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■オープニング本文 ジルベリアのとある開拓者ギルド。 いつものように受付をサボっていた化粧の濃い受付嬢・深緋は磨いていた簪を落としかけた。 「……斬新な格好ね」 眼の前に現れた美女―― 妹の鳩羽に、そう声をかけるのが精一杯。 言われた鳩羽は姉の動揺を気にもせず、「†喜†」と呟いて頬を染める。 その鳩羽の格好はというと、いつもの巫女服とはうってかわったウィンタードレス。 務めている寺院に遊びに来るこどもたちと一緒に作ったらしい。 巫女服をどこをどうアレンジしたらそうなるのか謎なのだが、襟や裾のふわふわのファーと、ツインテールにつけた同じ柄のリボン、袴の前身は短く後ろは長く、足元は赤いブーツとなんというか普段の格好から離れすぎていて残念なイメージしかしない。 「†変†」 姉の動揺にやっと気づいたのか、浮かれ気味だった鳩羽の目が曇る。 咄嗟に深緋は首を振った。 とっても似合っているわよと。 泣く子も黙る鬼畜深緋でも鳩羽に泣きながら精霊砲は撃たれたくないのだ。 鳩羽といえば美人、美人といえば鳩羽。 四姉妹の中で一番の美人だというのにどうしてこうなった。 「で、今日はどうしたの? ここに来るってことはなにか困ったことがあったのかしら」 なんとか気を取り直して、深緋は鳩羽に紙とペンを渡す。 彼女の発言は姉である深緋は余裕で理解できるのだが、基本的に一般人には意味不明。 だからもう、要件は紙に書かせるほうが色々と早いのだ。 そして書かれた内容とは……。 『†来たれ開拓者! 雪のお菓子を作りましょう† ジルベリアの寺院にて、今話題の妖精を呼び寄せるべくお菓子をたくさん作ります。 街中の子供達に配るため、量が大量に必要です。 雪のお菓子づくりに、ぜひ開拓者の皆様のお力をお貸しください』 そんなこんなで、お菓子づくりのお手伝いさんを募集するべく、カウンターの目立つところに依頼書が貼り出されるのだった。 |
■参加者一覧
明王院 未楡(ib0349)
34歳・女・サ
御桜 依月(ib1224)
16歳・男・巫
浅葱 恋華(ib3116)
20歳・女・泰
綺咲・桜狐(ib3118)
16歳・女・陰
運切・千里(ib5554)
15歳・女・砲
月雪 霞(ib8255)
24歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ●まずは色々準備しよう☆ 「お菓子、お菓子ー♪ ふふ、妖精さん来ると良いなー♪」 うきうきうきうき☆ どこからどう見ても美少女にしか見えない男の娘・御桜 依月(ib1224)が笑顔で寺院にやってくる。 しかもその格好は残念美人・鳩羽とお揃い。 どこであつらえたのか、和風と洋風を混ぜたようなウィンタードレス。 残念美人と同じようなデザインだというのに、依月は可愛く着こなしていた。 やはり可愛い服というのは似合う子が着てこそなのだろう。 「ふふふっ、ま〜っかせて♪ 必要分はしーっかりと作るわよ♪」 依月の隣で自前のエプロンドレスに身を包み、ヤル気満々な浅葱 恋華(ib3116)は子供達に自信満々の笑み。 今日はこの寺院で美味しいおいしいお菓子を大量に作るのだ。 寺院の広い庭には恋華達開拓者の他に、お菓子がもらえるという噂を早くも聞きつけた町の子供達もちらほら。 第一印象がセクシー路線なイメージの彼女だが、エプロンドレスのせいか今日は随分と女の子らしい。 愛用の調理器具まで持ち込んでいたり、意外とかなりの料理好き&子供好き? 「キャンディスティックのお手伝いをするよ」 運切・千里(ib5554)が不思議な青色のグラデーションの入った髪とうさ耳を揺らして寺院の庭に入ってくる。 ちょっとおどおどとした運切のその両手には、大きな飴を溶かす為の鍋。 重そうなそれに気づいた明王院 未楡(ib0349)が即座に支える。 「一人では重かったでしょう……? 手伝いますね」 母親のように暖かい笑みで微笑まれ、運切はほっとする。 「クッキー用の型はありますか?」 そして今にも消えてしまいそうな儚さで、月雪 霞(ib8255)は寺院の方々に尋ねる。 寺院のお坊様は、彼女のちょっとその変わった雰囲気に一瞬戸惑った。 色素というものを感じられない透明感のある髪も珍しいのだが、なぜか布で目元から首元まできっちりと隠しているのだ。 どうしても人目を引いてしまう。 けれど驚くのも一瞬の事。 開拓者に多種多様な人がいるのは良く判っているし、寺院には様々な人々が悩み事の相談に訪れるのだ。 月雪の問いに蔵にありますと答え、月雪をお坊様が案内する。 「お菓子……美味しそうです。頑張って作ります……」 何か大きな期待に瞳を輝かせ、綺咲・桜狐(ib3118)はふさふさの狐の尻尾を揺らす。 本来なら料理は調理場で行うのだが、今回は作る量も大量なら人数も多い。 だから調理室でないと出来ない作業以外は庭で行う事にしたのだ。 みんなで大量の材料と道具を庭に持ち込んで、お菓子作りの準備は着々と進んでいく。 ●お菓子作りは丁寧に☆ 「折角ですから、色々な種類の物を作ってあげたいところですけど……。街中の子供達に行き渡るだけの量を……となると種類を増やし過ぎるのも難しいですし……」 材料と子供達の数、そして製作時間を考えながら、明王院は作業台の上に木型をセット。 よく見ると、明王院の周りにはおよそ料理とは似つかわしくない彫刻刀やら小さな木材が一杯。 「明王院君って器用だね」 明王院の作業を見ていた運切は、紫色の瞳を見開く。 運切はキャンディスティックの型があればと思っていたのだが、明王院はなんとその型を自力で作成、しかも量産できるようにとこの短時間にさくさくと数個の型を作ってしまったのだ。 おっとりとしていているのにとても器用なのは、やはり大家族の母だからだろうか? 「飴の表面に結晶の模様をつけるだけでしたら、丸刀で板を削れば十分でしょう」 「こっちの結晶の形の木型、ちょこっと借りれるかな?」 明王院が作った数種類の木型の内、木型そのものが結晶の形になっているものを選んで運切は尋ねる。 「ええ、構いませんよ。私はもう少し量産できるように木型を加工しますから」 「ありがと♪」 快く承諾してくれた明王院にお礼を言い、運切は自分の作業に戻る。 借りた木型に白く練った飴を伸ばし、くるくると周囲に巻いていく。 そうして、ぽんっと木型を抜けば、結晶型の飴の出来上がり♪ 余った飴をくるっとスティックに巻きつければ、それはもう一種類のスノードロップ・キャンディスティック。 本来はスティック部分に妖精の飾りをつけるのだが、この形状なら結晶の先端から別の飴を糸のように細くして、その先に妖精をくくりつけて見るのもいいかもしれない。 飴で出来た雪の結晶の中で、妖精がふわふわと揺れる。 「あ……。子供達に少し手伝っていただくというのはどうでしょう? ただ待つよりも、一緒に作った方が楽しんでいただけると思います」 揺れる妖精を離れたところからじっと見つめていた子供達に気づき、月雪は提案する。 特殊な格好をした月雪に見つめられた子供達は、少し怯えた様な素振りを見せた。 だが彼女の瞳に浮かぶ優しさと気遣いを感じ取り、リーダー格の少年にくっついて子供達が開拓者達に近寄ってくる。 その瞬間、恋華がささっと何かを隠した。 「あれ……? 今何か……」 「気のせいよ気のせい。此れだけ大量に作るのは、岩屋城を死守した時以来かしらね〜」 恋華の奇妙な行動に気づいた桜狐を黙らせて、恋華は鳩羽を手招き。 「†用†」 「そうよ、用事があるの。子供達の為だからね〜、鳩羽も、一緒に頑張りましょ♪」 鳩羽の奇妙な言語に慣れたらしい。 恋華はさっくりと解読して鳩羽に泡だて器を手渡す。 だが手渡された鳩羽は泡だて器を見つめて動かない。 「鳩羽ちゃん、それはね、こうやって白身を泡立てるんだよー♪」 依月が気づいて見本を見せる。 「†解†」 依月の真似をして鳩羽が泡立て始める。 「ほーら、桜狐。味見をお願い、此れだけよ?」 自分の作業そっちのけで涎をたらして恋華を見つめていた桜狐に恋華はとっておきを食べさせる。 桜狐に見えないようにお菓子を手で隠して、口をあけてまっている桜狐の小さな口の中へ。 「こ、この味はっ……!」 口の中に広がった、大好きな油揚げの独特の甘みに桜狐は飛び上がる。 「ふふふ、驚いているわね。これぞ恋華特製油揚げのお菓子、名付けてスノーシュガープチフルール!」 ドヤ顔の恋華が桜狐の前にぱっとスノーシュガープチフルールの山を見せる。 「依月が飾ったキャンディリボンとスノードロップキャンディもいい感じでしょー♪」 こちらも笑顔で桜狐の反応を楽しんでいる。 油揚げのお菓子を桜狐が作りたがっていたのを知っていたから、こっそり二人で作ったのだ。 余分な油を抜いて中に飴の代わりにお餅を詰めて、巾着状に口を干瓢でしばって揚げて、表面にザラメをまぶして。 干瓢の上にさらに細い飴をまいてリボンのようにして、明王院が量産してくれているドロップキャンディを飾る。 油揚げが大好きな依月だけでなく、見た目も味も子供達が喜びそうな一品だった。 「ん、美味しいです。もう少しだけ食べても……」 「それは駄目よ」 「あぅ。恋華、いけずです……」 次々と食べそうになる桜狐にピシッと釘をさして、恋華はもう一つ秘密のお菓子を作り出す。 「これで、生地は完成ですね……」 ふうっと息を吐き、月雪は完成した生地の表面を撫でる。 明王院のお陰で必須だった二種類のキャンディはさくさくと量産出来ているのでこちらはクッキー作りを開始したのだ。 「みなさん、こちらも手伝ってみますか?」 テーブルに集まっている子供達に声をかける。 子供達の小さな手でも簡単に作れるように、月雪は生地を適量にちぎって子供達に。 それでなにを作るかといえば、ころころと生地を丸めるだけ。 これなら、泥団子をよく作っている子供達にはお手の物。 しかも生地のしっとりとした感覚は泥団子ではまた味わえない楽しさで、子供達は嬉々としてころころころころ♪ 熱がきちんと中まで通るように余り大きくはせず、小さめに作らせているのもまた可愛い。 「半分に折ってやると楽だよ〜」 運切が近くの子供に厚紙とハサミを手渡して結晶模様を作らせる。 でもこれがなかなか難しい。 子供用のハサミは生憎ないし、厚紙を雪の結晶をイメージして切るというのが困難だったのだ。 「大丈夫大丈夫、どんな形でもいんだよ。でもあんまり複雑にしちゃ駄目だよ? じゃないと後で自分が大変になっちゃうんだよ」 運切の説明に子供達は首をかしげながらも思い思いの形にくりぬいていく。 「うん、上手に出来てるよ。これをね、こうやって生地の上に並べてみてね」 ちょっと変わった茶色がかった生地の上に、運切は自分も作った結晶模様の厚紙を置く。 子供達も、それに習っておっかなびっくり厚紙を乗せる。 「よし、ここからが本番! みんな、この木のナイフをつかって生地をくりぬいてね。まずは最初に僕がお手本だよ」 木で出来た子供達の手にぴったり合う小さなそのナイフは、明王院作。 既存の木のナイフでもよかったのだが、明王院の器用さを見ていた運切は、もしよかったら作ってもらえないかと交渉していたのだ。 「上手く使えているようでなによりです」 あらかたキャンディを作り終えた明王院が、子供達がナイフを持ちやすそうに使っているのを見て幸せそうに微笑む。 「明王院君のお陰で作業が取っても楽になってるよ。本当にありがとう」 髪と同じ色のウサ耳を揺らして、運切もご機嫌♪ 仕上げの為のアイシングをてきぱきと作り出す。 ●お菓子と雪と☆ 「完成したねー♪」 みんなが作ったお菓子をラッピングして、依月はハイテンション☆ 甘い香りが漂う寺院の庭には、お手伝いをした子供達が自分達が作ったお菓子とみんなに配られるお菓子の二種類をほうばっている。 香りに気づいたのか、町の子供達が次々と寺院に来ているのもまた嬉しい誤算。 「熱いのもあるから気をつけるのよ?」 子供達にばれないようにこっそりと作ったメレンゲクッキーを手渡して、恋華は子供達の驚く顔に再びにっこり。 まるで雪をそのまま使ったような白いメレンゲクッキーは、通常の丸くて先のとがった形状ではなく、恋華オリジナルバージョン。 雪兎や雪狐、雪栗鼠。 ありとあらゆる小動物の形に作られて、見た目も可愛く楽しく仕上がっているのだ。 「あらあら、いけませんよ。お菓子は一杯ありますから、皆で仲良く楽しく食べましょうね」 あんまりにも可愛いし美味しいせいだろう。 取り合いを始めてしまった子供達もいて、月雪は慌てて仲裁に入る。 彼女と子供達の作ったお菓子はスノーボール。 コロコロと丸めて竈で焼き上げた生地に、粉砂糖をまぶしてある。 そして子供達にも作らせた結晶型のクッキーは焼き上げたあとに運切の作ったアイシングが白く一層美味しく引き立っている。 「油揚げのお菓子も、差し上げます……」 本当は断腸の思いなのだが、可愛い子供たちの笑顔の前には逆らえない。 桜狐は美味しすぎたスノーシュガープチフルールに別れを告げて、子供達の笑顔を受け取った。 「子供達が喜んでくれたから、苦労した甲斐があったわよね♪」 両腕を頭の上で組んで勝利に浸る恋華に、明王院も頷く。 「あとは町の子供達にも配りにいきましょうか」 「妖精さん、くるといいね♪」 くるっとウィンタードレスでターンして、自らが妖精のような依月。 ―― ふわふわと、冷たくも優しい雪の結晶が空から降りてきた。 |