★鴨と寺院と美少女と★
マスター名:霜月零
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/25 05:36



■オープニング本文

 とあるジルベリアの開拓者ギルド。
 受付嬢深緋は何時ものように簪を磨き続ける。
 そのカウンターの前で固まるマッチョ開拓者は、正直、もうどうしていいかわからない。
「あの、さぁ‥‥」
 勇気を持って話しかけるマッチョ開拓者、その目はじっとカウンターに居座るとある生き物をガン見。
「それ、ガンじゃないわよぅ?」
 深緋、簪を手でもてあそびながらマッチョ開拓者に突っ込み。
「地の文に突っ込みいれるな! それに種類聞いてねぇしっ!」
「じゃぁ、何が聞きたいのぉ?」
「こいつらなんなんだよ?! 生きてんじゃねぇか‥‥」
 びしっとマッチョ開拓者が指差すそれは、数羽の鴨。
 開拓者ギルドの受付カウンターに大中小と仲良く並んで座っているのだ。
 剥製などではなく生きた鴨だというのにじっとすわって時折身繕い。
 マッチョ開拓者でなくとも突っ込みたくなるというものだ。
「死んでたら埋めてあげなきゃでしょぉ」
「そうゆう問題じゃなくないか‥‥‥‥‥?」
 じゃあどうゆう問題かと聞かれればマッチョ開拓者にも答えようがないのだが。
 深緋は何の違和感もなく一番ちっこい鴨をひょいっと手の平に載せて、書類の束の上に置き直す。
「ペーパーウェイトかよ?!」
「鴨だってゆってるじゃないのよぅ。鳩羽の寺院に大量発生したらしいわよぅ?」
「相変わらず意味不明だな‥‥」
 マッチョ開拓者、そろそろ深緋との会話に慣れてきた気がしたのだが、気のせいだったようだ。
 わけのわからなさで偏頭痛が起きそうだ。
 脳筋だから筋肉痛かもしれない。
「あの子の勤めている寺院に池があるのよぅ。なぜかそこに大量に鴨が飛来したんですって。飼いきれないって言うからギルドに数羽連れてきたのよぅ」
「追い払うなり食うなりすればいいんじゃねえか?」
「駄目よぅ。あの子無口だけど、生き物を無意味に殺すと凄まじく怖いのよぅ? 泣きながら精霊砲撃たれて御覧なさいな、こっちが泣けるから」
 とりあえず、寺院に行って鴨をどうにかして頂戴?
 中鴨を抱っこして言う深緋に、マッチョ開拓者は脳内筋肉痛が激しくなるのを感じるのだった。


■参加者一覧
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
フラウ・ノート(ib0009
18歳・女・魔
吾妻 荘助(ib2729
23歳・男・志
マルカ・アルフォレスタ(ib4596
15歳・女・騎
沖田 嵐(ib5196
17歳・女・サ
エラト(ib5623
17歳・女・吟
セシリア=L=モルゲン(ib5665
24歳・女・ジ
ライ・ネック(ib5781
27歳・女・シ


■リプレイ本文

●†鴨†
「では、私は鴨たちが安心して暮らせる場所の探索と受け入れ態勢の準備を主に行います」
 てきぱきてきぱき。
 そんな擬音が聞こえてきそうな勢いで、ライ・ネック(ib5781)は依頼主の鳩羽に向き合う。
 目の前に広がる鴨の群れに動じていないようだ。
 とある寺院に飛来した鴨の総数は一体何匹なのだろう?
 池とはいえ、寺院。
 それなりの広さがあるものの、みっちりと池の水が見えないレベルで鴨が泳いでいる。
 そして池の側ではセシリア=L=モルゲン(ib5665)が鞭を弄びながら舌なめずり。
「ンフフ。たまにはこうやってのんびりするのもいいわよねェ。‥‥美味しそうよねェ。‥‥冗談よォ、冗談」
 ぷりぷりとお尻を振る鴨にどうしても食欲がそそられる様だが、鳩羽の眉がピクリと動いたのを見て慌てて笑う。
 だがセシリア自体が魅力的過ぎて、僧侶であるはずの寺院のお坊様方の顔が真っ赤なのはきっとデフォ。
 激しい露出に負けないスタイルを維持する彼女を見て顔を赤らめずにいられる男性はきっと天然記念物。
「吟遊詩人のエラトと申します。よろしくお願いします」
 残念美人の鳩羽とは違い正真正銘美少女のエラト(ib5623)は丁寧に寺院のみんなと今回の仲間達に深礼。
「あたし、合戦以外の仕事って初めてなんだよな。ま、これも修行だと思ってしっかりやるぞ」
 細かい作業は苦手なんだけどといいながら、沖田 嵐(ib5196)は池の淵に屈んで手近の鴨を一匹つついてみる。
 鴨は寺院の坊様たちに餌をもらっているせいか、逃げもせずに小首を傾げる。
「鴨はよくじいやが調理してくれるのですが、さすがに今回は食べる訳には参りませんわね‥‥」
 そう呟くマルカ・アルフォレスタ(ib4596)は少しだけ残念そうに見える。
 大量の鴨を調理してしまえるのなら話が早いのだが、今回は無事に移動させないと開拓者達の命が危ない。
 残念すぎる美人の鳩羽は、精霊砲が使える志体持ちの高レベル巫女。
 ギルド受付嬢の話では泣きながらいきなり撃って来るらしいので、危険極まりないのだ。
「これほどの数の鴨が飛来するとは‥‥。願わくば数羽で、さらに願わくば葱を背負ってきてほしいところ‥‥おっと、こんなことを言ったらまずいですね」
 前髪で瞳を隠したちょっと不思議な印象のする吾妻 荘助(ib2729)も、やはり鴨は美味しく食べたい側なのだろう。
 葱を背負っている鴨はまずいないだろうが、食べごろな鴨なら池の中にごろごろと。
「まずは数を数えてみようと思います」
 鈴木 透子(ia5664)はぼんやりとしてみえて、実はかなりのしっかり者。
 お引越しさせる鴨の数を丁寧に数えてゆく。
 池の中を適当に泳ぎまわり、そして飛んでみたり池の側の草むらにとてとて歩いてゆく自由気ままな鴨たちを数えるのは簡単な事ではないのだが、透子は畳の目を数えるように丁寧に、そして素早くチェック。
「お引越しの手順はね、まず最初に籠を作って、それから眠らせて、絶対に鴨を傷つけないようにするからって事で、宜しくお願いね♪」
 開拓者のうち誰一人、鴨を本気で食べようとも傷つけようとも思ってはいない。
 だが眠らせたりする過程で鳩羽に誤解される恐れがあったので、フラウ・ノート(ib0009)は鳩羽に鴨のお引越し手順を順序だてて説明。
 この説明で、少々眉根を寄せていた残念美人も理解したようで、「†願†」と一言呟いてその場を立ち去った。
 恐らくよろしくお願いしますと言ったのでしょうと寺院のお坊様が補足する。
 なぜに単語どころか一言しか言わないのか。
 謎過ぎるのだがそれはそれ、今回は大量の鴨をどうにかすることが目的。
 開拓者達は予定通り鴨大移動の為の準備を始めだす。
 

●†謎と準備†
「この周囲に沢や広い水辺のある場所がないかご存知ですか?」
 ライは寺のお坊様に尋ねて回る。
 あまり寺から出ることの無い彼らは、それでも町人から伝え聞く噂話で多少の心当たりはあるようだ。
「ンフ。私は水源を他に探すとするわねェ」
 お坊様から聞いた場所へはライが向かうので、セシリアは町へと情報収集に繰り出す。
 こういった事は手分けして探すほうが効率良さそうだ。
「をぉー。こんだけ鳩棲んでるって、なんか壮観ね♪」
 フラウは屋根の上の鳩を見上げる。
 寺院の屋根の上には大量の鳩が「くるっぽー♪」と小首を傾げている。
 でも今回移動させるのは池の鴨。
 そして実は寺の中には山ほどの猫も住み着いていたり。
 猫好きのフラウがその事実を知ったら猫まみれで狂喜乱舞した事だろう。
 だが大量の鴨が池に飛来している為か、寺のどこかに隔離しているようで、今はその姿は見えない。
 そしてマルカは住職に材料調達願い。
「鳥篭を作りたいのですけれど、材料を少し分けて頂けませんか?」
 ギルドでも多少は融通出来たのだが、全ての材料を支給というわけにもいかなかった。
 荷車と網、金槌はギルドから、残りの鴨を傷めない為の藁や鳥篭の上下に使う板、それと四方の柱を寺院から分けてもらう事に。
「力仕事なら任せてください」
 小姓達が持ってきてくれた寺の補修用の板を、吾妻がマルカに聞きながら程よい大きさに鋸を借りて切っていく。
 寺のお坊様たちも開拓者任せにだけはせず、出来る事はどんどん手伝ってくれるので意外とさくさく作業が進む。
 エラトがふんわりと鳥篭の底に藁を敷き詰めると、そこは巨大な鳥の巣のようだった。


 そしてマルカ達が鳥篭を作っている頃、透子は池の周囲を調べて回っていた。
「ここにも‥‥」
 そういってそっと覗き込む草むらには、鴨の巣ところんとした卵。
 茂みと池を往復する鴨に当たりをつけて後をつけた結果だった。
 周囲にはこの巣だけではなく、複数の鴨の巣がありその殆どがまだ卵。
 親鴨が愛おしそうに卵を温め続けている。
 透子は親鳥が巣を離れた時に親鳥に近づく。
 そう、まずは卵よりも親鳥。
 これからお引越しをしてもらう為に、少しばかり印を付けなければならない。
 透子は懐から色取り取りのリボンを取り出して、大人しい親鳥のその足に一本一本、絡まないように丁寧に結んでゆく。


「食べ物、あるいは鴨の好きな匂いでもでてるのか?」
 沖田は、三つ編みをぴんっと指ではじいて、側を通りかかった鴨の匂いをかいで見る。
 普段鴨の匂いなどをかいだことは無いのだが、正直臭い。
 一日中、むしろ生まれたときから外で暮らしているのだから当然といえば当然だろう。
 でも抱っこしてみるとその程よい重さといい暖かさといい、妙に愛着が沸いてくる。
「この寺院に何かあるのでしょうか‥‥。ちょっとサガしてみたくなりますね。もっとも、鴨の目から見ての何か、ですから僕に理解できるかは分かりませんが」
 鳥篭を作り終えた吾妻が沖田の側に来る。
「特に変わった匂いはしないよな?」
 沖田が屈んで池に鼻を近づける。
 鴨はもちろんの事、池にも他の池と違う匂いは感じられない。
「そうですね。水臭さと、藻でしょうか? 青臭さがありますね」
 ごく普通の池に感じられるそれに、吾妻も顔を近づける。
 池の淵にはぎっしりと田螺がくっついていた。


●†引越†
「受け入れ準備整いました。ここからだと1kmもしない町外れに一つ、大き目の池がありました。小川の流れの途中に出来たようで、水の濁りもありません」
 寺の人達から教えてもらった場所はもちろんの事、町の人々にも情報を貰って調べ歩いたライは集まった仲間達に調査結果を報告する。
「ンフフ、私もバッチリよォ♪」
 セシリアのほうも上々のようだ。
 手にした鞭を嬉しそうに弄ぶ。
「二箇所もあれば大量の鴨を分けて運ぶという手もありますね」
 エラトがトランペットを手に持ちながら微笑む。
 透子が数えたところによれば、鴨は76羽。
 その他に卵が数十個の巣の中にそれぞれ2〜3個、それと生まれたばかりの雛が数羽。
 ライが探し当てた池もセシリアの辿り着いた池もそれなりの広さはあるのだが、そこにはもちろん先着もいる。
 元々そこに住んでいる鴨や水鳥の中に突然ここの大量の鴨を連れて行けば、餌が足りなくなるのは明白だ。
「ここの鴨達も幾つかのグループに分かれているようですしね」
 吾妻も頷く。
 鴨大量飛来の謎を調べている時に気づいたらしい。
「それでも餌が足らなかったらここの紳士達がどうにかしてくれるわよォ♪」
 フフッと妖艶に笑ってセクシーに見つめるセシリアに、紳士と呼ばれたお坊様達、こくこくと真っ赤になって頷きまくり。
「それでは、そろそろ奏でましょうか」
 頃合を見て、エラトがトランペット「ミュージックブラスト」を口元に。
 小鳥の囀りを奏で出す彼女の側には、鴨達が次々と寄ってくる。
「って、鳩も?! うも!? こら突く、っぷぐっ! や、痛っ!! ちょ、耳を啄むなっ?!」
 そしてフラウの側にはなぜか屋根の上から鳩がいっぱい飛来!
 鳩たちは甘えているのかフラウの肩に乗ってその耳をかぷり♪
 本気で噛んだら耳の千切れるそれは、けれど鳩にとっては愛情表現。
 肩に乗った鳩の爪がフラウの柔肌に食い込んじゃうのも野生ならではで、爪がどうしても伸びてしまっているせい。
 鴨ではないとはいえ、鳩もきっと粗雑に扱ったら鳩羽に精霊砲で撃墜されることは明白で、そしてフラウ自身も鳩の雰囲気から悪気が無いのがわかるので思いっきり振りほどけない。
「あらあら、やんちゃですわね」
 見かねたマルカがフラウの髪で遊びだした鳩を抱っこしてそっと引き離す。
「そういえば、小鳥の囀りは鴨だけを呼ぶものではありませんでしたね」
 なぜかエラトではなく側にいたフラウに懐く鳩を抱っこして、吾妻も苦笑する。
「ここの寺院では、餌付けをしているのですね」
 いいながら鳩に惑わされること無く、ライはエラトに寄ってきた鴨を鳥篭に誘導する。
「鴨のエサって、何食わせるんだ?」
 沖田がお坊様に尋ねる。
 その手の中にはもちろん鴨。
 鳩はどちらかというと小鳥の囀りの効果もあるが、長くこの寺院に住み着いて人懐っこいようだ。
 鴨も殆ど暴れない様子を見ると、相当餌をもらっているに違いない。
「76羽集まりました」
 透子が集まった鴨をすぐに数えて確認する。
 自力ではまだ歩けない雛は除外。
 集まった鴨の中には数羽、足にリボンが付いている。
 そして全部集まったことを確認して、エラトは小鳥の囀りから夜の子守唄へ曲を替える。
 鴨と、ついでに鳩までも次々に眠りだす。
「ほいほい。暴れないでも食べたりしないから、って通じないか」
 眠いのに上手く眠れないのか、ぐずってる鴨をフラウは抱っこして宥める。
 

●†新しい場所で†
「意外とあっさり移動できたな」
 沖田が移動先の池を見渡す。
 鳥篭は一つだけでなく数篭作っておいたから、二箇所にグループごとに分けて運ぶのも容易だった。
「巣がここにある限りは、ここに戻ってきます」
 そうゆう透子の手の中には、鴨の巣。
 その巣には、親鳥と同じ色のリボン。
 こうしておけばどの親鳥の巣なのか一目でわかる。
 鳥篭の中ではまだ鴨達が夢心地。
 最後まで眠りづらかった鴨の足にはみんなリボンが付いていた。
 きっと、卵や雛が心配で眠れなかったのだろう。
 いまの内に新しい池の草むらに出してあげて、その側に巣を置いてあげれば親鳥も安心するだろうという透子の配慮だ。
 ぺったらこーぺったらこー。
 目の覚めた鴨達は黄色い水かきの付いた足をぺたぺたと動かして幸せそうに池に潜ってゆく。
「あいつら、元気で暮らせるといいな」
 まるで最初からそこにいたかのように馴染む鴨に沖田は手を振る。
「ん? 理由? そーねー。貴女が、今まで動物を大切にしてたから?」
 一緒に来ていた鳩羽と目が合ったフラウはにっこりと笑う。
 鳩羽の目線から、その短すぎる言葉の意味を本能で感じとって答えたようだ。
「†謝†」
 鳩羽の瞳に嬉し涙が零れた。
 精霊砲は発動しなかった。