殺戮戮力
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/14 20:22



■オープニング本文

 寒い日だった。
 ここジルベリアの冬は早い。
 ついこの間まで暖かな風が吹いていたというのにもうコートが必要だ。
 もう少し早い時間に街を出られればよかったのだが‥‥。
 既に日は落ち、辺りを照らすのは彼が手にしたランタンと、背後の街明かり。
 月の光でもあればまだ良いのだが、墨を落とし込んだかのような暗い空にそれは望めない。
 けれどその暗さが、彼の命を救った。
 薄暗い闇に慣れた目は、斜め前方を蠢く3つの影に気づいた。
 3m、いや、5mだろうか?
 一つは、小高い塔のように見える。
 だが塔が動くはずがないし、両脇にざわざわと蠢いている細長い物体はなんなのだろう。
 暗くてよくわからないが、分かりたくもない。
 残り2つは塔のように見えるそれよりは一回り小さい。
 本能的なおぞましさを感じる多足のそれは遠目にも良くわかる。
 巨大な蜘蛛だ。
 その巨体の上には女性らしき人影が見える。
 まだかなり遠いというのに耐え難い腐臭がそれらから漂い、彼は吐き気と頭痛に見舞われた。
 3つの影はゆっくりと、だが確実にこちらに―― 街に向かっている!
 彼は叫び声を上げそうになるのを必死で堪え、踵を返して全力で街へと駆け戻った。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
利穏(ia9760
14歳・男・陰
レヴェリー・ルナクロス(ia9985
20歳・女・騎
トカキ=ウィンメルト(ib0323
20歳・男・シ
フィン・ファルスト(ib0979
19歳・女・騎
高崎・朱音(ib5430
10歳・女・砲


■リプレイ本文

●疾走防衛
 アヤカシ、襲来――。
 その報を受け、真っ先に最悪の危険性に気づいたのは巴 渓(ia1334)だった。
「俺たち開拓者の事は見捨てて構わん、自警団は一般市民の避難に注力するんだ!」
 街中に避難を促すよう自警団に告げ、巴は街の外―― アヤカシへと向かって走る!


 時を同じくして、街の片隅の古き良きバーで気の抜けたエールを飲み干していたトカキ=ウィンメルト(ib0323)はカウンターに並べたカードを一枚めくる。
 周囲はアヤカシ襲撃の報を聞いて慌てふためいているというのに、ウィンメルトはどこか冷静だ。
「これはこれは‥‥また厄介なカードが出ましたな」
 やれやれと軽くため息をついて、ウィンメルトはマスターに代金を支払い席を立つ。
 カウンターに残されたカードには、黒いマントを羽織り巨大な鎌を構える髑髏が微笑んでいた。


「面倒なのを撒き散らすのが進行中ね〜」
 自らは色香というアヤカシとはまた別個のモノを撒き散らし、周囲の男性陣を魅了しながら葛切 カズラ(ia0725)は盃を煽る。
 その腰には提灯。
 ほんのりと明るいそれは、葛切の魅力をより一層幻想的に引き立てた。
「さぁさぁ、ぼぅっとしてないでお逃げなさいな。出口はあちら、こちらは危険地帯よ〜」
 こんな時だというのに葛切に見惚れる若い衆を微笑みで促して、彼女は酒を袱紗に含ませる。


「よもや此のような事態に直面する事になるなんて。街中への乱入を許せば、どんな被害が出てしまうか‥‥!」
 遊郭のアルバイトがてらにジルベリアに戻ってきていたレヴェリー・ルナクロス(ia9985)は借りていた宿を飛び出す。
 宿屋の主人からは逃げるようにと言われたが、彼女に目の前のアヤカシから逃げるなどという選択肢は存在しない。
 開拓者である事はもちろんの事、持ち前の正義感がそれを許しはしない。
 例え、敵わない強敵であろうとも。
 そしてそれは共に同じ宿を取っていた高崎・朱音(ib5430)も同じ事。
「さて、我らが塞き止めるとするかのぅ?」
 二人、頷いて。
 全力で走りだす。

 
「うぉっと?!」
 まさに蜘蛛の子を散らすようにという表現がふさわしく逃げ惑う人々に、フィン・ファルスト(ib0979)は思いっきり突き飛ばされた。
 突き飛ばした相手は謝ろうともせずに「この非常時に何反対方向に向かってるんだいすっとこどっこい!」などと暴言を吐いて走り去っていく。
「危ないな、こんな逃げ方してたら人災が起きちゃうんだよ」
 自警団にちゃんと誘導してもらわなくっちゃと呟いて、フィンは人波に逆らって突き進んでいく。


●鉄壁布陣
 北門に駆けつけた開拓者達は計8人。
 自警団への避難誘導を頼んだ甲斐あって、深夜だというのに街人の避難は思いのほか早かった。
 戦場となるであろうここ北門付近には既に誰一人として留まってはいない。
 万が一、開拓者達がアヤカシを留めることが出来ずとも、街への被害は最小限となりそうだ。
「蜘蛛のアヤカシ2体と塔のアヤカシ‥‥。どれも力のあるアヤカシです‥‥」
 柊沢 霞澄(ia0067)は大きな銀の瞳を細め、前方を遠く見つめる。
 松明の焚かれた門から離れれば離れるほど、闇は深まりアヤカシの姿を暗く深く溶け込ます。
(怖い‥‥)
 淀む闇の中に、利穏(ia9760)は足が竦むのを感じた。
 駆け出しとは言い難い確かな戦歴があるものの、いや、有るからこそ今回戦わなければならないアヤカシの力量に本能的な恐怖を感じるのだろう。
 第一発見者の証言を元に、利穏はカフィーヤで口と鼻を覆う。
 少しでも腐臭を抑えれれば良いのだが。
 その隣で葛切も先ほど酒を染みこませた袱紗で同じ様にしている。
 酒の独特の香りが辺りに漂った。
「俺はどっちとも過去の依頼で戦っている、油断ならん相手だ」
 巴の言葉に、フィンが「どんな奴なの? どんな敵だってここは通さない!」と気合を入れる。
「女郎蜘蛛はただ強いだけだが、問題は暗き泥の塔の方だな。再生、触手からの瘴気感染、そして幻覚による同士討ちの誘発。絶対にこいつらが来ているとは言えんし、先入観はマズいが、予備知識なしよりはいい」
 暗き泥の塔は第三次開拓の頃に少数が確認されただけだがそれがなぜ、今頃現れたのか。
 そんな疑問もあって、彼女は敵を断定してはいないが最大の警戒をしろと皆に自分の知識を伝える。
「皆で協力して、討伐できるよう頑張りましょう‥‥」
 そして柊沢が皆に加護結界をかけた時、それは訪れた。
 

●死殺死守
 闇から抜けだすように現れた二体のそれは、やはり女郎蜘蛛。
 開拓者達は打ち合わせ通りに二班に分かれてこれを迎え撃つ!
 
『オイシソウねぇ―― うふふふふっ!』

 耳障りに笑いながら、魅惑的な上半身をくねらせて、女郎蜘蛛の口から無数の糸が吐き出される。
 鞭のように唸り突っ込んできたその糸の束を、利穏の長剣が切り裂いた。
「あたしの見てる前で誰も死なせない‥‥行くよ!」
 長槍を振り上げ、フィンはオーラを立ち上らせながら全力で真正面から女郎蜘蛛に突っ込む。
 無論そのフィンにも蜘蛛の糸が吐き出されるが、フィンはあっさりとそれを長槍に巻きつけて振り払い、そのまま女郎蜘蛛に打ち下ろす。
 醜くく巨大な蜘蛛の身体に打ち下ろされた槍の痛みに女郎蜘蛛が呻いた。
「よしっ、このまま一気に‥‥うわっ?!」
 女郎蜘蛛が怯んだその隙に一気に畳み掛けようとしたフィンを、けれど巴が瞬脚で駆け寄りそのまま女郎蜘蛛から引き離す。
「騙されるな、こいつは嘘にも長けているんだ!」
 フィンを背に庇い構えた巴に、苦痛に歪んでいたかのように見えていた女郎蜘蛛の顔が嗤う。
 明らかに深いダメージなど感じていない。
 あのままフィンが側にいたらただでは済まなかっただろう。
「では、これなら如何でしょうかね」
 フィンという獲物を奪った巴に気を取られている女郎蜘蛛に、トカキの魔法―― アイシスケイラスが撃ち放たれる。
 黄金に輝く魔導書で増幅されたその威力は、女郎蜘蛛といえども無傷では済まない。
 突き刺さった氷の矢と溢れる激しい冷気に女郎蜘蛛の動きが鈍った。


 その横では、レヴェリーがもう一体の女郎蜘蛛を仲間達から引き離すべく、わざと単身でその身を女郎蜘蛛の正面に曝け出す。
「絶対に街には行かせないわ‥‥!」
 仲間から逸れ、直ぐにでも食せそうなレヴェリーに女郎蜘蛛は舌舐めずりをする。
『後悔サセてあげる』
 そんな囁きすら聴こえてきそうな邪悪な笑みを浮かべ、女郎蜘蛛はレヴェリーを追いかける。


「前座は早く消えて頂戴?」
 葛切の召喚した白狐は闇夜に輝く九つの尻尾をうねらせ、葛切が前座と言い捨てた女郎蜘蛛をその鋭い爪で切り裂く。
 切り裂かれた女郎蜘蛛の脚は無残にも飛び散り、その傷口から送り込まれた多量の瘴気は女郎蜘蛛の身体を内部から壊してゆく。
 演技ではなくのたうち苦しむソレに、巴は隙かさず連撃を叩きこむ!
「させないよ‥‥!」
 文字通り虫の息だというのに、巴に向かって振り下ろされた女郎蜘蛛の毛深い脚を利穏が止め、其のまま刀を女郎蜘蛛に突き立てる。
 ぐじゅりとした嫌な感触と共に、女郎蜘蛛は瘴気となって消え去った。


「これ以上先に進んで貰っては困るでの。我らと戯れて貰おうかの」
 レヴェリーの引き付ける女郎蜘蛛に、岩陰に隠れていた朱音のマスケットが火を噴く。
 眼の前のレヴェリーのみに気を取られていた女郎蜘蛛は顔面にそれを受け、大きく仰け反った。
 岩陰に明かりはなく、レヴェリーの盾に括りつけられた松明のみが頼りだったが、的が大きい分外れなかった。
 美麗な顔を傷つけられ、女郎蜘蛛は憎しみも顕に見えない敵・朱音がいるであろう方向に突進していく。
「此の背に負うのは、数多の人々の命運‥‥絶対に通さないわ!!」
 巨大な盾と、オーラを纏って己の身体を鉛の如く重くしたレヴェリーは叫び、その行く手を遮る。
 盾に衝突された凄まじい衝撃と痛みがレヴェリーを襲い、けれど決して倒れない。
「誰一人、失いはしません‥‥」
 柊沢の白く滑らかな手が印を結び、溢れる光がレヴェリーの負傷を瞬時に癒す。
 そう、いくらレヴェリーが注意深くとも、中級アヤカシたる女郎蜘蛛を一人で引きつけて無傷でなどいられない。
 だが彼女が怪我をする傍から柊沢が回復し続け、レヴェリーを狙う女郎蜘蛛の攻撃は朱音が妨害。
 三人の見事な連携は仲間達がもう一体を倒す間見事この場を持ちこたえたのだ。
「待たせたな!」
 余裕の表情で巴が瞬脚で女郎蜘蛛との間を一気に詰め、破軍を用いた連撃を繰り出し、
「真っ向勝負‥‥でぇいっ!」
 フィンの槍が女郎蜘蛛の上半身、艶かしい女性の身体を薙ぎ払う!
 よろめいた女郎蜘蛛は、その真紅の瞳を利穏に向かって輝かせた。
「?」
 だが、その威力は無意味。
 目が合った利穏は一瞬、何が起こったのかわからなかった。
 なぜなら何も起こらなかったから。
 予め柊沢に知覚防御力を高められていたから、魅了されなかったのだ。
「私の前で余所見なんて、大胆ね? ‥‥おいでなさい蛇神、お前に餌を上げるわ」
 葛切が艶やかに微笑んで召喚した蛇神は触手を思わす姿で女郎蜘蛛を締め上げ、其のまま絞め殺した。
 

●辛々撃破
「皆さん、これを」
 二体の中級アヤカシを撃破し、最後の強敵と向かい合う前にとトカキは皆に丸薬を配る。
 女郎蜘蛛を倒すために激減した練力を少しでも回復するためだ。
 幸い、暗き泥の塔はまだ現れない。
 ニ体同時にではなく、一体ずつ早期撃破をした事が功を奏したのだろう。
 だが残された時間は決して多くはないはず。
 幸い、深い怪我を負ったものはおらず、残る多少の傷さえも柊沢の手厚い治療で回復してゆく。
「みんな、ちょっと離れててねっ」
 仲間に声をかけ、フィンはヴォトカを地に撒いて松明を投げる。
 ヴォトカについた炎は一気に辺りを明るく照らし出した。
「これなら狙いも外しようがないのぅ」
 朱音が不敵にマスケットを構え直す。
 ―― 辺りに腐臭が漂いだした。


(吐き気と恐怖で内臓がひっくり返りそうだ)
 それを見た時、利穏は深い恐怖を感じずにはいられなかった。
 闇の中からまさに這いでて、聳え建つそれは暗き泥の塔。
 巴の読み通りだった。
 耐え難い瘴気まみれの腐臭が辺りに充満し、開拓者達の気力を奪う。
「俺が操られたら、迷わず殴れ!」
 仲間に叫び瞬脚を再び駆使し、巴は泥の塔を引き付けるべく接近する。
 かつてこの強敵と戦ったことのある巴の最も恐れるものは同士討ち。
 どこに視覚があるのかわからない姿でも、巴の明確なる殺意と動きは感じているのだろう。
 泥の塔は何本もの触手を巴に迷うことなく伸ばし、絡めとろうとする。
「その触手、魅力的よね。でも私の触手の方が美麗なの」
 触手を視認した瞬間、葛切は斬撃符を撃ち放つ。
 微かな呻き声を上げて暗き泥の塔に次々と放たれたそれは、確かに命中した。
 だが破壊される泥のようなその身体はじゅくじゅくと回復していき、まるで何事もなかったかのよう。
 数多の泥の触手が塔から溢れ、おぞましさが増す。
「これは‥‥キツいですねぇ‥‥」
 トカキの呟きは臭いに対してか視覚の暴力に対してか、それともその両方か。
 自身の最大スキルを塔のど真ん中を狙って撃ち放つ。
 二度連続で同じ場所に打ち込まれたそれは、けれど葛切の符と同じく凍りつく傍から回復してしまったようだ。
 そしていつまでもただそこで触手を蠢かしているだけではない。
 目の前で邪魔をする巴はもちろんのこと、自身を明確に攻撃してきたトカキと葛切にその触手を突きつける!
 風を切って襲い来る触手を巴は瞬脚で避けきり、葛切も着物をなびかせながら辛うじてかわす。
 だがトカキはそうは行かなかった。
 予想以上に鋭く長く伸びたその触手が肩をかすめた。
「此れしき‥‥とは言えないようですね」
 怪我だけを見れば大したことのないそれは、けれど強力な瘴気の毒がトカキの身体の自由を奪う。
 大粒の冷や汗を流し辛うじて立つ彼に駆け寄り、癒そうとした柊沢にも次の触手が情け容赦なく襲いかかる!
「レヴェリー!」
 朱音が叫んだ。
 柊沢とトカキに襲い来る触手に、レヴェリーが割って入ったのだ。
「後はコヤツを倒せば終わりじゃな。出し惜しみはせず一気に行かせて貰うのじゃ!」
 巨大な盾で触手の連撃を防ぐレヴェリーを守る為に、朱音の全力の弾丸が触手を撃ちぬく。
「‥‥出来る出来ないじゃない、やるんだ!」
 竦む脚は武者震いだと言い聞かせ、利穏は走る。
 防御を無視したその動きは素早く、100cmを越す刀身は溢れる触手を一気に叩き斬る!
 泥の塔に感情というものがあるのなら、それはきっと『怒り』だろう。
 先ほどまでとは比較にならない量の触手が体中から溢れ出し、縦横無尽に暴れ狂う。
 そしてどこにあるのかわからない、もしかしたらないのかもしれない塔の見えない瞳が朱音を捉えた。
「!!!」
 瞬間、朱音の動きが止まる。
 そして次の瞬間、朱音はレヴェリーにマスケットを向け――。
「させねぇよ」
 ズガァンッ!
 撃ち放たれた弾丸は、けれど夜空の闇に消えてゆく。
 巴が瞬脚で即座に朱音に近づき、その腕を蹴り上げたのだ。
「恩にきるぞぇ。まったく不快なアヤカシじゃの。さっさとこんなものは倒さねばやってられんのじゃ!」
 正気に戻った朱音は、巴を狙う触手を撃ち抜く。
「出し惜しみしている場合ではないようですね‥‥。ジルベリアの冷たき空よ、慈悲無き裁きをかの敵に下しなさい‥‥アイシスケイラル!」
 上級魔法の連撃など、自分には出来ないと思っていたトカキだが、状況が変わった。
 いまここで全力を出さねば、全滅必至。
「暴れてこー!」
 朱音が一瞬とはいえ幻覚を見せられたのを見て、フィンは自身の抵抗力を上げてから塔に殴りかかる。
「もう少しその触手を楽しみたかったけれど、ね?」
 白狐、蛇神。
 その強力な召喚を惜しみなく何度も何度も呼びつづけ、暗き泥の塔を留める葛切は、手鞠を投げる華麗さで焙烙玉を投げる。
 狙いは、皆が集中的に攻撃し続けた胴体。
 触手で防ごうにも数多のそれは開拓者によって断ち切られ絡め取られ、避けることかなわず。
 眩しい閃光と共に塔に命中したそれは、見事に暗き泥の塔を消し去った。
 砕け飛び散った泥の一部がトカキのマントに絡み、ぽとりと何かが足元に落ちた。
(ふむ‥‥?)
 よくわからないそれを、トカキはとりあえずポケットにしまい込む。
 細工物のようにも見えたが、それは後で確認してみれば良いことだろう。
「ふぅ。如何にか守れたわね」
 盾によりかかり、ぐったりと汗を流すレヴェリーに柊沢も頷く。
 東の空が白み始めていた。