本能なのか。 レヴェリー・ルナクロス（ia9985）は顔面に飛び掛ってきた猫を咄嗟に抱きとめて引っかかれた。 叩き落とせば怪我などせずに済んだのだろうが、元来優しく可愛い物好きの彼女にそんな行動は不可能。 （大変なの……） 街に着いた途端のこの事態に、寺院へ向かう予定だった水月（ia2566）は夜の子守唄を歌いだす。 彼女の白い髪に飾られたローレライの髪飾りが煌き、あたり一面の猫達を優しい眠りが包み込んだ。 ●寺院に何とか辿り着き…… 「†心†」 寺院に辿り着いた開拓者達を見た瞬間、依頼主の鳩羽は泣き出す一歩手前のような表情で駆け寄ってくる。 猫に懐かれまくって襲われまくった開拓者の面々は、擦り傷きり傷引っかき傷、髪も服も明らかにボロボロになっていた。 水月が猫達を上手く眠らせてくれなかったら、無事に寺院まで辿り着けなかったかもしれない。 「大丈夫です、皆様大きな怪我はまだしておりません。もちろん、街の猫又達もです」 意味不明な鳩羽の独特の口調を難なく理解し、マルカはそう答える。 その言葉にほっとして微笑む鳩羽に、マルカも心底安堵する。 鳩羽が泣き出すと、辺り一体が危険に晒されるのだ。 下手すると猫や猫又より被害は大きくなるかもしれない。 「水月のお陰で何とか町を抜けれたけれど、ここもそれなりに凄い事になっているわね」 足の踏み場もなかった街に比べればまだましだが、明らかに人より猫のほうが多い。 そして異常に懐っこい。 仮面が珍しいのか飛び上がってジャンプしてまで抱きついてくる猫に、レヴェリーは嬉しいやら困ったやら。 引っかかれるよりはいいのかもしれないが、いかにも抱っこをねだりまくってこられても、ねぇ？ 「おっ！ 猫又発見っ。なーなー、なんでこんなことになったのか教えろよー！」 琥珀が手と縞々尻尾をぶんぶん振って、通りすがりの猫又に声をかける。 だが猫又は一瞬足を止めて琥珀をみつめたものの、「ふーん？」って顔をして通り過ぎてしまった。 「やはり猫又さんはプライドが高いようですね」 背中に３匹ぐらい猫を背負いながら、和奏は冷静に状況分析。 「管狐ならもっと素直に話してくれるのになー。やっぱ相棒にするなら猫又より管狐だな〜」 猫又に振られてしまった琥珀はぷうっとほっぺたを膨らまして不貞腐れる。 「きっと猫又さんたちも被害者なの。鳩羽さん、何か思い当たることはありませんか……」 加害者であるはずの猫又をも心配する水月に、鳩羽は深く頷く。 だが鉱山から妙な鳴き声が聞こえている事ぐらいしか、やはり思い当たることはないようだ。 「榴遊、貴方も何も知らないのかしら？」 マルカの抱く深緋の猫又にレヴェリーは尋ねる。 もともと鉱山に住んでいたらしい榴遊なら、何か知っている可能性は高い。 しかし、榴遊は懐っこいようでいてそこはそれ、猫又。 何かを知っているようなのに身繕いをして答えてくれない。 和奏はぴんときた。 「立ち話もなんですから、美味しいお料理をご馳走しましょう。この事件が解決したら、榴遊さんのお好きな物を何でもご用意させて頂きます」 魚心あれば水心。 和奏の提案に榴遊はいちもにもなく飛びついた。 ●鉱山には一体何が？ 「さて、どのようなモノがいるのやら。ま、しっかりと警戒していくかの」 愛用のマスケット「クルマルス」を構え、朱音はその黒く大きな猫耳を研ぎ澄ます。 鉱山は事前情報や鳩羽から得た情報どおり、その入り口からは何か奇妙な鳴き声が漏れている。 「かなり老朽化が進んでいますわね」 坑道へ立ち入り、ゆっくりと奥に向かいながらマルカは柱に松明を近づける。 所々とはいえ大きな亀裂が見られた。 そしてさらになにかに齧られたような跡も。 そのせいで、歩いただけでもかなりのぐらつきが柱に見て取れた。 開拓者達は極力大きな音を立てないよう、松明の明かりを頼りに、そっと進み続ける。 半時も過ぎた頃だろうか。 「なぁなぁ、そろそろ問題の場所くさいぞっ」 鳩羽に書いてもらった坑道の地図を松明で照らし、琥珀が小声で皆に注意を促す。 心眼をつかってみると、やはり何かがいる。 瘴気結界を張っていた水月も気づいている。 側にいた和奏の袖をひっぱって注意を促した。 そして皆が今まで以上に明りの届き辛いところにも目を凝らして、周囲を伺うと……。 「いますね」 和奏がポツリと呟く。 その目線には、何かの尻尾だろうか。 坑道のＴ字路の右側から、ちょろちょろゆらゆらと松明の明りに照らされて大きな紐のようなものが揺らいで見える。 もう少し近づこうとした次の瞬間、 チューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー！！ 全長３ｍはあろうかという巨大鼠が飛び出してきた！ 「物には限度がって、俺いってんのいにー！！」 突進してきた巨大鼠―― 大きさから言って明らかに獣ではなくアヤカシだ――を、殲刀「朱天」で押し返す。 ただの獣ならあっさりと切り捨てられている状態だが敵はアヤカシ、瘴気を零しながらなおも突っ込んでくる！ 「此れも人々や猫又達の為……駆除させてもらうわ！」 「ふ、我が援護するのじゃ。しっかりと戦うが良いのじゃ」 レヴェリーの魔槍「ゲイ・ジャルグ」が巨大鼠を貫き、追い討ちをかけるように朱音のマスケットが火を噴いた。 もともと、巨大さ以外は大した事のないアヤカシ。 開拓者達の攻撃に一瞬にして瘴気へと還って逝った……。 ●事件解決？ きっともう安全♪ 「†謝†」 深々と鳩羽は皆に頭を下げる。 水月達のお陰で坑道がまた以前のように住めるようになり、猫又たちは何とか納得して戻ってくれたのだ。 「でもさでもさ、あいつら数多いし強いんだから、自分達でやっつけてくれても良かったのになー」 寺院の猫にお魚をあげながら、琥珀はわらう。 猫又達曰く、 『あんなものは人間達が退治するものなのにゃ』 坑道に沸いたアヤカシをすぐに退治してくれなかった怒りもあって、街で暴れていたとか何とか。 「すぐに事情を話してくれれば解決も早かったでしょうに……。そこもまた、猫又さんの所以なのでしょうね」 和奏が納得したように頷く。 プライドの高い猫又達は、人間に助けを求めるなんて許せなかったようだ。 だからこそ、騒ぎを起こして開拓者達をこの場所まで来るよう仕向けていたのだ。 「†願†」 「猫達をこちらにですね？ わかりましたわ。坑道の修理は出来るだけ早めにお願いしたいですわ」 マルカが力強く頷く。 街で猫又に煽られて猫達もかなり暴れていたので、街人達の猫に対する恐怖と怒りは、早々すぐに収まるものではない。 危険に晒されぬよう、この寺院に集めてきて欲しいと鳩羽はいうのだ。 鳩羽の性格的にもそうなのだが、レヴェリーの「私達も無闇に可愛い猫達を傷付けたくないの。鳩羽、協力して貰えるかしら」という願いが大きい。 寺院で全てを養うにはそれなりに大変なのだが、また手におえなくなったらレヴェリー達を頼る事だろう。 鼠や養われることを良しとしない猫や猫又は、坑道さえ修理して安全になれば、また元のように住みだすに違いない。 「被害状況が状況ですしね。ほとぼりが冷めるまでは、皆さんどうか街へは降りないでくださいね？」 寺院に集まった猫又達に、和奏はメモ帳片手に諭す。 ガラス窓もそうだが、庭の植木やら猫よろしく屋根に上って落とした瓦やら。 被害総額は枚挙に暇がない。 被害の大半は寺院が今まで貯めてきたお金で保障することになり、怪我人は―― といっても、皆精々引っかき傷程度だったのだが―― 水月が全て治した。 だからだろうか、ある程度は村長と和奏の話し合いで許してもらえてはいるのだが、暫く猫の姿を見たくはないようだ。 「イタズラも度が過ぎれば犯罪、ってな。イタズラのうちに謝ったほーがお前らの為だぜ？」 琥珀も諭すが、猫又達は何処までいうことを聞いているのやら。 「ふぅ〜……如何にか、丸く収まったかしら？」 寒空の下、レヴェリーは気持ち良さそうに伸びをする。 「これで安心ですわね」 マルカは榴遊とにっこり。 「まぁ一件落着、じゃの♪」 寺院の縁側に腰掛けて、朱音はのんびりお茶を頂いて。 今回の依頼は何とか無事に終わりを迎えることが出来たのだった。 |
