エルフと図書館と配列と
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/06 04:35



■オープニング本文

 そう、それはこんな一言から始まった。
「なんだが、雑然としているのですよ〜」
 自分の背よりもはるかに高い本棚を見上げ、アッ・ラティーフはずり落ちるアンダーリムの眼鏡を抑える。
『オリジナルシップについて調べる』
 当初、そんな目的と共にこの天儀の図書館にアル=カマルからやってきたこのエルフ。
 けれどその目的は一向に果たされず、むしろきちんと調べているのかどうかさえ怪しい様子で、大好きな読書に浸る日々が続いていた。
 ちなみにお気に入りは日当たりの良い窓際の席。
 図書館を訪れるお客様ガン無視でお昼寝しているのはいつもの光景。
 そんな彼女がうとうとしつつ起きだして、本棚を見上げているのには訳がある。
 ラティーフの背の届かないその位置にある本が、どうみてもバラバラなのだ。
 色も大きさも、そしてタイトルさえも全くのばらばら。
 秩序というものを無視したそれに、たまたま彼女は気づいてしまったのだ。
 腐ってもエルフ、眠くとも読書好き。
「直すべきなのですよ〜」
 呟いて、うんしょっと背を伸ばす。
 この時点で、側に誰かいればよかったのだ。
 そうしたらこの次に起きる惨事は防げたかもしれない。
 いや、もしいたとしても、次の瞬間彼女が取る行動は予測出来なかっただろう。
「と、ど、か、な、い? でも、頑張るのですよ、とーうっ!」
 精一杯背伸びしてもダメな時点で諦めるか椅子を持ってくるかすればよかったものを、彼女は事もあろうか目一杯ジャンプしておもいっきり棚を叩いたのだ!
「あ、うわっ、うあああああっ?!」
 ぐらりと揺らぐ棚、そのままバランスを崩して棚の上に乗っかる形のラティーフ、そして棚は一瞬とも永遠とも思える時間の中で……。

 どんがらガッシャン!!!

 盛大な破壊音を図書館に響かせて床にぶち当たり、その使命を全うした。
 つまり、大破。
「あうっ、あうう、あうううううっ〜っ?!」
 ばらっばらに砕けて壊れた本棚と、そこら中に飛び散る本の量は尋常ではない。
 ラティーフは涙目であたりを見回す。
 ちょっと秩序のなっていなかった本の並び方と、今の惨状。
 どちらが酷いかは言わずもがな。
 奇跡的にも彼女は本に埋もれながらも無事だった。
 だが本はそうではない。
 壊れた本棚の修理もそうだが、飛び散った本の中には折れてひしゃげているものや破れてしまったもの、酷いものになると元は一冊の本だったのだろうが綴じ紐が切れてバラバラになっているものまである。
 幸い、この図書館の司書は出張で出かけていて、あと数日は戻らない。
「図書館は、数日開いていなくても問題ないのですよ、きっと〜」
 彼女はほんの山から這い出し、気を取り直す。
 そう、司書が戻ってくるまでに何とかすれば良いのだ。
 彼女は手書きで『臨時休業』の札を作って図書館の入口に貼りつけると、いそいそと開拓者ギルドへ向かうのだった。
 


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
暁 露蝶(ia1020
15歳・女・泰
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
烏丸 琴音(ib6802
10歳・女・陰


■リプレイ本文

●とりあえず何とかしよう!
「あー……うん、言いたい事はわかった。だからまず状況確認させろ?」
 あうあうと言葉にならない言葉を発して大粒の涙をこぼすラティーフに、竜哉(ia8037)は冷や汗。
 端正な顔に大きく困惑が浮かんでいる。
 ギルドで緊急の依頼を見つけて図書館へ駆けつけたのだが、もうなんというか。
「あらあらあら……これは……また、派手にやったわねぇ……」
 その横で、暁 露蝶(ia1020)もシャープな顎に手を添えて苦笑する。
 図書館に一歩入った瞬間、目に飛び込んでくる情景の酷さと言ったら、もう。
「本を整理するのに、本棚にジャンプしてはダメだと思うのです」
 眼の前に広がる惨状にめげずに、烏丸 琴音(ib6802)は涙目で説明するラティーフにもっともな意見。
 ラティーフよりずっと幼いのにしっかり者だ。
「そうだね。ちゃんと椅子使ってたら、こんな事にならなかったんじゃないかな?」
 今度からは気を付けないとダメだぞと、水鏡 絵梨乃(ia0191)は元気づけるようにラティーフに軽くデコピン。
 そしてそんなラティーフに萌えまくっているのは村雨 紫狼(ia9073)。
「いやもうね、アーたんにあーんなことやこーんなことさせてね、弾みで抱きつかれちゃったり何だりしてね? このロリきょぬードジっ娘メガネさんがーっ」
 きっと、脳内で叫んでいたはずなのだろう。
 でもバッチリ声に出して叫んでしまった彼は、まわりの驚いた表情にも気づかずに夢に浸っている。
 目の前に散乱する壊れた本棚と本を前にそれだけ突き抜けた想像を出来るのはきっと彼だけの特技だろう。
 その特技が吉と出るか凶と出るか。
「たぶん最初の整理が重要です」
 惨状にも妄想にも揺らがない冷静さで、鈴木 透子(ia5664)は現状把握。
 襷掛けをして手ぬぐいを握り締める。
 さあ、総勢7名による短期間強行お片づけ、スタートです!


●作業は分担、手際良く♪
「落ちた位置から元にあった場所を考え、それで区分してみてはどうでしょうか」
 着物の裾がじゃまにならないように腰上げをして、透子は散乱した本の脇に座り込む。
 遠くに飛んでしまったものもあるとしても、それは少数。
 大半はこの山の中に埋まっているに違いないと考え、そしてそれは正しそうだ。
「無事なのと、破れたのとバラバラになったのに分けるのです」
 作業効率を考え、琴音も透子の隣にちょこんと座る。
 分類を大凡で分けて、更に其処から修理しなければいけないものを選べば、修理後の分類作業はしなくて済むのだから時間短縮になる。 
「何とか頑張って直しましょうね」
 不安そうなラティーフを元気づけながら、露蝶は透子と琴音が分け始めた本を一冊手に取る。
 分類を確認して手に取ったそれは、よりにもよって挿絵ページが破れてしまったもの。
 挿絵もそうだが、所々ボロボロで、修復を考えるよりまるまる書き写してしまったほうがよさそうな代物だ。
「まぁ、悪気があってやったことではないだろうしな。なんとか間に合うように一緒に頑張ろう」
 挿絵が破れていることに気づいてさらに青ざめるラティーフを、水鏡は優しく頭を撫でてやる。
 そして本の山の中から本棚の残骸を村雨と竜哉が回収。
 残骸となったとは言えかなり重いし、女の子達に修理はちょっと無理そうだから。
 ラティーフが背伸びしても届かない高さだけあって、横板だけでもかなりの長さと重さ、高さにいたっては長身の竜哉といい勝負。
「床の傷は何とかなりそうだな」
 竜哉は片付けた本棚の、一番強く当たったであろう部分の床を念入りに調べる。
 ぎっしりと詰まった本を収めた重い本棚と、それに比べたら軽いとはいえラティーフが一緒に倒れこんだのだ。
 衝撃で床に酷い傷がついていてもおかしくはなかった。
 だが幸運な事に全体的に上手く衝撃が散ったのか、床の傷はさほどなく、表面が擦れた程度。
 竜哉が心配していた大きな凹みはなく、これならヤスリを掛けて周囲と同じ色で塗り直せば問題ないだろう。
「結構板が割れちまってるし、街に買い出しだな!」
 いうが早いか村雨、全力で街に飛び出していく。
 女の子が一杯のこの依頼、村雨的に気合入りまくりらしい。
 そんな村雨を見送って、竜哉は図書資料室へ。
 

●作業は丁寧に、休憩は十分に♪
「これは……、まだ十分使えそうね。こちらのページは残念ながら無理そう……」
 選り分けた修復する本を更に細分化しつつ、露蝶は挿絵の修復に全力を尽くす。
 刺繍は得意なんだけれどという彼女は、絵心には自信がないらしい。
 けれど刺繍でよく見かける花柄やレースは絵にも反映されるようで、その部分に関しては最初の挿絵よりも正直美麗。
「とっても綺麗なのです」
 隣で一緒に挿絵を頑張っていた琴音が、露蝶によって描かれていく挿絵に感嘆の声を漏らす。
「琴音さんの挿絵も愛らしいわよ。私とは違った魅力に溢れていると思うわ」
 露蝶が微笑んで見つめる琴音の挿絵は、確かに美麗と言うよりも愛らしい。
 雪の森と、其処に舞うのは近ごろ話題の妖精だろうか?
 選んだ本と琴音の絵柄がマッチしていて、これはこれで良い雰囲気になっている。
「これとこれはおそらく別の本だな。表紙はこちらのもので良いとして、中身はこちらか? なかなか難しいな」
 隣のテーブルでは、水鏡が数冊の表紙とそれに合うページを照らしあわせて睨めっこ。
 バラバラになってしまった本の表紙を最初に探し出し、それに合わせて解れたページを並べて行っているのだが、なかなかどうしてこれが難しい。
 明らかに紙質や年季による色の違いがあるものはまだいいのだが、似たような色合いと似たような内容のものは表紙だけでなく分けた他のページの内容から推測しなければならず、それにはひと通り内容に目を通さなければ無理。
 さらに分けたページも破れて修復が必要なものもあるのだから、それをより分けて担当に渡すことも必要で、自然、水鏡の眉間にシワが寄り始める。
「そろそろ休憩にしませんか? 休む事も効率のよい作業には大切です」
 買い出しから戻ってきた透子はそう言うと、買ってきた芋羊羹を開いているテーブルに広げる。
 修理に必要な和紙などの購入と一緒に、食料も幾つか購入してきたのだ。
「おお、芋羊羹! これは気合が入るな!」
 自他共に認める芋羊羹好きの水鏡の目が輝く。
 一気に疲れが吹っ飛んだようだ。


「俺はこういう作業は嫌いじゃない」
 資料室で見つけたあまり使われていない本棚の埃を丁寧に手ぬぐいで拭い、竜哉は呟く。
 アヤカシとの戦闘にも決して怯むことのない高レベル開拓者であるというのに、こんな雑用にも嫌な顔ひとつ見せない。
 むしろどこかほっとしてさえいるようだ。
「古い本棚があってよかったです」
 竜哉の直す本棚にしまわれていた少量の本を別の本棚に移しながら、透子が頷く。
 完全に壊れた本棚を元通りに修復するより、使われていない資料室の本棚を調べ、代用できないかと考えたのだ。
 二人の読み通り資料室にはそれほど本の詰まっていない本棚が数個あり、中の本を隣の本棚へと移動させてしまえば本棚の一個ぐらい、十分空く。
 これなら新しく本棚を買う必要もなく、また、図書館の他の本棚と色合いなどが浮いてしまう心配もない。
 そして二人が資料室で新しい本棚を用意している時、村雨は図書室の他の本棚を修理。
「また壊れたら危ないからな」
 腰にもふら袋を下げて、口に釘を加えて片手にトンカチ。
 その姿はまさに日曜大工さん。
 そもそもいくらラティーフが飛び上がって叩いたとはいえ、華奢な女の子一人の力で大きな本棚が倒れること自体おかしいのだ。
 いろいろな偶然が重なってしまったのだろうが、本棚自体も相当老朽化が進んでぐらついている部分があってもおかしくない。
 現に村雨が今修理している本棚は長年の本の重みで棚板がたわみ、釘が緩んでいた。
 ただ、私もお手伝いしますよ〜とラティーフがほけほけと村雨の横に椅子を持ってきて登りだした事だけは予想外。
 いや、予想の範囲なのか?
「ちょっ、アーたん、待つんだ、まだ心の準備がっ!」
 いうが早いか村雨、ばっと両腕を広げて床に着地、そしてその直後に案の定、お約束的にぐらぐらと椅子から転げ落ちるラティーフ。
 本棚とはまた違う破壊音を響かせて、ラティーフはおもいっきり村雨を押しつぶした。
 おろおろと村雨の上に正座して、涙目で謝るラティーフに、村雨はおもいっきり親指を突き出す。
「……巨乳圧死プレイ、最高DAっ☆」
 鼻血を出しそうな勢いで、村雨、撃沈☆
    
 
●最後はみんなでごめんなさい?
「これで終了なのです」
 みんなで修理した本をそれぞれの分類ごとに本棚にしまい、一番下の段に本をしまい終えた琴音はすっくと立ち上がる。
 てくてくとラティーフに歩み寄り、じっと見上げる。
 修理が終わったことにほっとしていたラティーフは、首をかしげた。
「悪いことをしたらごめんなさいしなきゃダメって姉様が言ってたのです。だから本当は本棚が直っても司書の人にごめんなさいするのが良いと思うのです」
 うぐっという喉になにか詰まったような音を響かせ、数歩後退るラティーフ。
 琴音の澄んだ瞳は揺らがない。
「私もごまかすのを手伝ったから、『きょうはんしゃ』なのです。もしラテさんがごめんなさいするときは私もごめんなさいするのです」
「共犯者だなんてそんな、手伝ってくださったのに、ありえないのですよ〜っ」
 慌てふためいて、またなにか物を壊しそうな勢いのラティーフを、開拓者全員が囲む。
「誤魔化してもいつかバレるんだ。例え今切り抜けてもさ、きっと後ろめたいままじゃんか? 俺も一緒に謝ってやるぜ、アーたん!」
 どんと頼ってくれと胸をはる村雨。
「正直に本当のことを話したほうが良いと思います。精一杯治す努力はしたのですから」
 透子も謝ることをすすめる。
「修理は間に合ったけれど、……素直に謝ることをお勧めするわ」
 大丈夫、きっと許してもらえるはずだからと、露蝶。
「ラティーフは、どうしたい? このまま黙って何事もなかったように過ごしたいか? ずっと司書を騙して、辛くなりはしないか? 時間はまだある。ゆっくり考えてみてくれ」
 みんなが謝るように勧める中、竜哉だけはラティーフに意見を求める。
 誰かに言われたから仕方なく謝るのではなく、きちんとラティーフに納得してもらいたいから。
 そんな竜哉の言外の思いを感じ取ったのか、ラティーフは小さく頷く。
 本当は謝りたかったけれど、あまりの惨状に怖かったのだと。
「うん、よく言えたな。みんなで一緒に謝れば大丈夫だからな?」
 またもや泣きそうなラティーフを励ます竜哉。
「これからは、ちゃんと椅子を使うんだぞ♪」
 くしゃくしゃとラティーフを撫でて、水鏡は笑う。
 きっと、もうすぐ司書は戻ってくる。
 不安そうに図書館の入口を見つめるラティーフ。
 けれどきっと大丈夫。
 みんなが一緒にいてくれるのだから。