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■オープニング本文 天儀図書館。 突然訪れたアル=カマル出身のエルフの少女、アッ・ラティーフに図書館司書は眼鏡を中指で抑える。 「オリジナルシップに関する資料がこちらに?」 天儀では神砂船と呼ばれるその船は、つい先日アル=カマルで発見されたばかり。 そんなアル=カマルの船の資料が天儀にあるとも思えないのだが‥‥。 「はい〜。許可は頂きましたから、調べさせてください〜」 おっとりと微笑み、どう見ても賢そうには見えない少女は、アル=カマルよりの使者で、尚且つ朝廷のお墨付きまで持っていた。 「特に問題はありませんから、ご自由にお調べ下さい。ただし、わかっていらっしゃるとは思いますが持ち出しは禁止ですよ?」 「もちろんですよ〜。大切に大事に、調べさせていただきますよ〜」 本当にわかっているのかいないのか。 ラティーフは両手に持ちきれないほどの大量の本を抱かかえてよろめいた。 「はい、それでは開拓者の皆さん、準備はいいですか〜?」 数日後。 ラティーフはジルベリアの開拓者ギルドを訪れていた。 集まった開拓者に図書館で見つけたとある地図の写しを見せる。 それは、天儀の図書館に数日間篭りっきりで時々居眠りしながら調べた成果物。 オリジナルシップに関する情報に当たらずとも遠からずといった気配を感じるその書物に、ジルベリアの地図が載っていたのだ。 そして地図には近頃各地で発見され、さらにここジルベリアでも見つかった『遺跡』が記されている。 神砂船に関する情報は何も見つからないかもしれないけれど、それと深い関わりのありそうな人形出現の遺跡は見過ごせない。 けれどその遺跡を詳しく調べようにも、入り口付近から既に人形で溢れており、とてもラティーフだけでは近づけないのだ。 「とりあえず、難しいことはいいません〜。遺跡の中の人形を撃破してきてください〜」 人形の詳しい数や遺跡の形状など。 ラティーフは現時点で寄せられている情報を開拓者に伝えるのだった。 |
■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
風瀬 都騎(ia3068)
16歳・男・志
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
フレイア(ib0257)
28歳・女・魔
サフィラ=E=S(ib6615)
23歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ●遺跡前 「ジルベリアでもお人形さんが見つかったのかぁ‥‥何かかんけーあるのかなっ?」 ジルベリアで発見されたという遺跡の前で、サフィラ=E=S(ib6615)は天河 ふしぎ(ia1037)の後ろから首をひょいっと伸ばして遺跡を覗き込む。 「あの船に関わる遺跡かと思うと、ドキドキするよね。サフィラ、一緒に頑張ろうね」 同じ空賊所属の天河は、ちょっと危なっかしいサフィラの手をとる。 「ダンジョン探索は燃えるね〜たぎるね〜、NINJAのハートにビンビンくるね〜」 そして叢雲・暁(ia5363)もサフィラに負けず劣らず何だかご機嫌。 遺跡の中はかなり危険な香りがしているのだが、その危険さがシノビたる彼女の琴線に触れるのかもしれない。 「洞窟や遺跡はあまり好きな場所ではないな‥‥」 皇 りょう(ia1673)は木漏れ日を浴びながらこれから探索する遺跡に少し苦笑する。 開拓者という仕事柄、こういった場所に縁があるものなのだが苦手なものは苦手なのだろう。 「さてさて、何が目的で此処が作られたのか‥‥興味が尽きませんね」 遺跡を前に、つぶらな黒い瞳を輝かせる雪切・透夜(ib0135)はラティーフから筆記用具と遺跡の簡易地図の写しを受け取る。 遺跡の中の簡易地図はラティーフが図書館で見つけたものだ。 図書館の資料には詳しいことには触れられていなかったが、人形の溢れる遺跡の内部が数個の部屋で構成されていることや、そこを守る人形兵達について多少は記されており、だからこそ事前にある程度の状況を把握できたのだ。 これから遺跡内を探索しつつ、簡易地図に現在の情報を大まかにでも記しておけば、後で纏めやすいだろう。 「一つ、提案をしたい。範囲技をやるときは各自一声かける事を徹底したほうが良いと思うが、どうだろうか」 じっと地図を見ていた竜哉(ia8037)は仲間を巻き込む危険性を指摘する。 遺跡内部は地図を見る限りでは動きに支障の出そうな場所は少ない。 だが念には念を。 「そうですわね。間違って可愛らしい方を氷漬けにしてはいけませんものね」 フレイア(ib0257)は扇子を口元に当て、ラティーフに微笑む。 艶やかな美女に微笑まれたラティーフはどぎまぎしながら遺跡の石の扉に手を触れた。 石に刻まれた幾何学模様に光が走る。 咄嗟に風瀬 都騎(ia3068)がラティーフを守ろうと前にでる。 不思議な音を響かせて、光迸る遺跡は静かにその入り口を開拓者に曝け出す――。 ●‥‥油断せずに 遺跡の中に風瀬が一歩足を踏み入れると、左右の壁に明かりが灯り、通路を冷たく照らす。 不思議な事に、光源はこれといって特定できない。 ランプでも蝋燭でもなく、壁に嵌め込まれた石版が青白く光るのだ。 足元は石で出来ていると思うのだが、滑らかで艶やか。 コツコツとフレイアのブーツの音が鳴り響く。 「意外と広さがありますね」 簡易地図と現状を照らし合わせ、雪切は通路の広さを書き留める。 「心眼には反応しないようだな」 皇が閉じていた銀色の瞳を開く。 遺跡の中に人形兵がいることはわかっている。 だが心眼に反応しないということは人形達は生物でもアヤカシでもないという事。 「物音がするよ、気をつけてっ!」 超越聴覚を使っていた天河が合図する。 仲間達の足音とは違う異質な音に、風瀬と共に先頭を歩いていた竜哉がハンマーを構えた。 「敵さん登場しまくりかな? がんがんイってみよ〜!」 テンション上がりまくりの叢雲の期待にこたえるかのように、T字の通路の左右から大量のパペットが現れた! 無表情で無機質、冷たく滑らかな質感のパペットは予備動作も何もなく攻撃を繰り出してくる。 開拓者は一斉に武器を構えた。 「‥‥ったく、多いな。これじゃ埒が明かない。どれだけ溢れれば気が済むんだ」 次々と通路を埋め尽くすかのように溢れてくるパペットを二刀流で刻みながら風瀬はぼやく。 一体、何度こうしたことだろう? 強度も攻撃力も決して高くはなく、薙ぎ払えば朽ちてゆくパペットだが、数の多さがネックだった。 「ひゃわぁぁぁっ?! 倒しても倒しても人形だらけだぁぁぁっ!」 一番危なっかしいサフィラは叫び声を上げながらも鞭を振るい、彼女を守りながら戦う天河は彼女の体力消耗を防ぐべく、一掃を試みる。 「血に染まりし妖刀よ、風の流れをその手に捕らえ、僕らの敵を切り裂け‥‥空賊忍法神風の術、乱れカマイタチだっ!」 仲間を巻き込むことのないその正確な剣技はカマイタチとなって溢れるパペットを一気に切り刻み、道を切り開く。 「おいおい、灼熱の抱擁なんぞ趣味じゃねえ!」 天河の攻撃で倒れなかったパペット―― スーサイダーの額に文様が浮かぶ。 その光を見逃さなかった竜哉はそのハンマーで散々屠り続けて足元で瓦礫の山と化していたパペットの残骸を、さらにハンマーで思いっきり振り切ってスーサイダーにクリティカルヒット! 「この部屋へ、皆様お早く!」 フレイアは仲間が全員部屋に逃れたのを確認してパペットの残党に吹雪を見舞い、自身も素早く身体を反転させて部屋の中に滑り込み扉を閉める。 竜哉によって吹っ飛ばされたスーサイダーの爆風が轟音と共に部屋の外を通り過ぎる。 ●内部 「よいしょっと‥‥これで休憩するときも安心だねっ!」 部屋の中にパペットが進入しないよう、サフィラは小型天幕を解体して取り出した青竹製の柱二本を扉ににしっかりと固定する。 それで安全かどうかは別として、無いよりはまし。 少なくとも時間稼ぎにはなりそうだ。 「この部屋は地図の通りなら次の部屋に繋がっているようですね。どこが出口なのかは不明ですが‥‥」 雪切は地図をなぞる。 確かに次の部屋に繋がっている。 だが部屋を見回してもそれらしき出口は無い。 「こうゆう事は、NINJYAの十八番、罠も解除もお任せよ〜」 叢雲が嬉々として床や壁を調べだす。 「うおっとー?!」 入り口の扉と同じように叢雲の触れた壁一面に光の筋が走り、サフィラが飛びのいた。 「この奥にはアヤカシがいる。サフィラ殿、そのまま下がっていてください」 皇が再び心眼を用いて新たに出現した通路に潜むアヤカシを見破る。 壁一面が開けて出来た通路の奥でアヤカシ―― 苔鼠もこちらに気づいたのだろう、一気に部屋に雪崩れ込む! 「それ以上の進入は許しませんわ」 フレイアが扇子を閉じると同時に鉄の壁が通路を塞ぐように出現、苔鼠が部屋に溢れるのを食い止める。 「さて、効率良く倒すためにはどうすればよいか‥‥」 足元を凄まじい勢いで走りぬけ飛び掛ってくる苔鼠ごときに遅れを取る風瀬では無いのだが、二刀流で切り刻んでも敵の数が無暗に多くきりが無い。 生物と違い屍骸の山とはならずに瘴気となって消えていってくれるのが救いだろうか。 「ひぃっ?! ねずみっ?! でもなんだかこれ可愛いよっ? ぅっきゃー、腕引っかかれた?!」 足元に突っ込んでくるわ腕に飛び掛ってくるわ。 サフィラは元気すぎる丸くてふわふわの緑の苔鼠にちょっぴり愛を感じつつ、じたじた逃げながら勢い余って苔鼠を壁や床に吹っ飛ばす。 「風神、いっくよー!」 約束どおり声をかけて、叢雲は苔鼠に次々と真空刃! 「風は空賊の味方‥‥僕の風の前では、無駄なことだよ」 叢雲のタイミングに合わせた天河のカマイタチも部屋の中を乱舞する。 数以外は全く持って開拓者の敵とはなりえない部屋の中の苔鼠は、全て瘴気となって消え去った。 残るはフレイアの壁に阻まれている苔鼠の掃討。 高い壁をよじ登って再び部屋に雪崩れ込もうとした苔鼠を、しかし雪切の斧が止めた。 仲間を巻き込まない位置から薙ぎ払われた斧は一瞬にして苔鼠を消し去った。 「こらサフィラ、持って帰ろうとしないの!」 天河は、たった一匹だけ残った小さな苔鼠をこっそり持ち帰ろうとしたサフィラから苔鼠を取り上げて通路に逃がす。 たった一匹逃がした所でどうということは無いだろう。 「うー、洗ったらかなり可愛くなりそうだったのになぁ〜」 「小さくてもアヤカシですからね。それより、腕の治療をしましょう」 心底残念そうなサフィラの腕を取り、雪切は慣れた手つきで包帯を巻いてゆく。 ●強敵! 「そろそろ見つからないときついか‥‥」 遺跡に入り早数日が過ぎようとしている中、風瀬がぼやく。 幸い、休憩をきちんと取りながら計画的に遺跡を進んでいる為か被害は皆無に等しい。 スーサイダーの自爆も対処が慣れればパペットを殲滅する強力な武器へと代わり、初日よりも殲滅速度が増している。 だがラティーフの持っていた遺跡の地図には最奥の場所が記されていなかったのだ。 「地図に書かれていた部屋は全て制覇出来ていますし、同じ場所を巡っている訳でもありませんが‥‥」 こちらも大分疲労が伺える雪切が簡易地図を確認する。 現状をきちんと書き留めたそれは、とても丁寧でわかりやすい。 地図に記されていない現在の場所は簡易地図の裏にマッピングしてある。 「ま、茶でも飲みながら考えれば良いさ。戦うだけで解決できる物事は少ない」 そう言う竜哉の瞳も言わずもがな。 かなりの疲労感が見て取れた。 と、その時だ。 「くるよくるよビンビンくるよ〜、NINJYAのカンが叫んでる!」 叢雲が天井を見上げ、叫ぶ。 「奇妙な音が何個も近づいてる! サフィラ、僕から離れないで!」 超越聴覚で危険な音を察知した天河はサフィラの手を引いて背に庇う。 次の瞬間、天井に幾何学模様の光が次々と迸り、広く開けた通路の更に奥の部屋の天井まで全て左右に開いた。 そして――。 「鋼線?!」 開けた天井の置くから降り注ぐ無数の鋼線。 それはさながら豪雨のような勢いで開拓者に降り注ぐ! 天河、皇、叢雲、竜哉、フレイア、そして身軽なサフィラが回避! 風瀬、雪切は避けきれずに鋼線に絡め取られた。 開拓者に避けられた鋼線は床に突き刺さり、天井からの未知なる敵―― ストリングスの移動範囲に! 目視すら出来ぬほど暗い天井の奥から、凄まじい勢いで5体のストリングスが鋼線を伝って開拓者へ! 赤、青、金、緑、紫。 それぞれ異なる瞳の色を持つ5体は止め処もなく鋼線をその身体から打ち放つ。 ストリングスのガラス玉を思わせる金色の瞳が光った。 「!」 ストリングスを睨みつけながら鋼線からの脱出を試みていた風瀬の腕が突如内側から裂けた。 血飛沫が床に飛び散り、風瀬は苦痛に顔を歪ませる。 「サフィラ、絶対に敵の目を見ないでっ!」 何が起こったのかを感付いた天河がサフィラに叫び、風瀬を拘束する鋼線を切り裂き救出する。 「凍り付きなさい‥‥その冷たい心のままに!」 頭上から攻撃を仕掛けてくるストリングスに扇子を向けてフレイアがブリザーストームを撃ち放つ。 5体全部にダメージを与えたそれは、ダメージを与えるだけでなく数匹のストリングスの攻撃を鈍らせたようだ。 絶え間なくその身体から撃ち放たれる鋼線が通路と部屋に張り巡らされたが、開拓者達に撃ち放たれる時はわずかに命中がずれている。 そして辺りに梅の香りが漂いだす。 「皇家当主、皇 りょうの名において命ずる。滅せよ!」 白く澄んだ気を纏った皇の剣が、雪切を屠ろうと向かってきた青い瞳のストリングスを切り裂く。 「透夜いまのうちだよ!」 サフィラが天河から離れて鞭で鋼線を絡めとり、雪切を救出! 「吹っ飛ぶのは貴様らの十八番か? そぅれ!!」 己のハンマーに金の瞳のストリングスが伝っている鋼線を巻き取り、竜哉は思いっきり引き抜く。 そのまま勢い良く床に叩き付け、ストリングスがぐしゃりと半身を崩す。 鋼線を出して背骨で立ったストリングスが再び伝って逃げ出すより早く、腕の傷を包帯できつく縛った風瀬の水平な剣先がその身体を貫いた。 「お返しだよ。これで終わりだっ!」 深々とストリングスの身体を貫いたその刀を引き抜くと同時に、ストリングスの金の瞳から光が消えて崩れた。 「僕もやられたままではありませんよ」 雪切がバトルアックスを頭上に向かって大きく振り切る。 鋼線がブチブチと小気味良い音を立てて切れ、ストリングスが数体床に落下した。 赤い瞳のストリングスが雪切を睨む。 「させませんわ」 フレイアが狙いを定め、その瞳をピストル「アクラブ」の弾丸で打ち抜いた。 砕かれた片目は血の涙のように床にパラパラと飛び散った。 「うぉりゃーーーーーっ!!!」 サフィラがターザンの要領で天井から伸びる鋼線にぶら下がって、別の鋼線を伝うストリングスに目をつぶったまま思いっきり蹴りを見舞う。 いぇいっとピースサインを出して床に着地したサフィラは、けれど次の瞬間無数の鋼線に貫かれた。 「サフィラ!!!」 天河が叫び、サフィラを貫いた鋼線を漆黒の刀身で切り裂き、サフィラを抱きしめる。 「女の子を後ろから狙うなんてNINJYAの矜持に反するよ〜!」 サフィラを貫いた紫の瞳のストリングスに叢雲が瞬時に移動、そのまま忍刀「風也」で敵の首を切り落とす。 カチャリと陶磁器のような音を立てて落ちたその首を、竜哉がハンマーで更に砕いた。 「白き精霊よ、慈悲と愛と希望を持って傷つき倒れし者の命をお救い下さい‥‥レ・リカル!」 フレイアの慈愛の光がサフィラを白く包んだ。 天河の腕の中で気を失っていたサフィラがうっすらと青い瞳を開ける。 意識の戻ったことにほっとした天河は彼女をその場に寝かし、ストリングスと向かい合う。 「右手に霊剣、左手に妖刀、正邪の力でクロスエンドだ!」 仲間を傷つけられた怒りはそのまま力となり、天河の赤く輝く刀身が緑の瞳のストリングスを破壊した。 「おつかれさん、遺跡の守り手は終わりだよ」 そして最後まで残っていたストリングスを、竜哉のハンマーが打ち砕く。 ●秘密 最奥部屋の中央には棺が安置されていた。 「見事な造詣ですね」 皇が棺を彩る意匠に感嘆の声を漏らす。 ラティーフはその棺をそっと開ける。 その中には予想通り、一体のからくりが眠っていた。 金色の腕輪がきらりと光る。 棺の中にはからくりと一緒に小さな鍵が一緒に収められていた。 「神砂船で見つかったのと同じタイプなのかな」 フレイアのお陰で重体を免れたとはいえ、一人で歩かせたくないサフィラをお姫様抱っこした天河が興味深げにからくりを見つめる。 「あなたの回収した欠片をいただけますか〜? それと、あとで地図を写させてください〜」 ラティーフは雪切に手を伸ばす。 このからくりと共に、天儀とアル=カマルで調べる必要があるからと。 そうして。 棺を回収して開拓者達は遺跡の外に出る。 無機質な遺跡内から出て数日振りに浴びた木漏れ日は、思いのほか眩しかった。 |